ミッション破壊作戦～英霊へ叫ぶ番犬たち

■リプレイ

●エインヘリアルの支配する島
　山口県の北に存在する小さな島へとヘリオンは向かっていた。
「敗戦の残党が、離島に籠城、ねぇ」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）が帽子を直しつつやる気のなさそうな声を出した。
「ま、情けない話ではあるよなぁ」
　長楊枝を口にくわえたままで、不知火・梓（酔虎・e00528）が応じる。
　かつては宮崎県の飫肥城を占拠していたという敵が、今また見島に陣取っているのだ。
「そんな奴に、情けを掛けるほど、お人よしじゃない。さっさと壊させてもらおう」
「彼奴らの居場所はこの地のどこにもござらん。そのことを、しっかと教えてやらねばなるまいな」
　豪華絢爛な陣羽織をまとい、気合十分といった様子で岩櫃・風太郎（閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164）が頷く。
「レッツ、ロック！　今日の歌は凱旋パレードに決定なのデスよ！　戦勝ライブを決めるのデス！！」
　意気込みとともに、シィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）がヘリオン内に歌声を響かせて、喉の調子を整えている。
　事前にできるだけ情報収集と共有に努めるうち、彼らは目的地である見島の上空までたどり着いていた。
　強襲型魔空回廊が出現するまでは千人ほどの人が住んでいたはずの小さな島。
「対神組織……私の弟も居た組織……こいつらはどれだけの力を持っている……？」
　皇・絶華（影月・e04491）は、以前飫肥城の決闘で手に入れた黄金の柄を持つ霊刀へ、銀色の瞳を向けた。
　見島に現れた敵をいち早く発見したのも彼だった。強い思い入れを抱いているのは、仲間たちにもはっきりとわかる。
「どんだけ力があろうが関係ないさ。人の縄張りに手を出してきやがって。絶対に追い返してやる」
　腕組みしたまま、険のある声を岡崎・真幸（花想鳥・e30330）が発した。
「それじゃ、取り戻しに行こう。エインヘリアルの侵略行為を許すわけにはいかないよ」
　喜屋武・波琉那（蜂淫魔の歌姫・e00313）が大きな胸を揺らして立ち上がる。
「ああ……小さな島でも、この地にも故郷を奪われた人がいるのだからな」
　ハル・エーヴィヒカイト（ブレードライザー・e11231）がグラディウスを握りしめる。
　対神組織デュランダルがどれだけ大きな力を持っていようと、恐れる者はいない。
　ケルベロスたちは次々に、ヘリオンから宙へ飛び出した。

●空に響く叫び
　真っ先に飛び込んでいったのは、絶華だった。
「貴様らぁ！　よくも弟を巻き込んだなっ！」
　響き渡る怒りの声。
　デュランダルが存在したせいで、彼は戦いたくもなかった相手と戦わねばならなくなったのだ。
「貴様らも神を目指すなら殺すより救って見せろこの偽神共がぁあああ！！！！」
　怒りが空気を震わせる。
　できうるならば、かの戦いで得た霊剣をバリアへと突き立てたかったかもしれない。
「犠牲を強いる神なんぞ神たる資格はないわぁぁぁぁぁ！！！！！」
　そして、最初の爆発音が響き渡り、爆炎と雷鳴は島を覆いつくさんばかりに広がった。
　絶華の怒りに、仲間たちが次々に続く。
「君たちエインヘリアルは欲望のまま侵略行為に没頭するから……愛情を糧にしているサキュバスとしては相容れない……っていうか命を蔑ろにする行為を名誉とする心が許せない……」
　止めどなくあふれる想いを、波琉那は輝く小剣に込める。
「君達が先に喧嘩売ったんだから……討ち滅ぼされても絶対に文句は言わせないんだからね！」
　そうと知って、それでも波琉那はその怒りをバリアへと叩きつける。
