東京六芒星決戦~その星を描き

作者:洗井落雲

●首都決戦
「皆、集まってもらって感謝する。それでは、今回の作戦について、説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は集まったケルベロス達へ、そう告げた。
 先日のクロム・レック・ファクトリア攻略作戦は、ケルベロス達の活躍により、ファクトリアの破壊、そしてディザスター・キングの撃破と、大きな戦果をあげた。
 そんな中、警戒活動を行っていた阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)らの活躍により、死神の大規模儀式が行われることが判明したのだ。
「最近頻発していた死神達による事件……それが集約された大儀式。都内の六ケ所で同時に儀式が行われる、『ヘキサグラムの儀式』だ」
 儀式が行われる場所は、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所。
 そしてこの六か所は、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点となる場所である。ヘキサグラムとは、六芒星の事であるのだから、なるほど、その名の通りの儀式のようである。
「各地には、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵などの戦力が存在する。まさに集大成というわけだ。さらに、第四王女レリ直属の軍団も加わっているうえに、どうも竜十字島のドラゴン勢力の動きも見える。かなり大掛かりな作戦のようだ」
 さて、ケルベロス達の今回の作戦であるが、この判明した6つの儀式場に攻撃を仕掛け、儀式を阻止する、と言う物だ。
「君達には、これら6つの儀式場の中から1つを選び、攻撃目標としてほしい。儀式は、6つの儀式場、その全ての儀式を阻止しなければならないから、他のチームとも話し合い、各地に十分な戦力を派遣できるようにした方がいいだろう」
 各儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神や、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、防衛を担っている。
 ただし、レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が担当しているようだ。
 儀式場内部には、それぞれネレイデス幹部が配置され、儀式を遂行している。
「ネレイデス幹部は、儀式の遂行に注力している。どうやら、儀式を行っている際は、何らかの妨害が発生するまで、自らの意思で儀式を止めることもできないようだ。妨害――つまり、ネレイデス幹部が少しでもダメージを受ければ、儀式の維持は出来ない。よって、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達。ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、儀式の阻止は成功する。作戦としては、それで成功という事になる」
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始するという。
 防衛部隊の死神戦力は戦いを続けるが、儀式中断の7ターン後になれば、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまう。
 もし、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破しなければならない。
「とは言え、ネレイデス幹部はただでさえ強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化されてしまう。とてもではないが、単独チームでの撃破は難しいだろう。それに、周囲に護衛の戦力が残っていたり、外縁部の防衛部隊が増援として殺到している状況では、幹部の撃破はさらに難しいと言える」
 こちらの作戦目標は、あくまで儀式の阻止である。であれば、無理に幹部の撃破を狙わず、儀式を中断させた後は撤退を優先するのも一つの手だ。
 ただ、ネレイデスの幹部が多数生き残っている場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性は、捨てきれない。
「可能な限り、この場で撃破しておきたい、というのが本音ではあるが……危険、かつ、難しい道のりになる。判断は、君達に任せるよ」
