●ダモクレスの儀式を阻止せよ
集まったケルベロスたちに石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は静かに頭を下げた。
「まず、『東京六芒星決戦』で死神の儀式を阻止する作戦に参加された皆さんはお疲れさまでした。皆さんのおかげで東京十二創神のサルベージを防ぐことができました」
しかし、と芹架は言葉を続ける。
「東京六芒星決戦の時点では動きを見せなかったダモクレスが、行き場を失ったグラビティ・チェインを奪って大儀式を行おうとしていることがわかりました」
事件を引き起こそうとしているのは『五大巧』と呼ばれる5体の有力なダモクレスだ。
「どうやら先日撃破したディザスター・キングの指揮により、ダモクレスも『東京六芒星決戦』に参加する予定だったようです」
だがキングの戦力を配下に置いた『五大巧』は死神を裏切って参戦を拒否した。
そして死神の失敗を待って、十二創神をサルベージするほどの圧倒的なグラビティ・チェインを自分たちの作戦に利用しようとしているのだ。
「現在、六芒星の中心だった晴海ふ頭には拠点型ダモクレス『バックヤード』が出現し、沿岸部の工場などを取り込んだ巨大ダモクレスと化しています」
さらに爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』を発動しようとしている。
「核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行うことで、巨大ダモクレスを爆発的に増殖させて、東京湾全体をマキナクロス化するのが目的と考えられます」
阻止するためには『歯車』の破壊が必要となる。
それぞれの儀式は6体の拠点型ダモクレス内部で行われるため、破壊するためにはその内部へと突入しなければならない。
儀式は晴海ふ頭外縁部で行わなければならないらしく、拠点型は儀式開始と同時に晴海ふ頭を目指して侵攻を開始する。
「侵攻開始から儀式発動までは30分しか猶予がありません」
30分以内に拠点型に潜入して護衛を排除、儀式を行っている指揮官型ダモクレスの撃破、あるいは儀式の核となる歯車を破壊しなければならない。
被害は阻止できた儀式の数に応じて決まる。
「もしも6ヶ所すべての儀式を完遂されれば東京湾全体がダモクレスの手に落ちるでしょう。逆にすべて阻止できれば、晴海ふ頭中心部のみに抑えることができます」
厳しい状況だが、協力して欲しいと芹架は告げた。
●第一の儀式場:『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリ
この場にいるチームに担当してもらうのが『第一の儀式場』だと芹架は告げた。
「各儀式場は『先行班』2チームと、『突入班』3チームの計5チームで侵攻を行うことになります。皆さんに担当していただくのは『先行班』です」
先行班の役目は、その名の通り先行して拠点型ダモクレスと戦闘を行うことだ。
拠点型の攻撃をひきつけているうちに、突入班が内部への突入口を開くための攻撃を行うことになる。
言うまでもなく拠点型は高い戦闘能力を有しているので、それをしのがねばならない。
「突入班は内部の防衛ダモクレスを撃破しながら儀式を行う幹部のもとを目指します。ただし、防衛ダモクレスは放っておけば次々に集まってきます」
増援を阻止する役目が必要となる。
「その役目も皆さんに引き受けていただくことになります」
儀式を行う指揮官に加えて、防衛ダモクレスのリーダー格への対処も必要となり、突入班に増援阻止を行う余裕はないからだ。
突入班に続いて突入し、後方を守ることになる。
「皆さんも拠点型に続いての戦闘になりますが、うまくダメージを抑えて戦っていただけますようお願いします」
それから、芹架は敵について説明を始めた。
「第一の儀式場を担当する拠点型ダモクレスは『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリです。晴海ふ頭上空に浮かんでいる『空の儀式場』となります」
攻撃時はヘリオンによる降下強襲作戦を行うことになる。
拠点型の上で戦うような形になるだろうが、安定しているので空中であることの有利や不利はない。もっとも、これは敵も同様だ。
