●かつて滅びた十二創神をサルベージする『堕神計画』
「クロム・レック・ファクトリア、それにディザスター・キングの撃破に成功したな。ディザスター・キングなんかは、軍団を率いてホントなっかなかシツこく名前を聞くことも多かった大物だ、本当にお疲れさん。とっても皆エラかったぞーぅ」
手を緩く叩いてケルベロス達を出迎えた、レプス・リエヴルラパン(レポリスヘリオライダー・en0131)はゆるーく微笑み。
「で、まァ。忙しなくて申し訳無いンだが。ココに皆を呼び出したって事は次のお仕事の話だ。――警戒に当たってくれていた阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)クン達のお陰で、死神共の次の動きが把握出来たぞ」
最近多発していた、様々な勢力を巻き込んで行われた死神による一連の事件。
その集約とも言える大儀式が行われようとしている動きを感知した、と彼は言った。
「この地図を見てもらえるか?」
『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』。
片目を瞑ったレプスが手のひらの上に展開したのは、赤いマーカーが6つ施された東京都内の地図だ。
「これを、こうすっと……」
レプスが空中で指先を泳がせると、そのマーカーを頂点として赤い線が伸び。
描き出されたのは、晴海ふ頭を中心とした六芒星。
――『ヘキサグラムの儀式』。
「奴らはこの6箇所で儀式を行い、その膨大な魔力を持って『かつて滅びた十二創神』とやらをサルベージしようとしているようなんだ」
今回の事件では戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神。更には死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されている。
「デウスエクス共が雁首を揃えてデカイ事をしようとしている所を、皆には挫いて来て貰うぞう。選べる戦場は6つもある、選び放題だなァ」
レプスが茶化して見せるが、その瞳には真剣な色。
6つの儀式が同時に行われる、という事は。必要な戦力を見て6つに分けて配置する必要がある、という事だ。
「儀式場の外縁部には……。数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入を阻止しようとしているようだ」
手のひらの上の資料が切り替えながら、レプスはケルベロス達を見渡し。うんざりするくらいの敵数だよな、と肩を竦めた。
「でも今回の儀式は、特に集中力が必要な儀式なようでなァ。儀式を行っている幹部共は少しでも攻撃をされると、儀式を維持する事が難しくなるらしい。つまりは、外縁部の敵を突破して、儀式中心部でネレイデス幹部にダメージを与えられりゃ作戦成功って事だ」
儀式を行っているネレイデス幹部たちと、それを護る護衛役達は――。
築地市場では『巨狼の死神』プサマテーが儀式を行い。『炎舞の死神』アガウエーが護衛として、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』と待ち構えている。
豊洲市場では『月光の死神』カリアナッサが儀式を。『暗礁の死神』ケートーと、数十体の屍隷兵『ウツシ』がそれを護る。
国際展示場で儀式を行うのは、『名誉の死神』クレイオーだ。ここには『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を引き連れている。
お台場では『宝冠の死神』ハリメーデーが儀式を行う。星屑集めのティフォナが、『死神流星雨』を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
レインボーブリッジでは『約定の死神』アマテイアが儀式を行っているが――、ここには護衛としてエインヘリアルの第四王女レリが出張ってきている。絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と一緒に、十体程度の白百合騎士団一般兵が儀式を護っている。
そして東京タワーでは『宵星の死神』マイラが儀式を。護衛として『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体を引き連れているようだ。
資料を一度閉じたレプスが、両目を開き。
「ここからがまた少ーし大変な話だが……、儀式が中断された場合は幹部共は逃げの一手だ。中断してから7分もすりゃ、生きている死神勢力は撤退するだろうな」
つまりネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破しなければならないと言う事なのだが――。
「仮にも幹部を名乗っているだけあって、奴らは強敵だ。儀式場内部では更に戦闘力が強化されているみたいで、単独チームで倒す事は難しいだろうと予測されている」
ましてや周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到した場合は更に難しい事となるだろう。
