時代劇は悪であるッッ!!

作者:宮下あおい

●信者を集める
「時代劇は悪である!」
 町はずれ、人が住まなくなった空き家。家具もなく、床が抜けたり壁に穴が開いており、長らく誰も住んでいなかったことはよく分かる。
 そこに響いたのは、奇妙な主張だった。
 羽毛に覆われたビルシャナが、集めた10人の信者を相手に自身の教養を力説している。
「今の時代に生きるなら、今の番組を観るべきだ!」
 信者たちはビルシャナの異形を気に留めた様子はない。ビルシャナの奇妙な説法を聞き入っていた。
 信者のひとり、男が立ち上がり、握った拳を高くあげ口を開く。
「そうだ! 時代劇は悪だ! 排除すべきだ」
 ビルシャナの主張に何か悟りでも開いたかのような、爽やかな顔をして宣誓していた。

●概要
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は集まったケルベロスたちを見回した。
「鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 場所はある町はずれの空き家。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦い、ビルシャナ化した人間を撃破することが今回の目的だ。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やそうとしている所に乗り込むことになる。
「ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力があるため、ほうっておくと一般人は配下になってしまいます。
 ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になることを防げるかもしれません」
 ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり戦闘に参加する。ビルシャナさえ倒せば元に戻るため、救出は可能だが、配下が多くなればそれだけ戦闘で不利になるとも言える。
 ビルシャナの周りにいる人間は10人。現状では程度はあれど、納得しているようだ。説得に成功したなら、配下化は阻止できる。戦闘となってしまった場合、倒すと死んでしまう。
「ビルシャナの攻撃方法は、浄罪の鐘、ビルシャナ閃光、孔雀炎。場所は空き家で町はずれですから、ビルシャナと周囲の10人以外に市民はいません」
 10人の反応はそれぞれで、大いに納得している、頷いてビルシャナの教義を聞いている、少し興味があるなど、このように程度がある。説得して配下化を防ぐことは可能だろう。
 アーウェルは皆の顔を見回した。
「ビルシャナとなってしまった人は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように撃破してください!」


参加者
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
ベルーカ・バケット(チョコレートの魔術師・e46515)
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●説得
 町外れの空き家。冬本番を迎えるこの頃は、風も冷たく空もどんよりと曇っている。
 庭はあるものの、枯葉が覆い、雑草も伸びている。障子は破れ、壁に穴が開き、ドアは傾いていた。空き家だけに手入れがされているはずもない。床や畳も土埃が溜まっていた。
「時代劇とは、古きもの! 時代に即したものを見ることこそ、現代に生きる我らの義務ではないか!」
「そうだそうだ!」
 ビルシャナはよく分からない教義を熱くに解いており、信者たちも熱心に聞き入っていた。
 ケルベロスたちは、空き家の屋根から華麗に庭へと飛び下りる。
「待った待ったーー! キミたちはムジュンしてるぞ!」
 ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)は、自分のスマホから国民的人気のある時代劇の主題歌を大音量で流しながら割って入る。
「時代劇が悪とは聞き捨てなりません。鳥頭にも理解できるように、秘蔵の国民的時代劇のDVDボックスとともに教えてさしあげましょう」
 ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)が、31500円のDVDボックスを高々と掲げて宣言した。
 そこへベルーカ・バケット(チョコレートの魔術師・e46515)がショーテル――ゾディアックソードを手に、刀を持つ時代劇の主人公よろしく足を進める。
「時代劇が古くさいとは、黙って聞いておられぬ」
「そこのビルシャナ、余の顔を見忘れたか……? 」
 氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)は、こちらもさる国民的時代劇の台詞を口にしながら登場する。
 ビルシャナが口ばしをくわっと開けながら、緋桜にツッコむ。
「忘れるも何も、最初から貴様なんぞ知るか!」
「……いや、言ってみたかっただけだ」
 緋桜は気分を変えるように咳ばらいをした。
 その横でリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)がビルシャナを睨む。
「楽しみにしてる人を、自分勝手な理由で邪魔するなんて許せません!」
「時代、劇が、悪、か」
 霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)はぽつりと呟いた。
「今の時代には今の番組、そんなことを言っては、なんにも見られませんよ」
 ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が呆れたように言い、それに続いたのはタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)だ。
「時代劇は、今の番組にはない良さもありますよ」
「そうだよね、時代劇に見る歴史の良さもあるんじゃないかな」
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)が相槌を打った。

