東京六芒星決戦――死神の儀式を巡る激戦に、無事勝利したケルベロス達。エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、そんな彼らに『お疲れさま』と声を掛け、それから『おかえりなさい』とはにかみながら囁いた。
「皆のお陰で死神の野望を砕いて、十二創神のサルベージという最悪の事態を防ぐことが出来たんだけど……まだ予断を許さない状況が続くみたいなんだ」
次に動くのはダモクレスの軍勢なのだと、エリオットは言う。先の決戦に参戦しなかった彼らは、儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを利用した大儀式――『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したのだ。
「……この大作戦を率いるのは『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレス、だよ」
五大巧たちは、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。その戦力を温存して、今回の作戦を強行した――と言う流れらしい。
「悔しいけど既に、晴海ふ頭は中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている」
更に、核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、これを爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と思われる。状況は嘗て、大阪で攻性植物が起こした爆殖核爆砕戦と酷似しており、ダモクレス達は恐らくこれを模倣したのだろう、とエリオットは眉根を寄せた。
「終末機巧大戦を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要になるんだ。けれど、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われるから、破壊する為には内部に潜入する必要がある……」
終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、ダモクレスの軍勢は儀式開始と同時に侵攻を開始する。そこを急襲して儀式を阻止するのだが――儀式が発動するまでは、30分しか時間の猶予が無い。
「……だから、30分以内に敵拠点に潜入して護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破、或いは、儀式の核となる歯車を破壊しなければならないんだよ」
――此方の状況は余りに厳しい。しかし儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることが出来るだろう。
儀式が完遂されれば東京湾全体が敵の手に落ちてしまうが、全て阻止すれば晴海ふ頭中心部のみの被害で抑えられるのだ。
儀式場は全部で6つ――その攻略目標一つに対し、それぞれ5チームでの強襲を行うことになる。作戦の流れとしては先ず2チームが先行して拠点型ダモクレスに突撃し、残り3チームが突入口を開く為に攻撃を行う。
「今回の作戦で向かうのは、第五の儀式場になるよ。皆は3チームからなる突入班のひとつを担当して貰って、儀式中枢に向かい歯車を破壊して欲しいんだ」
突入後は先行班の2チームが増援の足止めを行うので、突入班の3チームは中枢部へと向かうことになるが、その前には儀式の護衛を行う有力なダモクレスが待ち構えている。先ずはこの敵を倒さなければならないのだが、3チームの戦力をどう配分するかが重要になってくる。
「一つは、3チーム全てで協力して護衛を全滅させてから、核の歯車に向かう方法」
――しかしこの場合、相手は戦いを長引かせようとしてくるので、勝利出来るとしても、時間がかかってしまう恐れがある。
「もしくは、1チームが足止めをしている間に、2チームが核に向かう方法」
――此方は足止めを行うチームの負担が大きく、彼らが全滅すると、護衛が敵増援として現れてしまうだろう。
「最後は……2チームで護衛と戦い、1チームが核に向かう方法になるね」
