終末機巧大戦~作戦の成功を祈る者達

作者:沙羅衝

「東京六芒星決戦。みんなお疲れさんやったで。みんなのおかげで、死神のた企みは阻止することができた」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、ケルベロス達に向かい、礼をする。だが、その表情は晴れていなかった。
「十二創神のサルベージは防げた。でも、今度は東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢がや、儀式の失敗で行き場をなくしてしもたグラビティ・チェインを奪って。大儀式『終末機巧大戦』を引き起こすつもりやっちゅうことが分かったんよ。
 これは五体の有力ダモクレス『五大巧』が率いてるらしい。『五大巧』達はや、ディザスター・キングの指揮で『六芒星決戦』に参戦する筈やった戦力を支配下におさめてな、どうやら死神を裏切って儀式への増援を拒否しよった。
 そんで、その戦力を温存して、今回の作戦を強行した、みたいやねん……」
 絹は手に持ったタブレット端末から、情報を正しくケルベロス達に伝える。それを聞いたケルベロス達の心中は如何許りであろうか。
「グラビティ・チェインはそのまま放っておいたら、遠からず拡散して地球に吸収されていく筈やってんけどな」
 絹はそう言いつつも、確りと今回の状況を説明する。
「今、晴海ふ頭中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場とかを取り込んで、既にダモクレス化してしまってとる。
 んでや、『爆殖核爆砕戦』を覚えてるかな? せや、攻性植物がやった『はじまりの萌芽』や。今回はそれを模した大儀式『終末機巧大戦』を始める気と分かった。模してるわけやから、そのままやないで。ヤツらは核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的みたいや」
 なんと言う豪胆な作戦だろうか。ありとあらゆる可能性を集めた大作戦である事が、絹の説明から分かる。
「勿論それ、『終末機巧大戦』を阻止するで。その為にはさっき言うた『核となる歯車』の破壊が必要や。せやけど、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われるから、破壊する為には拠点型ダモクレスの内部に潜入する必要があるで。
 どうやら儀式は、晴海ふ頭外縁部やないとあかんらしくて、儀式開始と同時に侵攻を開始するらしい。せやからうちらは、そこを急襲して儀式を阻止するで。
 敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでは30分しか猶予が無い。
 30分以内に、敵拠点に潜入して護衛を排除。ほんで、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か歯車を破壊せなあかん。
 その破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑える事が出来るやろ。
 儀式が全部成功してしもたら東京湾全体が敵の手に落ちる。反対に、全部阻止したら、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑える事が出来る。
 厳しい状況やけど、頑張ってな……」
 少しの静寂。心配した絹の表情が、事態の深刻さを物語っている。
 だが、この作戦を抑えるしかないのだ。意を決した一人のケルベロスが、作戦の詳細を求めた。
「うん。今回は皆に分担をしてもらうことになった。
 儀式場は全部で6つ。
 晴海ふ頭上空に浮かぶ『空の儀式場』、『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリ。
 隅田川沿いのビル群を喰らって無限増殖を繰り返す増殖型の拠点ダモクレス、アースイーター・ブロークン。
 晴海ふ頭から、築地大橋を通って築地市場に侵攻してる、機工城アトラース。
 隅田川を遡上しようとしてる水陸両用型移動要塞拠点、都市制圧型移動要塞アンドロケートス。
 豊洲運河に現れる、水陸両用型の戦艦型拠点ダモクレス、レヴィアタン。
 海上をホバーで進んでレインボーブリッジに侵攻しようとしてる、超弩級人型要塞ギガマザークィーン。
 この中から、皆は第一の儀式場『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリに向かってもらう」
「……空?」
「せや、上空に浮かんどる拠点ダモクレスに、5台のヘリオンによる降下強襲作戦をやる。そんで、今回の作戦で肝心なんは、30分っちゅう時間制限の中で目的を達成する為に効率的に動かなあかんちゅうことや。
 せやから、先行する2チームで拠点型ダモクレスと、防衛に現れるダモクレスを引きつけて、残りの3チームを出来るだけ無事に内部へ突入させる」
 すると、一人のケルベロスがポツリと言う。
「……させる。……つまり」
 すると、絹は首を縦に振る。
「せや、うちらは先行部隊や。突入部隊が突入できたら、今度は後からの増援を防ぎにうごかなあかん。歯車に向かう仲間に仕事をしてもらわなあかんからな。考えたら分かるけど、突入部隊の任務成功は、うちらが半分鍵を握っとる。
 地味な様で、全然地味ちゃうし、実際危険や。踏ん張って踏ん張って、そんで作戦の成功を祈る。そんな縁の下の力持ち作戦や。かっこええな!」
 その言葉が、ケルベロス達の士気を上げる。その様子を見て、ふふと絹は漸く笑顔になる。
「ほな、敵の情報やけど、まずこの拠点ダモクレス、ミカニ・ミトロポリ。全体に麻痺の効果のあるウィルスで、こっちの行動を狂わせる。そんで、防御の力を弱めてくる砲撃と、強大な砲撃を行ってくる。
 出てくる増援部隊やけど、歯車忍者ちゅうやつらが沸いてくるで。こいつらはヒールもやるみたいやけど、一番気をつけなあかんのは、その数やろ。正直どれだけ沸いてくるかもわからんから、その辺も注力しつつ作戦立てなあかんで」
 絹の説明を一通り聞いたケルベロス達は、それぞれに頷き、作戦を頭に描く。
「前の作戦も大変やったけど、今回も大変や! でも、皆やったら乗り越えられる。頑張ってな。頼んだ!」


