竜の牙を剣に変えて

作者:波多野志郎

 ファンファン、とどこかで車の行き交う音がする。街を貫くように走る高速道路、その高架下は多くの人が行き交っていた。冬の大気の冷たさに、呼気が白くなる。それでも活気に満ちているのは、一日が終わり自分達の時間がやって来る人が多いからだろう。
 不意に、夜空から降るモノがあった。ガガガガン!! と地面に突き立ったのは、四つの巨大な牙だ。
「……ひ!?」
 その牙を知る者なら、絶望を抱くだろう。竜の忠実なる骸骨兵――竜牙兵だ。
「ク、カカカカカカカカカッ!! オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ!」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナルのだ!」
 現われたのは、四体の漆黒の竜牙兵だ。竜牙兵達は己の手に握られた二本の漆黒の剣を構え――己の役目を、全うした。

「こうして、竜牙兵によって多くの人の命が奪われます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、そうことさら表情を殺して切り出した。
 夜の街、高速道路の高架下に四体の竜牙兵が出現する。ケルベロス達に求められているのは、その対処だ。
「竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告できません。そうすると、他の場所に出現してしまうからです」
 事件を阻止する事ができず、被害が大きくなる。だからこそ、竜牙兵が出現後に一般人を避難誘導。ケルベロスに、竜牙兵を撃破するのがこの依頼だ。
 竜牙兵の数は、四体。一対一では、こちらよりも強い敵だ。
「ただ、向こうは連携はしてきません。こちらは数の有利と連携で、相手に対抗する必要があるでしょう」
 竜牙兵達は、ケルベロスさえ現われれば一般人よりもケルベロスを優先する。そのため、足止めしている時間に警察などが避難誘導を行なう予定だ。その時間を稼ぐ意味で、対応してほしい。
 ただ、向こうはどんな状況になろうと撤退しない。それはケルベロスが敗れ、竜牙兵に突破されたら最後、追いかけられて犠牲者が出る事を意味している。
 そうならないよう、しっかりと倒すために全力を尽くしてほしい。
「決して、虐殺などさせる訳には行きません。どうか、よろしくお願いします」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
香月・渚(群青聖女・e35380)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ


 ファンファン、とどこかで車の行き交う音がする。街を貫くように走る高速道路、その高架下は多くの人が行き交っていた。冬の大気の冷たさに、呼気が白くなる。それでも活気に満ちているのは、一日が終わり自分達の時間がやって来る人が多いからだろう。
「竜牙兵ですか、毎度のことながら、人通りの多い場所に現れるとは厄介ですね」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は、人通りの活気にそうこぼす。
「竜牙兵だったか? 久しぶりに相手にするが、此奴らってどこから飛んでくるんだろうな」
 どっかで、ドラゴンの歯医者がペンチで抜いてるのかね? と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が呟いたその時だ。不意に、夜空から降るモノがあった。ガガガガン!! と地面に突き立ったのは、四つの巨大な牙だ。
 その牙を知る者なら、絶望を抱くだろう。竜の忠実なる骸骨兵――竜牙兵だ。
「ク、カカカカカカカカカッ!! オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ!」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナルのだ!」
 四体の竜牙兵に、しかし、怯まず向かい合う者達がいた。無知ではない、そして、蛮勇でない事を知るからこそ竜牙兵は呟く。
「ケルベロスか」
「身勝手な理由で罪無き人々を無差別に殺そうとする所業、断じて許せません」
 凛とそう言い放ったのは、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)だ。
「ここは私達が引き受けます! 大丈夫、一匹だって皆さんには向かわせません!」
 秋物の軽いコートを脱ぎ捨て、サングラスを外して稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)はよく通る声を張り上げる。その愛用の真っ赤なリングコスチューム姿に、周囲の避難を呼びかけられた人々が目を奪われた。
「コイツらはケルベロスと見りゃケルベロスを狙うんだってよ、アンタらは安心して逃げな、コケないようにな」
 巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)の声に、一般人達の混乱を静かなものになっていく。警察官の誘導も手慣れたものだ、ケルベロス達への信頼感があるからこそだろう。
「竜牙兵に今更何かを言っても無駄か。グラビティチェインは欲しいなら実力で奪ってみせろ。出来るものならば」
「力無き人々を襲うなら、小生たちケルベロスがその盾となり走狗となりてその牙を砕き割ってくれましょう」
 鋼・柳司(雷華戴天・e19340)はガシャンと身構え、尾神・秋津彦(走狗・e18742)が吼丸の柄へ手を伸ばす。そして、香月・渚(群青聖女・e35380)が告げた。
「来るわよ!」
「ハハ! ならば、キサマラのシでゾウオとキョゼツをヨびオこしてやろう!」
 竜牙兵四体が、地面に剣を突き立てる。一体につき二本、計八本の剣がアスファルトに切っ先を刺した瞬間、四つの蠍のオーラがケルベロス達を襲った。