状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきとなるかもしれない。
「……ただし。ネレイデスの幹部を全員そのまま逃がしてしまうと、再び今回のような儀式を行う可能性がある。本当に難しいお願いだと俺も理解をしちゃァいるが……。可能な限りで良いが、幹部を討ち取ってきて欲しいとは思っている」
儀式の阻止だけならば、護衛を全て相手取る必要は無い。
しかし幹部の撃破を目指そうと言う場合は。護衛の撃破、或いは護衛を幹部から引き離す必要があるだろう。
「とは言え無理は禁物だ。ケルベロス達全体の戦力と戦場の状況を見つつ、上手に判断して欲しいぞ」
とレプスは付け足してから再び資料を開いた。
外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、目的は『侵入者の阻止』だ。
儀式場周囲の全周を警戒している為、突破する際に交戦する事になるのは数体。
多くとも10体程度となるだろうと予測がされている。
「ああ、そうそう。レインボーブリッジでは外縁部を護衛している白百合騎士団一般兵も居るンだが、こちらは3名の小隊単位で警戒を行っている。コイツらと交戦する場合も、一度に当たるのは多くとも6体程度になるだろうなァ」
敵達が警戒しているのは、あくまでも『侵入者の阻止』だ。逆に脱出しようとする場合は、妨害をせず逃してくれるだろう。
「だが。儀式場に集まった全チームが突入した上で、増援がもう来ないと外縁部の敵どもが判断した場合は、外縁部の戦力が儀式場内に増援としてなだれ込んでくる可能性も在りうる。その辺りも注意が必要だろうなァ」
一通り言葉を告げ終えると、レプスは再び資料を閉じてケルベロス達を見渡した。
「今回の儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に勝るとも劣らないと予測されている。――戦力の分配と、チームごとの動きが本当に重要になってくるぞ。お前たちの最良の結果を、是非見せてくれよな」
無事帰ってきたらまたお菓子をやろう、とレプスは瞳を細めて笑ってみせた。
参加者 | |
---|---|
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668) |
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674) |
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206) |
王生・雪(天花・e15842) |
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609) |
九十九折・かだん(スプリガン・e18614) |
ティユ・キューブ(虹星・e21021) |
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360) |
●
「……ハ、こりゃ壮観だ」
「わかっていたことだけれど、場所も広いし敵も多いわね」
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)は、唇の片端を歪ませ。
横に並んだリリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)が呆れたように呟いた。
国際展示場周辺は、まるで水槽を失った水族館の様であった。
冗談みたいな光景の中。
魚影を裂き駆ける、総勢9匹のサーヴァントと48名のケルベロス達。
燐光を散らしながら、殺到する空を泳ぐ魚。
チーディとリコリスはその身を盾とし、雪崩れ込む魚群を抑え込む。
「止まるんじゃねぇぞ!!」
「行って来いよヤロー共! 全部ブッ壊してこい!」
魚影を強引に蹴り開いた、豹迦が吠える。
「そちらは頼みます。どうか無垢の死神に裁きを」
捧げたリコリスの祈りは、ケルベロス達を送り出す加護となろうか。
「殺したい奴、きっちりぶっ殺してきな。文字通りの雑魚どもに邪魔はさせねえからよ」
竜人の激励を背に。
彼らが切り開く血路は、先を行くケルベロス達の体力を十分に温存したまま駆け抜ける事を可能とする。
「ありがとうございます、――必ずや阻んでみせましょう」
既に多くの犠牲を生んできた者達の底巧を、海容する訳には行かぬと。
王生・雪(天花・e15842)の得物を握る手に、知らず力が籠もった。
●
上り下り2台並んだエスカレーターも、止まっていればただの階段だ。
儀式場へと共に向かう仲間達の背を追って、電気の止まったエスカレーターを駆け上る。
長い長いエスカレーターを抜ければ、踊り場が広がり。先に続くのは、儀式場へと続く更にエスカレーター。
「ア……ァ!」
踊り場に防衛ラインを引く数多の影が、軋む声をあげて一斉にケルベロス達を睨めつける。
それはイアイラに心を、命を、姿を奪われた屍隷兵。
『寂しいティニー』達。
絹と翼猫が大きく広げた羽根一杯に、加護の風を孕み。
「さて、道を開けてね」
飛ぶ為の羽根は無くとも、駆ける事は出来る。
それが歌声ならば、どこまでも届く事だろう。
逡巡を肯定するリリスの迷いの歌声が、加護の風と共に戦場を駆ける。
