ささやかな罪悪感

作者:洗井落雲

●家族の評価
 佐々木美優は、放課後の教室でため息をついた。机に持たれ、頬杖をついて思うのは、先ほどまで級友と話していた、他愛ない雑談の内容についてだ。
 それは、家族の事である。好意的な内容ではない。例えば両親が鬱陶しいとか、きょうだいが邪魔だとか。悪口が主だ。
 とは言え、思春期の子供達にとって、家族には微妙な距離感を持ってしまうもの。両親は自分を理解してくれないように思えてしまうし、きょうだいと言えど、理解しがたい他人に映ってしまう。そう言った愚痴のような言葉も、出てやむなし、という所である。
 しかし、美優はその例に当てはまらなかった。美優は家族仲が良好であった。
 それでも、友人達と話を合わせるために、自分も家族とは上手く行っていない風を装わなければならない。
 心にもない事を言ってしまうストレス――自分の家は違う、と否定できればいいのかもしれないが、それはそれでなんだか話の腰を折ってしまうようで、言いそびれてしまう。
 ふう、と美優が再びため息をついた。と――。
「――何を悩んでるんだ?」
 そんな言葉が、教室に響いた。美優が慌てて視線を巡らせると、教壇に腰かける、一人の少女の姿があった。
「悩むことなんてないだろう。それがお前の本当の心ならな」
 少女は、手にした巨大な鍵を肩に乗せ、ぽんぽん、と叩いた。
「お前の本当の心は、何処にあるんだ? よく考えてみな。他人に合わせて、自分の心を見失っていないか?」
 少女は笑いながら、そう問いかける。突然現れた少女による、説教のような言葉――しかし、何処か美優の心にしみわたる様な、危うい魅力を持っていた。
「いいか。お前は、お前だからこそ価値があるんだ。他人に合わせてそれを殺してしまえば、その価値はなくなっちまう。だから、お前は、お前の思う通りに行動すればいいんだよ」
 甘く、心揺さぶる、誘惑の言葉。
 美優の意識は霞がかかったようにぼんやりとしており、ぼうっとしたまま、口を開いた。
「そう――だよね。嫌いでもない家族の事を、悪く言うなんておかしい。嫌な事は嫌って、言わないと」
 美優がそう言った途端。その身体に鍵が突き刺さった。
「はい、よく出来ました、っと」
 少女――ドリームイーター・フレンドリィは笑い、手にした鍵を抜き取る。
 次の瞬間には、美優とよく似た外見の、『Noと言える日本人!』と書かれた奇妙な鉢巻きを付けた怪人が、現れたのであった。

●ドリームイーターを叩け
「集まってくれて感謝する。今回の事件は、ドリームイーターが首謀者だ」
 依頼を受け集まったケルベロス達に向けて、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)はそう告げた。
 日本各地の高校にて、ドリームイーターが出現し始めたという。
 どうやらドリームイーターたちは、高校生が持つ強い夢を奪い、強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしい。
「今回狙われたのは、佐々木美優という17歳の高校生だ。友人たちとの会話の際、話題になる家族の悪口……それに、話を合わせるために乗ってしまう事に、罪悪感を抱いていたようだな。そこを、ドリームイーター、『フレンドリィ』に狙われてしまったようだ」
 フレンドリィは、空気を読んで周りに合わせる事に疑問を抱く人間を狙っているようで、美優という少女も、その気持ちを狙われたのだろう。
 フレンドリィの手により、美優からはドリームイーターが生み出されている。この『ドリームイーター美優』は強力な戦闘能力を持つのだが、この夢の源泉である『空気を読むことへの疑問』を弱める様な説得が出来れば、『ドリームイーター美優』を弱体化させることが出来るという。
「……とは言え、あまり強い言葉で説得を行えば、自己主張の心までくじいてしまい、この少女が自己主張の出来ない、気弱な心になってしまう可能性はある」
 説得を行わなければ、美優の心に影響は出ないが、その場合は『ドリームイーター美優』の戦闘能力は低下しない。
