●次なる大戦
「さて、まずは東京六芒星決戦、ご苦労だった。貴様らの戦果を労ってやりたいところだが……ダモクレスが迫ってきている」
僅かに眉間に皺を寄せ、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はそう切り出した。
死神達の撃破によって十二創神のサルベージという最悪の事態は阻止できた。
だが儀式失敗のため儀式場には行き場を失ったグラビティ・チェインがまだ残っており――それを狙って、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が動き出した。
曰く、大儀式『終末機巧大戦』――これを率いるのは『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスである。
奴らは元はディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否し戦力を温存し、この作戦を強行したようだ。
「既に晴海ふ頭中央部にバックヤードが出現しており……沿岸部の工場地帯の機械や建築物が呼び寄せられ、巨大拠点へと変貌しつつある」
辰砂は目を細め、低く告げた。
『終末機巧大戦』は、即ち爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式である。
核となる『六つの歯車』を利用した儀式を行い、爆発的に同胞を増殖させ東京湾全体をマキナクロス化させるのが、最終的な目的なのだろう。
これを阻止するには、その『核となる歯車』の破壊が必要なのだが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われるため、それへと潜入する必要がある。
終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部でなければならないようで――問題の拠点型ダモクレスは、儀式開始と同時に各方面へと侵攻を開始する。
つまりケルベロスはそこを急襲することになるのだが、敵の侵攻開始から儀式発動までは『三十分』――この間に敵拠点に潜入、儀式を行う指揮官の撃破、或いは核となる歯車の破壊を行わねばならぬ。
そして、儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えられる。
つまり全て完遂されれば東京湾全体が敵の手に落ち、全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害に抑えられるということだ。
「いずれにせよ晴海ふ頭を奪われている状態だが、それへの対処よりも、目下の拡大を阻止する方が重要だ。厳しい状況だろうが、最大の戦果を得られるよう期待している」
ここで一度、辰砂は言葉を切った。
「貴様らに向かってもらうのは、第六の儀式場。そして当班は『突入班』――中枢部で歯車破壊を目標とする」
第六の儀式場は超弩級人型要塞ギガマザークィーンの内部――そして、此処で儀式を行おうとしているのは『終末機巧』エスカトロジー。
バックヤードで一戦交えたものもあろう――『あの』ダモクレスだ。
ギガマザークィーンは、晴海客船ターミナルから海上をホバーで進み、レインボーブリッジへと侵攻目標としている。
「……気付いたものもいるようだな。そうだ、ここには『エインヘリアル第四王女の軍勢』が未だ存在している」
それについては後述すると告げ、彼は話を続ける。
儀式場まで辿り着くには、まずギガマザークィーンに攻撃を仕掛け、内部へ侵入する突破口を開かねばならぬ。
この戦闘は『先行班』と共に五班で行い――彼らが足止めをしている間、突入班で突破口を開く。
そして内部に存在する防衛ダモクレスは先行班に任せて、中枢を目指す。
無論、中枢には強力な護衛ダモクレスと配下の防衛ダモクレスがその前を守っている。
エスカトロジーの護衛についているのは、メタルガールカーネル――彼女はこちら二班と対等に渡り合う、強敵である。
――ここで『突入班』三班をどう割り振るか、という選択肢が出てくる。
つまり、三班で戦えば優位になるが――制限時間は相手も心得ており、戦闘を長引かせようとするのは間違いない。
では一班であればどうか――歯車の破壊に向かう上では優位な策だ。しかし残された一班が敗北した場合、護衛勢力は中枢に増援としてやってくることになる。