参加者
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)

■リプレイ

●空中の要塞
(「この高さなら、撃墜される心配もないわね」)
 黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)はそう思いながら、勢い良くヘリオンの床を蹴った。
「宮元、ご馳走宜しく!」
 そう言って、眼下に浮かんでいる小さな目標物に向かって、一直線に降下を開始した。
 2台のヘリオンから合計16人のケルベロスが飛び出していた。待ち受ける困難を切り開く為の16名。言わばさきがけである。
 加速し、徐々にその目標物は大きく映ってきた。『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリである。
「迎撃、ね……!」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)がそう呟くと、数名のケルベロス達は襲ってくる空気の層を切り裂くべく、身をより垂直に近づける。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、貴殿達に戦いを挑みます!」
 セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が口上を高らかに謳いあげる。
「死神の次は、ダモクレス……。でも、やるべきことは、変わらない」
 空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は淡々と、己の目的を呟く。
 ドドドド!!
 前に出た数名に、その光が直撃する。その光は、彼等と同時に飛び込んだ8人にも及んでいるようだ。
「いわゆる拠点防衛だな。こういう場こそ私の力の見せ所、という形か」
 白熊のウェアライダー、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)はボクスドラゴンの『明燦』と共にその光線を受けて、まだまだ余裕だと言わんばかりに、ニヤリと笑う。
 そして、彼らは攻撃を受け止め、避けながらもミカニ・ミトロポリに突っ込んだ。
 ダッ、ダン!! ダダダダダダ……!!
 派手な着地音が、巨大なダモクレスに響き渡る。
「さあ、行きましょう。作戦の成功のために!」
 ソールロッド・エギル(々・e45970)が成功を祈りながら、自らの歌声に想いを籠める。
「焦げ付いた世界の歯車は。何も識ることは無く」
 その旋律が、前を行く者達に望郷の念と、この地に対する想いをかきたてる。そして、葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)が舞彩に幻影を付与した。
「おっと、早速ボク達を狙っているね。良いよ。来るが良い!」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が自分達に砲口を向ける機銃に気がつくと、バトルベルト『ブラックシュロス』に『ブレイズチェイン』を繋げる。
「新たな未来へ繋げる……変身だ!」
 すると、彼の『CHAINコート』に黒炎の鎖が巻き付いていき、黒く輝く装甲へと変化していく。
「仮面ライダーチェイン……」
 最後に彼の顔が黒い仮面で覆われた時、地獄の炎が煌き、仮面から覗く彼の口元が動いた。
「ブラァック……!」

