終末機巧大戦~海と空と虹と

作者:土師三良

●音々子かく語りき
「東京六芒星決戦は我々の大勝利! 皆さんが奮闘してくださったおかげで、ネレイデスの野望はくじかれましたー。これにて一件落着……と、思いきや、今度はダモクレスどもが動き出しやがったんですよー!」
 笑顔から一転、眉を八の字にするヘリオライダーの根占・音々子。
 ここはヘリポート。音々子の前に並ぶのは、新たな戦いに向かわねばならないケルベロスたちだ。
「ホント、目が回るような忙しさですよね。でも、目を回してる暇はありません。前回の死神どもの作戦に負けず劣らず、ダモクレスどもの作戦も大規模ですから。その名も『終末機巧大戦』です!」
 当初、ダモクレス勢はネレイデスに与して東京六芒星決戦に加わる予定だった。しかし、直前になってネレイデスを裏切り、儀式への増援を拒否したのだ。
 増援に使われるはずだった戦力を支配下に置いて裏切りを指示したのは、『五大巧』と呼ばれる有力なダモクレスたち。終末機巧大戦の指揮を執っているのも彼らだ。
「ネレイデスの儀式が失敗に終わった結果、その儀式に使われるはずだった物凄い量のグラビティ・チェインが東京湾に溢れ出しているんですよー。五大巧はそれを利用して終末機巧大戦を引き起こそうとしているんです。いえ、既に第一段階は引き起こされちゃってるんですけど」
 現在、死神勢が描いた六芒星の中心部――晴海埠頭に拠点型ダモクレス『バックヤード』が出現し、そこに沿岸部の工場地帯の機械や建築物が呼び寄せられて合体変形を繰り返し、更に巨大な拠点に変化しつつあるのだという。
 その巨大拠点を基点として東京湾周辺地域の工業地帯のすべてを吸収し、東京湾全域をダモクレス拠点で覆うことが『終末機巧大戦』の目的である。それが実現すれば、総面積が千五百平方キロにも及ぶ広大なダモクレスの策源地が生まれてしまうだろう。
「この恐るべき計画の要を担っているのは『核となる六つの歯車』と『その歯車を守り、儀式を完遂しようとするダモクレス』です。そして、歯車による儀式は、晴海埠頭の外縁部に出現する六つの拠点型ダモクレスの内部でおこなわれるんですよ。儀式を阻止するためには、それらの拠点型ダモクレスに侵入する必要があるということですね」
 儀式の効果は凄まじいものであり、周辺に展開するダモクレスまでも吸収して巨大拠点の材料にしてしまうらしい。そのため、各拠点のダモクレスの軍勢を構成しているのは、吸収されないほど巨大なダモクレスおよび吸収を阻害可能な少数の護衛部隊のみである。
「まあ、この場合の『少数』というのは拠点の規模と比べた場合の話なんですが、それでも精鋭ケルベロスたる皆さんが強襲すれば、撃破のチャンスは大いにあります。ただし、時間制限もあるんですよ。敵は儀式開始と同時に各地への侵攻も開始して、三十分後に儀式を完遂させます。その三十分の間に移動中の拠点に侵入し、護衛を排除し、儀式をおこなっている指揮官クラスのダモクレスを撃破するか、あるいは儀式の核となる歯車を破壊してください」
 儀式を阻止すれば、その分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることができる。すべての儀式を阻止できた場合、晴海埠頭中心部のみの被害で抑えられるはずだ。逆にすべての儀式が完遂されてしまったら、東京湾全体が敵の手におちるだろう。
「さて、先程も言ったように敵の拠点は六つあるわけですが、皆さんに担当していただきたいのは『超弩級人型要塞ギガマザークィーン』という拠点型ダモクレスです」
 その名が与える印象の通り、ギガマザークィーンは古代の母神像を思わせる姿の巨大なダモクレス。晴海客船ターミナルの付近に出現し、ホバーで海上を進み、エインヘリアルのレリ王女の一党に占拠されたレインボーブリッジに向かって侵攻する。
「ギガマザークィーンへの強襲は二つの先行チームと三つの突入チームでおこないます。皆さんは先行チームですよ。もう一つの先行チームと一緒にギガマザークィーンを攻撃しまくって注意を引きつけてください。その間に突入チームがギガマザークィーンの内部に進撃し、指揮官ダモクレスを撃破もしくは歯車を破壊します」
 もちろん、ギガマザークィーンの内部にいる防衛ダモクレスたちは突入チームを放っておかないだろう。幹部ダモクレスや歯車を守るため、中枢に押し寄せてくるはずだ。
「ですから、皆さんも突入チームに続いて内部に入り、防衛ダモクレスたちを足止めしてください。防衛ダモクレスは『メタルガールソルジャー・タイプG』という多数の戦闘員と、『メタルガールキャプテン』という前線指揮官で構成されています」
 メタルガールキャプテンは高機動型であり、遠距離からの一撃離脱戦法を得意としているらしい。メタルガールソルジャー・タイプGは基本的には防護を重視しているようだが、増援として中枢に向かう機体たちは(行く手を阻む先行チームを打ち破らなくてはいけないので)攻撃力寄りの布陣を組むかもしれない。
「拠点型ダモクレスとの戦いと増援部隊との戦い。厳しい連戦だとは思いますが――」
 グルグル眼鏡越しでも伝わる熱い視線をケルベロスたちに巡らせて、音々子は声を張り上げた。
「――大丈夫です! 皆さんならできます!」


