終末機巧大戦~その鯨、水陸両用につき

作者:質種剰


「皆さん、東京六芒星決戦ではお疲れ様でした〜。無事に死神の野望を砕き、十二創神のサルベージという最悪の事態を防げたでありますね」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、まずは笑顔で皆を労った。
「ですが、まだまだ安心はできないようであります。東京六芒星決戦へ参戦しなかったダモクレスの軍勢が、儀式失敗によって行き場を失ったグラビティ・チェインを利用した大儀式、『終末機巧大戦』を引き起こそうと動き出したのであります」
 この大作戦を率いるのは『五大巧』と呼ばれる5体の有力ダモクレスだ。
「『五大巧』達は、ディザスター・キングの指揮により『六芒星決戦』に参戦する筈だった戦力を支配下に収めると、死神を裏切って儀式への増援を拒否。その戦力を温存して、今回の作戦を強行したのであります……」
 既に、六芒星の儀式の中心であった晴海ふ頭は、中央部へ出現したバックヤードを基点に、周辺の機械や工場などを取り込んでダモクレス化してしまっている。
「恐らくは、爆殖核爆砕戦で攻性植物が行った『はじまりの萌芽』を模した大儀式『終末機巧大戦』——核となる『6つの歯車』を利用した儀式——を行う事で、ダモクレス拠点を爆発的に増殖させ、東京湾全体をマキナクロス化させるのが目的と思われます」
 『終末機巧大戦』を阻止する為には『核となる歯車』の破壊が必要なのだが、儀式は巨大な拠点型ダモクレスの内部で行われる為、破壊するには拠点型ダモクレスの内部へ潜入する必要がある。
「終末機巧大戦の儀式は、晴海ふ頭外縁部でないといけないらしく、儀式開始と同時に侵攻を開始しますので、皆さんにはそちらを急襲して儀式を阻止していただくであります」
 敵の侵攻開始から儀式が発動するまで、たった30分しか時間の猶予は無い。
「即ち、30分以内に敵拠点へ潜入して護衛を排除し、儀式を行っている指揮官ダモクレスの撃破か、或いは儀式の核となる歯車を破壊しなければなりません」
 儀式の破壊に成功した分だけ、終末機巧大戦の被害を抑える事が出来る寸法だ。
「儀式が全て完遂されれば東京湾全体が敵の手におちますが、全て阻止すれば、晴海ふ頭中心部のみの被害に抑えられるであります。厳しい状況ではありますが、皆さんのご活躍に期待してるであります!」
 かけらはそう皆へ発破をかけた。
「それでは作戦について説明いたします」
 目標となる拠点型ダモクレスは『都市制圧型移動要塞アンドロケートス』。隅田川を遡上して、人形町方面への上陸を目指している巨大クジラだ。
「まず、当班を含めた5チームが協力して拠点型ダモクレス『都市制圧型移動要塞アンドロケートス』を強襲。そのまま移動要塞内部に突入なさいます」
 この時、2チームが先行して突撃し、アンドロケートスと戦闘を行い、残り3チームによって『突入口を開く為の攻撃』が行われる。
「突入後は、内部の防衛ダモクレス『キャプチャドール「ファティマ・マーノ」』が皆さん方ケルベロスの足止めをしてきますので、戦って突破なさらなければいけません」
 しかも、ファティマ・マーノは他の場所からも次々集まってくるので、増援を足止めする必要まで出てくる。
「増援の足止めは『拠点型ダモクレスと戦い消耗している2チーム』に担当していただきます。皆さんがその2班の片方にあたります。頑張ってくださいね♪」
 という訳で、突入班3チームが儀式の行われている中枢部に向かう事となる一方、当班はアンドロケートスの撃破とファティマ・マーノ達の露払いが主目的である。
「都市制圧型移動要塞アンドロケートスは、背中の左右にあるランチャーから、『6連装潮吹きミサイル』を撃ってくるであります」
 頑健性に優れたクジラ型のミサイルは、射程が長く複数人に甚大な破壊を齎すだけでなく、巨大さに似合わぬ精密な照準が特徴だという。
「また、胸ビレと背部から実弾をばら撒いて、近距離の敵複数を一気に攻撃してきます」
 敏捷性に長けた『副砲連射』は斬られたような痛みと言い知れぬ威圧感を植えつけられるそうな。
「更に、人型ユニット——ユニットアンドロメダの左右に突き出た六砲塔から光線による波状攻撃も仕掛けてきます」