ミカニ・ミトロポリには二種類の砲が搭載されている。1つは対消滅により追撃を与えてくる強力な陽電子砲。もう1つはあらゆる物質を透過し範囲攻撃を行う中性子砲だ。
中性子砲には透過時に防具を破損させる効果もある。
また、身体を麻痺させるおそるべき病原体を撒き散らすこともできる。
「増援阻止の際に戦うことになる防衛ダモクレスは歯車忍者という忍者型のダモクレスになります」
手裏剣による攻撃や、歯車を用いた近接攻撃、分身による回復などができる。
なお、指揮官は死神のノストラダムス。防衛部隊のリーダー格として螺旋忍軍の『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒と、忍者型ダモクレスの歯車忍者頭・サオリがいる。
「先行班の役目は地味に感じるかもしれませんが、拠点型というある意味で一番の強敵と戦う役目でもあります。油断せずに挑んでください」
芹架は説明を終えた。
「竜十字島のドラゴン勢力もダモクレスの動きを受けて太平洋上で様子をうかがっています。動きを見せないエインヘリアル第二王女のことも気になるところですね」
とはいえ、まず目前の大儀式を阻止しなければならない。
よろしくお願いしますと芹架は頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132) |
安曇・柊(天騎士・e00166) |
ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354) |
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811) |
八崎・伶(放浪酒人・e06365) |
西院・織櫻(櫻鬼・e18663) |
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●対空放火
晴海ふ頭上空の拠点型ダモクレス『ミカニ・ミトロポリ』へと5機のへリオンが降下していく。
やがて、そのうち2機が先行し始めた。
「何度も儀式を繰り返すか。いっそその装置ごと破壊するしかねェよなあ」
八崎・伶(放浪酒人・e06365)の大きな声が空に響いた。
近づけば敵の巨大さがわかる。
見るだけで身がすくみそうになるけれど、安曇・柊(天騎士・e00166)は足を止めようとはしなかった。
「こんな儀式、完成させる訳にはいきません、から……!」
翼を広げて降下のタイミングをはかる。
「そうですね。先行班のお仕事、きっちり片付けましょう」
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)は眼鏡の奥にある赤い瞳で敵の姿をじっくりと見つめる。
敵が砲塔を動かし始めた。
「これ以上降下すると、へリオンが狙われそうですね。ここで飛び降りましょう」
冷静な声で鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が告げる。
「ああ……この高さなら問題ないな」
ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は一目見て高度を測り、白い髪をした少女に視線を向けた。
「わかったぜ、義兄。それじゃ、作戦開始だ」
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は黒衣の青年に頷いて、腕につけた時計を操作する。
ケルベロスたちが飛び出すと、砲塔は彼らを狙って仰角を調整する。
光る翼を広げ、今にも放たれそうな砲の前にクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が飛び出す。
「ボクが皆様を護るであります!」
大きな盾を構えて受け止めようとするが、粒子は盾の分子間をすり抜けてケルベロスたちを傷つけた。
彼女と柊、2人の防衛役が仲間を1人ずつかばって粒子に体を引き裂かれる。
砲口はさらにケルベロスたちを追っているように見えたが、再度の攻撃が行われる前に先行班はミカニ・ミトロポリの上に着地する。