――この場合、戦力は互角となり、勝利した方が増援として現れる。護衛戦に仲間が勝利すると戦いに合流出来るが、敗北してしまうと核に向かった1チームだけでは儀式の阻止は厳しくなってしまう。
「……どの作戦も一長一短あるから、他のチームと確り相談して決めて欲しい」
そう言って説明を終えたエリオットは、続いて第五の儀式場に居るダモクレス勢力を纏めた資料を広げた。詳細は、此方を見て貰う方が分かりやすいだろう――海水が満たされた内部は水中戦となり、敵も海中型ダモクレスが中心となる。
「拠点型ダモクレスの名前は、レヴィアタン。濃霧を発生させて豊洲運河に姿を見せるから、そこを叩くことになるね」
そして問題の儀式場には、核の歯車での儀式を行っている指揮官ダモクレスが居る。単体相手であるが非常に強敵であり、1チームで勝利するには難しい。この場合はダモクレスを倒すことを諦め、歯車の破壊に集中した方が良いだろう。
3チーム全てで相手に出来れば撃破も見込めるかもしれないが、護衛を片付けてからの戦闘になる為、時間との勝負になる――この場合も、間に合わなそうなら歯車の破壊を優先すべきだ。
「ただ、第五の儀式場の指揮官――『終末機巧』アポカリプスは、他の五大巧より格下みたいだから、撃破も狙えると思う」
但し右手が疼いたり、魔眼が覚醒したりする系の難儀な性格の持ち主なので、ある意味注意が必要かもしれない。のりのりで迎え撃つも良しだが、水中戦なので長台詞なんかは工夫しておこう。
「死神を裏切ったダモクレス……彼らが操る終末の歯車を、何とかして止める必要がある。厳しい戦いが続くけれど、どうか。……未来を変えて欲しい」
――機械仕掛けの神々による、理不尽な終焉の阻止を。エリオットはそう言って、頼もしげにケルベロス達を見つめた後、己の為すべきこと――ヘリオンを駆る準備に取り掛かっていった。
参加者 | |
---|---|
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) |
御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327) |
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248) |
鷹野・慶(蝙蝠・e08354) |
高辻・玲(狂咲・e13363) |
ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) |
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
●濃霧と共に来たれり
――機械仕掛けの神々が齎す、終末機巧大戦。終わりに向けて回り始める歯車を止めるべく、一行が向かったのは豊洲運河にある、第五の儀式場だった。
「次から次へと大変だけれど、まだまだ立ち止まってなんかいられないよね」
濃霧が立ち込める周囲に注意を払いつつ、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)はそっと、自身に言い聞かせる。肌を突き刺すような冷気は、否が応でも冬の到来を感じさせて――それは忘れ得ぬ過去の記憶を、リナに蘇らせるのだ。
「……最近変な儀式をしようとするのが多いね。でも、今度の儀式も阻止してみせるよ」
そんなリナの心を現実に引き戻したのは、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)の静かな声。手元の時計のアラームをセットした彼女は、深い霧の向こう――海の大獣の如き威容を誇る、拠点型ダモクレスを見つめてタロットを切った。
「レヴィアタンとは、また仰々しい名前だね」
腰の後で交差させた得物に手を掛け、何時でも斬り込めるようにした、御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327)の口ぶりは、大戦を前にしても飄々としていて。一方のレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)は、眼光鋭くレヴィアタンを睨みつけ、地獄の炎を纏う両腕を打ち鳴らした。
「決して見過すわけには行かぬ。……容赦はしない」