●説得その2
「時代劇なんか誰が見るか! おまえたちなんか帰れ!」
「邪魔な! ケルベロスども!」
 信者たちは石を投げてくるがケルベロスたちはそれを難なく避けた。そこへ加勢するかのように、ビルシャナが何やら奇妙な祈りを捧げ、破壊光線を放ってくる。
 緋桜がその合間を走り抜け、ビルシャナへと達人の一撃を叩き込む。
「あんたにしてみりゃ、俺たちがワルモンってわけか。時代劇のいいとこってのは、『イイモンがワルモンを華麗に倒す』ただそれだけ。しかし……」
「俺たちを倒すということは……すなわちカン善チョウ悪! 時代劇のお決まりの流れを、そのままキミたちがやろうとしているんだ!」
 ルアが緋桜の言葉に続いた。
「……なるほど、それも確かに……」
「おい! こんな奴の言うことに従うのかよ!」
 一部の信者たちに動揺が見られる。
 ラーヴァが冷静な口調で、矛盾点を突く。大げさな身振りで、ある映画のアクションシーンや剣を振るう真似をした。
「未来のスーツで戦うヒーローだって、剣と鎧の王道な中世モノだって、『今の時代』ではございません。そういうのは良いのですか?」
「うるさいうるさい! こんな奴らに耳を貸すことはないぞ! だいたい貴様ら……ぐぬっ!」
「控えおろう、この紋所が目に入らぬか!」
 ロベリアが2体の攻性植物をお供に見立て、ビルシャナへと駆け寄りDVDボックスをビルシャナに押し付け、定番の流れの台詞を口にした。
 リリエッタが目をつけたのは、若い女性の信者だ。目を泳がせたり、何か考えるような仕草をしたり、明らかに動揺している節がある。
「えっと、時代劇がなくなっちゃうとサムライやニンジャの人のお仕事がなくなっちゃうよね? サムライやニンジャの人がいなくなるときっと知名度が減って誰も知らなくなっちゃうの。海外の人も興味を持たなくなって日本離れが加速しちゃうよ!」
「侍や忍者の人の『仕事』はどうか知らないが、仕事を失って困る人が居そうなのは確かだな。日本の特色って意味じゃ、海外からの人気も高そうだし」
 傍にいた創介が援護射撃をするとハッした顔で、女性は顔をあげる。
「ええい! おまえたち、やってしまえ!」
 どこかの悪役のような台詞を吐くビルシャナに、ベルーカひと息で近寄り居合い斬りを放つ。
「現代を舞台にして、悪人を『問答無用!』と倒すのは、どうしてもアウトローにしなくてはいけなくなるが、時代劇なら正義の役人がそれを可能に出来る。……こんな風にな」
 その間にタキオンとソーニャが真面目に時代劇の良さを信者たちに解いていた。
 襲い掛かろうとする信者は一応人間だ。彼らに攻撃できるはずもなく、避けたりかわしたりしながら、慎重に言葉を選ぶ。中にはケルベロスたちの話に納得しかけているのか、黙って聞いている信者もいた。
「例えば、時代劇は、日本の歴史を表現した作品であり、時代劇を観ることで歴史に興味を持つ人も増えます」
「時代、劇、は、歴史、を、学ぶ、ことも、出来る。歴史、学ぶ、という、ことは、過去、を、知れる。過去、知る、という、ことは、現代、を、知る、ことに、繋、がる」

