終末機巧大戦~増殖する迷宮と歯車と……

作者:陸野蛍

●終末機巧歯車破壊作戦
「みんな、死神による六芒星儀式の阻止、地球にとって恐ろしい結末を生んだであろう十二創神のサルベージをよく防いでくれた。有難う、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ……と言いたいところなんだけど、そう言う訳にもいかなくなった」
 ケルベロス達への労いの言葉をかけながらも、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の表情は真剣で、言葉も重みを帯びている。
「儀式の阻止に成功した事で、複数の十二創神をサルベージする程の、圧倒的なグラビティ・チェインが東京湾に溢れ出す事になっちゃったんだけど、このグラビティ・チェインは、儀式に利用されなかった事で、遠からず拡散して地球に吸収されていく筈だった……」
『だった』雄大の言葉は過去形だ。
「東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が、儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを奪う大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したんだ」
 ダモクレスの軍勢は死神勢力の六芒星儀式をただ傍観していた訳では無かったと言うことだ。
「この大作戦を率いるのは『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレス。『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。その戦力を温存して、今回の作戦を強行したみたいだ」
 ダモクレスからすれば、ケルベロス達が死神の作戦を阻んだことで、図らずとも自分達が勢力拡大するチャンスを得たと言うこと……六芒星儀式を成功させる訳にはいかなかったとはいえ、新たな脅威が生まれてしまった。
「既に、六芒星儀式の中心だった、晴海ふ頭は中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまった。更に、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』……核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、拠点を爆発的に成長させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的って言うのが、俺達ヘリオライダーの予知及び見解だ」
『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要だが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われている為、破壊するには拠点型ダモクレスの内部に潜入しなくてはならない。
「終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭の外縁部でなければならないらしくて、儀式開始と同時に侵攻を開始するから、俺達はそこを急襲して儀式を阻止しなくちゃならない。ダモクレス達が侵攻を開始してから儀式が発動するまでの時間は30分……」
 資料に目を通しながら雄大は、歯噛みする。
「30分以内に敵拠点に潜入し、護衛を排除。儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破もしくは、儀式の核となる歯車を破壊しなくちゃならない。そして儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることが出来る……だけど、儀式が全て完遂されれば、東京湾全体がダモクレス勢力のものになる。逆に全ての儀式を阻止出来れば、晴海ふ頭中心部のみの被害に喰い止めることが可能ってことだ」