――海に響く剣戟の音が、徐々に激しさを増していく。固唾を呑んで一行が見つめる先では、既に戦いを開始していた先行班の仲間たちが、レヴィアタンを追い詰めつつあった。
「機を窺う……と言うのも、中々歯痒いものだね」
そう。高辻・玲(狂咲・e13363)が呟いたように、此方が為すべきは、隙を突いて突破口を開くことだ。やがて、先行班の一斉攻撃が敵の巨体を揺さぶり――くせっ毛の女性が放った一撃が奇跡的に痛打を与えたのだろう、レヴィアタンの身体が大きく傾いだ所で、残るリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)ら突入班が動いた。
「侵入出来そうな場所は、装甲の薄いあそこか……!」
刃を抜き、ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が狙いを定めたのは、レヴィアタンの頭頂部。鯨の噴気孔を思わせる其処が丁度良さそうだと、他班の仲間たちも思ったらしい――突破口を開くべく次々に攻撃が行われ、直後ダモクレスの装甲がひび割れて大穴が空いた。
「……さてと。腹括っとくか」
ウイングキャットのユキに目配せをしてから、鷹野・慶(蝙蝠・e08354)は海水で満たされた内部へと飛び込んでいく。ふと、前をゆく白陽が去り際に『ねこかわいい』と呟いたような気がして、慶はユキを二度見したのだが――何も言うまい。
――終末の刻限は、着実に迫ってきているのだから。
●水底の機影
先行班が露払いを行う中、一行は最奥目指して水の中を進んでいく。ゆらゆらと揺れる青の世界に、時折過ぎる光は幻想的ですらあったのだが――リコリスは瞬きを繰り返しつつ、恐る恐る手で水を掻いていた。
(「実は、今まで泳いだ事がないのですが……」)
(「ん? あんまり難しく考えなくてもいいんじゃねぇの?」)
一方で小首を傾げる慶はと言えば、杖をつく必要がなさそうだと頷いて、蝙蝠の翼を器用に動かして進んでいる。その姿に天啓を得たのだろう――やがてリコリスもその背の翼を使い、空を舞うように水中を泳ぎ始めた。
(「……ふむ、特に問題は無さそうか」)
何かあれば手を貸そうと思っていたレーグルは、人魚のように優雅な泳ぎを見せるプランを見守りつつ、防衛ダモクレスの襲撃に備える。追い縋るものが居れば叩き潰すまで、と白陽も油断なく通路に目を光らせていたのだが――或る程度進んだ所で、D級潜水艦型ダモクレスαの集団が一斉に、此方目掛けてミサイルと魚雷の雨を降らせてきた。
(「ちょっ……いきなりなの?!」)
こうなっては隠密気流も効果が無いと、リナは素早く武器を構える。既に敵は此方の侵入を察知し、数を揃えて迎撃に出たのだろう。このまま大群に突撃されれば乱戦となり、強行突破も不可能になる。
――しかし其処で、先行班の仲間たちが素早く抑えに動いてくれた。阿吽の呼吸でダモクレスの前に立ちはだかる、仮面の青年とオルトロスが『先に行け』と言うように合図を送り、一行は先行班にその場を任せて先へと進む。
(「必ず、指揮官を撃破してみせるから……!」)
サムズアップで快く送り出してくれた彼らの為にも、歩みを止めてはならない――やがて見えてきた中枢部、その前で待ち構える護衛部隊と対峙したリナたち突入班は、予め決めていた通りに戦力を分散させる。それは、1班が護衛戦力を引き受け、残り2班が全力で指揮官の撃破を行うと言う選択だった。
(「あちらも必死のようだ。しかし……歯車を思い通りに回す事は許さない」)
そうして玲たちの班の役割は、後者であったから――仲間を信じ、振り返ることはするまい。決死の覚悟で銃を構える乙女と、勇ましき竜人の姿を視界の端に捉えつつ、一行は儀式場目掛けて戦場を突っ切っていく。
(「人魚のお姉さん、僕達と遊びましょう――」)
――護衛部隊を統率するダモクレス、レイフォンGGG04に囁かれる、浮世離れした声を聞いたと思ったのは錯覚だったろうか。けれど、此方を見送った翡翠色のまなざしは確かなものであったのだと、玲たちは信じることが出来たのだった。
●黙示録の真名
当初、儀式場であるレヴィアタンが外縁部に向けて侵攻を開始する――と聞いた時は、そちらから来てくれるのなら好都合であるとギルフォードは思っていた。しかし、いざ攻略するとなるとダモクレスの軍勢をあしらいながら、決死の覚悟で中枢に辿り着く必要があったのだと気付かされた。
