寒い日にはぐつぐつ煮えたおでんが一番

作者:天木一

 街角にあるコンビニ。普段ならば夜であっても24時間電気が灯りっぱなしの店であるはずが、今は全く明りが無く暗闇に包まれ人気もない。入り口には閉店の張り紙があり、中は商品が無くガランとしていた。
 そんな中に一匹の小さな蜘蛛が侵入する。それは機械仕掛けの蜘蛛の姿をしたダモクレスだった。蜘蛛は店内を徘徊し、まだ持ち出されていない機械類を物色し、カウンターの上で足を止める。そして飛び降りると空の四角いおでん鍋へと飛び込んだ。電源が入っていないはずなのに鍋に熱が入り、何処からともなく注がれた出汁が鍋を満たしぐつぐつと煮え立つと、鍋が膨張して膨らんでいく。そのサイズが4mを超えてゆくと、鍋にさまざまな具が現れる。ちくわ、しらたき、はんぺん、餅入り巾着、ごぼう巻、牛すじ、厚揚げ、こんにゃく、たまご、大根と他にも定番が大きな鍋を埋め尽くすように並び、お腹の減る良い香りが漂い始める。
『寒い! 寒すぎる! こんな寒い日にはおでんに決まってる!』
 男性のボイスが流れ、鍋の温度が上がりぐつぐつと出汁が煮立つ。
『さあさあ!、食ってけ食ってけ! ぐつぐつ煮えたおでんを腹いっぱい食べさせてやろう!』
 足代わりに巨大なキャスターをつけて動き出し、コンビニのガラスを突き破り、おでん鍋が道路に飛び出る。車が慌てて急ブレーキを踏み、壁に擦って停車した。
『冬にはおでん! おでんが一番だよ!!』
 おでん鍋はそれに気づきもせず、人の多い場所を目指し、繁華街に向かって出発した。

「そろそろ寒くなってきたと思ったら、コンビニで使われていたおでん鍋のダモクレスが暴れる事件が起きるみたい」
 新しい事件だと小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が集まったケルベロス達に伝える。
「撤去される前のおでんを温める機械がダモクレスとなり、人々のいる繁華街を襲撃する事件が起きます。皆さんには犠牲が出る前に敵を迎撃して倒してもらう事になります」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳しい説明を始める。
「おでん鍋のダモクレスは4mまで巨大化しています。コンビニに置いてあったもので、中は仕切りがあって多くのおでんの具材が詰まっています。そのおでんを食べさせて魅了し、おでんの食べ過ぎで人を殺してしまうようです。それに熱々のものを食べると火傷してしまうので気を付ける必要もあります」
 おでんを口にすると、その美味しさに食べ続けてしまい、やがては食べきれずに窒息死してしまう。そんな怖ろしい魔力を秘めている。
「現れるのは東京の街中で、閉店したコンビニから繁華街に向かっています。その途中の道路で待ち構え、敵を迎撃することになります」
 周辺の避難はまだ終わっていないので、敵と遭遇時少しの間引き付け、避難する時間を稼ぐ必要がある。
「敵はおでんを食べさせようとしているので、おでんを求めれば足を止めるはずです」
 避難は警察が行っているので、こちらは敵を引き付けるだけでいい。
「寒い日におでんが食べたくなるものですが、だからといって無理矢理食べさせられては迷惑です。敵を倒しおでんに襲われる人を救ってあげてください」
 よろしくお願いしますとセリカは説明を終え、ヘリオンの準備に向かった。
「おでんかぁ……きっと美味しいんだろうけど、食べたらダメなんだよね。何とか我慢して暴走を止めてあげないとね!」
 寒くても熱々おでんに魅了されないように気を付けようと涼香が言うと、ケルベロス達もこんな寒い日に出されるおでんの魅力を理解して頷き、移動しながら作戦を練り始めた。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
