●終末機巧大戦
東京六芒星決戦お疲れ様、と夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡ぐ。
死神の野望を砕き、十二創神のサルベージという最悪の事態を防ぐ事が出来た。
しかし、まだ何も収束してはいないのだとその表情は硬い。
東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が、儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを奪った大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したのだ。
「この作戦を率いているのは『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスなんだ」
『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。
その戦力を温存して、今回の作戦を強行したようなのだ。
そして、すでに晴海ふ頭は中央部に出現したバックヤードを中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている。
更に、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』――核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的のようだ。
「この儀式を、『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要なんだ。でも、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われている。つまり、破戒する為には拠点型ダモクレスの内部に潜入しなきゃいけない」
終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始するので、そこを急襲して儀式を阻止するのが、今回の作戦だとイチは紡いだ。
「けど、敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまでは30分しか時間の猶予が無い」
つまり、30分以内に、敵拠点に潜入し、護衛を排除。儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か、或いは、儀式の核となる歯車を破壊しなければならないのだ。
儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑える事が出来るだろう。
儀式が全て完遂されれば東京湾全体が敵の手におちるが、全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害で抑える事が出来ると予想される。
「現状はとても厳しいものだけど……できるって信じてるからね」
作戦の決行をお願いするよとイチは詳しく話始めた。
●先行班
「俺がお願いするのは第三の儀式場。『先行班』として向かって欲しい」
第三の儀式上は、拠点型ダモクレス、機工城アトラース。
それは晴海ふ頭から、築地大橋を通って築地市場に侵攻している。
『先行班』として2チーム。そして『突入班』として3チームという構成で向かうことになっている。
「もう一つの先行班はレイリさんの所で話を聞いているよ。背中を預ける仲間だから、あとで打ち合わせしてほしい」
でも、その前に大まかな説明をとイチは言う。
時間は30分。
まず『先行班』が機工城アトラースへと攻撃を仕掛け、足を止めを。そしてその戦いの間に『突入班』が内部に侵入するための突入口を開く為の攻撃をかける。
内部への道を拓いた後は『突入班』、『先行班』はともに中へ。
途中、『先行班』は現れる防衛ダモクレスを中枢へ向かわせないよう留め、『突入班』はその間に護衛のダモクレスを突破し、儀式を行っているダモクレスを撃破、或いは儀式の要となる歯車の破壊を行う、というのが作戦となる。
「拠点型ダモクレスの名は機工城アトラース」
近づけば足払いで攻撃をかけてくる。そしてそこそこ命中率のある一斉射撃。
