終末機巧大戦~天は無慈悲に時を刻む

作者:ほむらもやし

●連鎖する戦いの萌芽
「東京六芒星決戦、厳しい戦いを制してくれて感謝する。ありがとう!」
 しかし、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は激戦を労う舌の根も乾かぬうちに、次の戦いについての資料を広げ始めた。

「で。東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢がいたのだけど、儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを奪った大儀式、『終末機巧大戦』を発動しようとしている」
 まるで十二創神のサルベージが阻止されるのを待ち構えたいたようなダモクレスの動きへの感想はさておき、『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスだと、ケンジは告げた。
 実は『五大巧』たちは、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否し、その戦力を温存して、この作戦を強行した。
「敵の動きは驚くほど早い。既に晴海ふ頭は、中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化している。ここで行われるのが、爆殖核爆砕戦で攻性植物勢力が行った『はじまりの萌芽』を模倣した儀式『終末機巧大戦』……すなわち核となる『6つの歯車』を利用した大儀式だ。爆発的な増殖力を利用して東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と見られる」
 終末機巧大戦を阻止するには『核となる歯車』の破壊が必須だ。
 巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われる儀式を破壊する為には潜入攻撃の必要がある。
 また終末機巧大戦の儀式は、何らかの事情で晴海ふ頭外縁部でなければならないと見られる。儀式開始と同時に侵攻を開始するとも予知されているので、そこを急襲して儀式を阻止する。
「敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでの猶予は30分だ。この時間はくれぐれも忘れないようにね」
 30分以内に、敵拠点に潜入し護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か、或いは、儀式の核となる歯車を破壊しなければ、作戦は不首尾に終わる。
 儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑制できる。全て儀式の完遂を許せば東京湾全体が敵の手におちるが、全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部の被害のみに抑えることができる。
「これから向かうのは、晴海ふ頭上空に浮かぶ『空の儀式場』。僕らを含め5機のヘリオンによる降下強襲作戦を実施する。厳しい戦いになるが、引き受けてもらえないだろうか?」
 空の儀式場は、拠点型ダモクレス『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリの内部に位置する。
 今回は、搭乗するヘリオンを選ぶ時点で、あなた方ケルベロスの役割は『先行班』か『突入班』に、予め定められる。
「僕らは、拠点型ダモクレス、ミカニ・ミトロポリの内部に突入して、中枢部にある核の破壊を目指す『突入班』だから間違えないようにね。それから指揮官ダモクレスの『ノストラダムス』も撃破できればなお良い。ことも」
 突入作戦は、先行する2班が拠点型ダモクレスと戦闘し、突入の3班が突破口を開く攻撃を掛ける流れになるだろう。突入後、突入班は、続々と迫り来る、内部の防衛ダモクレス『歯車忍者』を突破して、儀式中枢を目指さなければならない。
 現状で分かっている敵の概要は以下の通り。
『指揮官ダモクレス、ノストラダムス』
 バックヤードの封印管理を行なっていた死神だったが、長期間の管理の過程でバックヤードの支配を受けるようになった。
 死神が六芒星決戦で集めたグラビティ・チェインを利用して戦うこともできる為、儀式中は非常に高い戦闘力を発揮する。
『拠点型ダモクレス、『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリ』
 晴海ふ頭上空に浮かぶ『空の儀式場』そのものである。
 今回、5台のヘリオンによる降下強襲作戦が行われる。
『護衛ボス『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒』
 螺旋機神ミカニ・ミトロポリの開発に協力した螺旋忍軍が一人。
 戦闘力はさほどでもない。
 指揮命令に口出しをすることもあるが、実務能力の低い残念なボス。
『護衛ボス、歯車忍者頭・サオリ』
 防衛ダモクレスである、歯車忍者の実質的リーダー。
 配下の歯車忍者と共に、儀式場を守る実務能力の高いボスと言える。
『防衛ダモクレス、歯車忍者』
 忍者っぽい見た目のダモクレスで数が多い。
 歯車忍者頭・サオリと儀式場を守っている者と、ケルベロスの侵入を阻止する者がいる。