ラカ・ファルハート(有閑・e28641)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
終夜・帷(忍天狗・e46162)

■リプレイ

●おでんな夜
 夜になると冷たい木枯らしが吹く。人の集まる繁華街へ繋がる道は、普段なら車で混雑しているが、今は通行止めされ、そこに居るのはケルベロスと、避難途中の人々だけだった。
「ここはもうすぐ戦場になるのじゃ。わらわ達ケルベロスが相手をするゆえ、安心して逃げるのじゃ!」
 アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が避難する人々が慌て過ぎぬように声をかける。
「危ないですからーぁ。ちゃーんと警察の人のいうことをきいて逃げてくださいねーぇ!」
 続いて人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が人々に注意を促し、誘導する警察官を指さした。
 その傍では、黙したまま終夜・帷(忍天狗・e46162)が周囲を警戒する。避難する人々に被害が出ぬようにと、細心の注意をもってアクシデントがあっても守れる位置に陣取っていた。
「涼香さん寒くない? 大丈夫?」
「ちょっと寒いけど、ねーさん抱っこしているから大丈夫」
 冬を感じる冷気に泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)が心配そうに声をかけると、小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)はウイングキャットのねーさんを抱えて微笑みを返す。
「涼香さんは大根他は何が好きかな?」
「おでんはね……大根以外はつみれが好き。みかげさんは?」
「んっ、私か…… 餅巾とかだな。つみれも美味しいよね」
 壬蔭と涼香はそんな温かなおでんの話をしていると寒さも忘れていた。
「おでんが美味しくなってきた今の時期にとってこの敵は厄介な相手ですね……。おでんで犠牲者を出さないためにも頑張りましょう」
 寒くともおでんに誘惑されないように柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)は気を引き締める。
 そうしてしばらくすると、道路の先より巨大な四角いおでん鍋が現れる。道路2車線を使いたっぷんたっぷんと出汁を揺らして進んでいた。
『ぐつぐつ煮えたおでんを食べんかねー』
 中の所狭しと並ぶ具はぐつぐつと煮えて色づき、どれも美味しそうだった。
「大きなおでん鍋だねぇ。お店が開けるよぉ」
 大きな目の描かれた布で顔の半分を隠した葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が、不思議な事に見えているように敵の方へ顔を向けた。
「おいしいおでんくださいな!」
 敵に駆け寄ったラカ・ファルハート(有閑・e28641)は元気に声をかけた。
『へいらっしゃい! 何でもあるよぉ!』
 威勢のいい言葉が返り、ぐつぐつ煮える鍋が立ち止まった。

●あつあつおでん
「あーあ、今日は寒いなあー。こんな日はおでんがあったら最高だなーっ染み染みの大根とかないかなー?」
 大きな声で涼香が誘い、チラッと敵を見る。するとぐつぐつ煮える鍋から大根が飛び出した。
『あるに決まってんだろが!』
 涼香が慌てて避けると熱い大根が地面に落ちた。抱かれていたねーさんは飛び上がり、清浄な風を仲間達に送っておでんの美味しい香りの誘惑を打ち消す。
「おい、こっちは、餅巾、がんもと大根をくれ……」
『よろこんでー!』
 注文するとすぐに具材が出される。それを受け取ろうとした瞬間、あっとわざと落として地面にぶちまけた。
『ああんっ!? 何しやがんでぇ!』
