終末機巧大戦~センリツの水底

作者:森高兼

「東京六芒星決戦における『十二創神のサルベージ』という最悪の事態は回避された。見事、ケルベロスの勝利だな」
 そう話を切り出してきたサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)の表情は硬く、集ったケルベロス達に新たな緊急事態を予感させた。
「死神の野望は打ち砕いてくれたわけだが……今度は先の決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が動き出した。行き場を失ったグラビティ・チェインを利用し、奴らも大規模な儀式『終末機巧大戦』を引き起こそうとしているらしい」
 6つある儀式場で軍勢を率いる指揮官の内5体は、『五大巧』と称されるダモクレス。六芒星決戦に参戦するはずだったディザスター・キングの戦力を支配下に置き、増援要請を拒んで死神を裏切っていた。そして、大儀式の強行に至ったのだろう。
「儀式の中心は晴海ふ頭だ。その中央部に出現した拠点型ダモクレス『バックヤード』を基点に、周辺の物を呼び寄せている。合体変形を繰り返してダモクレス化が進み、すでに晴海ふ頭が巨大拠点になりつつあるぞ」
 『終末機巧大戦』とは東京湾周辺の工業地帯の全てを吸収し、湾全域をダモクレス拠点とする『東京湾マキナクロス化』なのだ。
「今回の儀式は爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模倣したのかもしれないな。このままでは1つの県に匹敵する広大なダモクレスの策源地が生まれてしまう」
 儀式を阻止するには『核となる歯車』を破壊しなければならない。だが6つの儀式場は、いずれも巨大な拠点型ダモクレスの内部となる。
「儀式の場所は晴海ふ頭外縁部である必要があるらしい。儀式開始と同時に急襲し、拠点型ダモクレスの内部に潜入してくれ。儀式が発動して完了までの猶予は……敵の侵攻が始まってからの30分だ」
 時間内に儀式を執り行う指揮官ダモクレスを撃破、あるいは核たる歯車を破壊しなければならない。成功した分だけ、決戦の被害は抑えられるだろう。
 事の経緯を述べたサーシャは、改めてケルベロス達を見据えてきた。
「どうか、東京をダモクレス達から守ってほしい。よろしく頼む」
 此度の決戦では各儀式場にて2つの『先行班』、3つの『突入班』に分かれる。
「君達には『第五の儀式場』の『突入班』となってもらう」
 第五の儀式場になる拠点型ダモクレスは『レヴィアタン』。最初の戦闘は先行班に任せ、隙を見て内部に侵入しなければならない。
「内部は海水に満たされている。ケルベロスの君達は窒息したりしないが、『水中呼吸』できるように準備すると気にはならないだろう」
 侵入後は指揮官ダモクレスがいる中枢部を目指し、途中で護衛部隊と遭遇することになる。3つの班が協力するか、班を分けるか……その選択が重要だ。
「護衛は人魚歌姫型ダモクレス『レイフォンGGG04』の部隊で、配下の海中型ダモクレスの指揮能力に優れている」
 防衛ダモクレス『ディープディープブルーファング』、『D級潜水艦型ダモクレスα』の能力は高められており、レイフォンGGG04を庇いやすい。
「そして、儀式の1つを担う『終末機巧』のダモクレスは『アポカリプス』だ」
 単独の班が『五大巧』の一角であるアポカリプスに勝利することは困難を極めるだろう。
「アポカリプスの側に配下はいない。護衛を排除し切れなかった場合、中枢部に到着したところで儀式の余波により分解されるが、融合によってあらゆるダメージを回復されてしまうぞ」
 回復量は数によって決まるため、敵は現れるタイミングを計算するはずだ。
「班の分散について大事な事項は纏めてある。資料に目を通してくれ」
 説明は敵の詳細情報に続く。
「ディープディープブルーファングは機械の触手で縛り上げたり、サメ型の魚雷を撃ったりしてくる。D級潜水艦型ダモクレスαも脚部の魚雷と、広範囲にミサイルを発射するぞ。数は半々だ」
