山の上には魔女が住んでいると言われていた。
長い坂を登った先にある古めかしい洋館は、大正時代だか明治時代だかに作られた、前の住人曰く渾身の作品だそうで。当時はありとあらゆる珍品を集め贅を尽くした仕様であったという。
深い山を抜けた先に立つ古めかしい洋館。めったにご近所さま(といっても深い深い山でご近所様と洋館は隔たれているのだが)には顔を出さない唯一の住人、浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)。外界から切り離され忘れ去られたようなその場所は、子供たちが魔女の住処と噂するには充分であっただろう。
そんなある種ロマンあふれる洋館は、しかし……。
「おはようございます! 今日もお届けに上がりました!」
「またか? いったい全体世間はわたしのことを何だと思ってるんだ!」
古今東西ありとあらゆる酒が集まるとんでもない空間になっていた!
宅配業者の伝票にサインをしながら、月子は内心頭を抱える。もはやクラシックで素敵な玄関は酒瓶と酒瓶の入った段ボールで散乱していた。
「あ、今日はミカンと林檎もありますよ」
「……そりゃあ、どうも」
「後いつものお洋服もいっぱいですよ」
「返品は」
「困ります」
げんなりしながら月子は頷く。ですよねーって顔で額に手をやった。既にめまいを押さえている間に、慣れた様子で宅配業者は荷物を玄関に積み上げて帰っていった。
簡単なことだ。知り合いに贈り物の好きな金持ちが何人かいる。その人たちがどうやら月子の誕生日と、「酒が好きらしい」ということを聞きつけたのだ。
正確にいうと月子は酒が好きなのではなく、「酒の席で人と笑いあったり酔っ払いをからかうのが好き」なので、別段酒豪というわけではない。ていうかこんなに飲めないし。
だというのに届く大量のお酒。ついでに何故かどういうことか、「最近メイドと執事をおきたいらしい」とか言う妙なうわさが流れて、古今東西メイド服やら執事服やら割烹着やらを集めて贈ってきた親戚連中がいるのである。
原因はいくつかあるがそれはさておき。
ちなみにサイズも様々である。どうやら月子が着るのではなく、月子が着せることを想定しているらしい。……人のことを何だと思っているのだろう。どういう趣味趣向の女主人だと思われているのであろう。
……さて、どうしてくれようか。玄関に散らばる品々をにらみつけること数秒。ふと思いいたって月子は顔を上げる。
靴を履いて外に出る。庭には様々な木が植えられているが、今の時期はドウダンツツジが真っ赤に染まり最高に美しい。
「……うん、今年もこれで、いいだろう」
真っ赤に染まる木々を見上げて、月子は一つ、頷いた。
●
「酒が山ほどあるんだが、呑みに来ないか?」
開口一番、月子は言った。
「お酒……ですか?」
去年もそんな話をしたきがする。萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)が首を傾げる。そんな彼に、月子はひら、と手を振った。
「子供には林檎と蜜柑もある。……いや、なに。誕生日に大量にもらったのでな。消費しきれないので手伝ってほしい、ということだ」
苦笑気味に言った月子に、なるほど、と雪継も小さくうなずいた。
「でしたら、今年もお茶会ですね」
「そうだな。お誕生会なんて歳でももうないし、それぞれ楽しんでいってくれればそれだけで十分だ。
……で。場所はうちのテラス。少し寒いが、庭に出てくれてもいい。この時期はドウダンツツジがきれいだ。酒と林檎と蜜柑はあるが、それ以外のものを持ち込んでくれても構わない。キッチンも好きに使ってくれ」
ちなみにキッチンまわりは最先端だぞ。わたしは使ってないけれどな。なんて笑顔で言う月子に、雪継も軽く頭を掻いた。