 真紅の蠍、蠍座のオーラによるゾディアックミラージュが押し潰すように前衛へと集中した。鋭い尾の薙ぎ払い、凄まじい衝撃が前衛を襲った。
 巻き起こる噴煙、その凄まじさに人々の足が止まる。しかし、沙耶の声がその背を押した。
「ここは危ないので逃げて下さい!! 落ち着いて、転ばないでくださいね!!」
 振り返らず沙耶は告げると、両手を軽く広げる。そして、凛と言い放った。
「貴方の進む道に力の加護を!!」
 運命の導き「力」(フェイト・ガイダンス・ストレンジ)――沙耶の指し示す運命と共に、噴煙の中から生き生きとした元気な歌が聞こえた。
「行くよ、ドラちゃん。回復は任せたからね! ――さぁ、皆。元気を出すんだよ!」
 仲間を元気づけ渚が躍動の歌を歌い上げ、ボクスドラゴンのドラちゃんが属性インストールで噴煙を突破したルピナスを回復させる。
「御業よ、敵を焼き払いなさい!」
 ルピナスが呼び出した半透明の「御業」が、炎弾を放った。竜牙兵はそれを二本の剣をクロスさせ、受け止める。
「グヌ!?」
 ギャリ、と竜牙兵が足の骨でアスファルトを削り、後退。炎を切り払いながら強引に前に出ようとした竜牙兵を、一気に駆け込んだ鬼人が越後守国儔と無名刀を鋭く振るった。
「どうした? 虫歯の不良品か?」
「ホザけ!」
 ギ、ギギギギギギギギギギギギギギギギギン! と鬼人と竜牙兵の刀と剣が、鎬を削る。両者一歩も退かず、互角の攻防だ――問題は、竜牙兵が一体ではないことだ。
「ナニをアソんでいる!」
 他の竜牙兵が、割り込もうとする。だが、それを秋津彦が許さない。
「頼むぜ!」
「はい!」
 真紀のマネキネコアックスを招き猫状態で掲げブレイクルーンを発動、それを受けた秋津彦が電柱を駆け上がり高く跳んだ直後、鋭い回し蹴り――スターゲイザーで竜牙兵の動きを防いだ。そして、柳司がケルベロスチェインを操り、竜牙兵の手足を絡め取る。
「させると思うか?」
 柳司が猟犬縛鎖で絡みとった竜牙兵に、短く言い捨てた。残っていた二体がフォローしていたなら話は違ったが、単体での動きなど連携するケルベロスからすれば分断は難しくない。
「好き勝手はさせないよ!」
 自身にマインドシールドを発動させ、晴香が身構えた。腰を落とし、敵の攻撃を真っ向から受け止める体勢だ。
 ケルベロスと竜牙兵が、にらみ合う。避難のため急ぐ人々が遠ざかっていく気配を聞きながら――双方が、同時に動いた。


