森に咲く一輪の

作者:白鳥美鳥

●森に咲く一輪の
 古海・公子(化学の高校教師・e03253)は、高校の先生。今日は日曜日という事で、日差しも良いし、少し離れた所にある森の樹の下でゆったり本を読んでいた。
「今日は良い気持ち……読書日和ね」
 穏やかな時間を過ごす公子の傍に、美しい花を咲かせた女性が現れる。それから穏やかな微笑みを湛えた。
 彼女からするすると蔓が延びていく。それが、公子へと襲い掛かったのだった。

●ヘリオライダーより
「大変だ、みんな!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、血相を変えてケルベロス達に話しかける。
「実は、古海・公子(化学の高校教師・e03253)が、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受ける事を予知したから直ぐに連絡したんだけど、全然連絡が取れないんだ! みんな、公子が無事なうちに救出に向かって欲しい!」
 デュアルは状況を説明する。
「場所は郊外の森で、周囲には誰もいないから安心して欲しい。相手は攻性植物で、花を纏った女性の姿をしているよ。花をメインにした攻撃を仕掛けてくるようだ」
 切羽詰まった表情で話すデュアルを見ていてミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、大きく手を挙げる。
「公子ちゃんが大ピンチなのね? 早く行かないといけないの! みんなも公子ちゃんを助けるために手を貸して欲しいの!」


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
古海・公子(化学の高校教師・e03253)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)

■リプレイ

●森に咲く一輪の
 本を読んでいた古海・公子(化学の高校教師・e03253)に向かって、謎の女性……攻性植物・女華が微笑んだ。花と蔓を纏って。その蔓を伸ばし……。
「逃げてください!」
「おっと、そこまでだ」
 大きな声と共に、上空から爆発を伴う砲弾が女華に向かって撃ちこまれた。更に村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)の蹴りも叩き込まれる。
「無事な様で何よりです」
「アーニャちゃん、柚月ちゃん、格好良かったの!」
 アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)とミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)、柚月が公子の元に駆けつける。……何故かミーミアとウイングキャットのシフォンは少々疲れ気味だったが。
「そこまでだ。それ以上の手出しはさせない」
 空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)達も駆けつけ、公子と女華の前に立ち塞がった。
「……! 皆さん、ありがとうございます!」
 助けに来てくれたケルベロス達にお礼を言いながら、公子は襲い掛かってきた女華を改めて見る。……なんというか、どこかで見た顔……いや、何となく若い頃の自分に似ているような顔をしている気がする。この不可思議な存在に対して、心当たりが無い訳では無い。過去に攻性植物と戦った事があるからだ。……とはいえ、それが仮に原因だとしても不条理極まりない。
(「どうせ私をコピーするなら、もう少し美人&スタイル良く化けてくれたら良かったのに……悪い冗談ですね!」)
 そう思いながら、公子はかけている眼鏡を外す。正直、自分と似ている相手と戦うのだから、直視したくないという思いがあるからだ。勿論、攻撃を外すつもりなんて無いけれど。
 集まってきたケルベロス達に微笑む女華。ケルベロス達は戦闘態勢に入った。