さらに、正面限定であり命中率はあまり高くないが受ければ相応の痛手となる集中砲火を行ってくるとイチは言う。
「危険はあるけれど正面から向かえば攻撃を引き付けることができ、『突入班』が横のあたりとかから入り口を作りやすくなるので一つの手かな」
そして、内部への道が作られた後は拠点型ダモクレスとの戦闘を切り上げ、内部へ。
内部では、中枢へ向かう『突入班』の援護となる。
「内部には防衛ダモクレスが多数。迎撃しやすそうな場所……ありきたりだけど下り階段の前とかだね。そういところで、やってくる敵を倒し突入班の方へ行かせないようにするのが仕事」
派手に戦っていれば、防衛ダモクレスを引きつける事もできると思われる。
そしてやってくる防衛ダモクレスはスチームギアという敵だと続けた。
防衛ダモクレスとしては強力で、基本に忠実な戦い方をしてくる。その為、倒せないまでも足止めしやすい。逆に撃破、全滅させるのには骨が折れると思われる。
儀式の阻止を最優先とするか、はたまた敵指揮官の撃破を狙うか。
それはこの儀式上に向かう人達に任せるとイチは言う。
「皆にお願いするのはキツイ仕事だってわかってるんだけど……俺は視てお願いするしかできないから、レイリさんのチームと一緒に突入班が事を為せるよう送り出して、守ってあげて。頼んだよ」
そう言って、イチはケルベロス達を戦いへと送り出した。
参加者 | |
---|---|
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998) |
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524) |
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602) |
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251) |
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574) |
●機会を得るべく
晴海ふ頭より橋を渡ってくる巨体。
拠点ダモクレス、機工城アトラースの正面へとケルベロス達が走る。
その脚を止め、内部への突入を可能とするために。
だが敵も簡単に侵入を許すものでは無い。銃口からの砲火を潜り抜けつつ、攻撃をかける。
「あっちとは……十分距離があるな」
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)は別班の場所を確認しつつ、その足元へ流星の煌めきと重力をのせて走る。
「なんだかドキドキしてきた……絶対頑張ろうね」
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)は自身含め、皆の前に光の盾を生み出した。
ボクスドラゴンのラーシュもマイヤの後に続く。
「キヌサヤ、行くよ」
走る足は軽く。アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)はウイングキャットのキヌサヤと共に今日は愛銃ではなく、妖精弓を手に。アトリは素早く矢を番え攻撃を仕掛けていく。
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)は溜息交じりに狙い定めた。
地獄の炎の弾丸向ければ、敵に命中するのはわかる。
「裏切ったり裏切られたり……そういうのは、自分たちの星でやって欲しいですね」
本来なら、潮騒の一つも聞こえそうなのにとトエルは零しつつ。
「騒音公害、迷惑です」
トエルは大きな音たてて動く脚部を狙って放った。
「――捉えたよ」
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が繰り出すのは咲杜流に伝わる遠距離戦闘術。
その極意は、如何に敵を素早く消耗させるか、如何に被る損害を最小限に留めるか、という守りの戦術。
詩月の構えたバスターライフルからの攻撃は敵の足を狙って放たれていた。
「こう、如何にも最終兵器。秘密基地ってのは悪くないんだがな」
猟犬の鎖を躍らせながら疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は笑う。その笑み浮かべる余裕があるのは、信頼できる仲間達がいるからだ。