　のせる想いは単純な怒りばかりではないが、許せないと感じているのは皆、同じだ。
「騎士名乗ってるんならよ。当然、引き際ってのは、わかってるよな？　そいつを見誤った奴等がどんな末路を通るかも……、この際だから、知っておけ！」
　鬼人が告げた。
「偽物の聖剣は、何時の世も最後には折れ、朽ち果てるのが道理って奴だ！」
　バリアに触れるその刹那、鬼人は連続して３回小剣を振るう。
「我流剣術、鬼砕き！　俺の刀は、貴様らを断つ断罪の刃って奴だぜ！」
　いかな鎧も打ち砕く荒業でバリアすらも砕こうと、軌跡が重なる一点に小剣を突きだし、また大きな爆発を起こした。
　続いて長楊子をくわえた梓がグラディウスを構える。
「宇津の正観音は一度行ってみてぇと思ってんでなぁ。お前ぇのよぅな奴に、いつもでものさばらせる訳にゃぁいかねぇんだ。それに獺祭も心行くまで堪能してぇしなぁ」
　間延びした、のんきな声で彼は語りかける。
　けれど、長楊子を吐き捨てたその瞬間、梓の表情が変わった。
「つー訳で、ここは返してもらう」
　はっきりと告げた言葉と共に、４度めの爆炎が見島に広がる。
　連続する爆発に負けない勢いで、ロックの歌声が見島の空に響いた。
「熊本のお城だけに飽き足らずに島にまで手を出すなんてふてー野郎なのデス！　つまりノーロック！　何度来たって追い返してやるのデース！」
　思いの丈をロックにのせて、シィカが降下していく。
「冬が明けたら海岸でキャンプをしたりするのを楽しみにしてた人が居るのでデス！　その前に取り戻して見せるのデスよ！」
　魂を込めたその歌を、バリアの向こう、魔空回廊の向こうまで届けとばかりに声をはりあげる。
「ボクの熱いロックとソウルを聴けデス！！」
　爆発が響く瞬間まで、シィカはひたすらに歌い続けた。
　この地を追われた人々、この地を訪れたいと願う人々を想う気持ちもまた、グラディウスに強い力を与えていた。
「貴様等の命運はここまででござる、デュランダル！　長きに渡る見島の理不尽な占拠に終止符を打たん！　避難している島民の方々を笑顔で帰すでござる！」
　風太郎の大音声が風の音に負けずに響く。
「そして、ゆくゆくはアスガルドゲートを破壊するためにも！　我等ケルベロスに魔空回廊を砕く牙を与えよ、グラディウスッ！！」
　輝く小剣を強く握りしめ、彼はそれを振りかぶる。
「島民の怒りを背負い、この魂を今こそ燃やさんッ！！　イイイィィィヤアアアアアアアァァァーッ！！！」
　叫びと共に６度めの爆発が空を震わせた。
　仲間たちの叫びを聞きながら、ハルが思い出していたのは彼の原点だった。
　失った故郷。親しき友も優しき両親も最愛の姉も命を奪われた。
（「この地に特別な思い入れはないが、故郷を奪われた人たちの悲しみはよくわかっているつもりだ。俺とは違い彼らのそれはまだ取り戻すことが出来る」）
　血肉に刻まれた記憶が、青年のグラビティを高めていく。
（「ならば……私はそのための一振りの刃となろう」）
　この地を支配する因果を絶つべく、ハルはグラディウスを突き出す。
「終われッ！！！」
　口に出した叫びはその一言のみだったが、起きた爆発は仲間たちに劣らぬ威力でバリアを揺らす。
　真幸は不機嫌な声で呟いた。
「ここは俺の縄張りだ」
　敵が他所で追い払われまた出現した事はどうでも良い。ただただ、縄張りと縄張りに住む一般人の生活を荒らされる事が不愉快で許しがたい。
　一刻も早くここを解放したいと彼は強く願う。
「早急に出て行ってもらおうか。……いや、俺の物に手を出した事を後悔させてやる」
　グラディウスを構える。
「回廊破壊とお前らの死をもってな」
　叫びは大きな声ではなかった。
　けれど、彼の魂は誰よりも強く叫んでいたのだろう。
　８度めの爆発。
　同時に、強い衝撃をケルベロスたちは感じた。
　赤い光が渦を巻き、そして弾ける。
