●魔の光芒
ケルベロスたちを出迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の興奮たるや、まあ相当なものだった。
「皆さんお疲れさんでした! ディザスター・キングとクロム・レック・ファクトリアの撃破はマジ感動したっすよ!!」
戦果を褒め称え、気が済むまでケルベロス賛美をしてからふと我に返る。
「あ、それでですね。死神の警戒を担当してくれてたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんから緊急連絡があって。死神の大規模儀式が行われるそうなんす!」
話によるとその大規模儀式は、最近多発していた死神による事件の集大成だという。
都内の六ヶ所、『築地市場』、『豊洲市場』、『国際展示場』、『お台場』、『レインボーブリッジ』、『東京タワー』で同時に行われるもので、俯瞰して見れば晴海ふ頭を中心とする六芒星の、それぞれ頂点にあたる場所になる。
「この大規模儀式には戦闘力強化型の下級死神とか、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神とか、死神に生み出された屍隷兵とかの死神陣営の戦力だけでなくて、第四王女レリ直属の軍団もいるらしいっす」
既に錚々たるメンツだが、この上更に竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も見られ、どうもデウスエクス全体を巻き込んだ大規模作戦のようだ。
そこで今回の作戦行動をダンテは説明し始めた。
都内6か所の儀式場で行われる儀式は全て阻止しなくてはならない。それぞれの儀式場に充分な戦力を配置する必要がある。このチームにもどこかに攻め入って欲しい、と。
「儀式場の外縁部には、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが数百体も回遊して侵入を阻んでいるっす。レインボーブリッジだけ、防衛戦力が第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵みたいすけど」
そして儀式場ではネレイデス幹部が儀式を行っている。
いずれも儀式に集中していて、少しでもダメージを受けると儀式は維持できない。儀式場外縁部の敵を突破して、中央部にいるネレイデスの幹部にダメージを与えられれば、大規模儀式は中断し頓挫することになるわけだ。
「ぶっちゃけこれでも悪くはないんすけど」
と断ってから、ダンテは努力目標を語る。ネレイデス幹部の撃破だ。
攻撃を受ければネレイデス幹部は儀式を中断し、7ターン後には生き残っていた死神戦力は全てが撤退する。幹部を撃破しようと思えば7ターン以内の短期決戦が必要となるが、当然強敵である上に儀式場の中では戦闘力が強化されているので、単独チームでの撃破は難しいだろう。
「外縁部で消耗してたりとかなら、皆さんの安全を考えると中断でいいと思うっす。けどネレイデスの幹部がたくさん生き残ったら、また大規模儀式とかしそうなもんですから。出来たら討ちとって欲しいっす」
儀式場の外縁部を回遊する、数百もの下級死神の目的は『侵入者の阻止』。儀式場の全周を警戒しているので、突破する際に戦うのは数体から最大10体程度になる。レインボーブリッジでだけは白百合騎士団一般兵が小隊程度で警戒しているので、戦うことになるのは3体から6体ほど。
幸い外縁部から脱出する際には攻撃対象外となるらしい。ただ、ケルベロス全チームが儀式場に突入してそれ以上増援が来ないと判断すると、外縁部の勢力が敵の増援として儀式場内に雪崩れこんでくる場合があるという。
儀式場内部には、儀式をするネレイデス幹部とそれを守る護衛役がいる。
「儀式を阻止するだけなら護衛と真っ向からぶつかる必要はないっす。けどネレイデス幹部の撃破を狙うなら、護衛を撃破するか幹部から引き離さなきゃっすね……」
どうするかは戦局次第。幹部の撃破を目指すかは現場に向かう戦力と、現場の状況で判断してほしいとダンテは念を押した。