 外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を、分散して警戒している。その為、突破する際に戦うのは数体から10体程度となるだろう。
 白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度となる。
 また、外縁部から脱出しようとする場合は、攻撃の対象外となるようだ。
 ただし、全てのチームが儀式場に突入し、これ以上の増援は来ない、と敵が判断した場合は、外縁部の戦力が儀式場内に増援としてなだれ込んでくる可能性はある。
 儀式を行っているネレイデス幹部と、儀式場内部にてネレイデス幹部を守る護衛役は、次の通り。
 築地市場は、ネレイデス『巨狼の死神』プサマテー。
 護衛戦力は、『炎舞の死神』アガウエーと、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』。
 豊洲市場のネレイデスは『月光の死神』カリアナッサ。
 『暗礁の死神』ケートーと、数十体の屍隷兵『ウツシ』が護衛戦力だ。
 国際展示場は、ネレイデス『名誉の死神』クレイオー。
 『無垢の死神』イアイラと、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を護衛戦力としている。
 お台場のネレイデスは、『宝冠の死神』ハリメーデー。
 護衛戦力は星屑集めのティフォナ。死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
 レインボーブリッジのネレイデスは、『約定の死神』アマテイア。
 ここには護衛戦力として第四王女レリがおり、さらに絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が配置されている。
 東京タワーのネレイデスは、『宵星の死神』マイラ。
 護衛戦力として『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れているようだ。
「儀式を阻止するだけならば、護衛戦力全てと戦う必要はない。だが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか、或いは、ネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断してくれ」
 そう言って、アーサーはヒゲを撫でた。
「今回の儀式は、かなり大規模、かつ重要度の高いもののようだな。かつてドラゴン勢力が行った、魔竜王の復活作戦にも匹敵すると考えられる。必ず阻止してほしい。そして、皆無事に戻ってきてくれ。作戦の成功と、君達の無事を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのであった。


参加者
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●赤き塔を臨み
 東京タワー。悠然とそびえたつ、東京のシンボル。
 その赤い身体は、青い空によく映えるものであった。だが、この日、その姿を汚す様に、無数の異形がその周囲を漂っていた。
 漂う異形――死神達は、東京タワーを守る様に、辺りを巡回していた。東京タワーを守る、とは、間違ってはいないが正しくもない。死神達が守っているのは、東京タワー内部を占拠した存在、『宵星の死神』マイラ達だ。
 と、漂う死神の一体が、何かに気付いた様子を見せた。しかし次の瞬間には、光線が死神を貫いた。死神は小さく悲鳴をあげながら消滅した。
「突破しまス……! 手薄な所ヘ!」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が声をあげる。今の光線は、エトヴァの放ったものだ。同じかその前後したタイミングで、無数のケルベロス達のグラビティが飛び交っていた。
「一気に突っ込むよ!」
 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)が手近な死神一体を、力強く殴りつけた。吹き飛ばされた死神が地に落ち、消滅させる。
「走れ! こんな所で足止め喰らってられないぞ!」
 『想蟹連刃』の刃を振るいながら、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が言った。
「応! 駆けるぞ、『ラハブ』!」
 ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)は、ライドキャリバー『ラハブ』に騎乗。ラハブはドゥマの言葉に応じるように、激しくエンジン音を鳴らした。爆音とともに、ラハブはトップスピードへ。
 妨害する死神達を打ち、撃ち、討ち、ケルベロス達は外縁部を一気に駆け抜ける。目前に迫る、東京タワーの入り口。
 ――ここは私達に任せて先に行ってなの。背中から、そう、声が聞こえた。援軍を押しとどめるために、外縁部に残るチーム。そのケルベロスからの言葉だ。
(「そっちは頼む……!」)
 真琴は胸中でそう呟き。残るものにその場を託し、ケルベロス達は東京タワー内へと進入した。
 東京タワー、フットタウン。タワーの足元に存在するこの建物は、様々な商店と、展望台……メインデッキへと続く階段の入り口が存在する。
 常なれば、観光客などで賑わっているその場所は、不気味に静まり返っていた。当たりには、水たまりのような物が、ぽつりぽつりと見える。光の関係からか、黒く見えるその水たまりは、死神達の置き土産なのであろうか。
「展望台への階段は、フットタウン屋上デス……!」
 エトヴァの言葉に、ケルベロス達は再び走り出した。しかし、そんなケルベロス達の行く手を阻むように、辺りから、ある種の可愛らしさを感じさせるデザインの死神達が現れた。
「チッ、アメフラシどもか……!」
 嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)が舌打ち一つ、言った。手にしたガトリングガンを構えるや、辺りかまわず発砲する。ガトリングガンの直撃を受けたアメフラシが、ぎゅぶぶ、と声をあげながら消滅する。
「殴り甲斐はなさそうなツラだな。銃弾で満足してくれ」
 タツマが凄絶な笑みを浮かべ、さらに照準をアメフラシたちへと向けた。
 アメフラシを排除しつつ、フットタウン内の階段を駆け上がる。階段の上から、転がり落ちるように現れたアメフラシを、
「でぇぇりゃあああっ!」
 赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)はルーンアックスを振るい、殴り飛ばす。吹き飛ばされたアメフラシが壁に叩きつけられ、きゅう、と声をあげ消滅。
 そのまま階段を駆け抜け、フットタウン屋上へと到達する。中央付近には、展望台へと向かう階段が存在する。あと一歩。しかし、そんなケルベロス達を妨害せんと、新たなアメフラシたちが姿を現した。
 きゅいきゅいと声をあげ、アメフラシたちがケルベロスへと襲い掛かった。青、赤、黄、それぞれの個体ごとに、特有の攻撃を仕掛けてくる。例えば青いアメフラシなどは、頭部に浮かぶ球体を投げつけてくる。
「死にぞこない共が、その程度の攻撃で……!」
 ドゥマが『鉄槌』を振るい、アメフラシの攻撃を受け止め、いなす。
「死神の儀式を完遂はさせません!」
 『Deliberationem de Atropos』をかざし、シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)が言った。途端、上空より放たれた光が、アメフラシを包み込み、そのまま消滅させた。『Lumen de Purificatione(ジョウカノヒカリ)』――その名のままに、アメフラシはシアライラの光により、次々と浄化されていく。また、傍らに立つボクスドラゴン『シグナス』も、主に負けじと、ブレスを吐き出した。アメフラシがブレスに包まれ、その姿を消した。
「治療します、無理はしないでください!」
 リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)の放ったオーロラのような光が、ケルベロス達を包み、優しく癒す。戦いは長丁場だ。癒せる傷は、速やかに癒しておきたい。
「死の運命を覆し、生と死のサイクルを安く扱う死神たち……お前たちの企てはここで終わりだ」
 ドゥマはラハブと共に、アメフラシへと肉薄した。勢いを乗せた鉄槌の一撃がアメフラシを吹き飛ばし、ラハブはアメフラシを、そのタイヤで引きつぶした。
「見つけた、階段だ!」
 真琴が指さす先に、展望台へとつながる階段があった。ケルベロス達は一気に飛び込む。その先に待つのは、何処までも続くかのような、長い階段であった。
「アメフラシ……まだいるみたいだね」
 と、緋色。その言葉通り、アメフラシたちは階段の手すりの影などから、うじゅりうじゅりと姿を見せていた。
「大丈夫、まだまだボク達は負けないよー!」
 ぱしっ、と拳を打ち鳴らし、涼子が言った。
「援護はお任せください……皆様が帰還出来るよう、力を尽くすのが私の役割です」
 リコリスの言葉に、仲間達は信頼のまなざしを向け、頷いた。