「わかりました。では、気楽に行きます」
「ああ。何なら手ぶらでどうぞ」
蜜柑と林檎の未来のためにも、よろしく頼むよ。と、そういって月子はいった。話を聞いていたアンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)も顔を上げる。
「素敵ですね。月子さんのおうちは一度伺ったことがあるだけですが、本当に妖精でもいそうな素敵な洋館でしたから」
あそこでお茶会が出来るなんて、楽しみですとアンジェリカが笑う。それをなんとも嬉しげに月子が頷いたのを、雪継は見逃さなかった。
「月子さん?」
なんだろう。かすかに胃の痛くなる予感がすると雪継が言外に語りかけると、月子はしれっと肩をすくめる。
「実はうちに」
「はい」
「メイド服と執事服が大量に合って」
「意味がわかりませんね」
「まあ。捨てるのも勿体無いから、良ければ着てくれ。何なら持って帰っていい」
別に絶対着なきゃいけないわけでもないけれど、と月子は言う。
「折角だろう?空き部屋があるから着替えはそこでしてくれれば構わないよ。なに、ただ酒がのめるんだ。これくらいのわがままは構わないだろう?」
眼福眼福。などといって。月子は冗談めかして話を締めくくるのであった。
「おー、お酒が沢山!! よ―し飲むぞー!!」
【飲んべえ同盟】の由美が叫んで、そして我に帰った。
「由美さん、あんまり飲みすぎないようにな」
ヤトルが優しく言ってお酌をしてくれる。
「ああ、ありがと。ヤトルはまだ未成年だからお酒飲めなんだよねぇ」
べろんべろんになった所なんて見られたくないし。ってその顔にお酒セーブすることを決めるのであった。
「うーん、初めて飲むお酒は何がいいかな」
そんな由美の決意をよそに、ヤトルは思案顔である。今日は未来の見学会かなあ。いつか一緒に美味しいお酒を……なんて視線を移すと、
「えっ……あの量、今日中に飲むのか?」
「さぁさぁ、アルトゥーロさんに月子さん、折角なんだから飲んじゃってくださいなっ♪」
シルが可愛いメイド姿でお酌をしていた!
「おや、可愛いお嬢さんの勧めとあらば断れないな」
「え。本当? メイド服に合うかなぁ」
「勿論。とびきり可愛いよ。いつもも飛びきり可愛いけれどね」
「やれやれ。そういうところは勝てないな。だが、こちらは負けないぞ」
さらりと言う月子。それにアルトゥーロは肩をすくめる。今日のお題はシャンパンのダブルマグナムボトルである。
「……ほう? 勝てる気はしないが少しお世話になろう」
「ああ。今日一日くらいは、酒に溺れさせてもらうからな」
月子も笑う。視線を交わしてグラスを掲げると、シルもフルーツジュースを掲げる。乾杯、とアルトゥーロが声を上げた。
「ひっつめ髪で前髪固めて片眼鏡して、ちょっと不機嫌そうな執事さんです!」
「……? ええと、僕はクラシックなタイプを……どうでしょう? 似合います?」
千笑は執事服。月はメイド服。いい笑顔で勿論という千笑に月が首をたり、
「記念写真です♪」
「記念写真、よいですね。皆さんにお声がけしてみましょうか」
月子だけではなく雪継やアンジェリカとも一緒に写真を撮った後の、
「乾杯はやっぱりアイスがいいなぁと思うのです♪」
「お薦めは抹茶とかモカとかストロベリーとか……ですかね。違うの選んでシェアしましょうか」
「わあ、良いですね。喜んで……!」
アイスの時間。千笑の提案に月は笑う。今年も可愛い二人で過ごせそうだ。
「……ちょっとカオスな光景になりそうだけど、これはこれでアリだよね」
アンセルムが執事服を着ていった。そしてお人形にはメイド服である。
「アンセルムさん似合います……お人形さんのメイド服も可愛い」