 理力に秀でた魔法たる『生け贄娘のもがき』は、遠くの敵複数人から体温を急激に奪って凍てつかせるらしい。
「『キャプチャドール「ファティマ・マーノ」』は、巨大腕で殴ったり掴みかかったりして攻撃してくるであります」
 巨大腕で殴りつけてくる『スマッシュ』は、敏捷に優れるが射程の短い単体攻撃、凄まじい破壊力と気圧されに注意。
 一方、巨大な掌で掴みかかってくる『キャプチャー』は、近距離にしか届かないのと破壊力に秀でた単体攻撃なのは同じだが、頑健性に満ちて相手を縛める力も強いのが違いだ。
「また、『プラグスイング』なる尻尾での薙ぎ払いも強力でありますからお気をつけください」
 理力に特化したプラグスイングは、遠くにいる敵複数人へ斬るような激痛を与え、その鋭い衝撃によって足を竦ませるのだとか。
「東京六芒星決戦の結果を見て撤退するかに思えた竜十字島のドラゴン勢力も、撤退を取り止めて太平洋上で状況を伺っているようであります……」
 かけらは他勢力について気になる情報を告げてから、
「ともあれ、まずはこの作戦の成功を祈ってるでありますよ。皆さんご武運を!」
 皆を彼女なりに激励したのだった。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)

■リプレイ


 隅田川。
 美しい船首像が如きユニットアンドロメダと彼女を護るかのように生えた六砲塔を乗せて、都市制圧型移動要塞アンドロケートスは外見だけなら優雅に遡上を始めていた。
 8人は同じ先行班と連携し、2方向——それぞれが対岸に陣取って攻撃しようと決めた。
「おォし、行くぜ野郎ども! 早期突破を目標に火力上げてブチ込めェ!」
 まずは伏見・万(万獣の檻・e02075)が怪気炎を上げる勢いで仲間達へ発破をかける。
 ギラリと光る金の双眸は目つきが悪く、ボサボサの黒髪と相俟ってワイルドな雰囲気を強めている、黒狼のウェアライダー男性だ。
「余裕がありゃ、移動要塞も催眠状態になるか、試してみたかったんだがなァ」
 万はケルベロスチェインを鞭のように叩きつけて、アンドロケートスへ魂食みし降魔の一撃をぶち当てた。
「死神の次はダモクレスって次から次へと!」
 珍しくぷんすかと怒っているのは、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)。
「見過ごすわけにはいかないけど、こうもラッシュだととっても困ったさんかな、もう!」
 可愛く頰を膨らませつつ、キッと巨大鯨を上目遣いに睨みつけるスノーエル。
 白詰草のブーツを履いた足で星型のオーラを力一杯蹴りつけ、アンドロケートスの白いお腹を突き破った。
「苦労して死神を退けたら今度はダモクレスか。まったく連中と来たら休ませる気ないでやんの」
 嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)も、やはり似たような事をぼやいて、やれやれと肩を竦める。
 彼もまた、つい最近東京タワーの儀式場で『宵星の死神』マイラと死闘を繰り広げてきたのだ。少しは休みたいと思うのも道理である。
「こちとらただでさえ慌ただしい師走迎えんだ。とっとと片してゆっくりしたいもんだぜ」
 軽口を叩いて陽治が構えるは、ワイルドな髭面や筋肉質な体躯にぴったりなエクスカリバール。
 先端の垂直に曲がった鉤部分を力任せにアンドロケートスの脇腹へぶっ刺して、見た目にも痛そうな裂傷を与えた。
「嘗て民を苦しめた怪物と、民を守るために身を捧げた王女の複合体が相手とはな」
 ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)は、威容の中にも美しさが感じられる移動要塞を見上げて、素直に驚嘆する。
 怪物や王女とは、どちらも有名な星座のモデルになった神話の登場人物である。
 元より太陽が好きなロウガだから、他の天体へ関する逸話にも造詣が深いのかもしれない——彼の見目麗しい雰囲気や古めかしい物言いによく似合っている。
「よろしい、この地球(ガイア)をマキナクロスになどさせぬ為に戦おう——その怪物を退けた勇者のように、な」
