終末機巧大戦~水中決戦

作者:洗井落雲

●巨大鯨の腹へ
「まずは、皆、先の戦いでの勝利について、礼を言わせてくれ。十二創神のサルベージという最悪の事態を回避できたのは、紛れもなく、皆の活躍あっての事だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へと頭を下げた。
 しかし、ケルベロス達が呼ばれたという事は、また新たなる事件が発生したという事でもある。
 アーサーが言うには、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が、死神の儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを奪い、『終末機巧大戦』と呼ばれる大儀式を引き起こそうと、動き出したのだという。
「この大作戦を率いるのが、『五大巧』と呼ばれる五体の有力なダモクレスだ。コイツらは、ディザスター・キングと共に『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を、自分達の支配下におさめてしまったらしい。そして、死神を裏切って儀式への増援を行わなかったようだ」
 そして、その戦力を用い、今回の作戦を決行するに至ったのである。
 儀式の場となったのは、晴海ふ頭だ。晴海ふ頭は、中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている。
「大儀式『終末機巧大戦』は、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模したもののようだ。核となる『6つの歯車』を使い、儀式を行う事で爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させる……というのが目的のようだ」
 聞けば聞くほど、とんでもない作戦であると言えた。東京湾を、巨大な第二のダモクレスの本拠地とされるなど、とても見逃せるようなものではない。
「『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要だ。だが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われる……そのため、歯車を破壊する為には、拠点型ダモクレスの内部に潜入する必要があるんだ」
 終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部で行わなければなければならないようで、儀式開始と同時に、敵は侵攻を開始する。そこをケルベロス達が急襲して、儀式を阻止する……という工程だ。
「敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでは、『30分』しか時間の猶予が無い。だから30分以内に、敵拠点に潜入し、護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスを撃破するか、儀式の核となる『歯車』を破壊しなければならない……という事になる」
 儀式の阻止に成功した分だけ、『終末機巧大戦』の被害を抑える事が出来ると予測されている。儀式が全て完遂されてしまえば、東京湾全体が敵の手におちる。しかし、行われている儀式全てを阻止できれば、被害は最小限――晴海ふ頭中心部のみの被害で、抑える事が出来るだろう。
「厳しい状況だが、皆の力を貸してほしい」
 そう言って、アーサーは再び、頭を下げた。
 このチームが向かう儀式場は、『第五の儀式場』。場所は『豊洲運河』だ。儀式場となる巨大ダモクレスは『レヴィアタン』。周囲にそびえたつビル群に負けぬ巨体を持ち、濃霧をまき散らしながら、水上を行く、ダモクレスの巨大戦艦である。
「皆には、このレヴィアタンに向かい、内部に突入してほしい」