エルムが言って、こほんと咳払い。自分も執事服。言葉遣いも改めるつもり。
「でも飲むのは酒。寒くなってきたし、あったかいお酒がほしいな」
「ええ。そう……でございますね?」
言い直すエルムにアンセルムは楽しげに笑う。
「今夜はこのお酒で乾杯して、ゆっくり月を眺めて過ごそう」
カオスだけど。とアンセルムがいうと、
「でも、きっと楽しい時が過ごせることで……ございますよ」
なんてちょっといいなおしてエルムも笑った。
「せっかくだからメイド服を着ようと思うの。アルスちゃんは執事服を着てね」
「可愛らしいメイドの頼みとあらば、着ない訳にもいかないね」
「フォーマルっぽい姿もすてきだと思うの。わたくしはどう? 似合うかしら」
「もちろん似合っているよ」
メイアがくるりと回ると黒いロングスカートが揺れる。それにアルスフェインも執事の衣装で一礼した。そうして顔を見合わせたら、
「どうぞ執事さん。温かいうちに召し上がれ」
「君が紅茶をくれるなら、俺はアイスを用意しようか」
「ふふ、わたくしを甘やかし上手な執事さん」
やるべきことは決まっている。二人して紅茶をいれてアイスをいただく。ふわりとした陽だまりの一日の始まりだった。
【花華】のマルティナは瞬きをひとつした。友達とこういう場所でお酒を飲むなど初体験であったのだが……、
「おや、詳しいメンバーはその出で立ちか。では「お嬢様」として、遠慮なく甘えるぞ?」
「おおー。執事、メイドスタイルで参加なのか! 素敵だぞ☆」
リーズレットも今日は楽しむ側に回る。功太郎が頷いて、
「お招きいただきましたが、何ともかしましい空間で非常に見目麗しいですね……」
そして執事服の自分を省みて、
「いえ、大丈夫です。普段の仕事と大差ない」
「ふふ、執事姿だなんて何か月ぶりかな」
挨拶に行っていた雪菜と和が帰ってきて、彼らの様子に雪菜は自分の執事姿を省みて笑う。和もおそろいベストのりかーと共に一礼してみた。
「うん。みんな素敵だし何よりだよ。……それじゃ、はじめようか」
「ふむ。では私はワイン一筋で。とりあえず、甘めの赤を」
マルティナの言葉に、功太郎が早速、と、
「赤で、甘口ですか? そうなりますと……あぁ、イタリアのレチョートなどいかがでしょう」
「ほえー、これは何とも酒気に満ちた空間になっておるのうドワーフなのがこれほど口惜しい瞬間も無いものじゃ……」
即座に始まる酒会。若干凰火は残念そうである。旦那は酒飲みだったので、ある程度知識はあるので、
「二日酔いは……すまない、なったことがなくてな。凰火の方が詳しいのではないか?」
「日本酒を飲む際に同時に供される水を和らぎ水と言ってのう……」
マルティナと凰火が語り合えば、
「では、おふたりにはシンデレラを。スタンダードだけど、ちょっとオシャレでしょ?」
「雪菜さんが作ってくれの?やったー!」
雪菜の言葉にリーズレットがおおー! っと嬉しそうな声を上げる。凰火と二人に向けてである。
「うん。背伸びしたら無理せず楽しむのが一番、てね」
その様子に、ノンアルカクテルもおいしいよね。って和が微笑むと、功太郎もうんうん、と頷いた。
「悪酔いするのを避けるなら、水分をしっかり取るのが一番確実に効きますよ。飲酒時のアフターケアも忘れずに」
できる執事たちがしっかり脇を固める【花華】に、二日酔いの心配はなさそうだ。
「我が身を顧みず主人のために尽くすメイドはその心がけこそが美しい。だが、御目麗しい女子がその衣装をまとえば、より輝きをますというもの。俺はこの贈り物を……」
「……お前も、変態か」
訥々と語る【九龍】、清士朗。フィクション執事風燕尾服に身を包み、月子のツッコミにもめげることなく素晴らしい紅茶を一杯入れた後、
