白銀の罪人

作者:波多野志郎

 遠く、繁華街の音が聞こえる。そこから離れた裏通りに、ソレは現われた。
「――――」
 アスファルトに亀裂を走らせ、片膝立ちしていた体長3メートルの大男は視線を上げた。白銀の西洋甲冑に、獅子に模したヘルム。武器は持たぬ無手――少なくとも、見た目からはそう見えた。
 ダン!! と大男が、地面を蹴った。加速する、加速する、加速する! 大男は地面を蹴る度に、鎧を鳴らして速度をあげていった。
 大男が、最後に大きく跳んだ。ビルとビルの間、路地へと大男は身を躍らせた。
「――クハ!」
 見下ろせば、そこには人混みがある。夜の繁華街、その頭上を取った大男は全身に銀色のオーラをまとった。
 誰も、大男には気づいていない。大男は構わず、ギシリと拳を握りしめると――白銀の流星となって人混みに落下した。

「罪人エインヘリアルが、夜の繁華街に現われます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、そう真剣な表情で切り出した。
「このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者です。放置すれば多くの人々の命が奪われ、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられます」
 エインヘリルにとっては、罪人の処理か定命化を遅らせる手段になるか、どちらにせよ利益になる――とはいえ、放置できないのも確かだ。
「急ぎ現場に向かい、罪人エインヘリアルの撃破をお願いします」
 戦場は夜の繁華街へと続く、裏通りになる。広さはそれほどではないが、戦う分には十分だ。
「繁華街の人たちは、警察などに避難をお願いします。ただ、みなさんが抑えきれなければ――その後の被害は、避けられないでしょう」
 エインヘリアルは一体、バトルオーラのグラビティを使用してくる。単体攻撃しかない代わりに、その一撃一撃がひたすら重く鋭い。一体でも十分、こちらを退けるだけの戦闘能力がある相手だ。
「加えて、向こうは不利になろうと撤退する事はありません。こちらは力を合わせて、連携する事で対抗するしかないでしょう」
 エインヘリアルはケルベロスがいる限り、他の人々には手を出さない。文字通り、ケルベロスが最後の砦なのだ。
「犠牲者を出す前に、どうか確実に対処してください。どうか、よろしくお願いします」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
草間・影士(焔拳・e05971)
氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ


 遠く、繁華街の音が聞こえる。そこから離れた裏通りに、ソレは現われた。
「――――」
 アスファルトに亀裂を走らせ、片膝立ちしていた体長3メートルの大男は視線を上げた。白銀の西洋甲冑に、獅子に模したヘルム。武器は持たぬ無手――少なくとも、見た目からはそう見えた。
 ダン!! と大男が、地面を蹴った。加速する、加速する、加速する! 大男は地面を蹴る度に、鎧を鳴らして速度をあげていった。
 だが、不意に大男はアスファルトを踏み砕きながら急停止する。目の前に、ケルベロス達が立ち塞がったからだ。
「悪いことしたら御用なのよ!」
 その疾走を止めた者の一人、フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)は力強く名乗った。
「現役JK警察官、フィアールカ・ミハイロヴナ・ツヴェターエヴァ、只今参上なの!」
「処刑場送りにされたアインヘリアルがまた一人ってね」
 峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)の言葉に反応してか、エインヘリアルが身構える。
「例え大規模な作戦が行われている最中、だからと言って他の危機を見過ごす訳にはいかない。他に大きな動きがあったからとて、貴方たちの所業に気付かないケルベロスと思わないで欲しい」
 ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)は目を細め、身構えた。犠牲に大小はあっても、一つ一つの命の重さに違いはない。
「エインヘリアルですか、どうしてそこまで好戦的なのでしょうかね。まぁ、私たちも簡単に負けるわけには行きませんからね」
「その拳の下ろしどころはー、こちらでお願いしますのよー」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は言い捨て、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は手持ちの提灯をぐるぐると回してエインヘリアルの注意を引いた。
「敵で罪人とは言え無闇に命を奪いたくないんでな。一応聞いておくが……虐殺を止めて投降する気は?」
 氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)の問いかけに、エインヘリアルの反応は単純なものだった。
「クカカ!」
 すなわち、笑いだ。笑い事を、答えにした。
「無いのなら俺たちは……お前を殺してでも止めなきゃならない!」
「俺達が来たからには、好き勝手出来ると思うなよ。人の命を奪おうとする以上。罪人だろうと英雄だろうと此方には関係ない――ここで仕留める」
 草間・影士(焔拳・e05971)が真っ直ぐに告げた瞬間、エインヘリアルが跳んだ。ただし、ケルベロス達を飛び越えるようにではない。真上に、だ。
「なんだ、我と違って重そうな装備をしてる割りには動きもよくもまぁそれだけすばしっこいものだ」
 ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が感心したように言うと、エインヘリアルは白銀のオーラを投げ放った。


