終末機巧大戦~大いなる実験の終末

作者:林雪

●『終末機巧大戦』
「君たちのおかげで死神の儀式は無事に阻止されたよ。十二創神のサルベージだなんて、一体誰が考えたんだか……ともあれ幹部クラスの撃破報告も続々来てるし、堂々たる戦果だと思うよ。おめでとう」
 ヘリオライダーの安齋・光弦がそう告げて笑顔を見せるが、続く話はそう楽観的でもない。
「とりあえず最悪の事態は防いだけど、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が動いてる。まず、今の東京湾には死神たちの儀式失敗の影響で、大量のグラビティチェインが流れ出してる状態だ。この、行き場を失ったグラビティチェインを奪った大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したのは……『五大巧』だよ」
 五大巧。海底探査で発見された拠点型ダモクレス『バックヤード』を支配していた五体のダモクレスを差す。
「彼らはディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を自分たちの支配下におさめた上で、死神を裏切って儀式への増援を拒否した。その戦力を温存して、今回の作戦を強行したみたいなんだ」
 そして既に『晴海ふ頭』は、中央部に出現したバックヤードを中心にして周辺の機械や工場などを取り込み、ダモクレス化してしまっているのだという。合体変形を繰り返し、巨大拠点に変化しつつある。
「奴らが企んでいるのは『終末機巧大戦』その目的は東京湾全体のマキナクロス化だ」
 終末機巧大戦は、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』をダモクレスが機械的に模倣した大儀式だと推測されている。
 核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、東京湾全体をマキナクロス化させる。これが完遂されてしまえば、これまでになく広大なダモクレスの策源地が生まれてしまうのだ。
「『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要なんだ」
 一旦息を吐き、光弦はケルベロスたちを見回した。
「奴らの儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われる。だから『核となる歯車』を破壊するためには、その拠点型ダモクレスの内部に潜入しないとならない」
 終末機巧大戦の儀式は、どうやら晴海ふ頭外縁部で行なわなければならないらしく、拠点型ダモクレスは儀式の開始とともに侵攻を開始する。
「侵攻開始から儀式の儀式が発動するまでの時間は、たった30分。君たちの目的は、はこの30分以内に、拠点型ダモクレス内部に潜入して護衛を排除、そこで儀式を行っている指揮官ダモクレスを撃破するか、或いは、儀式の核となる歯車を破壊することだ」
 儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑えることが出来る。
 儀式が全て完遂されてしまれば、東京湾全体が五大巧の手におちるが、全てを阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑えられるということだ。
「余裕のない状況だけど、君たちならこの危機を乗り越えられるはずだ」

●『終末機巧』エスカトロジー再び
「今回目標とするのは6つの拠点型ダモクレス。君たちに潜入してもらいたいのはそのうちのひとつ『超弩級人型要塞ギガマザークィーン』だ。こいつは、晴海客船ターミナルから海上をホバーで進み、レインボーブリッジを目指して侵攻する」
 ギガマザークィーンを強襲するのは全部で5チーム。
「君たちは3チーム合同の『突入班』になる。先行する2チームがギガマザークィーンを抑えてくれている間に、突入口を開く為の攻撃を仕掛けて欲しい。そして開けた突入口から内部へ潜入、先行2チームはそれに続いて潜入はするけど、君たちの後ろを増援から守ってくれる。その間に君たちは儀式が行われている中枢部を目指すんだ」
 その中枢部の前には、儀式を護衛する『メタルガールカーネル』が立ちはだかる。
 そこを突破した先の儀式場で待ち構えるのは。
「儀式場にいるのは、『五大巧』のひとり『終末機巧』エスカトロジーだ」
 先だってのクロムレック攻略において、『バックヤード』に姿を現した、現時点では唯一の五大巧。それが『終末機巧』エスカトロジーである。
「メタルガールカーネルは強敵だし、取り巻きもつれてるらしい。考えうる作戦は、3つ」
 と、光弦が指を立てた。
「ひとつは、3チームで協力して護衛を全滅させてから、核のある儀式場に向かう作戦。これは当然敵が戦いを長引かせようとしてくるから、勝てるとしても時間稼ぎをされる可能性があるね」
 光弦がリスクを上げて説明していく。
「ふたつめ。1チームが護衛のメタルガールカーネルを足止めをしている間に、2チームが核に向かう作戦。足止めするチームは全滅するまで戦う覚悟がいるのと、全滅した後は護衛が増援として儀式場に現れることになってしまう」
 いずれにしても戦いは厳しいね、と付け足して光弦が言葉を続ける。
「そして3つめ。2チームで護衛と戦って、1チームが単独で核に向かう。これだとメタルガールカーネルとの戦闘は互角だ。君たちかメタルガールカーネル、勝利した側が増援として儀式場に現れることになる」
 この敵の『増援』は、ダモクレスならではのものである。
「儀式場にいるのはエスカトロジー1体だけ。そこに増援として現れたダモクレスは、なんと儀式の余波で分解されて、エスカトロジーに融合されちゃうんだ。つまり、増援が来るとエスカトロジーは回復する。増援が多ければ多いほど回復量も多くなるってこと」
 単体で儀式を行なっているとはいえ、エスカトロジーは普通の戦法では到底1チームで倒せる相手ではない。そのことは既にバックヤードで証明されてしまっている。
「ただし、1チームでも『歯車』を破壊出来れば勝機はある。2チーム連携すれば互角。回復される前に削って、削り切れれば勝てる道はある。でも、撃破する前に敵の増援が現れちゃうと……もう一度削り切るには時間が足りないかも。何せ作戦時間は全部で30分しかないからね」