「ご満足いただけましたか?――…ではこれより先はプライベートということで。ではあらためて。誕生日おめでとう月子」
「うぉぉぉぉい早いな!?」
思わずレッドレークが突っ込んだ。まだ紅茶飲んでもないのに! 赤いベストの執事は紅茶にそっとスライスレモンを添える係りであったという。それだけのことなのになんだか酷く窮屈そうだ。
「……レモンもこれで良いのか? ともあれ浅櫻は誕生日おめでとう! 家もツツジの赤も非常に見事だ! ……で。もういいよな。俺様こういうの息が詰まるんだ」
レッドレークは襟元を緩める。あらあらと志苑が準備したアフタヌーンティスタンドをに目をやりながらも。
「普段とは見慣れない皆さんの執事やメイド服はとても新鮮なお姿、とても素敵ですよ。やめてしまうのは勿体無い。そう思われませんか?」
にこやかに笑う、和風メイド。暗に駄目じゃ、というておる。
「本当に。みんなもサマになってるんよー。あとね執事のポイントは手袋だと思うんですよ」
ひさぎがメイド服に身を包み微笑んでいるこちらは髪までかっちり結った正統派だ。そうしている間にもてきぱきと手が動いていて、なんだかやけに、フォローが付け焼刃ではない何かを感じさせた。
「ええと、ええと、これはこっちでいいのー?」
「はい、こちらですよ」
ロリータメイド服のエルスの言葉に志苑が言う。ひさぎもその様子を見守る中で、エルスはとてとてとお菓子を運ぶ。
「はいご主人様への愛のお菓子セットです」
「ああ。ありがとう。……しかし、ふふ」
それぞれに可愛いなあ。と月子は思わず笑うのであった。……で、
「おねぇさまぁ……わたしのひつじになってくださぁい」
仕事も終わったとばかりにこのしなだれかかるコスプレメイドリリィをどうしよう。もう既に出来上がっているが上司の清士朗はそ知らぬ顔である。むしろもっとやれとか思ってそうな。
「わかった、わかった」
月子は立ち上がる。このやろ、って言葉が聞えてきそうであったという。何か彼女には弱いのだ。
「ではあらためて……」
「まあ先ずは蜜柑だ。蜜柑を剥こう。うむ、良いな。炬燵も欲しくなる」
おめでとうを伝えた後。千梨は蜜柑の皮をむき酒を飲む。ドミニクも大いに頷いた。
「良ェのォ、炬燵。炬燵でアイスとかやりてェわ。いっそ、今度ウチでやるけェ?」
千梨は酒の味には詳しくないが、楽しげに飲むドミニクと、ともに飲んでいるだけで愉快な気持ちになってくる。ドミニクも本当に楽しげではあるのだが……、
「大丈夫か。今日は酔い潰れたら、風邪を引かないように。上からクラシカルメイド服を着せるからな」
「一回くれェ先に潰れてくれても良ェんじゃぞ」
千梨の言葉にドミニクは笑った。彼のほうがお酒に弱くて。きっと着るはめになるんだろうなあと、それもまた楽しそうだった。
「酔っ払いの戯言じゃないぞ? 酔ってない酔ってない。鈴は文句なしに可愛い」
「そうかそうか、酔ってないか。酔っぱらいは大概そう言うけどな。まあ反対はしないが」
瞳李の言葉にアッシュは素知らぬ顔でうなずいた。そんな瞳李の膝の上、メイド服姿の娘鈴はきゃっきゃと嬉しそうに笑う。
「んー、でもね鈴ね、パパとトーリとおそろいだともーっとかわいーし、うれしーとおもうの。ねー、パパ、おそろいダメー?」
鈴の言葉に二人は互いに視線を交わし合うこと一瞬。
瞳李は口には出さないが、相手のメイド服は見てみたいが自分は着たくない、という感情がありありと出ていた、かもしれない。アッシュはそれを先回り。
「ほらほら、鈴はかわいいのをご所望みたいだぞ?」
「なあ鈴、執事服でお揃いじゃダメかな?」
「しつじふく? ひつじさんのふくなの?」
「羊じゃなくて執事、な。ほら、ああいうのだ」
「いいや、羊か……羊」
思わずいいな、と呟く瞳李。もう一度アッシュは「お前自分が着る事は頭からすっぽ抜けてねぇか?」というのであった。