 今回の作戦内容についてだが、まず先行班が巨大ダモクレスと戦い、消耗させる。その後に、突入班が内部へ侵入する風穴を開けるための攻撃を行い、突入口が出来たら、全員が巨大ダモクレス内部へと進入する。
 内部には、防衛用のダモクレス達が存在するため、それを蹴散らしながら進まなければならない。だが、防衛用ダモクレスの増援は他の場所から次々と現れるため、先行班は、そのまま増援として現れるダモクレスを撃破し続け、突入班は中枢部へと進み、儀式を阻止する、と言う物だ。
「君達は『突入班』だ。君達を含めて、3チームが担当する事になる」
 レヴィアタン内部は、さほど複雑な構造はしていないようで、労せず中枢部へと到達することが出来るだろう。また、レヴィアタンの内部は水で満たされているため、水中戦になる。
 中枢部の前には、儀式の護衛として、強力なダモクレスと、配下の防衛ダモクレス達が存在する。この護衛を突破して、儀式の中枢へと向かわなければならない。
「この護衛との戦いについてだが、一応、我々から三つのプランを提案させてもらう」
 まずは、『3チームで協力して護衛を全滅させてから核に向かう』作戦。
 これは確実性をとったものだが、護衛敵は儀式を成功させるために戦いを長引かせようとすることが予測される。その為、護衛敵を倒すことが出来ても、時間がかかってしまう可能性がある。
 二つ目は、『1チームが護衛を足止めをしている間に、2チームが中枢に向かう』という作戦。
 足止めを担当するチームへの負担が大きく、足止め担当のチームが敗北してしまった場合、残った護衛戦力がそのまま中枢への増援となってしまうだろう。
 最後は、『2チームで護衛と戦い、1チームが中枢に向かう』もの。
 この場合、ケルベロス達と護衛部隊との戦力は釣り合う形となるので、護衛敵との戦いに関しては、純粋に勝利した側が、中枢への増援として向かうことが出来るだろう。だが、指揮官ダモクレスへの戦力としては、不安が残る。
「どれも一長一短と言った形だが、どの作戦を採用するか、或いは新しい作戦を立案するかは、皆に任せるよ。話し合って決めてほしい」
 中枢儀式場にいるダモクレスは、指揮官ダモクレス1体のみとなる。増援として中枢に現れたダモクレスは、儀式の余波によって分解され、指揮官ダモクレスに融合させられてしまうという。ダモクレスを取り込んだ指揮官は、体力を回復し、自らに付与された不利効果などもすべて回復してしまうだろう。回復量は、融合したダモクレスの数に比例するようだ。
 儀式を行っているダモクレスは単体だが、非常に強力な存在だ。
 1チームで勝利するのは難しいだろう。この場合、『部位狙いを駆使して、歯車を破壊する』事に集中できれば、勝機はみえる。
 指揮官に対して2チームが連携するならば、互角に戦う事が出来ると考えられる。
 敵増援が来る――つまり回復される――までに、敵を倒すことが出来れば勝利も見えてくるが、その前に敵の増援が現れた場合、回復した相手の体力をもう一度削るには時間の余裕はないかもしれない。
 3チームが連携すれば、有利に戦う事が出来る。だが、このパターンは、護衛撃破に時間をとられてしまう。そのため、儀式完成までに指揮官の撃破を間に合わせるのは、難しいと思われる。間に合いそうにない場合は、部位狙いによる歯車の破壊を優先する必要があるだろう。
 さて、ここからは詳しい敵の戦力の説明となる。
 まず、防衛用のダモクレスは、『ディープディープブルーファング』と『D級潜水艦型ダモクレスα』達だ。残存していた個体をかき集めてきた模様だが、数は多い。
 中枢入り口にて待ち受ける護衛ダモクレスは、『レイフォンGGG04』。配下として10体ほどの防衛用ダモクレスを伴い、ケルベロス達を待ち受ける。
 レイフォンGGG04は、海中型ダモクレスに対して高い指揮能力を持つ。その為、戦場の海中型ダモクレスの能力は上昇しており、レイフォンGGG04を庇う事を意識して行動しているようだ。その為、レイフォンGGG04を狙った攻撃が、防衛用ダモクレスによって防がれる……といった事態が多くなるかもしれない。
