ねここねこねここ

作者:犬塚ひなこ

●猫公園の悲劇
 その公園にはたくさんの猫が住んでいた。
 滑り台の天辺でひなたぼっこをする白猫。ジャングルジムの細い足場に器用に上って悠々と歩く黒猫。風でかさかさと動く落ち葉とじゃれる三毛猫。
 ベンチに座る人の膝に乗って気持ちよさそうに丸まる雉虎猫。道のまんなかで当たり前のようにどんと座り込んで動かない斑猫。生まれたばかりの子猫たちがいる木陰。
 其処で暮らす彼、彼女らはいわゆる地域猫と呼ばれる猫であり、近隣の住民からとても愛されながら穏やかに過ごしていた。
 この公園には猫が居て当たり前。
 学校帰りの学生や、手を繋いだ親子連れ、買い物中の主婦など、自然と皆が集まって猫と共に和むような場所になっていた。だが――。
 或る日突然、その平和が乱された。
 木々が揺れる公園の中心に突如として上空から飛来した巨大な牙が突き刺さる。その牙は見る間に鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変え、周辺の人々や猫を襲い始めた。
「オマエ達の、グラビティ・チェインをヨコセ」
「キサマ達がワレらに向けたゾウオとキョゼツは、我が主の糧とナル」
 竜牙兵は空っぽの口をあけて空虚に笑い、剣を振るう。
 悲鳴が響き血飛沫が舞う公園は阿鼻叫喚。人も猫達も関係なく斬り伏せていく無差別な殺戮は無慈悲に、其処に在った平穏を壊していった。

●猫だまりを取り返せ!
 周辺の人達から『猫公園』と呼ばれる場所に竜牙兵が現れる予知が視得た。
「たいへんです、皆さま。このままでは其処に居る猫さんや人々が被害に遭ってしまいますので、急いで戦う準備を整えてくださいです!」
 そう告げた雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はヘリオンにケルベロス達を誘い、急いで機体を発進させる。現場に向かう最中に状況を話すとして、少女は詳しいことを語っていった。
「敵は公園の中心に突き刺さった牙から現れます。皆様はそれが竜牙兵に変わった直後に公園に降下できますので、すぐ敵に戦いを挑んでください!」
 不幸中の幸いだが公園の前には交番があるらしい。
 避難誘導は警察に任せられるので此方は竜牙兵を撃破することに集中すればいい。しかし、公園内の猫だけは避難誘導できない。猫達もすばしっこいの危機を察すれば逃げてくれるだろうが、万が一の場合は守る必要も出てくる。
「竜牙兵は簒奪者の鎌を持ってるのが一体、ゾディアックソードを装備した敵が二体です。それぞれが連携をしてくるので油断は禁物でございます」
 戦闘が始まった後は竜牙兵が撤退することはないが、気を抜いていると返り討ちに遭うことも考えられるので注意が必要だ。
 しかし、力を合わせれば勝てない相手ではない。
 リルリカが説明する中、彩羽・アヤ(絢色・en0276)が憤りの声をあげた。
「公園にいる人だけじゃなくて猫ちゃんまで襲うなんて絶対に許せないよね。竜牙兵なんて、あたしがめっためたのぎったぎたにしてやるから!」
 普段も戦いへの気合いは入っているが、いつも以上に語気を強めたアヤはペイントブキを強く握り締めた。みんなも同じ気持ちだよね、と仲間達を見つめたアヤの瞳には怒りの炎が燃えているように見える。
「はい、猫さんはぜったいに守らないといけないです!」
 リルリカもぐっと掌を握って同意を示し、仲間達に「どうかお願いします」と頭を下げた。そして、もし無事に公園を守れたら暫しゆっくりと過ごして欲しいと告げる。
 間もなく冬が訪れるが、公園内はまだ紅葉や秋の景色が残っているようだ。
