終末機巧大戦~空中舞台の舞踏の果ては

作者:長野聖夜


「皆さん、お集まり頂きありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダーen0002)が小さく息をついている。
「東京六芒星決戦では、死に神の野望を砕き十二創神のサルベージという最悪の事態を防ぐことが出来ました。これも偏に皆様のお力です」
 ですが……と沈痛な表情を浮かべるセリカ。
「安心するのはまだ早い様です。と言うのも、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が、儀式失敗により行き場を失ったグラビティ・チェインを奪った儀式『終末機巧大戦』を行おうとしているからです」
 終末機巧大戦は、爆殖核爆砕戦で攻性植物が大阪で行った『はじまりの萌芽』を模倣したものと推測される。
 それは核となる6つの歯車を利用した儀式を行うことで、爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させる儀式だ。
「この作戦には、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を死神を妻切って儀式への増援を拒否してまで温存していた戦力を投入してきています。それが『五大巧』と呼ばれる有力なダモクレス達です」
 尚、その5体は……。
 ――『終末機巧』アルマゲドン。
 ――『終末機巧』ラグナロク。
 ――『終末機巧』カタストロフィ。
 ――『終末機巧』アポカリプス。
 ――『終末機巧』エスカトロジー。
 と呼ばれている。
「また、本来であれば晴海埠頭中央部に出現したこのバックヤードの管理・封印を目的としていたのですが、現在は逆にこのバックヤードに支配を受けた1体の死神、ノストラダムスもこの作戦に参加しております」
 尚、出現したバックヤードは既に周辺の工場や機械を取り込みダモクレス化させ始めている。
 このまま行けば、晴海埠頭のマキナクロス化は避けられないだろう。
「そこで皆様にはこの『終末機巧大戦』を阻止するためにその核となる6つの歯車を破壊して頂きます」
 この儀式自体は晴海埠頭外縁部でしか行えないらしい。
 そこで、儀式の開始と同時にこの6つの歯車の存在する拠点型ダモクレスの内部に潜入して強襲を行い歯車を破壊する。
「但し、儀式が完遂されるまでの猶予は30分しか在りません。つまり、30分以内に各拠点に潜入して護衛を行っているダモクレスを撃破、または足止めした上で最奥部で儀式を行っている指揮官を撃破するか、または歯車を破壊する必要が有ります。……どうか皆様、ご協力お願いできますか?」
 セリカの問いかけにケルベロス達が其々の表情で返事を返した。


「さて、皆様に担当して頂くのは、空中にある儀式場になります」
 天空の儀式場の指揮官はノストラダムス。
 そう、バックヤードに支配を受けた死神である。
 尚、一つの拠点に攻めこめる班数は5班迄だ。
「更に、この5班の内2班は先行して、各拠点型ダモクレスに攻撃を仕掛けた後、敵部隊の足止めに専念する為、内部の指揮官及び護衛の敵と戦えるのは3班となります」
 便宜上、拠点型ダモクレスに攻撃を仕掛けるのを先行班、実際に儀式場に向かい儀式の完遂を阻止するのを突入班とする。
「皆様は、その中で突入班としてこの戦いに参加して頂きます」
 先行班が足止めをしている間に突入班は儀式場の突入口を開く為の攻撃を行い、そのまま内部へと突入。
 そこで護衛のダモクレス達と接敵。
「この儀式場には、2体のダモクレスが歯車忍者を率いて護衛の役割を担っています」