 以上である。
「再び危機が迫っている。危険な戦いになるが、もしまだ戦う力があるなら手を貸して欲しい」
 突然の雨に濡れてでも帰路を急ぐ者もいれば、雨宿りをして待つ者もいる。
 雨を感じようとする者もいる。
 自分にとっての正解が他人にとっての正解とは限らない。だけど今は自分を信じて、できる全力を尽くそう。
 そう言って、ケンジは出発の時間を告げた。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)
クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)

■リプレイ

●螺旋機神ミカニ・ミトロポリ
「ほえぇ…空中要塞おっきいなぁ!」
 幾何形状にプラントの配管を融合させたが如き異形のダモクレスを視界に収めた、クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)の第一声がそれだった。
 巨大さ故に近づくにつれて全容を視界に収めることは出来なくなる。
 赤い瞳の見つめる進行方向の先で無数の煌めきが生じて、迫り来る大量の光条が目の前で爆ぜた。
 そのすさまじい光量に刹那、目に入る物の全てが白く輝いて見えた。
「……大丈夫、なんともないよ」
「糞っ、東京湾の機械化なんてさせるかよ」
 目の眩みが薄れると突発的な事態にも対応できる様、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)は手の届く範囲の仲間の無事を確認しつつ、見当をつけた着地点に視線を向ける。
 その先では、先行する16名による戦いが始まっていた。
 続々と上陸するケルベロスに呼応する様に新たな機銃が出現して撃ちかけてくる。
 しかし先行班は果敢だった。何者をも恐れぬかの様にまっしぐらに機銃に突っ込んで行く。次々と爆炎が煌めき機銃は沈黙して行く。熱き心を持たない防衛装置如きではケルベロスを留めることなど出来ない。
「流石だよね。わたしたちも負けていられないよ」
 皆、考えることは同じなのだろうか、機が熟したと判断した、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が前進を開始するのに前後して突入が開始される。
 だがその動きに呼応するかのように、今度なホースの如き巨大形状、蛇腹構造の触手が行く手を阻む。
「今までの機銃とは気合いが違うようね」
「先に行くわ。無事を祈ってる」
 迷わず触手との戦いを始める先行班。碌に言葉も交わしていないとは言え仲間だ。手を貸したい気持ちが無いと言えば嘘になるが、今は自分の役割を果たそう。パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)も、役割を果たすために他の仲間と同様に先に進む。
「ほええ、やっぱり堅いねー」
 火力が足りないと零すクロエの前に出た、パトリシアは満身の力を込めた一撃を繰り出す。鼓膜を震わす轟音と共に外壁にダメージが刻まれるが、ポジション効果で威力を増幅させても一人の力には限界があった。
「バラバラに殴っても、時間がかかるだけだよ!」
 自身がノストラダムスとどう戦うか、大半の者がそのことのみで頭がいっぱいである中、苺とクロエはどのようにすれば壁を早く破れるか、少しでも早くノストラダムスの元にたどり着くにはどうすれば良いかに思考を巡らせようとしていた。
「誰かがお膳立てしてくれるわけじゃないよ。私たちの力でたどり着くんだよ」
「皆で一斉攻撃だ!」
 人数は限られている。予め定めた方針に従うだけならサーヴァントと何が違うのか。ウタも奮起を促す様に気合い込める。そして皆で満身の力を集めた。
 二度、三度と同じことを繰り返し、突破口が開いたのはそれから間もなくことだった。

