終末機巧大戦~滅亡の枷

作者:朱乃天

 死神との東京六芒星決戦に、見事勝利を収めたケルベロス達。
 玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は彼等の健闘を労うが、その一方で、事件に関する新たな動きを予知したことを語り始める。
「死神の野望を砕いて、十二創神のサルベージという最悪の事態を防ぐことができたけど、別の不穏な動きがあるようなんだ」
 儀式の失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェイン。それを東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が奪い、『終末機巧大戦』なる大儀式を引き起こそうと動き出したらしい。
 この大作戦を率いるのは『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスだ。
 『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下に治めると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。その戦力を温存し、今回の作戦を強行したようだ。
 六芒星の儀式の中心だった晴海ふ頭には、拠点型ダモクレス『バックヤード』が出現し、沿岸部の工場地帯の機械や建築物などを取り込みダモクレス化してしまっている。
 更にこの『終末機巧大戦』は、爆殖核爆砕戦で攻性植物達が行った『はじまりの萌芽』と状況が酷似しており、それらを模した大儀式――核となる『6つの歯車』を利用する事で、拠点を爆発的に成長させて、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と思われる。
 『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要なのだが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われている為、破壊するには拠点型ダモクレスの内部に潜入する必要がある。
 終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭の外縁部でなければならないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始するので、こちらはそこを急襲して儀式を阻止することになる。
 敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでは、30分しか時間の猶予が無い。
 30分以内に敵拠点に潜入し、護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か或いは、儀式の核となる歯車を破壊しなければならない。
 そして儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることができるだろう。
 もし儀式が全て完遂されれば、東京湾全体が敵の手に落ちてしまう。だがその全てを阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑えることも可能と言える。

「そこでキミ達には、勝鬨橋から晴海通りに侵攻している敵の部隊に対応してほしいんだ」
 ここでは液体金属型の拠点型ダモクレスが隅田川沿いのビル群を喰らい、無限増殖を繰り返している。
 内部は迷宮状態になっていて、多くの防衛ダモクレスがケルベロスの足止めをしようと配置されている。更に奥には防衛ダモクレスを産み出す護衛ダモクレス、そして中枢部の儀式場には指揮官ダモクレスが1体だけで儀式を執り行っている。
 この第二の儀式場には5つのチームで挑むことになる。その内2つのチームが最初に先行し、拠点型ダモクレスとの戦闘を開始する。残りの3チームは突入班として、先行班が仕掛けた後に突入口を開いて、中枢部に向かうことになる。
「キミ達は、『突入班』に回って儀式の阻止に当たってもらう予定だよ」
 拠点型ダモクレスの中には防衛ダモクレスがいるが、それらの増援は先行班が足止めしてくれるので、突入班は中枢部に向かうことを優先して考えればいい。
 ただし儀式を護衛する有力なダモクレスが途中で待ち構えているので、中枢部に行くには護衛を突破する必要がある。
 今回、突入班が戦う相手となるのは、護衛ダモクレスの『ミス・リージョン』と、儀式を行う指揮官ダモクレスで『五大巧』の一体、『終末機巧』アルマゲドンだ。
 ミス・リージョンは全長7m程の、巨大な海老のような姿をしている。蟲型の防衛ダモクレス『メックカスト』を生産し、腕のドリルによる刺突攻撃や、巨大な尾での薙ぎ払い、オイル状の毒液を撒き散らしたりする。
 片やアルマゲドンは、クリスタルに封印されたゴシックドレス姿の少女のような外見で、二体の魚型ユニットが彼女を護るように突撃したり、クリスタルによる広範囲のレーザー光線や、相手の加護を打ち消す祈りの力を繰り出してくる。
 そして彼女の力は強大過ぎて、常に『枷』を掛けている状態なのだという。アルマゲドンがもし生命の危機に瀕すれば、クリスタルの枷を解除して、『最終戦争』の名に恥じぬ力を振るうらしい。
 また、指揮官ダモクレスとの戦闘中に増援の防衛ダモクレスが入ってくる可能性もある。
 その場合、出現した増援は儀式の余波によって分解され、指揮官ダモクレスに融合させられる。そうすると、増援の数に比例して、自身のダメージやバッドステータスまでも回復できるようである。