 一体は『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒。
「ですがこちらは然程手強い相手ではないでしょう。もう一体の歯車忍者頭・サオリ。此方の方が強敵です」
 更に言えば、儀式を実行しているノストラダムス自体の戦闘能力も六芒星決戦で集めたグラビティ・チェインを利用して戦える為、儀式中は非常に高い。
「此処で皆様を含めた3班が行える戦術は2つあります。1つは3班全てで護衛の2体を撃破してから儀式場に向かうこと。もう一つは、足止めに1または2班残して、残された班が指揮官であるノストラダムスの所へと向かう方法です」
 いずれにせよ、時間は30分と限られている。
 ある程度の犠牲とリスクは覚悟した方が成功率は上がるだろう。
「どの様に班分けをするか、それは皆様にお任せいたします。どうか自分達が最善と思う作戦で挑んで下さい」
 セリカの言葉にケルベロス達が其々の表情を浮かべるのだった。


 さて、大まかに突入班を3つに分ける戦術については説明したが、此処からは個別の作戦についてを検討していくことになる。
 先ず3班全てで護衛ダモクレスを撃破した後、儀式場へ向かった時。
「この場合、護衛となる2体のダモクレスと配下達は儀式を完成させるために時間を稼ぐ戦い方をしてきます」
 つまりそれは、護衛部隊の時間稼ぎによって時間が足りなくなり儀式が完遂されるリスクが伴う。
 ケルベロス達の安全を考えるならば恐らく最善の手段だろうが。
 では、1~2班による護衛の足止めを行った場合はどうなるか。
「その場合はその足止め班を撃破するために護衛部隊が動くものと思われます」
 足止め班が撃破された場合、増援として残された護衛がノストラダムスの所に向かう。
 逆に足止め班が勝利した場合は増援に向かうことが可能だ。
 しかし敵戦力から鑑みるに1班のみでの足止めでは護衛部隊を撃破するのは不可能だろう。
 ただ、その分の戦力をノストラダムス撃破又は歯車の破壊に集中させれば、それだけ儀式の阻止及び、ノストラダムス撃破の可能性は上がると思われる。
 尚、増援として指揮官の元に現れたダモクレスは儀式の余波で分解され、儀式を執り行う指揮官、ノストラダムスに融合され、ノストラダムスに与えていた傷は癒えてしまう様だ。
「つまり、どの手段を選ぶにしてもリスクが伴う訳です」
 尚、『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒、歯車忍者頭・サオリ、更にその配下である歯車忍者たちのポジションは不明。
 自分達の作戦に最適な布陣と戦術を練り込む必要があるだろう。
「儀式の阻止を最優先するか、敵指揮官の撃破を狙うかは皆様次第です。それによって取れる手段も異なってきます」
 そこのすり合わせは決して忘れてはいけないでしょうとセリカが念を押す。
「どうか皆様の御武運をお祈り致します。お気を付けて」
 セリカの言葉に背を押され、ケルベロス達はその場を後にした。


参加者
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ


「いやはや、次から次へと……楽はさせてくれないものだね」
 『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリからの対空砲火を潜り抜けながら、浜本・英世(ドクター風・e34862)が独り言ちる。
「こんなにたくさん、撃たれるなんてね」
「撃たれない様に下がってな」
 フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)を鈴木・犬太郎(超人・e05685)が庇う。