 そして、中枢にて待ち受ける指揮官ダモクレスが、『『終末機巧』アポカリプス』。『五大巧』の一人だ。『五大巧』の中では、最も戦闘能力が低いとの事だが、油断は決してできない。とは言え、可能ならここで討ち取っておきたい相手ではある。
 なお、儀式の核である歯車を破壊された『五大巧』は、強制的に本拠地であるバックヤードに転移させられるという。指揮官を倒すのなら、考慮しておいた方がいいだろう。
「死神を裏切っての行動か。敵同士の結託とは言え、そのやり口は少し気に入らない物があるな。死神の代わりと言っては何だが、奴らにその報いを与えてやってくれ。作戦の成功と、君達の無事を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
九部・玲(鳥獣戯画・e50413)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●白鯨
 白い、白い世界――。
 その日、豊洲運河は、あまりに濃密な霧に覆われていた。
 その霧の中、ゆっくりと運河を行くのは、巨大ダモクレス、レヴィアタンだ。機械の鯨は、自らの吐き出した霧に隠れるように、その巨体を悠然と泳がせている。
 と――その霧の中で、衝撃と爆発が発生した。レヴィアタンの体表近くで発生したそれに反応するように、レヴィアタンが身体を揺らした。
「始まったみたいやな……!」
 霧の中にその身を隠し、レヴィアタンを見つめるのは、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)をはじめとする、ケルベロス達だ。
 先ほどの爆発は、先行班のケルベロス達が、レヴィアタンへと攻撃を仕掛けた証であった。しかしレヴィアタンも黙っているわけではなく、猛烈な反撃を開始する。
 ケルベロス達は、固唾をのんで、その様子を見守った。霧の中に閃光と爆発が響き、見ているだけでも強力だと分かるレヴィアタンの攻撃が、霧を裂き炸裂する。
 手助けの為に、今すぐにでも飛び出したい――そんな思いを、ケルベロス達はこらえた。自分達の役割は、今この場にはない。先行班の仲間達は、必死に自らの役割を果たさんとしている――たとえ待つ身がつらかろうと、その決死の覚悟を、一時の感情に無駄にするわけにはいかない。
 幾度目かの応酬――時間にして、6分が経過した時。
 レヴィアタンの身体が、悲鳴のような軋み音をあげた。先行班のケルベロス達による、奇跡的な痛打――レヴィアタンが隙をさらけ出す。
「今だ!」
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が叫んだ。一斉に、ケルベロス達は霧を裂き、レヴィアタンの巨体へと踊りかかる。
「ビッグなマグナムをぶち込んでやるなのね!」
 ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)は叫び、『アームドフォートType:α[アルファ]』を構えた。間髪入れず、一斉射。仲間達も負けじと、最大威力のグラビティを一気に叩き込む。
 狙うは、レヴィアタン、その頭頂!
 叩き込まれたグラビティが、一気に炸裂する! 突入班3チームによる、最大威力のグラビティの弾丸は、レヴィアタンの頭頂部、本来の鯨であれば呼吸孔がある場所の装甲を、完膚なきまでに破壊した。
 吠えるように・悲鳴のように、レヴィアタンが鳴いた。ぶち開けられた頭頂部の穴から、鯨が潮を吹くように・鮮血がほとばしる様に、内部に湛えられていたであろう水が、一気に噴き出した。雨のように落下する水を浴びながら、ケルベロス達は再び跳躍。頭頂部に到達すると、こじ開けた突入口から、内部を覗き込む。情報通り、内部は水で満ちているようだ。
「寒中水泳の趣味は無いんだけどねぇ……」
 肩をすくめつつ、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)が言った。
「ふふふ。私の華麗なる犬かきを見せる時が来たようね」
 遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が、あえてお道化て言った。緊張を解きほぐす為である。集中する必要はもちろんあるが、過度なそれは無駄に疲労を蓄積させるだけである。
 さて、突入口が出来たことは、先行班のケルベロス達も確認できているハズだ。突入班のケルベロス達は視線をかわし、頷きあうと、鯨の腹の内、その水の中へ、一気に侵入していった。

●腹の内にて
(「行くよ、シルヴェル」)
 オウガメタルへと呼びかけつつ、その身体に纏わせたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)の格闘攻撃が、ディープディープブルーファングに突き刺さった。水中でありながら、その動きに微塵の衰えも見えないのは、流石と言った所だろう。ファングはぎぎ、とうめき声をあげ、爆発する。
 レヴィアタン内部へと進入したケルベロス達は、防衛ダモクレスと散発的な戦闘を繰り広げつつ、中枢へと歩を進めていた。事前情報通り、内部は非常にシンプルな構造をしていた。これならば、労せず中枢へ到達できるだろう。
 ファングの放った魚雷が、ケルベロス達へと迫る。だが、その魚雷の前に悠然と立ちはだかったのは、浅川・恭介(ジザニオン・e01367)のテレビウム、『安田さん』だ。安田さんは凶器を掲げ、その魚雷を受け止める。爆発が水をゆるがせるが、しかし安田さんはその攻撃を見事、受けきった。手をあげて、ぴっぴっと横に振る。
(「安田さん、その調子です!」)
 恭介は竜砲弾を撃ち放った。砲弾はファングに直撃し、その装甲がひしゃげる。お返しとばかりの安田さんの凶器攻撃の追撃を食らい、ファングは爆発する。
(「――! 皆、構えるでござる!」)
 何かを察知した九部・玲(鳥獣戯画・e50413)が、仲間達に注意を促した。途端、無数のミサイルと魚雷が飛来し、ケルベロス達へと降り注ぐ。
(「ちぃっ……こりゃまた団体さんだな……!」)
 武器を掲げ、その衝撃から身を守りつつ、グレイン。その視線の先には、こちらへと向かってくる、D級潜水艦型ダモクレスαの姿があった。
(「前にやっつけたと思ったけど……まだまだたくさんいるみたいね」)
 ミステリスが構える。だが、これだけの相手をしていては、時間が足らない。
 と、突入班とD級潜水艦の間に割って入る様に、先行班のメンバーが立ちはだかった。先行班のメンバーはサムズアップなどをしつつ、こちらに先に行くように促す。
 ケルベロス達は頷くと、一気に戦場から離脱する。背後からは、再びの爆音が響く。
(「……すまんなぁ。待っててな、必ず作戦は成功させる……オッサン達が約束するわ……!」)
 残る仲間達へ、最大限の感謝と約束を。胸中に浮かべ、照彦は泳いだ。
 中枢へ、中枢へ。ケルベロス達は駆ける。
 道中の妨害も撃破し、突入から14分が経過しようとしていた。
(「あれは……」)
 ロベリアが、前方に現れたダモクレス達を見据える。10体ほどの配下を引き連れ、優雅に泳ぐは、
(「鯨の腹の迷宮に、人魚姫の登場か。まるで童話のようだけれど、そんな綺麗な物ではないんだろうね」)
 ロベリアが胸中で嘆息する。その通りだろう。目の前にいるそれは、王子に恋する可憐な姫などではなく、獰猛な兵士を導く指揮官なのだ。
(「ふーむふむ。あの護衛がいるという事は、中枢まで目と鼻の先、という事ね」)
 篠葉が言った。情報によれば、アレは中枢を守る最後の護衛のはずだ。アレを突破できれば、中枢へ到達できるだろう。
 さて、突入班は、全部で3班。ケルベロス達はこのうち1班で護衛敵――レイフォンGGG04を抑え、残り2班が突破、中枢へと向かう……という作戦を選択した。
 足止めを担当する班が、レイフォンへと向かう。その後ろ姿に感謝と無事を祈り――響く戦闘音を背中に受けながら、残る2班のケルベロス達は、振り返らずに中枢へと突撃したのだった。

●歯車の儀式場
(「ここが、中枢だね……」)
