扇風機にご用心

作者:あかつき


 住宅地から2キロほど離れた所にある、廃棄家電置き場。
 握りこぶし大で、蜘蛛のような脚を生やしたコギトエルゴスムが、廃棄家電の山をごそごそと歩いていく。そして、ごとっとその身を潜り込ませたのは、夏にお世話になった扇風機。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィィ」
 それから、ヒュゴオオオオと唸りながら、首を左右に振り強風であたりの木々の葉を撒き散らし、ドゴォンドゴォンと大きな足音をさせ、民家の方へと歩いていく。その度に風は強くなり、カマイタチのように木々を斬り裂いていく。
「ピュウウウウウウン!!」
 そして、ダモクレスは人々を殺してグラビティ・チェインを奪うべく、歩みを進めて行くのだった。


「住宅地から2キロほど離れた場所にある廃棄家電置き場の扇風機がダモクレスになってしまう事件が発生するようだ。幸いにもまだ被害は出ていないが、ダモクレスを放置すれば多くの人々が虐殺されて、グラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。その前に現場に向かい、事件を阻止してほしい」
 雪村・葵は集まったケルベロス達に、そう言った。
 このダモクレスは扇風機が変形したロボットのような姿をしている。突風で吹き飛ばし攻撃をしてきたり、カマイタチを起こして攻撃をしてきたりする。また、漏電して廃棄されたらしく、放電して攻撃する事もできるらしい。
「扇風機は夏の間フル活用されて壊れたのだろう。それで人々を殺す事にまで利用されるなど、あんまりだろう。被害が出る前に前に、なるべく早く撃破してきてくれ」


参加者
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
皇・晴(猩々緋の華・e36083)
菊池・アイビス(くろいぬです・e37994)
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)

■リプレイ


 予知通り、昼間、指定された廃棄家電置き場に到着したケルベロス達は、周囲に目を向け、近くに一般人が居ない事を確認する。
「誰もいませんが誰か近づかないとも限りませんから、一応……」
 そう言って、イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)はすぅっと鋭く息を吸い、殺界形成を発動し、一般人を遠ざける空間を作り出す。
「あとは、立ち入り禁止、ですね」
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)はイルヴァに頷きつつ、荷物の中からキープアウトテープを取り出し、住宅地への道を塞ぐように木々の間に張り巡らせていく。そんな様子を眺めつつ、マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は大きく溜め息を吐く。
「こんなガラクタ風情の処理に駆り出されるなんて、……はぁ。めんどくさいわねぇ」
 明らかにやる気が低い。
「まあ、仕事だしさっさと終わらせて帰りましょ」
 それと対照的に、皇・晴(猩々緋の華・e36083)はやる気に満ちた瞳で、サーヴァントの彼岸に言う。
「ようやく誰かを護れるくらいには力が付きましたかね」
 彼岸は晴に同意を示すようにうんうんと頷いてみせる。
「……またダモクレスか湧いて出てくるのは変わらないが放ってもおけまい」
 そんな一言を溢し、少し肩を竦めるのは天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)。もぐら叩き、イタチごっこ。そんなものに対するような虚しさや呆れに似た感情が、水凪の表情からは滲み出ていた。
「しかし……もう冬になると言うのに、扇風機ですか。夏の間にさぞかし酷使されたのでしょうね」
 冷静に現れるダモクレスの元となった機械に対して感想とも推測ともとれる意見を述べるタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)。その姿勢は確かに探求者として相応しいものであろう。
 そんな仲間達の諸々の感情と姿勢は全く気にせず、滔々と語り続ける男が一人。
「なんちゅうかね、使い古しを悪用されるんは胸が痛うなるな。ガキん頃はのう年寄りと住んどったけえ、クーラー使いよる事なんなかったんよな」
 大変満足げに語り続ける菊池・アイビス(くろいぬです・e37994)だが、その話を聞いている仲間はどうも居ないようだ。
「こいつらにゃあ世話んなったもんじゃ」
 うんうん、とアイビスが頷いた、その時。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィ!!!!」
 奇声と共に辺りに轟く機械音。続いて吹きすさぶ突風。
「おいでなさったな」
 にやりとアイビスは口角を上げ、ダモクレスの方へと目を向ける。
「さて、現れましたね。人里に降りる前に、私達と手合わせ願いましょう」
 ライトニングロッドを構え、タキオンはダモクレスを見据える。