 鍋が怒って熱々の具材を放つと、壬蔭はガントレットを装着した両腕で迫るおでんの具を薙ぎ払う。
「欲しい具を言うとそれが出てきたりするんでしょうか? もしそうなら餅巾着とはんぺんが欲しいです」
 結衣がそう尋ねると、すぐさま熱々の巾着とはんぺんが飛び出し、食べてはダメだと思いつつもつい口にして、熱っと火傷しながらも美味しさに負け食べ続けてしまう。
「ぬぅ、無限におでんを吐き出す機械とは夢のような存在ではあるが……人々の日々の安寧を乱す邪悪は捨て置けぬのぅ」
 敵の正面に立ったアデレードは、巨大な大鎌に炎を纏わせて斬りつけ、鍋を深く削り黒く焼き付ける。
「こう寒いとおでんが食べたくなるのう」
 だが食べる前に一仕事と、ラカは伸ばした鎖に霊力を帯びさせ、敵の外殻に出来た傷に叩きつけて損傷を深める。
『なにしやがる! お触りは禁止だ!』
 鍋から熱々の汁を飛ばしてアデレードとラカを追い払う。
「おでんくださいなーぁ! とりあえずこんにゃくからいただきたいですぅ」
『あいよぉ』
 注意を引こうとツグミも声をかけると、こんにゃくが飛来しつるんと口に滑り込んだ。そのツグミにボクスドラゴンのどらさんは属性を与え、おでんに対する抵抗力を高めた。
「大根をもらおう」
 一言そう告げると帷の元に大根が飛ばされる。予想していたそれを横にステップで躱し、お返しだと吹雪を起こして敵を包み、中の具ごと凍らせていく。
『ばっきゃろー! 冷たいおでんが食えるか!』
 鍋が過熱して具を温度を保つ。
「ぜぇんぶ癒すから、あたいに回復はお任せだよぉ」
 咲耶はスイッチを押してカラフルな爆発を起こし、仲間達の傷を癒し戦意を高めていく。
 そうしておでんを食べている間に、周囲から人影は無くなっていた。
「あ、熱かったです……熱々なのはいいですけど、火傷させるのは駄目ですよ」
 食べ終えた結衣は小包を投げつけ、鍋に当たって弾けると秘伝の薬が蜜のような甘い香りを漂わせて相手の機能を狂わせ、見境なしに具が飛び交う。
「おでんを振る舞ってくれるのはありがたいが、食べ物を投げるのは如何なものか」
 おでんを潜るように低く踏み込んだ壬蔭は、摩擦で燃える程の速度で拳を打ち込み、鍋の側面を大きく凹ませ、衝撃で汁が飛び散った。
「そんな熱い出汁を浴びたら火傷しちゃうよ!」
 涼香は大きな竜の幻影を生み出し、吐き出す炎のブレスで飛び散る汁を蒸発させ鍋を焦がす。
「お主のおでんが如何に熱々であろうと我が正義の炎は……チキュウの人々の怒りの炎は更に熱く燃えたぎっておることをその身をもって味わうが良い!」
 右目の地獄の炎を滾らせたアデレードは、敵の魂にその炎を流し込み、業を積んだ魂が焼かれ苦痛を与える。
『てやんでい! おでんが熱いのは当たりめぇだろうが!』
 敵が牛筋をアデレードの口目掛けて飛ばしてくる。
「おっと、危ないところじゃったの」
 横からラカが串を受け止め、その美味しそうな香りに思わず口にしてしまう。牛すじから噛めば噛むほどしっかりした味が染み出てくる。
「火傷には気をつけてねぇ」
 咲耶の元から風が吹き抜け、仲間達を包むように渦巻いてすっきりと傷を癒してしまう。
「あれだけ大きいといくらでも食べられますねーぇ♪」
 もごもごとこんにゃくを食べ既に正気かどうか分からぬ状態で、ツグミは地面に光で星座を描き、加護を仲間達に与える。
『最高に美味い熱々おでんを馳走してやるぁ!』
「ドラゴニアンの口に熱いものなど、おいしく頂いてくれと言っとるようなものだの」
 熱いのも何のその、ラカははふはふと飛んで来た熱々の大根を口にして咀嚼する。そして鋭い爪で鍋を引き裂いた。
 美味しそうな匂いに釣られそうになるが、帷は我慢して無表情を通し、次々飛んでくるおでんを身軽に飛び跳ねて回避しながら接近して、突きに特化した忍者刀を突き刺した。鋭い切っ先はするりとタイヤの軸を貫き、外れたタイヤが転がっていった。バランスを崩し敵が傾き、熱々の餅巾やつみれが転がり落ちて来る。
