カニ祭りを守れ!

作者:坂本ピエロギ

 11月某日、鳥取県某所。
 初冬を迎えた日本海に面する漁港は、この日、祭りの熱気で大いに賑わっていた。
 大釜から立ち上る乳色の蒸気を割って現れたのは、真っ赤なカニ。山陰では『松葉ガニ』の名で親しまれる、それは立派なズワイガニだった。毎年カニが解禁される時期になると、この港ではカニを振る舞う祭りが開かれるのだ。
 獲れたての鮮度で蒸された旬の一杯。その太い脚をパキンと割り、湯気を立てる白い身の旨さに、訪れた人々はほっこりと至福の笑顔を浮かべる。
 招かれざる客達が晴れた冬空から降ってきたのは、そんな時だった。
 次々と地面に突き刺さった5本の牙は、驚き立ちすくむ人々の前で、耳障りな音を立てながら、その姿を竜牙兵へと変えていく。
「ククク……地球人ドモメ、餌ノ分際デ呑気ナモノダ!」
「折角ダ。オ前達ノグラビティ・チェイン、我等ガ頂戴シヨウ!」
「サア逃ゲ惑エ! 残ラズ網焼キニシテ食ッテヤルゾ、ハーッハッハ!!」
 竜牙兵はエネルギー弾を発射して、ほかほかと湯気を立てる釜揚げのカニを粉砕すると、逃げ惑う人々を笑いながら追い回し始めるのだった――。

「皆、お疲れ様。すっかり暖かい料理が恋しい季節になっちゃったね」
 そう言ってクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)は白い吐息で掌を温めると、さっそくケルベロス達に話を切り出した。
「実は黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)から『頼まれてた調査の結果が出たっす!』って連絡があったんだよね。――で、どうだったのかな?」
「ええ、ドンピシャっす。竜牙兵の襲撃事件が予知されたっす!」
 ダンテはエヘンと大仰に咳払いしてから、依頼の内容を語り始めた。
 予知があったのは、ズワイガニの水揚げで有名な鳥取県の港だ。毎年カニ漁の解禁される11月になると、獲れたばかりのカニを振る舞う祭りが開催されるのだという。
 引き締まった身。旨味溢れる蟹味噌。旬を迎え、宝物がギッシリ詰まったズワイガニは、食べる者に最高のひと時を約束することだろう。
「美味しそうだね……それで、その祭りを竜牙兵が襲うんだね?」
「そうっす。絶対に許すわけにはいかないっす!」
 クラリスの疑問に、ダンテは大きく頷く。
「現地へは自分のヘリオンで向かうっす。事前に避難勧告を出すと竜牙兵は襲撃する場所を変えちゃうんで、避難誘導は連中が襲撃をかけた後に行うことになるっすね。警察と消防の手配は自分が済ませてあるっすから、皆さんは竜牙兵との戦闘に集中して下さいっす!」
 次にダンテは、敵戦力の解説へと移る。
 出現する竜牙兵は全部で5体。全員がバトルオーラを装備していて、前・中衛でバランスを取った陣形で攻撃してくるようだ。
「一度戦いが始まれば、竜牙兵が市民を狙うことはないっす。今回の敵は頭数もそれなりでブレイクやキュアも使うっすから、万全の準備で臨んだ方が良さそうっすね」
 そう言って依頼の話を締めると、ダンテはそっと耳打ちするように呟いた。
 竜牙兵との戦闘が無事に終われば、カニ祭りが再開されるっす――と。
 立ち並ぶ出店ブースにはカニ汁に蒸しガニ、蟹味噌を炙った甲羅焼きなどのラインナップが並んでおり、他にも簡単な料理であれば頼んで作ってもらうことが可能だという。
「お祭りを邪魔する竜牙兵達をブッ飛ばしたら、旬のカニ料理で温まってきて下さいっす。それじゃ、出発っすよ!」


参加者
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)

