●五大巧、動く
「東京六芒星決戦は我々の勝利に終わりました。参加された皆様、お疲れ様でございます」
戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は晴れやかに寿いだのち、しかしながら、と言葉を繋いだ。
「死神の野望は砕かれ、十二創神のサルベージという最悪の事態は免れ……この期に及んで別なる勢力が大規模な作戦を展開しようと目論んでおります」
事を起こそうとしているのは、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢。
これを率いるのは、『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスである。
「彼奴らは、死神の儀式失敗により行き場を失ったグラビティ・チェインを奪った大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したのでございます」
『五大巧』は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦するはずだった戦力を支配下に治めたのち、死神を裏切って儀式への増援を拒否、その戦力を温存し今回の作戦を強行したようだ。
東京六芒星決戦の結果、現在、複数の十二創神をサルベージするほどの圧倒的なグラビティ・チェインが東京湾にあふれ出した状態となっている。
「遠からず拡散し、地球に吸収されていくはずだったこのグラビティ・チェインこそ、『終末機巧大戦』の要」
既に、晴海ふ頭は中央部に出現した『バックヤード』を中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている。
「大儀式『終末機巧大戦』は、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を機械的に模倣したもの。核となる『6つの歯車』を利用し、爆発的に増殖させて、東京湾全体をマキナクロス化することが目的であると思われます」
『終末機巧大戦』の阻止には『核となる歯車』を破壊する必要がある。
儀式は6体の巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われる。歯車破壊のため、ケルベロスはこれら拠点型の内部に潜入しなければならない。
儀式は晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、拠点型ダモクレスは儀式発動と同時に侵攻を開始するので、そこを急襲して潜入、儀式を阻止することとなる。
敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでの猶予は、30分のみ。
「30分以内に、敵拠点へ潜入し、護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破、あるいは儀式の核となる歯車の破壊を果たさねばなりませぬ」
シビアな数字だが、ダモクレスをも吸収してしまう儀式に対処するため、敵戦力も吸収を阻害可能な少数の精鋭部隊に絞られている。ここが儀式阻止の絶好のチャンスなのだ。
儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えられる。全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で済ませることができるだろう。
「儀式が完遂されれば、東京湾全域が敵の手に堕ちましょう。厳しい状況ではございますが、皆様の活躍を祈っております」
●第三の儀式場
儀式場の数は計6つ。全て巨大拠点型ダモクレスの内部に存在する。
一つの儀式場に5チームずつケルベロスが割り振られ、連携して強襲することになる。
「皆様には、第三の儀式場を強襲して頂きます」
第三の儀式場を内包する拠点型ダモクレスは、炎熱と蒸気の陸上戦艦、『機工城アトラース』。晴海ふ頭から築地大橋を通って、築地市場へと侵攻している。