●説得その3
 時代劇の良さ、日本の歴史や文化の良さに触れながら、信者8人は説得に応じこの場を離れていった。
「残りは2人と、ビルシャナだね」
 創介が最後に残った信者2人とビルシャナを見やった。ここまでの説得で納得しなかっただけあって、ビルシャナへの崇拝は強い。
 ソーニャはいつの間にやら信者だったひとりの女性と仲良くなっていた。
「こうした、人、同士、の、接し、方、ひとつ、取って、も、過去、が、あるから、こそ。時代、劇、なかった、ら、現代、は、時代、劇、の、ような、世界、なってた、かも、しれない、な?」
 ソーニャは表情の変化に乏しいため、信者だった女性のほうが一方的に気に入った、とも言える。
「そして殺陣も時代劇の魅力のひとつだな。最近はアクション主体じゃない時代劇もあるけど、やっぱり時代劇といったら殺陣のシーンがメインだと思うぜ」
 緋桜が刀を振る真似をした。その言葉を体現するかのように、ベルーカが刀を振り上げる。
「現代の一般人は仇討ち出来ぬが、時代劇ならそれを可能にして、劇の上での、ついでに現実でのカタルシス晴らせるハズであろう」
 グラビティこそ使わないが、ビルシャナに一撃を加えようとしたが、するりと避けられ、刀の刃が柱へと刺さった。
「カタルシスを晴らすだけなら、他にいくらでも方法ある!! 刀を振り回すなど野ば……ぐぉっ!」
「そもそも時代劇というのは、今は消えかけている日本人の昔ながらの人情や正義観、悪は栄えないという勧善懲悪など、日本人のあるべき姿を再確認する為のバイブルなのです!」
 ロベリアはDVDボックスの中身を取り出し、自信満々に、トランプのカードでも広げるようにしてビルシャナの視界を塞ぐ。
 ルアは相変わらずスマートフォンで国民的時代劇のオープニングを流し続けていた。今回の任務で唯一ミュージックファイターだった創介と肩を組み、大声で歌い始める。
「……さあ! 歌おう! みんなで歌えば怖くない! 創介も!」
「勧善懲悪、ヒーローや王道展開は格好良いと思いませんか? もちろん時代劇の話でございますよ」
 ラーヴァの感情の起伏に応じて、兜から地獄の炎が零れる。
 女性のほうはソーニャの話に耳を傾けており、特別暴れるような様子はない。男のほうだけラーヴァが取り押さえる形になっている。
「だれが歌うか! 手を離せ!」
 その傍らでタキオンは持ってきた歴史書を広げながら、学校の教師のように続ける。
「歴史を学ぶことは、現代社会の成り立ちを知るためにも必須のことですので、時代劇はそれを助長する良い作品だと思いますよ」
「それだけじゃなくて、サムライやニンジャを題材にしたゲームやアニメ、漫画もなくなって週刊誌とかが大打撃なの!」
 リリエッタはアニメ雑誌を広げ、今流行りの戦国ゲームやアニメのページを指さした。