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
桐山・憩(さうざう・e00836)
深月・雨音(小熊猫・e00887)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
九十九折・かだん(はふり・e18614)

■リプレイ

●海に吼える
 鋼の母神が海を行く。
 超弩級人型要塞ギガマザークィーンだ。
『超弩級』という冠に偽りはない。
 彼女は大きかった。
 とてつもなく大きかった。
 スカート状の浮遊機関によって撒き散らされる水飛沫は豪雨さながらであり、海面に刻まれる航跡は大河を思わせる。
 その人工の大河が伸び行く先にあるのはレインボーブリッジ。東京港のシンボルとも言える橋だが、現在はエインヘリアルの第四王女レリの軍団に占領されている。
 レリたちはクィーンの接近に気付き、迎撃の準備を整えているだろう。もちろん、クィーンもレリを警戒しているだろう。
 しかし、どちらの勢力も忘れてはいないはずだ。
 本当に恐れるべき敵――地獄の猟犬たちのことを。

 海上に浮かぶクィーンに向かって、ケルベロスたちが突き進んでいた。ある者は自らの翼で飛び、ある者は水上バイクを駆り、ある者は高速艇に乗って。
 クィーンを倒すために派遣されたチームは五つ。二つの先行班と三つの突入班。彼らは先行班のほうだ。
「やっぱり、通信はジャミングされてるな。ウンともスンとも言わねえや」
 アイズフォンの操作のために閉じていた片目を開き、桐山・憩(さうざう・e00836)は水上バイクのスピードを上げた。シートの後部にはヘラジカの人型ウェアライダーである九十九折・かだん(はふり・e18614)が乗り、頭上ではウイングキャットのエイブラハムが翼をはためかせている。そのエイブラハムの前方を飛んでいるのはドラゴニアンのクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)だ。
 やがて、ケルベロスたちはクィーンを射程圏内に捉えた。それはクィーンの射程圏内に入ったという意味でもあるのだが。
「大きい……」
 高速艇のデッキでクィーンを見上げているのは青葉・幽(ロットアウト・e00321)。この距離まで近付くと、クィーンの全形を視界に収めることはもうできなかった。なんの予備知識もない状態でここに放り出されたら、空を支えている巨大な柱を前にしていると錯覚してしまうかもしれない。
「迫力というか威圧感が尋常じゃないわ」
 そう言いながらも、幽は威圧感に負けることなく、束ねたロープを無造作に投げた。
 クロハがそれを空中で受け取り――、
「来ますよ!」
 ――と、警告を発したが、誰の耳にも届かなかった。高速艇のエンジン音にかき消されたのだ。
 もっとも、クロハに教えられるまでもなく、皆は気付いていた。
 クィーンの右腕から何十発ものミサイルが発射されたことに。
「着弾まで十秒!」
 聞こえていないと知りつつ、クロハは再び声を張り上げた。
 その間にもミサイル群はケルベロスたちに迫ってくる。青い空に白煙の軌跡を描いて。
 そして、十秒後、それらは鼻先を海面に叩きつけ、短い生涯を派手に終えた。
 クロハの声を遮っていたエンジン音が消えたが、静寂が訪れたわけではない。いくつもの爆発音に取って代わられたのである。その音と同じ数だけの水柱が上がり、海が激しく揺れ、大量の飛沫が舞い散り、そこかしこに虹が生まれた。
「地震とスコールがいっぺんに来たみたいだな! しかも、火事のおまけ付き!」
 爆発音の残響に大音声を重ねて、人派ドラゴニンのハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が空を飛び回った。びしょ濡れ(になると同時に、ミサイルがもたらした炎に焼かれていた)の体を覆うオウガメタルから黄金の粒子が放出され、彼を含む前衛陣の傷を癒していく。
