スクラップアームズ・フォルミーカ

作者:鹿崎シーカー

 とあるスクラップ置き場。
 各所に出来たガラクタの山々が連続で爆発! 鉄片が飛び散り、轟音を立てて崩落するスクラップの山脈を、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)はバッタめいて飛び跳ねながら駆け抜ける。両手の砲が持つ恐竜の足じみたパーツを駆使して機動しつつ、肩越しに背後を振り返った。
「んぅ……しつ、こい……」
 その時、異形の影が崩れたガラクタの山を飛び越えた。それはポンパドールヘアじみた頭部パーツをつけた女型の機械! 両腕に頭部パーツに似た機構を装着し、脚部は虫めいた四本の節足。体の各部から垂れたコードを振り乱し、女型のダモクレスは両腕のパーツから銃身を露出させた。上空から放たれる二発の光弾を、勇名は振り向きながらの砲撃で迎え撃つ! 二対四つの光弾は虚空で激突して大爆発を引き起こした。勇名は着地したダモクレスの無表情を、真っ向から見返した。
「負けない……狩られるもんか……」
 二門の砲を構える勇名に、ダモクレスは無感動に銃口を向けた。


「ふむふむ……なるほどなるほど」
 資料をパラパラめくりつつ、跳鹿・穫は何度か頷いた。
 このたび、ケルベロスの一人である伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)がデウスエクスの襲撃を受けるとの情報が入った。
 襲撃者の名は『フォルミーカ』。敗北・脱落したダモクレス達のパーツを組み合わせて生み出された、キメラテックな存在だと言う。
 フォルミーカは、いかなる経緯によってかスクラップ置き場にて勇名を強襲し、あわよくば連れ去ろうと画策している。元は量産型のダモクレスとはいえ、ケルベロス一人が敵う相手ではない。急いで勇名の下に急行し、彼女を救出。後にフォルミーカを撃破してほしいのだ。
 戦場となるスクラップ置き場は非常に広大で、ところどころに廃材を積み上げた山がある。人はいないため、避難誘導をする必要は無いものの、足場はガラクタに埋め尽くされている上に、廃材の山は戦闘の衝撃に耐えかね崩落してしまう。地形の変動が著しいため、戦う際には注意が必要となるだろう。
 フォルミーカ自体は、砲撃と機動力を駆使して戦う中~遠距離戦タイプ。本体そのものは中の下程度の性能しかないが、その生い立ち故か周囲の機械を取り込んで自己修復と自己改造を行うことが出来る。場所が場所なだけに、油断すれば多大な強化が為された存在を相手にする羽目になる。相手の状態や戦場に気を配りつつ戦うと良い。
「こいつ、本来は集団行動するダモクレスみたいなんだけど、今回は何故か一体だけ。放置すればどんな敵になるかわからないし、今此処で倒してきて!」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
皇・晴(猩々緋の華・e36083)
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)
ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)
不動・大輔(魂を震わせる忍者・e44308)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)

■リプレイ

 飛翔する光弾が疾駆する伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の背中を狙う! 肩越しに光弾を見、左に跳んで光弾を回避する勇名の周囲で複数の光弾が連続で着弾・爆発! 立ち上がる火柱を避けながら走る勇名の後方上空で、高く跳躍したフォルミーカが両腕のパーツをガトリングガンに変形させた。
「……んうー。フォルミーカ、ぼくをやっつけたい、ぼくが、キライか?」
 勇名が呟くと同時、ガトリングガンが火を噴いた。加速した勇名はジグザグスプリントに加え前転を交えて弾幕を潜り抜けていく!
「……ちがうな、キライは、こころだから。だからきっと、ちがう」
 前転からまた走り出した勇名は、進行方向の空に小型ミサイルを撃ち出す。宙で爆裂し花火が開花。赤い髪をカラフルに照らされながら、背後から放たれた二発の小型ミサイルを跳躍回避!
「ぼくは……もう、同じには、なれない。だから、やっつけられるわけに、いかない、よ」
 その時、フォルミーカの瞳に無数の文字列が流れ、腹部が開いた。ジャンプした勇名の片足が地につきかける瞬間を見計らい、迫り出した大型の砲から太い光線を発射! 片足を着き、不安定な体勢の勇名は視界を埋める光線を振り返る。ビームが勇名を飲み込む寸前、着流しを着た人影が勇名の隣を抜けて光の前に立ちはだかった!