「ただの援軍であれば、それも上等と思う者もあろう。が、増援は戦力に非ず。それらが儀式場に入れば、儀式の余波によって分解され――儀式を行っているエスカトロジーに融合される」
融合後は、それまでに負わせた傷がすべて回復すると考えて貰って構わない――彼はそう告げた。
今回の最終目的は、儀式の核となる歯車の破壊、或いは儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破となる。
「破壊だけに注力すれば、為せぬことではないが……被害は多くなるだろう。リスクとリターンを念頭に置き、策を決めろ」
そして、第四王女の軍勢――エスカトロジーはレインボーブリッジに残った彼女達を排除した上で、儀式を完遂しようとしている。
つまりレインボーブリッジに引きつけて戦えば、第四王女軍との三つ巴の状態となる――尤も、作戦開始が遅れることによって、破壊までの制限時間は削られることになる。
「第四王女軍と戦うことも可能な状況となるが……さて、私は何も言わん。言いたいことがあるとすれば『最も重要なことは何か』を考え行動しろ、といったあたりか……実際に戦うのは、貴様らなのだからな」
いずれにせよ、失敗すれば失うものが多い戦いでもある。悔いを残さぬように――辰砂はそう告げて、説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(うみのいきもの・e00040) |
ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822) |
メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283) |
シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575) |
黒江・カルナ(夜想・e04859) |
レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411) |
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503) |
山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019) |
●空
ヘリオンより眼下を臨む――真っ先に飛び込んでくるのは、超弩級人型要塞ギガマザークィーンと、レインボーブリッジ。
「……それほど、距離もないんだね」
レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)がふと零す。
この巨大なダモクレスにエインヘリアル達が気付かぬはずはない。
それが橋に至らず、何者かと戦闘に入ったことで、ケルベロスにも気付いただろう。
この状況でここまでヘリオンを寄せたのは――とてつもなく危険なことであったのではないか。
不意に浮かび上がった不穏な気配は、この場に漂い、重く澱んだ。
「ドレッドノートを思い出すわね! あの時も、勝ったのはワタシ達よ!」
それをシィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575)の朗らかな声が吹き飛ばす。
横では、その通りだと、レトラが重々しく頷いている。
(「今回初めて大がかりな依頼に参加したでやんす。色んな人に一杯教えてもらって迷惑かけて」)
山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)は、そっと息を吐く。そして、はっきりと口にした。
「だから……絶対に成功させるでやんす!」
その一声に、俯き気味に時を待っていたティアン・バ(うみのいきもの・e00040)がゆっくりと顔を上げた。
「……そして、皆で揃って帰還する」
この策が強行であろうが無かろうが、友人は既に戦っている――惑う時間はない、と。
志気の高まりを感じ取りつつ、陣笠の奥、ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)は金眼を細めた。その視線が注がれる先は、懐中時計。
先行班が戦闘に入って、六分。
