東京六芒星決戦~星墜とし

作者:つじ

「クロム・レック・ファクトリアの撃破、ならびにディザスター・キングの撃破、お疲れさまでした!!」
 いつものようにハンドスピーカーを構え、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が、先日の戦いについて労いの言葉を贈る。
 彼がここに立っているのは他でもない、その後の調査活動に当たっていたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)等により、死神の大規模儀式が行われる事が判明したからだ。
「計画されているのは『ヘキサグラムの儀式』。最近多発していた死神による事件が集約された大儀式のようです!」
 この儀式は晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所、つまり『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所で行われる。
 今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
 更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。
「そこで、皆さんには判明した儀式上の一つに攻め入って頂きたいと思います! 少々長くなりますがお付き合い願いますよ!!」
 敵の狙いを挫くには、6つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければならない。ゆえに、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるだろう。
「敵は儀式場外縁部に多数の防衛勢力を置き、儀式場内の幹部を守る構えを取っています!」
 儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
 レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
 そして儀式を行っているネレイデス幹部としては、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されている。
 ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようだ。
「つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達! その後ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功となります!!」
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始する。儀式中断の7ターン後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうだろう。
 ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破する必要がある。
 ただ、ネレイデス幹部は強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しいだろう。
 また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では、幹部の撃破までは難しいかもしれない。
 状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきかもしれない。
 ただ、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので、可能な限りここで討ち取ることが望ましい。
 
「皆さんここまでは大丈夫でしょうか! 続いて敵の詳細情報になります!」
 外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から10体程度となる。
 白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度となる。
 また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要だろう。

 儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されている。
 築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
 豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を集めている。
 お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
 レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
 東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
「儀式を阻止するだけでしたら、護衛を全て相手取る必要はありません。しかし、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか或いは、ネレイデス幹部から引き離す必要があるでしょう!
 幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してください!!」
 また、儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断させて撤退させるような決断をする可能性もある。
 一つの戦場に戦力を集めすぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択、ネレイデス幹部を討ち取る機会が得られないという事もあるかもしれない。
「また難儀な状況ではありますが、皆さんならば切り抜けられると信じています! 是非とも、この儀式を打ち砕き、敵の鼻っ柱をへし折ってきてください!!!」
 気合の乗った大音声と共に、ヘリオライダーは一同を送り出した。


参加者
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
月井・未明(彼誰時・e30287)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)

■リプレイ

●六芒星の一角
 お台場、ウェストプロムナードのセントラル広場。ヘリオライダーからの情報通り、そこは死神の一団に占拠されていた。
「儀式……ね。凄く興味がそそられるけど……」
 街路樹の一つの上にしゃがみこんで、夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)がそう呟く。
「そうは言ってられませんか。やれやれ、忙しない事で」
「深海での戦いが終わって、やっと一息つけると思っていたんですが」
 それに同意するように、葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)もまた口を開いた。深海に出向いた大規模作戦から全然時間が取れていないのだから、それも当然と言えるだろうか。
「しかし随分とまあ、大規模に根回ししたものだ」
 敷設された陣の頂点、ここ以外の五ヶ所も、おそらく似たようなことになっているのだろう、そちらに想いを馳せ、月井・未明(彼誰時・e30287)は顔を顰める。
「そう易く思惑通りに事を運ばれる訳にはいかんな」
「そうだねぇ、怖いナニカにゃ、そのまま眠っててもらおう」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)もそれに頷いて、集った仲間達の方へ視線を向けた。
 儀式攻略のため、既にこの場には50人近いケルベロスが集まっている。
「こんだけ居りゃなんでもできそーだね」
「そう、かもしれませんね」
 名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)の言葉に微笑みで返して、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は警戒を促す。楽観も悲観も良い結果には繋がらない。いつも通り取り掛かれるように。
「そろそろ、時間のようですが」
 武装の確認を終えた死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)がそう口にしたのを皮切りに、一同はそちらへと意識を向けた。
 死神の群れが踊る広間の中央。目指すは陣の中心地。
「さぁ、いこうか……」
 動き出した仲間に続き、エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)が自らを鼓舞するようにそう呟いた。