「――ッ!」
 エインヘリアルの気咬弾を受けて、ミントが大きく弾き飛ばされる。鋭く重い気咬弾に、ミントはかろうじて着地に成功。そのミントに恵は、マインドシールドを飛ばし守りを固めた。
「着地するよ!」
 恵の言葉のとおり、エインヘリアルが着地する――その瞬間を狙って、炎の道を築いた影士が疾走した。
「そこを動くなよ。この一撃、受けて貰う」
 低い体勢の疾走から、両腕にまとった炎の刃を影士は振るった。ザザン! と影士の灯炎疾駆(ブレイズロード)による炎の斬撃が、エインヘリアルの装甲ごと太ももを切り裂く。
「さてさて、果たしてその甲冑は、どれだけすれば砕け散るか、試すか……」
 そこへ外套をはためかせて迫ったのは、ペルだ。着地と同時に太ももを切り裂かれたエインヘリアルの頭頂部で、縦回転で勢いを増したペルが踵を落とす――スターゲイザーだ。
「グ、カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!」
「さぁ、俺と遊ぼうぜ!」
 笑うエインヘリアルへ、緋桜が駆けた。虹色の輝きを宿した垂直落下蹴り、ファナティックレインボウがエインヘルアルを捉え――。
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ッ!?」
 緋桜の視界が、急速にぶれる。蹴り足の足首を掴んだエインヘリアルに、振り回されたのだ。
「おっと、それはいけません」
 その振り回していたエインヘリアルの腕にダリルが放った竜砲弾が着弾、爆音を轟かせた。ダリルの轟竜砲を受けて、エインヘリアルの拘束が緩む――即座に、緋桜は間合いを空けて着地した。
 エインヘリアルへ、巨大な手鏡が振り下ろされる――ミミックのスームカによる、武装具現化だ。
「行きます!」
 カチリ、とフィアールカが口紅に偽装した爆破スイッチを押す。巻き起こるブレイブマインの爆発に乗って、ミントが跳んだ。
「このハンマーで、叩き潰してあげます!」
 唸りを上げる鎖付き棘鉄球――もるげんすてるん☆を一撃を、エインヘリアルは頭上で両腕を交差させて受け止める。その間に、フラッタリーは籠女を抜くと前頭葉の地獄が活性化し狂笑を浮かべた。
「さa、オ楽しミの時間Da――!!」
 ゴォ! と展開したサークレットの下、額の銃痕の後から地獄を迸らせながら、フラッタリーは籠女が捕食した魂のエネルギーを自らへと注ぎ込む。
「カ、カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!」
 その狂気に呼応するかのように、エインヘリアルも笑う。それはまさに、餓えに満たされた歓喜だ。戦いを求めて、求めて、求めて――ついに闘争を存分に浴びれるようになった嬉しさに満ちていた。
「……エインヘリアルの罪人には、弱い者いじめしか出来ない惰弱な輩しかいないのでは?」
 緋桜の挑発に、エインヘリアルは否定しない。そして、肯定もしない。エインヘリアルは、闘争を区別しない。振るえる力に貴賤はないのだと、ただ思うがままにケルベロス達へと襲いかかった……。