 丁度、今日は天気も良いということもあって陽射しが届くところは暖かい。平和が戻れば公園内の猫達も元あったように穏やかに過ごし始めるので、彼らと戯れても良いだろう。
 猫が集まる場所は猫だまりとも呼ばれるらしく、きっと穏やかな時間が過ごせる。
「よーしっ、それじゃあ猫だまり奪還作戦の開始だよー!」
「皆さまのご武運を祈っていますです!」
 アヤが高々と拳をあげるのに合わせてリルリカも、えいえいおー、と腕を掲げた。
 ――斯くして、猫公園を守る戦いが幕を開ける。


参加者
隠・キカ(輝る翳・e03014)
茶菓子・梅太(夢現・e03999)
ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(オラトリオのウィッチドクター・e61400)

■リプレイ

●平穏を乱す者
 陽だまりと猫だまり、それは平和の証。
 だが、かの公園には未曽有の危機が迫っている。ヘリオンから降下したケルベロス達が目にしたのは今まさに牙が骨の兵へと変化している光景。
「人も、ネコも、だれもきずつけさせないよ。行こう、キキ」
 ネコ達を守らなきゃ、と玩具のロボットを抱えた隠・キカ(輝る翳・e03014)はいつもよりきりりとしている。ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)がボクスドラゴンのリィーンリィーンと共に周囲を見渡すと、驚き戸惑う人々の姿が見えた。
 到着が被害の直前だと知らされていた以上、人や猫に呼び掛けている暇はない。
 ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)は敵の前に立ち塞がり、滄海めいた青い瞳を向ける。
「こんないい日和にKYYだなー」
「この場所の、平和は乱させないよ」
 茶菓子・梅太(夢現・e03999)も身構え、魔鎖の陣を描いた。守りの力が仲間を包み込んでいく中、天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)はびしりと敵を指差す。
「その通りでにゃんす! わちきたちが来たからには何もさせないでにゃんすよ!」
「我々ノ邪魔ヲするのか、貴様等!」
「不肖天淵猫丸、全力を以ってお相手いたしまする!」
 わざと大仰に宣言した猫丸が敵の気を引いている間、近くの交番から飛び出してきた警官達が人々の避難をはじめる。
 ナクラは好機だと感じて紅瞳を覚醒させ、ナノナノのニーカもばりあを張った。
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(オラトリオのウィッチドクター・e61400)は翼猫のムスターシュに公園の猫達に呼び掛けるよう願う。
「猫さん達、お願い聞いてくれるといいけど……!」
「ソラマルも出来るだけ遠くに離れるように伝えてみて。お願い!」
 犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)も相棒猫に猫達の様子を見に行くよう伝え、敵を見据える。その間に柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)もウイングキャットの虎と共に樹の裏へと向かい、毛を逆立てている母猫に手を伸ばす。
「子猫が居るのは分かってるぜ。安全な場所に行くぞ」
 動物の友を発動させた鬼太郎は警戒を解いた母猫ごと子猫を抱え、戦場から離れた木陰へと走ってゆく。
 志保も其方へ向かうべきか迷ったが、彩羽・アヤ(絢色・en0276)が「危ないかも」と告げて首を横に振った。梅太もこれ以上の人員が猫の避難に向かうのは拙いと悟り、皆にこの場で敵と相対するよう目配せを送る。