足を挫くにゃ骨が折れそうだと零す余裕がある。
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)も己の身の内に抑え込んでいた狂気を前列の仲間達へ。
「邪魔するモン、跳ね返してきな」
同じように、前列へと深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)が手向けたのは小さな竜を模った水。それは仲間達へと加護を与えるものだ。
足元に近づけば、アトラースの足が忙しなく動いて前衛達を払う。
しかしその攻撃を受け止めて、次の手を。
アトラースの攻撃は誰かを狙うでもなく、ただ邪魔する者達を払うように。
再び払われた足、それをケルベロス達が受けきりつつ攻撃をかけ、銃弾の雨が降り注ぐ。
そして主砲たるものが、重い音を立てて動き始めた。
一撃目、それを耐えて――そして二撃目もくる。その動き見ていた迅は皆に注意を促した。
集中砲火は目に見えて攻撃が荒い。来ると解ればかわし耐えきることも可能。
負った傷を僅かにでも癒すためにアトリが振るう簒奪者の鎌。キヌサヤは己含めて、前列の仲間皆へと清浄なる翼で羽ばたきを贈る。
ヒコが放つ聖なる光。それにマイヤも己の翼より放つ光を重ねて一層、その輝きを深めていく。
今は、自分のやるべきことをやるだけと詩月は意識を目の前のアトラースへ向け、グラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾を射出する。
別の戦場に自身に関係ある敵がいるのは気にかかるが、今、その相手へと気持ち向ける余裕はなく、敵の攻撃を回避するに意識は向けられている。
喰霊刀が捕食した魂のエネルギーを千翠はトエルへ。
千翠から贈られた力にトエルの狙いの精度が引き上げられる。
「そろそろ止まってくれていいんですよ――戒めを解き、疾く、時を超えて飛べ」
自らの羽根を媒介に、トエルは茨を召喚する。それは絡み合い猛禽の形を取って羽ばたき、高速で敵へと突撃した。
「太陽の巫女として……この先の見えない戦場に、一筋光を差しこんでやるよ!」
あぽろが思い込めるように振り上げた脚には流星の煌めきと重力。
その一蹴が、アトラースの脚部捉え、身体が傾いだ。
そして隙見逃さず他班がその足狙い攻撃をしかける。降り注ぐ剣に絡みつく御業の姿。
重なる攻撃にアトラースは動きをとめ――戦い始めて六分。信号弾が上がった。
内部への入口を作ったことへの合図。
もうアトラースと戦う必要は、無い。
すぐさまその攻撃をかわしながら、信号弾の上がった方へとケルベロス達は向かう。
「あそこだよ!」
と、開けられた突入口を見つけマイヤは指差す。名を呼べばマイヤの腕に飛び込んでくるラーシュ。
突入班の姿は周囲にみられずすでに中にいるのだろう。
彼等の助けをすべくすぐさま中へ。それは信号弾が上がってから3分後の事だった。
●内部へ
まだそれぞれの位置取りを変える必要は無く。突入までの時間が短かったので消耗も少ない。引き続き体制を変えずという事になった。
内部に入ると、戦いの痕跡が見て取れる。通信機器は使えずそれらを辿るしか突入班を追う手はない。
「まぁ、向かった先が分かるって感じでいーんじゃねぇの?」
「この後を追うのが良さそうだね」
ひとまず、一緒に行動した方が良さそうだと詩月はサイガから向けられた視線に応える。
二班は揃って戦いの後を見つけて進む。
ぱらぱらと現れる敵を倒しながら進んでいると――向かう前方に不穏な影が見て取れた。
アトラース内の防衛ダモクレス、スチームギアの一団だ。それはある方向に向かって進んでいる様子。
「団体さんみっけ」
千翠は勿論、仕掛けるよなと皆に確認を。
「減らすに越した事はないもんね」
マイヤにラーシュも一声鳴いて同意する。
「突っ切っていく、でいいか?」
と、迅は傍らの仲間達へと声かける。その返答は、表情見ただけでもうわかるというものだ。
「はい。参りましょう」
迅の言葉に祥空は頷き、それぞれが構えた。
あちらが見つけるのと、こちらが仕掛けるのは同時だろうか。
「殴る蹴るの方が性に合ってるんだけどな」
千翠は前列の仲間達へ己の身の内に抑えた狂気を放つ。それは敵の守りを打ち砕く力を与えるために。