 被害を受けたのは前衛陣だけではない。大半の高速艇や水上バイクは吹き飛ばされ、搭乗者たちは海に投げ出されていた。
 憩もそのうちの一人だ。彼女の水上バイクは無数の破片に変わって、周辺に浮かび、あるいは沈み行こうとしている。
「シハハハハ!」
 ハインツに続いてオウガ粒子を散布しながら、憩は高らかに笑った。
「思っていた以上に手荒い歓迎だ。でも、こうでなくっちゃあ、面白くないぜ。なあ、かだん?」
「……」
 バイクから投げ出されて立ち泳ぎをしていたかだんが無言で頷き、バスターライフルのトリガーを引いた。
 海面から斜めに突き出た銃身が小さく震え、ゼログラビトンのエネルギー弾が飛ぶ。
「熱烈な歓迎には、ちゃんと応えてあげないとね」
 と、かだんにタイミングを合わせて、幽が二発目のゼログラビトンを発射した。
 彼女たちの攻撃が命中する様を見つつ、ネコ科の人型ウェアラダイダーの篁・悠(暁光の騎士・e00141)が『神雷剣・夢眩』を閃かせて、スターサンクチュアリの守護星座を描いた。
「ピスケスよ、輝け!」
「魚座か……濡れ鼠となった私たちには相応しい守護星座だな」
 本気とも冗談ともつかぬ語調で呟きながら、レプリカントの空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)が螺旋氷縛波を放った。
 続いて動いたのは深月・雨音(小熊猫・e00887)。レッサーパンダの人型ウェアライダーだ。
「濡れ鼠だけじゃなくて、濡れッサーパンダーもいるにゃ!」
 船の破片を踏み台にして跳躍し、眼前にそびえる巨体に飛びかかる雨音。闇雲にぶつかっているように見えるが、クィーンだけに意識を向けているわけではない。実はもう一つの先行斑(当然、彼らもクィーンに攻撃を加えていた)の動きにも目を走らせている。
(「もし、あっちのチームが圧され気味になったら、この大女を激しく叩きまくって注意を引きつけてやるにゃ!」)
 雨音は『大女』にスターゲイザーを食らわせると、重力に従って一直線に落下した。
 そして、勢いよく頭から着水……するかと思いきや、途中で停止した。一本のロープを掴んで。
 先程までクロハが手にしていたロープだ。
 その先端のフックがクィーンの装甲の一角にしっかりと組み付いていることを確認すると、クロハは急降下した。ドラゴンブレスをクィーンに浴びせながら。
 逆に上昇していく者もいた。
 ハインツだ。
「歓迎の第二波が来るぜぇー!」
 仲間たちに警告して、クロハと擦れ違うハインツ。その体からはまたもオウガ粒子が舞い散っている。
 それらを浴びた一人――かだんが防具特徴の『ダブルジャンプ』で宙を舞った。
「クロハ。肩、貸りるよ」
 降下していた悪友に声をかけ、返事を待たずに彼女の翼の根本(そこが『肩』に相当するかどうかは意見の分かれるとこであろう)のあたりを蹴り、更に高度を上げる。
 その時、ハインツが言うところの『歓迎の第二波』が来た。クィーンの左腕から無数のビームが発射されたのだ。いかなる原理か、それらは何度も屈折して空に折れ線を描き、ケルベロスの前衛陣を次々と撃ち抜いた。
 とはいえ、前衛陣の全員がダメージを受けたわけではない。
 クロハは無傷だった。
 彼女を足蹴にした、かだんが――、
「通せんぼは得意なほう」
 ――射線に割り込んで『通せんぼ』したからだ。
 結果、かだんは二人分の攻撃を受けて(彼女自身も前衛に陣取っていた)空中で体勢を崩したが、同じく『ダブルジャンプ』してきた憩の手を借りて、クィーンの体になんとかしがみつくことができた。
「本当に通せんぼすべき相手はビームなんかじゃありませんよ」
 かだんに礼を述べることなく(礼など求められていないことはよく判っていた)、クロハが飛行の軌道を変えてクィーンに旋刃脚を突き入れた。
「言われなくても判ってる」
 短く答えて、かだんは降魔真拳を叩き込んだ。
 本当に通せんぼすべき相手――目の前のクィーンに。