　次の瞬間、見島の一角に広がっていたバリアは、完全に霧散していた。
「対神組織デュランダル、敗れたり！」
「イエース！　今日はパレードなのデース！」
　風太郎が空へ見栄を切り、シィカが呼応する。
　もっとも、仕事がここで終わったわけではない。帰るまでが作戦だ。
「成功か。速やかに撤退しよう」
　ハルの呼びかけに、ケルベロスたちが頷く。
　波琉那がスーパーＧＰＳを用いて、用意してきた地図に現在位置を表示する。
「周りにとりあえず敵はいないぜ。今のうちだ」
　華麗に着地して周囲を警戒していた鬼人が言うと、８人は島の外に向かって走り出す。

●怒れる空の騎士
　スモークの中を移動するケルベロスたちは、上空から気配を感じて顔を上げた。
「よくも我らの拠点を破壊してくれたな、ケルベロス！」
　鎧を身に着けた騎士が、大剣に乗って宙を滑ってくる。人の腰ほどの高さで浮いているため、ただでさえ２ｍを超すエインヘリアルの姿がさらに高く見える。
「黙れ！　貴様らの愚行に今引導を渡してやる！！！　潔く……冥府の先で己の在り方を見つめ直せぇっ！！！」
　絶華が怒りの声を発しながら霊剣を抜いた。
「……一応聞いておくが銀静という名に覚えはあるか？」
「知るか！」
　吐き捨てた言葉には、魔空回廊を破壊された怒りがこもっていた。
　同時に大剣が宙をすべり、絶華へと向かう。
　鬼人は素早くその攻撃から彼をかばった。
　巨大な刃がぶつかってきた衝撃で、吹き飛びそうになった帽子をとっさに押さえる。ライムグリーンのベストの下から激しく血が噴き出した。
「ふざけるなぁっ！」
　背後で叫んだ絶華が鬼人の頭上を飛び越えて敵へ向かっていく。
　地面から樹木のように伸びた剣が、空中の敵を貫いて滑空を止める。ハルの攻撃だ。
　怒りのままに絶華が重力を操った蹴りを叩き込んでさらに敵の動きを鈍らせる。
　愛用する無名の刀に空の魔力を込めて、鬼人も敵に接近した。
「負け戦で気が立ってるんだろうが……冷静になって、さっさと逃げるべきだったな」
　鎧に包まれた騎士の体を、鬼人の振り下ろした刀が一気に切り裂いた。
　シィカは敵から距離を取り、爆破スイッチに手をかけた。
「騎士さん、悪あがきはロックじゃないデース！　ボクの戦勝ライブを邪魔しないで欲しいデスよー！」
　早く自分の歌声を皆に聞かせたいが、渾身の一曲を披露するのは帰ってからになりそうだ。
　スイッチを押すと、プレイベントとばかりに派手な煙があがった。
「ほれ地べたを這いずれ！」
　応援を受けた風太郎が、虹色に輝く如意棒を伸ばして敵を突き飛ばした。
　梓がドローンで前衛の守りを固めるうちに、波琉那や真幸もそれぞれに攻撃を行う。
　とはいえ、強化されたデュランダル騎士そそうたやすく倒すことはできない。
　鋭く方向転換しながらしかけてきた突撃が風太郎に痛打を与えた。
　波琉那はその敵を止めるべく、光の矢を生み出した。
「我が槍が汝を大地に縫い止め……破滅へ誘う……畏れと共に跪け！」
　デュランダル騎士へと数本の矢が飛んでいく。
「そうやって命をないがしろにするから、私たちがこうして戦いに来なきゃいけなくなるのよ！」
「善人気取りの戯れ言はあの世で言え！」
　一瞬だけ動きを止め、騎士の巨体がまた宙を舞った。波琉那はさらに敵の動きを縛るべく機をうかがう。
　悠長に構えていられない今回の戦いでは、敵へのダメージを増すのも重要だ。
「来たれ神性。全て氷で閉ざせ」
　真幸は召喚の術を発動させつつ、騎士へと接近した。
　異世の神の片鱗が、術に応じてその場に顕現する。
「人の縄張りを奪ったお前らに、怒る資格があるとでも思ってるのか。そういうのを盗っ人猛々しいというんだ」
　一部のみ現れた神の力が、極寒の冷気で敵を包み込む。
　凍結した敵を、真幸は凍りつくような目で見上げた。