 突入の流れは打ち合わせ通り。2チームが槍の穂先として先行し、突破口を開く。
「さ、続こうか」
 槍の柄の位置、翔子を含むこのチームは、先行組の確保した突破口から深く、素早く突き進む役目を負う事になる。
「さすがに数が多いですね」
「邪魔はさせませんよ……」
 瑛華の制圧射撃、そして刃蓙理の縛霊手から放たれた光弾が前方の敵を薙ぎ払い、続けてエヴァンジェリンがアームズフォートから焼夷弾をばら撒き、敵陣を乱しにかかった。
「一匹来てるよー、ってあぶなッ!?」
「無事か、玲衣亜」
 横から現れたパイシーズ・コープスの大鎌を、かろうじて回避した玲衣亜の背を未明が押す。飛び掛かった梅太郎がその個体の顔面に爪を立て――。
「おおっと、上がお留守でしたね」
「はい、足を止めている余裕はありませんから」
 そこを、玲とかごめが順番に踏み台にして跳び越えていく。
 そうして立ち塞がるパイシーズ・コープス達を押し退け、側面からの敵を迎撃し、前へ。
 突破口を開いた後に足止め役を2チームが買って出て、最後尾に居た1チームが外縁部から流入してくる敵増援の対応に当たる。護衛役の中の精鋭、『星屑集めのティフォナ』についても足止め組が対応を行った。
 一行の連携により、残り3つのチームは、ほぼ無傷のままその場所へ送り届けられる。

●星の担い手
 そうして、彼らは中心部に至る。玉座で待つ王者のように、中央には冠を頭に乗せた死神が一人。そしてその周りには、護衛であるパイシーズ・コープスが群れを成していた。
 忌々し気に、『宝冠の死神』ハリメーデーが片目を開ける。ケルベロス達を睥睨する彼女は、まだ儀式の進行を止める気はないらしい。
「何アレ感じワルっ」
「そんな余裕はないと、教えてあげましょう……」
 玲衣亜の横で、刃蓙理が縛霊手の動きを確かめるように拳を握る。
 これまで突破してきた分、そして後続の増援は仲間達が足止めしてくれている。ならば、ここからが先を任せられた者の仕事と言えるだろう。
「あと一歩、詰め寄ってやろう。道を開けろ!」
 エヴァンジェリンのアームズフォートが再度咆哮を上げる。降り注ぐ炎の雨の中を、刃蓙理の放った光弾が横切り、爆ぜる。
 眩い光の中を、シロを伴った翔子と未明が進み、二者の放つ轟竜砲が目前の一体を釘付けにした。
「郷に入ては郷に従えってね。此処は地球だ、アンタ等の好きにさておく訳にはいかないな」
 そして、さらに振るわれる如意棒。玲の魂うつしによって鋭さを増した瑛華の一突きにより、頭部を砕かれたパイシーズ・コープスは掻き消えるようにして消えた。
「さぁ、次はあなたですよ」
 続けてかごめの構えた砲口が、護衛の剥がれたハリメーデーへと向く。
「ええい、ティフォナよ。何を遊んでおる。おぬしの忠義の志、いまこそ見せよ!」
 苛立たし気に、死神が言う。しかし足止めされた護衛役がここまで来ることはない。
 ――儀式を中断せざるを得ない。歯噛みしながら、ハリメーデーはそう判断したようだ。迫り来る多数の猟犬の牙の前で、戦う意思を固めた彼女は黄金の錫杖を構える。大音声。
「跪くがよい!」
 瞬間、空気が軋む。生じた力場の中に巻き込まれた前衛達が、強烈な力で以って地に押し付けられた。
「これはちょっと……シャレになってないねぇ」
 咄嗟に瑛華を力場から押し出すことに成功したものの、まともに衝撃を受けた翔子が呻く。膝を付くのは意地でもごめんだと堪える彼女に、後方から玲衣亜の声が飛ぶ。
「まだ平気だよね? とりま、コレで!」
 カラフルな爆煙が上がり、癒しの力が負傷した前衛をカバーする。だが、敵の攻撃の威力はそれを上回るもの。少女のような見た目だが、やはり幹部ともなると相応の実力を持つようだ。
「何にせよ、手の届く場所まで来ました……。攻め時です……」
 鼓舞するように言って、刃蓙理も金属粒子を散布し、味方の援護を行う。
 斬撃に射撃、ハリメーデーを囲む他チームからの攻撃が繰り出される。敵自体はまだまだ余裕が見えるが。
「合わせます」
「手始めには良いだろう」
 その隙間を縫うようにして、かごめがフロストレーザーを、そしてエヴァンジェリンが時空凍結弾を放つ。光線と弾丸、二種の射撃が同時に敵を凍て付かせた。メンバーの数からして攻撃の機会は多い。敵の動きを阻害する氷はこの後必ず有効に働く、はずだ。
「射線をふさいじゃダメだよ、わかるかい?」
 一方の玲は手元の禍刀を鞘走らせる。居合により、達人の一撃。そしてシロもまたブレスによってそれぞれ護衛の雑魚を屠る。
「よし、よくやったね、シロ」
 ダメージを幹部に与える傍ら、じゃまな護衛の数を減らしていく作戦。戦いは順調とは言えないまでも、密に連携を組んだケルベロス達は善戦していた。
 とはいえ、錫杖をぶんぶんと振り回し、周りに衝撃波をばら撒くハリメーデーの姿には、まだまだ余裕が見える。
 先は長そうに見えるが、これも別働の3チームが身を挺した上で成立している状況だ。時間的な余裕は、ない。
 ――その時、空に、白の信号弾が上がった。
「……良くない知らせだ」
 響く音色にウサギ耳をピクリと震わせ、未明が厳しい表情を浮かべる。メディカルレイン、癒しの雨を降らす彼女に並び、如意棒を振るいながら瑛華が頷いた。
「聞こえたわ、外からの増援が来るわね」
 白の信号弾の意味は、『外縁部戦闘班の撤退』。抑制の効いた声音にも、若干の焦燥が滲む。
「時間がない、か」
「けれど……」
 苦い表情を浮かべる翔子と未明、衝撃波から味方を庇い、重い負傷を引きずる二人に、頭上から薬液が降り注いだ。
「集中して、やれることやるしかないって!」
「……玲衣亜。ちなみに、これは?」
「なんか回復するやつ! 身体への悪影響はないからだいじょーぶ! たぶん!!」
「ほんとだろうね……?」
 苦笑交じりに翔子もそう応じる。だが、言っていることはその通り、気を取り直し、二人もまた敵の攻撃に備えて動き出した。

