ケルベロス達の尽力の結果、死神達の儀式は無事に阻止が叶った。
「でも、まだ、次、が来るの。あなた達の力を貸して欲しい」
眉を寄せた篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)がケルベロス達へ依頼する。
東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が、儀式の失敗によって東京湾に溢れ出したグラビティ・チェインを利用し『終末機巧大戦』を引き起こすのだという。
これを率いるのは『五大巧』。彼らは、ディザスター・キングの指揮のもと死神達に協力する筈だった戦力を支配下に置き、死神達を裏切った──今回の作戦の為に戦力を温存したようだ。
「晴海ふ頭にはもう『バックヤード』が居て、周りの工場とかを取り込んでダモクレス化して行っているみたい。更に他に六つの拠点型ダモクレスが居て、その内部で儀式を行うことで、ダモクレス化の勢いを増して、東京湾全体を拠点にしてしまうつもりなのでは……とのことよ」
儀式の核となるのは六つの歯車。爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模していると見られている。
「今回、儀式を止めるためには歯車を壊して貰わないとならないの。儀式場でもある拠点型ダモクレスの内部へ入って行って貰う必要があるわ」
儀式は、晴海ふ頭外縁部で発動する必要があるらしい。拠点型ダモクレス達は、儀式の開始と同時に目的地へと侵攻して行く。
侵攻開始から儀式発動までの猶予は三十分。その間に、敵拠点への強襲と突入を行い、護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスのもとへ辿り着かねばならない。そこで指揮官を撃破するか、儀式の核となる歯車の破壊を成して貰う事になる。六箇所全てでこれに成功すれば、被害は晴海ふ頭中心部だけで抑える事が出来るだろう。
「──それで、あなた達にお願いしたいのは、計五チームで連携しての、『超弩級人型要塞ギガマザークィーン』とその内部への対応」
彼女はまず、拠点型ダモクレスの名を挙げた。これは、晴海客船ターミナルから海上をホバーで進み、レインボーブリッジへと向かう個体である。
その目的地には先の戦いで残ったエインヘリアル第四王女の軍勢が居り、ダモクレス達はこれを撃退し、橋で儀式を行おうとしている様子。その為、近付いた両者が戦闘を開始するまで待った場合、ダモクレス達はエインヘリアル達にも対応せねばならず、有利に事を運べるかもしれない──が、それを待つには作戦開始を遅らせる必要がある為、固執し過ぎるのも危険だろう。
「どれだけ待てばその状況に持ち込めるか、は、判っていないの。だから、待つのなら何分まで、それを越えるようなら彼らの接触を待たずに突入を……とかを決めておいて貰えると良いと思う」
その判断は、戦略なども含めて全て、ケルベロス達へ委ねる事になってしまうけれど。ヘリオライダーは一つ呼吸を挟み、次の話へと移る。
ダモクレス達の儀式自体は、周辺に展開する同族達をも吸収し巨大拠点の材料にしてしまう性質を持つ為、それを免れ得る少数によって進められるのだという。そのため此方も強襲作戦をとなったわけだが。
「それでも、時間が足りるかどうか。なので、先行して拠点型ダモクレスと戦う二チームと、その隙に突入口を開けて内部へ進み儀式を止める三チーム、で、分担して協力して貰う事になるわ。……あなた達は、突入の方をお願い」
まず、先行班が拠点型の注意を惹いてくれている間に、突入口を開く為の攻撃を仕掛けねばならない。また、内部には『メタルガールキャプテン』『メタルガールソルジャー・タイプG』から成る防衛部隊が居るため、それを突破して儀式が行われている中枢部を目指して貰う必要がある。
ケルベロス達の足止めを担う彼女らは数で圧して来るだろうが、その為の増援達は先行班が阻む手筈となっている。拠点型との戦闘を経て消耗しているであろう彼らが彼女らを抑えてくれている間に、突入班は接触した敵を急ぎ排除し進む事になる。