●攻性植物・女華:古海公子
 微笑む女華は手をあげると、胸に咲く花が咲き乱れ花びらが舞い上がる。そして、彼女の手の周りに花びらが渦巻くとセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)達の方に舞い散らせた。鋭い花びらが切り裂いていく。
「公子先生、安心しろ。必ず助けるからな」
 そう公子に声をかけると、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)は直ぐに輝く守護星座をセレスティン達に描きながら回復していく。
(「蔓……ってことは、攻性植物でいいのか。人型だと敵の種族がわかりにくくてなあ。ま、倒すべき相手ってのは変わらないんだ。気を引き締めていこう」)
 若干、相手の姿に戸惑うものの、柚月は気を取り直す。平和な日常は誰にでも等しく与えられるべきだから。柚月は光の剣を居合い斬りの様にして女華に向かって斬りつけた。
「せっかくだから……私も混ぜてくださらない?」
 そう何かを含んだ表情で微笑むセレスティン。人助けと試し撃ちが出来るなんていいタイミングじゃない。そんな事を考えているから、表情に出てしまったのかもしれない。
「狙いを澄まして……覚悟なさい」
 ライフル銃を愛用してきたセレスティンは、新しいネクロオーブの持ち味を確認しながら、それを女華に押し当てる。すると、粉砕状のスケルトンゴーストが召喚されると共に女華の身体を貫通させた。
「昔の己と似た顔……とはまた中々に趣味のわるい相手が来たものです。過去は過ぎ去りもうないのです。今が最高とまでは言いませんが、今の彼女の邪魔はさせませんよ」
 マリオン・オウィディウス(響拳・e15881)は、そう女華に話しかけた後、相棒であるミミックの田吾作に声をかける。
「田吾作、行きましょう」
 マリオンはエクトプラズムを、柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123)達に重ねるようにかけていく。一方で田吾作は思いっきり女華に向かって噛みついた。
「公子さんを傷つけさせはしません! ここで食い止めます!」
 そう言うと、アーニャはアームドフォートの主砲を女華に向かって一斉発射する。それに合わせて公子が攻性植物を蔓草の様に変え縛り上げた。
「どう? 攻性植物に喰われる気分は! 私の専門は化学で、生物は今一つ解りませんけどね!」
 そう言う公子に対して、女華は微笑み返す。そんな事は気にならない、そう言うかのように。眼鏡を外しているとはいえ、はっきりと映らなくても、その笑みは公子の心に刺さる。……植物とは生物。傷をつけて叫ぶ植物は無い。心では叫んでいても、それは聞こえない。だからこそ、その笑みが怖かった。
「公子さん!」
 梵兵衛の強い呼びかけに公子は我に返る。そんな彼女にアーニャは励ます様に、ウタは優しく微笑む。
「大丈夫です、公子さん!」
「俺達がついてるって! な、公子先生!」
 ウタが仲間のケルベロス達を見回す。それに皆、頷いた。それを見て、公子の心は軽くなる。
「ええ、ありがとうございます。皆さん」
 公子の安心した顔を見て笑みを浮かべてから、梵兵衛は女華に視線を向ける。
「さて……お嬢さん……そろそろ親離れの時間だぜ」
 梵兵衛の鋼鉄の拳が女華を殴りつけた。
「公子、安心して欲しい。私達がいるからな」
 空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)は、公子にそう声をかけてから、阿頼耶識から畳み掛けるように光線を女華に撃ち放つ。
「みんな、頑張ってなの!」
 ミーミアはセレスティン達にオウガ粒子を放って集中力を研ぎ澄まさせ、ウイングキャットのシフォンは重ねるように清らかな風を送った。
 女華は蔓を巻き上がらせて上昇させると、そこから花を咲かせ、鋭い花が公子に向かって放たれるが、それを熾彩が庇う。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
 熾彩の言葉に、公子は頷く。その言葉に優しさと心強さを感じた。
「熾彩、回復するぜ!」
「ありがとう」
 ウタの演奏と歌声が熾彩に風となって吹き抜ける。癒しの力を受けた熾彩はウタにぺこりと軽く礼をして返した。
 柚月は炎の渦を細くして蔓状へと変えていく。
「何でもやってみるもんだな。じゃあいくぜ!」
 炎の出来に満足しながら、柚月は太陽の力を持つ炎の蔓で女華に巻きつけるようにして燃え上がらせた。
「威力試しって所かしら。それも良いわね……」
 白い肌に嫋やかな微笑みを湛えるセレスティン。命中率が上がったので、大ダメージを狙いセレスティンは女華をナイフでジグザグに斬りつけていく。そのナイフは確実に相手を抉っていった。
「守りを固めます」
 マリオンはケルベロスチェインを使って公子達の守りを固めていく。田吾作は、女華を惑わせていった。
「いきます!」
 アーニャはバスターライフルを構えると女華にエネルギー光弾を放つ。そこに、梵兵衛が居合い斬りを加えた。
「私には皆さんがついてくれている……必ずあなたを倒しますよ!」
 似ている相手に気分が悪い事は間違いなのだが、それは心に留めておく。今は、頼りになる仲間達がいるのだから強くいられる。公子はグラビティ・チェインを乗せて強力な一撃を女華に叩き込んだ。それに合わせ、熾彩の攻撃が続く。
「……凍て付き、眠れ」
 熾彩の力ある言葉が女華を襲い、凍てつかせていった。
「公子ちゃんに力を、なの!」
 ミーミアの放つ電撃の力が公子の力を底上げしていく。一方で、シフォンは柚月達に清らかなる風を送っていった。
 流石に攻撃がきつかったのだろうか。女華がふらついている。彼女の身体を纏う花が次々と咲き始め、身体を癒していっているようだ。
「そう簡単に回復させないぜ」
 ウタは凍結の一撃を女華に喰らわせる。続けて柚月の輝きを伴う蹴りを叩き込んだ。更にセレスティンの大鴉の姿を取ったブラックスライムが追い打ちをかける。その攻撃を受けながらも立ち上がる女華。湛えている微笑みは変わらない。
「中々、手強いですね」
 アーニャはガトリングガンを構えると、女華に向かって次々と弾丸を撃ち込んだ。その間にマリオンは梵兵衛達に向かってケルベロスチェインを使い守りの力を高める。田吾作はアーニャの攻撃の直後に噛みつき攻撃を喰らわせた。
「まだまだですよ!」
 公子はナイフを巧みに操り女華に対してジグザグに斬りつけていく。
「こいつの切れ味はちょっと辛口だぜ!」
 梵兵衛は、剣術と螺旋忍術を合せた鋭い斬りにより女華の体液が散り広がり、熾彩の放つ大鎌も斬りつけた。
「もう一回、公子ちゃんの力の底上げをするの!」
 ミーミアは再び雷の力を使って公子の力の底上げを行う。シフォンはアーニャに清らかな風を送った。
 かなり弱っていると思われる女華は、それでも気丈に戦う事を止めない。再び胸に咲く花を上空に渦巻かせると、公子達に鋭く降らせた。
「回復するぜ」
 直ぐに動くのがウタ。星々の力を使って公子達を浄化していく。続いて柚月がマインドソードを居合抜きの要領で女華に斬りつけた。
「邪魔な肉などそぎ落としてくれよう」
 セレスティンは粉砕状態のスケルトンゴーストを用い、女華に向かって撃ち放つ。その攻撃に合わせて田吾作は幻覚を見せていく。一方マリオンはアーニャに対してケルベロスチェインを使って守りを固めた。
「全火器開放……『時』は私の味方です! 私の切り札、一点集中で撃ち抜きます……っ!!」
 アーニャはフルパワーの砲弾を女華に撃ち込みながら、『時』を反映させることで、更なる砲弾を叩き込む。
 最後は公子の番だ。
「出直ししなさい!!」
 公子の印刷物を憑代にした赤い点を噴出、更に赤い電信柱に加え、赤いアヒルまで召還する。その真紅の攻撃に、女華は綺麗な花弁となって消えていったのだった。
 辺り一面に舞い散る花びら。それは、幻想的であり……公子の心にもケルベロスの心にも美しい物に映ったのだった。