「さて、第三ステージって所か」
 にいっ、とタツマが笑い、武器を構える。合わせるように、仲間達もまた、武器を構えた。
「駆け抜けましょウ」
 エトヴァの言葉を合図に。ケルベロス達は階段を登り始めた。

●展望台の死神
 駆ける。打つ。駆ける。撃つ。駆ける、討つ、駆ける、討つ、討つ、駆ける、駆ける、駆ける――。
 アメフラシと戦いながら、ケルベロス達は階段を一気に駆け上がった。やがてケルベロス達の前に東京タワー展望台――メインデッキがその姿を現す。
「あそこで、儀式が……!」
 シアライラが言った。ケルベロス達は展望台入り口にて、一呼吸、待った。他のチームの準備が完了するのを確認し、警戒しながら、ゆっくりと、展望台へと足を踏み入れる。
 途端、衝撃がケルベロス達を襲った。ケルベロス達を待ち構えるように布陣していたアメフラシたちによる、一斉攻撃であった。
「痛たっ!」
 アメフラシたちの攻撃を受けた緋色が、思わず声をあげた。
「待ち伏せか……!」
 と、ドゥマ。
「悪あがきだ。蹴散らして突破するぞ」
 タツマの言葉に応じるように、ケルベロス達は一気に反撃。アメフラシたちはなすすべなく全滅する。
 ケルベロス達は再び駆け出した。展望台の階段を駆け上がり、二階へと到達する。果たしてそこには、二体の死神の姿があった。
 白い服を纏い、何かに集中する様子を見せるもの――マイラ。
 そしてそのマイラを守る様子を見せる、黒衣の死神――ドーリス。
「見つけた……っ!」
 涼子が言った。ケルベロス達の姿を認めたのか、ドーリスが警戒するように、その大鎌を振るう。周囲に漂うアメフラシたちが、ふよふよと、マイラとドーリスを守る様に布陣した。
「ドーリスを引きはがします! 行きましょウ!」
 エトヴァの言葉に、ケルベロス達は頷いた。駆ける勢いのまま、ドーリスへと攻撃を開始する。
 突入班4チームによる攻撃が始まった。ケルベロス達はチームを二つに分け、マイラとドーリスをそれぞれ攻撃する。
 別チームの攻撃によって、マイラは儀式を中断した。作戦自体は、この時点で成功となった。だが、出来ればマイラは、ここで落としておきたい。
 作戦は第二段階へと移行した。マイラの討伐を目指し、ケルベロス達は奮起する。
「援護には行かせませン……!」
 エトヴァが叫び、放つ火球が爆発する。アメフラシとドーリスを巻き込み、炎があたりを嘗め尽くす。
「炎なら、ボクのも食らえ! 『地摺り焔鮫(ジスリホムラザメ)』っ!」
 涼子が蹴りを放つと、そこから炎のグラビティが放たれた。炎は地を這う鮫のごとく敵へと食らいつき、その腹の内へと飲み込む。
「お前らのたくらみ、阻止させてもらう!」
 真琴が叫び、想蟹連刃を振るい、守護星座を描いた。輝く星座の光がケルベロス達を包む。
「アメフラシもいい加減見飽きたんでな。此奴で最後にさせてもらうぜ」
 タツマがオウガメタルにて具現化した黒い太陽。黒き光の圧力が、アメフラシとドーリスをじりじりと焼く。
「くらえっ!」
 緋色がドーリスへと飛び掛かる。放たれた跳び蹴りを、ドーリスは鎌で受け止めた。反動を利用し、緋色が飛びずさる。
「儀式が成功してしまえば、たくさんの方の命が脅かされることになります……そんな事は、絶対に……!」
 シアライラの決意に、シグナスもまた、吠えて答えた。シアライラの描く守護星座と、シグナスの属性が、ケルベロス達を援護する。
「この儀式も、ドーリス様達なりの正義があるのかもしれませんけれど……」
 リコリスもまた、守護星座を描き、仲間達を援護する。
「……申し訳ありませんが、阻止させて頂きます」
「地獄の獄卒が、お前たちを捕えに来たぞ」
 鉄槌を振るい、ドゥマはラハブと共に戦場を駆けた。炎を纏う、ラハブの突撃。同時に振るわれる鉄槌の一撃が、アメフラシを吹き飛ばす。
 幾度となく放たれるグラビティの応酬。だが、マイラをしとめられぬまま、時間は少しずつ、経過していく。
「決定打にかけるか……!?」
 真琴が悔し気に呟きつつ、オラトリオヴェールを展開する。敵の攻撃もまた、苛烈だった。
「チッ……ドーリスもまだ余裕です、ってツラだな……」
 タツマがぼやき、ガトリングを乱射する。ドーリスはそれを、激しく回転させた鎌で受け止める。致命打とは、まだならない。
 タイムリミットまでは近い。だが、死神達はどちらも健在だ。
 ――4分! 仲間たちの声が響いた。4分の経過。もはや、時間はなかった。ケルベロス達は決断を迫られた。すなわち、この作戦を続けるか、マイラ、或いはドーリスへと攻撃を集中させるか、だ。
 だが、ケルベロス達の腹は決まっていた。マイラは必ず、ここで仕留める。
 ――マイラに集中攻撃!