中枢部で核の歯車を護り儀式を進めるのは『終末機巧』エスカトロジー。その手前で護衛につきケルベロス達を阻まんとするのは、防衛機達の指揮官である『メタルガールカーネル』が率いる一隊。
中枢部に居るのはエスカトロジーただ一体だが、一チームでこれを撃破する事は難しいだろう。護衛の部隊もまた同様に、二チームの戦力をぶつける事で互角の戦いとなると見られている。
「二チームが護衛と戦っている間に、一チームで歯車の破壊を狙う、か……、
一チームが護衛を足止めしている間に、二チームで急いでエスカトロジーを倒すか。
三チームで協力して、護衛、エスカトロジー、と順番に倒して行って貰うのは幾らか安全な方法だと思うけれど、護衛も時間稼ぎをしようとするでしょうから、エスカトロジーを時間内に倒す、のは、難しいのではないかしら」
分担する場合、護衛部隊を倒したチームはその後中枢部へ加勢に向かう事が出来る。が、護衛部隊の方が勝利した場合、彼女達は指揮官への増援となる。彼女らは参戦して来るわけでは無いが、儀式の影響で分解され、エスカトロジーに融合して彼を、強化こそしないものの、回復させてしまうとのこと。護衛部隊の多くが生き残っていれば、大回復を何度も許してしまう事もあり得るという。
エスカトロジーそのものの撃破では無く、歯車の破壊による阻止を狙うのであれば、スナイパーによる部位狙いを幾度も成功させねばならない。が、そのつもりで作戦を練った上であれば、指揮官を倒すよりは易しい方法となろう。
「エスカトロジーを倒さず歯車を壊した場合、彼はバックヤードへ転移するらしいの。並行して進めるのでは時間が足りなくなる事も考えられるから……もし彼を倒すつもりなら、十分に準備をして貰う必要があると思う」
勿論、エスカトロジーを捨て置くつもりであっても、彼の抵抗を凌がねばならない。
「それから。三十分が経ったら、歯車を壊せていてもいなくても、進められていた儀式の影響を受けて、拠点型は破壊されるみたい。あなた達なら大丈夫だとは思うけれど、気を付けて。……それで、無事に戻って来て欲しい」
参加者 | |
---|---|
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374) |
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968) |
月見里・一太(咬殺・e02692) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
神宮時・あお(幽き灯・e04014) |
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
●
拠点型の侵攻開始から五分が過ぎる頃。水上から接近した面々が拠点型を惹きつけ得たと見て、彼らは空から飛び降りた。
戦闘区域の上空にギリギリまで近付いて、など、無謀は承知。だが、二勢力の虚を衝く事は容易く無いと踏み切った。下方から飛来する攻撃を視認した者から警告があがる。翼を広げたシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)とエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)が動くが、風を切り落ち行く中で対応しきれるものでも無く。
「────!!」
案じて仰いだ上空で爆発が起きた。ヘリオンが一つ墜ちて行く。神宮時・あお(幽き灯・e04014)が青い顔で目を瞠る。混乱の中、二機は何とか離脱を果たし得たと見られたが。
(「どうか、ご無事で……!」)
胸元で手を組むアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が眉を寄せる。黒煙に霞む一機の行く先は気になるが、今は作戦通りに動かねばならないから──拠点型と戦う先行班の面々もまた異変に気付いてくれている様子である事は幸いだけれど。
そうしてほどなくケルベロス達は拠点型の死角へと取りついた。各々得物を構え、拠点型の背面腰部へと攻撃を集める。先んじた面々の頭上、翼を広げた服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が小さく羽ばたき加速して。