●その後に
 花びらが舞い散る様に消えた攻性植物に、公子も気持ちが悪かった気分がいくらか楽になる。そっくりな相手とはいえ、花となって散った事は悪くは無い結末だったから。
「無事で何よりだ」
 柚月の安堵の言葉に、皆、安心した溜息を零す。無事に公子を守り切れた。最高の結果とも言えるだろう。
 マリオンやアーニャや熾彩は戦いで傷ついた木々などのヒールや、仲間達の治療に当たる。
 ウタはメロディアスな鎮魂歌を、梵兵衛は散っていった攻性植物である女華に対して祈りを捧げる。あの女華も、恐らく好きで生まれた訳では無いだろうから。
「公子さん、大丈夫か?」
「余り良い気分では無かったでしょう?」
 柚月やマリオンが心配そうに声をかけてくる。それに、公子は微笑んだ。
「……確かに、気分の良い物では無かったけれど……皆さんがいてくれたから、大丈夫ですよ」
 それは本心だ。確かに、かつての自分に似ている相手と戦うのは気分が良いものでは無い。女華が攻撃を喰らう度に、何だか自分も攻撃を受けているような気分になるから。
 でも、今回、救出の為に集まってくれた仲間達は公子の事を考え、守ってくれた。それは何よりも嬉しい事だったから……それは、言い表せない温かい気持ちになるのだ。
「それにしても、一仕事の後は腹が減るぜ」
 食欲旺盛なウタの言葉に、公子は微笑む。
「ええ、お礼になるならご馳走位するわ」
 公子の言葉にウタは目を輝かせる。
「拉麺、拉麺が良い!」
「ミーミアも、杏仁豆腐とか食べたいの!」
 そんな二人にくすくすと笑う公子。
「それじゃあ、お礼の慰労会にでも出かけましょうか」
「やったー!」
 元気な声が響き渡る。
 今回の相手には色々と思う事はある。でも、助けに来てくれた皆がいたから倒せた。それに、相手の散り際も生々しいものでは無く、少し綺麗に思ってしまった。
 ……だから、この結末も悪く無かったと思う。
 そして、ケルベロス達は慰労会の為に町に繰り出したのだった――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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