 何れにしても、一筋縄ではいかない相手が待ち受けている以上、立ち向かうには相応の準備が必要となってくるだろう。
「儀式の阻止を最優先するか、敵指揮官の撃破も狙うかは、キミ達に全て任せるよ」
 作戦遂行は勿論の事、後顧の憂いも断つべきか。その決断はケルベロス達に委ねられる。
 もし撃破を狙うとしても、歯車を破壊された『五大巧』は、強制的に本拠地であるバックヤードに転移させられるので、そういった点にも注意が必要だ。
 他にも先の決戦で敗れた死神や、ドラゴン勢力の動向も気になるところだが――今は目の前の事件を解決することに、全力を注ぐべきである。
 この戦いを乗り越えた先に待っているのは、おそらく更に大きな戦いかもしれない。
 戦地に赴く彼等全員が、どうか無事に戻ってこれたら、と。シュリは心の中で祈りつつ、戦士達の背中を見送るのであった。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
円谷・三角(アステリデルタ・e47952)

■リプレイ

●浸食された都市
 現場に到着したケルベロス達は、そこで異様な光景を目の当たりにする。
 拠点型ダモクレスによって街が呑み込まれ、一帯は液体金属の塊と化しており、このままでは被害は拡大していく一方だ。
 東京湾全域のマキナクロス化を目論むダモクレスの計画を、阻止する為に5つのチームのケルベロス達が始動する。
「先行班の合図が来たようね。それじゃ、あたし達も動くわよ」
 打ち上げられた信号弾を確認し、城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)がチームの仲間に呼び掛ける。
 最初に先行している2チームが、道を切り開いてくれている。自分達が成すべきは、彼等の労に報いる為にも一刻も早く突入口を開くことである。
「では参りましょう。儀式をこの手で阻止する為に」
 液体金属で形成された塊を前にして、シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)が飛翔しながら流星煌めく飛び蹴りを、金属の壁に炸裂させる。
 その後も突入班の面々が立て続けに壁を切り崩している間、襲い掛かってくる敵は先行班が撃退していく。そして銀色の鋼の壁が爆散し、突入口が開かれたのは――作戦開始から、9分が経過した時だった。
「残り時間は20と1分。このまま中枢目指して突入するよ」
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が懐中時計で時間を計測しながら、仲間に伝達。先行班も合流して5チームで、拠点ダモクレスの内部に潜り込んでいく。
 迷宮化された内部を早く進まなければ、時間の経過と共に建造物を喰らって成長し、中枢までの距離が遠くなってしまう。
「随分と面倒な造りになっていますね。迷わないように気を付けないと……」
 分岐点に差し掛かり、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が位置を把握できるようにと目印のボタンを設置する。
「余り時間を掛けてる暇もないからね。っと、あっちの方なら奥に繋がっていそうかな」
 円谷・三角(アステリデルタ・e47952)は地図を作成しながら、パターンを導き中枢部へと至る進路を予測する。
「……どうやら近付いてるのは間違いなさそうね。ここから先が、本番よ」
 先頭に立って警戒していたアリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)の、紫水晶色の瞳に蠢く影が映り込む。虫人間のような形をしたダモクレス、複数体のメックカストが侵入者を排除すべく群がり出してきた。
 あの集団を抜けた先に中枢部があるのだろう。時間が経てば更に多くの増援が加わってしまう。従ってケルベロス達が選択する手段は唯一つ――メックカストの群れを力尽くでも打ち破り、最奥部に突き進むことのみだ。
 メックカストの増援は、2つの先行班が残って引き受け、突入班の邪魔をさせじと足止めしてくれる。
「皆さんも、どうかご武運を――」
 アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)は彼等の無事を祈りつつ、助力を受けた3つの突入班は、迷うことなく中枢部を目指して移動する。
 この調子で一気に走り抜けようかと思われた時――床が突然隆起して、液体金属の飛沫と共に、赤銅色の巨大なエビ型ダモクレスが地面の中からその姿を現した。
 ケルベロスの前に立ち塞がるのは、護衛ダモクレスの『ミス・リージョン』だ。鉄を裂くかのような雄叫びを上げ、彼女の声に応えるように新たなメックカストが地面を突き破って出現し、番犬達の行く手を阻もうとする。
 だがここで立ち止まってなどいられない。少しでも多くのチームを中枢部に送り出す為、一つのチームが囮となってミス・リージョン達の注意を引き付ける。
「ここは俺達に任せて下さい! 必ずここで食い止めます!」
 8人のケルベロスが一斉攻撃を仕掛けた隙に、2つのチームが左右に分散しながらミス・リージョンの脇を掻い潜っていく。
 脇目も振らずに疾走し、追っ手を振り切り、彼等は遂に儀式場のある中枢部に辿り着く。
「やっと、ここまで来ましたね……。それと、漸く逢えました……」
 シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)が身を強張らせながら見回すと、開けた空間内の奥に鎮座している一体のダモクレスが視界に入る。
 そこにいるのは、水晶の檻の中で眠っているかのような可憐な少女。
 彼女こそ、この大作戦の指揮官にして、ダモクレスの幹部である『五大巧』の一体――『終末機巧』アルマゲドンである。

