チュンッ!

作者:東間

●だいふっかつ!
 原っぱを駆け抜けた寒風に撫でられて、ぼろぼろの毛がふんわり飛んでいった。
 それを見送るように転がっていた物体はひどく傷んでいたが、よくよく観察すれば『本来の姿』を察する事が出来ただろう。しかし、「おっ、いいもん見っけ」という雰囲気で飛びついた小型ダモクレスに、その気配はこれっぽっちも無い。
 小型ダモクレスが中に入り込んだ瞬間、機械的なヒールが物体の全身を包み込む。
 結果、ぼろぼろだった物体はい醜いアヒルの子もびっくりの大変身を遂げた。
 何もかもが真新しく、かつ、最先端。
 物体は動作を確認するように左右に飛び跳ねた後、広い空へと産声を響かせた。

●チュンッ!
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)がケルベロス達に依頼する際に使っているタブレット。そこに映るものを見て、壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)は少しだけ首を傾げた。
 小豆色と茶色を程良い割合で混ぜたような頭部。
 小さなお目々。
 目の周りや頬を縁取るような黒と、白。
 ふかふか、もふんっ……とした亜麻色。
 翼持つ愛くるしいソレの名は、
「ふくら雀ですね。どうかしたんですか?」
「……実は玩具の雀がダモクレス化してね」
 ダモクレス化、と聞いた途端、継吾の表情が静かに引き締まる。
「由々しき事態ですね」
 元となったのは何年も前に販売された幼児向け玩具。電池を入れてスイッチを押すと、チュンチュン囀りながらトコトコ歩く、『すずめのチュンちゃん』だとか。
「現場は人気の無い原っぱだ。敵は体高約2メートル。羽型ミサイルや嘴による突き攻撃、ステップを使った体当たりをしてくる。防御力特化型で、火力はそんなに無さそうだね」
 注意が必要なのは、その愛らしさ。
 胸やお腹を覆うふかもふ羽毛は超・超・超、極細金属繊維。その下は機械の体。あれはダモクレスなのだと言われても信じられないくらい、あまりにも、あまりにも『可愛い雀』過ぎるのだとラシードは語る。
「……そんなに可愛いんですか?」
「体高約2メートルのキュートな雀と触れ合いし放題、って言われたらどうする?」
 予知でたっぷりと愛らしさを視たのだろう男の言葉に、継吾はハッと目を瞠る。
 本物そっくりの可愛らしさ。ただのリアルでビッグな雀だと言われたら、人々は喜んでもふもふするだろう。だが、愛らしさの下はダモクレス。人々をチュンチュン蹂躙すること間違いなしだ。
「非常に危険な存在ですね。僕達ケルベロスの手で止めましょう。絶対に」
「頼んだよ。君達ケルベロスならもふもふしたって余裕だ!」
 表情は真剣だがどこか緩い空気が漂った。


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
八千草・保(天心望花・e01190)
連城・最中(隠逸花・e01567)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
晦冥・弌(草枕・e45400)
氷鮫・愛華(幻想の案内人・e71926)