「好物だが今は遠慮しておこう」
 餅巾着を弾いた壬蔭は貫手を放ち、鍋を穿って穴から汁が漏れ出る。
「大根もつみれも美味しそうだね。でも我慢我慢だよ!」
 回り込んだ涼香は飛び蹴りを鍋に叩き込み、傾きを大きくして汁を更に零れさせた。
「次はですねーぇ、何を食べようか悩みますぅ」
 ツグミは腕をドリルにして鍋に突き立て、穴を穿って中の厚揚げを奪い取って食べた。
『勝手に取るんじゃねえ! 注文しやがれ!』
 鍋からしらたきが投げ出され、庇ったアデレードの口に飛び込む。
「くっなんという美味さじゃ! これでは食べ過ぎて死んでしまうというのも納得できるのぅ」
 だがそうはさせぬと、アデレードは炎を纏わせた大鎌を下から斬り上げ、続いて飛んで来たはんぺんを断ち、刃を返して振り下ろし鍋を斬り裂く。
『しゃらくせえ!』
 鍋が新たな具を飛ばそうとすると、その動きを読んだ帷はグラビティを集中して爆発を起こし、おでんの具を吹っ飛ばして攻撃を防いだ。
「危ないおでんの具はこれで防ぎますね」
 結衣はセイヨウヒイラギのような植物を生やし、その葉を巨大化させて敵を包み込みおでんを遮った。
「みんな美味しそうだねぇ。でも食べ過ぎはよくないよぉ」
 咲耶はドンドンッと仲間の背後で連続して爆発を起こし、色鮮やかな爆炎が仲間達を治療し心を昂らせる。

●美味いおでん
『てやんでい! こんなもんでオイラのおでんが止められるもんか!』
 出汁が補充され鍋が過熱すると拘束していた葉が燃え落ちる。鍋から一斉に具が飛び出し、ケルベロス達の口へと直撃していく。そのしっかり沁みたおでんの美味さに我を忘れてケルベロス達は夢中になっておでんを頬張る。
『ほれ、お代わり自由だ、たらふく食ってけ!』
 たまごがポポンッと鍋から飛び出してくる。
「お次はたまごか、ふむ、これもうまいのう」
 すっぽり口に入ったたまごを食べながらラカは蹴りを放ち、霊力を宿した一撃は衝撃を与え、ひびを大きくして汁を垂れ流させる。そして後退すると、そこでは同じくたまごを口に入れられたどらさんが夢中で食べている姿があった。
「おでんは美味しくいただくもの、こんな形で人死を出すわけにはいきません」
 はふはふとごぼう巻を食べていた結衣は雷を放ち、鍋に伝って流れる電撃が内部の機械をショートさせて動きを止めさせた。
「餅巾着もおいしそうですねーぇ、はんぺんもおいしそうですぅ。でもでも定番の大根も……」
 悩みながらツグミは思い切り回し蹴りを叩き込んで、敵を揺さ振り中の具を落下させ、それをキャッチして次々と食べ、ほっぺをぱんぱんに膨らませた。
 飛んでくるおでんに無意識に口を開けたくなるのを耐えた帷は、勿体ないと思いつつも忍者刀で払い除け、氷雪の渦を巻き起こして鍋を冷やしていく。
「はむはむ、んぐ……ちくわが飛んで来たねぇ。おいしいねぇ。だけどお仕事するよぉ」
 咲耶が風を起こして仲間達を癒して、おでんの魅力から意識を引き戻す。
『ばっきゃろー! おでんはぐつぐつ煮るもんなんだよ!』
 加熱し、鍋が煮えたぎって高温の具が散弾のように飛び出す。
「おい、ちょっと煮過ぎだろ……あと、温度上げ過ぎ折角の出汁の香りが台無しだぞ」
 その中を身体をジュウジュウいわせながら突っ切った壬蔭は拳を叩き込み、降魔の力で敵の魂を喰らい火傷を回復する。
「ねーさんはおでん食べちゃだめだよ! 火傷しちゃうからね? これがダモクレスじゃなかったら幸せマシンなのに!」
 注意しながら涼香はチェーンソーを激しく唸らせ鍋を斬りつける。装甲を削り切れ目を作って補充した出汁を零れさせた。ねーさんは食べたそうにしながらも我慢して仲間達を癒す風を送る。
「熱々過ぎるのじゃ! これでは火傷してしまうであろうが!」
 アデレードは大鎌を薙ぎ払い、おでんを斬り払った。そして跳躍し上から振り下ろし、鍋の縁を欠けさせた。