砲撃に代わり、周囲で機銃らしきものが起動し始める。
「寄せる敵は全て我が刃の糧として頂きます。突入班の方が憂いなく戦えるよう尽くしましょう」
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)が瑠璃丸と櫻鬼、二振りの斬霊刀を構えて淡々と告げる。
作戦開始から約1分が経過していた。
●機銃地帯を突破せよ
対空砲が先行班に砲口を向けている間に、突入班の3チームも降下してきた。
その間に、無数の機銃との戦いが始まっている。
機銃はサーヴァントに似た存在であるようだ。自律的に行動し、8人全員に容赦なく攻撃を与えてくる。
「囲まれたままじゃまずいぜ。突入するどころじゃない」
オウガメタル粒子をばらまきながら朔耶が言った。
「向こうのチームはあの建物を目指すようです。こちらも移動しましょう」
ベルが告げて、ケルベロスたちは機銃と戦いながら移動を始めた。
機銃から放たれる中性子が束となって貫き、ウイルスが広がって体を冒す。
柊は翼を広げて機銃の間、低空をを飛行する。
(「銃口が僕のほうを向いてる……」)
無機質な黒い穴を覗くと、四肢や翼が縮こまりそうになる。
「ボクはこっちであります! さあ、狙ってくるでありますよ!」
クリームヒルトも輝く翼を広げて敵の注意を引いている。
攻撃が恐ろしくて、けれど役目を投げ出して仲間を危険にさらすことも恐ろしくて、足を止められないだけの柊とは違うように見える。
おびえることなく敵の前に身をさらす彼女を、柊は少しだけうらやんだ。
動きは止めず、Nova.を刃に変えて機銃の1つを叩き切る。
傷ついた敵へとヴォルフが偃月刀を投げた。
「何処まで逃げてくれますか?」
追いすがる刃が機銃を切り裂く。
「これだけの大掛かりだ。何が起こるのか見てみてェ気はするが、目の前の敵は排除していく信条なんでな、お互い様だ許せよ」
突進した伶がオーラで機銃を薙ぎ倒す。その後方から朔耶が作り出した暗黒の太陽も敵を焼いた。
範囲攻撃に巻き込まれた敵の1体を、織櫻が無言のまま螺旋の気を流し込んで砕く。
オルトロスのリキやボクスドラゴンの天花も後方から攻撃に加わっている。
柊とクリームヒルトに、テレビウムのフリズスキャールヴも前面に出し、もう一方の先行班とも協力してケルベロスたちは機銃の間を突き進んでいく。
ベルはシャーマンズゴーストのイージーエイトと共に前衛を支えていた。
「全てを清め……流します!」
同じく回復役である奏過が薬液の雨を降らせた。
それに合わせて、ベルは床すれすれに鎖の結界を張り巡らせる。
目的の地点までたどりついた時点で、まだ降下から5分もたっていない。
「焦らずやれることをやりましょう。足掛かりを作ってケルベロスウォーが控えてるのですから、まだ 無理しちゃダメですからねー!」
時間を確かめながらベルは仲間たちに呼びかける。
突入班は外壁への攻撃を始めたようだ。
大きなダメージを負ったものはまだいない。
だが、敵の攻撃もここからが本番だった。
●猛攻、機械の触手
突入口を開こうとしているその場に、影が落ちた。
このチーム内で、真っ先に気づいたのは朔耶だった。
「気をつけろ、なにか来てるぜ!」
朔耶は仲間たちに呼びかける。
中衛や後衛で周囲を警戒していた者たちも、言葉が終わる頃にはもう気づいていた。
黒く、巨大な円柱。
無数の節が刻まれていて、関節のような可動部となっているらしい。
ミカニ・ミトロポリの側面から飛び出していた触手が、ここまで伸びてきたのだ。
機械の触手はケルベロスたちへと先端を向けた。
先行班として、巨大な敵を迷わず迎え撃つ。
だが、こちらの反応に関係なく、敵は体を振り回してウイルスをばらまいてくる。柊とフリズスキャールヴがとっさにヴォルフと織櫻をかばった。
重傷ではないと判断し、朔耶は杖を向ける。
「動きを封じられるといいんだが。解放……ポテさん、お願いします!」
ファミリアロッドが使い魔であるフクロウのポルテへと変化する。
両手の刃に雷をまとわせてヴォルフが巨体を貫く。
「義兄!」
ポルテに魔力を込める。義兄が敵から離脱した瞬間、放った魔力弾は傷口のあたりに着弾し、敵の神経回路を傷つけていた。
中性子のビームも浴びながら、先行班のケルベロスたちはさらに攻撃を続ける。