「5チームの内、皆様とは別の2チームが先行してアトラースへと突撃を仕掛けます。その間に、皆様は突入班として、他2チームと連携して側面部に回って攻撃を仕掛け、排気口からの突入をお願いいたします」
突破口が開かれたのちは、突入班3チームに続いて先行班2チームも内部に突入できる。
内部には防衛ダモクレス『スチームギア』が数多配置されており、戦闘で突破しなければならない。その上各所から増援が次から次へと集まってくるため、キリがない。
「これらスチームギアの増援の足止めは、先の戦いで消耗した先行班が引き受けてくださいます。皆様突入班は中枢部へと向かってください」
中枢部は戦艦下層部の機関室。その直前にある船倉では、有力ダモクレス『カムジン』率いる最終防衛線が張られており、ここを突破しなければ儀式中枢にはたどり着けない。
中枢に向かう策は三種。
「一、突入班全員で協力して最終防衛線の戦力を全滅させてから、3チームで中枢突入」
敵は戦いを長引かせようと戦うため、勝利できるとしても時間がかかるかもしれない。
「二、1チームが足止めしている間に、2チームで中枢に向かう」
ただし、足止めのチームが全滅すると、護衛が中枢指揮官の増援となる。
「三、2チームが足止めをし、1チームが中枢に向かう」
戦闘は互角となるため、勝利した側が中枢の増援として現れる。
そして儀式中枢機関室には、指揮官ダモクレス『終末機巧』ラグナロクが核の儀式を行っている。
「儀式を阻止するためには、このラグナロクを撃破せねばなりませぬ」
ラグナロクは単体ながら、非常に強力なダモクレスだ。その上、増援として現れた敵ダモクレスは儀式の余波により分解されてラグナロクに融合させられ、ラグナロクのダメージを回復、状態異常も取り去ってしまう。
「ラグナロクの負う歯車は儀式の核となっております。これを『部位狙い』にて攻撃することで大ダメージを与え、歯車を壊すことが叶えば、指揮官を撃破するよりも難易度は低くなりましょう」
1チームで勝利するのは難しい。ただし、歯車破壊に集中することができれば勝機はある。
2チームが連携すれば互角に戦うことができる。敵増援が来るまでに削りきれれば勝利が望めるが、撃破する前に敵増援による回復があった場合、そこから削りきるには時間が足りないかもしれない。
3チームが連携すれば有利に戦える。が、護衛撃破までに時間がかかってしまうため、儀式完成までに間に合わせるのは難しいだろう。間に合わない場合、歯車破壊を優先することになる。
『機工城アトラース』は先行班の受け持ちになるため、突入班の戦闘は船倉以降が本番となるだろう。
「船倉の戦力は、護衛の有力ダモクレス『カムジン』と『スチームギア』が10体前後」
防衛ダモクレスとして強力なスチームギアは、基本に忠実な戦い方をするため足止めしやすい反面、撃破・全滅させるのには骨が折れるだろう。
カムジンは近接特化の戦闘型ダモクレス。ケルベロスが遠距離攻撃を一度でも行うと、作戦通り回復などを駆使して足止めに専念した戦法をとってくる。
が、ケルベロスが近距離グラビティのみで戦闘している限り、殺し合いに全力投球してしまうという欠点があるようだ。
「中枢機関室に構えるのは、指揮官ダモクレス『終末機巧』ラグナロクのみ」
全長7メートル、劫火を司るダモクレス。指揮官ダモクレスの中で戦闘力が最も高い。
時間稼ぎという思考はなく、侵入したケルベロスを全滅させれば良いと考えているようだ。
「儀式の核である歯車を破壊された『五大巧』は、強制的に本拠地であるバックヤードに転移させられるようでございます。指揮官の撃破を狙う場合はご注意ください」
歯車破壊による儀式阻止を優先するか、指揮官の撃破を狙うかは、作戦を実行するケルベロス達の選択に委ねられる。
「死神を裏切り、大儀式を敢行するダモクレス……卑劣な限りではございますが、さにあらば、同様に東京六芒星決戦に現れなかった第二王女とその腹の内が気になろうというもの」