酔いを醒ますためにバルコニーに出れば、美しい紅葉とその奥に静かな森を見ることができる。
「こんな時だもん、少しぐらいゆっくりしても、問題ないよね?」
今日はメイド姿のノルはロングスカートのすそをひらひらさせて笑う。
「ああ、ノルが楽しげにしてるのは嬉しいし」
グレッグもそんな姿に小さく笑った。ついついほろ酔い加減の二人。さすがに夜ともなれば冷たい風が頬に当たる。
「うんうん。景色もきれいだねえ、ありがとう」
ふわふわといい気持ちでノルが笑う。少し飲みすぎたかも。
「少しの間夜風で酔いを醒ますのも良いかもしれない」
グレッグも笑ってその腕の中にノルをおさめて、それにノルも嬉しそうに笑った。
「うぐぅ、月子さんを心配させてしまったと思うと心苦しくて……」
「だからなおめぇ。あそこはあれをこーしてあーして……どんだけ心配かけたと思ってやがる莫迦め!」
既に出来上がっていてしょしょぼくれるメイド紫睡。方や熱く語っている不良執事ユスト。
「……相変わらずお元気ですね」
「そうですよ。そーゆーところですよー」
「お。すまねえな雪継。花瓶知らねえ?」
花束持って来たんだと紫睡のグダグダを押さえていうユスト。
「こっそり窓際に飾ろうかと思って」
「普通に渡せばいいじゃないですか」
「いや、勘弁してくれこっ恥ずかしいここ置いとくぜ」
「そういうところですよー」
酒の力とはいえいつも以上にグダグダだ。喜ぶだろうになあ。と雪継は苦笑して承るのであった。
「ローシャ、それ格好いいなぁ。俺もやってみよ」
「かっこいいかい? 嬉しいな、リョーシャも似合うと思うよ」
エリオットとロストークは二人して執事服。エリオットのほうはほろ酔い加減で若干可愛らしい……とは、
「ほらほらリョーシャ蜜柑だよ」
髪形を少し変えたロストークの弁。全く酔うそぶりがない。そしてそこで楽しそうだから良いかぁとツッコミをおろそかにするエリオット。
「そうだねえ。僕はねえ、ともだちとおいしいお酒が飲めてしあわせだよ。……あ、月子さん、お誕生日おめでとう。いつものお仕事のじゃなくて、幸せな甘いお話も聞いてみたいなあ」
「ん、楽しそうなお話? おれも聞きたいなぁ」
「君たち……鏡でも持ってきてやろうか?」
割りと呆れた声だったという。
「どう? 似合っているかしら?」
「とっても可愛らしいと思います」
イリスがくるりと回るとアンジェリカが歓声を上げる。
「じゃあ、お揃いで着てみませんこと?」
数分後。
「あら、二人ともお揃い。可愛いわねー」
天音の言葉にイリスは笑い、アンジェリカは少々恥ずかしそうに微笑む。
「おつまみも作ったのよ。よかったら味見してみて♪ ユキちゃんも月子ちゃんも」
「林檎ですか? なんだかとってもおいしそ……」
声かけられて雪継が顔を出す……所に、
「少年執事の衣装を纏い、世界で一番! 可愛くてカッコイイ14歳! イストテーブルとうじょーーう!」
イストテーブルがどーんと体当たり。よろける雪継。皿を上に退避させる天音。
「さすが美魔女の酒盛り……もとい! お茶会は綺麗&カッコイイ大人が多いね♪」
「あら。そこは可愛いメイドも追加してくださる?」
「い、イリスさん……!」
「きゃ☆ 僕としたことが。勿論可愛いお嬢さんもいっぱいさー」
ばっちりウィンク決めるイストテーブル。それからささっと雪継に、
「ねえねえ、理想のぐっとくるプレゼントの渡され方ってどんなの?」
「ええ? 俺に聞くの、それ。黄昏時の教室なんてお勧めかな」
雪継が答える。割りと鈍い上に思考がレトロだ。
「まあ。まあ。恋バナですか? 恋バナですか?」
「そうね。その件についてはお茶でもしながら……」
目を輝かせるアンジェリカ。イリスがお茶をいれ始める。
