巨悪の来襲

作者:MILLA

●巨大な兵器
 街の平穏は突如として現れた巨大な影によって搔き乱された。
 全長7メートルを超える巨大ダモクレスである。人型ではあるが、全身にビーム砲が内蔵され、その姿かたちは禍々しい。
 巨大ダモクレスは両腕を振るい、ビルを薙ぎ倒しつつ、ずしりずしり……と重たい足音を響かせ街の中心部目指して突き進んでくる。街を破壊し、逃げ惑う人々を虐殺するために――。

●予知
「大変です! 先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知がありました!」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が緊迫した面持ちで告げた。
「復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇している為、戦闘力が大きく低下している模様です。しかし、放っておけば、街の中心部に到達し、多くの人間を殺戮して、グラビティ・チェインを補給してしまうでしょう。力を取り戻した巨大ロボ型ダモクレスは、更に多くのグラビティ・チェインを略奪した上で、体内に格納されたダモクレス工場で、ロボ型やアンドロイド型のダモクレスの量産を開始してしまうことでしょう。そんな事をさせるわけにはいかないので、力を取り戻す前に巨大ロボ型ダモクレスを撃破して欲しいのです」
 セリカは説明を続ける。
「また、巨大ロボ型ダモクレスが動き出してから7分経つと、魔空回廊が開き、巨大ロボ型ダモクレスは撤退してしまいます。そうなれば、ダモクレスの撃破は不可能となるので、魔空回廊が開く前に巨大ロボ型ダモクレスを撃破してください」
 セリカはいったん呼吸を整えた。
「巨大ロボ型ダモクレスは、全身からビームを放って攻撃してくるでしょう。グラビティ・チェインの枯渇により、全体的な性能や攻撃力が減少していますが、戦闘中1度だけ、フルパワーの攻撃を行ってくるでしょう。このフルパワーの攻撃を行うと、巨大ロボ型ダモクレスも、大きなダメージを被るものと思われます。市街地での戦いになりますので、敵が巨大なこともあり、建物に大きな被害が出ると思われますが、街は破壊されてもヒールで治せますので、ある程度の損害はやむをえません。速やかかつ確実に撃破してください。なお、すでに市民には避難勧告を出しているため、避難誘導は不要です。敵の撃破に集中してください」
 セリカは拳を固め、最後にこう激励した。
「巨大ロボ型ダモクレスが回収されれば、ダモクレスの戦力強化を許すことになってしまいます。しかし、みなさんがそうはさせないとわたしは信じています。がんばってください!」


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)
宝条・かなめ(偽りの魔女・e66832)

■リプレイ

●巨大ダモクレスの来襲
 ビルを薙ぎ倒しつつ向かってくる巨大ロボを、ビルの屋上に佇み、眺める男がいた。
「ほう、巨大ロボとは。悪の秘密組織的にも中々見応えがあるではないか」
 漆黒の鎧に身を包む悪の組織の首魁、大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)であった。
 被害を最小限に留めるためにも、巨大ダモクレスを街の中心部へと侵攻させるわけにはいかない。急ぎ、目標の足止めに向かうケルベロスたち。ピルからビルへ、あるいは建物の隙間を縫うように飛びながら、宝条・かなめ(偽りの魔女・e66832)が呟いた。
「巨大ロボか、なんだかカッコいいしロマンがあるけど」
「それなりにロボット好きな俺に言わせれば、たかだか7mで巨大なんて片腹痛い。7mと言えば大体マイクロバスの全長程度らしい」
 と、長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)がスマホで検索した情報を口にする。
「大きさはともかく、こんな街中で暴れられると迷惑ですね」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)の言葉に、倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)がうなずく。
「人々が犠牲になるのも見逃せませんし、ダモクレスが量産されても困ります。逃さず撃破していきましょう」
 ふむとゴロベエはスマホを仕舞い、
「まあ、これ以上大きいと生身で戦うのが面倒だしこのぐらいが丁度良いか。さーて今日もお仕事頑張りますか」
 巨大ダモクレスは、ケルベロスたちの接近に気づいたようだ。両手を突き出し、掌にある発射口からビームを放つ! 世界が明滅する。凄まじいエネルギーの放出だった。
 光に呑まれて消えゆく建物を振り返り、肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)の顔つきが険しくなった。
「すごいエネルギー量です。敵の破壊力……侮れませんね」
「ああ、物的損害が避けられないというのが、この手の敵の性質の悪いところだな。出来る限り早急に、手を打たなくては。はああ!」
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)が地面にケルベロスチェインを展開、味方を守護する魔法陣を描く。
「目覚めたばかりで悪いけど、寝直してもらおうか」
 ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)が片手で帽子を押さえつつ、巨大ロボの肩に着地、強烈な蹴りを顔面に叩き込む。鈍く、重く、轟き渡った音が、死闘の始まりを知らせる合図となった。
 巨大ロボが放つ閃光があちこちに散り、巨大な火を生む。
「ほう、全身ビーム砲とは。ますます見所があるではないか」
 巨大ロボという響きにさえ浪漫が漂うのに、全身ビーム砲を内蔵しているようなイロモノ系とは! 正に浪漫の塊! 領は浪漫に酔いしれ、敵をもっと間近に見ようと近づいていく。その姿は、図らずしも、戦火の中、威風堂々現れる巨悪の権化、ラスボス感満載であった。
 領は敵を前にした。間近で見ると、7メートルは意外とでかい……! しかし今更ビビったとは言えないし、後ろに下がる為の言い訳することも叶わない。ならば。
「フハハハハ……悪の秘密結社オリュンポスが大首領!! それが貴様を屠る者の名だ!」
 領は高笑いをやってマントを翻した。覚悟は決めたようである。

