●終末機巧大戦
「東京六芒星決戦、皆様、お疲れ様でした」
勝利への感謝を紡ぐと、レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は集まったケルベロス達を見た。
「死神の野望を砕き、十二創神のサルベージという最悪の事態を防ぐことができました。ですが、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が動き出すことが分かりました」
本来、複数の十二創神をサルベージする程の溢れ出した圧倒的なグラビティ・チェインは、儀式に利用されなかったことで遠からず地球に吸収されていく筈だった。それを利用しようというのだ。
儀式の失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを奪った大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こす為に。
「この大作戦を率いるのは、『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスです」
『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否したもの達だ。
「その時、温存したその戦力で、今回の作戦を強行したようです」
現在、六芒星の儀式の中心であった晴海ふ頭に出現した拠点型ダモクレス『バックヤード』を基点に、沿岸部の工場地帯の機械や建築物が呼び寄せられ、合体変形を繰り返し巨大拠点に変化しつつある。
「今回の一件ですが……、嘗て爆殖核爆砕戦で攻性植物が大阪で行った『はじまりの萌芽』と状況が酷似しています。『終末機巧大戦』は『はじまりの萌芽』をダモクレスがそれを機械的に模倣したものと推測されます」
レイリはそこまで言うと、一度言葉を切った。
「核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行うことで、爆発的にダモクレスを増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と思われます」
『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要となる。
「ですが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われています」
やっぱりむき出しの場所でどどーんとはやってくれないようで、と小さく肩を竦めて、レイリはケルベロス達を見た。
「『核となる歯車』の破壊の為には、拠点型ダモクレスの内部への潜入が必要となります」
終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始するので、そこを急襲して儀式を阻止する事になる。
「敵が侵攻を開始してから、儀式が発動するまでは30分の猶予しかありません」
つまり、儀式は30分で完了してしまう、ということだ。
『6つの核となる歯車』による儀式は、晴海ふ頭外縁部に現れる6体の拠点型ダモクレスで行われているのは分かっている。
「時間との勝負となります。30分以内に敵拠点へ潜入、護衛を排除。儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破、或いはーー」
一つ行きを吸い、レイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「儀式の核となる、歯車を破壊する必要があります」
儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることが出来るだろう。
「儀式が全て完遂されれば、東京湾全体が敵の手に落ちることとなります。全てを阻止することができれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑えることが出来るでしょう」
厳しい状況であるのは事実です、とレイリは言った。
「ですが、だからこそ皆様を信じて依頼を」
『終末機巧大戦』を阻止を、お願いいたします。
●双狗烈襲
「この作戦では、6つの攻略目標に対して、それぞれ5チームでの強襲を行います。皆様に向かって頂くのは、此処ーー第三の儀式場となります」
第三の儀式場には拠点型ダモクレス、機工城アトラースがいる。晴海ふ頭から、築地大橋を通って築地市場に侵攻しているのだ。
『先行班』として2チーム『突入班』として3チームでこの儀式場の向かう。
「皆様には『先行班』を担当していただきます。同じ、第三儀式場の先行班は、イチ様のチームの皆様です」