 キカはこくんと頷き、片腕を掲げて敵に攻性植物を嗾けた。それに続いて猫丸が截拳撃で以て敵の攻撃手を穿ち、ゼーが追撃を加える。
 リュシエンヌも翼猫達と鬼太郎に全てを任せると決めて身構えた。薔薇を思わせる色の髪が風に揺れる様からは彼女の決意が感じ取れる。
 志保はリュシエンヌと頷きを交わし、敵を強く見据えた。
「あたし達に喧嘩売った事、後悔させてあげるよ」
 人々だけでなく猫達も無差別に襲撃するだなんて許してはおけない。
 血に塗れた未来は引き起こさせないと心に決め、番犬達は意志を確かめあった。

●守るということ
「良いダロウ、先ずはお前タチから皆殺しだ!」
 攻撃手の竜牙兵が大鎌を振るい、虚の力でキカを斬りつけようと狙う。しかし、梅太がすぐに前に立ち塞がることで一閃を受け止めた。
 猫丸は仲間達が深く傷つかぬよう願いながら、更に敵の気を引く。
「わちきも瞳が怒りでめらっめらでして! 竜牙兵になど負けはしませぬゆえ」
 誰かにその凶刃の向くことが無きよう、握り締めた拳をひといきに放つ猫丸の一撃が骨兵を貫いた。
 ゼーも標的を猫丸に合わせ、轟竜の砲撃で以て追撃を与える。
「皆の事は頼むのじゃ、リィーンリィーン」
 呼び掛けたゼーに反応した匣竜は翼を広げ、自らの力をナクラに与えていった。ゼー達の連携が見事だと感じたリュシエンヌは魔鎖の陣を描き、守護の力を拡げていく。
 すると子猫と母猫を避難させた鬼太郎と虎が戦場に戻る姿が見えた。
「ふむ、いつも通りの骨だな。待たせたな」
 樹の裏に居た猫達は移動させておいたと仲間に告げて身構えた鬼太郎は鋼鬼の力を加護に変えていく。更には猫の避難を手伝っていたアルベルトが駆け付け、猫虐める奴絶対殺す明王とばかりに参戦した。
 アルベルトが攻撃を仕掛け、虎が清浄なる翼を広げていく。
 その最中、リュシエンヌと志保は其々の相棒達を思う。猫達の避難に向かわせたムスターシュとソラマルは帰って来ていない。
「猫さん達、たくさんいるみたいね」
 リュシエンヌが気配を探ると、茂みの向こうに猫達を先導するムスターシュ達の姿が見えた。そうみたい、と答えた志保はソラマル達は避難に専念した方が良いと感じる。
「大丈夫。私達があの子達の場所を取り戻すから」
 自分は敵を屠ることを考えればいいと心に決め、志保は地を蹴った。
 電光石火の蹴撃は敵の大腿骨を貫く。よろめいた骨兵に狙いを定めたキカは敵をしっかりと見つめた。
「あなた達にも、あんなにかわいい生き物のことすきになってほしかった」
 穏やかに生きている猫達を思ったキカは渾身の光撃を放つ。その軌跡が消えぬうちに梅太が竜槌を掲げた。
「猫達には、手を出させない」
 解放された砲撃が敵の体力を削いでいく。相手も回復で立て直そうと動いたが、猫丸の拳撃が癒しを上回る衝撃を与えた。
 ナクラは鼓舞の爆発を巻き起こし、ニーカも攻撃に回っていく。
「お前達は愛なんて洒落たものも解らなそうだね」
 解り合えそうもないと肩を竦めたナクラに対し、竜牙兵達は敵意を向けた。仲間の連携は見事であり、リュシエンヌは心強さ感じる。
「皆と一緒だから、負けないの……!」
 リュシエンヌは攻撃を受け止め続ける梅太へと魔術切開による癒しを施した。
 ゼーはリィーンリィーンにも攻勢に入るよう目配せを送る。匣竜は低空を飛び、体当たりで以て敵を揺らがせた。其処にゼーによる重力光弾が打ち放たれ、骨兵が傾ぐ。
「そろそろじゃの」
「一気に行くわ。あたしを簡単に止められると思わない事ね」
 ゼーが敵が倒れそうだと告げると志保が即座に答えた。一瞬で敵の懐へと駆けた志保が放つのは四本貫手の一閃。志保が身を翻した刹那、敵がその場に崩れ落ちた。