 ディープディープブルーファングが『ディフェンダー』でレイフォンの守りを固め、『クラッシャー』のD級潜水艦型ダモクレスαは猛攻を仕かけてくるだろう。
「レイフォンが歌声で海水を操ると、複数の対象者を包み込む水流は盾と化す。何かに悲観する歌は、君達の意識を海の底に沈めるように催眠をかけるものだ」
 配下達を前衛に置いて、レイフォン自身は後衛の『メディック』になる。
「歌の他にバブルリングを放つ。武器に絡みつくバブルリングは……まるで泡になった人魚の残滓だな」
 アポカリプスは『ジャマー』として皆を迎え撃ってくるつもりらしい。
「奴は空間の時を支配する、白と黒の鍵剣を構えているぞ。水中という場所で、白鍵は水圧を生み出すのに対し、黒鍵は動きを抑制させてくる。さらに……同時に振るえば、相反する性質がせめぎ合って水の流れは暴走するようだ」
 話が長くなったため、サーシャが最後に一言だけ告げてくる。
「全体の状況は作戦中も気になるだろうが、君達は……君達の戦場で全力を尽くしてもらいたい」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)

■リプレイ

●劣勢なれど
 『レヴィアタン』は濃霧を発生させており、現在地からでは姿がぼやけて見える。班同士で協力することに支障は無いだろう。
 内部に乗り込めば、戦力に勝る護衛部隊に戦いを挑む8人のケルベロスと2体のサーヴァント。
「なかなかに厳しい状況ですね。でも、このくらいの方が楽しめます」
 一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が淡々と相棒に囁きかける。
「そうでしょう? ハンナ」
「殺るか殺られるか……上等さ」
 瑛華の問いに、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は煙草を吹かして答えた。
(「ダモクレスって機械なのに錆びたりしないのでしょうか」)
 そんな事を考えていたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)だったものの、それは余裕の表れではない。彼はいついかなる時もマイペースなのである。
 先行班が行動開始すると、皆は他の突入班と足並みを揃えた。レヴィアタンの巨躯に取りつき、無駄な消耗を避けて噴出口付近へと辿り着く。
 その時、レヴィアタンの大きな体がぐらついた。
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が高速演算によって噴出口の脆い部分を特定する。
「一斉攻撃のチャンスだな!」
「幾重の加護よ、宿れ……」
 護衛部隊戦でヒールに徹するウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は、杖に何重もの強化魔法を施した。噴出口に叩き込むのは此度の作戦において、最初で最後の大打撃だ。
「マギノストライク!」
 3つの突入班による総攻撃をくらい、耳をつんざくようなレヴィアタンの鳴き声が響き渡った。
 海水に満ちた内部に降下していき、突入班が追ってきた先行班と合流を果たす。ある方向より微かな光が射し込んでいた。脱出は口からになるだろう。
 侵攻していくとD級潜水艦型ダモクレスα達の襲撃に遭ってしまった。先行班だけの被害に留まったことは幸いか。
 ピジョン・ブラッドが先を急げと言うようにサムズアップし、巫・縁と彼のオルトロスが敵達に立ちふさがる。
 かくして、先行班は防衛ダモクレス達に乱戦を仕かけていった。
 皆が中枢部の手前で待ち受ける護衛部隊と、瞬時に交戦可能とするために先頭を行く。
 やがて前方に護衛部隊と思しき敵影を確認するや否や……瑛華は捨て身の覚悟で突出した。さらに神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)とボクスドラゴン『ラグナル』が仲間達を守るアジサイ、ハンナと共に前進する。
 千手・明子(火焔の天稟・e02471)も敵を牽制しようと前衛陣の後に続いた。