●もうひとつの勢力
「ところでね、さっき『超弩級人型要塞ギガマザークィーンは晴海ターミナルからレインボーブリッジを目指す』って言ったよね。実はレインボーブリッジには六芒星決戦で残存した『第四王女レリの軍勢』が残っているんだ。エスカトロジーは第四王女の軍勢を撃退してからレインボーブリッジで儀式を行なうつもりがあるらしいから、彼女らを誘き寄せるっていうのも、作戦のひとつではある」
 光弦が海上図面を示しながら説明を続ける。
「ただ、第四王女軍がどう動くか、どの程度の接近でギガマザークィーンに食いつくのか具体的には読めない。加えて、レインボーブリッジに近付くまでこちらが強襲せずに様子見しても、内部では儀式の準備が始まってることになるから、こっちの作戦遂行時間が短くなるリスクもある」
 ふぃーと長い息を吐いて光弦が天井を仰ぐ。
「道が色々あり過ぎて君たちも悩ましいと思うけど、まずは儀式の邪魔をしてやるか、それとも幹部を狙って行くか、それとも第四王女を狙うのか。よく話し合って決めて欲しい。頼んだよ、ケルベロス」


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
澄乃・蛍(元量産型ダモクレス・e03951)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)

■リプレイ


 東京湾全体が、震撼していた。
 今回の作戦ターゲットは『超弩級人型要塞ギガマザークィーン』、人型要塞のホバーの唸りは薄暗い海上を蹴立てて、一路レインボーブリッジへと向かう。それを阻止すべく先行したニ班の仲間たちが巨大な敵に追い縋り、懸命の戦いを仕掛けていた。水面から上がる水柱が、その激しさを物語る。
 湾内へ侵入したヘリオンからケルベロス三班が次々と降下していく。無言のままでラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)と澄乃・蛍(元量産型ダモクレス・e03951)が飛び降りる。その背を見遣りつつ、ギガマザークイーンに取り付き内部へ突入し『儀式』を防ぐ、という任務を脳内で反芻しながらソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が、次いで九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が宙に身を躍らせ、ほぼ間を置かずにドラゴニアンの四人が飛び立った、その瞬間。
 激しい轟音と共に広げた翼に風圧を、続いて熱を感じて百丸・千助(刃己合研・e05330)が首を返した。
「……ヘリオン狙いだと?!」
 我が目を疑いつつ千助は声を荒げた。敵の標的にされたのは、たった今自分が降りたヘリオンだったのだ。
「王女レリ、やはり見逃しも容赦もしないってことだね……!」
 ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)が短く舌打ちして竜の翼を翻し、続く砲撃の弾道を見定めんとするが、作戦は続行されねばならない。千助と手分けしてロープを投げ、翼を持たぬ仲間らの降下を手助けする。空中で片手でそれを掴み、落下の勢いを殺してから身軽に移動したソロが上空を見上げ、散開するヘリオンを見送る。彼女に添うように動く幻も、両手を目の上に翳して呟く。
「……墜ちた?」
「まさか……」
 中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)が案ずるのはひとつ。操縦者の安否だ。
 しかし。
「我々が使命を曲げるわけには、いかない」
 ラーヴァの言葉は戦士としては当然でもあり、仲間への無防備なまでの信頼の現れでもあったかも知れない。すぐにでも落下地点に向かうべきではとほんの一瞬迷ったロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)だったが、その言葉を己のものとして胸に落とし込む。想定外の事態、だがここで止まれば東京湾は敵の手に落ちる。
「……」
 蛍は表情を変えぬまま、遠くの海を一瞬だけ見遣り、前を向いた。
 任務に危険はつきもの。だが、それが自分たちの身に降りかかるものとは限らないのだと痛感しつつも、ケルベロスたちに立ち止まる暇は与えられなかった。