 つぎだね、と新たな標的に目を向けたキカは身構え直す。
 だが、仲間を斃された骨兵達はわなわなと震えていた。
「小癪ナ番犬共ガ!」
「切り刻んでヤル!」
 二体の竜牙兵は同時に動き、鬼太郎を狙って剣と鎌を振りあげる。上等だと迎え打った鬼太郎は強く身構えて鋭い痛みに耐えた。
「虎、頼んだ」
 その声に応えた虎は清浄なる力で主を癒す。自らも活人を発動させた鬼太郎の剣気は戦いへの強い意志を宿していた。
 キカは二体目もすぐに倒すと誓い、惑いの魔力を顕現させてゆく。
「きぃ、おこってるんだから」
 放たれたのは幻葬廻路。蜃気楼のような朧気な幻覚が敵を惑わせていき、催眠状態へと導く。すると攻撃手がもう一方の骨兵を敵だと認識し、大鎌を振り下ろした。
「オマエ、何を!?」
 催眠が巡ったのだと察した梅太は好機を逃がすまいと感じる。そして梅太は標的を見つめて更なる幻覚を起こさせていった。
「夢を見たまま、散るといいよ」
 精神を蝕む悪夢を魅せた梅太の声は何処か冷ややかだ。
 運ばれた夢が敵を苦しめていると悟り、ゼーと志保は頷きを交わす。リュシエンヌも細腕を大きく掲げて自分も攻撃を行おうと決めた。
「ルルの全力よ。これで、どう?」
 其処から放つのは黒太陽より生まれいずる絶望の黒光。二体の敵を黒き一閃が貫き、その力を着実に削り取っていく。今だ、と鬼太郎から合図を受けたナクラはニーカと共に攻勢に移り、弱った骨兵に一気呵成に攻撃を叩き込んだ。
「一昨来やがれってんだ!」
「お猫様たちを含め、誰一人として傷つけさせませぬゆえ!」
 猫丸も其処に続いて武筆を天高く掲げる。
 所作は荒々しく、なれど画するは繊細に。これこそが自らが受け継ぎし天淵流だと示し、猫丸は『永』の文字に備わる八本の線を描いた。それらは刀傷へと変わり、そして――二体目の骨兵が崩れ落ちた。

●平和の為に
 残る敵は一体。それもかなり消耗している。
 キカは絶対に勝てると感じ、梅太も終わりに向けての心構えを持つ。リュシエンヌと志保の翼猫達が見えない所で頑張ってくれているからか猫達への被害は見えない。
 ゼーは静かに目を細め、骨兵への攻撃に移った。
「小さきものは愛でるものじゃ。それが分からぬお主には仕置きしかないのう」
 そう告げて超重の一撃を放ったゼーに続き、リィーンリィーンが竜の吐息を敵に浴びせかける。苦しげな声をあげて体勢を立て直そうとする竜牙兵に向け、ナクラは凍結させる一閃を放った。
「もうお呼びでないってことだ。諦めろ」
「グ、ウ……」
 終わりを見据えたナクラの言葉に対し忌々しげな呻き声が返って来る。
 そして、敵は渾身の力を揮ってキカを狙った。わあ、と声をあげたキカはその一撃が避けられぬものだと知る。しかし、次の瞬間。
「甘いな、そうはさせないぜ」
 鬼太郎が刃を鬼金で受け止め、仲間を守った。その攻撃の痛みは相当なものだったがすぐにリュシエンヌが医療魔術を施すことで事なきを得る。虎と共に反撃に移る鬼太郎にありがとうと告げ、キカは鋭い槍の如く伸ばした一閃を解き放つ。
「そろそろ、おわりだね」
「そうね、絶対に勝つんだから……!」
 キカの言葉にリュシエンヌが同意を示し、掌を強く握った。梅太は少女達の強い思いを肌で感じ取りながら自らも最後の一撃を与えに駆ける。
 梅太の放つ縛鎖が敵を縛る最中、猫丸は再び筆を取る。一瞬後、無作為に描かれた刃の如き線がよろめく竜牙兵を切り刻んでいった。
「さあさ、トドメをお願いするでにゃんすよ」
 猫丸は次が最期を与える一撃になると察して仲間に呼び掛ける。
 志保はそれが自分の役目だと悟り、敵との距離を詰めた。その一挙一動を鬼太郎が、ゼーが、そして仲間達が見守る。