「ギャウっ! ギャウっ!」
 寒さから震えるフレアを抱きしめ夜陣・碧人(影灯篭・e05022)が背を撫でる。
 ほんのりとしたフレアの温もりが寒さを和らげてくれた。
(「『螺旋機神』ミカニ・ミトロポリ。お前とやり合うことになるとはな」)
 軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)もかの空中要塞からの砲弾を避けながら思う。
「双吉様。無理はなさいませぬ様」
 無表情のテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)がテレーゼがガトリング掃射で対空砲火を打ち落とすのを見ながら呟くと双吉が眼鏡をクイと上げる。
(「この美しい地球に、マキナクロスの領域は不要です」)
 思考を切り替えた槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)が頷きながら掌から薬液の雨を降らせる。
 無数の火線がぶつかり四散。
「凄い弾幕ですね~。でも、このまま行きますよ!」
 明るく声掛けしながらメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)が儀礼『剣』の装飾過多だが優美な細工に宿した星々の力を解き放つ。
「こっちだぜ!」
 犬太郎の呼びかけに応じ着陸する紫織達。
 先行班の後を追い外壁に取りついた。
「持ってて良かった寒冷適応ですね」
 碧人がエメラルドカラーの刃部分に流星の煌めきを纏わせ外壁を蹴り上げ。
「ぎゃーうー」
 フレアが『陽』のブレスを吐き出した。
(「先ずは、目前の壁を何とかする必要がありますからね」)
『螺旋機械』もまた生命だろう。
 だが、それが定命の者の命を刈り取るならばと自らがこの場に立つ理由を思う紫織がBaculum fulgurの先端に自らの魔力を変換させた雷撃を放ち。
 双吉が螺旋を籠めた掌底を壁に叩きつけた。
「援護します」
 冷たく静かな微笑を讃えたメリーナがストラップに蝶々の飾りがついた空色の流星の力を籠めたメリージェーンの靴底で外壁を蹴り上げ。
「これが私達の、とっておきです!」
『Super Gravity Electromagnetic Pulse』
 テレサが2人の仲間と自らの武器を一体化させ、召喚した長距離超重力電磁パルス砲。
 ジャイロフラフープのモノアイが開き壁を射抜く。
 テレーゼがすかさず炎を纏って突進。
「それじゃあ、行くよ」
 フィーラが掌から竜の幻影を呼び出して外壁を焼き、英世が特殊合金製の刃を持つ凶科学式高振動メス《リジル》でジグザグに外壁を斬り刻む。
(「晴海埠頭をマキナクロス化とか、スケールがデカすぎて想像できないぞ」)
 途方もない話だと犬太郎は思うけれども。
「予知に出てきた敵を打倒すりゃいいって事だろ? いいぜ、やってやる」
 犬太郎が拳から魂を喰らう炎を纏った降魔の一撃と他班からの同時攻撃で外壁を破壊し突入。
 だが進撃する双吉達に増援の歯車忍者達が襲撃を仕掛けて来る。
「後ろは私たちが引き付けます。儀式をよろしくお願い致します」
「増援はお任せください!」
「皆さんもお気を付けください」
 鞘柄・奏過(e29532)とソールロッド・エギル(e45970)に紫織が返し英世達と共に中枢へと駆けた。


 ――中枢部、その目前。
「此処から先には行かせぬぞ、ケルベロス達よ!」
 声高に叫ぶは鋏を持つ白衣の男。
『螺旋のプロメテウス』病口・鬨緒。
 鬨緒の隣には歯車忍者頭・サオリが控え、更に2人を守る様に5体の歯車忍軍が布陣を敷いている。
「……知らなかった、そして知りたくなかったぜ、病口先生。貴方がデウスエクスだったなんてな」