■リプレイ

『へーへーダモやりゃいんだろ? よゆーすよ』
 そう思っていた時期もあったわ──とは、ケルベロス・Sさんの言葉である。

●たいけつ!
「わぁあ」
「わー」
 晦冥・弌(草枕・e45400)と氷鮫・愛華(幻想の案内人・e71926)の歓声がハモった。
「これは立派なふっくら雀ですね!」
「巨大な雀さんですね。もふもふしている姿が可愛いです」
「チュン!」
 目をきらきらさせる2人に、原っぱに聳え立つふわもこのおやまが誇らしげに胸を張る。
 その勢いで揺れたふっかふかの亜麻色をハイスピードカメラで録画したなら、全国のモフリスト大歓喜間違いなしの画が撮れただろう。
「……胸部装甲はんぱなくない?」
「チュンッ!」
 ふかふかお胸をガン見するサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)に、ふわもこおやまが「そうだろう」な顔で胸を張る。ふわもこおやまは可愛くて、物凄くもふもふで──ああ見えて、ダモクレスなのだった。
「随分と不思議な奴ですけど、ティユさん? 大丈夫?」
「何を白羽こそ不思議なことを言ってるんだい。もふもふなだけじゃないか……」
 駆けつけた白羽・佐楡葉にティユ・キューブ(虹星・e21021)は笑い──じっ。
 そう、あれは幼児向け玩具『すずめのチュンちゃん』がダモクレス化したついでに冬仕様でふっくらもふもこもふもふもふもふ……。
「チュンッ!」
 もふもこ思考や空気をチュンちゃんがキリっとした顔で破った。多分「ゆくぞけるべろす!」と言ったのだろう。チュンちゃんが跳んだ瞬間、おっきなもふもふと複数の影が交差し──前衛陣に衝撃が走った。
「なん……だと……」
 マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)は受けた攻撃をなぞるように頬を撫でた。連城・最中(隠逸花・e01567)もキリリ顔のチュンちゃんと睨み合う。ぴんと張りつめた空気が流れた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)の問いに振り返ったティユの頬は、ほんのり温そうな色に、両目はキラキラしていた。
「うん、凄くもふもふだった……」
「わぁ、いいですね」
 今のはお触りではない。繰り返す、お触りではない。
 咄嗟に体が動いて仲間を庇うというのはディフェンダーなら『時々ある』事だ。実況と解説がいたら間違いなく「ディフェなので接触不可避ですね」「100%自然な事ですね」と言っただろう。
 確かなのは、どんな姿だろうと、例えどんなに可愛らしくても、もふもふでも。さっきのすてっぷが『標的をぽふぽふしまくる温かい塊あたっく(あまり痛くない)』という何だか平和そうな攻撃でも、人々に害を為すものは許せない。そして眼鏡を外しておいて良かったと最中は思った。
「……気を引き締めていきましょう」
「そうッスね! なんて愛くるしい……じゃなくて恐ろしいダモクレス……!」
 堂道・花火(光彩陸離・e40184)はゴクリと唾を飲んだ。放っておけば危険なのは変わりない為『ちゃんと倒す』気持ちでいる。いるのだが。
「チュンチュン」
 どうだけるべろす、な目をしたチュンちゃんは、動物好きの花火には正直たまらんレベル。「少しだけ堪能させていただきたいッス……!」モノだった。
「せやねぇ。戦うんは、かわいそうやなぁ……て思うけど」
 お仕事やからね。八千草・保(天心望花・e01190)はゆるり頷き、ずぅん(もふぅん)と立ちはだかるチュンちゃんに微笑みかける。
「せっかくやから、遊びましょ」
「チュンチュン、チュン!」
 多分、くるがいいけるべろす! な声へ応えるように、サイガと最中が原っぱを蹴った。
 蹴りと斬撃は一瞬で決まり──再び衝撃が走るのである。