 説得による戦闘能力の低下を狙う場合は、上手くバランスを保った説得が必要だろう。
 今回相手となるのは、『ドリームイーター美優』一体。『ドリームイーター美優』は、放課後の、高校の教室で発生しており、教室内には、気を失った美優が倒れている。美優は、『ドリームイーター美優』を撃破できれば、目を覚ますだろう。
 もしこのまま放っておけば、『ドリームイーター美優』は、美優が直前に分かれた友人達を追いかけ、襲撃を行う。
 しかし、ケルベロスが現れれば、ドリームイーターはケルベロスへの攻撃を最優先として行動する。その為、襲撃が予知されている美優の友人たちの救出は、難しくはないだろう。
 なお、フレンドリィは現場到着時点ですでに撤退しているため、戦う事はない。
「まったく、高校生の夢を奪って悪事を働こうとは、不届きな奴だな。しっかり阻止してきてほしい。皆の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
リリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820)
アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)
フレデリ・アルフォンス(自由とノブレスオブリージュ・e69627)

■リプレイ

●放課後の校舎で
 夕陽差し込む校舎には、放課後を思い思いに過ごす学生たちの姿が見えた。
 楽しげにおしゃべりに興じていた学生たちであったが、しかしふと、身体を震わせ、けげんな表情を見せた。
 とてつもない居心地の悪さ――本能的な恐怖を伴うそれが、学生達を襲ったのだ。もし経験があったとしたら、その原因が、不意にはなたれた殺気である事に気付いただろう。
 だが、およそ平和の裡にある学生たちには、それを察する経験はなかった。だから学生たちは、その居心地の悪さに従い、次々と校舎から離れて行ったのだった。
「……これで、準備は万端ですね」
 そんな学生たちを、校舎入り口で眺めながら言ったのは、ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)だ。漂う殺気の主である。
 形成された殺界は、一般人を遠ざける。二次災害を防ぐのにはちょうどいいだろう。
 また、明らかにこの学校の関係者ではないジュスティシアに、不審な目を向ける者はいない。後者に居た一般人の誰もが、ジュスティシアを、関係者なのだと思い込んでいた。
 ジュスティシアが校舎の中へと入ると、
「そちらの様子はどう?」
 ゆったりと笑い、アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)をはじめとする、ケルベロス達が出迎えた。アーデルハイトは目につく生徒たちへ、避難を促していた一人だ。
「中にはもう、逃げ遅れたものはおらんぞ」
 重武装モードでそういうのは、端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)である。ジュスティシアが、あらかた、避難を終えたことを告げると、
「では、行く出やんすよ」
 と、山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)が声をあげた。
 ケルベロス達は頷くと、誰もいない校舎を進んだ。茜さす廊下をしばらく行くと、目当ての教室が見える。
 ケルベロス達は扉に手をかけ、静かに目配せをした。意を決すると、一気に扉を開け、中へとなだれ込む。
 果たして教室には、二人の少女がいた。
 一人は額に鉢巻きをつけ、木製の棒のような物を持っている。
 もう一人は床に倒れ伏し、意識を失っている。
 そのどちらも同じ顔であったが、鉢巻きの少女は、明らかな敵意をこちらに向けていた。
「ドリームイーター……だな」
 尋ねるというよりは、自ら確認するように、フレデリ・アルフォンス(自由とノブレスオブリージュ・e69627)が言った。その言葉に頷くかのように、ゆらり、と、ドリームイーター『美優』が、構えた。