拠点型ダモクレス内部に突入する際、共に先行する。
「背を預け、共に戦う方々となります。後で打ち合わせをお願い致します」
真っ直ぐにケルベロスたちを見ると、レイリは作戦の流れについて説明を始めた。
「皆様に担当していただく『先行班』は、先に機工城アトラースへと攻撃を仕掛けます」
この足止めの間に『突入班』がアトラース内部に侵入する為の、突入口を開く為の攻撃を行う。
「道を拓いた後に『突入班』『先行班』は共に、アトラース内部に入ります」
内部に入れば、敵ダモクレスによる防衛が予想される。
「この際、『先行班』は現れる防衛ダモクレスと交戦、中枢に向かわないように押し留めていただきます」
『突入班』はその間に護衛のダモクレスを突破、儀式を行っている指揮官指揮官ダモクレスの撃破か、或いは、儀式の核となる歯車を破壊するーーというのが今回の作戦だ。
「まずは最初に当たる、拠点型ダモクレスですね」
機工城アトラース。見上げる程の巨体に、複数の砲塔を持ち遠距離攻撃の他、近接では移動にしようする足を使ってくる。
一斉射撃はそこそこの命中率を持ち、近づけば足払いでの攻撃をしかけてくる。他に、とレイリは顔を上げた。
「正面限定、命中率はさほど高くはありませんがーー威力の高い集中砲火攻撃を有しています」
つまり、危険はあるが正面から向かえば敵の攻撃を引きつけることができるのだ。
「『突入班』の皆様が、入り口を作りやすくなるのは事実です」
一つの手ではある、とレイリは言った。
突入口が作成されれば、拠点型ダモクレスとの戦闘を切り上げ、内部へ侵入することとなる。
「『先行班』では『突入班』の皆様の援護を行います。内部にいる防衛ダモクレスの対応ですね」
まぁ素直に奥まで侵入させてくれるわけではないようですので、とレイリは言った。
「防衛ダモクレスは多数。次々と他の場所からも集まってきます」
迎撃しやすい場所があれば、その場を選ぶのも手だろう。
「中枢へと向かう道中……、下り階段の前が良いかと。現れる防衛ダモクレスを突入班に向かわせないように、これを迎撃してください」
派手に戦っていれば、防衛ダモクレスを引きつけることもできるだろう。
「防衛ダモクレスはスチームギアです」
防衛ダモクレスとしては強力だが、基本に忠実な戦い方を行う。故に倒せなくとも足止めはしやすいタイプだ。
「ですが同時に、撃破、全滅させるには骨が折れます」
その耐久性は高く、遠距離からの射撃を有する。他に防御力を上げ回復する手段も有している。
「話が長くなってしまいましたね。皆様、最後までお聞きいただきありがとうございます」
レイリはそう言って、ケルベロスたちを見た。
「決戦に敗れたとは言え、死神のネレイデス勢力もこのまま引き下がるとは思えません」
儀式の阻止を優先するか、敵指揮官の撃破を狙うかは突入する班に任せることとなる。
その彼らを無事に、送りだし、果たせるよう守り抜くのが『先行班』の役目だ。
「簡単な作戦ではないことはよく分かっています」
ですが、とレイリは言うと、真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「皆様を信じていますから。この一戦を託します。イチ様のチームの皆様と共に、突入班が進めるよう道を拓き、守ってください」
その武と守護の力で。
「さぁ行きましょう。皆様に、幸運を」
参加者 | |
---|---|
キーラ・ヘザーリンク(ラブラドレッセンスの魔女・e00080) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948) |
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490) |
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731) |
●機工城アトラース
巨影が、空の色を割る。長く続く影が、築地大橋を色濃く染めようとしていた。つま先が触れるには後少しか。機工城アトラースは、築地市場に向かって侵攻してきていた。その先、影が触れる場所にいる者達のことなど、気にする様子もなく。
「仕掛けて来なきゃ踏み潰すって気概かね」
口の中ひとつ言葉を作り、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は口の端をあげる。
「力づくでいらっしゃるのならば、こちらにも意地があります」
橋上に吹く風に、靡く髪をそのままに キーラ・ヘザーリンク(ラブラドレッセンスの魔女・e00080)は告げた。
「ケルベロスとしての……」