●目標はノストラダムス
「このまま一直線にノストラダムスのところにたどり着ければ良いねぇ」
 内部の地図が用意されているわけも無いが、儀式場が重要な場所と考えれば中枢を目指すのが自然だろう。そんな楽観への皮肉とも取れる、ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)の声に、行き当たりばったりでもなんとかするのがケルベロスの伝統だと苦笑する者もいた。
 今回は探索が目的では無いが地図無き目的地に至るには自分に都合の良い想像ではなく、敵にとっての価値の軽重を推し量り合理的に思考する姿勢は必要となるだろう。中枢を目指すなら端よりも真ん中といった風に。
 果たして、突入班が先行し、先行班が後背を守る形で、お互いの班が見える距離感を保ちながら進む。
「Inquieter(気になります)……あちらは何ですの?」
「なんだろうねー。気になるけど、今は先を急ごう」
 難しい顔をするシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)に、クロエは儀式場への到達だけを考えようと言う。気になることは誰にだってある。しかし使える時間が限られている中それに費やす時間は無い。さらには追いかけてくる敵もいる。
「やるか! 誰かがやらねばならんだろう」
 間もなく、追いかけてくる敵を振り切れないと、先行班の16名が阿吽の機動を見せる。
「後ろは私たちが引き受けます。儀式をよろしくお願いします」
 その声に気がついて、後ろを振り向いた霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)の目に、顔も向けぬままに告げた銀髪の、女性と見まごう様なエルフの少年の姿が映った。
 仲間を置き去りにしなければ、大将——ノストラダムスの元にたどり着くことも出来ない。冷徹な事実に胸を抉られる切なさを感じながらも、気持ちを言い表す言葉を発せ無いまま、目線だけで少女は決意を返す。
 弱者が強者に勝つには、常に何かを犠牲にしなければならない。
 前に走れ。目の前に見えては居なくても此所はミカニ・ミトロポリの体内。四方は皆敵だ。
 しかし今なら中枢まで、一挙に駆け抜けられる気がする。
「それっぽいムードの場所じゃん。それに……」
 直後、視界が開けて雰囲気の変化を感じた、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)が軽い口調だが、緊張を孕んだ声で言った。
 新たに現れた護衛は歯車忍者だけではなかった。
 歯車忍者頭・サオリに『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒、2人の指揮官の存在。8人のケルベロスで抑えるには荷が重過ぎる。だが、何よりも大将の撃破を目指すのが定めた目標。
「目指すはノストラダムス、征くぞ!」
 再会に祈りを込める間もなく、言葉を掛け合う寸暇も惜しんで前に進むのは、仲間の助けなしには此所まで辿りつけなかったと知るから。

