雨降りヒアデス

作者:犬塚ひなこ

●雨と死神
 夜の静寂に冷たい雨が降りしきる。
 廃工場の片隅、誰も近寄らないような寂れた場所にそれらは立っていた。雨粒に打たれ続ける植物を見下ろすのは黒衣の死神。そして、さかさまの風鈴のような花を咲かせた釣鐘草。しかしそれは葉や枝が複雑に絡み合って四肢のような形になっているうえ、花も人の頭ほどにまで巨大化している。
 異様な風貌を気に留めることなく、死神は攻性植物であるそれを見下ろして掌を翳す。
 何故に季節外れの花が攻性植物と化してこのような場所に存在していたのかは死神の知る由ではなく、また興味もなかった。彼女は球根のような『死神の因子』を釣鐘草に植え付けると静かな声で命じる。
「さあ、お行きなさい。グラビティ・チェインを蓄えてケルベロスに殺されるのです」
 死神の手先となった攻性植物はその言葉に応じるように蠢き、絡み合った葉と花を動かして歩き出した。そして――廃工場を後にしたそれは命じられた通りに人を襲って力を蓄え、降り続く雨とは別の血の雨を降らせることになる。

●真夜中の邂逅
 時刻は深夜、その日は冷たい雨が降っている日。
 街外れの廃工場から死神の因子を埋め込まれた攻性植物が動き出すという予知が視えたと話し、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達に出動を願った。
「死神の因子を埋め込まれた攻性植物は奇妙な釣鐘草の姿をしていますです。このまま放っておくと近くの団地を襲って、大量のグラビティ・チェインを得てしまいます。
 もしこのデウスエクスが力を獲得してから死ねば、死神の強力な手駒になってしまう。そのためにも、敵が人間を襲う前に撃破しなければならない。
 どうかお願いします、と告げたリルリカは詳しい敵の情報を語っていく。
「幸いにも近隣の方々は寝静まっているので外を出歩く人はいません。雨が降っていて少し寒いのですが、それ以外は戦いの障害になるものはないのでご安心ください!」
 敵は裏手から団地に続く道に向かおうとしているので、此方は工場前で迎撃すればいい。
 しかし、戦い方には注意が必要だ。
 この敵は倒すと死体から彼岸花のような花が咲き、どこかへ消えてしまうという。
 だが、デウスエクスの残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させた場合は体内の死神の因子が一緒に破壊されるため、死体は死神に回収されない。気を付けて戦って欲しいと伝え、リルリカは説明を終える。
「やっぱり死神の動きは不気味です……。でもでも、まずは暴走するデウスエクスの被害を食い止めないといけないですね!」
 よろしくお願いしますと頭を下げたリルリカは仲間達を真っ直ぐに見つめる。
 その瞳にはケルベロス達への信頼と、無事を祈る気持ちが込められていた。


参加者
アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)
ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)
晦冥・弌(草枕・e45400)
終夜・帷(忍天狗・e46162)