●星を墜とせ
 ハリメーデーの激しい攻撃を受けながらも、ケルベロス達は順に敵を追い立てていく。
 護衛の群れを剥がしてしまい、接敵も叶う状態だ、ダメージの効率は確実に上がっている、が、ほどなく。
「は?」
 後ろからの風切り音に振り向いて、首を竦めた玲衣亜の頭上を大鎌の刃が通過する。回避成功、攻撃を放ってきたのは、もはや見慣れたしゃれこうべ。そう、後方から、パイシーズ・コープスの群れが。
「やっば、もう来てんじゃん!」
「このままだと圧し潰されます、走ってください」
 玲衣亜に斬りかかった先頭の一体をジグザグミサイルで吹き飛ばし、かごめが警句を飛ばす。
「後方の班は、壊滅か……!」
 爆風と迫る死神の合間から見える様子に、エヴァンジェリンが歯噛みする。もはやこの戦場に立っているのは、ハリメーデーを相手取るこの3チームのみ。
 そして、迫る増援から距離を取るように動き出したそのタイミングで、各所のアラームが鳴り響いた。

 赤いローブが翻り、金の錫杖が天を向く。一瞬の沈黙の後、稲妻がハリメーデーの周りに降り注いだ。
 瞬間の轟音、そして焦げる臭いが辺りに立ち込める。強力な攻撃の前に、主を庇いに入ったシロと梅太郎が力尽きる。
「仕方あるまい、これで手打ちじゃ、口惜しいがそろそろ撤退かのぅ」
 撤退を期するハリメーデー、そしてこちらを囲むように迫るパイシーズ・コープス。さらに後方には、ティフォナも控えている。危機的としか言いようのないその状態で、ケルベロス達が選択したのは。
「撤退は……無いな」
「はい。せめて、あの死神だけでも……!」
 エヴァンジェリンの言葉に刃蓙理は頷く。身を挺して戦った仲間たちに応えるためにも、前へ。
「……!」
 火力の集中を期したいこのタイミングではあるが、援軍として割り込んできたパイシーズ・コープスの一体が、傷つきながらも彼女等の前に立ち塞がった。
 距離を詰めたいところにこれは致命的になりかねないが、その個体を、吹っ飛んできたハリネズミが弾き飛ばした。何とも雑なファミリアシュート。玲衣亜だ。
「えーかサン、あとヨロシク!」
 そして、名指し。軽々と重い役目を投げられた事を瑛華は悟る。彼女に限らず、ケルベロス達は皆理解している。今回の戦闘は、『このタイミングを逃せば終わり』だと。
「――ええ」
 だから、苦笑ではなく当然のように頷いて、彼女も前へと踏み出した。
 それは他のチームとて同じこと。一斉に、ハリメーデーへの集中攻撃が始まる。
 猟犬達の切り札の乱舞。それらの合間を縫って、狐の面の玲が跳んだ。
「ねぇ、知ってた? 冥界にも雨は降るんだって」
「なるほど、そりゃあ良い」
 冥界時雨。驟雨の如く降り注ぐ斬撃の合間に、翔子の放った星が奔る。続け様に振るわれる禍刀は、敵の障壁を剥ぎ取るように傷を刻んだ。
「さあ、まだまだ」
 おどけるように笑って、玲が宙返りをしながら後方に退く。すれ違うように生じたのは、黒い月。
「降り注げ、災い……DeadStar」
 刃蓙理の編んだ暗黒魔法が敵の頭上で発動。降り注ぐヘドロ状の闇が、敵を蝕んでいく。
「ちまちまと鬱陶しいのう!」
 だがそれも、腕の一振りで跳ね飛ばされる。他チームからの攻撃も届いており、ハリメーデーの表情に、若干焦りが生まれ始めていた。
「こっちじゃ、なにをしておる、早う来んか!!」
 個の実力としては、確かに彼女の言う通りだろう。しかし、と未明は敵の懐に走り込みながら続ける。