●最終防衛線を越えて
 儀式場はダモクレスの中枢にあって、ゴシック様式の聖堂の如き荘厳な雰囲気を持っていた。パイプオルガンの如くに伸び上がる配管群。それらに接続する無数の幾何形状のパターンは世界のありとあらゆる存在へと拡張する意匠にも感じられる。
 それらの中心には、襤褸の様なローブを纏った裸足の女が膝を折って祈りを捧げている。
 真っ先に進み出ようとするクロエは、その外見特徴から、最優先目標のノストラダムスであると知る。
「潰れ、ろ……!」」
 ソーニャは軸足を強く踏み込み床を蹴ると、クロエの頭上を越えるようにして高く跳び上がる。上昇の頂点で降下に転じると、足先に流星の如き輝きを纏わせ重力の加速と共に蹴りを打ち付ける。
 轟く衝撃音に続いて、絹を裂く様な女の悲鳴が響き渡る。
「なんだ、貴様らどういうつもりだ!?」
 敵襲。瞬時に事態を察したノストラダムスだったが、ガロンドの撃ち放った竜砲弾の直撃が早かった。爆発が巻き起こり燃焼するガスを孕んだ炎が瞬く間に膨張して場を輝く橙色で塗り上げた。
「調子に……乗るな!」
 儀式の場を戦場の色に塗り替えられた憤り露わにするノストラダムス。ミミックのばらまく偽貨が床を跳ねる忙しない音が響く中、ノストラダムスの周囲に浮遊する剣が集まってくる。それを阻むかの様に、ボクスドラゴン『マカロン』が体当たり、剣列が乱れる。その間を縫う様にして突入する苺の跳び蹴りが流星の如き輝きを散らす。
 ウタの描いた守護星座、星の乙女から零れ落ちる真珠の如き輝きが、盾の加護を広げる中、パトリシアの電光石火の蹴りを両腕で受け止めたノストラダムスの身体が後ろに押し下げられる。
「こいつはついているぜ。ガンガン行かせてもらっていいんじゃねぇの?」
 勢いは此方にある。気を良くしたタクティはローラーダッシュの摩擦が生み出す炎と共に蹴りを叩き込んだ。
 互角以上の戦いが出来るかも知れない。そんな無邪気な考えが頭を擡げ始めた時だった。
 大顎を形成した攻性植物ヴィオロンテの咆吼で自らを鼓舞したシエナが後方に懸念の眼差しを向ける。
「C'est difficile(やはり難しいですか)……」
 儀式場に踏み入って来た歯車忍者が儀式の余波で分解される様が見えた。それと同時ノストラダムスに与えたダメージが癒やされて重なりつつあったバッドステータスが一挙に消失する。
「理解できたか? ケルベロス。私には絶対に勝てない」
 楽観を打ち砕くようにノストラダムスは言い放ち、同時に放った幻想が後ろに立つ者たちに襲いかかる。
「やっぱり一筋縄では行かないね、でも、負けないよ!」
 仲間を庇って催眠の効果に落ちながらも、クロエは赤の瞳で前を睨み据えた。注意を払わずにいたら、見過ごしていたかも知れない。完璧に見える回復でも戦闘中に刻まれた殺傷ダメージまでは治せない。
「気づいたか。だけどこれは厄介だよねぇ」
 ガロンドの声に無言の頷きで返し、ソーニャは砲撃形態と変えたドラゴニックハンマーをその細腕で振るう。放たれた巨砲弾は弓なりのカーブを描いて飛翔し炸裂した。
 ノストラダムスを倒したい。
 ここに辿りついた誰もがその強い気持ちを抱いていた。それは危険を顧みずに護衛を食い止め、防衛線を越えるために死力を尽くした此所では伝えられることのない仲間たちのお蔭だ。もし仲間の背中を追うだけで幸運にもこの場に辿りつけた者がいるとするなら、認識しなければならない。
  ウタの放つ柔らかな銀色が自身の歌声と共に光のシャワーの如くに降り注ぎ、癒しの力をもたらす。同時に催眠の効果も消し去られるが、庇いにより、前衛と後衛に分散したダメージとバッドステータスの両方に対応をウタだけに任せるのは荷が勝ちすぎる。
 シエナの癒やしの力を含んだ清らかな風が前列を吹き抜ける。催眠に心を支配されかけていたタクティを正気に戻す。
「まったく、やりにくいじゃんかよ」
 しかしノストラダムスにとってやりにくいのは同じこと。催眠を主力に据えては足並みを乱すことは出来ても決め手に欠く。
「ならば死ね!」
 ノストラダムスの周囲にある剣刃が直線的な動きで舞い上がり放たれる槍の如くに飛翔する。
 拙い——次の瞬間、咄嗟の動きでウタの前に躍り出たタクティに身丈ほどもある剣刃が突き刺さり、続けて二本、三本と突き刺さる。
 即座にウタは奮起を促すメロディと共に声を張り上げるも癒力が大きく足りないと気づく。
 次の瞬間、一陣の風の如き軽やかな動きで銀のおかっぱ頭の女が滑り込んでくる。
「心配ないわ。此所は任せなさい!」
