ぬくもりの祭典

作者:小鳥遊彩羽

 とある街の片隅にある、住む者もいなくなって久しい空き家。
 そこには、壊れたストーブが捨て置かれていた。
 誰の目に留まることもなく忘れ去られていたままだったそのストーブの存在に、ある時気づいたものがいた。
 それは、握りこぶし程の大きさのコギトエルゴスムに機械の細い足のようなものがついた、小型のダモクレス。ダモクレスは何かを探すように辺りを彷徨ってから、やがてストーブの中に入り込んだ。
 瞬く間にストーブは機械的なヒールの光に覆われ、人型のダモクレスへと変貌を遂げる。
 仮初めの新たな生命を吹き込まれたストーブは顔の辺りに真っ赤な炎を燃え上がらせながら家を飛び出し、どこへともなく歩き出したのだった。

●ぬくもりの祭典
「当日はちょうど、近くの会場で『あったかぬくぬくマーケット』っていうイベントが開催されるらしいんだけど……」
 それを狙ったかのようにストーブのダモクレスが出現することが予知されたと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はオルトロスのお師匠と共に真剣な面持ちで聞いているクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)を始めとするケルベロス達へ説明を始める。
 場所はとある街の込み入った路地の奥にある空き家。今から向かえば、ちょうどダモクレスが家を出た先の庭で遭遇できるだろう。庭自体は戦いに支障のない広さを備えており、周囲に一般人の姿もない。ストーブ部分の顔から炎を吐き出したり、噴煙で視界を鈍らせるなどの攻撃を行ってくるものの、皆が力を合わせれば撃破自体は難しくないだろうと続けて、トキサは皆を見やる。
「ねえ、トキサ。その……『あったかぬくぬくマーケット』っていうのは?」
 クローネが控えめに首を傾げるのに、フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)も興味深そうな眼差しを向けていて。トキサは楽しげに目を細めてから、手にしたタブレット端末に指を滑らせた。
「その名の通り、……っていうのもあれかな、えっとね、手袋とかマフラーとか、ニット帽とかブランケットとか、そういった、冬に使えるようなあったかい系の衣類なんかをハンドメイドで作ってる作家さん達が集まるイベントらしいんだ。でも、あるのは衣類だけじゃなくて……」
 他にも、冬場に使えそうなアクセサリーや、クリスマスからお正月向けの小物や雑貨などを手掛ける作家の出店などもあり、休憩スペースでは温かい飲み物で一息つくことが出来る。見るだけでも楽しそうだよと笑いながら、トキサは続けた。
「だから、無事に戦いが終わったら、覗いてくるのも悪くないと思うよ」
「……うん、行ってみたい。――みんな、頑張ろう、ね」
 仲間達を信頼を籠めた眼差しで見やるクローネの腕の中で、お師匠もしっぽを振りながらわん、と大きく吠えたのだった。


参加者
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)
霧咲・シキ(レプリカントのゴッドペインター・e61704)

