終末機巧大戦~戦艦の中の水世界

作者:真魚

●勝利の次に
「東京六芒星決戦、お疲れ様! 儀式は無事阻止できたようだな!」
 集まったケルベロス達にへらり笑って、高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)は先の戦いの勝利を祝福する。疲れてるだろう、けど。そこで一息、言葉を切って、赤髪のヘリオライダーは真剣な表情で続ける。
「……残念ながら、休むのは後だ。お前達の勝利の結果、儀式に利用されるはずだった圧倒的なグラビティ・チェインが、東京湾に溢れている。こいつを使って、東京六芒星決戦に参戦しなかったダモクレスの軍勢が動き出している」
 行き場を失ったグラビティ・チェインは、放置しておけば拡散して地球に吸収されていくはずだった。しかしダモクレスの軍勢は、これを奪った大儀式を引き起こそうとしているのだ。
「大儀式、『終末機巧大戦』。この大作戦を率いるのは、『五大巧』と呼ばれる五体の有力ダモクレスだ。『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦するはずだった戦力を支配下におさめると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。その戦力を温存して、今回の作戦を強行したようだ」
 六芒星の儀式の中心であった晴海ふ頭は、出現した拠点型ダモクレス『バックヤード』を中心に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている。
 爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』――核となる『6つの歯車』を利用した儀式を行う事で、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と思われるのだ。
 語られた状況にケルベロス達の表情が険しくなっていくのを見ながら、怜也はにやり笑って言葉を紡ぐ。
「もちろん、そんな目的を果たさせるわけにはいかないよな。今回は、この『終末機巧大戦』の阻止に向かってもらう。具体的には――『核となる歯車』の破壊が、お前達の仕事だ」
 儀式は、巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われるため、破壊するには拠点型ダモクレスの内部に潜入する必要がある。
 終末機巧大戦の儀式は晴海ふ頭外縁部でなければならないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始するので、そこを急襲して儀式を阻止することになる。
「敵が侵攻を開始してから儀式が発動するまで、三十分。これが、作戦のタイムリミットだ。お前達は三十分以内に敵拠点に潜入し護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か、あるいは儀式の核となる歯車を破壊しないといけない。……やってくれるよな?」
 儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害は抑えられる。儀式が全て完遂されれば東京湾全体が敵の手に落ちるが、全てを阻止すれば晴海ふ頭中心部のみの被害で済むから――。
 どうか、頑張ってほしい。ぐるりケルベロス達を見た怜也は、返る力強いうなずきに嬉しそうに笑った。

●戦艦の中の水世界
「それじゃ、続けて具体的な作戦を説明するぞ。儀式場は、全部で六箇所ある。その中でお前達に向かってほしいのは、第五の儀式場。水陸両用型の戦艦型拠点ダモクレス、レヴィアタンの内部だ」
 レヴィアタンは、濃霧を発生させつつ豊洲運河に浮かんでいる。まずはこれに潜入する必要がある。
「レヴィアタンには、五つのチームに向かってもらう。そのうち二チームは先行班、こっちがお前達の担当だな、残り三チームは突入班となる」
 先行班二チームは、レヴィアタンに先行して突撃、戦闘を開始する。そして先行班が敵を引き付けている間に、突入班三チームが『突破口を開くための攻撃』を行うのだ。
「レヴィアタンの内部は、海水で満たされている。以降は水中戦となるが、お前達なら陸上と同様に戦えるだろう。そして、内部に潜入すると今度は防衛ダモクレスが襲ってくる」
 ここで登場するのは、ディープディープブルーファングとD級潜水艦型ダモクレスα。海底基地の防衛などに使われていた海中型ダモクレスの残存を、かき集めてきたようだ。こちらは数が多く他の場所からの増援もあるので、五チーム全員で戦っていてはタイムリミットに間に合わない。
「だから、ここで二手にわかれる。突入班は敵を掻い潜って先へ向かい、中枢の儀式場へ。拠点内はそう複雑な造りをしていないから、迷うことなく目的地へ着けるだろう。で、お前達先行班は――その場に残って、防衛ダモクレス達の相手を続ける」
 全ての防衛ダモクレスを倒すことは、困難と思われる。先行班の成すべきは、時間いっぱいこれらとの戦いを続け、できる限り多くの敵を引き付けること。持久戦となるが、ある程度の撃破スピードがなければ増援を誘い出すことができなくなる。バランスに気を付けて戦法を考えてほしいと、語った怜也はそこで小さく息をはき出した。
「つまり、お前達先行班が戦うのは、三種類の敵ってことだな。レヴィアタンは、濃霧を吹き出し視界を悪くしたり、体についた装備で攻撃してきたりする。全ての攻撃が複数相手への攻撃となるから、一網打尽にされないよう気を付けてくれよ」
 ディープディープブルーファングとD級潜水艦型ダモクレスαは、二種の攻撃グラビティを交互に使ってくる。こちらは指揮系統はなさそうだが何より数が脅威だ、効率のいい倒し方を考えた方がいいだろう。
 うまく戦えれば、先へ向かう突入班の戦況にも影響を及ぼすかもしれない。告げた怜也はケルベロス達へ、笑顔を浮かべて言葉を続ける。
「お前達の頑張りが、儀式の阻止へ繋がる。厳しい戦いになるだろうが、お前達の強さは俺もよく知ってるからな。絶対、耐え切って帰って来いよ!」
 東京六芒星決戦にダモクレスの軍勢が現れなかった理由がこのためならば、エインヘリアルの第二王女の軍勢が現れなかったことにも何か理由があるかもしれない。死神のネレイデス勢力、竜十字島のドラゴン勢力――動向の気になるデウスエクスは多いが、それらのことを考えるのはこの作戦の後となるだろう。
 頑張れ、お前達ならきっと成し遂げられる。前向きな激励に願いを篭めて、言葉紡いだ赤髪のヘリオライダーは、最後にヘリオンの扉開きながらいってらっしゃいと微笑んだ。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ルーノ・シエラ(月下の独奏会・e02260)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
海野・元隆(一発屋・e04312)
輝島・華(夢見花・e11960)
不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)