　鬼人や梓に、真幸のボクスドラゴンであるチビも守りを固めて騎士の攻撃をしのぎつつ、ケルベロスたちは戦いを続ける。
　デュランダル騎士は空中で体勢を立て直し、自身を縛るケルベロスたちの技を振りほどいた。
　だが、ケルベロスたちはすぐに再び攻撃をしかける。
　ハルはまだ刀の領域にいる敵にしっかりと狙いをつけた。
「我が心、留めよ世界。捉えた、境界・剣葉樹（デッドライン・ブレードツリー）」
　色の抜けた白い髪をなびかせながら、ハルは見島の大地より剣を生やした。
　樹木のように伸びる刃は空中を移動する敵の体を確実に貫いて、動きを止めた。
「ノーロックな敵なのに、攻撃の威力だけはロックデース！　でも、負けないデスよ！」
　シィカが梓へ心霊手術をほどこして回復する。
　風太郎は空中にいる敵に向かって地面を蹴った。
　相棒から授かった、絡繰が仕込まれた脛当が、彼の跳躍を補助して敵よりも高い位置まで運んでくれる。
「刮目せよ！　煌めけ、我が閃光螺旋！　ニルヴァーナッ！　アミダ・スパイラルッ！　イヤーッ！」
　緋緋色金を鍛えた虹色の如意棒を空中で構えると、彼の手に柔らかな感触が重なる。
　最愛の女性の、紫がかった銀髪が風太郎の頬を撫でた。
　虹色の無量光大螺旋を得物に宿して、回転しながら彼は騎士へと突撃する。
「ニンジャの敏捷性を甘く見たな！？」
　貫いた敵が揺らぐのを確かめ、風太郎は叫んだ。
　真幸が連携し、如意棒を足場に飛び蹴りを放って敵の足を鈍らせる。
　さらに、波琉那のファミリアと、空の魔力を帯びた梓の黝い刀が相次いで命中し、さらに足止めをした。
　押してはいるものの、タイムリミットは迫ってきていた。
「煙がはれてきやがった。なかなか厳しいが、どうにかしなきゃいけねぇんだよな」
　梓は血まみれになりながらも、敵の攻撃から絶華をかばった。カットバックした敵の大剣でさらに深く切り裂かれる。
　体力でも時間でもピンチだが、強面の顔にはむしろ笑みが浮かんでいる。
「斬り結ぶ　太刀の下こそ　地獄なれ　踏み込みゆかば　後は極楽、ってなぁ」
　不規則正しい歩調で大剣の下に潜り込む。
「お代は見てのお帰りよ、ってなぁ」
　意識の空白を狙い、鈍ら刀が鎧を切り裂いた。
　余裕がないのは敵もまた同じ。
　体勢を立て直して回復を計るが、ハルのブレードライズが雷鳴をまとって致命的な場所を貫き、連携した鬼人の一点に集中した荒業も敵を撃ち抜く。
　絶華は霊剣を手に敵へと接近した。
「我が身……一の刃成り……彼の身に刻むのは鮮血の華……！」
　すれ違う瞬間、弟との戦いで手にした剣が目にも止まらぬ速度で閃く。
　敵に背を向けたまま『Durandal Argentum』を静かに鞘に納めると、デュランダル騎士の鎧が弾け飛び、鮮血が華のごとく散る。
　大剣が地に突き刺さり、エインヘリアルが大地に落ちた。
「貴様らが神を名乗るならこのようなやり方以外で救いの道を見出して見せろぉ！」
　怒りの叫びが島に響き、薄れ始めている煙を揺らした。
　練度の高いものが揃っていたおかげもあってかなんとか押しきったが、もう時間がない。
「急ごうぜ。祈るのは脱出してからだ」
　恋人からもらったロザリオを握り、鬼人が言う。
「うん。でも……たとえ敵だったとしても失われてしまった命への哀悼は欠かしちゃいけないと思うから……。一応、弔いの言葉だけでも残していってあげるよ」
　波琉那が墓標のように立つ剣に言葉を投げかける。
　そして、ケルベロスたちは急ぎその場を離れた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年11月30日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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