「この公園に目を付けたことが間違いだったわね。覚悟して!」
 掴んだ敵を樹に叩きつけた志保は更なる一撃を与えに掛かった。
 そして、豪快なバックドロップは骨兵の力を完全に削り取り、戦いに終幕が訪れた。

●穏やかな秋
 竜牙兵は全て滅され、猫公園に平和が訪れる。
 少しばかり荒れてしまった周囲はキカやナクラ達によって癒され、穏やかな空気が戻って来た。梅太はほっとした様子で武器を下ろし、リュシエンヌも誰も欠けずに無事に戦いが終わったことを確かめる。
 志保は避難させた猫達を探し、おいで、と言うように手招きした。
「もう大丈夫ですよ。出てきても危険はありません」
 すると戦闘から離れていたソラマルとムスターシュが猫達を連れて戻って来た。人間相手ではこうはいかなかったかもしれないが、翼猫達が猫の保護を担っていたおかげで被害はなかったようだ。
「うりるさん! 見ていてくれた? ルルがんばったの!」
「お疲れ様、ルル」
 そして、リュシエンヌは迎えに来た旦那様の元へまっしぐらに向かう。ウリルが彼女を労う様は実に微笑ましかった。
「これにてばっちり解決でにゃんす」
「しっかり守ってあげられたね!」
 猫丸とアヤはすっかり元通りになった公園を見て笑みを交わす。ゼーはもう大丈夫じゃ、と猫達に優しい眼差しを向けた。
「さて、のんびりと猫達を愛でようかのぅ」
 陽射しは柔らかく秋の空気が心地好い。ベンチに座ったゼーにアヤが手を振り、ちょっと遊びに行ってくるね、と告げて駆け出した。
 キカも猫が集まる陽だまりに向かい、寝転ぶ黒猫に手を伸ばした。
 おっかなびっくりなキカだったが猫は動じず寧ろ撫でてくれと言った様子。
「ふわふわのほわほわ、かわいいね」
 そっと毛並みに触れたキカが頬を緩める隣ではニーカがぱたぱたと興奮気味に小さな羽を揺らしていた。
「ここのにゃんこ、人慣れしてるだけあって逃げないな」
 ナクラも別の白猫に近付いて屈み込む。伸ばした手に感じたのは優しい感触。
「ふわっふわもふもふだ……」
 これは寝れる、と猫の触り心地にナクラは感嘆の声を零した。ニーカも白猫にぷりぷりのほっぺを寄せてぐいぐいと身を寄せる。
 和やかな光景を見遣った梅太はメロゥを呼んで手を差し伸べた。繋いだ手のあたたかさを感じつつ二人は公園の遊歩道に向かっていく。
 そんな中、虎も陽射しが降り注ぐ草葉の上に寝転んで日向ぼっこを始めていた。
「実に平和なもんだな」
 鬼太郎は近くのベンチに座り、虎が寝息を立てる様子眺める。その傍らにはアルベルトが座っており、虎の近くに別の猫が寄って来る様に目を細めた。
「虎は相変わらず愛くるしいし、他にも超絶可愛いのが山盛りだな」
 まさに天国、と呟いた彼は虎が起きたらちょっかいを出そうと心に決める。鬼太郎も穏やかな光景に幾度か頷き、これが自分達が守った平穏だと実感した。

●猫公園の日常
 やさしい陽射しにほのかな秋風。
 猫丸は赤く色付いた紅葉の樹の傍に腰を下ろし、くぁ、と欠伸をした。
「穏やかでにゃんすなぁ」
 傍には猫丸と同じく暖を求めて集まった猫がいる。そのうち一匹が彼の膝の上に乗って丸まった。猫丸は自分に似た毛並みの猫の背をゆっくりと撫で、寛ぐ様子を見守る。こうしていると以前に過ごした時の一幕を思い出して気持ちが落ち着く。
「わちきものんびりーと過ごしましょうか」
「にゃんすくん達、兄弟みたい!」
 その姿に笑顔を向けたアヤに猫丸も笑みを返した。
 紅に黄、風に乗って空に舞う葉と蒼の天涯が織り成す彩は美しい。
 梅太はメロゥと一緒にスマートフォンを片手に猫を探していた。ふとメロゥは茂みの前で寛ぐ猫を見つけ、その場に屈み込む。
「ふわふわ……。で、でもこれはうわきじゃないから……」