「ぬぁあああーーーっ!」
握る拳は収束する力ゆえに光を灯す。突進と共に体ごと打ち込んで、軋み歪んでいた金属壁に更なる衝撃を重く響かせ──道が通ず。
その内部へ月見里・一太(咬殺・e02692)が目を遣った。今の間に待ち構えられて、などは無く済んだようでそのまま中へ。追って突入予定の面々のために幾つも提げられたロープの具合をキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が確かめる間に、各々続いた。
(「ここに残ってくれる皆にも見せられたのなら便利だったでしょうけれど」)
同道せぬ者へは意味を成さない標の糸を、それでもヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)は残し、白いコートの裾を翻した。少なくとも、帰路の保証には役立つ筈。
拠点型の奥へ進むにあたってはエヴァンジェリンらが前へ。隠密に長けた者達にそちらを任せ、他の盾役達は後方警戒を担う。耳を澄まし、駆動の音を聞き分け進む。
(「……早いわね」)
侵入者の存在を知り警戒を強めていると思しき防衛機の足音を聞く。接触すれば足止めを喰らうであろうと、かわせるものはかわすべく身を潜め。叶わぬ相手へは、群れを成す前に蹴散らすべく打って出た。
「鬱陶しい、邪魔すんな」
「チョット通してな」
道を塞ぐ者共へ速やかに打撃を斬撃を叩き込み、防衛態勢を整えつつある敵群を討ち払う。指揮官を戴かぬ兵の群れなど、彼らにとっては脅威とはならない──煩いだけで問題となる状況ではあるけれど、叶う限りに急いだ。
そして、三度目の五分が過ぎる頃。彼らは中枢手前へ配された護衛部隊と出遭う。
●
「おう、うじゃうじゃ居ンねぇ」
「地獄から番犬様の御成りだ、歓待しろよ鉄屑共!」
キソラが笑い、一太が凄む。道を塞ぐ敵達を前に、すべき事はただ一つ──全力で、速やかに、叩き潰す。援護の術が舞う中を、攻撃手達が駆ける。指揮官機は配下と共に前衛に。ならば重い蹴り技とて届く。跳んだあおが切り込んで、続き身を沈め標的へと距離を詰めたヒメが装甲を砕いた。枷を掛けたところを、キソラが放った光輪が配下機ごと一纏めに薙ぎ払う。兵達は指揮官を護るが、ならばその障害もろともと、一太が鎖を放ち無明丸の氷術が吹き荒れる。
敵はあまり散らばらずに防衛と時間稼ぎに専念するつもりと見えた。であれば損傷の激しい個体から順次落として行けば足りる。難しい事は考えずとも良い。
「私達を止められると思うな!」
シヴィルは展開する護りをより強固なものに。アリスは歌を紡ぎ決着を急ぐ助けにと。配下機の銃撃はそれすらも邪魔をするが、抗うだけだ。エヴァンジェリンが極光の癒しを織る。此方同様に広く銃弾を幾重にも寄越す敵への道を、皆が見失わず済むように。
だが、向こうも備えは済ませている様子、ほどなく増援が姿を見せた。ケルベロス達を誰一人通すまいとばかり、兵達が指揮官を護りに加わる。
「我らだけでは不足と言うか。欲をかくのは感心せぬぞ?」
ここでも予定通りとは行かぬようだ。しかし怯んでなどいられない。敵が増えたとて、討ち崩すだけ。
敵部隊が数で成す壁に穴を空けられればと、中枢目指す者達の前を塞ぐ敵達を優先して排除すべく、彼らは攻撃の照準を合わせて行く。刃を退いたあおが次いで氷術を放ち、注ぐ刀雨と舞う光輪共々敵群を圧す。追撃に動いた者達が、傷負った機体を仕留めて行く。
「いくよ一太!」
「あいよ館長、合わせる!」
一太が放った獄炎の鎖が獲物に絡んだところへ、宙を跳んだノーフィア・アステローペの蹴りが鋭く叩き込まれる。
言葉を交わしはしたけれど。その詳細を打ち合わせるよりも早くに連撃は既に配下の一体を砕いていて、思わず視線を交わし笑い合う。共鳴するかのよう、揃いの三日月がきらりと揺れた。
ただ、それでも未だ減ったとは言い難い、敵の数だけは脅威。銃撃に脚を抉られ顔をしかめたシヴィルはしかし、攻撃手を狙う追撃の気配に気付き地を蹴った。危険は承知で、だが退けぬと飛び込んだ彼女の前に、後方から届いた弾幕が荒れる。ラーヴァ・バケットが撒いた誘導弾が敵の勢いを押し留めたのだ。目を瞠る彼女をアリスが成した光盾が護る。一拍遅れて騎士は事態を把握したが、振り返る暇は無いために礼の声だけを届けた。