 内部へ雪崩れ込むための入り口を探る間も、当然のことながら人型要塞は動きを止めない。必死の攻防が続く中、ようやくここと定めた一点を目がけてノーフィアが黒球を放ち、ラーヴァがレーザーで援護する。皆のグラビティが集約される中。
「ぬぁあああーーーっ!」
 服部・無明丸が拳を振り上げ気合いと共に振りぬいた。鉄のひしゃげる轟音が響き、ついに侵入口がこじ開けられる。
「よし、行こう!」
 他班の援護用にとロープを投げていた竜矢と幻、千助らが反応し踵を返す。
「急ぎましょう、刻が惜しい」
 ロスティが仲間にそう声をかけ、竜尾を揺らしつつ先行するエヴァンジェリンらに遅れるまいと内部へ吸い込まれるように侵入していった。
 巨大なダモクレスの腹の中を警戒しつつ進みながら、ソロはふと蛍を横目で見遣る。眼前に宿敵を迎える今の気分は、どんなものなのだろう。
 もちろんソロは今現在、自分が対峙している敵がエスカトロジーだと忘れたわけではない。ただ、こうしてダモクレスと戦っていればどうしても考えずにはいられない。
(「奴らは……大規模作戦にも顔を見せなかった」)
 この通路のどこかから、不意に奴らの姿が見えはしないか。
「ソロさん……?」
 いつもと様子の違う彼女を気にかけつつ、幻はそれ以上は何も言わなかった。
「おっと、来ましたね」
 そこへ数体の『メタルガールソルジャー・タイプG』が防衛に現れ、ロスティが身構える。ここで手間はかけられないが、敵は存外な数でケルベロスたちの侵入に対応してきた。
「予定は未定、ですからね……」
 多少強引な降下作戦は、敵にとっても不慮の事態だった。とは言え、こちらはヘリオンを一基落とされ、どうやら先行班との連携も断たれたらしかった。
 それでも。
「なあ、殴りたいよなあの眼鏡ヤロー」
 左右の敵を見回しつつそう言い放った千助の言葉は、どこか楽しげな響きすらあった。それを好もしいと思いつつラーヴァが頷いた。
「あのときはいいようにやられましたが、今回は……」
 ふたりはクロムレック強襲時に、エスカトロジーと対面している。千助に至っては、大切な友人を人質に取られた最悪の形で。戦意の滾らない方がどうかしている、と、千助が手の中に研ぎ澄まされた刃を作り出す。
「舞え……朱裂!」
 千助の攻撃と同時、ラーヴァもまた灼熱色の結界を展開する。更にはソロが暗黒の鎖で敵の足元を掬う。
 目指すは中枢、だがそこへ至るのに避けられない壁が現れる。護衛機『メタルガールカーネル』率いる軍勢である。
「カーネル……」
 呟いた蛍のことなど眼中にないかのように、カーネルが機械的に戦闘開始の合図を出すと同時、ソルジャーらが一斉に銃を構える。ずらりと並ばれると圧巻だ。彼らにあるのは強固な意志でも何でもない。ケルベロスを通すな、という絶対的な命令のみである。
「部下を盾にしないとは、感心感心~。でもね……何処に逃げても無駄だ」
 斬ってみせよう、と、幻が構えた銀閃は読んで字の如く。そこから紅の稲妻の斬撃がカーネルめがけて叩き込まれる。こいつを倒さねば前には進めない。
「この数……だが、真の敵は更に奥、か」
 竜矢が敵を見据える。ロスティが一歩前へ出つつその竜矢へ声掛けた。
「敵も粘ってくるはずですが、根負けしないところを見せてやりましょう」
 ロスティが言うや色鮮やかな爆煙を放ち、最前線を張る仲間の背を彩った。竜矢がその後を追うように瞬間高速の突撃で青い尾を振るい、敵の隊列を乱して援護した。
 三班入り乱れての乱戦とも言える戦いだが、絆の力の分、ケルベロスが有利と言えた。
「いくよ一太!」
「あいよ館長、合わせる!」
 お互い言いあうも、何を合わせるのかまで追いつかないふたり。だがノーフィアが跳んだその眼下では、既に一太の炎の鎖が敵を絡め取っており、用意された着地点に満足げなノーフィアの蹴りが炸裂、敵を撃破する。言葉を越えた呼吸に互いに笑顔となるも一瞬、次の戦闘へ向かう二人の手元で双ツ月が輝いた。
 攻める者、守る者、そして阻む者。誰もが全力を尽くした。そして傷ついた彼らを癒す者。
「敵の邪魔は、楽しい」
 心からそう思いつつラーヴァの放った弾丸は煙幕を張り、ソルジャーらの足を止めた。果敢に前に飛び出していく太陽の騎士の一助となれたことを秘かに誇り、更には流れるような動きでアリス・ティアラハートが彼女を癒すのを見届けてから、次の敵へ向き合う。
「ありがとうございます、助かりました……!」
 背中に掛けられた律儀な細い声に、幾分の擽ったさを覚えながら、ラーヴァは親指を立てて見せた。