 東京湾マキナクロス化が実現すれば、総面積『1500平方キロ』という、一つの県にも匹敵する広大なダモクレスの策源地が生まれることになる……今回の急襲作戦は、それを確実に防ぐことが重要なのだ。
「みんなに担当してもらいたいのは、勝鬨橋から晴海通りに侵攻している、拠点型ダモクレス『アースイーター・ブロークン』内部の歯車の破壊、もしくは『五大巧』の内の一体『終末機巧』アルマゲドンの撃破だ」
 ここでは液体金属型の拠点型ダモクレスが隅田川沿いのビル群を喰らい、無限増殖を繰り返している。
『アースイーター・ブロークン』内部は、迷宮状態になっており、多くの防衛ダモクレスがケルベロスの足止めをしようと配置され、更に奥には防衛ダモクレスを産み出す護衛ダモクレスである『ミス・リージョン』も存在する。
 中枢部の歯車、そして儀式を執り行う『終末機巧』アルマゲドンの元に辿り着くには、防衛戦力を掻い潜りながら、変化する迷宮を可能な限り早く突破する必要があると言うことだ。
「この第二の儀式場『アースイーター・ブロークン』には、5つのチームで挑むことになる。その内2つのチーム、リーゼリットと創のヘリオンに乗るチームが最初に先行し、拠点型ダモクレスとの戦闘を開始。その後、残りの3チーム、俺、シュリ、穫のヘリオンに乗るチームは突入班として、先行班が仕掛けた後に突入口を開いて、中枢部に向かってもらう。つまり、俺のヘリオンに乗るってことは『突入班』として、儀式の阻止に向かうってことだ」
『アースイーター・ブロークン』の中には、防衛ダモクレスがいるが、それらの増援は先行班が足止めしてくれるので、突入班は中枢部に向かうことを優先していい。
 だが、護衛ダモクレスである『ミス・リージョン』との戦闘は避けられない。
 3チームの連携と役割分担が儀式場へ、どれだけの短時間で辿り着くかと言うことに直結すると言っていい。
「突入班3チームが戦うことになる、『ミス・リージョン』と『『終末機巧』アルマゲドン』の戦闘手段の説明な。まず、ミス・リージョンは端的に言うと巨大な海老型ダモクレス。蟲型防衛ダモクレス『メックカスト』の生産が可能でおそらく3、4分に1度の間隔で8体前後を生産してくる。腕はドリルになっていて直接攻撃に使用、そして巨大な尾での薙ぎ払いとオイル状の毒液噴射と攻撃は多彩。そして何より、装甲が堅い為、撃破に時間がかかる恐れがある」
 今回は、時間との勝負だ。ミス・リージョンを1チームだけが担当することも可能だが、撃破に失敗すれば、ミス・リージョンは儀式場へ向かったチームの排除に向かうことになる。
「……で、儀式場に居る『終末機巧』アルマゲドンなんだけど、外見はクリスタルに封印されたゴシックドレス姿の少女って感じで強そうでは無いんだけど、単純な戦闘能力だけで言ったら『五大巧』の中でもトップかもしれない……。アルマゲドンはその強大な力をクリスタルと言う枷で抑えているんだ。アルマゲドンが枷を解除した時、黒き炎が辺りを包む……曖昧な予知で悪い」
 クリスタル内に居る状態でのアルマゲドンは、魚型ダモクレスの弾丸、クリスタルでのレーザー攻撃、祈りが力となって敵を襲う攻撃を使用してくるとのことだ。
「儀式の核である歯車を破壊された『五大巧』は、強制的に本拠地であるバックヤードに転移させられるみたいだな。アルマゲドンの撃破を狙う場合は注意が必要になるけど、今回はあくまで儀式の阻止が目的だ。無理にアルマゲドンの撃破を狙わなくてもいい。歯車の破壊を優先すべきだと俺は思う」
 何時になく雄大が慎重なのは、アルマゲドンの力を計りかねているのもあるが、30分で成長を続ける迷宮を突破し、防衛網を撃破した上での歯車破壊が時間ギリギリであるだろうと言うことが容易に想像出来るからだろう。
「今回の作戦によって、死神ネレイデス勢力、十字島のドラゴン勢力、エインヘリアルの第二王女の軍勢、その他のデウスエクスの動きも変わるかもしれない。だけど今は、眼前に迫ったダモクレスの脅威を確実に潰してほしい。……頼むぜ、みんな!」
 拳を握ると雄大は、ヘリオン操縦席へと駆けだした。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
ベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)

