終末機巧大戦~要塞女王の湾岸行進

作者:木乃

●漁夫の利
「東京六芒星決戦、まことにお疲れ様でした。此度の戦勝は死神勢力にとっても痛手だったに違いありませんわ」
 しかし、オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)の硬い表情に、ケルベロス達も強ばる。
「十二創神のサルベージという最悪の事態は防ぐ事が出来ましたが、ここで台頭する動きを見せた勢力がありましてよ……東京六芒星決戦に参戦しなかった『ダモクレス』です」
 儀式失敗によって行き場を失った、東京湾一帯に広がるグラビティ・チェイン。
 それを強奪するため、ダモクレス達も大規模な儀式を決行しようというのだ。
「大儀式『終末機巧大戦』……この大作戦を率いるのは『五大巧』と呼ばれる、五体の有力ダモクレスですわよ。五大巧達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦するはずだった戦力を支配下におさめ、死神を裏切り、儀式への増援を拒否していたようですわね」
 そして温存していた戦力を利用し、今回の作戦を強行するというのだ。
「既に晴海ふ頭中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んで『晴海ふ頭そのものをダモクレス化』してしまっていますの。……さらに、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』は、核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行うことで、爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させることが最終目的と思われます」
 ――東京湾一帯を占拠する規模となれば、都市機能へ多大な影響が出る。
 計画を阻止するために、オリヴィアは作戦概要を通達する。
「『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車の破壊』が必須。ですが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われるため、拠点型ダモクレスの内部に潜入しなければなりません」
 終末機巧大戦の儀式は晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始。
 移動中の拠点型ダモクレスを急襲し、儀式を阻止することになる。
「敵が侵攻開始してから、儀式が発動するまでの『猶予は30分』と時間がありません。30分以内に敵拠点へ潜入・護衛を排除し、『儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破』あるいは儀式の要石である『歯車を破壊』しなければなりません」
 儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることが出来るだろう。
 逆に、儀式が全て完遂されれば東京湾全体が敵に落ちる、が――。
「全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑えられますわ。厳しい状況となりますが、皆様が達成できますようこちらも尽力します」

 このチームが担当する地域は『第六の儀式場』だとオリヴィアは告げた。
「対応は突入班3チームと先行班2チームの計5チーム。皆様には『先行班』として、拠点型ダモクレス『超弩級人型要塞ギガマザークィーン』を引きつけてくださいませ。突入するためには、防衛機構を誰かが食い止める必要があります……それともう一点」
 ――ギガマザークィーンは晴海客船ターミナルから『海上をホバーして、レインボーブリッジへ直進』するという。
「この拠点の指揮官、『終末機巧』エスカトロジーは、六芒星決戦で残存した『第四王女軍を退けた後』に、レインボーブリッジで儀式を行うつもりですの。レインボーブリッジに引きつけて戦えば、第四王女軍との『三つ巴の戦い』も可能」
 乱戦になれば先行班の負担はやや軽減されるだろうが、デメリットもついて回る。
「ですが、ギガマザークィーンがレインボーブリッジまで移動する必要があるため、『作戦開始を遅らせなければ』なりません。『タイムリミットまでさらに時間が減ってしまう』ことがネックですわ……どこまで接近すると両者が交戦するか、現時点では不明です。『第四王女軍との戦闘が始まったら』、もしくは『残り時間が何分になったら』と開始条件を決めておいてくださいませ」
 無論、第四王女軍との交戦を避け、儀式発動までの30分をケルベロスのみで対応してもかまわないとオリヴィアは提言する。

 さらに突入班が内部へ潜入した後も先行班には役割がある。
「マザークィーンは『防衛ダモクレス』によって守護されています。前線指揮官に『メタルガールキャプテン』、指揮下に『メタルガールソルジャー・タイプG』を配置しています。他の場所から次々と送り込んでくるため、先行班にはこの防衛部隊を中枢部へ向かわせないよう足止めして頂きたいのです……突破されれば突入班に被害が及ぶでしょう」
 拠点型ダモクレス、そして大多数の増援との交戦――かなり厳しい戦いになることが予想される。
「ギガマザークィーンは上体が甲冑のような、下体がスカート状のホバースラスターで構成された拠点ダモクレスですわ。大量のミサイルによる絨毯爆撃、屈折するビームシャワーは広範囲に射出され無数の傷を作ります。さらに自爆する攻撃ドローンで集中攻撃を浴びせてきますわよ」
 名に恥じぬ超弩級機動要塞。
 その猛攻をくぐり抜けた内部では、前線指揮官のキャプテンらが防衛部隊を展開している。
「タイプGは拠点防衛用に再調整された機体が多いようですわね。先発に防護型を配備していますが、消耗させながら攻撃型のモデルを増やしてくるため体力の配分ペースには充分注意を」
 機械的に処理しようと思考するのがダモクレスという機械種族。
 そして前線を指揮するのが、メタルガールキャプテン。
「キャプテンはメタルガールシリーズでも高機動型、遠距離からのヒット&アウェイを得意としていますわ。タイプGによって接近出来ないでしょうが、作戦目標は『増援の足止め』です。キャプテン撃破は二の次、としてください」