「助けに来ました。もう大丈夫」
 割り込みをかけた皇・晴(猩々緋の華・e36083)の手中から赤い液体金属がほとばしって刀を形成。下段からの一刀に斬られた光線は真っ二つに割れ、勇名と晴の両側を抜けていく! 刀を光線に押しつけながら、晴は叫んだ。
「長田さん!」
「了解しました。シュートモードに移行」
 晴の頭上を飛び越えた長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)の右足にガジェットがまとわりつき、巨大な足甲に姿を変える。腹部から光線を放ち続けるフォルミーカと鏡花の視線がかち合うと共に、ドクロのバックルが音声を放つ!
『ready!』
「行きます、メテオ・インパクト」
 機械足甲を突き出し、飛び蹴りを繰り出す! 光線を撃ち止めたフォルミーカが大きく後方跳躍した瞬間、鏡花の蹴りが隕石衝突めいて凄まじい衝撃波を放射! 震える地面を蹴って走る不動・大輔(魂を震わせる忍者・e44308)は、空中のフォルミーカめがけて雷宿る左手を伸ばした!
「うおおおおおおおおおおッ!」
 手の平から飛んだ稲妻が巨大な鬼の手じみた形を作り、滞空するフォルミーカを鷲づかみにした。大輔は右腕を後ろに引き絞る!
「来ぉいッ!」
「わぅ! 大ジャンプなのだ!」
 駆け寄り、右腕に飛び乗った叢雲・蓮(無常迅速・e00144)を大輔はラリアットめいて投げ飛ばす! 空中に捕らわれたフォルミーカめがけて錐揉み回転跳躍した蓮は、すれ違いざまに抜刀。虚空に銀閃が走り、鬼の雷掌が大爆発した! 浮力を失い落下する蓮が声を上げた。
「恵ちゃーん!」
 爆煙から落ちるフォルミーカの真上に峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が滑り込み、両足裏をそろえてフォルミーカに向ける。足首から下を包む青黒い光!
「そーれっ」
 鋭いドロップキックがフォルミーカの胸を打つ! 軋むボディが叩き落とされ、地面に追突。上がる砂煙と飛び散る鉄片を遠巻きに回り込んだレイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)が軽やかにステップを踏んだ。
「やるよールナルナ! 時計座の一幕、続きをどうぞ」
 フォルミーカを挟んでレイラの反対側で、ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)の足元に魔法陣が浮き上がった。吹き上がるホタルの群れめいた光の粒子に包まれ、ルナもまた踊るようにステップ。彼女の足を真っ赤な炎が包み込み、フォルミーカを中心に大きな魔法陣が出現!
「ありがと、リラ。祭壇座の一幕、踊ってみない?」
 最後のステップが踏まれ、魔法陣が火柱を放つ! 轟と燃え立つ炎を遠目に、鏡花と大輔は勇名に声をかけた。
「第一状況、終了しました。伏見さん、ご無事ですか」
「なんか大変な目に遭ってるようだな? ケルベロスとして……仲間の助太刀をさせてもらうぜ!」
「んう……」
 片膝立ち姿勢の勇名に、晴が手を差し伸べる。直後、フォルミーカを飲み込んだ火柱が内から爆発! 拡散する熱波を浴びて怯むルナとレイラの間を抜け、高速で勇名までの距離を詰めるフォルミーカは両腕をガトリングガンに変形させて同時に掃射! 鏡花と大輔が左右に走り、晴は逆手に持った刀を突き出す。紅色のオーロラが晴の目の前に広がり弾幕を防御! 急制動をかけたフォルミーカの背後から居合いの構えで蓮が、左右から金色の爪を構えた大輔と機械の巨拳を装備した鏡花が挟撃!
『ready!』
 フォルミーカは跳躍後転で居合いを回避しながら両腕のガトリングをショットガンに変更。蓮の背中に一発見舞い、鏡花の拳に散弾をぶつけて上方に逸らす。大輔は左腕で顔面狙いの射撃を防御しながら爪を繰り出す!
「オラァッ!」
 滑るように移動しながら爪撃の連打! 各部を削られながらも素早く回避を続けるフォルミーカがショットガンを撃ちまくる。同じく大輔のパワードスーツが各所を撃たれて火花と欠片をまき散らす。舌打ち混じりに放たれた爪のアッパーを上体逸らしで回避するフォルミーカの顔面に、蒼い角とファーを持つ子竜が陽の光めいたブレスを吐いた! 鼻面に閃光をぶつけられたフォルミーカの鳩尾に大輔の左ストレートが命中! そのまま殴り飛ばす!