 ケルベロスたちは着実に敵の機械戦士たちの足を止め、次々と彼らを葬り去っていく。
 それでもなお、敵が手薄になる様子は見えなかった。減ったと思えば再びの増援。
(「……時間が、ない」)
 竜矢が内心の動揺を表に出すまいと、武器を握る手に力を籠めて戦況を見回した。
 減らない敵。心のない鉄の壁、それを崩すには。
「奴らの動揺を誘うには、やはりあれしかないでしょうねえ……」
 焦りというもののわかりにくいラーヴァの声がそう呟く。この戦場の指揮をとるカーネルさえ倒せば、というのだ。
「簡単に……言ってるわけじゃないんですよねぇ」
 ロスティが応じて、ラーヴァの視線の先を追った。同じ戦場に立つ者同士、狙いもわかれば、それが難しい状況だということもわかった。
 時を同じくして、蛍の瞳もメタルガールカーネルを捉えていた。
 だがその表情は動かない。彼女は沈黙の中で戦っている。
「……」
 ソロにはそれが、痛いほどに『解る』気がした。そこに心がないわけではない、怒りがないわけではない。想いがないわけではない。ただ、不安になる。己の心は果たして、冷たい機械に囚われたままなのではないかと。
 その共感を、言葉以外のもので蛍に伝えることが出来るだろうか。
「……いくぞ幻、気合いを入れろ!」
「……!」
 ソロの双眸にいつにも増して激しい蒼光が宿り、言葉と感情が迸る。
「狙いはあいつだ! 倒す、絶対に! 貴様を踏み越えてエスカトロジーをブン殴るッ!」
 ヒートアップしたソロのその様子に、呼ばれた幻は堪らない昂揚を覚える。戦う者の血が騒ぐ。ゾクゾクと快楽にも似たものを感じて、こみ上げる笑いを抑えきれなかった。
「く……、くひ、くひひっ! やるよ、やってやるさ!」
 彼らの間に満ちるのは、単なる怒りとも違う。様々な想いの交錯が、戦う心に火を着けた。一旦そうとなれば戦いそのものに悦びを見出す者たちを、何かから解放したかのようだった。
「君のそういう感じ、嫌いじゃないよソロ!」
 ノーフィアが瞳を爛々とさせ、楽しいねと短く呟いたラーヴァの炎がゴウと低い音を立てて燃え盛った。
 己の獰猛を解放したケルベロスたちが、一点を狙う。
「カーネル! ブッ倒して進ませてもらうぜ!」
 千助の声に力強く頷いた竜矢もまた、己の体内に渦巻く熱を感じていた。
「倒せる……このまま押し込めば!」
「彼のためにとっておいた殺気を、分けてあげましょう!」
 ロスティもいつにない激しさを全面に出し、攻撃に入る。
 感じるのは、誰もひとりで戦ってはいないということ。
 蛍が目の前の敵に視線を移す。何十、何百、何千の軍勢の中にいようとも、ダモクレスという存在である以上、己は常にただ一基の戦力に過ぎなかった。
「私は……」
 今は違う。思いを同じくして突入した仲間、ここに至る道筋を開いてくれた仲間たちが。
 カーネルへの一斉攻撃が降り注ぐ中。
 ソロの瞳の色を映したエネルギーの魔蝶が翅を揺らめかせてカーネルへと群れ、それごと斬り裂く勢いで幻の赤い稲妻が追う。強力な援護を得た今、確かな道が見えた。
「今だ、ブチこめ、蛍っ!」
 はっきりと声が聞こえる。仲間の声が、そして自分自身の奥底から沸きあがる思いを、蛍は全身で吐き出した。
「私は、もうメタルガールソルジャーじゃないっ! だから、カーネルには従えない! これが……ッ!」
『……!』
 蛍の背に翼の如く広がったファンに、グラビティが集約されていく。最大出力、渾身の蛍の光線がカーネルに吸い込まれ、その機体を撃ち砕く!
 届いた、と確信したソロが表情を一瞬だけ緩めた。優しい顔だった。
「よっしゃあ!」
 千助が勝利を確信し破顔したが、依然時間は逼迫していた。
「くひひ、儀式なんかやらせないよっ」
 着地した幻と、既にいつもの表情を取り戻したソロが奥を目指して走り出す。
「今なら行ける! エスカトロジーを止めましょう」
 ロスティが大きな体を丸め、残る敵を押しのめすようにして道を開く。竜矢とラーヴァがそれに続いた。
「東京湾は絶対に渡しません!」
「よーし、どきなさいどきなさい。ケルベロスが通るよ」
 奥へ駆け行く仲間の姿を、半ば放心したような面持ちで見ていた蛍の背をノーフィアが叩く。
「君の勝ちだよ、蛍。行こう、あと一息だ!」
 己の事のように誇らしげにそう告げて、ノーフィアがそのまま蛍の手を引いた。きっと、心はあとからゆっくり追いついてくる。今は共に敵を倒そう、と。
 そして彼らは遂に中枢部に至る。
 無機質な、がらんどうの機械の中。そここそが儀式会場。身の丈を越すほどの巨大な『歯車』を回しているのはもちろん。
「見つけたぜ」
 因縁の相手の姿に千助が興奮冷めやらぬまま口端を持ち上げ、ラーヴァの炎が一際大きくなった。