●閃光の中の死闘
 麻亜弥は腕時計を見る。戦闘開始から2分が経っていた。敵が撤退するまでのタイムリミットは7分。短時間だが、この巨体に暴れられては、街への被害は少なくではすまない。すでに周囲の建物は倒壊、かなりの被害が出ている。相手の出方を見ている余裕も、技を出し惜しみする理由もない。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 麻亜弥は袖から鮫の牙を思わせる、ギザギザした暗器を引き出し、巨大ロボに斬りかかった。暗器はするどく牙を剥いて食らいつくが、敵の装甲も厚い。傷こそ生じたが、内部をえぐるまでには至らない。
「……決して逃しはしない。狼の狩りを見せてやろう」
 双牙がビルの壁を蹴って弾みをつけ、ダモクレスに躍りかかる。
「ワイルドだねえ。嫌いじゃないけどさ」
 ファルケが放った念が、無数の爆発を生んだ。いくらかでもダメージがあった部分に双牙は両拳でガンガン殴りたてる。
 巨大ロボは両腕を回し、ケルベロスたちを牽制すると、ぱかりと口を開き、凍てつく閃光を放った。
「うわっと! あぶない!」
 間一髪、ファルケは帽子を押さえつつ身を翻し、閃光を見送る。その光が潰えた先、かっと光が立つと、辺り一面の建物が凍り付いていた。
「できるだけ建物など周りへの被害が出ないようにとは思っていましたが……そうも言っていられないみたいですね」
 宙を回転しながら、柚子が黒色の魔力弾を一発二発と撃ち出す。それに重ねて、鬼灯が自身のトラウマをエナジーに変えて解き放つが、ダモクレスに心はないのか、動じた気配はない。
「ダメですか……なんとか敵の足を止めて、押し切りたいところですが……」
 鬼灯は奥歯をかみしめる。
「フハハハ、小細工は無用だ、少年! 力で叩き潰してやればよいのだ!」
 領が不敵に笑みつつ、戦鎚ヴァルカンによる研ぎ澄まされた一撃を放つ。巨体の胸が大きく爆発し、そこを目掛けて、かなめが不可視の虚無球体をぶつける。
「貴方を虚無の世界へと誘ってあげるわ」
 凄まじいエネルギーの衝突が巨大ロボを丸呑みするほどの爆炎となって包んだ。
「どう!?」
 咄嗟にかなめは身を翻した。立ち昇る砂塵の最中から、凄まじいエネルギー球体が飛ぶ! それは空の頂まで昇り、第二の太陽のようにかっと燃え上がった。
「ほんと、なんて威力……厄介ね」
 ずしりずしり……あれだけの猛攻を受けても、巨大ダモクレスの歩みは止まらない。
「頑丈なのはわかったけどな」
 ビルの屋上から飛びあがり、急降下。ゴロベエは鷹のように敵に襲い掛かる。
「時間も限られてる。遊んではいられねえんだ!」
「同感」
 ファルケがリボルバーの引き金を引く。立て続けの連射。的確な射撃で敵の注意を引いたところに、ゴロベエが渾身の一撃を叩き込んだ。さらには双牙が体ごと突っ込み、その拳で装甲を抉る。
 息もつかせぬ連打に、さすがの巨体も足を止めた。が、それも一瞬のことだ。両手からビームを放ち、周囲の建物を粉々に爆破しつつ、さらに歩を進める。
「あと4分……」
 鬼灯の顔にいくらかの焦りが滲んだ。