●空は燃える
 先行班がクィーンを『通せんぼ』している間に突入班がクィーンの内部に侵入する――それがケルベロスたちの作戦だった。
 しかし、突入班を乗せた三機のヘリオンが戦場に到達した時、予想外の出来事が起きた。
「ヘリオンが墜とされた!」
 双眼鏡で強行班の動きを見ていた幽が叫ぶ。ちなみに彼女はつい一分ほど前に例のビーム群の標的となったのだが、傷は負っていない。ハインツが盾となったからだ。
 そのハインツが悔しげに呻いた。煙と粒子の筋を引いて落ちていく一機のヘリオンを見ながら。
「くそっ!」
 盾役としての務めに矜持を持つ彼としては、自分よりも仲間が倒されることのほうが屈辱だった。その仲間というのが戦闘能力のないヘリオライダーなら尚更だ。
「わん!」
 オルトロスのチビ助が吠え、クィーンめがけて地獄の瘴気を解き放った。主人であるハインツの感情に呼応するかのように。
「僕らが死に物狂いで陽動しているっていうのに――」
 悠が『ダブルジャンプ』を用いてクィーンに肉迫し、『夢眩』で絶空斬を見舞った。彼女もまた声と顔に悔しさを滲ませている。
「――なぜ、クィーンは空にまで注意を向けてるんだ?」
「こちらが思っている以上に気を張っているのかもしれない。私たちだけではなく、第四王女軍という敵もいるからな」
 と、モカが言った。防具特徴の『壁歩き』を使ってクィーンの装甲を登っていたのだが、今は歩みを止めている。
「ところで、ヘリオライダーはどうする? 放っておくわけにもいかないと思うが……」
 壁に足底をつけて水平に立った状態のまま、仲間たちを見回すモカ。
 誰かが彼女に答えるより先にもう一つの先行班のメンバー――クリスマスローズの花を咲かせたオラトリオの青年が飛来し、皆に声をかけた。
「こちらはヘリオライダーの救助に向かう。突入班の援護を頼む!」
「任せてにゃー!」
 と、力強い声で答えたのは、片手でロープに掴まっている雨音。
「ケルベロスを怒らせたらどうなるか、この大女に思い知らせてやるにゃ! 撃ち落とされちゃったヘリオライダーさんの分までぇー――」
 空いているほうの手を獣化させて、雨音は『柔爪震破撃(ポーデストロイハマー)』という名の殴打のラッシュをクィーンの装甲に浴びせた。
「――打つべし! 打つべし! 打つべし!」