■リプレイ

 息を吸い込めば、冷たくも澄んだ空気が肺を満たす。
 明るい日差しが照らし始めた朝の街を、ケルベロス達は急ぎ現場へと駆けつけた。
 そこに待ち受けていたのは、人の営みが感じられなくなって久しいその場所に似つかわしくない、燃え盛る炎。その熱を纏った、ストーブのダモクレスだ。
「ヴゥ……ストー、ヴー……!」
 唸るような声と共に顔の部分の熱量が増し、凄まじい勢いで炎が放たれた。
「――ルービィ、仲間を守れ!」
 刹那、響いた声と同時にルチル・アルコル(天の瞳・e33675)が相棒たるミミックのルービィと共に身を躍らせる。
「壊れたものを再利用するその精神は見習いたいのだがな」
 降り注ぐ火の粉を払いながら、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)は高速演算から見出した敵の構造的な弱点に、痛烈な一撃を見舞った。
「勝手に歩き回るストーブなど暖まらないし、危なくて仕方がないな! 悪いがここで役目を終えて貰うぞ!」
「うん、火事になったりでもして、マーケットが台無しになるのは困るから……ストーブはきちんと消火しないと、ね」
 レッドレークの言葉に微笑みながらも、すぐに真剣な顔でダモクレスへと向き直り、クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)はケルベロスチェインで癒しと守護の魔法陣を描き出す。その傍らから駆け出したオルトロスのお師匠が、口にくわえた十字の剣で勇ましく斬り掛かった。
「フィエルテも、お願い」
「はい、お任せくださいっ」
 クローネにしっかりと頷き返し、フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)も前衛へと、守りの雷壁を展開させる。
「冬のぬくぬく団らんが懐かしくなったんすかねー。まあ、ダモクレスはそういうのお構いなしかもっすけど」
 のんびりとした声で呟きながらも、霧咲・シキ(レプリカントのゴッドペインター・e61704)は一息にダモクレスとの距離を詰め、
「ぬくぬくには熱すぎっすね、止まってもらうっすよー」
 そのまま高く跳躍し、降る星の煌めきと重力を乗せた蹴りでダモクレスの機動を削いだ。
「なんだか熱そうなダモクレスですね……煙を吐いてて、何だか怖いです」
 クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)は率直な感想と共に魔導書を掲げて。
「“不変”のリンドヴァル、参ります……」
 自らの名を紡いだクララは、開いた書から『混沌なる緑色の粘菌』を喚び出した。
「……ヴッ、ヴアァ……!」
 無貌の従属に侵食されたダモクレスが、見えぬトラウマから逃れようと腕を振る。
「寒い時期は暖かいものが恋しくなりますが、燃やしてしまうのはいけませんね」
 きっと『彼』――ストーブも本望ではないだろう。
 ゆえに役目を終えたストーブは然るべき場所へと想いを込めて、蓮水・志苑(六出花・e14436)は卓越した刀捌きからなる一撃でダモクレスを翻弄した。
「ストーブの前で丸くなってる猫を見るのは好きだけど、――君は、ルネッタには少し熱すぎるね」
 見るからに熱そうなそれにラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が零した呟きに、同意するように傍らの翼猫がにゃあと鳴いた。その答えに微笑んだのは一瞬、ラウルはすっと目を細め、自身の内に眠る魔力を練り上げる。
「――存分に哭け」
 紡がれた言葉をトリガーに、放たれた無数の銃弾が毀れ落ちる星の如く踊るような軌跡を描いてダモクレスを穿つと、ルネッタももふもふの冬毛を膨らませながら広げた翼で熱を祓った。
「この家を、住んでいた誰かを、ずっと暖めて来た子、なんだろうね」
 リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)はぽつりと言葉を落とし、それから、手元のスイッチに指を滑らせた。
 同時に巻き起こった鮮やかな風が、追い風となって後衛陣の背を彩り力を添える。
 大切なぬくもりの記憶を、悲しいものに変えてしまわないように。
 リヒトは真っ直ぐにダモクレスを見つめ、告げた。
「……ここから先へは、いかせないよ」
「そうだな、ここで。わたしたちの手で終わらせてやろう」
 リヒトの声に応えたルチルが軽やかに地を蹴って舞い上がり、空の高みから一直線に、美しい虹の光が流れる星の如き速さで降り落ちる。
 同時に飛び掛かったルービィが、星屑を集めたようなエクトプラズムの斧をダモクレスへと叩きつけた。