 アンセルムが胸中で呟く。
 幾多の戦いと仲間たちの献身を受けて、ケルベロス達はついに儀式場へと到達した。
(「あそこに人影が……!」)
 恭介が指さし合図する方向に、果たしてその人物はいた。
 黒いフードを目深にかぶり、片目を押さえて蹲る――『終末機巧』アポカリプスだ。
(「……? 何やらダメージを受けている様子でござるが……儀式の余波でござろうか?」)
 不思議気に眉をひそめる玲。
(「くっ……鎮まれ……鎮まれ、我が『黙示の瞳(アポカリュプシス・プープラ)』よ……! 今力を解放しては、その余波により三千世界の因果が砕け散り、この星はその存在を失う事になるぞ……!」)
 くねくねと体を動かしながら悶えるアポカリプス。水中であろうと良く響くその声に、玲は驚愕の表情を見せた。
(「なんと……! 斯様な力を持つ存在でありながら、最も格下であると……!?」)
(「いや……あれは、そういう奴じゃないと思うよ……」)
 アポカリプスの言葉を真に受ける、真面目な玲に、おもわず優しく諭すアンセルムである。
 アポカリプスはぐいん、と体をひねり、ポーズを決めつつ、言った。
(「我が格下と評されるのは、その恐るべき力を自ら抑えているが故……だがむべなるかな。凡人たちに我が真の力を理解できぬ……!」)
 ぐいんぐいんと体をくねらせポーズを決める、アポカリプス。一同は、思わず圧倒された。
(「オッサン、ああ言うのはよくわからんわ……若い子はああいうの好きなんかな……?」)
 思わずこぼす照彦。テレビウム『テレ坊』は、そんな照彦を見上げつつ、「わかんない」と言いたげに小首をかしげた。
(「……はっ。あまりのパワーに、思わず飲まれる所だったわ!」)
 篠葉は頭を振りつつ、武器を取り出した。慌ててケルベロス達も、武器を構える。
(「ふっ……来るか、『地球の番犬(テラ・ウォッチドッグ)』どもよ……!」)
 構えるアポカリプス。
(「……そこは素直にケルベロスでいいんじゃないかな?」)
 半ば呆れつつ、ロベリア。
(「……五大巧って、皆ああいう、邪気眼がどうとか患っていらっしゃるお年頃なんでしょうか……他の戦場の皆さんも、大変なんだろうな……」)
 恭介が嘆息する。
(「まぁ、そういうのは子供の内に卒業してほしいのよね。ここからは、オトナの時間なのよ」)
 と、ミステリス。
(「まったく、なんだかむずむずする奴だけど……」)
 グレインは頭に手をやりつつ、
(「悪いがごっこあそびにつきあってやる義理はないんでね。時間もない。ここがお前らの海じゃねえって事、速攻で刻み込んでやるぜ」)
 『ゾディアックソード[Taurus]』を突きつける。
(「くくっ……さあ来い、愚かな番犬共! 我が名にこめられし黙示の意、その身を以て知るがいい!」)
 アポカリプスが手にした白い剣を振るう。途端、生まれた水圧が巨大なハンマーのように、ケルベロスへと叩きつけられる。
(「くっ……キツイ……のね……!」)
 武器を構え、その衝撃を受け止めたミステリスが、思わず呻いた。言動はふざけた様子だが、それでもダモクレスの幹部クラスの敵だ。決して油断できる相手ではないという事なのだろう。
 衝撃に飛ばされたミステリスを、ライドキャリバー『乗馬マスィーン一九』が受け止め、救出した。距離を取り、ミステリスが態勢を整える。
(「今度は逃がさない……逃げる事もしない……っ!」)
 アンセルムが紡ぎ、放つ竜の幻影が、アポカリプスへと迫る。
(「安田さん!」)
 恭介の言葉に、安田さんが飛ぶように泳いだ。アンセルムの放つ竜の幻影、そして恭介が放つ竜砲弾が次々とアポカリプスへと突き刺さり、安田さんの追撃の凶器攻撃が撃ち込まれる。
(「ハハハ、虚弱! 貧弱! 惰弱!」)
 別チームのケルベロス達の攻撃も受けながらも、アポカリプスは余裕の表情を見せていた。
(「意味わかってて言ってるのね?」)
 サキュバスミストを展開し、仲間の傷を癒しつつ、ミステリス。その主の隙を守る様に、乗馬マスィーン一九はガトリングを乱射する。