■リプレイ

●アースイーター・ブロークン
「始まったみたいだね」
 柔和な黒の瞳を猫のように細めた、犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561) の視線の先には、勝鬨橋から晴海通りに侵攻している、拠点型ダモクレス『アースイーター・ブロークン』がある。
 その液状金属で出来た拠点型ダモクレスは、辺り一帯を液体金属の塊と化そうと……付近のマキナクロス化を進めるべく驚くべきスピードで増殖している。
 この第二の儀式場『アースイーター・ブロークン』に投入された、チームは5チーム。
 既に先行班である2チームの戦いは、始まっている。
 先行班にはまず迎撃戦力である、液状生命体を蹴散らし道を切り開いてもらいっている。
 その隙に、見渡す仲間達と、他の2チームが歯車のある儀式場へ向かわなければならない。
 作戦時間は30分……戦いの狼煙が上がり、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) の時計が8から9へと表示を変えた時だ。
「信号弾が上がったんだよ。突入口を開こう」
 言う、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)の左手には希望と勝利を誓う爆破スイッチが既に握られている。
 3チームによる、突入口を開く為の集中攻撃。
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) の星形の鉄球が風穴を開ければ、ベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)が地獄の炎で液状金属を切り裂く。仲間達もその口を大きくすべく、ありったけのグラビティを次々と撃ちこんでいく。
「……もう、いけるよね? ……行こう」
 風のように闇のように隠密気流を纏いながら、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)が『アースイーター・ブロークン』の中に突入すれば、仲間達もそれに続く。
「うにゃ~。うにょうにょしてる~」
 声に出しながらもシルディの駆ける足は止まらないが、ダモクレスの拠点とはいえ、内部も液状金属。
 走りにくさもさることながら、気持ち悪さも十分だ。
 先行部隊と突入部隊40人が儀式場を目指す中、機械的な羽ばたきの音が聞こえてくる。
「メックカストってやつね」
 芍薬が獲物に手を駆けるが、足を止めたのは先行班2チームだ。
 小型とはいえ数の多いメックカスト、全員で対応していればタイムリミットなどすぐに来てしまう。
 今もこの迷宮は広がりを見せているのだから。
『ここは任せろ……』
 剣戟の中で声が聞こえた気がした……その声が聞こえれば、自分達は儀式場をただ目指すしかない。
「先に行ってる! あっちで会おうね、全員で!」
 円も一言だけ言うと、振り返らず走り出す……どんなに不安で胸が押し潰されそうだとしても。
 それぞれの役割の為に。
「にしてもよ」
 変化する迷宮の隆起物を翼飛行で避けながら、陶・流石(撃鉄歯・e00001)が口を開く。
「ダモクレスは、レプリカントっつう実績があるだけに、何とかなんねぇかたぁ思っちまうな」
「私がダモクレスだった時からそうだけど、やっぱりこいつらのセンス最悪なのよね。難しいんじゃない?」
 タイムロスに繋がる敵との接敵を避けるように身を隠しながら進む、芍薬が流石の言葉に答える。
「勿論、余計な事すんなら、ぶちのめすだけだけど。あたしらも譲れない以上、折れてもらうしかねぇし」
 現状地球侵攻を許している、デウスエクスの中で辛うじて、地球の民となれる可能性があるのが『デウスエクス・マキナクロス』ダモクレスだ。
 事実、民間人にもケルベロスにもダモクレスが『心』を得て、レプリカントになった者が大勢いる。
 だが、この侵攻の最中、地球を愛し『心』を手にすることの出来るダモクレスがどれ程居るだろうか?
 ケミカルライトやシグナルボタン、迷宮を踏破する為の目印を設置しながら進む、ベルベットは、ふと思考が少年ヘリオライダーが説明した、『終末機巧』アルマゲドンへと向く。
(「『五大巧』トップの戦闘力ね……歯車を優先するとしても、もしもの時のことは考えておかなくちゃね。こんなところで死ねない……誰も死なせない……もしもの時は」)
「待て……何か聞こえるぜ」
 インカムに手を当てながら、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が仲間達を制止する。肩に乗っているでっぷりとらじまウイングキャットの『虎』も重たげな瞳を前から動かさない。
 直後、前方の床が大きく盛り上がると膨らみを爆散させ、赤銅色の甲殻を持つ巨大海老型ダモクレス『ミス・リージョン」が金属音めいた咆哮を上げ、メックカストを量産する。
 その前に立ち塞がるのは白い鬣をたなびかせたケルベロスとその仲間達。
 シルディは幼い表情に決意の彩を乗せ、『みんな!』言葉と共にミス・―リージョンの隙を付いて横をすり抜けていく。
(「きっと早く歯車を壊して戻るからね……! どうかその時まで耐えて」)
 5チームで突入した『アースイーター・ブロークン』数分の内で2チームが進むのみになっていた。
 そして……彼等の眼前に巨大なクリスタルに捕えられた少女と巨大な歯車が現れた時、芍薬の時計は14を示していた。