 冷えた空気も、戦いの熱気に――あるいはダモクレス自身が放つ熱に、呑み込まれてしまったかのよう。
「ストオォォヴッ!」
 咆哮と共に繰り出された灼熱の拳を真正面から受け止めて、ルチルは代わりに人工的な幻視の魔眼を発動させる。
「泥沼の安寧、融け落ちて、沈む快楽に耽るがいい」
 それは機械の少女たるルチルだけが持つ力。
 ストーブの頭部を覆う炎の先、見えない『瞳』を覗き込めば、焼き付けられた『映像』に思考を蕩かされたダモクレスの動きが鈍る。
 ルチルに続いて動いたルービィが、これは食べられるのだろうかとばかりにがぶりと喰らいついたその頭上から、
「――余所見してると、危ないよ」
 祖父から教わった魔法をなぞるリヒトの声に応えて現れた、巨大な光のハンマーが叩き込まれた。
「だめ……帽子が焦げちゃう……」
 戦場に舞う火の粉や火炎放射から錆色の帽子を守りつつ、ローブの裾を翻しながらダモクレスの懐へ飛び込んだクララは真っ直ぐに魔導書を構え頁を開く。
「至近距離でも……戦えますっ……!!」
 すると頁から突如としてミスリル製の牙が生え、ガシガシと音を立てながら大きく口を開けてダモクレスへと噛みついた。
「これで少しでもひんやり……なんてことはないと思うっすけど」
 フィエルテから生命を賦活する雷の力を得たシキが示した先、電子のペンから迸った塗料が、ストーブの燃えるような赤を一足早い冬の色で塗り潰す。
 ケルベロス達の猛攻に、ストーブのダモクレスの機械の体が少しずつ綻び出していた。
 戦いを終わらせるべく、番犬達は一気に畳み掛けてゆく。
「その温もりは誰かを暖め癒すものだ。――誰かを傷付けるものじゃないぜ」
 ラウルは誓いの花が刻まれた象牙の銃把を握り、二度、三度と引き金を引く。
 卓越した技量で放たれた銃弾は、寸分の狂いもなくダモクレスを貫いた。
「寒いこの季節、沢山の人達に温もりをありがとうございました。どうか、静かにお眠りください」
 氷の霊力を纏う青白い刃を手に、志苑はダモクレスとの距離を詰める。
「散り行く命の花、刹那の終焉へお連れします。――逝く先は安らかであれ」
 静謐なる終焉を導く白き世界に、咲き誇る氷雪の花。
 斬撃の軌跡に舞う氷の桜が、ダモクレスの命の色に染まる。
「……ストー……ヴ、ァー……」
 今にも消えてしまいそうなストーブの火へ、クローネは甘やかなショコラ色のグローブを向けた。
「ごめんね、きみのぬくもりは、誰かを傷つけてしまうものだから」
 強かに打ち込まれた拳の衝撃に、苺のフリルリボンがふわりと揺れる。
 同時に放射状に広がった網状の霊力が、しっかりとダモクレスの体を捉えて。
「――レッド!」
「うむ!」
 クローネの呼ぶ声に力強く頷き、レッドレークは気性の荒い真朱葛を埋葬形態へと変化させた。
「その身を贄と捧げろ! 地徳は我が方にあるぞ!」
 地面を這って一直線に走った赤き蔓がダモクレスの足元に魔法陣を描き上げ、その身を熊手状に広げた。
「……ヴ、アァッ……!」
 赤く染まった蔦草の熊手に引き裂かれ、ダモクレスの命の炎が掻き消える。
 残骸と成り果てたダモクレスは砂のように崩れ去り、戦いの終わりを告げた。

 クララは長手袋を外し、戦場にふわりと落とす。
 戦いの爪痕には皆でヒールの幻想的な光を灯し、そして、一行は間もなく開始時刻を迎える『あったかぬくぬくマーケット』の会場へと向かうのだった。