●虹が見える
 儀式開始から八分ほどが経過した頃、三つの突入班はクィーンに突破口を穿ち、内部へと消えた。中枢部でおこなわれている儀式を阻止するために。
 残された先行班もそれに続くはずだったのだが、クィーンの猛攻をくぐり抜けるのに手間取り、突入班との時間差が大きく開くこととなった。
「予定よりも遅れた上に一斑だけで突っ込むことになるとは……これはマズいかもしれないな」
 ダモクレスの残骸が散乱する(突入班の成果だろう)通路を見回しながら、モカが呟いた。
 その横で悠も周囲を見回していた。突入班が残した『アリアドネの糸』を探しているのだ。しかし、糸を紡ぎ出す場にいなかった者たちにそれが見えるはずもない。
 代わりに別の物が視界に入ってきた。
 支路の奥から現れたダモクレスの兵士『メタルガールソルジャー・タイプG』の一団である。先行班に対処するために来たのか、あるいは突入班が激闘を繰り広げているであろう中枢部を目指しているのか――その目的は判らないが、悠たちがやるべきことは同じ。倒すだけだ。
「ちぇっ! 思っていたほどの大軍団じゃないな」
 敵の数に対する不満を吐き出しながら、憩がメタリックバーストを発動させた。
 それを受けたクロハが尻尾を一振りして、タイプGたちを薙ぎ払う。
「おそらく、私たちが手間取っている間に敵の大半は突入班へと向かったのでしょう」
「つまり、突入班のほうは予想より多めの敵を相手にしているってわけだ。モカの言うとおり、ちょっとマズいかもな」
 焦燥に眉をひそめつつ、フローレスフラワーズを舞い始めるハインツ。
「だが、侵入に手間取らなかったとしたら――」
 恋人のハインツが降らす花弁のオーラに傷を癒されながら、悠が指先から魔法の銃弾『神雷襲弾(ライトニング・バスター)』を生み出し、タイプGの一体めがけて発射した。
「――一斑だけで大勢の敵と戦うことになっていただろう」
「そうだにゃ」
 雨音が気咬弾を放ち、『神雷襲弾』を浴びたタイプGにとどめを刺した。
「これで良かったのか、悪かったのか、判断に迷うところだにゃ」
「まあ、結果オーライってことにしておくか。突入班が良い結果を出してくれるという前提で……」
 と、憩が言った。
 その言葉にかだんが頷き、大きく息を吸い込んで――、
「ウォォォォォーッ!」
 ――『呼声は遠く(デーメーテール)』なる咆哮のグラビティをタイプGたちにぶつけた。

 十数分後、タイプGは一体だけになっていた(戦いの途中で前線指揮官型のメタルガールキャプテンの姿も見せたが、劣勢を悟ったのか、すぐに撤退した)。
 その一体を悠が絶空斬で斬り伏せた時、複数人の足音が後方から聞こえてきた。
 すわ新手かと振り返った皆の視界に入ったのは、しかし、二十人を超えるケルベロス。突入班の面々だ。アリアドネの糸(悠たちには視認できなかったが)を伝って退却してきたらしい。
「首尾は!?」
「そうね、結果としては予定通りよ。ありがとう」
 悠が勢い込んで尋ねると、シャドウエルフの少女が足を止めて答えた。その間に突入班のうちの何人かが負傷者たち(とくに盾役を務めて多くの傷を負ったハインツとかだん)にヒールを施してくれた。
「そちらは……」
 少女は不安げに視線を巡らせた。先行班が一班しかいないことに気付いたのだろう。
「縒さんたちのことなら、心配しなくてもいい」
 と、もう一つの先行班のメンバーの名を出して、悠は答えた。
「僕たちの突入を援護してくれた後、撃ち落とされたヘリオライダーの救助に向かったんだ」
「そう……ありがとうね」
 少女は二度目の感謝の言葉を告げると――、
「糸はまだ繋がっているわ。急ぎましょうか」
 ――突入班の仲間たちとともにまた走り出した。
 もちろん、悠たちも走り出していた。

 海中に沈み行くクィーンを後にして、ケルベロスたちは戦場から撤退した。ある者は自らの翼で飛び、ある者は飛行者に抱えられ、ある者は冷たい海を泳いで。
「あれが断末魔の悶えというヤツかにゃ?」
 と、背泳ぎをしていた雨音が誰にともなく言った。
「……え?」
 海を漂っていた樽型の浮き(あの高速艇の備品だ)に掴まってアームドフォートのスラスターとバタ足で前進していた幽が雨音の視線を追って振り返った。
 海面から上半身だけを出したクィーンが見えた(体高は水深を超えているだろうから、下半身は海面下で崩壊していると思われる)。レインボーブリッジの手前で、『断末魔の悶え』を思わせる奇妙な動きをしている。
 そして、第四王女レリの軍団も見えた。クィーンの巨体に群がり、次々と攻撃を加えている。
 ケルベロスに貸しをつくるためにクィーンにとどめを刺している……となれば、交渉の余地も生まれてくるが、レリにそんな意図がないのは明らかだ。ダモクレスの敵として行動しているだけだろう。
「いずれ、あいつらとも決着をつけてやる……」
 クィーンが破壊されていく様を見つめながら、幽は決意を新たにした。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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