「おら、よッ!」
 水平に吹っ飛んだフォルミーカは後転を決めて着地、四足を引きずってブレーキをかけて停止した。その足元に再度魔法陣が展開! ルナとレイラが息を合わせ、燃える足でステップを踏む。
「祭壇座の二幕、次は二人で」
「炎の感想、聞かせてね」
 魔法陣が輝き、炎柱がフォルミーカを飲み込んで天を突く! 空中に跳躍した勇名は炎に飲まれたフォルミーカの影を狙って砲を構えた。
「そこだー。すどーん」
 放たれた二発の小型ミサイルが爆炎へ飛翔! だが火中に見えるフォルミーカの影の腹部が青白く輝き、極太のビームを放った。光線はミサイルをまとめて撃ち落として破壊し、滞空する勇名に直撃して爆発! そのまま横薙ぎに、火柱を斬るように回転してルナとレイラをなぎ払って遠巻きに囲むスクラップ山を連続で爆破! 宙に巻き上げられたガラクタがフォルミーカの頭上に飛来する。晴は右手に炎を灯した。
「彼岸! 峰谷さん!」
「ん。ほら、みんなしっかりして」
 恵が両腕を頭上で交叉し振り下ろす! 彼女から溢れた蒼黒い霧が戦場を一気に覆い隠すと共に、晴は燃える右手を握り込んだ。仲間達の足元から爆炎が噴出! 燃える蓮と大輔が蒼黒い霧を突っ切って走る後ろで、鏡花は機械拳を変形させる。
「動きを止めます。スナイピングモードに移行」
 ガジェットがバズーカと化し、複数個所から冷気を噴いた。霧の中のフォルミーカを照準!
『ready!』
「行きます、アブロリュートゼロ・カノン」
 バズーカが純白の光線を発射! フォルミーカは両腕を砲身に切り替えて地面にレーザーを放ち、スペースシャトルめいて垂直飛翔。鏡花の凍結光線を回避して流星群じみて降り注いでくるガラクタへ一直線に飛んでいく。蓮は大輔に声をかける!
「大輔兄! さっきのもっかい!」
「応! 乗りな!」
 右足を突き出し半身で急ブレーキをかけた大輔は左腕を引き絞る! そこに飛び乗り、渾身の力で投げ上げられた蓮を見下ろし、フォルミーカは両腕をガトリングに変えて弾幕を張った。蓮は居合いからの高速斬撃でこれを切り抜けていく!
「でりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ! でりゃあっ!」
 縦一閃から飛ぶ赤黒い斬撃が離れたフォルミーカの左腕を断つ! だがその傷口に数個のスクラップがぶつかり、メキメキと軋みを上げながら変形・新たな左腕を形成していく。その時、恵の霧から黒いドラゴンの体躯が飛び出した! 蒼いファーとねじくれた角を持つ巨竜は羽ばたき、一気にフォルミーカと同じ高度に辿り着く。その背に乗ったレイラとルナが魔法陣を足元にして華麗なステップ!
「竜座の一幕、夜空に吠える」
「彫刻具座の一幕、斬るのはなぁに?」
 掲げたルナの手に星座めいた光が瞬き、巨大な三角刀の形に変わった。そのままブレスを吐き出し空中のガラクタを薙ぎ払っていくドラゴンの背を走る! 対するフォルミーカは即座に修復した左腕から砲身を出し、二発の光弾を射出する。蛇じみてうねった二発がドラゴンの両目を撃ち抜いた。悲鳴を上げるドラゴンの額から跳躍したルナはフォルミーカの左肩に三角刀を突き刺す!
「悪いけど、左手もらうよーっと」
 三角刀を深く突き入れ左腕を強制パージ! 残った右腕にショットガンを現出させてルナの腹を撃ち抜いて弾き飛ばした。
「ルナルナ!」
 叫ぶレイラの目前でフォルミーカはルナの眉間に狙いを定め、発砲した。直後、割り込んだ晴がルナを抱きとめ紅色のオーロラを展開、攻撃をしのぎオーロラを曲げて巨竜諸共姉妹を包み込んで癒やす。晴は再度腹部の砲門を起動するフォルミーカの向こうに視線を飛ばす!