「私達を優先して狙う……という事ですね」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)がゆっくりと、武器を構えた。合わせ、ケルベロス達も武器を構える。
 一触即発――その緊張を打ち破ったのは、突如として響き渡った窓ガラスが割れる音と、窓から飛び込んできた人物である。
「っと、タイミング、有ってる?」
 手にしたドラゴニックハンマーを肩に、飛び込んできたトリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)はあっけらかんと言い放った。
「いや、いいんだけどさ。その窓ガラス、どうすんの?」
 ジト目で尋ねるリリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820)に、トリュームは、
「んー、後でヒールお願いね!」
 とどこ吹く風である。
 ケルベロス達のやり取りに、些かあっけに取られていた様子の『美優』であったが、しかし気を取り直したのだろう、ぶん、と手にした棒を振り、ケルベロス達へと一気に飛び掛かる。
「来るでやんすよ!」
 仁の叫び。一斉に、ケルベロス達は飛びずさった。入れ替わる様に飛来した『美優』が振り下ろした棒が、地に突き刺さる。派手な音をたてて床に穴が開き、破片が飛散する。
「……なるほど。確かに戦闘能力は高い……ですが」
 刃蓙理は着地すると、武器を手に跳躍した。放たれた刃が『美優』の体を切り裂き、
「呪いの死灰は生気を奪う……逃れられはしません」
 傷口より『美優』の体内へと進入する刃蓙理の『死灰』。生気を奪うというそれは、相手の治癒を阻害する――。
「シロハ、援護お願いね。痛いの嫌だし、なるはやで終わらせよ」
 ウイングキャット『シロハ』へと声をかけ、リリベルはゲシュタルトグレイヴを手に、跳んだ。合わせるように放たれる、シロハのキャットリング。リリベルの電の如き突きが『美優』へと突き刺さり、続いてキャットリングが着弾。『美優』は一瞬、顔をしかめるが、しかし次の瞬間にはリリベルを振り払い、吠えた。
「うっわ、怖い……」
 思わず、リリベルが呟いた。『美優』より叩きつけられるのは、強い拒絶の意思だ。ドリームイーターを生み出す際に使われた、美優の心……それが歪んだ形で協力になり、このように発現したのだろう。
「ひとまず、足止めからでやんす!」
 仁の胸部からトリモチ弾が発射される。『美優』へと着弾したそれは、液状の粘着物を放出し、その身体にまとわりついた。
「このまま戦うのも、よくはないでやんすね……」
 トリモチにもがく『美優』を油断なく見やりながら、仁が言った。敵は、確かに強力な存在のようだ。どうにか弱体化を狙いたい。だが、それ以上に。
「アレがドリームイーターの影響とは言え……あんなふうに暴れる位な悩みの種になっていたのだとしたら……何とかしてやりたいでやんすよ」
 ケルベロス達が思うのは、何とかして美優を救ってやりたい、という事だった。例え、どれほどささやかな物であったのだとしても、心を痛めるものであるのなら、それを除いてやりたいと――。
「なら、言葉を尽くすしかない、な」
 ドローンを展開し、仲間たちの援護を行いながら、ジュスティシアが言った。
 一方、『美優』はトリモチから逃れ、再び動き出した。そこへ飛来するのは、括の蹴りの一撃である。直撃した蹴りの反動を利用し、括は距離をとると、
「うむ。我らの想い……伝えるのじゃ!」
 力強く、そう言った。
「よいっしょ!」
 と、トリュームは竜砲弾をぶっ放し、『美優』の足を止める。ボクスドラゴン『ギョルソー』はそれに合わせてブレスを吐き、『美優』へのけん制とした。
「やるなら早くやっちゃいましょ」
 トリュームの言葉に、
「そうね。長引けばこちらが不利よ」
 星形のオーラで『美優』を狙い撃ちつつ、アーデルハイト。
「よし……じゃあ、はじめるぞ」
 『風雷剣サンティアーグ』をかざし、フレデリが言った。同時に、雷の壁がケルベロス達を守る様に発生する。