「あハHAは破ははHAハ刃ハ破HAHAはハ破――ッ!!」
 狂ったような哄笑が響き、炎が舞う。フラッタリーの野干吼とエインヘリアルの白銀の拳が、火花を散らしていた。速度と間合い、様々な角度で斬りかかるフラッタリーと、エインヘリアルが受け止め、弾き、流していく。まともに刃を受ければ、エインヘリアルのオーラでも切り裂かれただろう。だが、刃の腹を叩き、角度を逸らし、技でそれを可能にしていた。
「この一撃を受けて、痺れてしまいなさい!」
 背後から、ミントが鋭い回し蹴りを繰り出す。エインヘリアルがそれを振り返りざまにブロック、蹴り飛ばされ――否、自身で蹴り飛ばされた勢いを利用して跳んでいた。
「A破!」
 それを追ったフラッタリーの横払いのブレイズクラッシュが、エインヘリアルの胴を薙ぐ。金属を焼く匂いをさせながら、エインヘリアルは逆らわず転がっていった。
「身軽なのね、でも――」
 転がった先、そこにフィアールカが回り込んでいる。エインヘリアルはそちらを向こうとして、ガクリと体勢を崩す――その足には、スームカが食らいついていた。
「――こっちの方が上なの!」
 フィアールカのゾリャー・ウートレンニャヤから生まれた鋼の戦乙女の一撃が、エインヘリアルを強打する。エインヘリアルの足が地面から強引に引き剥がされ、宙に浮いた。
「ここだ」
 跳んだ影士が、具現化した光の剣を大上段から振り下ろす。エインヘリアルが両腕をクロスさせて影士のマインドソードを受け止めた。
「――ッ!」
 ダン! とエインヘリアルは、着地と同時に横に跳ぶ。その動きを抑えるように、ダリルが如意棒を手に並走していた。
「エインヘリアルの動きがそこまで考えての行動かは分かりませんが――いずれにしろ、私たちは貴方を倒すのみ。それだけは決定事項であるし、確定事項です」
 ヒュオ! とダリルの如意直突きをエインヘリアルは体をずらしてやり過ごす。ギギン! と火花を散らし、鎧が削られた。エインヘリアルはダリルの如意棒を掴もうとして――ペルが放った白い刀の一閃で腕を斬られて、後方へ跳んだ。
「まったく、感もいいな」
 浅い、手応えからそうペルは判断する。踏み込みも斬撃の軌道も、決して悪くはなかった。ならば、この手応えの浅さは相手が反応した結果だ、とペルは判断。
「来る――!」
 緋桜が身構えた瞬間、エインヘリアルが着地した。その距離は、優に十メートルを越えていたはずだ。しかし、緋桜がわずかに腰を落とした時には、白銀の拳がすぐ目の前にある。音速さえ凌駕する一撃だ、緋桜は拳の額の間に右手を挟み受け止めた。
 だが、威力は殺しきれない。それでも吹き飛ばされる勢いを利用したカウンター気味の前蹴り、達人の一撃で緋桜は間合いを空けた。
「首から上が、吹き飛びそうな勢いだね」
 すかさず恵がマインドシールドで緋桜を回復し、その守りを固める。恵の言葉は、決して誇張ではない。もしも、ただの一般人であったならば形も残さず文字通り粉砕されていただろう。
 エインヘリアルの一撃一撃は、鋭く重い。当たりどころが悪ければ、それだけで窮地へ追いやられる。その猛攻を、ケルベロス達は分散させて回復を回し、耐え抜いて攻撃を重ねていった。
 戦場は既に多数の破壊跡を刻まれ、ひどい荒れようだ。そしてこれは、ここだけが戦いの場になっているという証拠でもある。一進一退、互いを押し返そうとする勝負は、ある瞬間を境に加速した。
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 エインヘリアルが、アスファルトを蹴る。走っていない、一度の蹴り足でアスファルトの上を滑るように間合いを詰めた。
「アーン……」
 ダークエネルギーを拳に集め、緋桜が振りかぶる。エインヘリアルのハウリングフィスト、音速超過の一撃に緋桜の拳が――肉薄する!
「――パーンチ!」
 緋桜の闇拳(アンパンチ)とエインヘリアルのハウリングフィストが、激突した。ヒュガ! と互いが巻き起こす衝撃波がぶつかり合い、周囲に吹き荒れる。一瞬の均衡、それを崩したのは、エインヘリアルの手甲が砕ける音だった。
「ガ――ッ!?」
「謳え雷(いかづち)、地に響け」