「……御存知では無かったのですね。デウスエクスと」
 双吉の呻きにメリーナが返すのに双吉が頷き返した。
 鬨緒は愉快そうだ。
「感謝して欲しいものだ。その力を君に与えてあげたのは私なのだから」
「……そうして双吉さんの心を惑わせよう、と言うのですか」
 紫織の問いに、鬨緒が肩を竦めて鋏を鳴らす。
 英世がイピナ・ウィンテール(e03513)へと目配せ。
「ともかく、この場は任されたよ、キミ達」
「此処は、私達が押さえます。皆様はノストラダムスを」
 双吉達と共に素早く儀式場入口に回り込みテレサが合図を送ると。
「すぐに終わらせてきますから、少しの間お願いします!」
「時間かせぎは、任せて」
 イピナの気遣いにフィーラがゆったりと頷き返す。
 サオリと歯車忍軍がイピナ達を止めようとするが、犬太郎が割って入った。
(「儀式先への増援はなんとしてでも食い止めるぜ」)
「輝く太陽から目を逸らさないで下さいね?」
 碧人がフレアの陽属性を一時的に鹵獲。
「ギャウッ!」
 フレアの可愛らしい鳴き声に合わせて太陽の如き眩い光が鬨緒を襲う。
 咄嗟に目を庇う様に腕を上げる。
「どうやら、君達を倒さなければならない様だね」
「だれもここを、通さないよ」
 淡々と返したフィーラが音を立てずに地面にケルベロスチェインを展開。
 本当に正確な動きは、傍から見ると酷くゆっくりと見えると言われる。
 フィーラの技は正しくそれ。
 描かれた魔方陣がテレサ達を守る結界を形成しテレーゼが滑り込む様に周囲の壁をスピンして回転しながら体当たり。
 それは5体の歯車忍軍の足を次々に引き潰す。
 歯車忍者の一体が千に分裂した手裏剣を放つ。
 双吉を狙ったそれをターンしたテレーゼが受け止めた。
 だが、その隙を見逃さず自らを歯車の様に回転させながら歯車忍者が突進。
 メリーナを犬太郎が庇い、離脱しようとした歯車忍者へと拳に籠めた地獄の炎を放つ。
「この位で、倒れるつもりは無いんでな!」
 解き放たれた焔が歯車忍者を喰らい、その一部を犬太郎の生命力へと変換。
「命を奪いたくはありませんが、侵略を止めないのであれば致し方ありません。御覚悟を」
 紫織が戦場内を観測するドローンをメリーナへ射出。
 メリーナの周囲のドローンが敵の現在位置、行動情報を的確に把握できるように補助。
「紫織さん、ありがとうございます」
 愛でる様に奏でる様に。
 口遊むメリーナ。
『聞いて? 優しい目をした子に出会えたの』
 それは。
『――あの日、私を飾ってくれた子』
 スカートを風に靡かせ、聞く者が蕩けてしまいそうな甘い歌声を鬨緒へ向けて。
『それからいつも心が囁いている』
 夜空に煌めく星空を想起させるそれ。
『聞いて? 支えは仕事だけだったのに』
 だけれども。
『愛が私を駄目にして、私をどこかにやっちゃって』
「愛だと? くだらないものだな」
 鬨緒の嘲笑にメリーナが何処か冷たさと照れを感じさせる笑み。
『でもね、愛が心をくすぐると』
 ――こんなにも、甘い気持ちなんですよ――。
 って。
『……皆は、あなたは愛する人なしに生きられるの?』
 メリーナの歌声が鬨緒の奥底の何かを揺り動かす。
「それでは、時間切れまでダンスにお付き合い願おうかな、歯車忍者の諸君?」
 指揮官の一人の動揺を見逃す事無く英世が挑発しながら、怪しい科学で凶科学式呪装腕に封じた御霊を掌から解放。
 解き放たれた巨大な光弾が爆散5体の歯車忍者達に天空から降り注ぐ。
 歯車忍者の内2体が2体を庇うが結果として体を痺れさせた。
「此処から先には行かせないわよ!」
 サオリが身を翻しながら英世達の頭上を飛び越え、碧人達に空中回し蹴り。