●殲滅の光
 時間はもうあまりなかった。ケルベロスたちは攻撃を重ね続ける。全身を覆う装甲は厚いが、凄まじい猛攻に、さしもの頑丈な装甲にもあちこちに亀裂が見えた。そのときだ――。
 巨大ロボは足を止めた。胸の装甲が開き、その奥にあるコアにすさまじいエネルギーが集中し始める。
「すごいエネルギーの高まりです! みなさん、気を付けてください!」
 麻亜弥がそう大声で知らせると、ケルベロスたちは建物の影などに身を潜め、守りを固めた。ただ一人、ゴロベエを除いては。
「フルパワー射撃か。しばらく前に受けたオウガの攻撃と比べてどの程度の威力なのか興味がある。あいつらの攻撃は明らかに色々とおかしかったからな……。実際余裕でこいつの方が弱いまであるな。胸部展開からの極太ビームだろうが、きっちり受け止めてやろう」
 ゴロベエが巨大ロボの前に立ち、片手を天へと突きあげた。
「この世全ての自宅を守るため顕現せよ。滾れデッドエンドブレイカー! 最終自宅警備領域……不倒不懐ファイナルホームガーディアン!」
 ゴロベエの召還に応じ顕現したのは、対巨大デウスエクス決戦用ロボット。真紅のガーディアンは、漆黒の鎖で自らを縛りながら障壁を創り出し、あらゆる絶望からこの世全てを守り通す盾となる。
「ゴロベエさん、いけません! 退避してください!」
 鬼灯が声を荒らげたが、ゴロベエは聞かなかった。あくまで真正面から受け止めるつもりだった。
 胸部のコアに全身のエネルギーが集った。刹那、辺りがしんと静まり返る。不気味な間だった。その一瞬の静寂の後、巨大ロボが雄叫びのような機械音を唸らせ、コアからエネルギーを解き放つ!
 まっすぐに彼方まで走った光。すべてが影をも消失する鮮烈な白光に包まれる。その次の瞬間、世界が割れるような轟音が響き、マグマのような爆炎に街が呑まれた。
 周囲は一瞬のうちに荒野と化した。
 全エネルギーを放出したダモクレスは、その場に力なく膝を折った。何のデメリットもなしにはすまない凶悪な一撃だった。
 満身創痍の態で瓦礫から身を起こすケルベロスたち。建物の影に身を隠したので何とかやりすごすことができたが、真正面から攻撃を受けたゴロベエは?
 瓦礫に埋もれて倒れている。召喚したガーディアンの防護によって、致命傷は免れたか。だが、虫の息といったところ。
「カイロ! ゴロベエさんの手当てに!」
 柚子がウイングキャットのカイロを救援に向かわせたのと同時に、後方から鬼灯が前へ飛び出した。敵の目をゴロベエから逸らし、また、戦列の立て直しを図るためだった。
 その間に柚子とかなめが荒れ果てた街を幻想的な霧で包み、仲間たちを癒していく。
「やれやれ、想像以上だったね、どうにも」
 ファルケが帽子を押さえつつ立ち上がり、双牙もまた身構える。
「長篠が盾になってくれた分、俺たちへのダメージは最小限ですんだようだな」
 その後ろでゆらりと身を起こし、マントを翻した悪の組織のドン。
「フハハハ! よくやったぞ! 貴様の犠牲、無駄にはせぬ!」
 だが、いつまでも高笑いをやってはいなかった。時間はもうほとんど残されてはいない。何としても敵を撃破しなければならない。仮面の下に潜む彼の顔は真剣そのものだった。