 ニヤリと口の端を上げて笑うや、バッと身軽に跳び上がるロウガ。
「昂ぶる星々の煌めき、地に堕ちて手足を断つ!!」
 日輪の戦靴-Sunlight Edge-を履いた足先より流星の尾たなびく重い飛び蹴りをかまして、アンドロケートスの推進力を削ぎ落とした。
 一方。
「死神の後にダモクレスのおかわり、って言うには規模が大きすぎるわ……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、アンドロケートスのとてつもなくデカい図体へさぞ圧倒されているかと思いきや、
「街のオブジェとしてならちょっとかわいいかも……」
 と、至極平和な想像をして微笑む心の余裕を覗かせた。
「ドローン起動。通常の警護モードで展開」
 かぐらはまず前衛陣の守りを固めるべく、小型治療無人機の群れを指揮する。
「マシュちゃん、氷霄さんへ属性インストール、お願いするね」
 その傍ら、スノーエルの指示でやってきたマシュが、かぐらをふわもこの綿で包み込み、異常耐性を高めてくれた。
 都市制圧型移動要塞アンドロケートスは、ユニットアンドロメダが鬼神の如き猛攻を仕掛けて、侵入者を排除せんと躍起になっていた。
 鯨の真上に鎖で縛られた生け贄娘はつるりとした鉄の能面を貫きつつも、六砲塔からガンガン凍結光線を撃ってくる。
「させないわよ!」
 かぐらがマシュを庇って身を切る寒さに襲われ、ガタガタと両手で細腰を抱き締めて震えた。
「ケルベロスの連携が機械の統制にも劣らないとこ、見せたげなさいな!」
 そこで、すかさずソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)が、ふんぞり返って偉そうに指示を出す。
 面倒臭がりの生み出した何もやっていなくても『何かやっている』風に見せる妙技が、万の動きを効率化して、凍傷も癒した。
 ヒガシバはエクトプラズムによって具現化したしゃもじを武器みたいに振り回し、アンドロケートスへ殴りかかっている。
「被害を考えると私も傍観という訳にはいかないだろう。私が損得勘定無しで引き受けるのは今回だけだぞ」
 舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)は、語り口こそ不承不承といった気怠さが漂うも、巨大鯨を見据える涼やかな瞳からは確かな意志が感じられた。
 ツヤツヤした黒髪に愛嬌のある青い眼、黒尽くめの服装が印象的なウィッチドクターの女性。
 そんな瑠奈の初動は、ただ鯨の横を全速力で走り抜けただけに見えたが。
「私は支援に回るので後は皆に任せる」
 彼女がそう仲間へ声を投げた時、アンドロケートスの腹は既に、彼女がグラビティで生成した透明な硝子状のメスによってスパッと切り裂かれていたのだった。
「露払いは任せてもらおう」
 クールな見た目に違わず短く言い捨てて、ネクロオーブを構えるのは新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)。
 短く整えた黒髪や鋭い眼光がいかにも寡黙な佇まいで、愛用のウィザードハット【未賢】もよく似合う鹵獲術士だ。
「氷結せし炎よ来たれ」
 恭平は呪いの宝珠を天高く掲げて、内部にクリスタルファイアを宿らせる。
 熱を持たぬ『水晶の炎』がアンドロケートスの鼻先へ迫って、その大きな口元を勢いよく切り刻んだ。


「この鯨ミサイルも相当大きいのに、本体との対比で可愛く見えるわね……」
 かぐらがソフィアを庇って鯨型ミサイルの潮吹き爆発に晒されながら呟く。
 ヒガシバもマシュの前に滑り込み、ミサイルの直撃を我から喰らっていた。
 この見た目だけ可愛い鯨型ミサイルに限らず、アンドロケートスのグラビティはサーヴァントの体力なら一発で倒せるほどの威力を誇ると共に、拠点ダモクレス特有の攻撃範囲の広さから、一度で先行班両方への乱射を可能としていた。
 だが、先行班が隅田川の両岸より挟撃したお陰で、凍結光線にしろミサイルにしろ、一回の連射で片方の班しか被弾せずに済んでいた。
 アンドロケートスもそれを悟ってか、2分毎に射撃する方向を変えている。
 ちなみにヒガシバはディフェンダー故、何とか継戦可能な負傷であった。