 護衛部隊の『レイフォンGGG04』が率いる配下はディープディープブルーファング、D級潜水艦型ダモクレスαが均等に5体ずつだ。
(「相手の方が数の多い戦いは久しぶりですね」)
 何よりレイフォンの存在が強大で、ウィッカが改めて決意を固める。
(「先へ進む方々が万全に戦えるように、全力をもって耐久しましょう」)
(「無理ゲーの悪寒だけど。やるしかねぇか……」)
 リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)はゲームキャラの立ち絵風に身構えてみせながら、目配せでウイングキャット『シロハ』にヒールの専念を指示した。なお、彼女が防水タイマーで計っている作戦の経過時間は半分も切っていない。
 最後に合図を送るように背後の突入班を一瞥したカルナが、後方からレイフォンに目で語ってみる。
(「人魚のお姉さん、僕達と遊びましょう。あまりつれない態度だと寂しいですよ?」)
 『アポカリプス』を狙う突入班には、拍子抜けする程にあっさりと戦場を突破させることができた。皆の士気は極限まで高まっているため、護衛部隊が強く警戒してきたからだろうか。
 仲間達に託された皆の戦いが……幕を開ける。

●困難に臆さず
 水中で聞こえる美しい歌声にて水流を操り、レイフォンは防衛ダモクレスの各1体ずつに守りの力を発揮させてきた。
 アジサイが竜友の晟と視線を交え、相棒の明子に呪的防御を砕く支援技術を『呪破』で伝達する。
(「俺は途中で倒れるだろうが。あきらと神崎、仲間がいれば上手くやれるか」)
 呪破は竜爪撃の解析で編み出したアジサイのグラビティだ。その名称に違わず、いずれ明子が水流の加護を破ってくれるだろう。
 グラビティの声が特殊ならば、炎もまた特殊。
 竜派のドラゴニアンたる晟は大顎を開き、息吹で蒼き炎の旋風を起こした。
(「焔焔に滅せずんば、炎炎を若何せん」)
 蒼炎が防衛ダモクレス達を焼き払いながら、やや薄暗かった戦場を鮮やかに照らす。
 瑛華もヌンチャクに装填した紅蓮の炎を放っていった。
 礫に使えそうな海水が豊富にあるという環境に、ハンナがシニカルな笑みを浮かべる。
(「さぁ……一仕事といくか」)
 防衛ダモクレス達にばら撒いた水弾は無限に等しかったかもしれない。
 明子は環の形を工夫している分銅鎖『袖鎖』を床に走らせた。
(「背中を守ってあげるわたくしの活躍が見られないのは残念ね!」)
 相棒かつ体の一部みたいなアジサイと『あきら』仲間の晟、無論他の仲間達も1分1秒と長く耐えてもらえるよう、複雑な守護の魔法陣を描いていく。
 カルナの突撃で防衛ダモクレス達は隊列を乱し、魔法の木の葉を彼に纏わせるウィッカ。シロハは羽ばたきで自分達の呪力耐性を強めた。
 防衛ダモクレス達との距離を詰めていったリリベルが、どこからともなく召喚した炎の力を宿す剣の柄を握り締める。
(「ファイナルソード・カグツチ!」)
 炎の迸る剣は振り切られると……跡形もなく燃え尽きていた。
 防衛ダモクレス達とてレイフォンによって十二分に士気が高揚しており、前衛陣の並び立つ場所に魚雷やミサイルが飛び交ってくる。
 レイフォンは人魚型を名乗るのに相応しい妖艶な雰囲気で口をすぼめ、すぐに散りゆくバブルリングを作ってきた。
 しかし、ハンナが瑛華を庇って彼女に攻撃の手を緩めさせない。
(「残念だったな」)
 絡みついてくる泡のせいで、運び屋としての矜持から溢れ出すバトルオーラ『pride』には違和感を覚えた。瑛華の打撃がD級潜水艦型ダモクレスαを瀕死に追い込み、目にも止まらぬ水弾で敵に止めを刺しておく。
 明子は籠手の掌から防衛ダモクレス達に光弾を撃った。
 再度、防衛ダモクレス達の攻撃が前衛陣に降り注ぐ。こちらと同様に前線から瓦解させるつもりらしい。
 アームドフォートの照準をレイフォンに合わせ、カルナが主砲で砲撃を行う。堅い盾のいる状況で、見事に直撃させたのは装甲の薄そうな上半身だった。
(「結構効いたようですね」)
 あくまでもカルナの目標は抑えだ。次こそ、ディープディープブルーファング達にも身を挺されるだろう。