 六芒星決戦はさまざまな勢力が関わっていた。
 そこを出し抜かんとするダモクレスへの心象は、他勢力からも思わしくないだろう。
「死神のネレイデス勢力が黙って引き下がるとは思えませんし、竜十字島のドラゴンらも太平洋上で様子を窺っているようですわ。ダモクレスの目論見に乗じることはないでしょうが、これ以上つけ入る隙はないと思い知らせてあげましょう」


参加者
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)
天変・地異(は名前多すぎ・e30226)
病院坂・伽藍(敗残兵・e43345)

■リプレイ

●女王の行進
 見上げるほどの人影。
 海風を全身に受ける超巨大拠点は轟音とどろかせ、レインボーブリッジへ向かっていた。
「でけぇ図体で来やがったな……」
「近づくほど嫌んなるビッグママっすね~、アレ」
 シュプールを描く3台の水上バイクと低空を飛翔する影が2つ。
 そのうち1台に同乗するラティクス・クレスト(槍牙・e02204)と病院坂・伽藍(敗残兵・e43345)は接近するにつれ、その圧倒的な存在感に息を呑む。
 ――この超弩級人型要塞ギガマザークィーンを攻略する。
 言うが易し、行うが難しとはまさにこの状況を指すだろう。
「運転よろしくね、フィーちゃん!」
「任せて縒ちゃん。僕らの連携見せつけてやんなくっちゃ」
 同乗する月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)は操縦者フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)の肩に手を置き、座席へ片膝つくように体勢を変える。
 フィーが安全運転を心がけても戦場は大荒れ必至。酔い止め対策も万全だ。
(「第四王女軍、まだあそこにいるんですよね……私はなぜホッとしているのでしょう?」)
 アクセルを絞るフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は対向に臨むブリッジを一瞥する。
 これだけの超高層物が接近しているのだ。あちらも気づいているだろうが、動きは見られない。
「向こうも異常は確認してないね……俺も気を引き締めていかないと」
 フィルトリアの後部ではノル・キサラギ(銀花・e01639)がもう一方のチームを双眼鏡で確認していた。
 ――六人はいわゆる座った姿勢だ。自然と視線が上向きになり、サイズ感の精確さが欠ける。
「まずいな」
 焦りを滲ませていたのは飛行するグレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)、青い作業着姿の天変・地異(は名前多すぎ・e30226)だ。
「ああ、予想以上に『デカい』な」
 グレッグの言葉に地異も表情の険しさが増す。
 飛行状態の最高高度は50m。他のメンバーを投げ飛ばしたとして、安定しない状態で一斉に落とされれば滑落中の復帰は難しい。
 マザークィーンからの妨害も予想できるだけに、この手法がいかに困難なものだったか思い知らされる――打開案を思索するには時間がなかった。
「用意はいい? ……さーて、飛ばすよー!」
 フィーの号令を合図に水上バイクは加速し、地異達も追うように疾駆する。