●水晶に眠る少女
 アルマゲドンの背後で廻る大きな歯車。それは儀式を発動させる核であり、歯車を破壊するか本体自体を撃破しなければ、敵の儀式は成就されてしまう。
 更に彼女は力を封印されており、もしも封印から解かれて本来の力を取り戻した時は、その破壊力は計り知れないものだと聞いている。
 撃破を狙えば、こちらもかなりの打撃を被ることは避けられそうにない。それなら歯車だけでも破壊して、確実に儀式を食い止める――それがケルベロス達の選んだ作戦だ。
 気を引き締めながら身構えて、戦闘態勢を整える。だが彼等が仕掛けるよりも先んじて、アルマゲドンがケルベロス達に襲い掛かってくる。
 水晶の枷に少女の魔力が流れ込み、眩しく輝く破壊の光が、番犬達を狙って戦場中を縦横無尽に乱反射する。
「くっ……この威力で『枷付き』なんですか……!?」
 アルマゲドンの光線を、スズナが檳榔子黒を盾代わりに受けて耐え抜くが。その火力の高さに思わず声を荒げて、険しく顔を歪ませる。
「……こいつは思ったよりも油断ならない相手だね。だったら尚の事、急いで儀式を阻止しないとね!」
 とは言え相手が格上なのは覚悟の上だ。三角がカメラのネガフィルムを広げて鎖のように展開し、床に描いた円から光が溢れ、仲間に加護の力を付与させる。
「みづかね。貴方の力、少し貸してもらうわよ」
 橙乃が纏った深緑色の外套を、靡かせながらオウガメタルの光の粒子を拡散し、仲間の闘争心を呼び覚まして反撃に出る。
「ハハハハハハ! さあ行きなさい! 貴方達の積もり積もった恨みを! 地の底で淀み続けた嘆きを! 全てぶつけてあげましょう!!」
 平時は和やかな笑みを浮かべるシトラスが、昂るように哄笑しながら、黒き光を指先から放って空に魔方陣を描き出す。するとこの地に眠る数多の怨嗟が顕現し、影を纏いし漆黒の手の群れが、深き闇の底から伸びてアルマゲドンを引き摺り込もうと絡みつく。
「――緋の花開く。光の蝶」
 イズナが念じるように掌開き、緋色の蝶がひらひらと、解き放たれて虚空に舞う。
 緋い光の軌跡を描く幻想的な光景は、心を持たないダモクレスでさえも魅了して。織り成す光の糸は相手の精神のみならず、全身までもを絡め取る。
「歯車を破壊するまでは、その水晶の中で眠っていてもらうわよ」
 アリッサが妖艶に微笑みながら鋼の鎚を取り回し、大砲形態へと変形させて魔力を充填。照準合わせて撃ち込まれた砲弾は、竜が猛るが如く轟きながら直撃し、爆ぜると同時に黒い煙が巻き上がる。
「ただ堅牢な守りの相手、なんてものではなさそうね。力を出せない今の内に、速攻で仕留めるわ」
 黒煙に紛れるようにアリスが高く跳躍し、加速を増して煙を突き抜け、重力を載せた蹴りを足元狙って叩き込む。その衝撃で、アルマゲドンの水晶体が体勢崩して蹌踉めき傾ぐ。
 生じた僅かな隙を見逃さず。シルフィディアが黒い翼を広げて地面を翔けて、竜の力を宿した巨鎚を振り回し、アルマゲドンの背中の歯車目掛けて痛打する。
「どいつもこいつも……騙し合いなら他所の星でやってくれませんかねぇ!」
 先程までの気弱なシルフィディアの姿は、もうそこにはない。一度戦闘モードに入れば秘めた闘志に火が点いて、デウスエクスに対する怒りと憎悪を燃え上がらせて、冷酷無比な地獄の戦士の表情になる。
 限られた時間の中での戦いに、ケルベロス達は逸る気持ちを抑えるように立ち向かう。
 くるくる廻る機械の歯車が、導く先に待っているものは――絶望への時を刻み続ける歯車を、希望という名の未来に彼等は果たして変えられるのか――。