「なにせ魔竜王の復活に匹敵する規模の大事件っすから。皆さん無事で戻って欲しいっすよ!」
参加者 | |
---|---|
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695) |
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659) |
劉・沙門(激情の拳・e29501) |
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949) |
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788) |
●破陣の嚆矢
無数の鰹と鮪が渦を巻いて回遊する――水族館のような話だが、泳いでいるのは海ではなく秋の空だ。その下の築地場外市場に人気はなく、どこか廃墟じみていた。
空を見上げたウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が首を傾げる。
「死神の者達の大規模儀式とはのう。いったい、ここで何を水上げするつもりなのじゃろうのう?」
「随分と大胆な事をするものよ。吾らを試すようではないか」
チェーンソー剣を担いだオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が不敵に笑った。儀式のスケールを思って、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が息をつく。
「この儀式、デウスエクス全部を巻き込みかねないものなんだろうが……他の種族の了承なんか、得てないだろうな」
「死神たちの儀式、何としてでも止めないとっ!」
気合を入れるシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)に一行は頷いた。仲間があの魚類型の死神を切り抜けて縛炎隷兵との戦いが始まったら、突破口から突っ込むのがこの班の役目だ。
鬨の声があがり、切り込む3班が動き出した。果敢に群れへ突入して行く。群がる鰹と鮪の姿をした死神たちを跳ねのけ撃ち落とし、奥へ向かう突入班から声がとんできた。
「さあ後援、この合図に続け! 雑魚共は今に此の勢で溺れるぜ!」
「よし、突破口が開いたな。後に続こうぞ!」
ミミックのオウギを伴い、劉・沙門(激情の拳・e29501)が鮪に巨大な光弾を撃ち込んで走り出した。ひととき海流が途絶えたような大通りを駆け、霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)は空を泳ぐ死神たちを見やる。
師が追いかける、ヴァルキュリアにとっての最大の落ち度、だったか。
(「死神……ソーニャ自身は恨みは持たない、が、デウスエクスは潰す。徹底的に」)
敵の力は未知数。留意して掛かることにしよう。胸の裡で呟いて、行く手を泳ぐ鰹に熱を奪う光を撃ち込む。幸い、突入班が蹴散らしたお陰で鰹と鮪はばらけて、組織だった攻撃どころではない。
突進してくる鮪に真っ向から竜砲弾をお見舞いし、湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)が唇を尖らせた。飲食店街はまだ残っているが、この有り様ではどこもかしこも閉店だ。
「何か食べたかったのに、がっかり!」
魚卵を落とそうとする鰹たちに吹雪を叩きつけた瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)は、後方を見やって眉を寄せた。
これから外縁部の魚類型死神は、たった一班で相手どることになる。僚班には申し訳ないが寡兵を割り振る以上避けられない。せめて無事に戦いを終えるよう祈るばかりだ。
その時、先行する突入班の方から声があがった。
「次が来るぞ……!」
言葉も終わらぬうちに、路地のコンテナを叩き潰して無数の異形が姿を現した。怒りの咆哮をあげるのは縛炎隷兵だ。突入班が前面へ押し出ていくと戦端を開く。彼らが勢いを殺さず激突していったお陰で、一行は難なく場外市場の路地にまで到達した。