●その盾となる者達
 ケルベロス達が着地した箇所は、工場のような円柱状の建物や、球状のタンクが整然と並んでいる場所だった。
「この任務、やはりそう楽には行かぬようだ……」
 影二はそう言って九尾扇を懐にしまいこみ、手裏剣をその手に取った。キラリと日の光を反射したそれは、明らかに機銃の姿をしていた。
 ダダダダ!!!
 そして、当然のように銃声が鳴り響く。
「撃ってきた!」
 その銃撃を翼を使って跳躍して避ける無月。そのままふわりと着地すると、自らを含む前衛へとドローンを展開する。
「このぉ!!」
 舞彩がブラックスライム『屍竜絶血』をその機銃に浴びせると、影二が続けて螺旋手裏剣『辻風』を突き刺した。
「突入班の方々が使命を終えるまで耐えきってみせましょう!」
 セレナが銃撃の幾つかを避け、攻撃が小さいと思えたものは鎧で方角を変える。そして拳を握りこむと、爆発により一つの機銃が崩れ落ちた。
 ケルベロス達はその機銃に攻撃を加え、何基かが沈黙する。しかし、また柱やタンクといった構造物の上から、機銃のようなものが次々と出現する。
 それでも、ケルベロス達は冷静に判断を下していった。的確に攻撃を与えつつ、付与の力をソールロッドと玲斗が満遍なく、まるで戦況を整理していくように、広げていった。
 彼等の前は、鐐が大きな体で攻撃を遮る。その動きは、一つの塊のような意志を感じる事が出来た。
(「あれだ!」)
 辺りを見回したライゼルの視線の先には、少し大きな建物の壁があった。
「よし皆、あそこまで走るよ!」
 ライゼルはそう言って、チェーンソー剣『黒曜万刃(ブラックマンバ)』を振りかざし、走り出した。

 ケルベロス達は走りながら、自分達に攻撃をしてくる機銃を、即座につぶしていく。それは、後から来る味方の為だ。勿論無傷では無い。機銃の攻撃はそれほど強くは無かったが、幾分数が多かった。
 だが、その数よりも、ケルベロス達の補助や回復の速度が上回るのだ。
 そうして、前進していくケルベロス達は、程なくしてライゼルの指し示した建物の壁の前までたどり着いた。その頃には、周囲の機銃は全て破壊することが出来ていたのだった。
 同時に移動していたもう一つの先行班の姿も健在だ。どうやら彼等もうまくやっていたようで、それほど大きな傷は負っていないようだった。
「このあたりなら、良さそうかな?」
 ライゼルはそう言うと、もう一つの班の一人である村雨・ベルが仲間達に話しかけていた。
「焦らずやれることをやりましょう。足掛かりを作ってケルベロスウォーが控えてるのですから、まだ 無理しちゃダメですからねー!」
 彼女の言葉に頷く鐐、すると『突入班』がその壁に集まり始めた。彼らは『ミカニ・ミトロポリ』に突入するケルベロス達だ。
 そして、彼らはその壁に向かって突入用の攻撃を繰り出し始めた。
 だがその時、ソールロッドは不気味な悪寒を感じ、その方角を見る。
「あれは!?」
「何か来る……な」
 ソールロッドと鐐がそう言い終わるのを待たず、何やら巨大な円柱状の触手のような物体が姿を出現し始めた。明らかにこれまでの敵とは異なる力を感じる事ができる。すると、玲斗が動く。
「そっちのほう……頼むわね」
 そう言いながら、雷の壁を前を行く者達に施していく。
「騎士の名にかけて、この地をマキナクロスになどさせはしません……!」
 セレナがその雷の力を感じ取りながら、前に立ち、精神を集中し始めた。そして、無月、鐐と明燦も並ぶ。
 まだ、戦いは始まったばかりだ。ケルベロス達は目的を果たすべく、再び自ら盾を買って出たのだった。