東京六芒星決戦の結果を見ていながら、撤退を取りやめ、太平洋上で状況を窺うドラゴン勢力。決戦に敗れたとはいえ、いまだ幹部や有力戦力を残すネレイデス勢力。どこを向いても不穏な気配は拭えない。
「……ですが、まずは目の前の儀式でございます。終末機巧大戦を阻止し、卑劣なダモクレスへの鉄槌を。皆様、よろしくお願い致します」
毅然とした眼差しで、鬼灯はケルベロス達へと未来を託すのだった。
参加者 | |
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アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654) |
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722) |
リョウ・カリン(蓮華・e29534) |
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591) |
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641) |
●突
築地大橋。
橋を占拠する巨体が、まとわりつく番犬たちを蹴散らし、轟音と共に侵攻していく。
橋梁の袂に潜む八人は、静かに橋上の戦いを見つめていた。
「築地にそれほど、縁はないんだけどな」
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は微苦笑を浮かべると、傍らの親友を見た。
「だけど破壊を許すわけにはいかない。また、力を貸してね」
「もちろん……こちらこそよろしく……」
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は茶色の瞳を穏やかに細めて、淡い微笑みで応える。
「東京湾全体を工場にしちゃおうだなんて規格外なことを考えたものだね。無事に年末を過ごすため、後の戦争のためにもこの作戦を成功させないとね」
リョウ・カリン(蓮華・e29534)は天真爛漫な瞳に決意を宿し、戦いを見守る。
「五大巧、だったか。狡賢く漁夫の利狙う作戦、俺としては嫌いじゃないけどね。見過ごすわけにもいかないな」
大それた儀式は止めねばなるまい。ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)は気だるげに呟きつつ、役を果たすべき時を待つ。
仲間の戦いを見守るしかないもどかしい時が過ぎ、戦闘開始から早六分目。
戦局が動いたのを、千里の冷静な眼差しがいち早く見極めた。
「……くる」
呟きと共に千里が瞳の色を緋色に変じた瞬間、橋上から大きな異音が上がった。機工城の脚部が折られ、巨体が体勢を崩したのだ。
「It's Show Time! ここからが見せ場ネー!」
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)が溌溂と飛び出した。都市迷彩柄の一風変わったバニーガールを先頭に、一行は次々と戦場へと滑り込む。
破壊された脚部とは逆側側面、網状の金属に覆われた排気口らしき部位に、突入班三班が殺到していく。
「ダモクレスの好きな様になんてさせない……どんなに強大な相手でも、この星を侵すなら、絶対、絶対に倒してみせるよ」
あどけなさを残す天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)の瞳が、目標ポイントを射抜く。
「――行くよ、ジゼルカ!」
ワインレッドのライドキャリバーと呼吸と心を合わせて、詩乃のグラビティが排気口に激突した。
総勢二十名を超える番犬による集中砲火。爆発が巻き起こり、轟音と軋む金属音を上げて機工城がさらに傾く。皆は噴煙の中へと躊躇なく跳躍し、排気口へと次々と転がり込む。
そこには、一体のスチームギアが待ち受けていた。
「早速か……!」