■リプレイ

●花の命
 夜に降る秋雨に釣鐘草。
 遠目に廃工場が見える路地にて、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)は雨の中で蠢く影を確かめる。
「これが攻性植物やなかったら、感傷的でええ雰囲気やったのにね」
 なあテレ坊、と隣のテレビウムに語り掛けた照彦は軽く肩を竦めた。
 終夜・帷(忍天狗・e46162)は仲間の声に同意するような視線を返し、雨か、と呟く。
 帷自身は特に雨に特別な感情は抱いていないが、こんな日は雨嫌いな友人のことを思い出す。ケルベロス達を濡らす雨は激しく、止む気配はなかった。
 マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)は地面を踏み締め、傍らのボクスドラゴン、ラーシュに声を掛ける。
「廃工場ってちょっと、こわいよね。雨も降ってるし……」
 ラーシュがその通りだというようにマイヤを見上げた。その近くに居た匣竜達、チェニャとヴィズも其々の主であるレイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)とルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)を見遣る。
「もうビショビショ。雨ん中ってのも、タイヘンよね」
「帰ったらそくおふろかなー」
 ガンバロ、と掌を握るレイラに、そのためにも早く終わらせないといけないとそっと意気込むルナ。その視線の先には巨躯をゆらゆらと揺らして近付く敵の姿がある。
 頬や服を濡らす雨に身体を震わせ、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)は異形化した釣鐘草を見据える。
「お前も元はただの植物だったんだろうな」
 同情めいた念を抱きながらもルトは相手が敵であることを確りと認識していた。穏やかに暮らす人々を守る、という確固たる意志がその眼差しから感じられる。
 アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)は身構え、死神の因子を埋め込まれた植物との間合いを測った。
「植えられた先も攻性植物というのも何と皮肉なものですねぇ」
「一度死んだ命がそのまま足掻いて咲こうだなんて、綺麗じゃない」
 晦冥・弌(草枕・e45400)も首を横に振り、敵も此方を認識したらしいと感じ取る。あと一歩、攻性植物が近付けば戦いが始まるだろう。
 雨の中、アルルカンが地面を蹴って駆けたことを合図にマイヤとラーシュが構える。帷と照彦が其々の布陣に付く中、弌は宇宙を思わせる青の眸に敵を映す。
 死神の企みは此処で終わり。
 何故なら――花はいつか、散るものなのだから。