●げきとつ!
 ダメージは入っている。よくよく見れば羽の一部がしびびびな事になっているし、チュンちゃんのあんよにも傷跡がある。しかし手応えがもふぅぅん……過ぎた。
「……成る程。防御力特化型というのも納得です」
「ンだよ今のもふぅ、は。チュンちゃんどころかドン・トリじゃん改名しろ」
「やっぱり恐ろしい存在ッスね、ヒールの重要性を感じるッス!」
 花火が黒鎖の守護を描く。そうだよねと頷いたのはティユだった。
「これはもうみんなの防御力を高めていくしかないね」
「順番を守ってもふる為にも、ですね」
 箱竜ペルルがマルティナを癒してすぐにティユは自分達の周りをドローン達で堅め、弌も後衛は任せて下さいと微笑みながら黒鎖を奔らせて。
(「あまりの魅力のふくふくに早速捕まってる人が居ますね」)
 冷静に分析する14歳。
 危なかった。ケルベロスでなければ致命傷だったかもしれない。
 マルティナもチュンちゃんをしかと目に捉え──体を駆け抜ける衝動、その抗いがたさに顔を歪ませた。
「くっ……敵だというのに……!! しかし……!!」
 対デウスエクス戦で殆どのケルベロスが使うスターゲイザー。流星の煌めきと圧を見舞うそれをここまで『やり辛い』と思わす敵がいただろうか。
「チュンッ……! チュン? チュン!」
「何て言うとるんやろねぇ?」
 首傾げてかわいらし。癒しの雷壁を起こそうとした保はつい笑みをこぼし、チュンちゃんを、そのもふもふボディを見つめる。もふもふだ。とても。とてつもなくもふもふだ。あとさっきの声は、くっ、どうしたのだけるべろす、こい! という感じだろう。
「こないなろまんてぃっくな光景……飛びついてもええかな……?」
 迷う心を押したのは駆けつけた仲間の姿だった。
「チュン……!」
 今のはチュンちゃんではない。チュンちゃんのまん丸としたボディに熱い眼差し注ぐルヴィル・コールディの声である。
「行くよ、ルヴィはん……!」
「い、いいのか」
「先陣は任せたぞ!」
 にじり寄る様にマルティナが熱い声をかける。その瞬間、チュンちゃんのお腹に2人がえいっと華麗にダイブして──ぽかぽかふわふわ、優しくて温かな世界に包み込まれた。
 自分も翼だが雀の羽毛とはまた違う。保が覚えたその差はチュンちゃんのふかふかお腹に吸い込まれた。バイバイでナイナイになった。
「冬は羽毛……わぁ、ふかふか……お布団みたい……」
「あ、すげ、ふわ……」
 保は思わず『すやぁ』。無邪気な笑顔が温もり堪能する間、そっと顔をうずめたルヴィルも「ふへへへへ」とふわふわ触感を楽しみ、両手で抱き締め──。
「すごい、ふかふか、だな……」
「……うん、おひさまの匂い………でもないかな?」
「チュン!?」
 その間に、ぽふぽふ攻撃を受けたティユの頬を継吾の包帯がちょん、と突いて癒し、愛華は懐中時計から魔法空間を作り出していく。
「白き時の空間よ、敵を閉じ込め、動きを封じよ!」
 誰かが安心してもふれるように。そして最終的にはチュンちゃんを眠らせる為、攻撃の手は止められない。これはケルベロスとダモクレスの戦い。チュンちゃんとのファンミーティング要素がちょっとあるだけの、戦いなのだ!
 攻撃ついでにもふぅ、となっていたがサイガは基本いしをつよくもつぞの構えを抱いたまま。ぜったいにたおすという固い意志は、降魔の力を籠めまくった漆黒の戦篭手と同じくらい固かった。固かったが、チュンちゃんのボディにもふん、と沈み込んでいた。
「……ハッ!? 敵の催眠か!?」
 弾かれるようにチュンちゃんから離れ、構える。
 『あったかお布団と離れられず二度寝』を思わす光景に、駆けつけたキソラ・ライゼはごくりと唾を飲んだ。歴戦の仲間が、まさかの、もふん。
「恐るべき強敵だな、チュンちゃん……」
 零れた声へ最中は密かに同意した。戦い辛い上に(さしてダメージは無い)攻撃で和んでしまうのだ。螺旋を籠めた掌をチュンちゃんのボディへ叩き込めば、ほら。
「……強敵ですね」
 無表情でもふってしまう。それ程に、チュンちゃんは強敵。そんな空気にチュンちゃん本鳥はチュンチュンとご満悦。翼を広げしゅぴぴぴと羽毛を飛ばす。
 だがしかし! ニコニコしていたのはチュンちゃんだけではなかった!
「愛らしいふくふくした雀を倒すのは気が引けるけど、ぼく達は番犬だからなぁお仕事だからなぁ。けど多少じゃれあったりするのはしてもいいですよね、うんうん!」
 煌めく瞳は宇宙の青。弌だった。