 弩級ダモクレスとケルベロス、さながら象と蟻ほどの対比。
「ノル、いくぞ」
 グレッグは注意をひきつけようと前のめりに接近。
「任せてグレッグ! フィルトリアも」
「はい。操縦はこちらで」
 向き直るノルの脳裏に菩薩累乗会で遭遇したダモクレス、そして過去の行いがよぎった。
(「……他人の利益をかすめ取るような真似ばかり。チキンなのはダモクレスのお家芸かよ」)
「ああ、良く知ってるさ……それでも、おれは『人間』だ!」
 全身から突き出すミサイルポッドに迸る激情を込め、ノルは肉薄するグレッグの背後から発破をかけた。
 敵対勢力を認識したマザークィーンは右腕の発射管扉を解放する。
 尾を引くミサイル群は瞬く間に頭上を埋め尽くし、海上への着弾と同時に水柱が登る。
「飛沫で視界が!?」
「蛇行すれば避けられるはず――」
 雪崩れるように立ち塞がるウォーターフォール。
 驚愕するラティクスにフィーは左右へ回避しようと速度を僅かに緩めるが……そこに見落としがあった。
 虹のアーチを浮かべる水柱が目前に迫り――同時に、絨毯爆撃の余波が水上バイクに及ぶ。
「やばっ、ハンドルが滑る!?」
 荒れ狂う波で操縦が効かず、伽藍は制御不能なバイクから振り落とされた。
 ただの小型艇がデウスエクスの攻撃に耐えられるはずもない。
 フィルトリア達は次々と海へ投げ出されていく。
「おい、大丈夫か!」
 滑空する地異が呼びかけつつ、動きを止めようと黒陽の光で牽制。
 転覆した水上バイクは煙をあげ、エンジンが故障してしまったようだ。
「――振り払えたと、思うなよ!」
 海中から横転したバイクに乗り上げ、ラティクスは砲撃体勢に移る。
「バイクは足場代わりにするしかなさそっすね」
 放物線を描くナパーム弾がスカート部分に炸裂し、伽藍も鎖で護法陣を張り巡らせていく。
「コートで、動きにくい~……っと!」
 ずぶ濡れの縒が舞台衣装仕立てのケルベロスコートを脱ぎ捨て、海中のフィーとともにさらに法陣を重ねる。
 マザークィーンは誘導弾を再装填しているのか、今度は左腕が動きを見せた。
「スカートにさえ、とりついてしまえば……!」
 これだけ巨大な駆体ならばと、フィルトリアは念動による爆破をかけつつフォルティシモを砲撃モードに切り替える。

 しかし、無礼な振る舞いを赦すほど女王も寛大ではない。
 ――左腕の扉が解放され、多数のレンズが輝きをみせる。
「左はビーム兵器か……ラティクス、縒!」
 放たれる数多の光流にノル達が躍り出る。
 降り注ぐ高熱の束は一条ごとに屈折、意思を持つように鋭角を描き、二班を薙ぎ払わんと海面ごと貫く。
「的が小さいなら周りごと吹っ飛ばすと……大雑把って言うか、やることがデカいっていうかさ!」
 光の雨で装甲を裂かれるラティクス達に、ダブルジャンプで足場を変えるフィーは再び鎖を伸ばす。
「だが、狙ってはいるらしいな」
 グラビティで編んだレースは防具ごと傷を塞ぎ、ビームシャワーから護られたグレッグが濃縮した忿怒の拳を何度も叩きつける。
「さて、派手に行きますか!!」
 地異も高所を狙って取り出したバールを擲ち、剥がれた外装が新たな足場となった。
 ――目には目を、歯には歯を。
 非礼にはさらなる猛威を以て女王は返礼する。
「ミサイル、来ます!」
 二度目の絨毯爆撃にフィルトリアが注意を呼びかけるが、海上を埋め尽くす爆炎に、ラティクス達は皮フを爛れさせた。
 頭髪から滴る水滴を爆ぜる炎が吹き飛ばす。
 隙間を埋めるように放たれるビームの雨は、チームの盾となる縒達を奔走させ、追随を妨げていた。
「っ、もう組みついてる予定だったんだけど……!」
 爆炎を水中でやり過ごしたノルが海面から顔を出し、もう一方のチームを見やる。
 僅かに先行しているものの、対処に追われて旗信号を送る余裕はなさそうだ。
(「……突入班は」)
 大量の刀剣を外装に突き立てる伽藍はヘリオン三機の位置を確かめる。
 上空では既に突入班が準備をすませ、飛びつかんとしている真っ最中だった。
(「よし、あのまま飛び移れば」)
 視線を下げようとした直前。
 ……視界の端に見覚えのある白煙、閃光。
 そして、複数の小型無人機が急接近していた。
「まずいっすよ、ヘリオンが……――!!」
 旋回しようとする1機のヘリオンは一斉攻撃を浴び、戦場にいっとう大きな爆破音が響く。