 ウィッカはマインドリングから光の盾を具現化し、ハンナの正面に飛ばした。ヒールに集中しているおかげで彼女の周囲に滞留する邪魔な泡を弾かせる。
(「我が魔術は回復の術もなかなかですよ」)
 儚げな表情をしているレイフォンは、意識が暗い海底に引きずり込まれそうな悲しき歌を響かせてきた。絶望感を煽る歌が前衛陣の心を掻き乱す。
 瑛華の分まで音波を浴び、晟が床に竜頭を模した月牙を持つ蒼竜之戟『淌』の石突を叩きつけて巨体を支えた。
(「対象を、見誤るな……!」)
(「敵はここだぞ!」)
 アジサイのウイルスカプセルが投射されたD級潜水艦型ダモクレスαを見やり、正気を保って稲妻を帯びた『淌』で雷竜のごとく敵を突く。
 明子はウィッカに余剰グラビティを受け渡した。
(「心に花の種ぞある」)
 『花』は真心、『靭』は矢を入れる武具。『花靭』は信頼する者達を想い、ヒールグラビティの効果を底上げさせる備えの一手だった。
 グラビティで鎖を生成した瑛華が、ディープディープブルーファングを一本釣りするように引き寄せる。殴るか蹴るか、撃つか……現在の気分は後者だ。
(「終わりにしましょうか」)
 離れさせないでいる敵の頭に銃口を当てて撃ち抜く。
 その瞬間、数の差は逆転した。

●希望を繋いで
 水弾の嵐で切り込んだハンナに、D級潜水艦型ダモクレスα達が魚雷で反撃してくる。
 瑛華はレイフォンのバブルリングに包まれながらも『dear sniper』を振り下ろした。対物狙撃銃を象った一癖あるハンマーにもかかわらず、泡をものともしないでD級潜水艦型ダモクレスαを叩く。
 メカ触手を伸ばしたディープディープブルーファング達は、2人のドラゴニアンを捕らえてきた。
 晟がリリベルに隊列変更を要請するサインを出す。
 リリベルと一緒に晟のサインを目撃し、カルナはラグナルに時空干渉治癒方陣を展開した。
(「時統べる意思よ、我と共に在れ」)
 ラグナルの傷が時間の加速による治癒力の促進で急激にふさがる。晟が危険ということはラグナルも少なからず限界に近かったはずだ。同時に隊列の穴ができる窮地を招くわけにはいかない。
 リリベルがドラゴニックハンマーを『砲撃形態』に変形させる。
(「移動前のラストアタック、いくよ」)
 竜砲弾はD級潜水艦型ダモクレスαの顔面に炸裂した。それは強烈だったようで敵から思い切り睨まれる。
 すでに深手を負っている晟へと、防衛ダモクレス達の兵器が発射された。
 竜頭を模した錨に鎖と柄を取りつけた蒼竜之錨鎚『溟』で爆発の威力を殺し、時には躱す晟。被弾すれば魂を奮い立たせ、水中で咆哮するように息を吐き出した。全てを捌き切ることは……できなかったが、数多の攻撃を引きつけた末で内壁に吹き飛ばされていく。
 晟を診た明子の様子で無事を察しつつ、アジサイは暗海の惨歌より瑛華を遠ざけた。
(「大丈夫のようだな」)
 友の意識を奪ったD級潜水艦型ダモクレスαを、デウスエクスによく効く殺神ウイルスで仕留める。
 リリベルがすぐさま隊列を整えた。だが依然としてピンチのラグナルが抜けると……今度はシロハの出番だ。ひとまず、明子が彼女のために袖鎖を操作する。
 瑛華は手に馴染んでいる黒檀のヌンチャク『練達』に炎を装填し、防衛ダモクレス達を燃やしていった。
(「今は互角のようになっていますけど……」)
(「瑛華には悪いが、アジサイにいなくなられても困るか」)
 班において最も打たれ強いのはハンナであり、己の身を顧みずに気力を溜めることを選択する。腕の立つ運び屋たる彼女のオーラはアジサイに素早く届けられた。
 明子が漆塗りの縛霊手『金糸銀糸素懸威籠手』を構える。
(「必ず決めてみせますの」)
 撃ち出された巨大な光弾は、前衛陣の排除に余念が無い防衛ダモクレス達を薙ぎ払った。それによって水の流れを元通りにさせる。
 しかし、ラグナルは防衛ダモクレス達の攻撃から瑛華を助けて消え去ってしまった。
 先程より効率的に水流をうねらせてくるレイフォン。
 戦況は何も悪化するばかりではなかった。