「人の命を奪う、そんなものになりたかったわけではないはず……あなたを、正しき形へ導きましょう。デウスエクスの好きになどさせません」
 イルヴァはダモクレスへとそう宣言し、すぅっと右手を掲げれば、魔法の木の葉がアイビスへと飛んでいく。
「お任せします、くれぐれも油断なさらず」
 そう声をかけるイルヴァに、アイビスはにっと目を細め、頷く。
「おう!」
 その明るい笑顔に少々むっとした表情をするイルヴァ。その横の蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)が木刀を肩に担ぎ、目を細める。
「私は暑がりだからこの時期でも扇風機は歓迎なのだけれども……流石にこうも派手に暴れるにゃあ、見過ごせないわよねぇ?」
 ね、とイルヴァに振れば、イルヴァも頷き。それを合図にするように、カイリは地を蹴る。白い霊力の雷を纏った木刀を手に、カイリは雷の如き速さで駆ける。
「ヤツの風と私の雷ッ! どっちが速いのか、勝負といこうじゃないかしらッ」
「ピ……ピュウウウウゥゥゥゥ……?!」
 左右の木々を、地面を蹴り、撹乱するカイリ。その動きをダモクレスは全く終えず、その痕を辿るように緩慢に首を振るのみ。冬だというのにヘソだしスタイルのカイリは、ダモクレスが丁度ワンテンポ遅れ、背後を見せたそのタイミングで距離を詰める。
「はぁっ!!!」
 振るった木刀に霊力を帯びたまま、ダモクレスへと高速の突きを繰り出す。
「ビガッ!!」
 がくんと首を前に倒すダモクレスの射程から、カイリは素早く離脱する。
「とはいえポンコツ風情にコレを抜くのも勿体ないし」
 マイアはちらりと白銀の長剣に目を向けてから、胸の谷間から這い出てきたスライム状の使い魔を手に纏いつかせる。
「適当に遊んであげましょうかね」
 艶やかに笑うマイアの意思に答え、Mucus dubhは大きく口を開け、ダモクレスを呑み込んだ。
「ピュゥ……ピュウゥゥ!!」
 Mucus dubhを吹き飛ばすべく全力で風を送り込み、首を左右に激しく振るダモクレス。その様子を横目で眺めつつ、アイビスは霊力を帯びた紙兵を大量散布し、仲間達へと守護を与えていく。
「雷の障壁よ、仲間を守る力となって下さい!」
 タキオンも防御を固める事を主眼に起き、ライトニングロッドを振るって雷の壁を構築する。
「行くのです!!」
 ようやくある程度の身体の自由を取り戻したダモクレスへ、マロンは砲撃形態に変形させたしましまハンマーの照準を合わせ、間髪入れずに竜砲弾を発射する。
「ゴッ」
 竜砲弾がダモクレスのボディにめり込んだ。ダモクレスはべこりと凹んだボディを左右に激しく震わせ、そして。
「セ……ン、プ、ウ…………キィィィィィィ!!!」
 ブオオオオオオン、と全力でファンを回せば、さくりと周囲の木の葉が真っ二つに切り裂かれていく。そして、そのファンはダモクレスのボディを凹ませたマロンへと向けられる。
「っ……!!」
 咄嗟にしましまハンマーで防御すべく構えるマロンだが、その前に晴が身を滑り込ませた。
「危ないっ!!」
 ダモクレスのカマイタチをその身で受け止めた晴は、がくりとその場に膝を突く。
「ありがとうございますです……!」
 マロンは、サーヴァントの彼岸が祈りを捧げその傷を癒している晴へと手を差し出す。それを隙と見て、追撃をかけようとファンを回転させるダモクレスを、水凪は見据える。すぅっと鋭く息を吸い、そして。
「…………頼むぞ」
 水凪が抽出した大地に潜む死者の無念は、ダモクレスの動きを鈍くしていく。
 その間にある程度の傷を回復した晴は、マロンに差し伸ばされた手を握り、立ち上がる。
「いえ……僕は出来ることをするだけですから」
 にこりと笑う晴の傷は、彼岸が癒せるだけでは足らないようだ。それを見てとったタキオンはすかさず晴へと駆け寄る。
「癒しの雨よ、仲間を浄化せよ!」
 そう声をかけ、タキオンはメディカルレインで晴の傷へと治療を施していく。
「全く……変にしぶとくて嫌になっちゃうわ……」
 ふぅ、と溜め息を吐き、琥珀色の結晶を実らせるAmber Misteltenを蔓触手形態へと変形させる。
「早く終わらせましょ」
 そう呟くや否や、Amber Misteltenはツルクサのようにダモクレスに絡み付く。
「扇風機に向けて『わー』とか『我々はケルベロスです』とか言うのがお約束と聞いていましたが……出来なさそうで残念です」
 ぽつりと呟いたマロンは、気を取り直し、きっとダモクレスへと視線を向ける。
「今年は猛暑でしたから、扇風機さんも大活躍でしたね! その末路がダモクレス化とは報われないのです……きちんと片付けるので成仏?『して下さいです!」
 そして、マロンはいつ取り出したのか、掌の上のモンブランシュークリームを構え、叫ぶ。
「お残しは許しませんなのですよ!」
 高級且つ繊細な甘さのモンブランシュークリームはダモクレスへと猛スピードで飛んでいき、凄まじい勢いでそのボディへと突っ込んでいった。その強烈な一撃に、ダモクレスはぐらぐらとファンを不安定に揺らし始める。その弱った姿を見て、晴は爆破スイッチを押し込んだ。
「みなさん、あと少しです!」
 そして背後で巻き起こった色とりどりの爆発で、ケルベロス達の士気は自ずと上がるというものだ。その間、彼岸は原始の炎でダモクレスへと攻撃を仕掛けていく。
「それでは、畳み掛けるか」
 水凪は胆礬を手に掲げる。ガラスのように光る蒼はみるみる内に形を変え、ダモクレスを飲み込むように覆い被さる。
「さて……、こちらもそろそろ動きましょうか」
 イルヴァは水凪のレゾナンスグリードにより動きの鈍ったダモクレスへと、死角から距離を詰めた。
「こちらです」
「ピュ……?!」
 その一言に、ダモクレスがイルヴァの接近に気付くが、時すでに遅く。
「いきますよ」
 空の霊力を帯びたバトルオーラは、ダモクレスのボディについた傷を正確に斬り広げていく。
「ギギギッ」
 油が切れて動きの鈍くなった時のような音を出し、かくかくと動くダモクレス。そんなダモクレスを視界の隅に納めつつ、アイビスは右目下の傷跡から掠めた地獄炎を両腕に纏い、ぐっと拳を握る。
「んじゃ、次はわしの番じゃの……」
 ダモクレスがアイビスの方へと視線を向けるよりも早く、アイビスは走り出す。そして、手を伸ばせば触れる距離まで肉薄し、左の拳を構えた。
「オドレは死んどれ」
 先ず入ったのは左のジャブ、続いて右ストレート。べこりと大きく凹んだボディに、ダモクレスはぐらぐらと身体を揺らして倒れかける。そんなダモクレスへ、カイリは地を蹴り駆け出す。
「私を冷やせるもんなら冷やしてみなさいよっ! それが出来ないというのなら……っ!!」
 動きの悪いながらも精一杯カイリを追いかけようと首を巡らせるダモクレスを、カイリは見据える。
「アンタの風をすり抜けてッ、私の雷が機械の体を真っ赤に燃やしてあげるわっ!」」
 言うや否や、カイリは木刀を構え、振りかぶる。
「我が身白き雷となりて、邪悪な思念宿りし敵をッ! 塵すら残さず焼き尽くすッ!」
 自身の肉体を霊子分解し、それを起点として喚び起こされたのは創生の雷。雷そのものとなった一刀を、カイリはダモクレスへと振り下ろす。
「武御ッ、怒槌ッ!」
 あらゆるものを引き裂き、究極の一撃に、ダモクレスは爆ぜる。数秒の間を置いて、僅かに残った欠片が辺りにばらばらと散らばるのだった。