●リミット間際の猛攻
 戦闘開始から5分が経過した。
「みなさん、時間が迫っています! 相手も弱っているはず! 一気に畳みかけましょう!」
 鬼灯の言う通り、敵はほぼほぼ力を使い果たしていた。フルパワーの攻撃でケルベロスたちを殲滅できなかったのは誤算だったろう。残されたエネルギーで前進を始めるが、装甲の下からは蒸気が吹き、関節にはショートせんばかりの電気が走っていた。
「この炎で、そのままオーバーヒートしてしまいなさい!」
 麻亜弥が飛び蹴りを見舞い、熱した装甲を踵で擦ると、いとも容易く敵は炎に包まれる。
「このまま撃破することができれば! 敵の弱点は……」
 柚子が今までの戦闘データから敵の構造を計算、弱点を見つけ出す。奇しくもその弱点は胸部のコア。エネルギーの集中点こそが急所だったわけだ。
「そこです!」
 痛烈な一撃を放つが、急所を覆う装甲はさすがに厚い。かすかな亀裂が生じた程度。
「なら、その傷口を更に広げてあげるわ」
 かなめが刀を抜き、装甲の亀裂を抉るように斬るが。コアには至らない。
 巨大ロボが残されたエネルギーで応戦、ケルベロスの接近を拒む。
 そのとき――。
「でやああああ!!」
 死角から満身創痍のゴロベエが飛び込み、渾身の一撃を叩き込み、そのまま力尽きて倒れ込んだ。そのゴロベエに襲い掛かろうとした敵をサイコフォースの爆発が襲う。鬼灯だった。
「やらせません!」
 敵はよろりと後じさり、膝をつく。その隙を双牙は好機と見る。
「……紅蓮の炎に巻かれて爆ぜろ――ヴォルカニック・ジャイロ!」
 全身に地獄の炎を漲らせて敵の懐に飛び入り、敵の巨体にも関わらず誇る膂力で頭上に担ぎ上げ、
「はああああああ!!」
 気合とともに嵐の如き回転を加えてダモクレスを投げ捨てる。
 ごうっと紅蓮の炎の渦が天高く舞い上がった。
 あと一息……という間際。
 空間が歪み、底知れぬ闇が覗いた。魔空回廊が開き始めたのだ。
「そんな! まだ早いわ!」
 麻亜弥が腕時計を確認する。まだ7分は経っていない……が、誤差の範囲か。
「慌てなさんな、まだ魔空回廊は開き切ってはいないさ!」
 ファルケはリボルバーに三発弾を込める。
 ちらと領に目をやった後、敵に照準を定める。
 敵は最後の力を振り絞り、魔空回廊を目指し、動き始めた。
「逃しはしない。ここで行き止まりだ!」
 銃声が一つに重なるほどの連射だった。それでいて、狙いは的確。三発の弾丸は、見事、胸部の装甲を打ち抜き、弱点であるコアを丸裸にした。
「よしっ!」
 ファルケのその声が合図だった。領の全身から凄まじい闘気が立ち昇る。
「待っていたぞ、この時を! 我が力の一端を受けよ!!」
 拳に乗せた全身全霊の闘気を、剥き出しになったコアに向けて解き放った!
 凄まじい光の奔流。空間に亀裂が入るほどの。
 その光の一撃はコアを粉々に打ち砕いてダモクレスを貫き、その先にある魔空回廊さえも吹き飛ばしたのだった。

●荒野で得た勝利
 仲間たちの手当てを受けて、ゴロベエが目を覚ました。
「う……ちょいと無理しちまったな。しかし……」
 甚大な被害を被った街を眺めて、ケルベロスたちは重たいため息をつかざるを得なかった。あらかじめ市民が避難していなかったらと考えると、ぞっとする。数多の命が瓦礫の下になっていただろう。
「……この手の機体、地球上にどれだけ眠っているのだろうな……」
 双牙が憂鬱そうに呟いた。
「それを考えると、恐ろしいですね」
 鬼灯が深刻そうな面持ちでうなずく。
「何度来ようと、人々に害をなすならスクラップにするだけよ」
 強い決意を秘めて、かなめが言う。
「ま、それが僕らのお仕事だしね。多少ブラックな感じがしないでもないけど」
 と、ファルケが場を和ますように軽い調子で言うと、領がマントを翻し高笑いする。
「ブラック! 結構ではないか! 世界を変革する組織がホワイトカラーでいられようはずもない!」
「けれど、毎回これほどの被害が出てはたまりませんね」
 難しい顔をする柚子にカイロが慰めるようにすり寄った。
「街が壊れたのも私たちの責任でもありますしね。もっと強くならなくては……」
 麻亜弥は顔を上げた。そこには透き通るような青空が広がっていた。

作者:MILLA 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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