 水晶体の周りを遊泳していた魚型ユニットが、少女を護るように番犬達に迫り来る。
 まるで魚雷のように激しく突撃してくる双魚に対し、三角が重心を落として構え、闘気を滾らせながら身を挺してこの一撃を受け止める。
「ちっ……! でもこの程度の攻撃くらいなら、俺だって!」
 骨まで軋むような衝撃が全身中を駆け巡る。それでも三角は踏み止まって耐え凌ぎ、橙乃がすかさず癒しの力を行使する。
「――白銀に零れ落ちるは神秘の雫」
 橙乃の奇蹟の力に咲き乱れるは水仙の花。甘やかな薫り漂う花弁が空に舞い、黄金色の央の花冠の盃に、満ちた雫が癒しを湛え、受けた負傷を瞬時に治す。
「サイ、私と一緒に仕掛けるよ!」
 スズナが従者のミミックに、指示を送って同時に動く。サイがエクトプラズムから創った剣を突き刺せば、スズナは霊気を圧縮させた矢弾を歯車狙って射出する。
「儀式が失敗する様を、クリスタルの中でせいぜい見ていなさい」
 紳士的な言動の中にも、仄かな毒を含ませて。シトラスが翡翠色に耀く光の翼を最大出力させると、光の粒子を身に纏い、アルマゲドンに超光速の体当たりを見舞わせる。
「攻性植物の真似なんてしても無駄だから。わたし達が全部阻止してあげる」
 イズナが巫術を用いて御業を召喚。半透明の巨大な腕がアルマゲドンの水晶体を鷲掴みにし、そこへアリスが音を立てずに距離を詰め、ナイフを手にして斬りかかる。
「……一度捉えた獲物は、逃がさない」
 アリスの青い瞳に宿る冷たい殺意。死へと誘う甘美な毒が、アルマゲドンの機体の回路を痺れさせ、相手の力を奪うように削いでいく。