 暖かそうな衣類が並んでいるのを見ると、それだけで心がほっこりと。
 ぬくもりに包まれたような心地になりながら、クララは自らのトレードカラーである錆色に近い色の帽子を探して、心の赴くまま会場を巡る。
 やがて様々な帽子が並ぶ店で、クララはひとつの『色』に出逢った。
「あ、あの……」
 勇気を出して声を掛けると、帽子の作者らしい女性が穏やかに微笑んだ。
 たくさんの衣類や小物に目移りしながらも、リヒトと双子の兄ルースは手袋を求め歩く。
「僕ら成長期だからねえ。リィも勿論成長しているとも!」
 兄と並んだ視線は変わらないから、実感はしにくいけれど。
 去年まで使っていた手袋が小さくなったのは、確かな成長の証なのだろう。
 いつもなら白を選ぶルースだが、リヒトの黒も悪くないと思案顔。
「じゃあ、いっそ半分こ?」
「半分こ? それはとても合理的だね!」
 何気なく提案するも、当たり前のようにお揃いを選んだことに気づいたリヒトは、途端に気恥ずかしくなってしまう。
 何でもないよと誤魔化した弟の口元が、微かに綻んでいるのを見逃す兄ではなく。
「本当に僕のリィは世界で一番可愛いね!」
「可愛いは余計だよルゥ兄! ……あ、」
 思わず声を上げてから我に返ったリヒトは、ラッピングされた袋を両手で受け取り、ぺこりとお辞儀をした。
「ありがとうございます。大事にします」
 手作りが特別暖かく感じるのは、きっと作ってくれた人の気持ちのおかげ。
 だから貰った心のぬくもりを少しでも返せたらと懸命に礼を紡いだリヒトに、作家の女性もこちらこそ有難うと笑顔で応えてくれた。
 戦いで冷えた体も心もあたたまるような、目にも楽しい手作りの品々。
 志苑と宿利は心躍らせながら、お目当てのストールや手袋を探す。
「成親さん、とても可愛いですよ」
 白いファーがついた真っ赤な帽子を、志苑はオルトロスの成親に合わせて頷き一つ。
 成親が嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振る様に、宿利も思わず笑み零し。
「もうすぐ、クリスマスですね」
「クリスマス、かぁ……」
 ふと目に留まった雑貨を手に取り、宿利は志苑と過ごした去年のクリスマスを思い出す。
「……今年も、一緒に過ごしたいな。……って、あら、志苑ちゃん、何か買ったの?」
 傍らを見やれば、同じく何かを見つけたらしい志苑が会計を済ませ、可愛くラッピングされた包みを受け取っていた。
「これは、来月のお楽しみです。――ですので、今年もクリスマスを一緒に」
 微笑む志苑に宿利も目を細め、同じく会計とラッピングを頼む。
「それじゃ、私もこれは秘密にしようかしら」
 世界でたった一つの贈り物に、交わした約束とたくさんの想いを籠めて。
「デートだ! デートだぞシンヤ!」
「うん、デートだよ、ルチル」
 戦いの時と違って年相応、それよりも幾許か幼くさえ感じられるのは、だいすきなシンヤが側にいる嬉しさから。
 ルチルははしゃいだ様子でゆるく微笑む恋人の手を引き歩く。
「冬のお布団デートのために、二人で入れる大きくてあったかい毛布が欲しいなぁ」
「……冬の、お布団デート? うむ、それはとても、必要だ。一緒に入れる大きいやつを探すぞ!」
 毛布と同じくらい頼り甲斐のある、懐の深い男だということを見せるため、かつてないほど鋭い目で吟味していたシンヤがついに見つけたのは、
「このクマさん柄のブランケット……ただならぬ包容力をかんじるっ」
「……なるほど、シンヤがそう言うのならいいやつに違いないな」
 ブランケットを見つめるシンヤの真剣できりりとした眼差しにルチルも深々と頷き、同じ柄のロングマフラーと一緒にお買い上げ。
 ――親戚の姉貴分から依頼報酬額を前借りしてきたことは、恋人には内緒にして。
 帰りは二人で一つのマフラーを巻いたまま。
 一緒にぬくぬく、しあわせな時間を分かち合う。
「シキさんは、本当に猫がお好きなんですね」
「うん、猫は好きっすよー。こー、全体的にゆるっとしてるし、触ってもふもふ出来るじゃないすか」
 休憩スペースにて、あたたかいココアで一息。
 フィエルテの微笑ましげな視線の先には、買ったばかりの猫耳つきニット帽を早速被り、とろけたような笑みを浮かべるシキの姿が。
「いやー、フィエルテが情報をくれたお陰っすね、ありがとっすよー」
「私も、偶然通り掛かったお店で見つけたので、お役に立ててよかったです」
 二人の手元には、同じシールが貼られた紙袋。フィエルテの袋の中に入っているのは、ポンポン付きのニット帽とふわふわのマフラーだ。
 そして今シキが被っている帽子が入っていた袋にはもう一つ、猫のシルエットが編み込まれた手袋が。
「こういうのがあると、寒くなるのが楽しみっすね」
 体だけでなく、心まであたたかくなるようで。
 幸せそうな笑顔のまま告げるシキに、フィエルテも笑み綻ばせながら頷いた。
 十郎が宛てがう様々な手袋に千手観音になりたいと笑いつつ、夜が選び抜いたのはアイヴォリーの地に千歳緑の葉の模様が編み込まれた一品。
「俺にとって本当に大切なものを、零さず此の手に抱いていられるように」
 一目でわかる、夜の大事な人の色。
 そこに混ざる千歳緑に気づいた十郎の耳が微かに動く。
「……その手袋はきっと、お前の手に魔法をかけるよ」
 お返しに、夜も十郎のために靴下探しの手伝いを。
 選び進む道程が、時に冷たく険しくあったとしても、その歩みが暖かく守られるよう。
 籠められた願いは面映ゆく、差し出された品々はどれも好みに沿うもので。
 十郎は悩みに悩んで、濃い青の杢糸で編まれた厚手の一足を選んだ。
「行く道を助けてくれる、これが俺の、あたたかい色」
 友が選んだその色に、夜は柔く笑った。
「欲しいものはあった?」
 あかりに似合いそうなマフラーを手に陣内が何気なく尋ねると、当のあかりはベッドカバーに釘付けで。
 生成地のケーブルニットの裏側は、真っ白なふわふわボア。いつも寒そうに毛布に包まっている陣内や、二人の間にすっぽり挟まって眠る翼猫も暖まれそうで、あかりの耳はぱたぱた揺れる。
「猫と俺の抜け毛が絡まりそうだし、あかりは嫌じゃないかな」
 手入れは欠かさないが割と気にしていると笑う陣内に、あかりも嫌だなんて馬鹿だな、と笑い返す。
「それすら幸せ、愛おしいって、思いながら季節を過ごしてきたんだよ」
「……そうか。あかりが気に入ったなら、これにしよう。けど、カバーがこんなにもふもふだと、俺がどこにいるかわからなくなるんじゃないか?」
 冗談交じりに言いながらも、陣内もまた機嫌よく尻尾を揺らしていた。
 隣に在る、あったかぬくぬくな幸せを繋ぎ止め、ラウルとシズネは新しい冬を迎えに。
 手作りならではの風合いや彩りに、自然と弾む心。一方でクリスマスや新年らしい小物や雑貨には、瞬いて過ぎる時の速さに驚いたりもして。
 ふとシズネの目に留まったのは、華やかなクリスマスカラーに猫柄が散らばる大きなニットブランケット。
 手編みらしい優しさの滲むそれに、シズネはすぐに自分とラウル、そして彼の傍らを飛ぶルネッタや家で帰りを待つ猫達と皆で一緒に包まっている、とても幸せな光景を想い描いて目が離せずに。
 そんなシズネの視線を辿ってブランケットに行き着いたラウルもまた、同じ光景を瞼の裏に描いた。
「なあラウル、オレ、これが欲しい!!!」
 瞳をキラキラ輝かせるシズネに思わず破顔しながら、ラウルは頷く。
「うん、俺も欲しいと思ってたんだ」
 このブランケットがあれば、皆であったかぬくぬく、幸せな冬を過ごせる筈だから。