けれど――今目の前には、歯車を背に佇むダモクレスの男が居る。目深に被ったフードの下、苦しそうに右手で顔を抑えている彼こそが、五大巧のひとり『終末機巧』アポカリプスなのだ。
(「ようやく見つけたぞ、糞野郎……!」)
刃のような殺気を隠すこともせず、宿敵を睨みつけるギルフォードであったが、当のアポカリプスは気付かなかったらしい。ひとしきり格好良く苦悶に耐えた所で、彼はゆっくりと右手を外して一行に向き直る。
(「ああ、お前は……誰だ? まさか、我が真名を知る者……? いや、まさか、な……クッ」)
――やばい。意味がありそうで意味の無い台詞をのたまうばかりか、会話が成立していない気がする。勝手に納得して再び悶絶するアポカリプスの只ならぬ様子に、後ろからおずおずと声を掛けたのはリコリスだった。
(「ええと、ベリアル・マリス様……海の堕天使、でしょうか。何かに苦しんでいらっしゃるようですが……」)
(「ぐあああッ! 我が真名を唱えるとは命知らずな者よ……! 其は封印された力を暴走させる、終焉への引き金となるのだぞ……!」)
え、えっ――と、仰々しいアポカリプスの反応に困惑するリコリスだったが、其処ですかさず慶がフォローに入る。
(「あー大丈夫。あれはヒールじゃ治せない病気だけど、放っておいても問題ないから」)
普段は子供っぽい仕草の目立つ慶であるが、今の彼のまなざしは奇妙に大人びていた――より具体的に言うのならば、可哀想なひとを見つめるような感じだ。
(「また随分と個性的な相手だね。――そういう趣味に目覚めはしても、人の心に目覚めたりはしない、か」)
――ならば残念だけど、此処でお眠り頂こう、と。刀を手に優美な微笑みを浮かべる玲が、アポカリプスに狙いを定めると同時に、もう一方の班も戦闘を仕掛けたようだ。挟撃をする形で戦いが始まると、先ずはプランが白く煌めく髪を揺らめかせながら、重力を宿した鋭い蹴りをアポカリプスに見舞う。
(「踏んであげる。悦んでいいよ」)
そんな蠱惑的な囁きと共に、プランが身を翻すと――続けて慶が、敵の足取りを鈍らせるべく竜爪の幻影を生み出した。
(「……色々と厄介そうだが、作戦遂行が第一なんでな!」)
貪食竜の枷を嵌められつつも、アポカリプスは宵闇の黒鍵を手に水の流れを操り、此方の動きを停滞させてくる。しかし、変調を齎すことに長けた相手への対処は、予め決めてあったことだ。レーグルの纏う縛霊手から紙兵が放たれ、仲間たちを守護する一方――リコリスは星辰の剣を操り、守護星座の加護を重ねていく。
(「何だか大げさな感じの指揮官だけど、怯まずに冷静に……だね」)
更にユキが翼で邪気を祓うのを見届けてから、魔法の葉を纏ったリナは、槍を構えつつ水底を蹴った。そう、此処まで来たら、自分たちの戦いを貫くだけだ。
(「放つは雷槍、全てを貫け!」)
稲妻の幻影を纏う槍撃が、彼女の意志そのままにアポカリプスへと迫り、その身を戒める。リナの攻撃が命中するかには運が絡んでいたが、確実性が高まったのはプランや慶の放った足止めのお陰だ。
(「後は全力で、火力を叩き込む所存」)
更に、守りを固めたレーグルが攻めに転じると、両腕に纏う地獄の炎を呪詛と成してアポカリプスに叩きつけた。奪われたものの嘆きと怒りが水中を震わせる中、すかさず玲が二刀を翳し、立て続けに斬霊波を放って獲物を追い詰めていく。
(「ああ、僕も疼いて仕方ないよ――斬り伏せたくて」)
うつくしき薔薇に潜む棘を、ちらりと覗かせた玲が陶然と囁くが、アポカリプスは怯まずに反撃を開始してきた。五大巧の中では格下だとは言うが、二班を同時に相手にしていることからも、その実力は確かなものなのだろう。
(「くくっ……不用意に飛び出す、命知らずも居たものだな」)
彼の手に握られた白鍵が操る水流は、ひとり突出していたギルフォードの急所を貫こうとしていたのだが――その一撃は寸での所で、間合いを詰めた白陽によって庇われる。
(「……命知らずか。命を賭けて相手をしてやっているんだ、指揮官冥利に尽きるだろう」)
ふん、と皮肉気な笑みを見せる白陽だが、その表情は険しかった。直ぐに危機を察知したリコリスが回復に動き、気力を解き放って白陽の傷を癒す。
きっと、この身体の微かな震えは、水の冷たさの所為だけではないのだろう――仲間を守り切れないかも知れない、と言う恐れがリコリスの心に影を落とすが、それでも彼女は必死に己を奮い立たせた。