 ――それはさながら空舞の如く。
「紫織さん」
「フィーラ!」
 テレサが紫織を、双吉がフィーラを、犬太郎が碧人を守るが、其々への衝撃は計り知れない。
(「後衛から狙うとは……サオリは警戒すべき相手でしょうね」)
「フィーラさん」
「分かった、よ」
 紫織に応じたフィーラがサークリットチェインでテレサ達を守る結界を、紫織が小型治療ドローンの群れを召喚、犬太郎達を癒していく。
 攻撃を受け微かに震えるフレアを宥める様に碧人が抱きしめ自らのエゴを具現化した無数の鎖で歯車忍者達を締め上げ、更にテレサが超加速して光の一閃となり歯車忍者達に体当たり。
 混乱する敵の一体へとテレーゼが炎を纏った体当たりを敢行し犬太郎が降魔真拳による殴打。
 ――けれども。
(「まだまだこれから、と言う感じですね……」)
 サオリの袈裟切りから双吉に守られたメリーナが後退しようとするサオリに『銃』を構える。
「物語に銃がでてきたら、発射されなければなりません」
 引金を引いてエネルギー光弾を撃ち込み微かにサオリの武器を欠けさせた。


 暫しの時間を経過しても尚、ケルベロス達に脱落者はいない。
 これは、耐久力を重視した編成故だろう。
 また、フレア達によるBS耐性の付与、テレサや紫織、フィーラ達の声掛けによる回復重複の回避が、確実な時間稼ぎと、歯車忍者達を全滅へと追い込んでいく。
 これは英世達の攻撃による負傷の蓄積だけでなく、犬太郎達による単体集中砲火が火力不足を補ったが故。
「目には目を――歯車には歯車を、だ。受け取りたまえ、諸君」
 英世が遠隔操作し無数の歯車上の刃を解き放ち、それが嵐の如き勢いで残存の2体の歯車忍者を残虐に斬り裂く。
 それは積み重なった氷柱の拡大を招き、最後のあがきとばかりに体当たりしてきた歯車忍者の体力を確実に奪う。
 テレーゼが英世の前に立ち、全身に炎を纏わせて体当たりを放ち止めを刺す。
 そのテレーゼを飛び越したテレサが加速したハンマーで最後の歯車忍者を叩き潰した。
 ――残るはサオリと鬨緒のみ。
「よくも仲間を!」
 サオリが双吉達に空中回し蹴り。
 蹴られた空間が鎌鼬となり犬太郎達を飲み込んだ。
「テレーゼ……」
 主たるテレサを守るために壁となり消えたテレーゼに息をつくテレサ。
 これで残るディフェンダーは3。
「この程度で私達を倒せると思うなケルベロス!」
 鬨緒が白衣を翻して踏み込み鋏で双吉を斬り裂いた。
「先生。俺は……」
 自らの恩師と慕った相手からの攻撃を受けながらも尚、倒しきる事に躊躇いを隠せぬまま螺旋の力を籠めた腕で掌底を放つ双吉。
 その迷いを見抜かれたか咄嗟に攻撃を受ける方向に飛ばれた為手応えが浅い。
「双吉。まよいは、思わぬけがになるよ」
 フィーラが諭しながら半透明の『御業』の鎧を召喚双吉の傷を癒す。
「恩人と思っている方を倒す事に、躊躇いを覚えるその気持ちは分かります。決して、否定していいものではありませんが……」
 紫織が治療用ドローンでテレサ達を守る結界を強化。
「――行きますよ」
 メリーナが冷たく静かな微笑と共に蝶々のストラップが煌めくメリージェーンで鬨緒を蹴り飛ばす。
 消耗の激しい鬨緒を集中砲火すれば倒せる可能性が高いと判断したからだ。
「気持ちは尊重したいが、死んだら元も子もないんでね」
 犬太郎が地獄の炎を纏ったヒーロースレイヤーで鬨緒を袈裟斬り。
 飛散する血糊を受けてその身を癒した。
「続くぜ」
 碧人がフレアの陽属性を鹵獲してその力を光弾へと変え鬨緒へと放ち。
「そんな攻撃で、私達を殺れると思うな!」
 サオリが縮地の要領で間合いを詰め、テレサを襲う。
 フレアが陽属性をテレサへとインストールしてその傷を癒す間にテレサの腕に突き立てた刃を支えにして高みへと飛ぶサオリ。