 一度攻撃を防がれながらも即座に別の機会を得て、カルナがレイフォンに今一度痛手を与える。シロハはリリベル達の負担を軽減するために前へと出た。気の滅入るレイフォンの惨歌に惑わされず、アジサイがハンナに気力の借りを返す。
 瑛華は呼吸を一つにしてくれたハンナに合わせ、ディープディープブルーファングとのチェーン・デスマッチで蹴りを見舞った。技に巻き込まれないように退散し、彼女に艶っぽく微笑む。
(「交代よ」)
(「蹴散らしてやるとするか」)
 バグ状態となったように目の焦点が定まらぬディープディープブルーファングの頭部に……ハンナが美しい弧の軌道で後ろ回し蹴りする。左右交互に命中させていき、敵を破壊してやった。
 数的有利が二転三転していく。

●最善の道へ
 防衛ダモクレス達に攻められた直後、アジサイは頭の上で片手を振った。
 ここからが正念場で全体を優先しようと、ウィッカがケルベロスチェインを繰り出す。
(「シロハさんの防壁がまだですから……ごめんなさい、アジサイさん」)
 明子の援護を待ってはいられない。苦渋の決断はアジサイも理解してくれているはずだ。
 今回は勝てそうにない相手との争いで、少し虚勢を張っていたリリベル。ただセリフならば強がりを言うことはできる。
(「アジサイさんを絶対に大怪我させないよ」)
 防衛ダモクレス達の猛攻にアジサイの盾という役をシロハと全うしてみせた。
 レイフォンのバブルリングがアジサイに迫り来る。だが彼の負傷は戦闘継続できない程度で済み、リリベルの大言は現実のものになった。
 アジサイの意識が薄れてゆく。
(「後、は……」)
(「任されてあげるわよ」)
 半身を失ったような辛い気持ちを隠しながら、明子はアジサイを退避させた。
 いよいよ、カルナまでもが最前線に駆り出される。間隔を空けた防衛ダモクレス達の攻撃では、瑛華とハンナが戦線離脱に陥った。その意趣返しにD級潜水艦型ダモクレスαを2体纏めて沈める。
 レイフォンは再び神秘的な雰囲気で、損傷の激しい防衛ダモクレス達のために歌ってきた。攻撃の勢いは確実に削がれている。5体に減じたからこそ、最大限の効果によって立て直しを図ったのだろう。
 しかし、ケルベロス達は1つの幸運に恵まれていた。それは皆の善戦とカルナの奮戦により、レイフォンを想定以上に弱らせることができた点だ。
 海中型ダモクレスの指揮に長けるレイフォンの討伐には意義があると言えよう。
 双方が一進一退の攻防を繰り広げる最中にリリベルはやられてしまった。だがこちらもD級潜水艦型ダモクレスαを1体撃破する。
 明子が静かにレイフォンを真っ直ぐと見据えた。
(「あなたがアジサイを気絶させたのだったわね」)
 損壊して中のパーツが剥き出しになっている腕に、空の霊力が込められた袖鎖で穿つ。
 万全を期してもらおうと、ウィッカは光の盾をカルナに放出させて呪われた泡を祓っておいた。
(「これからのためにもお願いします」)
 カルナがレイフォンの口から生み出されたバブルリングを紙一重で回避し、古代語を詠唱していく。
(「さようなら、人魚のお姉さん」)
 魔法の光線に胸を貫かれたレイフォンは……憂いの表情のまま消滅していった。
 統率力を欠いた防衛ダモクレス達は最早脅威にならない。耐え凌いでいると振動を感じ、レヴィアタンの崩壊を予測させた。アポカリプスか歯車か……あるいは両方。こちらの目的が達成されたのだろうか。
 これより脱出だが、ケルベロスならば大柄な男くらいなら重たくない。ましてや、ここは浮力のある水中だ。
 アジサイを連れる明子が晟も気にかけており、ウィッカが彼に肩を貸す。
(「私が晟さんを運びましょう」)
(「ありがとうございます」)
 シロハは頑張ってリリベルを出口方面に引っ張っていた。
 相対的に瑛華とハンナの女性コンビは、カルナが安全確保することになる。
(「それじゃあ、皆で帰ろうか」)
 まさかの朗報を土産に、皆は帰還していくのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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