路地の奥から黒いドレスの女が現れたのはその時だった。『炎舞の死神』アガウエー。縛炎隷兵たちの異変に気付き駆けつけたのだろう。
●焦熱の戦
同時に突入したもう一班がアガウエーの前へ回り込んでいく。ここで戦えば外縁の戦いにも、プサマテーの儀式にも影響は出ないだろう。同じアガウエー担当班が半包囲で仕掛け始める間に突進し、後背へ達して包囲を完成させた。
「0点。作法がまるでなっていわ」
冷然たる声と共にアガウエーの全身を炎が包む。噴き上がる紅蓮が中空に花びらのように散ったかと思うと、無数の火焔でできた剣へ変じた。炎が驟雨のようにケルベロスたちへ襲いかかり、傲然たる死神の怒声が響く。
「死んで出直してきなさいな!」
「ぐうっ!」
沙門が咄嗟に鬼人の前へ身を捻じ込んだ。美緒もシルの前に立ち塞がり――炎の剣を身体で受け止めた熱と苦痛をこらえ、彼女は輝くオウガ粒子を解き放った。
沙門も炎に顔をしかめながら光の盾で前衛たちを包み込む。彼より少しばかり後ろに控えるオウギが、アガウエーの足元へ輝く財宝を撒き散らした。
玲子もオウガ粒子の放出で仲間の回復と命中精度を支援。この間もプサマテーとの間に立ちはだかる僚班の攻撃は、アガウエーを襲っている。
火の粉舞う路地を滑り抜け、シルは壁を駆けあがって宙へ舞った。
「屍隷兵をあんなに作って……一体、人をなんだと思ってるのよっ! あなた達の玩具じゃないんだよっ!」
重力と怒りを込めた蹴撃をアガウエーのこめかみへ叩きこむ。
「っ!」
振り返ろうとした炎舞の死神は、ソーニャの踵落としでぐらりと揺れた。苛立たしげな表情の目の前に滑りこんだのは鬼人。無名の刀が疾ると、大きな傷が口をあけた。
「こんな勝手な真似をして、他の種族が黙っていないんじゃないか?」
応えは全てを焼き尽くさんとするような視線のみ。
玲子と美緒の二人がかりでも庇い手二人の火傷が消えきらないのを見てとり、付け髭をひねったウィゼはふむと唸った。
「まずはこれからじゃな」
攻性植物に黄金の果実を実らせると、放つ光で癒しと耐性を同時に与えていく。その後ろから風に乗るように疾走してきたオニキスが呵々と笑った。
「斬り飛ばし、蹴り砕く!」
言葉の通り、刈るように鮮やかなキックをアガウエーの足へ叩きこむ。
オニキスに尖った表情を見せたアガウエーは、舞うような身のこなしで間に立ち塞がる僚班の方へ向き直った。轟々と燃え盛る炎の湾刀で僚班の二人の攻撃をいなす眉間にコインが命中すると、彼女は憤怒の形相を浮かべた。
「……無礼極まるわね。先に焼き殺してあげるッ!」
炎の剣を放ちつつ仲間の放ったトランプを受け止めたアガウエーへ、鬼人が三日月のような軌跡を描く斬撃を食らわせた。激しく僚班と斬り結ぶ背へソーニャが竜砲弾を撃ち込む。攻撃を受けながらも僚班の仲間との剣戟を続けるアガウエーの強さに、オニキスの気分は高揚してきた。
「ははは、良い、良いぞ! 存分に蹴散らしてくれる!」
唸りをあげるチェーンソーは、死角からの他班の斬撃と同様に燃え上がる剣でガードされた。仲間に斬撃を見舞った横からシルの具現化した光の剣が腹を薙ぐ。
銃撃を躱したアガウエーへオウギがエクトプラズムの剣で斬りかかったが、噴き上がるような炎の剣に阻まれた。その代わり沙門の蹴りがしたたか鳩尾へ入る。
よろめいたところへウィゼが石化を招く銃弾を撃ち放ったが、紙一重で躱された。
「おっと、手ごわいのう」
「後衛や中衛にも命中支援が必要そうね」
ウィゼに頷き、自身を焼く炎を消しとめた美緒のオウガ粒子がオニキスやソーニャを包みこんだ。魔導書を手にした玲子も方針に同意する。
「ええ、手堅く行きたいところね」
開かれるのは禁断の断章。詠唱は鬼人の脳細胞へ働きかけ、彼の膂力を強化した。
●業火の演舞
その時、縛炎隷兵との戦場と思しき辺りで僚班の声がかすかに聞こえてきた。続いて路地の向こうへ駆けてゆく幾つもの足音。別班がプサマテーへ向かったのだ。
アガウエーが表情を歪めた。踊るような身ごなしでケルベロスを一瞥すると、まとう黒いドレスが光を孕み太陽のように輝いて、再び周囲に紅蓮の炎が幾つも放たれた。