「あなたが立ち向かっているのが誰なのか、改めて見せつけちゃうんだよ?」
 スノーエルはドラゴニックミラージュを応用して、己が背後へドラゴンの幻影を顕現させる。
「……さぁここに、おいでっ!」
 どことなくマシュに似ている綿竜の幻が、一所懸命に恐ろしい形相を作って唸り声を上げ、睨みつけたアンドロケートスの胸ビレを竦ませた。
 マシュも属性インストールをヒガシバへ決行、異常耐性の付与へ努めている。
「弾けろ!」
 アンドロケートスのオーブみたいな瞳へ向かって、振動波を断続的に撃ち出すのは陽治。
 命中した万象浸透撃がアンドロケートスの丸い頭部を内部から揺らし続け、見た目には判らないものの決して少なくない打撃を齎した。
「陣形作成開始」
 瑠奈は宣言通りに回復支援へ専念するつもりで、ケルベロスチェインを展開。
 後衛陣を守護する魔法陣を地面に描いて、彼らの負傷を治療した。
「凍れし刻よ」
 彼らしく厳かに精霊魔法を詠唱するのは恭平。
 吹雪の形をした『氷河期の精霊』を召喚して、アンドロケートスを氷に閉ざすべく嗾けた。
「10分以内に倒せたら御の字かしら……?」
 戦闘開始から30分経つと鳴るようにアラームを設定していたかぐらが、微かに心配を滲ませて言う。
 彼女がアンドロケートスへ繰り出すは、雷の霊力帯びしドラゴニックハンマーによる神速の乱打であった。
「端まで火が回ると良いんだがなァ」
 戦闘の合間でさえ持参したスキットルを傾けるほど、無類の酒好きな万。
 ローラーダッシュの摩擦によってエアシューズが炎を纏うまで滑走するや、激しく燃え盛る蹴りをアンドロケートスの顎へとお見舞いした。
「ほいっほーい、よろしく~」
 ソフィアは、遠隔操作型縛霊手『イノセント・プレイ』から祭壇の中身を景気良くばら撒く。
 雪のように降り注ぐ紙兵が前衛陣の怪我を治癒すると共に異常耐性も高めた。
「ヒガシバも続けー?」
 ヒガシバは主の命令へ忠実に、アンドロケートスの硬そうな胸ビレへガブリと牙を立て噛みついている。
「喰らうは正しき時、善なる意志――今、黄金に至りて邪を倒す」
 ロウガは、時の歪みを更に歪ませると言われ、『献者の宝石』と対を為す『喰者の卑石』が発現した剣で巨大鯨へ斬りかかる。
「――悠久なる神の刻(イノチ)、ヒトの刻(トキ)に臥せるがいい!!」
 そのまま剣を掲げて「喰者の卑石」を輝かせ、光の刃流れ込む傷口を取り巻く時間を乱して追い打ちをかけた。
 時を同じくして、ずっと集中攻撃を続けていた3班が、アンドロケートスの突破口を開くのへ遂に成功した。


 突入班へ続いて雪崩れ込むように、アンドロケートスの内部へ侵入した16人。
 一行の次の任務は、キャプチャドール「ファティマ・マーノ」の群れを食い止める事だ。
 40人もの侵入者を物ともせずに立ち向かってきたキャプチャドール達は、確かに数の上でもケルベロスに負けていない。
 しっかりくびれた胴体より余程太い機械腕で殴ってくる様も、かなりの迫力である。
「よっし、ここはおばあちゃんに任せときなさい。思いっきり歯車をぶっ叩いてきなさい!」
 ソフィアは普段のやる気のなさと打って変わって、キャプチャドールを縛霊手で殴る傍ら、大声を張り上げ激励する。
「戦果と無事、2つのお土産期待してるわよ!」
 それと言うのも、突入班の中に彼女の血を分けた孫がいるからだ。
 年端もいかぬ赤毛の少女の身が案じられるのは、祖母なら当然の心情であろう。
「それじゃ、歯車を止めてくるね!」
 ソフィアの孫も、祖母へ見えるよう元気に手を打ち振り、中枢部目指して駆けていく。
 家族を見送る彼女に限らず、先行班は一丸となってキャプチャドールの足止めに奮戦した。
「攻撃痛かったけど、みんなで耐えきれて良かったんだよ。ディフェンダーの補充として前に出る必要はまだ無さそうかな?」
 どことなくホッとした面持ちで、ゲシュタルトグレイブを思い切りぶん投げるのはスノーエル。
 放り投げられた槍は宙空で分裂し、キャプチャドール達目掛け次々降り注いて混乱を招いた。
 マシュちゃんもキャプチャドールらへ少しでも打撃を与えるべく、封印箱に入って突進している。
「そんじゃまいっちょ、やってやるかぁ~」