●雨音と異形の花
 降りしきる雨、その雫が散る。
「彼岸の花も、血の雨も、咲かせぬように」
 善処させて頂きましょうか、と言葉にしたアルルカンが放つのは金銀花葬。姿のなき歌声に合わせて舞う無音の剣舞が敵を斬り裂き、幻想の花弁が雨の中に舞う。
 アルルカンの攻撃の後、敵が毒花を広げた。しかし狙われたルトを庇った照彦が魔鎖で描いた陣を展開する。レイラもすかさず竜炎を巻き起こして敵を穿っていく。
「チェニャ、ミンナのエンゴ、ヨロシク。ルナルナとヴィズもね」
 頼りにしている、という言葉を付け加えずとも名を呼ぶだけで思いは伝わる。レイラの声を聞いたルナは頷き、ヴィズに仲間を守るよう願った。
「カイシューはさせないよーに、しっかり倒さないとね」
 ルナは鋼の鬼から光の粒子を散らし、雨粒を散らして暴れる攻性植物を見遣る。
 光と雨が交差する様は少し綺麗だ。しかし、肌を濡らす冷たい雫の感覚は決して心地良いものではない。
 マイヤは寒さで震えそうになる感覚を抑え込み、ラーシュに呼び掛ける。
「ラーシュ、頼むね!」
 地面を蹴ったマイヤは激しい水飛沫をあげながら流星を思わせる蹴りで敵を貫く。そのすぐ後にラーシュが竜の吐息を吐き、マイヤが与えた不利益を増幅させていった。
 帷は其処に生まれた隙を感じ取り、素早く駆ける。
 背後から回り込んだ帷は炎を纏った一閃を放ち、攻性植物の奇妙にねじ曲がった茎を穿った。その一撃に苦しげに蠢いた敵は更なる攻撃を放とうと動く。
 帷は、気を付けろ、という意志を込めた眼差しを向けた。それを受けた弌は静かに頷きを返し、力を紡ぐ。
「本当なら綺麗な花だろうに随分醜くなったんですね」
 もう元には戻れぬ異形の植物にそう告げた弌は曇天の雨空に腕を伸ばす。
「真夜中だろうと雨だろうと――さぁさ、陽光はぼくの手に!」
 すると一筋の陽光が降りそそぎ、マイヤとルナを照らす。
 ルトは弌の言葉を聞き、僅かに瞳を伏せた。
「やっぱりこの釣鐘草も、元々はこの場所で咲いていた一輪の花だったのかな」
 誰も立ち寄らないようなこんな場所で、誰にも気づかれることなくたった一輪で咲いていたもの。それがそのうえ、神にまで利用されたことに対して、浮かぶのは同情。
 だが、手を緩めることはできない。
 ルトは構えた竜槌で以て鋭く重い一閃を放ち、其処に照彦とテレ坊の連撃が加わる。しかし攻性植物も反撃に移った。
 標的とされたアルルカンの前に立ち塞がった照彦は仲間への一撃を肩代わりする。
「おっと、」
 葉に締め付けられる痛みが照彦を襲ったが、彼は耐えてみせる。地面を踏み締めた際に鳴った脚部の駆動音が雨音と重なり、鈍い残響となった。
 ルナは仲間の受けた傷が深いと察し、一歩踏み出す。
 その爪先から広がる煌めきは踊るようなステップとなり、光の陣が足許に拡がった。昏い雨夜を照らす光が癒しとなっていく中、レイラは片目を閉じてぼやく。
「雨で髪がくっついてキモチ悪いんだけど」
「ガマンしなきゃ。嫌だけど、これもオシゴトだもんね」
 強敵を前にしていても双子達の態度はいつも通り。その理由は、互いの信頼と仲間への頼もしさを感じているからに違いない。
 レイラが鎖の一閃を放ち、彼女に続いたチェニャとヴィズが攻性植物に体当たりを仕掛けた。アルルカンは満月に似た光球を生み出して仲間に力を与える。そしてマイヤは地獄の炎を武器に纏わせて一気に斬り込んでいく。
「絶対に死神に因子を回収なんかさせたりしない。ラーシュもそう思うでしょ?」
 相棒に呼び掛けると短い鳴き声が返って来た。
 マイヤはラーシュや皆が居てくれて良かったと改めて思う。雨は嫌いではないが、きっとひとりだったら心細かった。今までも悲しい事件をたくさん見てきたからだ。でも、今は寂しくも心細くもないと自分を律したマイヤは敵を確りと見つめる。
 ルトも決して敵から視線を逸らさず、雨で濡れた翼を広げた。喰らった魂を己に憑依させたルトの身に禍々しい呪紋が浮かぶ。
「お前が人々の命を脅かすというのなら、オレは容赦するつもりなんてない」
 凛と宣言したルトは思う。見逃したこの花に襲われて助けを求める命を守れなかったと後悔したくはない、と。
 帷は仲間が抱く想いを肌で感じ取りつつ、自らは攻勢に入り続ける。
 雨粒は容赦なく視界を遮ったが帷は迷いも衒いもなく刃の切先を敵に差し向けた。仕留める為の一閃となれ、と願った一撃は攻性植物の急所を刺し貫く。
 枝が引き裂かれ、折れた様を見遣ったアルルカンも更なる一撃を放つ。振るう刃はケモノの牙。振るわれる葉を避け、時には受け止め、アルルカン達は戦い続ける。
 吐く息は白く、照彦の可動部からも白煙が上っていた。
 テレ坊、と相棒を呼んだ照彦は濡れた地面で滑りそうになりながらも思いきりアスファルトを蹴り、高く跳躍した。
 そして、誓いの心を溶岩に変えた照彦の力が炎を生み出す。
 雨の中でも消えぬ焔を見上げたレイラとルナは其処で或ることを確信した。ただ視線を交わしただけ。言葉にせずとも分かるのは、自分達は負けない、ということ。
「それじゃイッキに」
「どんどん削っていこっか」
 ルナが紡いだ言葉にレイラが続き、二人は其々の力を発動させていく。
 雨音のリズムに合わせて二人が踊るようにして戦場に踏み出せば、点は線と成り、線は縁を結ぶ。立止る足許に拡がる光の陣の片方は癒しとなり、そしてもう片方は敵を焼き尽くす炎となった。
 敵も自分が危ういと感じたのか、癒しの花粉を散らす。だが、其処へヴィズとチェニャによる竜の吐息が浴びせかけられる。
 更には駆動剣を振りあげた弌がひといきに斬りかかった。
「肥大化した体は重たいでしょう? 切り落としてあげるよ」
 弌が振り下ろした刃は敵が癒しで得た加護ごと枝を抉っていく。
 ルトも攻撃を重ね、マイヤとラーシュも息の合った連携で敵を弱らせていった。帷は仲間達の連撃によって敵が後退した様を見つめ、素早く横手に回り込んだ。
 ――戦いの終焉は間もなく訪れる。
 帷の眼差しは決して敵から逸らされることなく、真っ直ぐに向けられていた。