 ――真紀がマネキネコアックスを抱えて、首を傾げていた。
「……んだコレ? どうやって使うんだコレ?」
 真紀が招き猫をあれこれ弄っていると、ふと招き猫の上げてる右手に触れた。ガション! とレバーっぽく右手が動いた。
 すると、ガチャガチャガチャ! と機械仕掛けで斧形態に展開した。
「なーる。こうなってんのな!」
 斧形態になったマネキネコアックスを手に、真紀が駆けた。既に、竜牙兵は斬撃体勢に入っていた。
「ノロいわァ!」
「そいつぁどうも!」
 真紀が振り回す遠心力を込めて振り抜いた先は、竜牙兵ではない。振り下ろされそうになっていた、剣だ。
「ナ!?」
「行きます!」
 剣が大きく弾かれる。その間隙に、秋津彦が具現化した光の戦輪を投擲した。ヒュガ!! と秋津彦のマインドスラッシャーが、竜牙兵達を切り裂く!
「ぐ!?」
「もうひとつ!」
 そして、晴香が暴風を伴う強烈なローリングソバットで、竜牙兵達を弾き飛ばした。そこへ、ルピナスと鬼人が動いた。
「闇の精霊よ、鋭き剣となりて敵の全てを封じよ!」
「――お前の運命を極めるダイス目だぜ? よく味わいな」
 ルピナスが自らの魔力で作られたエナジー状の闇の剣を降り注がせ、鬼人がサイコロ状に変化したオウガメタルを転がした。
「クリティカルだ」
 鬼人が呟いた瞬間、極小の太陽の様になった炎のダイスが闇の剣に貫かれた竜牙兵を燃やし尽くす!
「オノレェ!!」
 仲間がルピナスの裁きの闇剣(サバキノアンケン)と鬼人のBDⅥ(ブレイスダイスシックス)に倒れると、一体の竜牙兵が前に出た。それに反応して、柳司が迎撃する。
「――来い」
 竜牙兵が二つの星座の重力を同時に宿し、十字斬りを繰り出した。柳司はその斬撃を無手で迎え撃ち、最小の防御で致命傷を避けると燃える後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす!
「個々の実力は大したものだが……その実力を十全には活かせて無いようだ!」
「ナンだ――」
 と!? と続くはずだった反論は、ドラちゃんの属性インストールで回復した渚の跳躍に遮られた。
「この飛び蹴り、見切れるかな?」
「――ッ!?」
 渚の落下の速度と体重を乗せたスターゲイザーに、竜牙兵は紙一重で受け止め後退する。竜牙兵達は、一度揃って後退。それに合わせて、沙耶が紙兵を散布した。
「ここから先へは行かせません」
 沙耶が静かな決意を込めて、そう語る。その決意には、強い覚悟が秘められている。それは、贖罪だ。間接的に多くの命を奪ったという自覚は、だからこそ自分勝手な理由で命を奪う行為には強い嫌悪感と怒りを覚えるのだ。
 避難し遠ざかっていく人々の元へ、竜牙兵を向かわせはしない――それは、ケルベロス全員の相違だ。戦うからこそ、わかる。一体でもこの先へ向かわせれば、どれだけの人が命を落とすのか? その疑問に、答えを出す訳にはいかないのだ。
 だが、竜牙兵側にとってもそれは同じだ。一体でもいい、目の前のケルベロスを蹴散らしてニンゲンに追いつけば、多くの憎悪と拒絶が得られる事を理解しているのだ。
 これは『そういう』戦いなのだ。ケルベロスと竜牙兵、互いに明確に引けない一線を示している。どちらかが達成すれば、どちらかが達成できない。どちらかの目的を折れば、どちらかの目的が達せられる――あまりにもわかりやすい、表裏一体の勝利条件と敗北条件だ。
 この両者で、明確に違う点はただ一つ――連携の有る無しだ。
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
 竜牙兵の星天十字撃が、放たれる。鋭く重い、双剣による斬撃――柳司はその横の斬撃を手刀で弾いた。
 ――アマいわ! と竜牙兵は、笑う。横が防がれようと、縦がある。その刃は既に、柳司を大上段から断ち切る寸前であった。殺った、そう竜牙兵は次の瞬間を予想し、革新していた。
 だが、その予想は紫電によって覆された。
「雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃!!」
 機身に内蔵された魔導回路から発生するエネルギーを最大効率で運用する、魔導発勁に真髄を置く異形の拳法・雷華戴天流。柳司が修める雷華戴天流の奥義――否、流派内でいうグラビティの域に高められし技である絶招の一つ、紫電一閃が瞬きの間もなく二つの剣を弾いたのだ。
 そして、その刹那。越後守国儔と無名刀に空の魔力を宿して、鬼人が振り抜く!
「やれ」
 竜牙兵が、切り裂かれながら横へ跳ぶ。そこへ回り込んでいたのは、真紀と秋津彦だ。
「逝かせてやんよ、大紅蓮」
 ズサァ!! とブレイクダンスの体勢からの螺旋力を調整した連続蹴り、真紀の裏・螺旋氷縛波(リバーシブル)が竜牙兵を蹴り上げる! 宙に浮いた竜牙兵へ、秋津彦は太刀を八双に担いで拝んだ。
「葬頭河まで見届けましょう――彼岸の先へは独りにて」
 殺の妖気を籠めた上で放たれる葬頭河(ソウズカ)が、文字通り竜牙兵を頭から真っ二つに両断した。秋津彦は、両断された竜牙兵へと言い放つ。
「筑波は狗賓の兵法、侮るなかれ!」
 ガラン、と竜牙兵が落とした二本の剣が、地面で跳ねて崩れていった。
「ワレのみになろうと――!!」
 最後に残った竜牙兵は、退かず前に出る。それに答えたのは、ルピナスだ。放たれる斬撃に合わせて、鋭い回し蹴りで迎撃した。
「この一撃で、すべてを氷漬けにします!」
 ガン! と剣が弾かれ、宙を舞う。だが、竜牙兵は残ったもう一本でルピナスの胴を薙ごうとして――その動きを、止めた。
「終わりです」
「グ、オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
 時空凍結弾を撃ち放った沙耶の言葉に、竜牙兵が否定するように吼える。だが、駆けようとした竜牙兵が、左後方から腰を腕でガッチリとホールドされてガクン、とつんのめった。
「ナ、あ!?」
 だが、後ろで自分を掴んだ晴香より先に竜牙兵は、自身に迫った渚とドラちゃんに焦る!
「キミの魂を、簒奪してあげるよ!」
 渚の断罪の戦鎌による横一線とドラちゃんのタックルに、大きく竜牙兵がのけぞった。その瞬間、晴香が動く!
「どんな巨体でも、非実体でも知ったことじゃないわ! 私の投げから逃げられると思ったら、大間違いよ!」
 晴香が、竜牙兵を持ち上げる。ヘソ投げ式に正しい、後方反り投げ――正式名称必殺!正調式バックドロップ(ヒッサツセイチョウシキバックドロップ)が、炸裂した。
「ワン!」
 不意に、そのカウントの合唱が響き渡る。それが避難していた人々のものだと晴香は、ケルベロス達は、気付いた。
「ツー!」
「グ、ガ……」
 後頭部から落とされた竜牙兵の体には、既に力はない。ならばこそ――“プロレスラー”稲垣晴香の勝利もここに決まった。
「――スリー!!」
 その掛け声の後、晴香は立ち上がり両の拳を突き上げる! そこに巻き起こる歓声こそが、ケルベロスの勝利の証明だった……。


「終わったな」
 恋人からもらったロザリオに手を当て、鬼人は無事に終わった事に祈りを捧げる。
「応援ありがとうね、みんなー!!」
 プロレスラーとして魅せる晴香を中心に、高架下はちょっとした大騒ぎとなっていた。
「これで一安心ですな」
 納刀し、秋津彦がこぼす。後はヒールで周辺を修復するだけだ。それは、手分けをすれば問題なく終わった。
「闘うと、腹減るな。みんな、どこかで食べていくか」
 鬼人の提案に、仲間達は歩き出す。いつまでも止まない歓声に、秋津彦は言った。
「何度でも撃退し、日常は守ってみせますぞ」
 それこそが、ケルベロスの戦い。ただ守るのではなく、守り続けるそのために、ケルベロス達は今日また一つ勝利を重ねるのだった……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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