癒し手達からの援護は有難い。それでもこの多さには辟易するものがあった。
「数の多さは……倒して減らすしかないよね」
「どこからか増えるけどな」
「最後まで削るだけだよ」
アトリは共に未踏の地を歩む靴で踏み出す。一歩踏み込んで回し蹴り向ければそれは暴風を伴う強烈な蹴り。
その様に削りきれそうだなとヒコが感嘆零せば任せてと次の敵へ。
ヒコはその間に猟犬の鎖で前衛の守りを固めていく。
だが、先の言葉通り――敵が引く気配など全くない。
太陽の古神が携ふ目映ゆき神刀を振るい、あぽろは月の軌跡を描き始める。
この先は、突入班に託した。あぽろはここで果たすべきことがあると敵へと向き直る。
「マニュアル通りだな、機械共! パターンは見切ったぜ!」
その言葉と共に振り上げた刃が敵の上を走る。
「あんまり出過ぎるなよ」
トエルは迅の声に大丈夫ですとそっけなく。
それは若干、ふと思い浮かんだ相手とダブるからだ。
気のせいでしょうか、と思いつつも敵へ向ける容赦のなさは変わらない。
地獄の炎纏って少ない手数で倒せるよう底上げした攻撃力。確実に厄介な阻害を撒く相手から狙って、倒していく。
「まだ20分のアラームすら鳴らねぇのに」
長い戦いになりそうだと迅は零し仲間達の足元へ、再び水の竜達を。
仲間へ向く攻撃、それをマイヤが防げば傍らよりラーシュが属性を与え癒しを。
「30分って短いようで長いね……でも、ここで引いたりできないんだ!」
マイヤは自身の足に地獄の炎を纏わせて思い切り蹴り上げる。
燃え上がった敵は、その場に崩れ落ち。
けれど新たな敵がまた現れる。
向けられた砲撃、その一端を詩月は引き受けた。
じわりと残る身体の痺れ。けれどそれもすぐ仲間達の力によって消えていく。
「時間稼ぎの戦いは得意なんです」
仲間達からの力も受けて、詩月は傍らに御業を喚び炎弾を敵へ。
「マニュアル通りだな、機械共! パターンは見切ったぜ!」
と、同じ相手と戦い続けていれば慣れてくる。
あぽろは時空凍結弾を生みだし、目の前の敵へ。
命中精度の高いあぽろは確実に敵へと攻撃を当てていく。
「――……さぁ、可愛がってくれるかい?」
そしてヒコも、皆にかかる阻害を解く合間に攻撃を。
模した折紙に鈴音ひとつ、ふたつ。かりそめの命吹き込めば、白き胡蝶の群れとなって敵を惑わし、その動きを留める。
戦い始めは、互いが混じることなく。
けれど進めば敵の波の中だ。
敵も守りを固め、倒しにくい。こちらの動きの幅を狭めるように攻撃をかけてくる。
だが、回復手達はそれをすぐに解いて、戦列は保たれていた。
●守る場所
「下り階段」
戦いの最中で、違う方向見定めていた仲間の声がひとつ。
「この向こう、階段を見つけました!」
下り階段――それは突入班が向かった先に続く道。
そこを守れば、これ以上の手勢は向かないはず。
「階段……でも、皆で行くのは無理そうですよ」
トエルは目の前の敵を茨で抑え込みながら、足止めが必要そうですと紡いだ。
混戦の中、簡単には動けないのは目に見えて明らかなのだから。
「先に行かれているのであれば、これ以上を行かせなければ良いだけのこと」
階段前へ向かうという仲間達の言葉にアトリは頷く。階段前を守るべく動くべきと。
「ならこっちは、このまま止めて動きやすいようにしよう」
アトリは迫る敵の攻撃を受けつつ、多少足止めできるよねと仲間達へと向ける。
バスターライフルを振るい、構え直した詩月はええと頷く。
「背面を取れるようになれば戦いも楽になります。行ってください」
「んじゃまぁ、ちっと向こう側まで行ってくるわ」
ひらりと手を振ってサイガ達は階段の方へ。
階段の方へ向かう仲間達の姿を肩越しに見止め、ヒコは前列の皆へとオーロラのような光を送り、受けた阻害を解いていく。
「さぁさ、奥で事が済むまで俺たちと踊ろうか」
共に戦う仲間達の助けとなる為にも――草火部神社の太陽神『陽々』さまを自身に降霊する。
「神様を前に、頭が高えぞッ!!」
瞬間的に限界を超えて、広範囲の神様オーラであぽろは周囲一帯を圧し潰し弾き飛ばす。
その一瞬は眩い光の内。その光が治まれば、あぽろはいつもの調子で。
「さあ俺たちに付き合えよポンコツ共! 全て終わるまでな!」
まだ作戦遂行時間は残っている。余力を見せながら、次の手を繰り出すべくアポロは動いた。
敵は圧し潰すように攻撃をかけてくる。