●『五大巧』アルマゲドン
 彼の姫君とも言うべき少女型ダモクレスの瞳は闇を宿し、突如現れたケルベロス達にも興味がなさそうに空虚を見つめるように彷徨っていた。
「こいつがアルマゲドンか! 大舞台だ! 腕がなるぜ! それに、相棒も班は違えど同じように戦ってるんだ! ……負けられねえよな」
 言って、にやりと笑うと鬼太郎は、相棒からの贈り物であるオウガメタル『鬼金』を左手に纏わせ戦籠手とする。
 その時だった、アルマゲドンの枷と呼ばれる蒼きクリスタルの光が急速に光線となってケルベロス達を襲ったのだ。
 思わず、籠手を眼前に翳した鬼太郎を守ったのは、虎。
 その他の後衛陣もシルディやベルベット、九十九のカバーのお陰でほぼダメージを受けていないが、予想外だったのはその一発で、ベルベットが一歩引き、シルディの額に汗が滲んだ。
(「予想以上に、一撃が重いんだよ」)
(「これで枷付きのパワー減状態なんだよね……」)
 かと言って守りに徹する時間も無い、
 ベルベットの剣が、シルディのハンマーが降り上げられる。
 狙いはクリスタルの中の少女では無い……音をたてながら動きを止めない、巨大な歯車だ。
「カワイコちゃんのお相手をしたいのは山々だけど、歯車破壊が本命だからね。キミとは、今度また遊ぶ機会でも作ろうね」
 柔らかい微笑を浮かべながら温かな疾風を仲間達の得物に纏わせる猫晴。
「てめぇの相手は今度してやるからよ! 大人しくその歯車破壊させな」
 流星の煌めきを右足に纏い身体を回転させながら、歯車を急襲する流石。
「あの威力、前の皆が崩れちゃったら、力で押し切られる……」
 大地に塗り込められた『惨劇の記憶』を癒やしの力に変えて、円が仲間達を回復する。
(「歯車の破壊が間に合わなかったら、アルマゲドンをとも思ってたけど……枷が外れた状態のアルマゲドン、強さが計り知れないんだよ」)
 もう1人、普段の戦場では考えない『迷い』に囚われているケルベロスが居た。
 リーナだ。
 彼女の暗殺術は、敵を倒すことに特化していると言ってもいい。
 ケルベロスとしての能力も火力重視、必殺重視で鍛え上げて来た。
 だが、仮にその必殺の一撃が、アルマゲドンを縛る枷を破壊してしまったら……それ以降の予知をヘリオライダーは予知出来なかった。
『黒き炎が辺りを包む』
 そう呟いただけだ。
 自分だけなら賭けにも出れるが、今回は多くのチームでの共同戦線だ……勝手なことは出来ない。
「わたしが得意なのは暗殺だけじゃない……。奇襲、強襲も技として磨いてきてる……」 その身軽な動きで跳びまわると、力の限りで歯車を『魔宝刃ファフニール』で傷つける。
「兎に角、歯車狙いを徹底よ。歯車を崩せるように、今は、少しでもアルマゲドンの歯車の動きを鈍らせるよ」
 砲撃形態とした、ドラゴニックハンマーを振いながら芍薬が仲間達に渇を入れる。
(「しっかし、終末機巧か……随分けったいな兵器を引っ張り出してきたわね。まあ、思い通りにさせるつもりは無いわ」)
「私達の結束の力、見せつけてやるわよ!」
 その言葉の通り、2チームはタイミングをずらし、合わせ、攻撃を放つ。
 ……少女の瞳は、まだ、なお、昏い。