進む一歩でも広げる気か。リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は眉を寄せた。
「一連の事件の黒幕は死神かと思っていたが、まさかそれさえも利用するとはな。味方すら容赦なく裏切り利用する……キングとは別の意味で厄介だ」
選ぶだけの手を持つ相手と思えば、警戒するのも事実。
「いずれにせよ、俺達の住むこの地と海を奴等の好きにはさせん」
「えぇ。まずはーー進ませない」
これ以上、とローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)が腰の剣を抜く。キン、と高い音を響かせ、白刃はその身を晒した。鈍い光を目の端に、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は機工城を見据える。
「マキナクロスは、俺の生まれた場所……けれド、俺の故郷ハ、地球デス」
鏡映しの白銀の瞳が迫る巨影を見据えていた。機工城の奥底まで見定めるかのような双眸は、傍に立つ彼に、纏う気配を変えた。
「阻止致しまショウ。全力デ」
「何としても突入班を守らないと、ですね」
緊張からか、言葉少なでいたジェミ・ニア(星喰・e23256)の、紡ぎ落とした最初の言葉だった。決意を込めて顔を上げ、見渡した仲間の顔を頼もしく思いながらジェミはゆるく、その手を握る。同じ戦場に立つ、もう一つの先行班も準備は完了している。後はーー行くだけだ。
「砲塔、こちらに向きました」
こちらを、障害と見たか。
それでいい。それこそが、この先行班の役目。
(「奥へ進む仲間を信じて。きっと守り抜いてみせます」)
息を吸い、シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)は言った。
「来ます」
その言葉が、戦いの始まりを告げた。
●双狗烈襲
アトラースの砲塔が、一斉に火を吹いた。
「前だ!」
叫ぶ声は誰のものであったか。警戒を告げるそれは射撃の熱に食いつぶされる。ぐら、と一瞬、歪んだ視界と共に痛みよりも先に熱が全身を襲う。
「炎か、盛大なこって」
腕がひどく熱い。血で汚れた視界を雑に拭うと、サイガは濡れた手で猟犬の鎖を引いた。
「やられっぱなしでいる気はねぇんだよ」
告げる男の描いた鎖は後衛へと癒しの陣をひく。紡ぐのは加護だ。落ちた光を受け取って、西水・祥空(クロームロータス・e01423)は顎をひく。
「デウスエクスにあげる経はございません」
抜き払った星座の剣に触れる。双子座の星震を宿した剣はその力を解放した。
「癒しと加護を」
刀身に指先を滑らせ、祥空が描き上げたのは前衛へと届く守護星座の陣。淡い光が、射撃の傷と熱を払いあげ、耐性を紡ぐ。
「俺達の役目は、中枢に向かう仲間を守り抜き無事に送り届けること。そのために全力で力を尽くそう」
リューディガーが癒し手たる祥空へと、盾を紡ぐ。淡い光を視界に、エトヴァの放つ炎がアトラースの装甲を撃った。ギ、と軋む音を響かせたアトラースの砲塔がこちらを向いた。ーーだが。
「行くね」
ジェミの振り下ろすハンマーが、竜の砲撃を響かせた。回避は然程高くはないか。だが、攻撃力が高いのは事実。
「見た目通りって所かしら」
二刀一対。因果と応報を司る刀を、ローザマリアは抜き払う。瞬間、霊体のみを切る衝撃波がアトラースへと届いた。
「ギ」
ギ、ィイイ。
音が届く。鋼の巨体から。獣が唸るように低く、時に甲高く。熱を帯びた戦場は轟音と共に加速していた。
「さあ、お留守な脚で踊ってみせて」
シィルの一撃が、巨体を余す事なく捉え切る。熱線が鉄を焼き、弾け落ちたのは破片か熱か。
「運命は、変えさせません」
キーラの指先が光を宿す。光弾が強かにアトラースを撃ち抜けば戦場に炎が舞った。加速する戦場は落ちた血さえ熱に染め、だが、それこそが引きつけた証拠とケルベロス達は一撃を選ぶ。
「あの熱ハ」
「うん。正面、また来ます」
あの集中砲火だ。エトヴァとジェミの警告と同時に砲塔が熱を帯びる。ぶわり、と瞬間、戦場が熱を帯びた。狙いはーー再び前衛か。
「そう何度も同じ手は」
「あぁ、食わねぇっての」
その一撃を、前衛陣は交わす。交わし切る。その瞬間、空に光が見えた。流星の煌めきを纏い、届いたのは太陽の巫女が差し込む一条の光。ガウン、と重い一撃は、アトラースの脚部を捉えーー巨体が、傾ぐ。
「今よ」
この機を逃す訳にはーーいかない。
声を上げ、ローザマリアは空に無数の剣を召喚する。ギ、と軋むアトラースを捉えるようにジェミの御技が絡みつく。
「早く先へ!」
答える声は無く、だが動き出す突入班の姿が、一撃が応えとなる。その時を支えるべく、動き続けた彼らの前やがて信号弾が上がる。破砕の音は、内部への入り口を作り上げた音だ。戦い始めて6分、道は、できた。