 リティ・ニクソンであった。強引とも言えるショック打撃、続く緊急手術、共鳴のもたらす莫大な癒力により、当面の危機は去った。自身の担当班も余裕が無いにも関わらず助けてくれたのだ。
 残り時間が10分を切ったと告げられる。
 ダメージを重ねてもすぐに癒やされてしまうのは癪だったが、必ず倒せると誰も信じ始めている。次第に積み重なって行く殺傷ダメージの存在も明らかになって来ているような気がした。
「あなたもトラウマを食らってみるがいいわ!!」
 パトリシアの鋭い腕の一振りから投げ放たれたトラウマボールがそのまま直進の軌跡を描く。直後、剣で払い落とす指示を出そうと、ノストラダムスが翳した腕をすり抜けて、黒色のトラウマボールは命中した爆ぜた。
 たちまち拡散して消える霧の如き黒、そこから生み出されたトラウマが何であるかを知る由も無いが、ノストラダムスは苛立ちを隠そうともせずに腕を振るう。
「水よ、集え。風よ、集え。集いて纏まり、冷却し、収束し、沈黙させよ。凍死させよ。惨殺せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ」
 詠唱し、狙い定めた一点に、意識を集めるソーニャ。操る水と風の力が生み出す莫大な冷気がノストラダムスを白い霜で覆い尽くす。
 次いでガロンドが敵の側面に踏み込んだ。床を叩く靴音が高く響く中、最小の動作から振り抜いたドラゴニックハンマー霜に覆われた女の身体を強かに打ち据えた。そして声としては聞こえなかった、ガロンドの皮肉気に動いた気がしてソーニャは浅く笑んだ。
 再びノストラダムスの傷が癒やされて行く様が見えた。
 見過ごしてしまいそうな刹那、その口からごぽりと血の塊が溢れ、黒い布に染みこんで消えるのが見えた。
「どうなっているんだ? おまえらしぶとすぎるぞ」
 声に合わせて煌く剣刃。無造作に指し示す先にはソーニャの姿があった。
「耐えてみせる! 機械の神よ我が身を防げ!」
 間に合え。祈りを込めた叫びと共に前に出たクロエが脇の下で身体よりも大きな剣の勢いを止めた。次の瞬間、二本目の剣が剣を食い止めたままのクロエの胸を貫き通して血を繁吹かせる。
 込み上がってくる血に喉が詰まりそうになる、視界が赤く染まる中、三本目、四本目、そして五本目が襲いかかった。
 破壊し尽くされる肉体。それでも首から上だけは綺麗なままだった。
「すごい血……だよう。で、も、良い格好、させてもらえた? あとは頼んだ、んだ、よ」
「チクショウッ、クロエ、あんたにも聴こえるだろ? 地球の歌が。メロディが、なあ、おい!」
 即座にウタがヒールを掛けるが、クロエはぴくりとも動かない。
「何なのこれ! やり過ぎだよね!?」
 絶対に倒す。やれば出来る。今、本気を出さずしていつだすのか?
 苺は思いから生み出された巨大な魔法の力を拳に乗せ、全力でノストラダムスを殴りつけた。
 残り時間は僅かとなっていたが、撃破を諦めるなどと考える者はいない。
「燃え上がれ、悲しみを焼き尽くせ」
 愛用のリボルバー銃に焔の魔力を込めると、パトリシアは引き金を引く。魔力を孕んだ弾丸はノストラダムスを捉え紅蓮の炎を燃え上がらせる。
 間タクティのグラインドファイアが炸裂し、機を逃さずにシエナの手にしたチェーンソー剣が唸りを上げる。一挙に花開くバッドステータス、そこにボクスドラゴン『ラジンシーガン』のブレスが追い打ちを掛ける。
 後衛からの攻撃に前衛のコンビネーション、さらに中衛の支援が重なって、体力の上限を削り取られていたノストラダムスのダメージは一挙に限界を超えた。
「バックヤードの管理を行っていた筈が、いつのまにか、バックヤードに操られていたということか……カタストロフィめが、よくもやってくれた」
 崩れるように両膝を床につくノストラダムス。これしきの傷と、最期の強がりをみせると、薄ら笑みを浮かべると、胸の前に浮かぶ歯車に両手を添えた。
「さあ、笑えよ。全ては夢だったってな!」
「ふん、だが、お前ら五大巧に、ネレイデスの儀式の力をむざむざ渡してなるものか」
 手のひらに挟まれた歯車は圧縮されて、直後澄んだ高い音が響き渡り、歯車は閃光と共に砕けて爆散した。
 間もなく身体が浮かび上がるような感覚が来て、続けて床が大きく傾いて崩れはじめる。
 ケルベロスたちは勝利の余韻に浸る間もなく、意識を戻さないクロエと共に脱出を開始した。

作者:ほむらもやし 重傷:クロエ・ルフィール(死神殺しの復讐者・e62957) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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