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)は仲間たちに続き、翼の加速を乗せた跳び蹴りを打ち込んだ。三班分の集中攻撃が、瞬く間に雑兵を撃破する。
が、手応えは思いのほか硬い。若干の嫌な感触を共有しつつも、皆立ち止まることを良しとしなかった。
「時間が惜しい。当初の予定通り、先を急ぎましょう」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は淡々と経過時間を周知しつつ、信号弾を外へ向けて打ち上げた。
三班は振り返ることなく突き進む。
蒸気と劫火をその肚に抱える、巨大要塞へと。
●貫
ボイラーの熱と火に照らし出される機工城内部を、三班は足を止めるのを嫌って強引に押し通っていく。
「思ったより数が多い……」
次々に立ちはだかる巡回スチームギア。茜は後衛から仲間を支えながら、表情を曇らせる。
「あっ、また来た! しつこいなぁっ!」
新たに駆け付けた二体に、リョウはすばしっこく動き回りながら不平の声を上げる。
「先行班を待たずに進んでいるからね。多少は仕方ない」
ナザクは敵の集団を氷結の鞭で打ち据えながら、少々分の悪い感触に顔をしかめる。
「とにかく前進デス! 全力全開、トップスピードでいきマスヨー!」
アップルは元気いっぱい、雷纏って突撃で敵を蹴散らしていく。
「九分経過。……今、上から音が」
律儀に時間を読み上げていたウルトレスが、遠い轟音と振動に顔を上げた。
「先行班、無事に突入できたみたいだね。よかった……!」
飛び蹴りを仕掛けながら、詩乃が胸を撫でおろす。
「三分遅れか。突破口が逆側だったからな……」
セイヤも強烈な一撃で敵を叩き伏せつつ、先行班の戦いに思い馳せる。
「それにしても嫌な敵……」
妖刀から伝わる硬い手応えに緋色の瞳を厳しく細めながら、千里が敵を斬り捨てた、その時。
「……機関室、か! 行くぜみんな! ぶち破るぞ!」
前方に上がった仲間の声に、三班はすぐさま走った。
扉を打ち破ったそこは、煌々たる灯りに満ちた船倉。
中央には、十体のスチームギアを従えた鎧武者の姿があった。
第三の儀式場護衛、カムジン。
『来たか……』
「撃て!」
誰かが号を放ち、三班のグラビティが一斉に敵陣へと殺到した。敵陣の返礼は火砲の嵐。カムジンは咆哮をあげ、赤く焼けた二刀の斬炎で前衛を薙ぎ払う。
「治癒は頼むよ。……力を。貸してくれ」
ナザクの召喚に応えた『彼女』は幸せそうに微笑み、癒し手の治癒能力を限界まで引き出していく。力を得た茜のヒールがより力強く輝く。
「盾五、狙撃三、治癒二……厄介な配置……」
鋭い蹴撃を浴びせつつ、防戦に特化したスチームギアの陣形を読み解く千里。
「基本に忠実な運用ってやつね。なら、こっちも基本通りいくよ!」
リョウは盾役の一体に向けて、ハンマーを大いに振るった。幼さの残る体には、虎のような傷のような、青白い模様が浮かび上がっている。
敵陣を、番犬は三方向から囲い込むように押し包む。三班揃っての総力戦だ。
蒸気を噴き上げながら、鎧武者が他の班へと突撃する。雄叫び、振り下ろされる二刀。
『俺は、カムジン。最後の時、存分に斬り結ばん……!』
戦士の本能に燃える声が班を越えて届いた。
「敵大将、嵌ってくれたみたいだね!」
「ああ、このまま近接で叩く……!」
詩乃の凶悪な打撃と、飛び蹴りの反動を利用して繰り出されるセイヤの拳が、次々と雑兵を打ち据えた。
「お前ら、毎年クリスマスに出てくるな」
ベースギターを激しくかき鳴らしながら、ウルトレスは冷え冷えとした声を投げかける。
「まだちょっと早いんじゃないか? 浮かれ過ぎだ、少し大人しくしてろ」
ベースの重低音と絶望のグロウルボイスが響きあい、敵を加護する鉄壁を粉砕していく。
「さすがに、分断にまでは乗ってこないか……」
的確に治癒を振り撒きながら、茜はひとりごちた。
大将こそ斬り込んでくるものの、敵本陣は出口の前を頑として動かない。防衛が目的だ、動くはずもないだろう。
「それならそれで、このまま押し込んでしまいマスヨー! ――ひゃっ!?」
アップルはガジェットの回転攻撃をしかけたところで、思わぬ方向から飛んできた不意の砲撃音に、驚きの悲鳴を上げた。