●決着の時
 雨脚が心なしか強くなる最中、攻防は巡り続ける。
 レイラは敵の狙いがルナに向いたと悟り、咄嗟に前に踏み出した。水飛沫が周囲に散る中で毒花の香りが身体を包み込んだがレイラは何とか耐える。
 すぐにルナが光陣から癒しを放ち、その痛みを和らげていった。
 アルルカンは敵へとケモノの牙を差し向け、花を葬る為の一撃を再び放っていく。剣舞は正確に相手を捉えて痛みを与えた。
「喰うか喰われるかで言うのなら、咲き時を間違えた花は此処で枯れていくと良い」
 白から黄に変わる花弁の幻想が敵に纏わりつき、力を奪い取る。
 アルルカンの紫眼が敵を映し続けているようにルトの視線も敵を追っていた。弌は援護に回り、マイヤと帷も敵の体力を削っていく。
 照彦もまた、降り続ける雨を受けながら立ち回っていた。
 寒いが傷は熱く、機械の身体は熱を持ったまま。何やよう分かれへんわ、と苦笑気味に口にした照彦に、テレ坊が大丈夫かと問うように振り返った。
 皆を庇い続けた彼の身体はボロボロだが、支えてくれる仲間もいる。
「テルヒコ、格好良い。このままいいとこ見せてよ?」
「だれも倒れずにかえろーね」
 レイラが仲間に賞賛を向け、ルナは匣竜達に合図を送った。そしてルナとヴィズ、チェニャが照彦の傷を癒す。
 弌は弱りはじめた攻性植物に静かに語りかける。
「いつかは新しい花も咲くでしょう。でも、この惑星を愛せなかった君は――」
 ここで終わりだよ、と囁くように紡いだ弌の言葉は冷ややかでありながらも、何処かこの状況を愉しんでいるかのように思えた。
 そして、指先から生まれた陽光は影払いの力となって巡っていく。
「それじゃ素早く、枯らしてしまおう」
 その一撃を、死にゆく花の餞に。
 弌の密かな願いが込められた力が広がる中、ラーシュが敵に体当たりを行う。その姿は勇ましく頼もしかった。
「皆が一緒だから、わたしも頑張れる! 想いはね、力になるんだよ。ラーシュ!」
 煌めきを纏い、空高く飛びあがったマイヤは滴る雫を拭う。
 前を見据えれば頷く相棒がいた。星の群れは空を満たして眩く光り、流れ星の一閃となって戦場に溢れる。
 だが、攻性植物も抵抗を続けていた。レイラは攻撃の要となるルトが狙われていると感じ取り、両手を広げて前に立ち塞がる。
「ルトも、しっかり庇ったげるからガンバ」
「リラが守ったんだからダイジョーブだよね?」
 レイラの声、そしてルナからの言葉に頷いたルトは、勿論だと感謝を伝える。
 蠢く攻性植物の力も後僅か。
 帷は達人めいた動きで鋭い一撃を打ち込み、敵の力をギリギリまで削った。
 その絶妙な一閃はマイヤが感心するほど。帷とアルルカンは其処で攻撃を止め、弌もルトに視線を送る。照彦はテレ坊に応援動画を流させて仲間を癒し、そろそろちゃうか、と敵を見遣った。予想通り、後一撃で攻性植物は倒れるだろう。
「ルトくん、ぶちかませ!」
「ああ! 託された力、無駄にはしないぜ!」
 照彦の呼び掛けに答えたルトは、自分に出せる最大の一撃を叩き込むと決めた。
 花を散らすことにやりきれぬ思いはある。だが、屠る意思は揺るがない。せめて不要な苦しみは与えぬよう、ルトは手にした刃を鍵代わりにして異世界の扉を開いた。
「……これで、終わりだ」
 開かれた扉から溢れ出すのは魂焦がす地獄の焦熱。
 燃え続ける決意の炎はやがて一本の槍となり――雨をも払う熱は一瞬のうちに眼前の敵を穿ち、全てを焼き尽くした。