アトラースとこれ以上戦う必要はない。
「後は……頼んだぞ!」
血に濡れた手で武器を握り直し、リューディガーはそう告げた。
「突入口は……、あそこのようです」
シィルの見つけた先、既に突入班の姿は無い。既に中に入ったのだろう。
「わたし達も向かいましょう」
戦いながら、先行班が反対側の突破口に辿り着いたのは、それから3分後の事だった。
●深き銀の城
飛び込んだ先、アトラース内部には鉄と焦げたような匂いがしていた。狭い訳でもなければひどく広いという訳でも無い。
「うん、やっぱり通信機器は使えないね」
内部と思えば予想していた通りだ。ジェミは反応の無い通信機を片付けると、同じ先行班を見た。彼らとは問題ない。腕時計は各自問題なく、となれば後は突入班の援護だ。時間制限のある戦場。彼らは先に行ったようだ。
「では、追いかける必要があるな」
リューディガーの言葉に頷いて、サイガは通路の奥へと目をやった。奥へと続く空間に、何かが転がっている。
「まぁ、向かった先が分かるって感じでいーんじゃねぇの?」
スチームギアの残骸。戦闘の痕跡は奥に向かって続いていく。サイガは共に行く仲間へと視線をやった。
「この後を追うのが良さそうだね」
応じる詩月に頷いて、一行は戦いの後を辿り奥へと進んでいった。疎らに現れる敵を斬り伏せ進んだ先で『先』の色が変わった。さっきまでとはまるで違う。向こう側が見えないのだ。
「スチームギアですね」
アトラース内部、防衛ダモクレス。スチームギアの一団が、一帯を埋め尽くしていた。
「どこかに向かおうとしているようね」
ローザマリアの言葉に、皆が頷く。向かう先はどうやら同じ『奥』らしい。
「では、憂いを断つ為にも御相手致しましょう」
キーラはそう言って、視線をあげる。共に行く仲間達を見れば、迅の声が届いた。
「突っ切っていく、でいいか?」
「はい。参りましょう」
祥空は頷き、その手に武器を取る。鈍く聞こえていた足音達が不意に歪みーー止まったのは、その時だった。あちらが気がつくのと、こちらが仕掛けるのは同時であったか。ぐん、と機械の頭が回わる。
「成る程、器用なものだな」
リューディガーは仲間へと盾と癒しを紡ぐ。乱戦だ。紡ぐ加護は身を支える力となる。
「後方、狙ってきます」
告げたキーラに応じたのはエトヴァだ。
「でハ、相手をしまショウ」
燃え盛る火の玉が、スチームギア達を焼いた。熱の中、傾ぐギアが放つ一撃をエトヴァは避ける。たん、床を蹴った彼を視界に、シィラは加護を紡ぐ。
「癒しを」
戦場に描きあげられるのは守護星座の陣。前衛へと耐性の加護を紡ぎあげれば、光の中をケルベロス達は駆けた。スチームギアの群れを相手に戦えば乱戦は必須。だが、今のところ誰一人倒れてはいない。一帯を焼き払う熱線に、血を流しながらも一体、次の一体と狙いを定めーー踏み込む。
「すっこんでろモブ」
サイガの一撃が、スチームギアを蹴り飛ばす。転がり落ちた頭部を飛び越え、ぐん、と身を前に踏み込めば、側面を狙った一撃をジェミが撃ち抜いていた。無数の刀剣に撃ち抜かれ、傾ぐ敵の向こう一瞬、視界が開く。そこに見えたのはーー。
●絶対防衛ライン
「下り階段」
それこそが探していた最終防衛ライン。深部へと向かう道。突入班を守り抜く為に必要な一線だった。
「この向こう、階段を見つけました!」
「階段……でも、皆で行くのは無理そうですよ」
多少足止めできるよね、とトエルが仲間に声をかける。頷きあう仲間に感謝を紡ぎ、ジェミは次の一手を選ぶ。
「守りまショウ」
「うん」
エトヴァの一撃が、敵を撃ち抜く。あの場所に向かおう。短く、交わした言葉に眼前の敵を迎え撃ちながら頷きあう。
「先に行かれているのであれば、これ以上を行かせなければ良いだけのこと」
キーラの声に、なら、と仲間から声が届く。
「ならこっちは、このまま止めて動きやすいようにしよう」
「背面を取れるようになれば戦いも楽になります。行ってください」
詩月の声にある者はひらと手を振り、サイガは言った。
「んじゃまぁ、ちっと向こう側まで行ってくるわ」
互いに真っ直ぐに前を見て、ケルベロス達は駆け出した。飛び込み、斬りはらい、辿り着いた最終防衛ラインで、高く足音を鳴らす。踏み込んだ足を軸に振り返り、返す刃で一撃を受け止めて。目の端に見えた階段の先には、スチームギアの残骸が落ちていた。この先に、確かに仲間は進んだのだ。ならばやることはひとつ。この場を、此処を守りきる。
「かかってきなさい、ガラクタども」
そう、シィラは眼前の敵に告げた。
熱線が、返答の如く放たれた。避けるには距離が足らない。一撃、真正面から受け止めて血濡れの指先を敵に向ける。
「遊んであげましょう」