「ありがとうございます、助かりました……!」
仲間達への応援の声を返したアリスもまた、前を往く鎧の背へとそっと頭を下げた。敵へと向かうままの彼はけれど、ぐっと親指を立てて少女へ応えてくれた。
敵を減らして、しかし間を置かず足されて。キリが無いと思いつつも、敵波を制すべく幻惑の刀技が桜の色に吹き荒れた。あおの詩を受け生じた敵機の隙を衝き、エヴァンジェリンが攻撃に出る。閃いた銀矛が一体を砕いた。その隣では、黒狼の拳がもう一体を。
だが、中枢への突破口は未だ見出せぬまま。急く気持ちも無くはないが、揺らいでいる暇とて無い。ふとティアン・バの視線を感じ、キソラは普段と同じ笑顔を返した。想定外の共闘となった今、彼女達の焦燥は自分達以上の筈。
だけど──彼女達はまだ諦めないでいてくれている。
(「前見てな」)
だから、唇で囁いた。手こずっているのは確かだけれど、それでも信じてくれたら嬉しいと思う。道は必ず開くから。彼の手が冷気を繰る。喧噪の中忍ぶ如く静かに敵機達を抱き、その損傷をより深く。黙させて、しずめれば事足りる。不足があったとて、近く仲間の手が葬送を。
とはいえ、敵機達は増援も総出で指揮官を護らんとする。甘い狙いで飛来した銃弾を刀で打ち払ったヒメは眉をひそめた。圧されているというにはまだ温いが、時間の浪費は見過ごせない。
──であればその目論見ごと潰せればあるいは。怜悧に思考を回す面々が視線を交わす。四度目の報せは既に鳴った後。場所ゆえもあろうか、敵群は勢いを減ず様子も見えない。増して来ないのはきっと、支援に動いてくれている面々が居るからであろうけれど。
容易く無いのは承知で、しかしそれでも。
「狙いはあいつだ! 倒す、絶対に!」
猛り、先駆けるソロ・ドレンテの声が響く。ダモクレスには持ち得ぬ彼女達の熱情は激しく、強い。
なれば、供をするに異など無い。敵の動きを読み、音無く防波を越えた白刀姫の剣閃が指揮官機を捉えた。
「よろしく、ね」
「ん、アリガト」
鞭へと変じた扇が場を薙ぐその上を、凍炎連れた青年が跳んで。蹴撃が白い機体を叩き、追撃に迫る者の間合いへと送る──信じて、継いで、託す。手応えは十分と、このまま。
その間に黒狼の炎鎖は、指揮官を護るべく動いた配下機へ絡む。そう抑えた隙に、黙天使が携えた白花が舞った。拒絶の刃は敵へ。担い手は、仲間を信ずる術を既に知っている。
(「……きっと、あと、もう少し」)
朱翼が翻る。その傍、戦場の混沌を貫き届いたのは停滞知る黒きオラトリオの凍弾。爆ぜて、眩んで、荒れて、過熱して──それから。
「私は、もう──」
澄乃・蛍の声が、熱を帯びて宙を震わせる。想いをぶつける如き光が、指揮官機を貫き砕く様を、彼らは見た。
だが安堵には未だ早い。指揮官を失い、兵達が浮き足立つのが判る。今この時を逃してはならぬと、誰もが悟る。
本来、彼らは二手に分かれ、此処で敵兵達の殲滅をも行う予定であったけれど──猶予は既に十分を切っている。
「──どうせ、本体は捨て置くのだろう?」
急ぎ、強引に片付けてしまうのも一つの手。し損じるわけにはいかないのだから、と彼らの決断は早かった。防衛を継続せんとする敵機達を叩き伏せる。彼女らが立て直すよりも先に、全員で中枢へと雪崩れ込んだ。
●
「君たちはよほど、招かれざる時の来訪がお好きなようですね。実に騒々しい」
出迎えは、呆れ交じりの嘆息。その主は、煩げに手を翻し白煙を生むエスカトロジー。道中とは趣を異にする無機質な『場』の只中に彼は居た。
「そして、我らの邪魔をするのもお好きなようだ……」
無数の誘導弾が放たれる。ケルベロス達を押し留めるよう炸裂するそれに、しかし彼らが臆す筈も無く。
「見過ごせはしませんから……歯車は破壊させて頂きます……!」
アリスがブレスレットを掲げる。それは澄んだ音を奏で愛を謳い射手達へ力を。狙いは敵の背後に回る歯車ただ一つ。シヴィルがドローンの警護を散らす。盾役達はその務め通りに盾となるだけ。射手達が憂うこと無く果たせるように。エヴァンジェリンの囁きが星光を、清風を招き、背に庇う彼らへと更なる護りを。