「やっほーアンジェリカちゃん、飲んでる? って……そっか、アンジェリカちゃんはまだ飲めないんだっけ?」
そこに猫晴がアルコール入りの紅茶を片手にやってきた。
「あら、猫晴さんもこんにちは。ええ。私はまだ飲めないのです。そちらのお紅茶は?」
アンジェリカが微笑むと、猫晴も席につきながら、
「ぼくが飲んでるもの? アルコール入りの紅茶。アンジェリカちゃんも飲める様になったら試してみてよ、美味しいよ」
「まあ、素敵ですね」
なんて言っていると、
「お酒だ! 気分が上向くね!」
蛍がグラスを掲げてやってきた。
「アンジェリカちゃんだ。あの時は楽しかったねー」
「はい、それはもう」
「お嬢様、おかわりはよろしゅうございますか?」
そこで大正時代風、和洋折衷メイドになった楼子が声をかける。
「今まではお世話される側の人間だったからやってみたかったんですよね」
「まあ。お願いします。皆様の分も。そしてあなたもご一緒にいかがですか?」
「あら。ありがとうございます」
「わー。飲んでる? あれ、飲んでないの? 酒は呑んでも呑まれるなーってね」
「楽しそうだな。相当出来上がってないか諸君らは」
流石に飲みすぎ。半ば眠そうで転がりそうな蛍の後ろから月子が声をかけ支える。
「あ、こんばんはー。ちょっと飲みすぎちゃったんだ。月子さん誕生日おめでとう!」
「ありがとう。大丈夫ならいいが、あまり無理はするなよ」
「ふふ。月子さん。勝負はまだまだ、これからですよ?」
「ああ。勿論とことんまで付き合うつもりだ」
同卓の梢子の声に、月子はにやりと笑う。歳も近い、麗しのお姉さま二人組であったが、
「洋館でようかん食べたーい! なんて! あははは!」
数分後にはこんなことになるのであった……。
「タダ酒最っ高!! めっちゃ飲んで食うぞディア!!」
「ヒルトさん、お酒がたぁくさんよ~」
ブリュンヒルトとクローディアは二人して乾杯をした。
そしてお酒が入れば勿論恋バナになる。
「ってもコイツも酒の縁なんだぜ? あと、不思議な苺の縁♪ 意気投合して半年後にゃ夫婦になってたわァ。家族も増えまして♪」
指輪を問われて答えるブリュンヒルト。クローディアはと目を輝かす。
「まぁまぁ~! お子さんもだなんて! おめでたいわね♪」
「っつかディアはどーなんだよ?」
「私の話……はそうねぇ」
ならば梯子酒でもしようかと。べろんべろんになるまで飲んで、いろんな楽しいことを話そうと。顔を見合わせて二人は笑った……。
月が美しい夜だ。
麗しい二人の執事、眠堂と夜とともにグラスが踊る。恭しく注がれるのは葡萄酒で、乾杯。
「俺は甘口を好むけれど、眠堂は?」
「俺も甘口が好き。月子にもお好みの味はあるのか?」
「ふふ。この流れだと些か芸がないが、わたしも甘いほうが好きかな」
好みが一致すれば、ならばと次へと注がれるワイン。次から次へとくるくると。
「あっ次、次は俺も注いでみてえなあ」
「おや。眠堂、君が?」
「俺もご奉仕する側のはずが、夜の手腕に甘えてばかりのようだからな」
「良いじゃないか、甘えられるときに甘えておけば」
んー。と考え込む眠堂に夜が笑う。
「ご満足頂けましたでしょうか?」
そしてそう。完璧な所作で聞くので、眠堂と月子は顔を見合わせて、そして大きく頷いた。
作者:ふじもりみきや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月4日
難度:易しい
参加:44人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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