「回復は任せてくれ。彼女に声が届くまで、保たせてみせるぜ」
 フレデリの言葉に、ケルベロス達が頷く。『美優』は雄たけびを上げ、再びケルベロス達へと襲い掛かった。

●声よ届け
 不可視の拒絶の意志が、ケルベロス達へと襲い掛かる。アーデルハイトはそのプレッシャーを、武器を構えて受け止める。
「……嫌ね、痛いわ」
 アーデルハイトの呟き。攻撃の隙を突き、刃蓙理は声をあげた。
「人間……一人で生きているのではないのですから、基本、そのままで良いと思いますがね……それはさておき」
 こほん、と咳払い一つ。
「家族とはこんな方法で仲良くなれた……と話してみて、あなたが新たな空気を作ってはどうでしょう。NOばかり……拒絶してばかりではどんどん孤独になっていきますよ……。それはあなたの望むところではないでしょう……」
「まー、空気読んだりなんだりはめんどくさいのは分かるけど、集団の中で生活する以上、波風立てずにやり過ごす事が必要な時もあるよ」
 続いたのはリリベルである。
「自分の意見を言う事も大事だけど、相手にも相手なりの事情があっての意見。下手に突っ込むより適当に流す方がいい事も多いよー……まして、相手側が多数派の時はね。多数派が強い国なんだよねぇ、ココ」
 どこか達観したような口調で言うリリベル。
「あっしは……友達の悩んでいる気持ちを否定せず、でも美優殿の気持ちも大切にして欲しいと思うでやんす」
 仁が言う。口調はいつもと同じものであったが、纏う雰囲気はどこか優しく、さわやかな印象を与えるものであった。
「例えば――『それは困るね。私もされたら嫌だと思う。ただ、私の家ではこんな決まり事を決めていて、今の所困った事にはなっていないかな』――みたいな感じで、話題として話してみるのもいいでやんすよ」
 仁の言葉は、美優の声を模したものであった。
「もしかしたら友達が興味を持ってくれて、友達の家庭問題も改善できるかもでやんす。……自分の気持ちを押し込めたら苦しいでやんしょうな。でも、一方的に私の話を聞け! では大切な友達が離れて行かないでやんすか?」
 仁の言葉に、『美優』は困惑した様子を見せた。『美優』の動きが、精彩を欠いていく。
「あなたと友達の気持ちには、善悪とか優劣はつけられません。月並みな言葉ですが、みんな違ってみんないいと言うところかな」
 ジュスティシアが続ける。
「友達の家族仲もよくなれば素敵ですが、出来ない事情もあるでしょう。あなたの友達であれば、あなたの家庭環境がどうであれ、友達でいてくれるはずです。……これはアドバイスですが、自分の心を偽らないまま他人の気持ちを尊重することは、これからの人生に置いて必要ですよ」
 説得を続けながらも、ケルベロス達は攻撃を続けた。ケルベロス達が言葉をかけるたびに、少しずつ、『美優』の力が弱まっていくのを、ケルベロス達は感じていた。
「家族を悪く言いたくない……そう強く思える美優は、優しい子だと思うのじゃ。空気を読んじゃう……友達に合わせちゃうのは友達のことも大事と思うが故、であったのではないかのぅ」
 括が言った。その言葉が届くように、強く思いながら。
「家族と仲良くできるというは恵まれたこと、であるゆえ、家族とうまくいかぬ子に自慢してしまうようで傷つけてしまいそうで……それで言い出せなかったのじゃろうな」
 『美優』がたじろぐ。自身を構成する成分が、その言葉に溶けていくように……『美優』はもがいた。
「友達を否定するのでなく、どうしたら家族と仲良くできるか、一緒に考えてみるのも良いと思うのじゃ。友達も家族と仲良くできたなら、きっと素敵じゃよ。……大丈夫、何せこんな風になるまで家族を想うことのできる美優じゃから……きっとできるはずじゃよ」
「まぁ、友達グループの中じゃ家族嫌いって言わないとダサいみたいな感じになってるかもだし、自分を誤魔化すのが嫌なら、本音ぶつけちゃってもいいんじゃないの? ポイントは、NOって言うんじゃなくて、自分はこう思う、って自分の考えを言う……ってとこかな」
 トリュームが言った。