「暫く海底で鈍ってた分、体を動かしたいと思って居たとこだが。――これは、八つ当たり相手にゃ困らんな」
レスターの銀瞳の奥で滾る熱が揺れ、右腕に宿る銀の獄炎が燻る。
構えるは骸。竜骨の巨剣。
「確かに相手には困らなさそうだね」
脚を止める事無く。
踏み込んだティユ・キューブ(虹星・e21021)が、生み出した星の輝きを纏いながら肩を竦め。
箱竜のペルルがティユの肩にしがみついたまま、ぷうと属性の泡を膨らませる。
「くひひ、本当にね」
一気に跳躍した九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は紅光を片手に、身を低く構えどこか楽しげに笑った。
道は一つとなれば、強行突破。
「凜冽の神気よ――」
踏み込む雪の一太刀は、冴え冴えと。
斬撃を受けて後退するティニーに、ケルベロス達が更に連撃を叩き込み。
一点突破で群れに切り込みながら、同時になぎ倒す。
勿論、ティニー達だって木偶では無い。
一瞬崩れた陣を立て直しながら、彼らを追う。
エスカレーターの段を、手すりを。
踏み込み、蹴り上げ。
逃げるケルベロス達は得物を振るい。追いすがるティニーを蹴落とし、エスカレーターを駆け上る。
「この先が儀式場だ、さあ皆早く」
地図を頭に叩き込んで来ているエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)が世界樹の王で円を描けば、炎が敵を舐めた。
一気に敵の防衛ラインの後ろまで、突っ切り駆け上ったケルベロス達。
エスカレーターを登りきれば、この奥は儀式場につながるロビーだ。
「ここの配下って全員、イアイラに殺された少年たちなのでしょうか……?」
ふとルーシィドの脳裏に過った先の事件が、彼女の胸を締め付ける。
その事件では、彼らは全てイアイラに殺されサルベージされた少年達であった。
「……ギッ!」
ここは戦場。
一瞬でも思惟してしまったルーシィドの背を、敵は逃しはしない。
ティニーがその獣腕を掲げ――。
「みんなでとっても楽しそう。もしかしてお友達同士なの?」
そこへか細く響く、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)の心細げにすら聞こえる声。
生まれてこの方、寂しいなんて感情は抱いた事がないけれど。
「……私も仲間に入れてくれる? ……あ、や、やっぱり無理よね」
孤独を持て余した少女のように口籠ったリィは、紅柘榴色の視線を地に落とす。
一瞬。その『孤独』の匂いに親近感を抱いたのだろうか。
ピクと一瞬、異形の鉤爪が跳ねた。
「でも、やっぱりそれは見過ごせないわ」
ここは戦場。
リィはその隙を逃さず一気に踏み込むと、ルーシィドを背に庇い。
箱竜のイドがすかさず、主人に加護を与え。オーラを纏った両腕をガードにカチ上げると、その軌道を反らした。
そこに降ってきたのは、エスカレーターの手すりを一気に跳ねた九十九折・かだん(スプリガン・e18614)だ。
巨大な角の前に掲げた腕に纏う地獄の靄は、忽ち黒い噴火の如く。
――さあ、一斉、に。
黒き地獄が燃える、燃える、燃えろ。
「この群れはここで抑える」
ティニーの頭を蹴り落とし、黒炎を撒き散らしながら。
先行く仲間達に背を。
かだんは更に宙を蹴って、十数体のティニー達に向き直る。
「どうか皆は先に」
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)も、ステップを踏むとかだんの背を護るように立ち。
追いすがるティニー達に立ち向かう形で、世界樹の王を回し構えた。
「ありがとうございます……!」
儀式場に向かう仲間達を見送り。
目の前には決して油断の出来る敵とは言えぬ、大量のティニー達。
「こりゃ無双だね」
「敵にも良いイベントスペースっていうのは、なんとも笑えない話だけれどね。――思い切り暴れても良いよ、九十九屋」
そのためのフォローは、僕がしよう。
「勿論ッ!」
軽口を叩くティユと幻は、同時にエスカレーターを登ってきたティニーを階下へと蹴り落とし。
「此処は人の地、生者の地――」
先を行く仲間達の為に。彼らが心おきなく戦う為に、この場を死守する事を誓う。
「死と神と、死した筈の命には、お引き取り願いましょう」
活気溢れる地を取り戻すべく、雪は日本刀をひたと構え。
悲しき獣達を、睨めつけた。
「なあ。今度はああいうマネ、止めろよ」
「……ああ、今度はわがまま言わねえよ」
背を任せたエンデの言葉に。かだんは大きな角を揺らして、大丈夫、と。小さく頷いてみせた。
なんたって、地獄で補っていようがはらわたは一人ひとつしかないものな。
●
同じ顔、巨大な獣の腕に、いくつもの獣をあわせた姿。
巨大な腕を振るう彼らの一撃は、外を泳ぐ魚達よりもずっと力強い。
名の無い翼猫が、輪を放つ。
「あなたたちはたくさんでいいわね」
敵を引きつける為のリリスの言葉。
それは、演技でもあり、またはリリスの吐露だったのかもしれない。
「私はたくさんは望まないわ。一つでいいの。私を寂しくさせない一つが欲しい」
いつか離れるかもしれない、何かを受け入れる事はひどく怖い事。
だから、私は一つでいい。ねえ、あなたも寂しいの?