 ダリルの詠唱と同時、エインヘリアルが横へ駆けた。暗雲から落ちる雷、それを読んだからこそのエインヘリアルの超反応。だが、雷は鎖がごとくエインヘリアルを追うと絡みつくように捉えた。
 直後、雷鳴が鳴り響く。一刹那、あまりにも短い時間で行なわれたダリルのTonitrua(トニトルワ)とエインヘリアルの攻防はダリルに軍配が上がった。
「内部にもダメージ通してくれよう――視界を灼き、白き光景を刻み、瞬間に砕けろ」
 ペルが迫り、己の拳に白き魔力によって強力な白雷を宿して繰り出す! 白く眩い雷光の災拳(ホワイトショック)――ペルの雷撃の災禍とも言うべき拳の一撃に、エインヘリアルの巨体が動きを止めた。
「随分頑丈そうな鎧だが、これでも耐えられるかな」
 ビルの外壁を駆け上り、影士はエインヘリアルの肩の上へと。そのまま力任せにエクスカリバールを叩きつけ、メキメキメキ……と甲冑を引き剥がしていった。そこに続いたのは、フラッタリーだ。
「>銀ノ殻ヲ毟リ、巨躯ノ肉ヲ焼灼ス。サa、臓腑ヲ晒SIマセ!其ノ魂ヲモ諸共二!!!」
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! とフラッタリーの野干吼が縦横無尽に振り払われる。切落、袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟――最後に砕いた鎧の内に刀・籠女を刺突!
「掲ゲ摩セウ、煌々ト。種子ヨリ紡ギ出シtAル絢爛ニテ、全テgA解カレ綻ビマスヨウ。紗ァ、貴方ヘ業火ノ花束ヲ!!」
 ゴォ!! とフラッタリーのJinniyahノ手ハ花々ヲ載セル(ジンニーヤー ノ テ ハ ハナバナ ヲ ノセル)が、炎が大輪の花を咲かせた。だが、エインヘリアルは止まらない。内側から焼かれようと、外側から切り刻まれようと、それはただ闘争の愉悦になるだけだ。
「カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!」
「うるさいよ」
 恵がケルベロスコートをひるがえして、クイックドロウ。エインヘリアルの両膝に、銃弾を叩き込む。そして、そこへスームカは無数の口紅、愚者の黄金を放った。
 エインヘリアルが、攻撃を受けながら強引に前に出る。歓喜を、さらなる歓喜を! 拳を握ったエインヘリアルへ、フィアールカが文字通り舞いながら踏み込み、槍を携える無月の残霊に合わしてミントがRULE of ROSEを構えた。
「これなるは女神の舞、流れし脚はヴォルガの激流! ……喰らえ!サラスヴァティー・サーンクツィイ!」
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 バレエの動きや新体操の身のこなしからフィアールカの連続蹴りが放たれ、無月の残霊による槍の連打の間隙にミントが銃弾を撃ち込んでいく!
 Сарасвати санкций(サラスヴァティー・サーンクツィイ)と華空(ハナゾラ)、その苛烈な連続攻撃の前に、ついにエインヘリアルの巨体が地に倒れ伏した……。


「終わりましたね……」
「ああ」
 ミントの言葉に、影士がうなずく。破壊し尽くされた路地ではあるが、全員が力を合わせてヒールを行なえば、ほどなくして修復が完了した。
「これでよし、ね」
 フィアールカが満足気に、周囲を見回す。戦いが終われば、繁華街の喧騒が遠くだが確かに聞こえた。
 ケルベロス達が、そこへと向かう。恵は、こちらを警戒していた警察官に笑みと共に言った。
「あいつはもうやっつけたから大丈夫。何回来てもボクらケルベロスが倒すよ」
 その言葉に、繁華街に歓声が伝播していく。その声に、恵は小さく肩をすくめた。
「折角の夜の繁華街だけど、明日も学校だから遊んでいくわけにも……」
 ケルベロスの勝利を知って沸く繁華街を、彼らは歩いていく。守るべき者達に安堵を、ケルベロスとしての役目を最後まで彼らは果たしたのだった……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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