「2分過ぎたであります。一斉攻撃を……あっ!」
合図を出そうとしたクリームヒルトが、思わず叫んだ。
触手の先端に光が集まっている。
そして、反応するよりも早くもう一方の先行班、後衛にいた女性へとビームが放たれる。
とっさにかばったのはセレナ・アデュラリア。胸甲を身につけた女性の体を大量の陽電子が打つ。
痛打を受けたことは見てとれたが、気遣っている暇はなく一斉攻撃に移る。
こちらのチームで最初に動いたのはヴォルフと朔耶の義兄妹だった。
ヴォルフの投げたナイフが触手を追尾し、その後ろからポルテの魔力弾も敵を打つ。
無論もう一方の先行班も強力な攻撃を繰り出している。
「行きます!」
先ほど攻撃を受けたセレナが、白銀の騎士剣を構えて自らの体に魔力を巡らせる。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
月の形に軌道を描いた剣は真正面から触手の先端を切り裂いていた。
彼女の横を入れ替わるようにすり抜けて、柊がダモクレスの上を駆け抜ける。
かつて誕生日にもらった本革のブーツが彼に駆ける力を与え、同時に機械の床との摩擦で炎を吹き上げた。
「ライゼルさん、今です!」
炎を巨大な触手へと叩きつけながら、柊はもう一方のチームの打撃役へ呼びかける。
その声にライゼル・ノアールの腕から鋭利な刃を持つ鎖が金属音で応えた。
「いくよ黒曜万刃!」
ライゼルが叫ぶと、鎖が踊り狂う。
「裂き乱れよ。綺麗な華になるのなら救いがあるでしょ?」
鎖は鎌風をまとって襲いかかり、敵を華のごとく。切り裂いていた。
クリームヒルトのバスターライフルから、グラビティを中和する弾が敵に食い込む。
「手加減なしで行くぜ、デカブツ!」
伶が両手に構えたガトリングガンから、無数の弾丸が雨あられと敵に降り注ぐ。
弾の間を縫って、黒住・舞彩が作り出した超鋼金属製の鎖が飛んだ。
「鎖よ。繋げ!」
敵の頂点部分に鎖が巻き付く。
「鎖好きな知り合いのお陰かしらね。こう鎖を扱えるのは……!」
舞彩が鎖を引くと、触手の先が耳障りな音を立てながら彼女のほうへ向く。
織櫻は彼女たちが攻撃している間に、触手の陰へと滑り込んでいた。
「ミカニ・ミトロポリ……これを断てば、また私の刃を磨くことができるでしょう」
もし望めるならば、この巨体すべてを刃の糧としたかったが、今はまずこの巨大触手を切るのが先決だ。
「我が斬撃、遍く全てを断ち斬る閃刃なり」
瑠璃と桜が、それぞれ象嵌されている2振りの斬霊刀を、彼は神速で振るう。
雨滴すら断ち切る鋭い斬撃は触手の可動部分の1ヵ所を深く切り裂いた。
回復役の奏過も一斉攻撃に加わり、重力をともなった飛び蹴りを触手へ見舞った。
「拘束制御術式三種・二種・一種、発動。状況D「ワイズマン」発動の承認申請、「敵機の完全沈黙まで」の能力使用送信ー限定使用受理を確認」
ベルの体に無数の魔法陣が出現した。
大量に出現した霊鎖が、ライゼルや舞彩の鎖と共に敵へ巻き付き、食らいつく。
リキ、天花、イージーエイトやフリズスキャールヴ、ボクスドラゴンの焔も攻撃に加わっていた。
だが触手は動き止めない。ウイルスをまた撒き散らしてくる。
危険なのは先ほど陽電子砲を喰らったセレナだ。
「フリズスキャールヴ、そちらは任せたのであります!」
クリームヒルトはテレビウムへ指示しながら、輝く翼を広げて跳躍した。
空中でセレナへタワーシールドを向ける。
「まだ倒れるには早いであります! 光よ!」
癒しの光が盾から飛び出し、セレナを包み込んだ。
さらに数分。
「突入口が開きました。私たちも行きましょう!」
回復しながらも突入班の様子を確かめていた奏過が、仲間たちへと告げる。
次々にダモクレスの内部へと飛び込んでいく者たちを追って、8人もまた飛び込む。
最後の1人が突入口へ入った瞬間、後方でまた陽電子のビームが輝いた。
虚空を撫でるだけに終わった攻撃を背にケルベロスたちが走る。
「10分経過だぜ」
まだ作戦は3分の1が過ぎただけだった。
●尽きない増援
通路をふさぐ歯車忍者たちと戦いながら、ミカニ・ミトロポリの内部を5チーム40人のケルベロスたちが移動していく。
だが、数分もしないうちに左右や後方からも歯車忍者たちが押し寄せて始めた。