●戦闘へ
 怪我らしい怪我はないが、士気をあげるべく、ロベリアが小型治療無人機(ドローン)の群れを操り、味方を警護させる。
「皆さん、頑張りましょう!」
 女性のほうは問題ない。あとはビルシャナを倒してしまったほうが早い。
 時間はかかってるが説得の合間にも、牽制にビルシャナをグラビティで攻撃して、ダメージは蓄積しているはず。
「ここまで来たら、少し寝ててよ」
 リリエッタが信者に対して、手加減攻撃で気絶させた。
 あとひとり、こうとなればビルシャナを倒してしまったほうが早い。
「よし、行くよ。ひゃっほー!」
 猪突猛進――チョトツモウシン。
 ルアはグラビティをその身に纏わせ、スマートフォンから流れる音楽に合わせて、楽し気に叫びながら敵に体当たりをする。
「この勢いで倒してしまいましょう。……しかし、これだけは聞かせたいですね」
 時代劇自体はさほど見ないが、歴史や日本の文化についてならタキオンも話ができる。それらを学校の語るタキオンの横で、ベル―カがショーテル――ゾディアックソードを振り上げ踏み込む。
「……安心しろ、峰打ちだ」
「ぐわああああ!」
 ショーテルは両刃、日本刀のように峰はない。星座の重力を剣に宿し、あらゆる守護を無効化する重い斬撃だ。
 ベル―カは時代劇のあるワンシーンのようにポーズを決めているが、演技のつもりかそれとも――勘違いをしているのか。
「――成敗! なんてな」
 跳弾射撃。壁や地形を狙ってスーパーボールを投げ、跳ね返ったボールで敵の死角を貫き、緋桜はぽつりとつぶやく。
「悪代官を主人公が打ち倒す……その時にはこんな西洋の武器も出てくるかもしれませんね」
 ラーヴァはバスターライフルを構え、命中した敵の熱を奪う凍結光線を放つ。
 創介が雷の壁を構築しながら、他の展開を想像してふいに呟いた。
「逆もありそうだね、悪代官がそういう武器を持ち込むとか」
「髪型、かわいい……? ありが、とう、少し、待って、て」
 女性がソーニャの頭を撫でた。礼を告げたソーニャは女性の元を離れる。ビルシャナの頭上めがけて、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させた。

●決着
 反撃する隙を与えず、集中砲火で後は倒すのみ。
 しばしの攻防のあと、緋桜が踏み込む。
「アーン…パーンチ!」
 闇拳――アンパンチ。
 ダークエネルギーを集めた拳を対象に叩き込む技。ダークエネルギーの重力に反発する力を打撃と同時に対象へ叩き込むことで、対象のグラビティチェインは体内から蝕まれ、狂い、破壊され、肉体には凍傷にも似た症状を連鎖的に引き起こし続ける。
「次はこの曲だー! ほら、ロベリアも!」
「……わ、私もか!」
 ルアは曲を変え、ロベリアも誘った。流れてくるのは、やはり時代劇の主題歌だ。
「――このまま倒してしまいましょう」
 タキオンが敵のグラビティを中和し、弱体化するエネルギー光弾を射出する。
「炎よ、集え。風よ、集え。土よ、集え。沈黙させよ、殺戮せよ、討伐せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ」
 メギドフレイム・ラヴァ。
 ソーニャのグラビティ。狙いを定めた1点に、全ての力を、限界を超えても更に収束させ続け、増幅、膨張させた。限界を超えてなお増幅と膨張を繰り返した力は、やがて火山の噴火の如き大爆発を引き起こし、グラビティによって生成された大量の溶岩が敵に襲いかかる。
「ルー、力を貸して! ――――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 死ヲ運ブ荊棘ノ弾丸――スパイク・バレット。
 リリエッタのグラビティ。ルーシィド・マインドギアとのワイルドグラビティ。手を繋ぎ、お互いの魔力を循環させることで一瞬だが限界以上の魔力を込めた魔弾を射出する。荊棘の魔力を込められた弾丸は敵に食らい付いて外れることはないであろう。
 木々は倒れ、周囲の家屋もグラビティの衝撃で崩れ、瓦礫と化している。幸い町外れのため、人の住む家ではない。
 最後の一手。ベル―カとラーヴァが同時に仕掛ける。
「流星雨の名において……!」
 Meteor Garden――ミーティアガーデン。
 ベル―カは扇の要を外し、空中に放り投げ、その骨は雨のように降り注いだ。
「これにて最後でございます――我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 ラーヴァ・フォールズ。
 地獄の炎を纏う武器を上空から滝のように落とす。炎は体の異常を喰らい連鎖的に成長し、その場に害悪を撒き散らす。
 ビルシャナの断末魔と共に、聞こえたのはルア、創介、それにベル―カの歌声。
 周辺の修復や怪我人の手当、元信者たちへの謝罪を済ませたケルベロスたちは帰路へとつくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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