●もふとつ!
 羽毛の前に飛び出していた花火は顔に残るちくちく感覚をぺちりと叩く。今のは、伸びて来た髪が肌をくすぐった時のような感覚だった。なので。
「順番にやれば安心ッスね。良かったら次、弌さんどうぞ」
「花火さんは?」
「オレは皆がもふもふし終わってからで大丈夫ッス!」
「もふもふは平等に。防御力アップならお任せあれ、だよ」
「ティユさん……!」
 対デウスエクス戦でこんな会話が飛び出す。そう、ケルベロスならね。
 周囲をドローンに守られながら弌は駆けた。寒さが染みる季節には、ほかほかのふわふわ毛布が欲しくなる。故に、ぱちくりしているチュンちゃんへ遠慮なく「えーい」と飛びついた。
「こういう抱き枕がほしかったんだ」
 飛びついた瞬間、羽毛の奥深くから温もりがぼふっと飛び出して。それから、ふわぬくの世界へ沈んでいく。全身を支えるのは極上ベッドのようなふかふか。眠気を覚えはしたけれど。
「残念、もふもふタイムは此処までだ。君には凍えてもらうよ」
「チューンッ!?」
 グラビティ攻撃でもあった弌の指先は、とっても冷たかった。その証拠とばかりに、チュンちゃんの大きなボディが、冬の冷たい風呂場に足を踏み入れた人並に飛び上がる。
「わぁ、えらいもこもこやねぇ……」
 煌めく雷壁で前衛を支えながらも、保の目は『ぼっふん!』と膨らんだチュンちゃんに釘付けだった。マルティナも、黒き残滓がチュンちゃんをばくんッとするまで釘付けだった。白の軍服翻す麗しい軍人だが、チュンちゃんのもふもふっぷりに心のトキメキは止められない。
 もし、もふもふしていた時にああなったとしたら、それは「アツアツの湯船に浸かった時のような、大変素晴らしい感覚ですね」と解説が添え、実況が「あー、染みますねー」と同意するような感じになっただろう。
 そんなチュンちゃんの魅力はマルティナ以外の心もざわつかせていた。真っ赤な包帯をぴろっとやろうとしては、何やら考えていた様子の継吾である。そして、順番待ちには手を差し伸べる。そう、ケルベロスならね。
「ほら、壱条もいってみると良い」
「ええ、是非」
「やっちまえ、丸かじりだ」
 ディフェンダーとして幾度か『偶然にも』もふっていたティユが。同じく前衛に立つ攻撃手として『必然的に』もふっていた最中とサイガが背を押す。
「雀の丸焼き……」
「チュン!?」
 土蔵篭りの微笑から飛び出した単語にチュンちゃんが飛び上がる。
「いえ、食べた事はないので」
「チュン」
 なに!? からの、ならよし、なリアクションをしたチュンちゃんだが、ホッとしている間に継吾が愛華に声をかけていた。今がもふもふチャンスだと。チュンちゃんが気付いた時にはもう遅い。
「これが、ふくら雀……!」
 もふーと沈んでいく継吾の横、もふもふ動物が大好きな愛華も、楽しみにしていたひとときをしっかりバッチリ堪能していた。
「わぁ、もふもふですね」
 こんな可愛い姿ですけど、ダモクレスなら倒すしかないですけど──と、大変『流石ケルベロス』という思考もしていた。
「貴方を、絵の具で塗りつぶしてあげますよー」
「チュン!? チュンチュン!?」
 幾つもの色が、塗料が、寒空の下を華麗に飛ぶ。頭の天辺やピーンと伸びた尾羽はカラフルになり、しかしチュンちゃんがチュンチュン囀りながら広げていた翼をぴしゃっと閉じた。
「あれは……」
 平和そうな攻撃が来ます。最中の言葉に前衛が構えた。チュンちゃんが繰り出す攻撃の中でダントツに平和そうなものは、そう! ただ1つ!
「あの左右にステップしまくるやつッスね!」
「いつでも来い。私の準備は出来て……」
 マルティナの咳払いに、チュンちゃんの「チュンチュン!!」が被った。