ここで敵を食い止める――そう決めて、先行班の2チームは足を止めた。
「後ろは私たちが引き受けます。儀式をよろしくお願いします」
「増援はお任せください!」
奏過とソールロッド・エギルが突入班を癒やしつつ声をかける。
「皆さんも気を付けて下さいね」
答えた槙島・紫織の背を見送り、先行班は二手に分かれて歯車忍者と戦い始めた。
歯車忍者の手裏剣から、焔がベルをかばう。
ミカニ・ミトロポリとの戦いで傷ついたディフェンダーを補助するため、中衛だった焔も突入した時点で防衛役に回っていた。
「守りは頼んだぜ、焔」
伶はボクスドラゴンに声をかけてやりながら、両手に持ったガトリングガンを忍者たちへと向けた。
「退路の確保もこっちの役目だ。あいつらが戻ってくるまで守りきろうぜ」
「ええ。今15分です。長い戦いになりますが、がんばりましょう」
ベルは伶の言葉にうなづき、時計を見て皆に告げた。朔耶の腕時計でも同じ時間であることを確認する。
「言われるまでもないぜ。せいぜい、派手に暴れてやるさ!」
2丁のガトリングガンから激しい勢いで弾が飛び出す。
弾丸は確実に歯車忍者の1体を捉える。直前にヴォルフの偃月刀で貫かれていた敵は、弾丸を受けてると火花を上げて崩れ落ちる。
別の1体が近づいてきて歯車で攻撃してくるのを、伶は紙一重で回避した。
ミカニ・ミトリポリに比べればはるかに敵は弱い……だが、通路の向こうからは、さらなる増援が現れるのがすでに見えている。
途切れることのない敵との戦いが始まった。
ベルや奏過、イージーエイトは途切れることなく回復を続けているが、次々に押し寄せる敵の攻撃はだんだん激しくなってくる。
フリズスキャールヴが倒されたのは、朔耶が20分の経過を告げた頃だった。
「よくやったであります。ゆっくり休むでありますよ」
自身もかなりの負傷を負った状態にありながら、クリームヒルトが消えていくサーヴァントへと告げる。
ヴォルフは織櫻とともに押し寄せる敵を切り伏せ続けていた。
「ありがたいことです。倒せば倒すほど、私の刃の糧となりに来てくれる」
無表情に織櫻が言った。
「そうだな。ここでならば、いくらでも『殺せる』」
いびつな笑みに口を歪めて、ヴォルフは応じる。
2人の打撃役は、敵の数が増えるほど高揚している様子を見せていた。
「もっとも、少々『磨く』には物足りない相手であることは否めませんが」
両手の斬霊刀を振るい、織櫻が飛ばした斬撃がまた1体を破壊する。
「確かに、こいつらは簡単に殺せすぎるかもな」
別の1体へ大型のシースナイフをヴォルフが投じると、無限に敵を追撃する刃はあっさりと敵を追い詰め、貫いていた。
「25分たちました!」「25分だぜ!」
ベルと朔耶がほとんど同時に仲間たちへと告げた。
奏過はその言葉を聞き、横目で奥を一瞬ながめる。
だが、まだ戦いが終わった様子はない。
もう一方の先行班がどうなっているかはもう見ている余裕はなかった。
「さぁ、行っておいで。……幸せは、僕達が作るものだから」
柊の広げた翼から光の雫があふれる。それは青い鳥となり、気力だけで立っているクリームヒルトを癒す。
もっとも、柊自身も倒れるかどうかギリギリの状態だ。
「満ちろ、秋月」
月の光を柊へともたらす伶も、先ほど防衛役に回っていた。
奏過も仲間を守る前衛たちに、癒しの業を使用する。
「皆さん、あと少しです。今瞳に映るは鏡像……信じて身を委ねて欲しい……」
赤い光を放つメスが奏過の手に顕現する。傷つける行為を癒す行為へと変換する力を得たメスを振るい、皆を一気に回復する。
ベルも鎖を展開して皆を守っていた。
朔耶が1分ごとに時間を告げる。
28分が過ぎ、29分が近づいてきたところで、奇妙な鳴動がミカニ・ミトロポリを駆け抜けた。
「今のは……」
「おそらく、歯車の破壊かノストラダムスの撃破か、どちらかに成功したのでしょう」
誰かの呟きに、つとめて冷静に奏過は言った。
儀式場が崩壊の予兆を示し、揺れ続ける。
晴海ふ頭上空の戦いはケルベロスの勝利に終わった。
そう確信しながら、戻ってくるものたちの退路を確保すべく、皆は最後の力を振り絞った。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|