■リプレイ


 冷たい風が吹き抜ける豊洲運河は、濃い霧に包まれていた。ケルベロス達が向けた視線の先には、戦艦型のダモクレスが運河を占拠するように浮かんでいる。
 拠点型ダモクレス、レヴィアタン――濃霧の中でも確かな存在感持つ姿見て、クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)が息を呑む。
「あれが……。私の宿敵!!!! ……どっかであった事あったっけ?」
 首を傾げる彼女は、しかし即座に思考を切り替え精神を集中させていく。解き放つ力、起こる爆発が戦艦を襲う。
「さぁ皆やっちゃうわよ! あのクジラをタコ殴りよぉ!」
 気合十分の声、だってここには心強い仲間がいる。この作戦のため相談した仲間達もそうだけれど、彼女の営む雑貨屋に訪れる顔触れならなおさらのこと。
 クロノは自身の後ろで攻性植物を操るルーノ・シエラ(月下の独奏会・e02260)の姿に目を留め、楽しそうに笑った。真剣な表情で立つ彼女の、心情を察せたのはクロノだけだったろう。
(「ほぼ一年ぶりの依頼参加。戦争では戦っていたけど、ちょっと不安だ」)
 皆の足を引っ張らないよう、慎重に。心でそう呟き、緊張は隠して。ルーノは黄金の果実の聖なる光で、仲間達を支援する。
 するとそれに重なるように、後方より雷が飛び前衛を守る壁となった。輝島・華(夢見花・e11960) のグラビティだ。
(「クロノ姉様や皆様の為にもいつも通り出来る事を頑張ります」)
 決意し、頼もしい仲間達を見つめた華は、それからちらりと戦場の外を見遣る。
 もう一つの、先行班。敵の範囲攻撃で一網打尽にされぬよう距離をとっているため、その姿は戦場の端にいる華があちらの端を捉えられる程度だけれど――耳に届く剣戟が、共に戦っているのだと伝えている。
 彼らだけではない、自分達の仕事を待っている仲間だっている。この作戦を必ず成功させようと、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は素早く地を蹴り戦艦との距離を詰める。
「アレと戦うのか、最高」
 水陸両用。そのフォルムの美しさを目の当たりにして、彼は静かに興奮していた。もちろん、それで手元が狂うことはない。彼の繰り出した流星の蹴りは、敵の装甲を大きくへこませる。
 衝撃に、レヴィアタンは僅かに体を揺らした。オォン、と空気を震わせた音は鳴き声か。次の瞬間、敵は濃霧を噴き出した。場所は頭頂部、鯨であれば噴出孔のある辺り――まるで潮吹きのような攻撃が、前衛のケルベロス達へと襲い掛かる。
 視界を奪うような一撃に、臆せず踏み出したのは巫・縁(魂の亡失者・e01047)。クロノを背に庇えば、その横で彼のオルトロス、アマツもユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)へ向けられた攻撃を受け止めていた。
「さて、人生で一番長い30分と行こうか。奔れ、龍の怒りよ!」
 言葉紡ぎ、縁は『斬機神刀『牙龍天誓』』を構える。蒼き鞘、大地に叩きつけ生み出す衝撃波をさらに凪げば、敵へとまっすぐ飛ぶそれが装甲に傷を生む。
 続けて華のライドキャリバー、ブルームが攻撃を畳みかけると、それ見たユスティーナが唇を引き結んだ。気弱で臆病な心の、悲鳴が聞こえる。けれどそれを振り切ろうと、彼女は『白炎』のオーラを迸らせる。
(「……恐ろしいわよ。でも、力ある私でこんなに怖いなら、そうでないならもっと怖いんだッ……!」)
 胸中で紡ぐは、自身への鼓舞の言葉。彼女の操るオーラは縁の傷を癒し、状態異常も消し去っていった。