「なら、傍に、寂しい私の傍に居て」
柔く儚げに口元だけで笑みを浮かべたリリスは、そのまま流星を纏った蹴りをティニーに叩き込み。
目を丸くしたティニーは、その狂爪を掲げる。
「こっちよ」
リリスへと振りかざされた獣腕の間合いを捉えて飛び込んだリィは、イドを思い切り投げつけてからオーラを纏った腕を突き出した。
振り落とされた腕を、受け止めた衝撃に。
後退した形の轍を地に生んだリィは、顔を上げるとバックステップを踏み。間髪を入れず、先程まで彼女が立っていた場所へと叩き込まれる獣の拳。
外した一撃に、ティニーが歯噛みするかのようにぐるると唸る。
「お見事、……と、こちらもしっかり支えなくちゃね」
ティユが思わずパチパチと手を叩き、同時に星の加護が仲間を包んだ。
揺れる虹色真珠の髪。
目の前にカチ飛んできた拳から距離を取りながら、ティユは瞳を細める。
「恋は盲目、とは言うけれど……、あまりに猪突猛進だね」
「――手向けの花は自分で捧げろ」
ロビーの壁を蹴って。跳躍したエンデがその腕を胸の前で振るえば、綻ぶ蕾。
青、蒼、碧。
ティニーの血を啜り、肉に根を張り、咲き誇る青き神の花。
人に命を捧ぐ程、恋をする彼らの事は理解ができない。
ましてや、彼らの孤独を共有する演技など、エンデには出来はしない。
――ならば、せめて刃であろう。
「レスター、後ろ!」
は、とエンデが迫りくる敵に知らせ、吠えた。
「……ぐる、る!」
青花に苦しみながら。なおもレスターに牙を剥くティニーの一撃は、そのままレスターの腕を貫き。
ぱっと散る、紅色。
「そんなんじゃ、足りねえ。……届かねえ、よッ!」
右腕から銀の炎が伝う。
竜骨を覆う銀は、火柱を生み。
噛みつかれた腕を大きく振るい、そのままティニーを壁へと叩きつけるレスター。
たまらず口を開いたティニーに、下段に構えた巨剣を逆袈裟に振り抜く。
一秒でも早く。一体でも多く、殺す。
お前達も、おれも、望む事はそれだけであろう。
猛し刃は、ティニーを再び壁へと強かに叩きつけ。燃え上がり、ずるりとそのまま弛緩する敵の体。
「……全くキリが無いわね、死者に対してどうこう言っても仕方がないけれど」
べ、と血を吐き捨て呟くリィ。生命エネルギーを凝縮した林檎を唇に当てれば、その瞬間溶け消えて自らの体を癒やす。
絹が重ねて癒やしを運ぶが、それで疲労が全て取れるわけでも無い。
ケルベロス達を排除しようとする、彼らの人数は多く。
既に奪われた命であると言うのに。
恋をさせられた相手を護る為に、文字通り命を掛ける。
少しでも多く、少しでも早く。敵を排除するが為に増やしたアタッカーは、確かに敵を排除してはいた。
しかし、ディフェンダーの人数に対しての敵の多さは、ディフェンダーたるリィへの負担を表してもいた。
「でも、それだけ沢山戦えると言う事だね!」
オウガたる幻は、戦場に身を置く事を好む。
突き降ろされた獣爪を、紅光で反らし弾き。打ち合う。
ステップを刻んでその拳を躱し。衝撃が撒き散らした床材の破片が、頬を裂く事も構わず。
幻は獰猛な笑みを浮かべ、一歩踏み込んだ。
「全霊の剣で挑ませて貰おう!」
上段から舞うような動きで円を描き。そのまま敵の顎をカチ上げ、首を狙って返す刃。
幾度も幾度も、紅の筋を引いて連続で叩き込む剣舞。
反撃の意志を失ったティニーを蹴り倒すと、尚も奥へ攻める幻。
彼女を捉えんと大きく跳ねるティニー。
「九十九屋様、あまり斬り込みすぎますと危ないですよ」
「……お、っと!」
雪の声かけに、ティニーの間合いギリギリで踏みとどまった幻が、バックステップを踏む。
飛びかかったは良いが、避けられて床を重い衝撃が襲う。
重心を落としきったティニーに向かって。難を逃れた幻と入れ替わりで、敵の懐に飛び込んだ雪が、横薙ぎに日本刀を振るう。