(「ちっ、流石にとんでもない威力か……まずは防御を固める! ……水よ、力を貸してくれ!」)
 グレインが祈れば、水はその言葉に応え、仲間を守り、癒す『自然の護り(エレメントスフィア)』を形成する。
(「合わせて、一気に攻めよう、イリス」)
 ロベリアの提案に、ビハインド『イリス』が頷く。一気呵成に突撃する両者。その斬撃を、アポカリプスが両の剣を持って受け止めた。じりじりと鍔迫り合いを繰り広げるが、ほどなくして両者ともにその刃を振り払い、再び距離をとる。
(『Zacharias Ida Emil Ludwig Eins=Bahner_06』)
 響く詠唱。照彦が放つナノマシンは、仲間達の武器に取り付き、その攻撃行動をサポートする。テレ坊も合わせるように応援動画を流す。
(「さぁて、バリバリ呪っちゃう、ぞ!」)
 途端、篠葉の足元より引きずり出されたのは、無数の怨霊たちである。
(「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え。『怨嗟嚶鳴之呪』――」)
 解き放たれた怨霊たちが、アポカリプスへとまとわりつく。
(「ひっ、なんだ、これは……ちょっと怖いぞ!?」)
(「……それが素でござるか」)
 半ば呆れたような玲が、仲間達にグラフィティを描き、その援護とした。
 ケルベロス達とアポカリプス。続く両者の攻防は果て無く続くかと思われたが、ケルベロス達の猛攻に、アポカリプスは徐々に劣勢の様相を見せ始めていた。
 少しずつ、少しずつ、アポカリプスの体力を切り崩す。迫る時間とも戦いながら、その努力はやがて、結実の時を見せた。
(「くっ……馬鹿な、この……黙示の瞳を持つ我が、ここまで……!」)
(「そういうのは、もういいっ!」)
 アンセルムが手をかざした。途端、不可視の檻がアポカリプスを包み込む。元は術者を守護する結界魔法だったハズのそれは、中にいるものを決して逃がさぬ檻としての役目を果たしていた。
(「なにこれ、カッコいい――」)
 アポカリプスが素の呟きを漏らした途端、内部が爆発と火炎で満ちた。逃げ場のない衝撃は檻の中で幾重にも反響し、内部の存在を徹底的に破壊する。
(「今です……一気に攻めましょう!」)
 恭介が合図する。それを皮切りに、ケルベロス達の一斉攻撃が始まった。2チームによる、最大火力の飽和攻撃――果たしてトドメの一打となったのは、別チームに居たケルベロスの斬撃であった。
(「ふふっ、この別れは終わりか、或いは『始まり』か……」)
 それっぽい呟きを残し、その身体が四分割にされるや、爆発を起こした。アポカリプスがその機能を停止し、後に残るは、アポカリプスが残した、大小様々なハグルマであった。
(「後はこれを破壊して、終わりやな……!」)
 照彦が言った。果たしてこの歯車群の内、どれか一つが正解なのか、全てが儀式のために必要なハグルマなのか……。
(「全部壊しちゃえば問題ないのね!」)
 ミステリスが言った。アポカリプスが残っていたならば、歯車を狙う事も難しかっただろうが、今ならば集中して攻撃する事もできる。
 ケルベロス達は一斉に、歯車へと攻撃を集中した。やがてその中でも最も小さな歯車が撃ち貫かれた時、辺りが激しい振動を見せた。どうやら、これが当たりのようだった。
(「大仰な振舞いをするもの程、内心は小さいものなのだろうね」)
 ロベリアが肩をすくめる。
(「さてさて、こうなれば長居は無用ね!」)
 と篠葉。ケルベロス達は頷いた。
(「足止めに残ってくれた仲間達も心配だ」)
 と、グレイン。
(「行くでござるよ」)
 玲が促し、ケルベロス達は脱出を始めた。
 道中、仲間達と合流し、ケルベロス達は元来た道を全速力で泳ぎ抜ける。やがて突入口がその姿を見せ、ケルベロス達は誰一人かけることなく、レヴィアタンから脱出したのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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