●耐える
 ダモクレスはケルベロス全体を襲う病原体を撒き散らせ始めた。その力は、此方の思考力を一瞬奪う。
 だが、前に立つのはもう一班居るのだ。
 彼等が同時に前に立ってくれるおかげで、その効力は薄い。例え、そのウィルスの力を感じたとしても、玲斗が張り巡らせた雷が直ぐにその効果を消していくのだ。
 背後では壁を貫こうとするケルベロス達の攻撃音が聞こえている。どうやらそう簡単には穴は開いてはくれないようだ。
 ケルベロス達は怯まず、やはり前に立つ。全ては作戦の成功の為だ。
 攻撃を繰り返し、傷つけ、盾となる。
 それが、自ら自分に与えた使命と感じたからかもしれなかった。
 二班からの攻撃に、流石に動きが鈍るダモクレス。だがその時、敵の口の部分の中心から光が集中し始めた。
「デカイ……!」
 影二がそう言葉を発しようとした時、その光は一気に放たれた。
 風を切る音なのか、空気を焦がしていく音なのかは分からない。ただ、その光は真直ぐに、自らが生み出した鎖で、意識を向けさせた舞彩へと飛んだ。
 すると、舞彩が身構える横から、鎧を煌かせた女騎士が前に立つ。
 ゴゥ!!
「セレナ!」
 舞彩を庇ったセレナの鎧には、所々焼けたような跡が残り、彼女の銀髪の一部が変形していた。だが、倒れる事は決してなかった。
「大丈夫です! お怪我はありませんか?」
 心配そうな舞彩に、彼女は堂々とそう声をかけた。
「あなた……。ううん、何でもない。有難う」
 その覚悟を読み取り、それ以上は無粋である事を感じた舞彩は、それだけを返した。
 その時、セレナの腕時計からアラームの音が鳴った。
「3分です!」
 その言葉は、一つの作戦の合図。
 ドシュ!!
『身動きも出来まい……!』
 影二が稲妻の霊力を帯びさせた手裏剣で貫く。
「彼らの碌でもない企みは、全部潰す。それだけ」
 同時に無月がバスターライフル『星龍砲』からエネルギー光弾を射出する。
「行くわ!」
「はい、行きましょう!」
 そして、後衛で回復に動いていたソールロッドと玲斗もが、己のグラビティを敵に向ける。
 ボウッ!!
 ソールロッドが口から気咬弾を放つと、玲斗は大地を踏み締め、その衝撃を相手へと地面を伝わせる。
『弾けよ!』
 彼女の衝撃は、敵の足元の砂礫を巻き上げ、弾き合い、貫いていく。そこへ鐐が、白熊の拳を己の重量を乗せて叩き込んだ。
 彼等は打ち合わせにより、3分毎に回復度外視の一斉攻撃をすると打ち合わせをしていたのだ。
 もう一班もそれにあわせて、攻撃を加えていく。
「行きます!」
 セレナが白銀の騎士剣『星月夜』をゆらりと正眼に構え、自身の肉体に魔力を巡らせる。
『アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!』
 夜空に浮かぶ月のような軌道を描き、円柱状の口、即ち敵を真正面から切り裂いた。
 するとセレナと入れ替わるようにすり抜けた安曇・柊が、そのまま敵の上に駆け抜けると、彼の足元から炎が上がる。
「ライゼルさん、今です!」
 柊の声に頷いたライゼルのチェーンソー剣から、鋭利な刃を持った鎖が生み出され、キンと意志を持ったように敵にその刃を向ける。
「いくよ黒曜万刃!」
 ライゼルの言葉に踊り狂い出した鎖が、その勢いのままダモクレスへと襲い掛かった。
『裂き乱れよ。綺麗な華になるのなら救いがあるでしょ?』
 その刃は、敵の側面の傷を抉り、そして切り裂いていったのだった。
「手加減なしで行くぜ、デカブツ!」
 八崎・伶の両手からガトリングガンの弾丸が打ち込まれていく。
 その動きを見た舞彩がグラビティを超鋼金属製の鎖に変え、その弾丸を縫うように走らせる。
『鎖よ。繋げ!』
 もう一度作り出した鎖を、敵の頭付近へとグルリと巻きけた。
「鎖好きな知り合いのお陰かしらね。こう鎖を扱えるのは……!」
 舞彩が力をこめて、その鎖をぐいと引くと、ダモクレスの頭部分が、ギチギチと音を立てながら彼女のほうへと向いた。
 その隙を使い、西院・織櫻が触手の陰へと滑り込む。
「我が斬撃、遍く全てを断ち斬る閃刃なり」
 織櫻の2色の斬霊刀が、神速といえる速度で動き、その稼動部の一つの断面をあらわにしたのだった。