■リプレイ

●一
 ケルベロスが港に着くと同時、祭りに沸く人々の声がぴたりと止んだ。
 青空を見上げた先、雲を引き裂いて降ってくるのは、巨大な白牙の群れだった。
「来たね。わざわざ沢山の人の楽しみを邪魔する、無粋な奴らが」
 天喰・雨生(雨渡り・e36450)はシニカルな口調で、気配を殺して人混みを飛び出した。向かう先は、白牙――竜牙兵の一団が落下した場所だ。
「迷惑をかける前に、早々に消えてもらおうか」
 雨生の高下駄が、カラン、カランと小気味よく音を立てる。警察に導かれ逃げていく人々の間を縫って、次々に駆け出す仲間達の足音と共に。
「カニ祭りを滅茶苦茶にするなんて……絶対許せないッス!」
 オレンジ色のパーカーをなびかせて走るのは堂道・花火(光彩陸離・e40184)だ。犠牲者を一人も出すまいと、射られた矢のごとく一直線に彼は飛んでいく。
 パトカーのサイレンが鳴り響き、波が引くように避難していく人々。その流れに逆らいながら進むクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)の視線は、人の形へと姿を変えていく竜牙兵を凝視して離さない。
「急ぐよ、二人とも!」
 クラリスの言葉に、友人達が振り返って頷いた。小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)と、鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)だ。
「了解だよ、クラリス!」
「お邪魔な牙共には、さっさと出て行ってもらわないとな!」
 アスファルトを踏み抜かんばかりの力を足に込めて、里桜と郁が疾駆する。すでに竜牙兵はバトルオーラの気を練り上げ始めていた。ぐずぐずしていては市民が襲われてしまう。
「ククク……! 地球人メ、餌ノ分際デ食事トハ笑ワセル――」
「待ちなさい! 我らケルベロス、カニ祭り死守の為只今参上!」
 カタカタと笑う竜牙兵の言葉を遮ったのは、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)。その凜とした声は、竜牙兵の狙いを引きつけるのみならず、逃げていく人々から恐怖心――ドラゴンの定命化を遅らせる感情を拭い去るものだ。
「もう安心よ。アタシ達が来たからには、お祭りを止めさせたりはしないわ!」
「さあ、ここは私達に任せて、慌てず逃げて下さいね」
 そこへ、隣人力を発揮した根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)の冷静な呼びかけが加わって、市民達は大きな混乱に陥ることもなく避難していった。
「おうおう、お前たちもカニ祭りを楽しみに来たんなら歓迎するぜ。なあスサノオ?」
 上里・もも(遍く照らせ・e08616)の言葉にサーヴァントのオルトロスが元気に吠える。それに対し、言葉を返すことなく陣形を組む竜牙兵。問答無用ということだろう。
「聞く耳持たずか……なら手加減なしだ、覚悟しとけよ!」
 人気の絶えた港を包む、一触即発の空気。爆破スイッチ『招福猫児【発破上等】』を手に不敵な笑みを返すももの背後で、人払いの殺界形成を発動するリリー。
「さあ、アンタ達に憎むどころじゃない……恐怖を教えてあげようか?」
 かくして、戦闘は開始された。