 駆けつけたケルベロスたちの姿に『終末機巧』エスカトロジーが、感嘆とも呆れとも取れる言葉を返す。
『君たちはよほど、招かれざる時の来訪がお好きなようですね。実に騒々しい』
 己に視線を注ぐケルベロスたちを不敵に見回し、その意図するところを読み取ると俄かに表情を険しくし、眼鏡の縁に触れた。
『そして、我らの邪魔をするのもお好きなようだ……』
「今日はひとりか。寂しそうだな、遊んでやるよ!」
 ぐるり。敵を見回した終末機巧は、恐らく己の状況を誰よりも冷静に正確に理解していた。視線はさておき、ケルベロスたちの意識は全て己の背で回転を続ける歯車に注がれている。それを遮る如くミサイルを放ち、エスカトロジーは数で勝る敵を撹乱し始めた。
 対するケルベロス側も心得たもの、ほぼ斉射と言える勢いで歯車のみを狙い撃つ。
『鬱陶しいですね、本当に』
 相変わらず本体は攻撃に屈する気配は見せず、不遜な態度を貫いている。ばかりか、敵の攻撃はケルベロスたちの防御と集中を強烈に引き剥がしていく。
 ゴウン、歯車は廻り怪光線が放たれる。
「ぐぅ……ッ!」
 床を蹴り、力の限り身を反らせたロスティがその胸で光線を遮って狙撃手らを守った。彼らに当たればその分歯車を落とすのが遅くなる。守りは重要、そして自分はペレのおかげでまだいける、と相棒に目配せし、ノーフィアはそのまま前で壁の位置を保つ。蛍がロスティの傷へ幻影を纏わせて癒した。
 最後の号令となったのは、ガイスト・リントヴルムの決死の叫び。
「仕掛けよ!」
 至近からのエスカトロジーの一撃に身を投げ出し、血を捧げたその覚悟が戦乱の宴を終焉へと導く。
 ソロの白銀の長弓が、幻の紅塊が、ノーフィアの龍の顎門が、ラーヴァの火矢が、千助の蹴撃が、竜矢の砲門が。かの陰謀を砕く為に攻撃を注ぎ続けるのを、ロスティと蛍が懸命に支えた。
「その計算も歯車も、狂わせて差し上げましょう」
 決定打を与えたのは黒江・カルナの一撃。亀裂はやがて限界まで広がり、邪悪なる歯車はその使命を果たすことなく砕け散った。
『どうやら、君たちケルベロスの覚悟を見誤っていたようですね。犠牲を厭わず、決死隊を送り込んでくるとは……認識を変える必要があるかもしれません』
 歯車破壊成功の影響か、エスカトロジーの姿が歪み、消えていく。
「また会いましょうねえ。次こそは……ゆっくり殺そうね」
 メラメラとラーヴァの兜から地獄の炎がはみ出す。慌てた竜矢が彼の腕を引く。
「今はゆっくりしていられません!」
 数多くの敵が、そしてその思惑が犇く中での戦い。またしてもエスカトロジーを取り逃がしたものの、蛍は自らの手でひとつの因縁に終止符を打った。
 全ては脱出してからのことと、戦士たちは崩壊の始まったギガマザークィーン内を全力で駆け抜けた。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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