 ケルベロス達は、二班でその場を耐え切る事を己の任務とした。
 協力し、お互いを回復させ、敵の動きを制限する。
 だが、流石にタフな相手だった。確りと対策された防御の陣も、徐々に削られていく。もう一度あの光の一撃を食らってしまえば、流石にその一部が瓦解するかもしれなかった。
(「まだか……」)
 己をかすめた防具を透過する砲撃で出来た傷を見て、ライゼルがそう思った時だった。
「開いたようだ」
 影二が後ろを振り返ると、壁に開いた穴に次々と飛び込んでいくケルベロス達の姿が見えた。
「殿は私が務める。行け!」
 鐐の声に、無月を先頭に動くケルベロス。最後にセレナと鐐は、光がまた口の部分に集まっている事を感じ取る。
 二人は頷くと、その穴に向かって飛ぶ。
 その飛び込む速度は、凄まじく遅く感じる。
 ゴゥ!!
 穴の入り口が、光に包まれる。
 それは、どすんという音と共に、巨体が穴に飛び込んできた瞬間のことだった。
「……ふぅ」
 鐐はその焦げた入り口を見つめて息を一つ吐き出した。それが、彼等全員がミカニ・ミトロポリへと侵入できた瞬間の事だった。

●任務
「多いわね、予想はしてたけど」
 玲斗がそう言って、セレナに強制的な治療を施す。
 ケルベロス達は、内部に侵入した後、大量に現れた歯車忍者を相手にしていた。
 こちらは5班の40人という数ではあったが、これ以上時間を取られてしまっては目的が果たせ無くなる事も、感じつつあった。
「また、増えたね……」
 少し息を切らしながらライゼルがそう呟く。
「後ろは私たちが引き受けます。儀式をよろしくお願いします」
 先行班の一人である鞘柄・奏過が言う。
「増援はお任せください!」
 すると、ソールロッドもまた、その願いを彼らに託す。全員の目的は唯一つである。その言葉を遮る者は居なかった。
「皆さんも気を付けて下さいね」
 槙島・紫織が応え、先へと一気に進んでいく。

 彼等を見送ると、また歯車忍者が現れる。
「たとえ盾を貫こうと、この身を覆う意思の鎧は崩させぬ!」
 その行く手を鐐が阻む。
「ここは通さぬよ、内部撃破が済むまで、我々の相手を願おう!」
 鐐の言葉に、無月も頷き、前に出る。
「たしかに、多いけど、……それは分かっていたこと。それを、少しでも減らすのが、わたし達の仕事」
 影二もまた、手裏剣を再び構えて、狙いを付ける。
「この任務、絶対に成功させねばならぬ」
「そうね、永遠に耐え続けるわけじゃない、と」
 舞彩は時計を見て、まだ戦えると自分に言い聞かせた。
「それ、みんなで踊りましょう!」
 ソールロッドが歌い始める。
「ふふ……。良い歌だね。踊ろうか」
 その言葉にライゼルは、彼の歌にあわせて軽くステップを踏む。
「そういえば、……ダモクレスの中にも高所恐怖症っていたりするのかしら?」
 玲斗が思わず紡いだ言葉は、全員を少し唖然とさせた。
「あ、……居るのかしら?」
「不思議じゃないかもしれないわね?」
 舞彩が思わず素に戻ると、玲斗は自分の考えを少し封印し、悪戯な答えを返した。
 そんな遣り取りに、気持ちも明るくなる。
「では、この任務。耐え切って見せましょう」
 セレナは、目の前の敵を見据え、腹に力を入れる。
「騎士のこの首、奪えるものなら奪ってみせなさい!」

 こうしてケルベロス達は、最後の最後まで戦いきった。
 制限時間の30分を迎えようかとしたその時、唐突に訪れた足元の不安定さ。
 自分の体が持ち上げられるような浮遊感。
 それが意味する事は、一つだった。
「このダモクレス、上空に居るんだったわね。という事は……」
「落ちる、ね」
「いや、もう落ちているな」
 舞彩と無月の言葉に、鐐が頷き、武装を解除する。
「皆さん、お疲れ様でした!」
「騎士の務めを果たせました。皆さん有難う御座います」
 ソールロッドとセレナが労をねぎらう言葉を共有する。
「皆、ちょっと待ってくれないか。ボク達、今落ちてるんだよね!? 落ち着きすぎじゃない?」
 ライゼルの言葉を最後に、床が完全にバラバラと分解され始めた。
「……任務完了」
 そして影二が、空中で空を見上げてぼそりと呟くのだった。

 耐えに耐え抜いた戦い。誰よりも裏方に徹した彼らの努力は、彼等だけが共有できるものに違いなかった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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