●二
「クカカカカ……クラエ!」
 前列の竜牙兵達が生成したエネルギー弾が、牙を剥いて次々と襲い掛かってきた。狙いは中衛のクラリスだ。花火と郁はそれを見て、即座に盾役の本分を発揮せんと動く。
「なんの! 皆もカニも、しっかりオレが守るッス!」
「そう簡単に通ると思うなよ、竜牙兵。これはお返しだ!」
 郁はそのまま、流れるような動作でアームドフォートを起動。ロックオンレーザーの照射で敵群を薙ぎ払い、武器封じでバトルオーラの力を衰えさせていく。
 中衛の竜牙兵はそれを見て、次々に癒しの気力を漲らせ始めた。
「チッ、厄介ナ……キュアヲ急ゲ!」
「やらせると思って?」
 しかし、リリーはそんな敵の行動を読んでいたように、星輝槍で回転斬りを叩き込んだ。ゲシュタルトグレイブを操りながら竜巻のごとき旋風を巻き起こすリリーの猛攻は、まるで容赦というものがない。
「生きる為に喰らう事を邪魔するなら、最早慈悲は無いわ」
「小癪ナ……砕ケ散レ!」
 竜牙兵は回復を諦め、攻撃へと行動を切り替えた。超音速で放つ重拳がスサノオと里桜にめり込み、その体をブレイブマインの支援効果もろとも吹き飛ばす。
「ケルベロス、サッサト潰レ――ッ!?」
 前線に立つ竜牙兵の声が途切れたのは、その時だった。
 スサノオが庇った雨生が、『第陸帖廿捌之節・絶華』の水で首周りを包み込んだのだ。
「血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
「――! ――!!」
 竜の骨に亀裂が生じる音が悲鳴めいて響く。そこへ里桜は狙いを定め『呪符:焼鬼の呪』の詠唱を静かに紡いだ。
「逃がさない、焼け爛れて……地面を這いなよ!」
 里桜の背中で焔の双翼が開き、圧縮された熱線が紅蓮の矢となって放たれた。次々と標的を射貫く3本の矢は里桜の怒りそのもののように、鋭く、そして苛烈だ。ブレイブマインを浴びた彼女と雨生の一撃は凄まじく、敵の体力をあっという間に削り取った。
「お祭りを邪魔する奴らはお呼びじゃないぜ! 切り刻んでやれ、スサノオ!」
 スサノオに攻撃を命じたももが『恋する電流』を歌い始めた。
「気持ちが変われば、世界も変わって見えるよ。私たちはいつだって、世界を変えられるんだ――」
 ももの困難に挑む者を応援する熱唱が電流となって注入され、集中力を研ぎ澄ましていくケルベロス。かたや坂を転げるように窮地へ追い込まれる竜牙兵。そこへクラリスと透子がさらなる追撃を立て続けに浴びせる。
「昏く永い夜の底から 眠らぬお前を探しに――」
「……行きます劫火。力を貸して!」
 子守歌に誘われた魔女の幻影がもたらす極寒の冷気。精神力を火口に火炎野太刀が放つ、妖気を帯びた熱気。荒れ狂う攻撃を浴びた竜牙兵の1体はついに耐えきれず、呻き声を上げて膝をついた。
 そこへ前線を維持させんと回復を試みる竜牙兵を見て、雨生は皮肉な笑みを浮かべる。
(「やれやれ。それは、もう後がないと白状しているようなものだよ?」)
 事実、次から次へと押し寄せるケルベロスの攻撃は、竜牙兵がコントロール出来るレベルを越えている。回復は追い付かず、火力を奪われ、バッドステータスを積み重ね……。
 勝利の刻が近づきつつある手応えを、雨生と仲間達は感じ取っていた。