敵が充分に戦闘に集中していることを確認し――彼らは次々に空へ飛び出す。
――その、直後。
頭上で轟音がした。黒江・カルナ(夜想・e04859)がはっと橙色の瞳を瞠る。もうもうと煙る向こう、三機あるはずのヘリオンが、一機足りぬ。
眉を僅かに顰めルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)が振り返る。その視線を受け止めるは、メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)――だが彼女にも、紡ぐべき詞は見つからぬ。
やはり無謀だったのか――然れど、それを論じても後には戻れぬ。
彼女はそっと指を組む。
どうかご無事で、と。
●駆
降下ポイントは、ギガマザークィーンの腰部分――着地した低い姿勢のまま、ティアンは腕を伸ばす。同時轟く銃声。
上から、楽しそうにシィが空で羽ばたき流星の煌めきを払い、加速する。
レトラの召喚した原始の炎と共に、重力を乗せ、叩きつける。
向かいより、交差するように虹が落ちる――ガイストの下蹴りが鋼鉄の肌を打った直後、その場が突如と爆ぜた。
集中を解き放ったレオンの視線を横切るのは、カルナの放ったオーラの弾丸。
追いかけるように、仁がガトリングガンを連射する。
立ちこめた硝煙を払うようにメルカダンテが『一月が沈む』を謳えば、塗料を飛ばし、ルイーゼが全てを塗り込める。
数多のグラビティが織りなす光や煙――それらが消え去らぬ前に、次々と重なり、瞬く間に強固な肌に疵を刻んでいく。
そして。
「ぬぁああああああああああ――!」
気合いと奔る一撃によって、見事、道は穿たれた。
ルイーゼが怪力を活かし、数本のロープを外に向け放り出す――頑丈そうな部分に括り付けてはいるが、何処まで当てにできるかは解らぬ。
「これでどうだろうか、茨の君」
「ええ、上出来です……後は皆を信じよう」
ケルベロスならば問題はないだろうと、メルカダンテは彼女の仕事を褒めた。
「視られてる、かな」
「そう警戒していた方がよいのでしょうね」
レオンが何処にでも無く仰ぐと、カルナが深々と首肯した。
彼の言葉は正しかったか否か――内部では至る所にダモクレスの気配を感じた。
極力戦闘を回避すべく、気配を殺したティアンが、同じく隠密気流纏うルイーゼと仁に視線を送る。両者の相槌に応じ、ガイストとシィへと合図を送れば、彼らが先頭に立って駆け抜ける。
然し、内部には敵が想定していたよりも残っており、せめて指揮官機に遭遇せぬよう導くのが精一杯であった。
「こんなに数が残っているのは……」
誰にでも無くレオンがひとりごつ。段取り通りに進んでいない――その事実に、一抹の不安を覚えつつ、それでも彼らは鉢合わせた敵へ冷静に対処していった。
そして中枢へと繋がる空間へ辿り着いたのは――七分後の事であった。
●防
中枢の前では、メタルガールカーネルと十体のメタルガールソルジャー・タイプGが守りを固めていた。
いずれも防衛態勢。一言も発さず構える彼女達を前に、カルナは一度瞑目した。
それら忠実なる機械兵の覚悟は解らなくもない――だが。
「私も元は機械なれど、この心は人に寄り添うもの――この海を、人々の安寧を、貴方達には渡さない」
凛乎と放たれた彼女の決意に、メルカダンテが頷く。
「おまえ達の都合で、無辜の人々を泣かせるわけにはいきません――6章22節、「悪魔」」
告げる声音は鋭利と響き。力の奔流がソルジャーを襲う。
競うように、ティアンとレオンがオウガ粒子を広げれば、覚醒を促す輝きの下、仁の全身より放たれたミサイルが、弾幕となる。
即時、傷付いた個体を狙いカルナが気弾で畳み掛ける――を、別の個体が庇う。そこへ躍りかかるのは、シャーマンズゴーストの紳士。
レトラの爪がソルジャーの核を狙う頭上で、流星が煌めく。相棒と入れ替わりに、彼女はそれの頭部へ重い一撃を打ち下ろした。
猛攻にじっと耐えていたソルジャーが、不意に構える。厳めしい銃口が鈍く光ったのを認め――光の盾を自らに施したガイストが飛び出し、けたたましい銃弾を受け止める。
ひとたび掃射が始まれば、なかなか止まぬ弾丸の雨は、威力こそ分散するが、圧はなかなかのもの。
支えきれるか――いや、支えきるのだ。
ルイーゼは髪とヴェールとを留める十字架デバイスに触れながら、失われた愛しい想いを歌い上げ、皆を治癒した。
時計は確実に針を進めるが、戦況は動かぬ。