「こんなところでしょう」
 大きな破損箇所のヒールを終え、タキオンは小さく息を吐く。それからタキオンは周囲へと目を向けると、他のケルベロス達も同じようにヒールを終え、一息吐いた所のようだった。
「はぁ、終わったわね? 疲れたしさっさと帰りましょ」
 辺りのヒールはきっちり終わらせて、マイアは首をこきっと鳴らす。それから大きく溜め息を吐くと、周囲を確認してさっと踵を返し帰路につく。
「あっ、アレ回収してこないとですね!!」
 そう言って走るマロンの向かう先には、戦闘前に自身が周囲に張り巡らせたキープアウトテープ。ばりっと木の幹から剥がしては、くるくると丸めていく。
「こ奴らの件、もうこれで終われれば良いが、そうもいかぬであろうな……」
 水凪はほぼ現状復帰した辺りに目をやり、呟く。
「まぁ、こんなところかな……。彼岸もお疲れさま」
 にっこりと機嫌良さげな晴は、ヒールを手伝っていた彼岸に目を向け、労いの言葉を掛ける。
「ん~……こんなもんかの」
 ヒールを終え、一人地面を見つめては欠片を広い集めていたアイビス。
「何をしているんですか?」
 イルヴァの問いかけに、アイビスは欠片を山のように地面に積み上げて、頷く。
「かわいそうじゃから、せめて破片やら拾うて片して、手でも合わせとこう……思て。おつかれさんてな」
 そう言って手を合わせるアイビスを数秒間見つめたあと、イルヴァも暫し目を閉じて、僅かながら祈りを捧げる。
「イルヴァちゃーん、帰っちゃうよっ!!」
 そんなイルヴァに、カイリの元気な声が掛けられる。ふと瞼を開き声の方へと目を向ければ、大分遠くの方にカイリが大きく腕を振っているのが見える。
「じゃあ、帰りましょうか」
「おう」
 イルヴァの発言に素直に頷き、アイビスも立ち上がる。こうして、晩秋に現れた扇風機のダモクレスは、誰かに被害を及ぼす前に、ケルベロス達により無事、撃破されたのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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