 スカートを翻し竜巻の如き回し蹴りを双吉達へと放つ。
「やりますね……」
 腹部に激しい衝撃を受けたテレサが口から何かを吐く間に、鬨緒がその場を轟と蹴る。
 斬り裂かれた大気が烈風の刃と化して犬太郎達を襲い、双吉を守ったテレサが頽れた。
「これ以上、仲間を倒させるわけには行きませんね」
 体力的に余裕のある紫織が新たな盾となるべく前衛へ。
 すかさず鋏で斬り刻もうとする鬨緒だったがさせぬとばかりに双吉が立ちはだかる。
「それはやらせねぇ……形質投影。シアター顕現(スタンド)ッ!!」
 自らの手に嵌めたブラックスライムに時空に干渉するオラトリオの性質を投影し、疑似デウスエクスをその場へと顕現。
 おぞましい姿のデウスエクスがその凶悪な双眸で鬨緒を射抜き同時に鋭い鍵爪で残虐に斬り裂く。
(「仲間は……やらせねぇ……!」)
「良い表情をするねぇ、双吉君」
 鬨緒が後退するがそこに踏み込んだ英世が凶科学式高振動メス《リジル》の先端に鬨緒のトラウマを反映させ鬨緒を唸らせる。
「今みたい、ね」
 フィーラが音も無く地面に星座を描き出し紫織達を癒す。
 戦いは、まだ終わらない。


 サオリに苦戦しつつ、持久戦で鬨緒を追いつめるメリーナ達。
「部下の後を追いなさい、ケルベロス!」
 サオリが急降下しつつ放った刃に犬太郎が胸を貫かれて喀血。
「犬太郎」
 フィーラが半透明の『御業』の鎧を召喚した時、鬨緒が鋏を構えて突進。
「ちっ……しまった……!」
『御業』の鎧事貫かれ倒れる彼の背後から、じっくりと狙いを定めていた碧人が輝く竜の威光で鬨緒を焼いた。
 メリーナが『飴玉の夜空』を訥々と歌い上げ鬨緒を痺れさせ、英世がジグザグスラッシュで斬り刻む。
「双吉くん。これ以上の犠牲をキミに容認できるかな?」
「さっさと倒れなさいケルベロス!」
 サオリが英世目掛けて刃を振るうのに割り込むは紫織。
「……皆さんをこれ以上倒させるわけには、行きませんから」
 呟きながら膝をつく紫織。
 三人のケルベロスが地に伏せたその時、鬨緒が嫌な笑みを浮かべた。
「これで終わりだ諸君!」
 大気を斬り裂く蹴りを放とうとする鬨緒。
 あの衝撃波の前ではテレサや犬太郎、紫織の命は風前の灯火。
 ――だから。
「駄目だ! 先生、テメェに皆はやらせねぇ!」
 迷いを捨てた双吉が鬨緒に肉薄、螺旋忍軍の腕による掌底で鬨緒の鳩尾を抉った。
「がはっ……!」
「……ありがとう。そしてすまねぇ。貴方がくれた幸いな力で俺は貴方を倒し、仲間達を守るんだ」
 双吉の誓いと共に放たれたそれに鬨緒が崩れ落ちる。
「まだ貴様らの危機は……!」
 サオリが双吉達を殲滅しようとするが……。
「やらせ、ない」
 フィーラがドラゴニックミラージュを、メリーナと碧人がスターゲイザーを、可愛いフレアが体当たりを放つ。
 容赦のない連撃に攻撃の隙を潰されたサオリが地面に着地したその時。
 ――扉の向こうから爆発音。
「終わったみたい、ね」
「そうだな」
 フィーラが呟きに碧人が頷きフレアの陽属性を鹵獲、太陽の如き眩い輝きの炎をサオリへ。
「くっ……!」
 碧人から放たれたそれによろけたサオリの隙をつきメリーナがテレサ達を怪力無双で纏めて抱えて出口へ駆けた。
 双吉が殿を務め、サオリからの不意打ちを警戒する間にミカニ・ミトロポリがガラガラと音を立てて崩壊していく。
「……ミカニ・ミトロポリの最期、か」
 瓦礫と共に落下しながら双吉が呟いた。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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