●三
「グウウウ……コ、コンナコトデ……!」
 深手を負った竜牙兵が突然、雨生めがけて音速の殴打を放ってきた。
 もはや自分が助からない事を悟ったのだろう。雨生は身を切ってそれを避け、
「気は済んだかな? じゃあ終わりだ」
 マインドリング『透墨』を天高く掲げて、具現化した光の剣をブンと振り下ろす。
 それが、とどめだった。哀れな標的が一刀両断されて砕け散るのを切っ掛けに、竜牙兵の隊列は音を立てるように瓦解していく。
「避けられると思って? 戦いの年季が違うのよ!」
 気力を溜めて支援を図る中衛を、リリーの如意棒が炎で包み込んだ。絶叫を上げて地面を転げ回る竜牙兵。連携を断った一瞬を逃さず、リリーは仲間に合図を飛ばす。
「皆、今がチャンスよ!」
「よし、支援は任せろ。アタッカーはどんどん攻めてくれ!」
 飛んで来る音速拳を盾となって防ぎつつ、郁は『小型衛生分隊』で小型の衛生兵を生成、最も傷の深い花火のサポートを命じた。どんな小さな綻びも、決して見逃さないように。
「景気づけに一発、派手なの行くッスよ!」
「ごーごー! ぶっとばせー!」
 そこへ続くのは花火ともも。二人が起爆したカラフルな爆煙は、猟犬達の牙を、更に鋭く尖ったものへと研ぎ澄ませていく。
「里桜、とどめは任せるよ!」
「了解、消し炭にしてやるよ!」
 クラリスが若草色のドレスを翻し、パラディオンの禁歌を吟じた。澄んだ空気に響く少女の歌声を背に、半透明の御業を招く里桜。標的は瀕死となった前衛の1体だ。
「焼いてもクソまずそうな骨共はスッこんでろっての!」
 御業の放射する炎が、竜牙兵を包み込んだ。クラリスの歌で身動きを奪われ、為す術なく火だるまになった敵は断末魔の絶叫をあげてのたうち回り、すぐに動かなくなった。
 空の霊力を帯びた斬撃を放ち、最後に残った敵の前衛を透子が切り伏せる。直撃を受けて呻いたところを雨生の生成した水塊に捉えられ、3体目の竜牙兵もあっけなく沈んだ。
「さて。残るは後始末といったところかしら」
 言い終えるや、リリーが放つ超高速の刺突が残りの片割れを襲う。なおもエネルギー弾が悪あがきのように飛んでくるが、もはや戦況は覆らない。郁はブレードライフルを構えて、高速演算で導き出した標的を照星に収めてトリガを引いた。
「きっちり片を付けさせてもらう!」
 発射の衝撃が波となって空気を揺さぶった。グラビティの弾がさく裂し、白い骨が爆炎と共に爆ぜる。そこへ追撃で投擲されたのは真っ赤な釘バットの如きバール。里桜の愛用するエクスカリバール『死中求活』だ。
「ガアアァァッ!!」
 グシャッと鈍い音が響き、悲鳴を上げてよろめく竜牙兵。そこへ猫の手型ミトンから爪を生やしたクラリスが、とどめの一撃を放った。
「マダマダッ――」
「ううん、もうお終いだよ」
 クラリスの放つ影の刃が一閃。首を失った竜牙兵がコギトエルゴスムとなって砕け散る。
「さーて、っと」
 スサノオの地獄の瘴気でもがく最後の1体に狙いをつけると、ももはそっとイヤリングに手を伸ばし、全身を淡い黄金のオウガメタルで包み込んだ。
 終わりにする。
「こっちは腹減って仕方ないんだ! さっさと倒れろ!」
「そうッス! 蒸しガニが、カニ汁が、オレ達を待ってるんスよ!!」
 鋼鬼と化したももの拳が炸裂。体を砕かれ悶絶する敵めがけ、電光石火の蹴攻を叩き込む花火。そこへ透子が最後の一撃を、エアシューズで撃ち込んだ。
「オ……オノ……レ……」
「カニの美味しさが分かるようになってから、出直してきて下さいね?」
 炎を帯びた蹴りに全身を砕かれ、コギトエルゴスムとなって砕け散る竜牙兵。
 ケルベロスは脅威を残らず討ち果たし、勝利の歓声をあげるのだった。

●四
 戦場の修復と片づけを終えた頃、晴れてカニ祭りは再開された。
「さあカニだー! そのために竜牙兵ボコったんだ!」
 割れた道路を歌声で塞いだももが、スサノオを連れて、弾けるように飛び跳ねて会場へと駆けて行く。湯気に乗ってあちこちから漂ってくるカニ料理の香りに、彼女の心はすっかり此処にあらずといった風情だ。
 販売ブースへ辿り着いたももとリリーは、注文を訪ねる店員に、
「はいはーい! 蒸しガニとカニ汁ください!」
「アタシも蒸しガニ! あの大きめの奴がいいわ!」
 器の中で蒸し上がったばかりのカニを指さし、キラキラと目を輝かせる。いっぽう透子と花火はというと、大きな椀から立ち上るカニ汁の芳香に、
「何だか、良い香りすぎてクラクラしそうです……」
「凄くいい匂いッス。なんつーかもう、最高ッス……」
 そう言って、幸せそうにほんのりと頬を緩ませる。
 一方、クラリスと郁が頼んだのは焼きガニだ。炭火で焙った脚には食べ易いよう切り込みが走り、その隙間から覗くはち切れんばかりの身は、きつね色に焼けている。
「美味しそうだね……」
「美味そうだな……ああ、蟹飯も探さなきゃ……」
 かたや里桜は、持ち帰れそうな品を見繕っているようで、会場のブースをキョロキョロと見回している。
「お土産によさそうなカニも探さなきゃね! おっ、あそこの品はどうかな?」
「コロッケ、あるかな? 爪付きのやつ」
 雨生はカニクリームコロッケを頼めるだけ頼み、空いた手で満足そうに受け取った。もう片方の手には甲羅焼き。ふつふつと湯気を立てるカニミソの香りが何とも食欲をそそる。
「んー、どうしたスサノオ? カニ食べたいのか?」
 ドッグフードよりも人間と同じ料理が気になるのだろうか、カニ料理にじっと視線を送るスサノオに、ももはにこやかに微笑んだ。
「いいぜ、ほら行こう。もうすぐ食事だからな!」
 それを聞いたスサノオははしゃぐように駆け回り、テーブルへ向かう主人と仲間達の後を嬉しそうについて行くのだった。