●共に行く帰路
 雨は止まず、斃れた攻性植物に容赦なく雨粒が降りそそぐ。
 埋め込まれた因子が先に枯れ、それに続いて釣鐘草が跡形もなく消えていった。彼岸花が咲かずに済んだということは因子ごと敵を破壊できたということだ。
 帷は植物が消滅する様を見下ろし、額に張り付いた髪を軽くかきあげる。
 気が付けば随分とずぶ濡れになってしまった。早く帰らなければと、雨の嫌いな友達を思った帷はぽつりと呟く。
 アルルカンは廃工場と団地を交互に見遣った後、これで自分達の役目は終わりだと感じた。人々は危機に気付かぬまま、これからも普段と変わらぬ時間が流れていく。
 これで良いのだと頷いたアルルカンは昏い空を見上げた。
「雨、已みそうにないですねぇ」
「朝まで降り続けるんやろな。植物にとっては恵みの雨ってところか?」
 照彦はもう濡れるのにも慣れたと軽く笑うと、テレ坊は近くの水溜まりの上で跳ねてばしゃばしゃと飛沫を飛ばした。
「つ……冷たい! 寒いよラーシュ!」
 思わず相棒を抱き締めるマイヤ。しかし抱き締めた温もりにほっとしたマイヤは楽しそうなテレ坊を見つめた。
「チェニャとヴィズも水溜まり遊んでくる?」
「もうどれだけ濡れても変わんないしねー」
 レイラが匣竜達に問い掛け、ルナも遊んでいいよと告げる。
 すると顔を見合わせた匣竜達はテレビウムの元に向かい、二匹と一体が水溜まりの上で戯れはじめた。弌はその様子を見て瞳を幾度か瞬かせる。不思議な光景を見ている気がして、弌は暫し匣竜達を眺めていた。
 ルトも弌に並んで仲間達を見守った後、静かに瞼を閉じる。
 かつて廃工場の片隅で咲き誇っていたであろう季節外れの美しい姿を思う。自身が雨に濡れることも厭わず、ルトが捧げたのは奪った命に対する黙祷。
 そして、アルルカンがそろそろ戻りましょうかと皆を誘い、帷も踵を返す。ラーシュにおいでと手を伸ばしたマイヤはふと思い立ち、皆に声を掛けた。
「何か温かいものでも飲んで帰ろうよ」
「そうだな、それが良い」
 マイヤの提案にルトが頷き、レイラとルナも良い案だと感じて微笑みあう。
「さんせーい。ココアにしよっかな、それとも紅茶がいいかな」
「うん、温まってから帰ろっか」
 疲れたあ、と大きく伸びをする双子の後には匣竜達がいる。
 オッサン達もいこか、とテレ坊を連れて歩き出す照彦は弌を手招いた。雨の中、皆で一緒に帰路つく様は寒くとも何だかあたたかい。
 マイヤは仲間達と共に勝ち取った勝利を思って柔らかく笑む。
 未だ冷たい雨が降っているけれど、いつかは空に晴れ間が見えるはず。番犬としての使命は終わらない。だからこそ次にまた、頑張るために。
 今は皆で、あたたかい場所に帰ろう。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。