●緊急事態
 直撃を受けたヘリオンは、黒煙と光の粒子を空にまきあげ墜落していく。
 ――薄れる機影から人影が飛びだす。
 それは海に向かって落下し、水面に浮かぶ気配はなかった。
「どうしよう!? あっちも撃墜されたのは見てたろうけど、このまま放っておくわけには……!」
 予想外の状況に錯乱しつつも、ノルは突入班にアイズフォン通信を試みる。
 ――応答する声はなく、聞こえる音はノイズのみ。
 耳障りな雑音が焦りをさらに加速させた。
「突入班の援護は必要っすけど、ヘリオライダーを見殺しにも出来ないっすよ?」
 伽藍も危機感を募らせる中、フィルトリアはマザークィーンの行動に微かな違和感を覚えていた。
「なぜヘリオンだけに攻撃を……もしかして、『想定外』だったのでしょうか?」
「そうか、だから慌てて対処したのか!」
 地異は離脱する2台のヘリオンを一瞥し、もう一方のチームが昇っていく様子を確認する。
 いずれにしろ、ここで足を止めている訳にはいかない……グレッグは決を下す。
「――こちらはヘリオライダーの救助に向かう。突入班の援護を頼む!」
「任せてにゃー!」
 ロープ片手に大きく揺らされていた、レッサーパンダの獣人少女が溌剌な声を返す。
 肉球パンチを繰り出しながら、外装を登り、他のメンバーも突入口を目指して登攀を開始する。

「高所から海に落ちるなんて……早く引き揚げないと衰弱しちゃうよ」
 ヘリオライダーはケルベロスと違い、身体能力は一般人と同等。
 冷たい海に全身を強打されればひとたまりもない。フィーの懸念はもっともだ。
「こらー! こっちにまだ残ってるぞー!!」
 黒猫のチロちゃんを放ち、墜落したヘリオライダーから注意を引こうと縒は攻撃を続ける。
「落ちた人は水温で体温も奪われてる、こっちで張り付いたチームをアシストしてすぐに救助へいこう」
 提案するノルに、見計らったようにヘリオンを墜落させた小型無人機が飛来し、
「何度も墜とせると思うなよ!!」
 雷槍を携えたラティクスが間に割り込む。
 軌道を柄で逸らそうと穂先を向けるが、ただのドローンではなかった。
 ――接触と同時にドローンは自爆したのだ。
「ラティ!?」
 特攻するドローンに沈められた親友は水中から顔を出し、安堵の息を吐くノル。
 だが、マザークィーンは攻撃の手を緩めない。
 フィルトリアの視線の先、頭上からビームの嵐が迫っていた。
「あちらのチームが登りきるまでアシストしましょう」
「そうっすね、救助にも行かなきゃならないし、固執しても怪我人を増やすだけっすわ」
 後方へ目を向けさせず、なおかつ取り付いたチームにも注意を逸らす。
 フィルトリアと地異が火力支援をかけている間に、伽藍は海に沈んでいた惨劇の記憶を海上に引き上げる。
 記憶から魔力を抽出すると、壁を作る縒達の微傷を埋め、ノルの禁じられた歌が響き渡る。
(「こっちだ、こっちに向け……!」)
 ほんの僅かを凌ぐ。今こそ正念場だとノルは自らの型番を刻むアリアデバイスを握りしめた。
 縒も足場に踏みとどまり、尻尾の毛を逆立てて全身のグラビティを活性化させる。
「猫の牙だからって、侮ったら後悔するよ……!」
 其れは獣の咆哮。
 不撓不屈の気迫を込めた叫びが、マザークィーンのスカートに咬傷を残す。
 グレッグの手元から伸びる如意棒が、海中から飛び出したラティクスが紫電を帯びた雷槍で抉りこみ、フィルトリアの砲撃が重ねて炸裂する。
 フィーがラティクスの負傷を塞ぐ間に、伽藍の肉体を蔓が巻きつき大きな蕾をいくつも生やす。
「乱れ咲け、黒百合」
 花開く黒百合は瘴気じみた黒い花粉を噴きだし、ひび割れに向けて一気に蔓が浸食していく。