さらなる射撃が前衛を薙ぎ、陣営をかき乱す。とっさに振り返れば、先ほど突破してきた入口から船倉に飛び込んでくる二体のスチームギアの姿が見えた。
「増援……!」
どこかから上がったその声は、焦燥に満ちていた。
●壁
「どうして後ろからっ!? 先行班が止めてくれてるんじゃ……!」
混乱もあらわなリョウの声が、皆の鼓膜をうつ。
「……やられたね。こいつらは、俺たちが討ち漏らした連中だ」
早々にタネを見抜き、ナザクの表情に苦いものが滲む。
先行班は上層で防衛戦力を引き付けているはず。しかし、先行班との突入ラグは三分。その間に、突入班はかなり奥深くまで突出してしまった。先行班が引き付けられない戦力が出ても致し方ない。
「――! まだ来ます!」
絶え間なく治癒を輝かせ続ける茜が、鋭い警告を発した。その視線の先には、さらなる二体。
『よくぞ来た……! 者ども、押し出せ!』
自陣に下がったカムジンが、再度八方を斬炎で薙ぎ払った。押し寄せようとしたケルベロスの波が乱れる。
総勢十四体の戦力を従え、カムジンの攻勢はより激しさを増す。
「盾二、狙撃一、治癒一……時間がないのに……」
新たな戦力の役割を看破しつつ、妖刀で斬り込む千里の表情からは、一切の余裕が失せている。
厚みを増した敵陣営に、ケルベロス達は苦戦を強いられた。多重の攻撃に盾役が一体二体と欠け始めたが、好ましいペースではない。
カムジンの灼熱が、雑兵の弾幕が、否応ない焦燥が、ケルベロスを蝕んでいく。
『うおおおおお――っ!!』
雄叫びを上げ突っ込んでくるカムジン。がむしゃらに振り下ろされる灼熱の剣閃に、詩乃は全身で飛び込み、真正面から焼け付く両刃を受け止めた。
「諦めない……! 絶対に……!」
激痛を必死に耐え、幾百の青白い光条で敵群を薙ぎ払う。
ようやく敵前衛が崩れ始めた。千里が、ナザクが、仲間たちが、次々敵を葬り去る。盾役が全て沈黙したのを見届け、アップルは即時標的を切り替えた。
「闇の力よ、猛き炎を打ち貫け! ティアードロップ・ダーク・ナイト!」
声を上げるや、愛らしいバニーは深き闇の力を纏いパワーアップ。無数のコウモリがカムジンを攪乱し、夜兎フルーレがその魂を切り裂く。
三班の猛攻がわき目も降らず鎧武者に殺到する。時間がない、時間がない、早く、早く、早く……!
実を結んだのは、作戦開始からニ十分目。
砕かれた装甲から内部をさらけ出しながら、なおも咆哮と熱閃を放つ鎧武者へ、各班より三つの影が走り込む。
「これ以上足止めをされるわけにはいかない……打ち貫け!!」
漆黒のオーラ漲る黒龍の如きセイヤの拳が、仲間たちの一撃が、鎧武者をついに貫いた。
『……良き……最後よ』
火を噴き上げながら、カムジンは背後へと倒れ、砕け散った。
最大戦力が消えてなお、防衛線は崩れない。三班はしゃにむに後衛に砲火を浴びせていく。
「治癒役を先に! 残りは後だ!」
「やっぱりしぶとい……時間は!?」
「二十一分デス!」
「今から戦力を分けるのは……悪手……」
「五大巧の撃破は諦めないとまずいね……」
全員の消耗が激しい。目の前の雑兵を倒すのは時間の問題だが、その時間が問題だ。『足止めはしやすいが、撃破・全滅には骨が折れる』……出発前の説明が、実感となって重くのしかかる。
「……治癒役、全滅! 残り狙撃手四!」
「畳みかけるよーーー!」
さらに一体が破壊され、最後に残った三体が出口の前へと押し込まれていく。
「いい加減、退いてもらおう」
ウルトレスがベースのネックを手に、先端から伸びる光の刃で一体を斬り捨てると共に、他班の二人の攻撃が残る雑兵どもを突き崩した。
「……二十四分、防衛線殲滅。急ぎましょう」
●炎
皆、否もなく走り出す。走りながらの陣形の見直し、おざなりの治癒。そうする間に、機関室の大扉が目前に迫った。
扉を突き破ったそこは、暗い広間。蒸気の音に紛れて重厚な声が届く。
『ようやくか。だがアレを正面突破で抜けて来る、その気概は気に入った……』
奥に鎮座していた巨像が、足をほどき立ち上がる。