「伏見さん!」
「……んう」
 撃ち落とし損ねた廃車のルーフを蹴ってフォルミーカに急接近! 両の砲門を合体させて巨大なチェーンソーに変え、大上段から斬りかかった! 振り向いたフォルミーカは右腕でこれをガード! 甲高い金属音と火花を挟んで、勇名はフォルミーカと無表情を突き合わす。
「強化も、かいふくも、やらせないし、たおさせない、よ」
 力任せにチェーンソーを振り払うフォルミーカ! 勇名は構わず連続で斬撃を繰り出し、フォルミーカは腕一本でこれをいなしながら銃撃を挟む。空中で激しく打ち合いながら落下する二者は同時に着地! 勇名が放つ首筋狙いの一撃をフォルミーカは後ろ脚を下げ上体を逸らして回避する。反撃の散弾を食らった勇名の脇腹が爆ぜると共に腹部の砲門が光線をチャージ! よろめく勇名の腕を、恵が後ろからつかんだ。
「スイッチ!」
 恵は勇名と立ち位置反転し逆の手を突き出した。フォルミーカが発射する太いレーザーを手の先に開いた群青色のバリアで防御! 雷鳴が如き衝突音が響きバリアがひび割れ、亀裂を抜けた光が恵の鎖骨や頬、太ももを引き裂く。フォルミーカは光線の出力を増強、バリアの亀裂が広がっていく!
「ぐっ……!」
 光線を片腕で受け止める恵がわずかに下がる。そのフォルミーカの背後に、鏡花と大輔が踏み込んだ!
「後ろががら空きだぜ。雷よ奔れ!」
「ナックルモードに移行」
 金爪が巨大な雷爪に変化し、ガジェットが巨大な拳に再変形! 鏡花のドクロバックル両目が光る!
『ready!』
「行きます。 ハイボルテージ・インパクト」
「百鬼体術! 天爪・雷切ッ!」
 機械の拳と雷の爪がフォルミーカの背中を直撃! 派手なサウンドと共にフォルミーカの腹部が砲門ごと爆ぜ、炎と黒煙を上げて吹き飛んでいく。勇名達の頭上を超えて飛んでいく。鏡花は勇名の背中に声をかけた。
「伏見さん。始末はご自身でつけますか?」
 振り向く勇名に、シャーマンズゴーストの彼岸が何やら唱える。光に包まれた勇名はチェーンソーを手に走り出した! 地に落ちたフォルミーカの上半身は右腕をガトリングガンに変えて迎撃! ルナを保護したまま晴は大弓を構えて赤い光の矢を放つ。矢は勇名の背中に吸い込まれ、彼女を加速させる。
「んうー……まだ、たたかうか。そんなになって、ぼくを、ころしたいか。でも」
 大きく振りかぶったチェーンソーに光が収束! フォルミーカは無表情のままに勇名を見上げて銃口を向け、勇名は同じく無表情に相手を見下ろす。
「ぼくは、しねない」
 光輝くチェーンソーが大上段から振り下ろされ、フォルミーカを真っ二つに斬り飛ばす! 跳ねたフォルミーカの残骸は、宙を舞う中でバラバラと無数の破片を零して鉄の塵となって消えた。


 その後。勇名は、両断したフォルミーカの残骸前に屈み込んでいた。切断面がバチバチと火花を散らすが、もはや動かなかった。割れたフォルミーカの顔を眺める勇名のもとに、鏡花と恵が歩み寄る。
「伏見さん。大丈夫ですか?」
 勇名は鏡花を黙って見上げ、フォルミーカに視線を戻す。
「それにしても、変な敵だったね」
 勇名の隣に恵が屈んだ。
「これ、量産型でしょ? 単独で運用するものじゃないだろうになんで一体だけ……取り込んだスクラップになにかあって、エラーでも起こしてたのかな?」
「……んうー。フォルミーカ、まけたダモクレス、こわれたダモクレス、つかって、博士がつくった。いっぱいいて、みんなフォルミーカ。てことは、フォルミーカの数だけ、ダモクレス、こわれた。……ぼくも、こわした」
 勇名が小さく、ぽつりと零す。
「こわされてたら、ぼくが、フォルミーカだったかも……」
 その場を沈黙が満たし、火花の爆ぜる音だけが響く。やがて鏡花は、二人の背中に声をかけた。
「伏見さん、峰谷さん。帰還しましょう」
「……ん」
 こくんと頷き、勇名は立ち上がった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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