仲間達も道を切り開くべく激しい戦いに身を置いている。
それと同じように、押し寄せる敵からの攻撃は今までより苛烈なものだ。
それを押し留め、背中を託す仲間達が動きやすいように戦線を保っていた。
「信じて、希望と光に変えてみせるから!」
それは光。それは祈り。それは全てを覆い火を織すような再生の翼だった。
眩き光輝の羽根が虚空へと舞い上がり、闇を穿つ未来への道となる。
マイヤの、己が命を触媒にして進む仲間達が、そしてこの場で共に仲間達と勝利を掴むために紡ぐ癒しの力。
トエルが一体、敵を倒しまた別の敵へと向かう。
危なっかしく放っておけない。だが、一人で突っ込んでいるわけでもない。
頼まれてるからな、とトエルの姿を迅は視界の端にとどめつつ。
「次から次へと元気じゃねぇかよ、ったく……回復役の矜持、舐めて貰っちゃ困るぜ」
回復役の矜持――それは人が親友から受け継いだものだ。
強い遺志と覚悟を持って受け継がれたそれは簡単に崩れるものでは無い。
薬液の雨を前列の仲間達へ。
狙いやすい敵へ、ダメージが募っている敵へ。
一体でも多く倒すように詩月は敵を選ぶ。
弾丸を敵の足元にばらまきたじろいだ瞬間に。
「―― 捉えたよ」
バスターライフルの銃身を取り回し敵を穿つ。
よろめいた敵はあと一撃で倒せる程度。そこを見逃さずあぽろは一蹴を放つ。
「足止めは出来てるけど、減らねぇな!」
どこから湧いてくるんだとあぽろが零すとあっちからまた来ましたと詩月が示す。
敵からの一斉掃射――身の上に散る炎は消える気配がない。
「満たせ。盛りを映せ」
千翠の声は満月の幻影を呼ぶ。その月に姿映すは詩月。その傷を受ける前の姿を現実へと反映する。
迅と千翠は互いに声をかけあい回復を。
それでも間に合わなければ、皆で補いあう。
アトリは自分がと示し、自身の体力を僅かながら、疑似的に変換し再現した癒しの銃弾を頭上へと打ち放った。
拡散するそれは仲間達を癒す――が、一瞬アトリはよろめく。
しかしそれをキヌサヤがどんと突撃するように支えた。
「ありがと、まだ倒れてられないよね」
そして、敵がふと途切れた間にトエルは守り手から攻め手へと立ち位置を変えていた。
今まで重ねておいた攻撃力の底上げ。それも相まって、トエルは確実に敵を削っていく。
絡み合う茨の槍に地獄の炎を纏わせて、トエルは敵を倒す。
その様にヒコは感嘆を。
「いつ見ても容赦無え一撃」
そう零しながら、敵の攻撃手めがけ躍らせた猟犬の鎖は花蕾揺らし、弾丸のように戦場巡り射抜く。
一手ずつを確実に重ねて。
けれど敵がこの場から消え去ることはなく。
じりじりと消耗していく、そんな戦いはまだ終わらない。
●時間の終わり
次から次へとやってくるスチームギアに終わりは見えない。
階段前でも戦いは続けている。だが互いの声は届かずわずかに見て取れる程度だ。
サーヴァント達は皆を守り倒れ、満身創痍ではあるが戦う事はまだ可能。
二度アラームが鳴り、そして30分。
すると、周囲には変化が起こり――アトラースは崩れ始めた。
アラームの音を受けながら迅が声かける。
「時間切れっぽいな! 撤退だ!」
「時間? どうにかなっちゃう前に早く脱出しよう」
マイヤは崩れ始めた周囲を見回す。周囲の壁や天井などに起こる異変は目に見えて明らかだ。
スチームギア達の歩みも止まり、ケルベロス達は脱出すべく走った。
崩壊する機工城アトラース。それは作戦の成功の証か、それとも――失敗か。
そしてアトラースの中より外が見えた時、それは決して望ましい物ではなかった。
最初にそれを目にしたアトリはぽとりと、思わずと言うように零した。
「まだあんなのが控えてるの……」
「マジか……腹減ってるのに」
「さすがにあれは、この人数じゃな」
千翠も一瞬息を飲むが戦意は落ちない。けれどヒコは戻ろうと声かける。
「……そうですね」
確かに現状では勝てそうにないとトエルは紡ぐ。
あぽろは歯噛みして、撤退だと頭上を一瞥した。
「ええ、悔しいですがここは」
と、詩月も頷く。
彼らの視線の先。その頭上には数百体の『防勢機巧』月輪と、『攻勢機巧』日輪の姿があったのだった。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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