「じっとしてろよ眼鏡野郎」
一太の鎖が彼へと伸びる。邪魔などさせてなるものか。ヒメとあおの斬撃が、敵の視線をかいくぐり、軋る音を響かせた。
だが当然の如く、手前の人型は抗し来る。今は届いたが、次はどうだか。敵増援による修復を受けた彼へと再度檻を刻むのは下策と視てヒメは眉をひそめ、切り込む隙を探す。
彼女達と同様に退いた位置から敵を狙うキソラが炎を放つ。気合いを込めた無明丸の拳はエスカトロジーに阻まれてしまったものの、その間に仲間の追撃が歯車を打った。敵が撃った光によって砕かれた護りに騎士は歯噛みしたけれど、諦めなどせず今一度。時間が許す限りは、何度だって。
と、エヴァンジェリンの胸元に、微かにひずんだ、しかし優しい音が鳴る。だがそれは急き立てる五度目。彼女は努めて深く息を吐き、加護を乞う。
前衛の護りを越えんとする誘導弾から射手達を庇う為、盾役達が退がり、あるいは跳んで、身を晒す。
(「大丈夫、出来るわ。アタシ達はただ、皆を護れば良い」)
仲間達を信じる。自分達の傷など後で良い。彼らの手が決して緩まぬように、白花天使は穢れ無き冬の夜を幻視する。
だって、既に。重ねられる攻撃ゆえに、歯車は見目にも明らかに、傷を刻まれつつあった。果たし得ぬ事では決して無い。敵の攻撃に吹き払われようとも、彼女達は屈さず護りを固め続けた。
次いで、一太の時計がかたりと揺れた。けれど終わりはすぐそこに。傷ついてなお戦意に轟く仲間の声がある。ゆえに応えて共に、最後まで。炎風と冷弾がひずみを呼んだ。続けて穿ち砕く瑕に呪歌が沁みて。
「その計算も歯車も、狂わせて差し上げましょう」
黒江・カルナが撃った魔矢が、最早繕いようもなくひび割れた歯車へと突き刺さる。そうして遂に、それを砕いた。成し得たのだと知り、続いていた緊張が微かに緩む。
「どうやら、ケルベロスの覚悟を見誤っていたようですね。犠牲を厭わず、決死隊を送り込んでくるとは……。認識を変える必要があるかもしれません」
儀式の力が散るのを感じてか、エスカトロジーがごちる。その姿はすぐにケルベロス達の目に映らなくなった。
「この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃな!」
敵の気配が消えて、無明丸がからりと笑う。だがそれに重なるのはシヴィルが持つ端末が発する報せ。件の儀式を弱められたのは良いが、発動予定までは三分を切った。このまま此処に留まるわけにはいかぬと急ぎ彼らは踵を返す。
来た道を駆け戻る。行きとは違い迷う事も無く、また、敵の姿も見ぬままに。
しかし半ばに差し掛かったところで彼らは、戦闘音を耳にした。援護に入ってくれた者達だろうかと急ぎそちらへ足を向ける。
目にした姿は予想の通り。まみえた敵を片付け終えて、新たな複数の足音にこちらを顧みた彼らはけれど、それが敵のものでは無いと気付き警戒を解いたようだった。
「首尾は!?」
「そうね、結果としては予定通りよ、ありがとう」
未だ幾らかある距離を埋めるよう篁・悠が声を張るのにヒメが応じた。駆ける足を緩めたところで、戦い終えたばかりで疲労も露わな彼らの治癒を、手すきの者達が手伝う。
「そちらは……」
だが、敵増援を抑えていてくれたのであろう彼女達は、予定よりも明らかに人数が足りない。何かあったのかと、戻って来た者達の視線が彷徨う。
「縒さんたちのことなら、心配しなくてもいい。僕たちの突入を援護してくれた後、撃ち落とされたヘリオライダーの救助に向かったんだ」
その心配への答えは、すぐに。安堵と感謝に、各々ほっと息を吐く。
「そう……ありがとうね。糸はまだ繋がっているわ、急ぎましょうか」
じきに使えなくなるであろう道も、今はまだ生きている。これで用は済んだとばかり踵を返す彼女達へ続き、外を目指し彼らは再び駆け出した。
翼持つ者達は、それを広げ。ケルベロス達は、皆でこじ開けた入口であった場所から、空の下へと飛び出した。
作者:ヒサ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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