 列減衰を避けた布陣のケルベロス達は、それぞれが己の役割を果たした的確なグラビティを繰り出していった。その攻撃はレヴィアタンの体力を確実に削っていき、はじめは身じろぎひとつしなかった戦艦が次第にその船体を揺らし始める。
 レヴィアタンも、背に乗せた砲塔より射撃を放ったり、尻尾を振り上げ炸裂弾を撒いてくるが、華や二体のサーヴァントが繰り返し癒せば与えられた傷は塞がっていく。彼女らが苦手とする複数相手のエンチャントはルーノが受け持っており、これが戦線をより安定させていた。
「六分! 皆様、一斉攻撃をお願いします!」
 戦場に鳴り響いたアラームに、華が声を上げながら青薔薇を作り出す。突入班が突破口を開く隙を作るため、全員で攻撃するタイミング。三分に一度と決めたそれの一度目はレヴィアタンの消耗が少ないからか、いくつかの攻撃が避けられ痛打とはならなかった。今度こそ、必ず。隣の戦場でもグラビティの音が一層激しくなり、この機会に賭ける想いが伝わってくる。
 揺れる巨体、少女の手の中の花弁は風に乗り敵を取り囲んで――その『奇跡』を、体現する。
 舞い散る薔薇に敵が囚われる隙、駆け出したのはルーノ。フル回転させた思考は攻撃精度を高めるための最適解を導き出し、そのタイミングを決して逃さぬよう彼女は拳を振り上げる。
「機を知り地を知れば百発百中危うからず」
 言葉にも勢いのせて、繰り出す一撃が艦体を捉える。続けて、砲撃を構えるのは不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)だ。
(「ダモクレスの野望、このあさひが打ち砕いて見せましょう!」)
 決意と共に自身の装甲の中に隠した魚雷発射管を出現させると、彼女は凛とした声を戦場に響かせた。
「短魚雷一番から六番三秒間隔で連続発射! 目標確認! 撃ちー方始め!」
 声に応えるように、撃ち出された魚雷がレヴィアタンの体に衝撃を与える。その爆風に乗るように、海野・元隆(一発屋・e04312)が接近して。
「さて、鯨退治と行くか」
 言葉紡いで繰り出したのは、凍気纏わせたパイルバンカー。その一撃は戦艦へ深々と突き刺さり、敵の動きを止める。
 次で、決まる。そう確信した元隆が、馴染みの店主の名前を呼ぶ。
「クロノ!」
「任せて! さぁ、貫いてあげる!」
 呼び声受けて、クロノが風を操る。展開した気圧のレール、乗れば一直線にレヴィアタンへと突撃し――。
「風よ、吹き荒べ!! ロンドバルデュリアー!」
 仲間と繋ぎ、畳みかけ。とどめに撃ち込む高火力のグラビティは、まさに会心の一撃。これにはたまらず、レヴィアタンの体が大きく傾いた。
 刹那、ケルベロス達の頭上より大きな破壊音が響き渡る。霧に覆われ視認することはできないけれど――それが待機していた突入班の攻撃であると、彼らは直感した。
「やったみたいだね」
 ピジョンが声を上げた次の瞬間、ケルベロス達は一斉に地を蹴り、高く跳躍する。ひと息に移動する先はレヴィアタンの頭――濃霧噴き出していた部分に、グラビティで穿たれた大穴が認められた。
「ここまでは順調ね! 終わったら皆でお店で焼肉パーティよ!」
「まさかこいつの肉じゃあないよな?」
 クロノの明るい声は、仲間達の士気を高めるため。つっこんだ元隆の言葉には、周囲の張り詰めた空気が和らぐ。
 しかし次の瞬間にはきりり表情引き締めて、ケルベロス達は大穴へと飛び込んだ。
 ざぶんと音立て、飛沫が上がる。海水で満たされた戦艦内部へ侵入し、ケルベロス達は先を急ぐのだった。