「前往くことは許さない、先を往くなど認めない。ここで腐れて沈んでいけ、塵でしかない我が身のように!」
レオンが発すれば、影という影から射出された黒縄が、ソルジャーに縋るように絡みつき、やがて丸々呑み込んだ。
「おいで――」
別の影から飛び出したのは、黒猫の幻影。その主と戯れるように、動き回って翻弄するはカルナの魔法。
そこへ、リズミカルな破裂音が地を揺らす。仁の構えたガトリングガンがその弾を吐き出しきると、堅い装甲は蜂の巣と穿たれ、また一体動きを止めた。
「推し通る!」
隙を見出し、ガイストが駆ける。次いで、シィとレトラが楔のように、陣形の崩れた部分へ斬り込む。
しかし。
横から散弾が次々と吼えた。身を庇いながら、シィが声をあげる。
「ダメ、増援が止まらないわ」
数体倒し、漸く崩したかと思う間に、増援が穴を埋めている――ずっとその繰り返しである。
道中の不安が的中した、というわけだ。
「も、もしかして、失敗でやんすか!」
狼狽える仁へ、レオンが静かに否定する。
「いや、そうと決まったわけじゃない……時間は未だある」
だが、策の変更は余儀なくされる。
「わたしたちだけでの突破はむずかしいようだな」
僅か俯き、ルイーゼが呟く。
――突破はできない。
その事実に気付いた瞬間、ティアンの睫が微かに震えた。
つと、予感めいて半身で振り返る。そこで不敵な笑みを浮かべたキソラと目が合った――その唇が、何かを刻む。
――前見てな。
そして彼は倒すべき敵へと挑んでいく。
(「ああ、そうだな――やる事は変わらない。フィー達だって……」)
確りと頷いて、前を見る。
「時間の限り諦めるわけには参りませんね」
カルナが冷静に口にすれば、
「計画は狂いましたが……歯車を破壊できれば我らが勝利。そうでしょう、シィ」
「ええ!」
メルカダンテの言葉に、シィは花開くような笑みを。
「うむ、士気は高いな。ならば、我が言う事は無い」
弾丸を捌きながら、陣笠の下、ガイストは瞑目した――その裏に潜めた覚悟は、以前揺らがず。若者等の盾として、最後まで務める。
カーネル開戦から、どれほど経ったか。
「狙いはあいつだ! 倒す、絶対に! 貴様を踏み越えてエスカトロジーをブン殴るッ!」
戦場に響く、強い意志の籠もった声――。
「そうね! まずは指揮官を追い詰めるわよ!」
シィは皆へと明るく告げると、楽しげな笑みを刻んだまま、口元に指を寄せる。
「シャボン玉遊び、したことあるかしら? 触るとすぐに壊れちゃうの。こんな風に、ね?」
無数のシャボン玉の形に固定された、圧縮空間――それはカーネルの躯に触れると、弾け、強烈な衝撃破を生む。
更にレトラが躍るような足取りで接近したかと思うと、非物質化した爪を振り下ろす。敵味方が入り交じる戦場をするりと駆って、レオンが花護憑きの鴉を振り下ろす。
彼が離れた瞬間を狙い、矢を射たカルナへ――接近していたソルジャーが銃を構えた。
させぬ、ガイストが身を以て受け止める。硬質な鱗はいくつも剥がれ、生々しい傷を曝している。
「悲哀を退ける奇蹟よ、主の憐れみよ」
ルイーゼの唇が紡ぐは、命果てる哀しみと生命の希望――癒しの奇蹟を、ただ彼のために。
「いい加減、道を譲るでやんす!」
ガトリングガンを手に、仁が叫ぶ。連射が起こす煙を巻き上げながら、メルカダンテの放ったオーラが走る。
「頭が高い」
厳かな声音と同時、それの頭部を捉えた。
「おなじ夢を。おなじ絶望を。見ようじゃ、ないか。」
ゆびさきでそれの輪郭をなぞりつつ。ティアンは絶望の幻影を与える――それが描く絶望は、何だったのだろうか。
怒濤の攻撃の果て――、
「私は、もうメタルガールソルジャーじゃないっ! だから、カーネルには従えない! これが……ッ!」
感情の爆発で高まったグラビティが、カーネルを打ち砕く。
ひとつの物語の結末がそこにあった――しかし、戦いは続く。
●巡
群れるソルジャー達をなんとか振り切って、中枢へと繋がる扉をくぐる。
それはあまり格好の良いものでもなく――ただただ必死に飛び込んだ、というのが正しいだろう。
無機質な空間の直中に、彼はいた。
「君たちはよほど、招かれざる時の来訪がお好きなようですね。実に騒々しい」
そして、我らの邪魔をするのもお好きなようだ――大きな歯車を背に、エスカトロジーはそんな言葉でケルベロスを迎えた。
「やあエスカトロジー。二度目だね。そしてこれで終わりだ」