●廻る運命の行く末は
 アルマゲドンが本来の力を発揮できない分、戦況はケルベロス達が優勢だ。更に言うならこの戦闘中、メックカストが入ってくる気配は殆どない。おそらく残ったチームが奮闘し、増援を食い止めてくれているのだろう。
 そのことに彼等も気を緩めることはなく、尚も手数を重ねて攻勢を掛ける。
 ところが対するアルマゲドンは未だ眠りに就いた侭、余裕を漂わせるようなその姿には、得体の知れない恐怖感すら覚える程である。そんな彼女の思いを伝播するように、水晶体から発する広範囲の電磁波が、番犬達の加護の力を打ち消していく。
 しかし敵の攻撃手段は全て織り込み済みだ。それならと、今度はアリスや橙乃が燦めく闘志の光で仲間を覆い、再び彼等の戦意を研ぎ澄ます。
「Hen lu craret, Ren le ariet la Avnir――定めの花よ、希望を謳い導け」
 アリッサが詠うように呪文を唱えると、虚空に透き通った一輪の薔薇が生まれ出る。夜の藍を映すが如く、花弁がはらりと溶けて消ゆ。その残滓は命を吹き込む風となり、抱擁するかのように傷付く者の身を癒す。
「目障りな鉄屑が……ぶっ壊してやる……!」
 シルフィディアがオラトリオの力によって、時を停滞させる魔力の弾を錬成し、怒りをぶつけるように撃ち放つ。
「へっ……足元がお留守だぜ!」
 三角が首から下げたカメラをアルマゲドンに向け、シャッターボタンを押すと強い光が照射され、消えない光の残像が、敵の精神回路を狂わせる。
 直後にイズナが死角を突いて、妖精の加護を宿した矢を番えて歯車のみを狙い撃つ。
 更に入れ替わるようにしてシトラスが、呪力を籠めた刃を振り抜くと。時を断ち斬る一閃が、歯車に深い斬撃痕を刻み込む。
「何れは、貴方自身も破壊して差し上げましょう」
 不敵な笑みを携えながら納刀し、シトラスは時間の経過を確かめようとイズナと顔を見合わせる。
「――残りは10分。そろそろ畳み掛けてくよ!」
 そう知らせるイズナの言葉に、一同は頷きながら気力を奮わせ、ここが正念場だと一気呵成に攻め立てる。
「決着は後回しでも構わない……今は其の企みを潰すだけ」
 アリスは表情一つ変えることなく冷静に、刃を振るって傷を重ね広げるように斬り刻む。
「おねがい、がんばってっ!」
 スズナが祈りを捧げるように願いを込めて激励し、ただ真っ直ぐな、彼女の心の叫びが仲間の傷をも吹き飛ばす。
「貴女と一緒なら、どうにかなる気がするわ。さあ――往きましょう」
 同じ瞳の色持つ乙女にアリッサが、目配せしながら合図を送る。そしてビハインドと一緒に駆け出す彼女に、円も息を合わせるように力を溜める。
「――祈りよ届け、我が友に」
 円が月の魔力を喚び出して、夜色の魔女に破壊の力を齎していく。
 最初にリトヴァが超常的な力を発動し、念波によってアルマゲドンの動きを抑え込む。
 次いでアリッサが、太刀を片手に疾く駆けて、空を断つかのように抜き放つ。
 心の裡に燻る炎を灯すが如く、静やかながらも情熱的に振り抜く刃は弧を描き、剣戟の音を響かせながら斬り裂けば。歯車に大きな亀裂が走り、後もう一押しで砕ける寸前だ。
「後は任せるわ。あの歯車を全力で叩き壊してあげなさい」
 橙乃が杖を揮えば雷鳴轟き、シルフィディアに紫電を纏わせ彼女の眠れる力を賦活する。
 シルフィディアの全身に、力が漲り地獄の炎が烈火の如く噴き上がる。それを右腕一つに凝縮させて練り上げて、自身の地獄を集束させた紅蓮の杭と成す。
「風通し良くしてやりますよ……!」
 熱く灼けつく煉獄の杭を、歯車の中心狙って渾身の力で叩きつけるシルフィディア。
 破滅の時を刻む歯車に、全ての思いを込めた炎の楔が突き刺さる。歯車は罅割れながら砕け散り、儀式の魔力が逆流するように、地鳴りと共に真白き光が儀式場を包み込む。
 やがて光は薄れて消えて――刹那の狭間の静寂が、この戦いの終わりを告げるのだった。

 ――作戦開始から24分後。ケルベロス達は歯車破壊に成功し、これ以上この場所に留まり続ける必要はない。
 後は急いで脱出するのみと、速やかにダモクレスの迷宮からの撤退行動へと移行する。
 そうした中で唯一体、残ったアルマゲドンは薄ら目を開け、撤退していくケルベロス達を黙って静かに見送った。
 番犬達の背中を見つめる彼女の表情は、彼等に何かを言いたげで。しかし言葉を発することなく、その双眸は、茫洋と虚ろな世界を彷徨うばかり。
 『最終戦争』の名を持つ少女は、水晶の檻の中でどんな『未来』を視るのだろう――。

 斯くしてケルベロス達は全員無事に脱出し、戦場だった都市を振り返る。すると止め処なく溢れ出てくる液体金属が、周囲を瞬く間に機械化させていく。
 息つく暇などない程に、彼等は慌ただしくこの土地からの離脱を余儀なくされてしまう。
 これから先に待ち受けるであろう大きな戦いの、その前触れをそれぞれ瞳に焼き付けて。
 三角は脱出する直前に、辛うじて一枚だけ撮った写真を眺めつつ。
 小さく溜め息吐きながら、暫しの間深く思い耽っていた――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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