 手に擦り寄る仕草が可愛くて思わずきゅんとときめいてしまったが、メロゥが思い出したのは家で待つ猫のこと。
「猫も嫉妬、するの? ふふ……じゃあ、おやつ買って帰らないと」
 メロゥの考えが分かってしまった梅太はちいさく笑む。すると梅太の傍に子猫が寄って来た。おやつという言葉に反応したのかもしれない。
「……も、もふ……かわ。ね、ね。メロも触ってごらん」
 そして、梅太は抱き上げた子猫をメロゥに預ける。
「かわいい。ちいちゃい……。ふふ、くすぐったい」
 おててふにふに、にくきゅうぷにぷに。しあわせ、と淡く笑むメロゥとじゃれつく子猫の姿に対し「はい、ぽーず」と声を掛けた梅太が写真を撮る。
 撮りすぎですよ、と照れるメロゥだったがすぐに動画も欲しいと告げた。欲張りな彼女もまた愛らしいと感じた梅太は双眸を緩める。
 そうして暫しの間、梅太とメロゥと子猫達の秋色の撮影会が続いてゆく。
 一方、公園の片隅の静かな木陰。
 リュシエンヌは初めて成し遂げた戦いについて大いに語り、蔭ながら支えてくれたウリルのお蔭だと嬉しそうに話した。
 そんな中、ウリルの横に黒猫が近付いてきていることに気付く。
「ああ、着いてきたのか……おいで」
 彼に擦り寄る黒猫はおやつを欲しがっている様子。にゃあと可愛らしく返事をしてくれる猫に頬を緩めたウリル。その姿を見たリュシエンヌは少しの羨ましさを感じた。
「護れて良かったね」
「ルルもとっても安心したわ」
 ここの公園の猫達は皆に愛されていることがよく分かる。そう話したウリルが抱く猫とは別の黒猫がリュシエンヌにも近寄って来た。
 彼と同じように猫を膝に乗せたリュシエンヌは少しだけ本音を零す。
「……本当はルルがお膝に乗りたい」
「猫達が満足したら、次はルルの番かな」
 その声を聞き逃さなかったウリルは双眸を緩めた。あたたかな眼差しと穏やかな陽はとても心地好く、二人は淡い微笑みを交わしあった。
 暫しの時が経ち、ベンチの上でゼーは微睡んでいた。
 大樹のようにじっと猫の仔達を見守っていたゼーは、膝の上で丸まった猫と一緒に眠るのも良いかと感じているようだ。
 別の猫が構って欲しそうに鳴いたがアヤは、しー、と口元に指を当てて静かにするよう伝えた。猫丸も幹に背を預け、膝上の猫と穏やかな時間を過ごしている。
 鬼太郎はそんな仲間達の光景を見守っていた。
 だが、志保はそれどころではない。
「のんびり眺めていないで、助けてくれませんか!?」
 何故か猫に好かれる性質を持つ志保は他の仲間とは比べ物にならないほどの猫に囲まれていた。可愛いけど、とたじろぐ志保にソラマルの助けは来ない。
「いいじゃないか、天国だぞ」
 鬼太郎が可笑しそうに首を振り、アルベルトは羨望の目を向けた。
 それもまた平和な光景でキカはくすくすと笑った。その腕の中では喉をごろごろならしながら瞬き、お喋りするように、にゃーにゃーと鳴く猫がいる。
「すごいよ、すごい。にゃあにゃあたくさん……!」
 ネコの言葉がわかったらいいのに、と話すキカにナクラは或ることを伝えた。
「猫がゆっくり瞬きするのって愛してる、好きだってサインだって、知ってたか?」
「そうなんだ……!」
 キカの瞳はきらきらと輝き、ぱちぱちと瞬きのお返しをする。
 きっとこれは種族も超える愛。猫は偉大だぜ、としみじみと口にしたナクラの言葉はとても心地良さそうだった。
 そうして――猫公園で過ごす時間はゆったりと、穏やかに過ぎてゆく。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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