●歯車
「虎! 糞が! 鬼太郎まだいけるな! メタリックバースト」
 猫のシルエットが粒子となって消えていくのを見、歯噛みをしつつも鬼太郎は癒しの粒子を……仲間達の集中力をあげる力を広げていく。
「ちっ! 残り10分! アルマゲドンの攻撃に押されてたら時間が無くなるよ!」
 芍薬はアルマゲドンに急接近するとクリスタルを蹴り上げ、宙で回転すると歯車に得物を押しつけ引き金を引く。
「これで、チェックメイト……とはいかないか。でもね」
「ボク達は、晴海ふ頭をマキナクロスの前線基地になんてさせないんだよ!」
 リボンを結んだシルディのドラゴニックハンマーから放たれる砲弾は、クリスタルをかすめつつも歯車にダメージを与えていく。
「向こうのチームも部位狙いで正確に歯車を削っているね。時間も少し、歯車だけなら……間に合うよね?」
 オウガ粒子を散布しながら猫晴は考える。
 鎖の防御や回復メンバーである鬼太郎と円が戦線が崩れないようにしてくれては居るが、アルマゲドンは手強い。
 クリスタルの中の少女は眉ひとつ動かしていない。
 だが、生きているかのようなクリスタルの蒼き光は縦横無尽に降り注ぎ、籠の中の鳥の少女の思考が自分達に流れたかと思えば、急激にグラビティを奪われるのだ。
 2体の魚型ダモクレスは2チームで上手く捌いているが、何かの拍子に枷が外れる、もしくはアルマゲドンが自らの意志で枷を外すことが可能だったら……時間もだが、その余裕も与えられない。
「君の相手はアタシ……いやアタシ達だよ!」
 コンビネーションの相棒シレンを召喚するとベルベットは、2人でレーザー光線をひらりとかわし跳躍すると、歯車に大胆かつ豪快な跳び蹴りを放つ。
「リーナちゃん! 流石ちゃん! あっちのチームがグラビティを高めてる。10秒。10秒時間を作って! 私は彼女を支援するんだよ!」
 円の視線の先にはもう一つのチームで戦うアリッサ。
 ゆっくりと息を吸い込むと円は言葉を紡ぐ。
「――祈りよ届け、我が友に」
 円が喚び出した、月の力は夜色の魔女に破壊の力を齎していく。
 その最中、流石とリーナが宙で交わり高速の拳と空をも断ずる刃を歯車に楔として打ち込む。
「止めを取るだけが主役じゃないんだぜ」
「……今回の目的はあなたを刈り取ることじゃないから……だから、この場は、わたし達の勝ちだよ……」
 流石とリーナが着地すると、ケルベロス達の怒涛の攻撃が対に歯車に亀裂を生じさせ砕け散らせた。
 儀式の魔力が逆流するように、地鳴りと共に真白き光が儀式場を包み込む。
 光はやがてすぐに消え――刹那の狭間の静寂が、この戦いの勝利を告げたのだった。

●『終末機巧』アルマゲドン
「作戦開始から24分、ここに残っても意味は無いよ、急いで、来た道を戻るんだよ!」
「あいつはどうするんだ?」
 芍薬の言葉に、歯車は失ったが枷の中で囚われ続ける少女を視線で指す鬼太郎。
「歯車が破壊されれば、『五大巧』は自動的にバックヤードに転送されるって言ってたよね?」
「それよりも、あの強力な力を放ったらかしって言う方が問題な気もするけど」
 猫晴の言葉にベルベットがもう一度剣に手をかける。
「何にしたって内部からじゃ、この『アースイーター・ブロークン』がどうなるか分かんねぇぜ。一旦脱出だろ?」
 流石の言葉に、皆、頷く。
 その去り際、どうしても気になって円は一度振り向いた。
 残ったアルマゲドンは薄ら目を開き、撤退していくケルベロス達を黙って静かに見送っている。
 何か言いたげな、伝えたいような瞳。
「……アルマゲドン、ねえ」
「円、行く……よ。『最終戦争』……また、会うことになるの?」
 茫洋と虚ろな世界を彷徨う少女。
『五大巧』最強と言われる、水晶の檻の中の少女の力が解放される日は来るのだろうか……。

●液体金属の終わり
「……何?」
『アースイーター・ブロークン』から脱出し、シルディが最初に見た物は、周囲が高速で機械化していく様だった。
「……間に合わなかったの?」
 最初はそう思った……だが、先に脱出していた先行班の話を聞けば、液体金属が流出して機械化しているが、その範囲はかなり狭く脅威となる程ではないそうだ。
 それを聞いて頭の片隅でシルディは思う。
(「もし、歯車の破壊が成功していなかったら、ここは全て機械化してたんだよね……他のみんなも防いでくれたよね、きっと」)

 暫くの後、『第三儀式場攻略失敗』の報が流れた。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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