 微力とは、無力である事とはまた違う。次に繋がるなら、――生きているならば。
「きみの目には、なにがうつる」
 駆ける勢いのまま、未明が薄月の薬瓶が振るう。開いた蓋からそれが散り、空気の凍てつく音色と共に、死神の周りが白く、薄く、濁る。そこに。
「こちらも、どうぞ」
 立葵の花が咲き、かごめの鎚が振り下ろされる。轟音を伴う一撃が敵を氷漬けに。それでもなお抵抗し、ハリメーデーが脱したそこへ、今度は鎖が絡みついた。
「……逃がさない」
 デッドエンドチェーン。鎖を引き寄せると共に瑛華の掌底が敵の顎を捉える。
「地味な方法でごめんなさいね。……ああ、でも」
 倒せるのなら華など無くとも問題はない。そんな言葉を舌に乗せながら、彼女は一歩引いた。
 そう、別に敵を仕留められるのなら、華のある攻撃でも構わない。
「我が魂を刃と為し、万物悉く薙ぎ払え!」
 大上段に構えたエヴァンジェリンの手から、真上に光の帯が伸びていた。
「これで、仕舞いだッ!」
 振り下ろされる輝き。光の束が敵を灼くのに合わせて、瑛華もまた後方に下がる。そのまま、また別チームからの攻撃も突き刺さり――。
「こんな莫迦なことが、あるはずが……」
 怒涛の、切れ間無い連続攻撃に晒され、やがて限界を迎えたハリメーデーは、ついにその場に膝を付いた。
 どれが致命傷となったのかはもはや定かでない。
 倒れ行く彼女の頭から宝冠が滑り落ち、地面の上で軽やかな音色を上げた。

●六芒星の消失
 幹部の一角、ハリメーデーが倒れたのを察知し、残りの死神達がバラバラの方向へと逃げていく。今回の首魁とは派閥の違うティフォナもまた、ハリメーデーが倒れたことにより撤退を決めたようだ。
「……魚の群れが、散り散り」
「やった……ということでしょうか」
「恐らくな」
 喰霊刀の行き先を探すようにする玲と刃蓙理の言葉に、エヴァンジェリンが頷く。信号弾はもはや必要ないだろう。そして、特に何も起こらないということは、別の五つの場所も目的を達成――つまり、この大儀式の阻止に成功したと考えられる。
「ほらね、やっぱ皆でかかればこんなモンでしょ!」
「……そうですね」
 出発の時と同様に、玲衣亜の言葉に瑛華が微笑む。
 言葉の上では気楽なものだが、瑛華の見立てでは、今の状況は『勝率3割程度の賭けに勝った』という程度のもの。そうでなければ壊滅、被害状況は今の比ではなかったはずだ。当然、治療役として全体を見ていた玲衣亜もその辺りは感じ取っている。
 けれど、それを掴み取るのも実力の裡と言って良いだろう。
「それでは……まずは負傷した方を」
 勝利の余韻から思考を切り替えた瑛華の言葉を、かごめが継ぐ。そう、こちらはまだそうでもないが、突破口を開き、増援を防ぐために戦った彼等は壊滅状態にある。
「ええ、帰還の手助けをしましょう」
「翔子、行こう。重傷の者が居る」
 続く未明の言葉に、海……いや、レインボーブリッジの方へと意識を向けていた翔子が視線を戻す。戦場となったあの場には、白百合騎士団が布陣していたはず。その中に、あの日救えなかった彼女も居たのかも知れないが……。
「ん……ああ、そうだね。もうひと働きしていこう」
 それらを振り切るようにそう言って、白衣の二人はかごめの先導に従い、倒れた仲間達の方へ駆けていった。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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