●五
 それから程なくして。
『いただきます!』
 温かいうちにと手を合わせ、ケルベロスは一斉に料理へと箸を伸ばした。
「最高ッス……! 天国ッス……!」
 熱々のカニ汁の味わいに、花火は感極まって涙を流しそうになった。見るのも食べるのも好きなカニに囲まれて、天にも昇る心地だ。
「寒い時期はあったかい物が欲しくなるよな。なんて言うか、幸せだな」
 郁は頬張った蟹飯の旨さに頬を綻ばせつつ焼きガニにも時折手を伸ばす。焼けた脚の殻を手に、匙で身をほじくり出そうとするも、不器用さが災いして中々うまくいかない。
「頑張って! もう少し!」
「そこだ! よし引っ張れ!」
「ぬっ……この……よし、取れた!」
 クラリスと里桜に応援されながら、郁の取り出した身が皿に飛び出た。二人のそれに比べればやや不格好だが、口へと入れれば悔しい気持ちなど吹き飛んでしまう。
「…………」
「……いい……!」
 あまりの美味しさに言葉を失う里桜と郁を眺めつつ、クラリスはほっこりと微笑んだ。
「んんん、頑張った甲斐があったんだよ……!」
 熱々を頬張る幸せ。気心の知れた仲間達と卓を囲む幸せ。小動物のようにもきゅもきゅとカニ料理を摘まみながら、シャドウエルフの少女は至福のひと時を堪能する。
「うん……いいね……」
「本当に、本当に最高ね。いくらでも堪能できるわ……!」
 いっぽう雨生はといえば話すより食べるのに忙しいらしく、コロッケと甲羅焼きを黙々と口に運んでいる。空になって積み重なった皿の枚数は、すでに両手では数えきれない。
 リリーは先程から透子と一緒に甲羅焼きを楽しんでいた。後に控えるカニ刺やカニ鍋に、つい嬉しい悲鳴を漏らしてしまう。
「いやー、やっぱりこういう寒い日のカニ料理は最高だねぇ……」
 もももまた、嘗め尽くすように汁物の椀と甲羅焼きを空け、幸せの吐息を漏らしていた。ももは横で蒸しガニを齧るスサノオをそっと撫でると、
「それじゃ、1曲歌いまーす!」
 興が乗ったのか、弾かれたように席を立った。
 歌って、踊って、その喜びを全身で表わすウェアライダーの少女。その周りにはいつしか人だかりが出来、人々の手拍子や歓声が混じっていく。
「ねえ、私達も歌わない?」
 聞き入っていたクラリスの申し出に、郁と里桜は、
「そうだな。歌おうか」
「わ、私もか? 少し恥ずかしいかも……」
 そう言いながら、仲間達と一緒に歌へと加わった。
 人々を守り、勝ち取った平和。それは猟犬達の体と共に、心をも満たしてくれる。
 青空の下、歌声に重なって響きあう笑い声は、いつまでも絶える事はなかった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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