『爺からは時を稼げとの指示だが……やはり生温い。あの小僧などでは、とても持つまい。我は、我のやり方で、やらせてもらう』
阿修羅の如き姿――ラグナロク。
瞬間、番犬のグラビティが激しく瞬いた。攻撃は一路、歯車へ。巨像の四つ腕が射線を妨害してくるが、構うことなく攻撃が殺到する。歯車を! 歯車を狙え! そんな言葉が幾度も飛び交う。
「今後の為に一体でも多く倒しておきたかったのだけどね……」
苦々しく零しつつ、ナザクは大量のオウガ粒子で後衛を支援していく。
瞳を赤く光らせ、巨像の巨体が爆熱した。噴き上がる劫火と迸る鎖が、後衛を薙ぎ払う。盾役たちの決死の守護にも関わらず、被害は少なくない。
『我こそは、終末機巧・ラグナロク! つわものどもよ! その力、我が宿敵足り得るか……見せてもらおう!』
焦熱地獄に変貌した機関室に、敵の名乗りが響く。
「強い敵は大好きだけど、今日は歓迎できる状況じゃないなっ!」
リョウは敵に負けじと両腕の炎を燃え上がらせ、鳳凰の翼の如く歯車へと打ち込む。
「傲岸不遜なその態度……阿傍羅刹に改めて貰うといい……」
重力を乗せた千里の居合いの一撃が、これ以上もなく正確に歯車へと打ち込まれる。
「残り四分、時間がない……」
「みんなはとにかく歯車を! 私たちが支えるから……!」
ウルトレスと詩乃は未だ消耗拭いきれぬ仲間たちを治癒で支え、さらなる攻撃に備える。
『その意気や、よし!』
巨像の足が床を割った。轟音と爆炎が噴き上がり、厄介な盾役たちを弾き飛ばす。
「ぐぅ……ジ、ゼルカ……っ」
炎に焼かれ、全身を打ち付け、詩乃が、ジゼルカが、盾役たちが次々倒れる。防備を欠いた後衛を、炎と鎖が存分に蹂躙する。
「うご、け……この……!」
鎖に足の骨を砕かれ神経を焼かれ、リョウは体を起こすこともできない。防衛線での消耗を引きずっていた後衛にも、立ち上がれぬ者が増えていく……。
「うん、知ってたよ」
後衛が狙われるのは承知の上、と言い切り、茜は痛みを無視して駆けだした。
「ぶっ――すり潰れろっ――!」
もはや治癒も焼け石に水。陣を支えていた者たちも攻勢に切り替えていく。
怒涛の攻撃の中、巨像が錫杖を振り上げ、誰かへと振り下ろす。誰かがそれを庇い、倒れる。悲壮な気配を肌で感じとりながら、手を止める者は誰一人としていない。思考はただ歯車破壊、それだけに純化されていく……。
「劫火も敵も全てを呑み込め! 魔龍の双牙……ッ!!」
「これでフィニッシュならいいんデス、ケドッ!」
血を吐きながら、傷ついた全身を叱咤しながら、セイヤの漆黒の拳が、アップルのフルーレが、歯車に激突する。
『ぬぅ……! 小癪な!』
暴風の如く鎖が舞う中、なおやまぬ決死の突撃、グラビティの激突――、
――甲高い、歯車の軋み。
「……!」
場の全てが息を呑み、歯車に入ったヒビを凝視する。永遠とさえ思える、一瞬の静寂。
時計の針が、三十分を、回る。
……機関室に低い音が響く。
巨大な歯車の、回転する音が。
『は、ははは! 素晴らしき執念! 見事な心火よ! 流石の我も、焦ったぞ!』
「……待て!」
巨像が哄笑する。その足元が急速にせり上がる。周囲の壁が竜巻に剥ぎ取られるように舞い、巨体を覆うように組み上がっていく。天井さえも剥ぎ取りながら。
『やがて! その命燃やすに足る、いくさ場で! 再び、見えようぞ! 屈辱と怨嗟を胸に抱いた……我が愛しき宿敵どもよ!』
攻撃は届かない。もはや、儀式は完了した。
ケルベロスの眼差しが戦慄と憔悴を宿して、穿たれた天井から覗ける上空を、急速に遠ざかる劫火を、睨み据える。
その空から、やがて腕型ダモクレス――日輪と月輪の同型機が大量に降り来るのを目撃しながら、彼らは要塞を後にすることになる。
僕らは……失敗した。誰かが口にした言葉が、胸を抉る。
消えぬ炎をしかと胸に灯し、彼らはただ、前を見つめた。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
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