気さくな口調で、レオンが応える。歯車狙いを隠匿するはったりは、最早意味を成すまい、と思いつつ。
すると意外なことに、敵は首を少し傾げて見せた。
「さて、以前は『こちらに有利な場所』で戦う気はないとのことでしたが」
惚けたような言葉に、レオンは肩を竦める。そんなことを覚えているのか、という驚きも僅かにあった。
「終末機巧……先日振り、ですね。先のお礼に、参りましたよ」
カルナがひたと見据えれば、できるものならば、それは悠然と構えてみせる。
「おまえとは初対面だが――」
ティアンは誓うように胸元で何かを握りしめ、熱の灯らぬ印象を与える灰色の瞳で、静かに相手を見据えた。
「頼もしく思う人達が世話になったそうだし、親愛なる恩人を実験台にされ内心とても気に入らない」
只の私怨だ――然し。冷ややかに告げる。
「ここで殺しきれずとも企みは阻む」
同時にその身から、銀色の粒子が解き放たれた。
煙幕より放たれたミサイルを受け止めたシィが、レトラと顔を見合わせ、ガイストに向き合う。
奴は衛生兵か、本当に厭な性格してるのね――そんな会話を交わしつつ、皆で仕掛ける。
歯車自体には特殊な防禦はなかったが、いくつものグラビティを浴びようと、それは容易く揺るがない。
二十五分を告げる無情なアラームがケルベロス達の焦りを誘う――更に、儀式場へと踏み込んだソルジャーが、パーツとなってエスカトロジーに組み込まれた。
それも、歯車を癒やさぬならば、捨て置く。
(「――その命脈は絶てずとも、目論見は必ず」)
強い意志を胸に。カルナは番えた矢を放った。
残り、三分。
歯車を狙いやすい距離に詰め寄ろうとするケルベロス達をあっさり見過ごすほど、エスカトロジーも温くは無い。
悠然と構えていたエスカトロジーが姿勢を変える。一歩踏み出すや否や、肘から先が、高速回転し始める。
合わせ、地を力強く蹴ったのは、ガイスト。此処に至るまでに、衣は朽ちて、既に屈強な半身が殆ど顕わになっていた。腰に佩びた一刀を抜き払い、重ねる一合。
火花が上がる。光の盾と鎖の守りごと、骨が砕け血が噴き出す。だが彼は崩れなかった。エスカトロジーをその身で押さえ込み、吼えた。
「仕掛けよ!」
「……わかったぞ、せんぱい」
逡巡は一瞬。意を決したルイーゼの歌声が、戦場に響く。
皆の集中を高める、切ない歌声――。
「つまらなそうな儀式ですね、エスカトロジー」
終わらせてあげましょう、低く囁き、メルカダンテがオーラの弾丸を手繰る。
空を切り裂きながら走ったオーラが歯車へと食らいつくと、それはミシリと小さな悲鳴をあげた。
「こいつの動き、見切れるでやんすか!?」
仁の胸より放たれた灰色の砲弾は、床に、壁に無軌道に弾む。
最後に歯車へと凄まじい速度で落下するように衝突し――大きな亀裂が、一筋走った。
重ね、レオンの仕掛けた黒縄に影から縛り上げられれば、小さな悲鳴を断続的にあげ始める。
「行くわよ、ティアン!」
言うなり、シィは跳躍していた。揺らめくレトラの炎に導かれ、ティアンは小さく頷き――撃った。
敢えてエスカトロジーを掠めるように放った弾道。奴の目ならば、追えただろうか。
「その銀の弾丸は――『失敗作』からの贈り物だ、だそうだ」
楔と撃ち込まれたそれへ、友の蹴撃が追撃し、ピシリ、またひとつ大きな亀裂が刻まれる。
「その計算も歯車も、狂わせて差し上げましょう」
カルナの差し出した杖の先、多量の魔法の矢が歯車へと向かう。
光の筋が幾重にも枝分かれし、あちこちに亀裂の走った歯車へと集約する。数々のグラビティを撃ち込まれて限界に至った歯車は、彼女の一矢でとうとう耐えきれず、砕け散った。
見届けたレオンが微笑み、振り返る。
「歯車も潰れた。次はお前だ。楽しみに待ってなエスカトロジー」
残されたエスカトロジーは転移の兆しを見せながら、嘆息する。
「どうやら、ケルベロスの覚悟を見誤っていたようですね。犠牲を厭わず、決死隊を送り込んでくるとは……認識を変える必要があるかもしれません」
そして、崩れゆくギガマザークィーンを彼らは駆けた。
この場にある決着は、またいずれ。然し必ず果たすとそれぞれ胸に刻みながら。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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