「実はワタシも……っていう子もいるかもしれないし。考えるだけ考えたんでしょ? これ以上考えても進まないだろうし、まぁなんとかなるっしょ。多分ね! 嫌われたらそんときゃそんときよ!」
 にっ、と笑うトリューム。
「日本人は同調を美とする傾向があるわ。だからこそ、集団にいて異を唱えると仲間外れにされたりもする。それが怖いから違和感があっても口にできないこと……わたしもよくわかるの。けれど、同調は納得ではないわ」
 アーデルハイトは静かに、続けた。
「怖がってばかりいると、周りもあなたを『ただ同調してくれる聞き手』としか見なくなるわ。それは、友という関係ではない……価値ある友とはそういうことではないの。相手の事を理解しつつ、解決策を一緒に考えるのも、悪くはないわよね。友の導き手になれることこそ、誇らしいもの。私はそう思うわ」
「さて、最後になっちゃったけど……」
 フレデリは頭をかきつつ、言った。
「別に君は、『家族が嫌いな友達が嫌い』ってわけじゃないんだろ? だったら友達だって、『家族が好きな君が嫌い』なんて言わないさ。まずは、自分が家族を好きな事を打ち明けてみろよ。案外、他にも「実は……」って子がいるかもな。君が家族に不満ある子に「家族嫌いなんて信じらんない!」とか否定しなきゃ、それでいいんじゃないの、って俺は思うぜ」
 その言葉に――ケルベロス達の言葉に、『美優』は叫んだ。それは悲鳴のようでもあり、泣き声のようでもあった。鬱屈した感情が、拒絶とは違う道をしめされたことによる、救いの道を示されたことによる、喜びの発露のようであった。
 しかし、まだ『美優』は戦いをやめる事はなかった。振り上げられた拳が、アーデルハイトへと叩きつけられるが、しかしその力は最初の一撃とは違い、あまりにも軽い。
「頃合いね。悪い夢はここまでよ」
 アーデルハイトは、武器を振るい、『美優』を振り払った。同時に、刃蓙理の刃が斬りつけられ、『美優』の傷口から血液のごとくモザイクが噴出した。
「もうすこし、だね」
 リリベルとシロハが同時に駆けた。リリベルが放つ捕食形態のスライムが『美優』に食らいつき、飲み込む。食いちぎられた部分へ、シロハは爪の一撃をお見舞いした。悲鳴をあげた『美優』がたたらを踏む。
「トドメでやんすよ……!」
 仁の体を、オウガメタルが包み込む。放たれたメタルの拳の一撃が、『美優』をとらえた。衝撃が『美優』の体を駆け抜ける。『美優』は内側から爆発するようにモザイクとなって爆ぜ、この世から消滅したのであった。

●静寂の訪れ
「あー、疲れた……」
 とんとん、と肩などを叩く仕草をしつつ、リリベルが言った。
 ドリームイーターを撃退したケルベロス達は、戦場となった教室をヒールし終えた。余談だが、トリュームが最初に割った窓ガラスも、直した。
「うんうん、お疲れ様」
 当のトリュームはどこ吹く風、である。
「やれやれ、ですね……彼女は、NOと言う相手を間違えましたか……」
 と、刃蓙理が言った。美優がNOを突きつけるべき相手は、フレンドリィであるべきだった、という事だ。
「フレンドリィ、か。いい加減尻尾を捕まえたい所だが……」
 来ていた学生服の襟に手をやりつつ、フレデリが言った。
「とはいえ、事件を解決できたわ。今は素直に喜びましょう」
 と、アーデルハイト。
「そうですね。被害者も無事、助けられたのですから」
 ジュスティシアが頷いた。
 美優は未だ目を覚まさないが、直に目を覚ますだろう。教室に横たえられた彼女を心配げに見つめながら、
「……わしらの言葉が、美優にちゃんと伝わっておればよいのじゃが……」
 と、括。
「大丈夫でやんすよ」
 仁が答えた。
 ケルベロス達の想いは、しっかりと伝わったはずだ。
 少女が抱いた、ささやかな悩み――それはきっと消え失せて、彼女の幸せな日常がやってくる。
 そう信じて――ケルベロス達は、少女の目覚めを待つのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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