眼前、飛び込んでくる4体を捉えた熱線がギアを貫いた。ゴウン、と派手な爆発を上げながら、飛びかかってくるギアを捕えるものがあった。
「通しませんよ」
キーラの紡ぎあげた無数の黒鎖だ。網目のように細かく、ただの一体も逃すつもりはなく。鋼の鈍い音と、剣戟が戦場に響いていた。防衛ラインに足を置き、誰も抜かせぬと降り注ぐ熱線さえ受け止めて、その砲塔ごと切り捨てる。熱線さえ斬り伏せて、火花の中を駆けた。
「てめえらとニンゲンサマの違い、なぁんだ?」
吐き出した息が、手が血に濡れていた。受けた一撃は重く、だがサイガは立っている。殺しきれなかった事実にギアの砲塔が熱を帯びる。は、とサイガは口の端を上げーー笑った。
「死んでねえから俺の勝ち。だろ?」
その熱に、身を前に飛ばす。低く、踏み込めば射線の下。狙う為に身を振るにはこの戦場はギアの数が多すぎる。それがサイガの見つけた反撃のポイント。その為に受けた一撃。
「残念。終着だ」
間合いにて、真下から叩き上げる重い一撃がスチームギアを砕き切った。ガシャン、と派手な破砕音と共に鋼が降る。その鉄を避け切り飛べば、流石に体が傾いだ。
「力なき人々を護る気高き刃に祝福あれ」
それは降りかかる苦難を退ける加護をもたらすもの。薔薇勲章がサイガの傷を払いーーだが、その身に残る傷があることに祥空は気がついていた。一人ではない。前衛陣の回復不能ダメージが蓄積してきていたのだ。
(「敵の群れを突破しての布陣に加え、先の拠点型は前衛を主に狙ってきていましたね……」)
最も、傷ひとつない者はいなかった。多少の熱であればそのままに向かいくる敵を斬りはらい撃ち払う。
「数を誇るのであれば、受けてみせましょう」
砲撃を避け、向けた指先にキーラは光を灯す。放たれる光弾が、飛び込むギア達を撃ち抜けば、バチと光が爆ぜた。
「さあ、根比べです」
麻痺だ。
一撃が空を切り、生まれた間をケルベロス達は逃さない。絶対死守の防衛戦は火花散る中で加速する。残骸の山を踏みしめ飛びかかる敵の一撃を時に受け、時に斬り払いこの一線を守りきる。ーーだがそれとて、永遠には続けられない。
「流石に消耗が激しい。前に出ます」
仲間の状況に、ジェミがそう声を上げた。た、と踏み込み行く彼の前、向けられた一撃にーー声が届く。
「Hoeren Sie ruhig zu.」
エトヴァの歌声だ。
澄んだ声音にスチームギアの足が止まる。ジェミへと向けた腕が、機械に深く響く歌声にバチと火花をあげていた。それは歌声に乗せて響いた妨害音波。動かぬ身に異常を感じたギア達がこちらを向く。その敵意を、エトヴァは受け止めた。真正面、冷静に受け止めたのはひとつーー向かう仲間の姿が見えていたから。
「さぁ、これはいかが?」
交代前のシィラの砲撃が、ギアを撃ち抜いた。破片の向こう、飛びかかってくるギア達はーーだが空でその身を止める。
「其は全ての仇為す者達を地に留め置く誅罰の縛鎖」
それは拘束に特化した魔法。ローザマリアの紡ぐ秘法が戦場へと無数の銀鎖を召喚していた。
「幾星霜の後も天を鎖せ、永久の戒めよ」
捕らわれたギアが軋む。鎖に打ち砕かれ、降り注ぐ破片が敵の射撃に消えた。
「救護部隊、出動! 全力を以って我らが同朋を援護せよ!」
血に染まる視界を拭い、リューディガーは回復を展開した。前衛に落ちた炎を払い上げれば、焦げた床と落ちた血、転がる破片だけが戦場に残る。あと少しなのか。まだなのか。誰一人未だ倒れてはいないが。
「これ以上は」
「えぇ」
祥空が重々しく頷いたその時ーー腕時計が時を告げた。それは30分の経過。
「時間です。これ以上は……」
撤収を、と紡ぐ声とスチームギア達が攻撃を止めていくのほぼ同時であった。ギア達が散りにどこかへと消えていく中、機工城が震える。この場に残っていては危険だと誰もがそう思うほどの震動に、撤収を告げる声が重なる。
「あれは」
そうして脱出した先でケルベロス達の目に映ったのは、機工城の周囲に数百とも思われるダモクレスが出現している光景だった。
「機械の、手」
キーラの声が、ひどく静かに響いた。『防勢機巧』月輪、『攻勢機巧』日輪はこちらの様子など気にする事もないままに動き出す。
「マキナクロス」
エトヴァはその名を紡ぎ落とす。冷静沈着な彼の瞳はその事実を確かに認めていた。
あれは、世界をマキナクロスに作り替えようとしていると。
「撤退だな」
「はい。この情報を確かに持ち帰りましょう」
サイガの言葉にジェミは頷き、誰もが唇を引き結んだ。災禍の熱は今、この地に迫ろうとしていた。
作者:秋月諒 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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