●かんけつ!
 チュンちゃんが素早く左右へステップする度、ふわっと温かな羽毛が顔を撫で、全身が温かなものでぽふぽふされる。それはとても──最高だった。そんな最高タイムを味わっていたとあるケルベロスとサーヴァントを、佐楡葉が両手で引っぺがす。
「やべぇ、ティユさんが篭絡されてる……ペルルさんも。これがもふもふの魔力ですか」
「はっ……いや、大丈夫……このくらいは普通さ」
 見ただけで癒される愛らしい存在だが、それに敵には違いなし。別れは必定。故に悔いなく目一杯愛でていた。
 ふふと笑う彼女が機を見て躊躇いなく軽くもふり、折を見て──つまりたった今だが、思い切りもふっていたのを見てきたので、柘榴石の眸は冷静だ。
「まったく、普段はいいですが今は戦闘中――」
 密かにもふれば極上の温もり。直後、背後から斬りつけたサイガが再びの二度寝現象に両目をかっ開いて──。
「……」
 もっふもふの腹部に無心でもふもふと埋まる仲間の姿。最中である。
「……連城さん、大丈夫ですか?」
「……は。いや? 寝てません、よ。壱条さん」
 頬を撫でるふわもふと温もりに暫し心身共に包まれていた仲間が、cm的な意味でどれだけ埋まっていたか。それを感覚的に捉えたあるケルベロスの心が決意で固まった。保や愛華が、フォローは任せてほしいと目で伝えてくれている。
「よし、行くぞリズ!」
「遂に私達の番が来たか!! 思いっきりもふり倒そう!」
「チュン!?」
 マルティナは支援に来ていたリーズレット・ヴィッセンシャフトと共にキラキラと笑い、驚きでぼぼんッと膨らんだチュンちゃんにレッツ・ダイブ。全身をふんわりもふり受け止められた瞬間、その表情はふにゃ~~~と蕩けた。
「あああああ気持ちいい……!! 待ちに待ったぞこの瞬間!! ふくら雀のもふもふは一度もふってみたいと思っていたんだ!!」
「雀って警戒心が強くて、一定範囲内以上はあまり近づけないって聞いたことがあったから、めっちゃ貴重な体験だな!」
 今この瞬間だけは戦いの事を忘れて──もふもふもふもふ。
 いつもと違った雰囲気にカメラが向けられるというプチイベントも交えた後は、そう。次の方どうぞー、である。それじゃあお邪魔するッス、と花火は両腕を広げた。
 チュンちゃんも元は捨てられた玩具。だから、動ける時に精一杯遊んであげたい!
 そんな温かいハートとチュンちゃんが触れ合え(もふもふすれ)ば──。
(「こんな敵がいていいんスか!」)
 あまりの最高質感に花火の姿ももふもふの彼方へ沈みかけた。
 やはり強敵。そう易々と倒せない。ならばと立ち上がった男がいた。
「イイか、オレがパラライズを仕掛けて動きを止めるうちに倒すんだ……!」
「チュン?」
 全身でチュンちゃんをもふもふ受け止めるというパラライズ。全力でもふもふしながらもふもふから真顔を覗かせたキソラである。凄く、もふーんである。
「名残惜しいけど、こればっかりは仕方ないからなぁ……」
「だが弌、冬だけの贅沢なもふもふ……倒してしまわなければならないのが勿体ないぞ……!!」
「ブラチフォードさん、攻撃しながらもふるというのはどうですか?」
「それッス継吾さん!」
 という事で。
「アンタの遺志は無駄にしねえ」
 物凄く真顔だがどこか遠くを見る目をしたサイガの声を合図に、ケルベロス達の一斉攻撃が炸裂した。とびきりのもふもふに、チュンちゃんを送る為の一撃が次々と見舞われていく。
「自由な空へと旅立つ時間ですよ」
 もふん。最後の温もりに最中はそっと礼を言って、それから「お疲れ様」と手を離す。
 きょとん、と固まっていたチュンちゃんの様子が少しずつ変わる中、巻き込まれながらも何やかんやで無事だったキソラが、最後の温もりをもふもふもふーんと味わっていたりした。
「…………ああうん、冬の雀ってホント愛らしいよなあ」
 田舎の光景思い出す、ともふもふする後頭部をサイガが小突く。
「新手か!?」
「どぉもー」
「つかお前かよ! 殺す気か!!」
 もふーん……。
「ついでに毛でももらっとけハゲ」
「ハゲちゃうし、でも持って帰りたい……」
 もふぅ。
 チュンちゃんから手が離れないのは温もりならではのバッドステータス。
 だが、ケルベロス達の手で最期を迎えたチュンちゃんのふわふわ羽毛が、1つ2つと宙に舞い始めていた。その数は少しずつ増え、蒲公英の綿毛のように、ふわっと無数の羽毛が離れたのと同時。残った機械の骨組みは糸が切れたように崩れた後、一瞬で砂になって消えていく。
「いやぁ強敵でしたね!」
「ああ、強敵だった。……そして、実にいいもふもふだった」
 チュンちゃんが完全に消えた後、名残惜しさを弌は笑顔の裏に秘め、ティユは空を見上げる瞳に浮かばせる。保も同じように空を見上げ、チュンちゃんのいた所に白い花を添えた。
「ごめんなぁ。仰山遊んでくれて、ありがとうさん」
 上に遮るもののない此処なら、揺れる白花はいつでも見えるだろう。
 きっと沢山の子供に愛されていたチュンちゃんは、ダモクレスに変えられてしまってもケルベロス達に沢山もふられていた。それだけ愛される存在だ、ネットが発達した現代、探せば元の玩具が見つかる可能性はある。
(「……今度探してみましょう」)
 最中は仕舞っていた眼鏡をそっと掛け──ぽふもふを思い出すように、掌を見つめた。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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