(「人々を守る為、必ず儀式を阻止致します……!」)
もう一方の班とも上手く連携をして、此処でアポカリプスを仕留めると言うのが、皆の願いだ。しかし見た所、此方はギルフォードが上手く連携を行えておらず、単身斬り込んでいく所を的にされている状態だった。
盾となるレーグル、白陽、ユキが時折カバーに入ってくれているが――危機に陥った際、どのようにして切り抜けるかが、ギルフォードの戦術には欠けているようなのだ。
(「まぁ……宿敵だとか言う話だったから、思う所もあるんだろうけどな」)
その気持ちは分からないでもない、と慶は思う。ダモクレスの大規模作戦を幾度も経て、自分だって因縁を感じているのだ。
(「氷の騎士にお任せするよ、……美しく凍って」)
――プランの召喚した槍騎兵の一撃が、青の世界を凍結させ、一気に砕く。アラームは未だ警告を発していないけれど、終焉は近いのだと誰もが感じていた。
●『終わり』と『始まり』
どうやら、もう一班の方も上手く戦いを進めているらしい。双方の波状攻撃が功を奏し、徐々にアポカリプスは追い詰められていっているようだ。
(「終末を迎えるのは、あなた達の方だよ!」)
――リナの雷槍と、プランや慶が齎す氷縛と。或る程度異常を蓄積した所で、空の霊力を帯びた白陽と玲の刀が、標的の傷口を更に斬り広げにかかる。
(「……くッ、終末は近いのか。最早、猶予は残されていないのだな……!」)
その身を麻痺に侵されたアポカリプスが、苦悩の呻きを漏らしたが――それに臆すること無く、慶が叫んだ。
(「まだ余裕ぶっこいてイキってんのか? その疼く右手ごと消し飛びやがれ!」)
放たれた塗料は瞬く間に現実を塗り替え、アポカリプスの腕を潰し、深紅に染め上げていく。其処へチェーンソーの音色を響かせるプランが、更に色彩を加えようと肉薄するが――最期の力を振り絞り、アポカリプスは双鍵を駆使して反撃に出た。
(「金色の白鍵と宵闇の黒鍵、相反する力が破滅を呼ぶ――奏でるはそう、白と黒の輪舞曲!」)
――ワールドエンド・ベリアル・マリス。進行と停滞、強引に引き出されたふたつの力が戦場を荒れ狂う。石化の呪いがレーグル達を蝕むが、彼は毅然とした態度を崩さず、一歩も退くことは無かった。
(「……ならば、その目論見ごと狂わせ、砕いてあげよう」)
レーグルの隣では、どうにか猛攻を凌いだ玲が刀を握りしめ、炯々と冴え渡る一太刀を浴びせようと立ち上がる。アポカリプスの疼きを鎮めてやろうと、研ぎ澄まされた刃が翻り――生まれし太刀風は、流れる水すら両断した。
(「この海は、譲らない」)
――これで、終幕になる。癒しの手を休めること無く、戦況を見据えるリコリスの瞳が捉えたのは――宿敵に狙いを定めるギルフォードの姿だった。
(「やっと、貴様にこの刃が届く……!」)
身に纏う武装生命体が鋼糸を形成し、刃の鋭さを宿して。更に二本の得物を加えて、四つの凶刃を操るギルフォードは、アポカリプスに凄まじい速度の斬撃を――四分割の秘技を浴びせていく。
(「ふふっ、この別れは終わりか、或いは『始まり』か……」)
(「ふん……nonsenseだ……」)
――粉々に砕け散っていく宿敵が、遺した言葉。ギルフォードはそれを切り捨てると、静かに彼の最期を見届ける。己の手で止めを刺すことが叶ったのは、仲間たちの助けがあったから――それが『終わり』を待つだけだった男が、今回の任務で実感したことであった。
――そして。己が生き残った意味を見出す旅路は、これからも続いていくのだろう。
指揮官である『終末機巧』アポカリプスを撃破した後、一行はもう一方の班と共に、核の歯車の破壊も無事に終えた。これで第五の儀式場は完全に攻略、ダモクレスたちが進める『終末機巧大戦』の勢いを抑えることが出来るだろう。
(「……さあ、帰ろうかな」)
ひんやりと心地良い水世界を泳ぐのも楽しかったけれど、やはり地上の空気が恋しいとプランは頷いて。儀式場を後にした彼女たちは、降り注ぐ光の向こう――地上を目指して帰路についたのだった。
作者:柚烏 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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