『文句ばっか言ってねぇで、おでんを食いやがれ!』
 傷ついた鍋が汁を零しながら体を傾け、おでんをドドッと流し出した。
 無駄な足掻きだと、右に左にと残像を残す速度でおでんを回避した帷が接近し、鍋の底へ忍者刀を深く突き入れ機械部分を貫いた。そして抜いて後方へ飛び退くと、遅れて爆発が起きて穴から放電する。
「周りの迷惑になるんでねぇ、閉店してもらうよぉ」
 咲耶は御札に封じられた呪を解き放ち、霊的に干渉し無理矢理敵の魂を引き寄せ、心に激痛を与える。のたうち回るように鍋が揺れ、大きく具と共に汁が零れた。
「その自慢の熱々おでんを超える、この炎で燃え尽きるが良い!」
 アデレードは燃え盛る大鎌を横に一閃、鍋に亀裂を走らせ大きく割って炎上させた。ドバドバと汁と具が溢れ落ちてくる。
『まだまだおでんはある!』
 食えと出汁を足して零れるのを補填し、おでんが美味そうな香りで誘う。
「これ以上は迷惑になるので閉店にしましょう」
 そこへ結衣は小包を放り投げ、香りで敵を惑わし、中の出汁が一杯だと錯覚させて行動を阻害した。
「食べながらは歌えないですぅ」
 残念そうに食べるのを止めたツグミは鹵獲術士と降魔拳士の力を無理矢理に融合させ、機械化した右腕から呪奏を、口から呪歌を紡ぎ、喰らった魂の憎悪を混ぜて放ち、不協和音が不吉なメロディとなって敵の精神を削りまくる。
「ご馳走さま、おやすみ」
 ラカは刃物のような竜の爪を伸ばして切り刻み、中の具ごと鍋の側面をバラバラにして、最後にと見つけた餅巾着を取り出し口に入れた。
『寒い日には……おでんが一番だ!』
 もはや鍋としての機能を保てぬ大穴が開いても、おでんを食べさせようと残った具を撒き散らす。
「出汁が駄々洩れだな……出汁のないおでんなどおでんではない」
 高速で打ち出す壬蔭の燃える拳が鍋を吹っ飛ばし、ごろんごろんと横転しながら壁にぶつかった。
「食べてあげられなくてごめんね」
 涼香の周りに風が吹くと、敵の周囲に渦巻く風が生まれ、獰猛な獣の爪の如く風の刃が鍋をズダズダに引き裂き、残った出汁と具を散らしておでん鍋は崩壊した。

●おでんを食べに
 周辺にヒールを掛け終えると、避難していた人々が戻ってくる。
「おでん、美味しかったですね。もっと食べたくなるくらいでした」
「しかしほどよい熱さのおでんがよいのぅ。火傷しそうなのは懲り懲りなのじゃ」
 結衣とアデレードがおでんの感想を言い合って、口の中に残る旨みにお腹を減らす。
「今度わしも作るとしようかのう、どらさんにはたまごを沢山じゃな」
 そうラカが言うと、どらさんが嬉しそうに飛び回った。
「涼香さん……この辺りに旨いおでん屋台があるらしいのだが、一緒にどうかな?」
「おでん屋さん? もちろん!」
 壬蔭と涼香がおでん屋に行こうと相談していると、ねーさんが自分もと肩に乗って主張する。
「ねーさんは何がいいかな? やはり、練り物系がいいのかな……」
「ねーさんは……煮る前のはんぺんかな」
 そんな話をしながら2人は繁華街に向かおうとする。
「お腹空きましたねーぇ……おでん……全然食べ足りないですぅ…」
 ツグミはまだまだ食べ足りないとお腹を撫でる。
「おでん屋さんに行くなら、いっしょに行きましょーぅ!」
 そして連れて行ってほしいとツグミが手を上げた。
「おでんの気分だな」
「寒い日にはおでんだよねぇ」
 戦いの最中は我慢していたが、もう完全におでんの気分になってしまったと帷も賛同し、咲耶も同意して頷く。
 そうしてケルベロス達は一致団結し、あつあつなおでんを食べようと、寒い夜道を歩き出した。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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