 だから、次に聞こえた仲間の声にも、ケルベロス達は即座に応じることが出来た。
 ケルベロス達は、一斉に、攻撃目標を切り替えた。マイラへの集中砲火。ドーリスが、一瞬、焦りの表情を見せた。ドーリスは回復の援護行動を行い、残ったアメフラシたちにケルベロスを攻撃させる。
 殺到するアメフラシたちの攻撃が、ケルベロス達の体を傷つけた。しかし、ケルベロス達はひるむことなく、マイラへの攻撃を続けた。
「……生きたなら、死ね――」
 ドゥマは虚空より、巨大な銀のシャベルを取り出した。それを空間へと突き刺す。途端、それを合図に空間は『埋葬された』。埋葬された空間は歪み、まさに球状の棺桶と変わる。中には炎が蠢き、それは太陽のようにも見えた。『死の沈黙(セイジャノギム)』と名付けられた、ドゥマの技である。
 埋葬されたマイラは、しかしまだ健在であった。だが、その身体にはようやく、ほころびが見え始めた。苦痛に顔をしかめる。あと一息だ。ケルベロス達は確信した。
 ――5分!
 仲間の声が響く。5分経過。ドーリスは再び、回復を行い、アメフラシたちを指揮する。だが、4チームによる一斉攻撃に、ドーリスの回復量では物足りない。
「やっつけよう! 絶対に!」
 緋色が叫んだ。
「止まらない……絶対に! ここで倒すんだ!」
 涼子が叫んだ。
「ここは、東京のシンボル。人々の生活の証。返してもらいます――!」
 シアライラの言葉を合図に、ケルベロス達はグラビティを放った。
 ケルベロス達による、再度の猛攻! これが最後とばかりの、全力の攻撃! 4チームによる攻撃は、ついにマイラの命に、その手を伸ばした。
 猛るグラビティの奔流に、マイラはついに、地に崩れ落ちた。
「……マイラ……そんな……!」
 ドーリスが、悲痛な声をあげる。
「――Hoeren Sie ruhig zu.」
 戦場に、エトヴァの歌声が響いた。グラビティを帯びた、行動阻害の音波が、ドーリスへを包む。
「ドーリス殿、あなたに聞きたい事がありマス。……プロノエー殿は今、何処で、何をしていますカ?」
 エトヴァの言葉に、ドーリスは頭を振った。答える義理はない、と言った所だろう。
「たぁぁぁぁっ!!」
 気合の言葉と共に、涼子がドーリスへと迫る。振りかぶった拳を、ドーリスは鎌で受け止めた。ガンッ、という鋭い音が響き、ドーリスが顔をしかめた。
「お前も、逃がさないッ!」
 真琴が放つ御業。その炎弾がドーリスを狙う。ドーリスは慌てて回避するが、そのスカートの裾に焦げた穴をあける。ドーリスが顔をしかめた。
「お気に入りだったか? まぁ、安心しな。すぐに体の方をお揃いにしてやる」
 タツマの竜砲弾が、ドーリスを狙う。ドーリスはその釜で慌てて受け止めるが、衝撃のまま激しく後方へと吹き飛ばされる。
「いちげきひっさーつ!」
 追撃とばかりに、緋色がジャンプ、武器を投げつけた。川越市で抽出したというグラビティチェインを纏わせた、武器の投てきは、目標に突き刺さるや、大爆発を起こす。『PS-CC(パニッシングストライクコエドシティ)』である。爆炎と粉塵が舞い散る。その晴れた先に、しかしドーリスは健在だった。
「まだ、まだです!」
 シアライラは氷結の槍騎兵を召還した。氷の騎兵は雄たけびを上げ、ドーリスへと迫る。氷の槍がドーリスへと迫り、ドーリスは激しく切り結んだ。
「――貴方に、葬送曲を」
 その、氷の騎兵よりもはるかに冷たいイメージを感じさせる、リコリスの『氷哀の葬送曲(ヒョウアイノレクイエム)』があたりに響いた。深い深い悲しみを歌う、冷たく静謐な旋律が、ドーリスを包んだ。
「突撃する!」
 歌声によるダメージに顔をしかめるドーリスへ、ドゥマの突撃――接触したドーリスが、激しく吹き飛ばされる。しかし、ドーリスはふわり、を身をひるがえすと、
「……時間……」
 と、呟いた。ドーリスはそのぼんやりとした顔を、しかし今だけは明確な怒りに歪め、ケルベロス達をみやると、
「……この借りは……必ず……」
 そう言って、虚空へと姿を消した。
 だが、儀式は阻止し、マイラは討ち取った。
 ケルベロス達の、勝利の瞬間だった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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