(「もう少し、もう少しだよ!」)
 腰部から僅かに覗く穿孔。
 突入班が残した侵入口までもうすぐだと、縒は心の中で声援を送る。
 ――数度目のミサイル群がマザークィーンの右腕から放たれた。
(「アラームはまだ鳴ってねぇ、10分経過してないのはいいけど」)
 経過時間を確かめたい欲求と地異は静かに押さえ込んでいた。
 マザークィーンはよじ登るチームも攻撃対象から外していない、十数発の弾道は大きな弧を描くように軌道を反転させていく。
「皆、耐えてくれよ……ッ!!」
 祈るように言葉にすると地異は一矢報いるべく虚無の魔球を放つ。
 爆風と荒波に何度も煽られ、グレッグも雨ざらし状態になりながら遠距離から炎弾を飛ばし、フィーが飛来したミサイルの延焼をレース状の魔方陣に織り込んでいく。
「人命が係っている以上、時間が惜しいのですが……」
 集中させた念力で爆破し、新たな足場を作るフィルトリア。
 その足場に移って剣戟の雨霰を落とす伽藍。
 マザークィーンは厄介なケルベロスを轟沈させるべく、左腕に光を集束させる――。
「あの曲がるビームっすか、隙を生じぬなんとやらとか面倒っすね」
 冬空に幾何学模様の軌跡を残し、光の雨が降り注ぐ。
 回避しようと海に潜り、潜水しながら水中でやり過ごしたラティクスが再び浮上する。
「……よし、あっちは到着したみたいだぜ!」
「ひとまず援護は出来たようだね、急いでヘリオライダーの救助に向かおう!」
 踵を返すようにフィーが水中へ飛び込むと、地異のタイマーが鳴り響く。
 ――それは10分経過を示すサインだった。

●収束観測
 落下ポイントまで泳いできた伽藍達は海中に潜ると、沈んでいく人影を捉えた。
 四肢が脱力しているせいか、仰向けで降下していく人物を伽藍が抱えると一気に浮上していく。
「……ぷはぁッ!!」
 引き揚げられたのは安齋・光弦。
 見慣れた衣服も焼け崩れ、その隙間から無数の痣や火傷が覗いていた。
 フィーの推測通り、体温を奪われているせいか顔色も蒼白で、衰弱していることが見て取れる。
「おい、しっかりしろ!?」
 地異が軽く頬を叩いて覚醒を促すと、咳き込んで小さく呻き声を漏らす。
「気絶しているようだな、とにかく陸地に連れて行くしかあるまい」
 すぐに海からあげたほうがいいと、飛行するグレッグと地異が二人で肩を貸す形になる。
(「怪力無双がここで役立つとは、怪我の功名か」)
 安全区域まで避難させようとグレッグ達は陸に移動していく。

 手近なベンチへ光弦を寝かせると、ヒールで応急処置を済ませる。
 気絶する彼の容態をフィーは丁寧にチェック。
「フィーちゃん、光弦さんの様子は?」
 縒が気遣わしげに覗き込むと、脈を測っていたフィーは一呼吸おいて、
「命に別状はなさそうだけど、全身打撲に低体温での衰弱、それに至近距離で爆発を受けてるから……しばらく安静にしないと、だね」
 神妙な面持ちで所感を述べる。
 ひとまず命に関わらないと解っただけでも幸いだ。
「ここからじゃ、もう間に合わないっすよね」
 伽藍の言葉に全員の視線が海上へ。
 遠くに臨むギガマザークィーンの機影は、レインボーブリッジ間近にある。
「そう、ですね……1チームでも援護に向かえたのは幸いですが」
 拠点女王の内部に突入する姿を見送ったフィルトリア達だが、戦力が減って儀式阻止が難しくなったことが気がかりだった。
 地異のタイマーは既に25分経過し、カウントを刻んでいる。
「――あ!?」
 双眼鏡を覗いたノルが目撃したのは、突入口から飛び降りるケルベロス達の姿。
 同時に、崩壊を始めたマザークィーン直下が機械化を開始した。
「なにが見えたんだ?」
 ラティクスが説明を求めるが、それより早く阻止する動きが。
「……第四王女軍が、マキナクロス化を止めた……?」
「俺達を味方した訳ではないだろう、おおかた東京六芒星決戦での約定を反故した報復か」
 グレッグの冷静な推測を肯定するようにフィルトリアも静かに頷く。
 彼女達ならそうするでしょう、と。

 想定外の事態に見舞われたが、ダモクレスの大儀式は未遂に終わった。
 マザークィーンは制裁を受けて東京湾の底へ。
 しかし、数多のデウスエクスが思惑を巡らせている以上、予断を許さない状況は続く――。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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