 内部へ侵入すると、待っていたのは突入班の二十四名。同じ先行班の八名とも合流し、総勢四十名とサーヴァントの大所帯となったケルベロス達は、襲い来るダモクレス達を撃破しながら進んでいく。
(「一息つけるならここで一杯……と思ったが」)
 持ち込んだ酒瓶を取り出すことは諦めて、元隆は前衛へと立ち位置を変える。他のケルベロス達も次の耐久戦に備えて陣形を組み直すが、縁とアマツはそのまま守り手の位置に残った。レヴィアタン戦が素早く終わり、回復も手厚かったおかげだ。
 しばしケルベロス達は順調に進軍していくが、やがて行く先に多数のD級潜水艦型ダモクレスαが立ち塞がる場面へと遭遇する。多勢には多勢で対抗しようと思ったか、敵はミサイルと魚雷を一斉に発射してこちらに被害与えようとするが、これは先行班の守り手達が受け止める。
(「今回は皆で最後まで戦場に立つために全力を尽くす」)
 皆とは、先行班も突入班も――此度の作戦を行う、全員で。決意固めた縁は、背に庇った突入班達へ、『先へ進め』と合図を送る。その傍にはアマツも寄り添い、静かに敵を見据えていた。
 うなずき、駆け出す突入班。それをサムズアップで見送って、ピジョンは魔法の針と糸を生み出す。
(「さあ縫い止めろ、銀の針よ」)
 きらきら、銀色の輝き放つ針は、狙い定めた敵一体へと飛んでいく。たどり着いた足元、動き阻害するグラビティは空間にD級潜水艦型ダモクレスαを縫い付けた。
 そのピジョンの隣で、彼のテレビウム、マギーがぴょこんと跳ねる。赤白ボーダーの水着に身を包み、画面に映すは応援動画。その声援は力となり、敵の一斉攻撃受け止めた縁の傷を癒していく。
 その動きに、ダモクレス達の狙いは先行班へと向けられたようだ。飛び交うミサイル、伸ばされる触手。その攻撃をかわし、元隆へ飛んだ魚雷を身に受けながら、あさひはもう一方の先行班と離れるよう少しずつ戦場を移動する。敵を引き付けつつ、主砲に装填するのは凍結弾。ピジョンと同じ敵狙い光線を発射するが、その攻撃はディープディープブルーファングに阻まれる。
 その間に背後へ素早く回り込み、『Leprechaun crossing』履く足へ意識集中したのはクロノ。そのまま卓越した動きで蹴撃繰り出せば、潜水艦型の腕は吹き飛び活動を停止した。
 まず一体、けれど敵はまだまだいる。次の狙いは、先ほど庇う動きを見せたディープディープブルーファングだ。クロノのライドキャリバー、エアが疾りタイヤ滑らせた熱でダメージ与えれば、お返しとばかりに敵のダモクレス達が魚雷を発射する。その多くは後衛を狙った攻撃だったが、守り手厚く布陣したケルベロス達は攻撃を通さない。
 中でも多くの攻撃を受けたユスティーナは、傷が深かったけれど――信念ある限り、彼女は決して諦めない。
「負けてなるものですかッ! 示すわ、自分自身を!」
 託された武器を手に、防御専心の構えをとる。傷塞ぎ護り固めるグラビティは、まさに彼女の決意そのものだった。