 白とさくらは、お互いの大事な人への贈り物を探しに。
「ねえねえ白くん、弟子から見て、師匠の好きそうなものって何かしら?」
「お師様の喜びそうな物かぁ、うーん……、――む、あれは……」
 大切な人を想えばこそ並ぶ数々の一点物に彷徨う視線が捉えたのは、二人にとって大切な友人であるレッドレークとクローネが寄り添って歩く後ろ姿。
「さくら殿、これは二人を尾行してみるのが吉だと思うんじゃけど……」
「モチのロンよ白くん、レッツ尾行!」
 頷き交わし、白とさくらは二人を追って歩き出す。仲睦まじいその姿は、さくらの心のカメラにしっかり収めつつ。
 そして、尾行には気づかぬまま、レッドレークとクローネは自然と寄り添いながら『あったかぬくぬく』な世界を歩いていた。
「レッドは何か気になる物や、欲しい物はある?」
 クリスマスに備え、さりげなく好みを聞き出そうと試みるクローネ。
「そうだな……俺様はこのカッコイイ髪型がウリな所はあるが、冬の早朝の作業には暖かい帽子が欲しくなることはあるな!」
(「……『あったかぬくぬく』な帽子、か」)
 得られたヒントは、心のメモ帳にしっかりと書き留めて。
「あるいは、クローネと一緒に魔法のお茶を飲むための揃いのマグカップとか」
「あ、マグカップ、良いね。お揃いの……」
 そんな風に買い物を楽しんでいたその時、クローネはふとふわふわなファーが付いたイヤリングに目を留めた。
 つられてふわふわキラキラのアクセサリー達を目にしたレッドレークは、どれもクローネに似合いそうだと想像しつつ、
「出会った頃よりも少し大人っぽくなって、益々魅力的になっていくな」
 そう零して顔を綻ばせれば、同じように返る柔らかな笑み。
 近頃可愛い物に興味を持つようになったのは、大好きな人のおかげだと、クローネは知っている。
「――だって、世界一素敵なきみの隣に相応しい、可愛いぼくでありたいもの」

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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