 陽治はエクスカリバールを構えて、キャプチャドール1体の懐へ気負いなく飛び込んでいく。
 達人の域に到った剣技は余計な動きが一切無く、流れる水のような一太刀を奴の肩口へ浴びせた。
「煌めけ!! 決意を宿した略奪の光!!」
 と、バスターライフルの長大な銃身を向けるのはロウガ。
 照準定めた銃口から放つ光の帯が、キャプチャドールから一気に熱を奪って凍てつかせた。
「しかしまあ、トーキョーワンに溜まったグラビティチェイン……ケルベロス側でなにか有効活用できないものかしらね?」
 ソフィアはそんな事を考えつつ、紅い天使の翼を広げる。
 両の翼から撃ち出された聖なる光が、キャプチャドール達の『罪』を直接焼き尽くした。
 ヒガシバはヒガシバで口の中から愚者の黄金を振り撒き、キャプチャドールらを少しでも惑わそうと頑張っている。
「……少しは数を減らすのへも協力するか」
 全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』へと変化させるのは瑠奈。
 白銀の拳をキャプチャドールの胸へ叩きつけ、その厚みのある装甲を打ち砕いた。
「良き悪夢を」
 恭平は古代語魔法の亜種という呪で構成された幻の蝶を召喚。
 蝶の群れを無数に舞い踊らせて、キャプチャドール達の精神を混迷へと誘った。
 そんなこんなで、時には奴らの同士討ちを誘発したものの、大勢の敵群相手の長期戦、2班とも消耗は避けられなかった。
 8人の中では前列に移動していた陽治やヒガシバが、プラグスイングの餌食となった。
 だが、これしきで怯むケルベロスではない。
「目標確認、照準修正。……チャージ完了、照射します」
 向こうでは藍髪の巨乳変身ヒロインが、両眼のモジュールより超高威力レーザーを放っている。
「確実に数を減らしていきたいところね」
 それを見て、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変えるのはかぐら。
 力一杯振り抜いて竜砲弾を撃ち出し、高速演算の見極めによって腰を焼かれていたキャプチャドールへ引導を渡した。
「さァ、刻んでやるぜェ!」
 己が身の内に潜む獣の群れを、幻影として喚び出すのは万。
 獣らは一斉にキャプチャドール達へと襲いかかり、鋭い爪で生傷を掻き毟ったり切り裂いたりと容赦なく抉り広げた。
 かように、2班のケルベロスは互いの班の邪魔にならぬよう立ち回りながらも時には協力して、キャプチャドール達を次々薙ぎ倒していく。
 そして、突入班がアンドロケートスへの侵入を果たしてから、19分後。
「終焉に頭を垂れよ……驕れる巧者の不遜を、焔で禊ぎ祓うは今。天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我!」
 黒曜石の鱗持つ竜派青年とその分身が、様々な得物を手に『終末機巧』カタストロフィへ攻め入った。
「皆、済まぬ。あとは、任せたぞ。動き出した歯車を止めてはならぬのだ……」
 嗄れた声で呻いたのを最後に、事切れるカタストロフィ。
「さようなら。もうひとりのイサナ」
 突入班のケルベロス達は、すぐさま奴の玉座であった歯車を破壊。
 終末機巧大戦の儀式の規模を、核一つ分抑える事に成功した。
 とは言え、儀式発動までもう2分もなく、慌てて鯨要塞の中から脱出するケルベロス達。
 ピピピピピ……。
 かぐらのアラームが30分経過を告げた瞬間、都市制圧型移動要塞アンドロケートスは、ふわりと川面から浮き上がって、空中分解を始めた。
 六砲塔、オレンジ色の瞳、つるんとした頭部の外板——様々な部品がバラバラになって宙に舞う。
 鎖の縛めから解き放たれたユニットアンドロメダも、どことなく安らかな面持ちで空へ吸い込まれていく。
 だが、彼女が飛び去る目的とて他の構成パーツと同じ、いずれ吸収されてマキナクロス化の礎となる事である。
「どうやら終わったようだな、お疲れ」
 恭平は安堵の息をついて、仲間達へ声をかけた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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