緩やかな弧を描く月光めいた一撃は、確実にティニーの腱を裂き。
でかいものは強い、強いものは偉い。
体当たりじみた勢いで跳ね飛んできたのは、大きなヘラジカの女だ。
「私は異物だ」
強きものは、命の正しい循環を脅かす。
底なしの腹は、飢餓を訴え、思考力を蝕む。
「お前たちは、私の寂しさをわかってくれるか?」
目前のやつだって、本当は美味しそうにみえるような。
ああ、己の、己の怪物がはらわたの奥で疼く事が、苦しくて仕方がないのだ。
ティニーを引き止める為の独白なのであろう。
それとも、それは、かだんの。
「ぐ、る……」
一瞬言葉に耳を傾けてしまったティニーを、燻る地獄の炎を纏った剣が貫く。
ああ、おまえもおいしそうだな。
ティニーの一度命を失った体から、再び命が抜けてゆく事を確認すると。
かだんは、剣を引き抜いてバックステップを踏んだ。
どんな成れの果ても、この腹だけはお前たちを望んでやれるだろうに。
地獄の炎が、じりと燻る。
●
倒れた何体もの、ティニーが積み重なるように落ちている。
波が引くかのように。戦い始めた頃に比べて半数程に減ったティニー達が、踵をかえして逃げて行く。
細い道を選び、エスカレーターホールより始まり。
じわじわとロビーを後退しながら続いた、長い長い戦い。
一生続くかと思われる程長く感じる戦いが始まってから、11分。
「時間切れ、のようですね……」
肩で息を一つ、雪がふらふらと下りてきた絹を抱き寄せ。
「幹部の撃破はできたかな?」
どさっと大の字に倒れて、瞳を瞑る幻。
「どうだろうね。でも、少なくとも儀式は阻止はできたよ」
皆の傷を癒やして回るペルルと一緒に星光の癒やしを散らしながら、肩を竦めたティユ。
「くひひ……、そりゃ違いないけどね。うーん、儀式場の方、見に行ってみようか」
「うう……、行くわ、行くけれど。……少し休憩してからでもいいかしら……」
幻の提案に。肩で息をするリリスが、壁に体重を預けながら答えた。
翼猫が慌てて、癒やしの風を主人へと吹き。
ティユがくつと笑いながら、更に加護を重ねた。
「でも、増援が来なかったのは外のチームがよくやってくれたみたいね」
「ええ。全力で戦う事ができました」
リリスの言葉に、雪が凛と微笑んだ。
ふらふら、よたよた。一番満身創痍のリィ。
「とにかく……疲れたわ」
自らを癒す気力も無いと。倒れているイドを枕に、彼女は倒れ込む。
プキュみたいな音がする。
ふ、と。横を見れば、倒れた敵と同じ目線。
「……惚れた相手が性悪の死神で災難だったわね」
細く息を吐いてから、リィは開いたままのティニーの瞳を閉じてやる。
「せめて安らかに眠ると良いわ」
リィの呟きは、レスターの耳にも届いていた。
「……」
こいつらの生は何だったのだろうか。孤独な魂は何処へ潰えたのだろうか。
――死神の土塊遊びの為の物であったのだろうか。
「恋に生きて、彼女に応えるために生きたお前たちを、私は否定しないよ」
かだんが、囁いた。
彼らが、満ちたまま散る事ができたのならば。
「……ごめんな」
お前たちの恋は、ここで終わり。
お前たちは、孤独に還らなければ、いけない。
積み重なった彼らの死から、かだんは目を反らしはしない。
そこに悼み、慈しみこそあれ、同情は無い。
それは命を包む、自然律そのものであるからだ。
おまえはここにいたのだから。
「レスター、かだん、そろそろ行くぞ」
「……ああ」
エンデの呼びかけに、鹿角の女と、白い竜人は踵をかえして歩きだす。
先を見据えて歩いて行く事は、生きているものの特権なのだから。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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