 その後も、ケルベロス達は耐久戦を続ける。此度集まったメンバーはサーヴァントを連れている者が多く、全体的に体力が低めだ。ゆえに、彼らは守り手を多く配置することで、戦線を維持する作戦を採った。
 ダメージの分散は回復の手数を増やしてしまうけれど、それはレヴィアタン戦に引き続き回復手を厚くすることでカバーしている。
 守りを厚く、回復も厚く。となると自ずと不足してくるのは、攻撃の火力だ。これは敵に炎と氷を与えることにより補う作戦だったのだが、残念ながらこちらはうまく回ったとは言い難い。状態異常を撒くのなら、妨害手のポジションが最適なのは言うまでもない。炎与えた敵を放置し時間経過によってダメージを重ねるつもりなら、敵の減衰を承知の上でも妨害手が範囲攻撃を撃ち続けた方が効率はよかっただろう。
 しかし、ケルベロス達の攻撃は単体狙いがメイン。敵のうちディープディープブルーファングは、庇うことでダメージが分散され結果的に炎や氷のダメージを受けることになったのだが、これだと火力の高いD級潜水艦型ダモクレスαが放置されることとなる。
 敵の攻撃手が多くなり、ケルベロス達の被ダメージは大きくなったが、しかしそれでも耐え切れるほどに護りは固く――。
 誰一人欠けず、全員で耐え抜く。その目的のために採った作戦としては、詰め切れていない点もあったが、絶妙なバランスだったと言えるだろう。
 敵の苛烈な攻撃を受けて、後半になると守り手の被害も大きくなった。特に防具耐性的に不利のあったアマツの傷は深く、前衛に立ち続けることは難しい。一度後退すれば、前衛の回復に手をとられている戦況では前線復帰は難しくなるが――それでもアマツは、後退を選択した。此度の戦い、主が彼に与えた命は『味方を護りながら出来るだけ生きろ』。彼は縁の命に従い、狙撃手として戦い続けることを選択したのだ。
 さらにユスティーナも癒し手へ後退し、代わりにクロノとマギーが守り手へ入る。味方へのエンチャントを重ねきったルーノも前衛へ進み出たところで、アラームは二十七分の経過を告げていた。
(「あと三分。皆様の事は私が守ります」)
 固く誓えば、華の杖持つ手に力が篭もる。そんな主を庇うように、ブルームは身に咲く花揺らして敵へと前進した。
 重なるダメージ、癒し耐え抜く守り手達。彼らの負担を少しでも減らそうと、ピジョンは自身のファミリアロッドをニホンヤモリの姿に戻し、射出する。重なる氷のダメージ、とどめに動いたのは元隆。ここまで何度も仲間達に護られたから、こうして前に立っている。海に呑まれるのは、元隆ではなくダモクレスの方――。
(「そら。そいつを連れて行け」)
 喚べば応える、舟幽霊。この海中は我のものとでも言うように、その霊はディープディープブルーファングの一体を捕らえ、その心身を引き裂いた。
 崩れ落ちる個体、しかしいまだ押し寄せるダモクレス達。
 終わりの見えぬ戦いに焦るケルベロス達は、その時鳴り響いたアラームによって冷静さを取り戻した。


(「時間ですね、撤退を……」)
 華が視線向けると、頷く仲間達は戦闘を中断し踵を返した。少し離れて戦っていたもう一方の先行班も、即座に撤退の準備を始めている。
(「さて、終わりか。どんだけやれたのやら」)
 元隆が胸中で呟きつつ武器を収めた、その時。通路の奥から、急ぎこちらへ向かってくる突入班の姿が見えた。
 時間いっぱい戦った先行班。ここまでの移動時間を考えれば、突入班の戦果は明白で――。
(「やったんだね!」)
 喜びに表情輝かせ、ピジョンは突入班達の道をこじ開けるべく最後の一撃をダモクレス達へ放つ。かくして合流を果たしたケルベロス達は、揃って撤退を開始した。
 泳ぎ進む戦艦は大きな揺れを繰り返し、崩壊が近いことを感じさせる。その前になんとか出口へとたどり着いたケルベロス達は、水中を飛び出し豊洲運河へと脱出した。
 振り返れば、レヴィアタンはすでに崩壊し始めていた。穴の開いた船体は静かに海へ沈んでいき、海中でばらばらに分解していく。
 しかし、ただの鉄屑と成り果てるのではなく――その部品が海底を機械化しようと動き出したことに、クロノは気付いた。
 彼らの作戦は、見事成功した。けれどダモクレスとの戦いは終わりではない。
 敵の動きを警戒し、ケルベロス達に緊張が走るが――その空気を変えるように、元隆が小さく笑った。
「とりあえずは……飲みに行くか? 鯨以外の海の幸でな」
 次を考えるのは後でもいい、まずはこの勝利を喜ぼう。そんな彼の提案に、仲間達は笑顔を浮かべて賛同するのだった。

作者:真魚 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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