「燃えなさい!」
「また来るぞ!」
沙門が再び仲間へ襲いかかる火炎弾の前に身を晒す。アガウエーに近い位置にいた美緒は炎にまかれ、シルも驟雨のような炎を避けきれなかった。
「ああっ……!」
痛みで苦鳴が漏れる。焼けるように熱い空気の中、駆けた鬼人は無銘を手にアガウエーへ。刀身のない一撃は筋を読めず、非物質化した刃はしたたか死神の背を裂いた。ここで押し止め、なんとしても別班の方へは行かせない。
想いは同じソーニャの傍らへ、熱を奪う氷の騎士が舞い降りる。携えた槍の刺突は艶やかなドレスごと死神を穿ち、ばきばきと音を立てて褐色の肌を氷が蝕んでいった。
苛立ちを露わにしたアガウエーへ、オニキスがルーンアックスを手に躍りかかる。
「戦いを楽しめ!」
「貴方達を焼き尽くすことなら楽しめそうね!」
力任せの刃が頭蓋を叩き割らんとするが、アガウエーは肩を裂かれながら退いた。そこへ僚班の仲間が影の腕をけしかける。攻撃のラッシュに混じり、身軽に突出したウィゼはオウガメタルで覆われた拳を脇腹へ叩きこんだ。
「シルおねえ、大丈夫かの?」
「大丈夫っ。ここで死神の企みを消せるなら、被害にあう人も少なくなるよね」
ウィゼに応えたシルも魂を食らう拳撃をアガウエーの背へ捻じ込む。
「人の命を弄ぶだなんて、そんなこと、許されることじゃないんだっ!」
アガウエーの起こした事件に立ち会ったことがあった。人の死をいたずらに弄ぶ死神にかける情けはない。
疾駆する沙門の蹴撃が炎の尾を引いてアガウエーの腹へ捻じ込まれる。勢いを殺すようにステップを踏む死神が燃え上がる剣を放って応戦した。跳ねるオウギが財宝をばらまいて、艶やかな身ごなしで跳び退く胸めがけ美緒は竜砲弾の砲撃を食らわせた。
プサマテーやアガウエーに第二王女ハールとの繋がりがあるか聞きたいけれど、と玲子はしかめ面になる。ただ聞いたぐらいでは答えまい。
「ハール、ハールかぁ。鹵獲した知識の所為なんだろうけど、ハールのこと考えると微妙に頭痛するんだよね、警告みたいにさ」
ため息をついた玲子は、傷ついた仲間の為に再びオウガ粒子を放散した。
アガウエーの執心が儀式場へ向いている故か、彼女の攻撃はプサマテーとの間に立ち塞がる僚班へ向かいがちだ。限られた数分の間に一行は彼女の足を殺し、腕を殺し、催眠や麻痺を仕込んでいく。
他の戦場から切り離されたアガウエーにはプサマテーの動向もわからない。その頬を冷や汗が伝った。黒いドレスの内に再び眩い輝きが宿るさまは翳った太陽のようで。
「いい加減、貴女達には付き合いきれないわ。これで終わりにしてあげるッ!」
「死になさいッ! 灰も残らずッ!」
紅蓮が再び膨れ上がる。満身創痍とは思えないほどの無数の炎弾が解き放たれた。路地を焼き焦がすほどの火焔は三度、炎の剣となって虚空から降り注ぐ。落ちかかる火柱のような炎剣からシルを守ったのは沙門だった。
「下がれ、俺が受けよう!」
盾となるべく加護を重ねた身体は、自身も仲間も渦まく炎から守りきった。鬼人に迫る火柱は美緒が竜砲弾で巻き込むように撃ち落とす。その間にも僚班の攻撃は畳みかけられていた。戦いが始まって9分が過ぎようとしている。死神勢力の撤退が始まろうとしている今、もう猶予はない。
●告別の刻
紅と蒼の炎燃え上がる刃で薙ぎ払われたアガウエーの懐へ、ウィゼが踏み込んだ。
「「縛炎隷兵の者達が見るトラウマとはどんな物なのじゃろうのう。いつも怒ってばかりの怖い上司なのかのう?」
オウガメタルが覆う拳が黒いドレスを引き裂きながら重い打撃を叩きこむ。
「犬如きが……っ!」
たたらを踏んでウィゼから距離をとった視界に、オニキスの笑顔が飛び込んできた。
「吾は水鬼、この程度は朝飯前よ! 滾れ! 漲れ! 迸れ! 龍王沙羯羅、大海嘯!!」
召喚に応じ現れた『龍王・沙羯羅』が怒涛を呼ぶ。迸る龍の如き大波に乗って、オニキスはルーンアックスを振りかぶった。咄嗟に炎の剣が受けようとしたが、刃は頭の代わりに死神の腕を深く抉る。
「ええい、消し飛びなさい!」
アガウエーのまとう紅蓮が勢いを増した。炎弾は炎の剣となり前衛めがけ解き放たれる。轟々と唸る火勢の中であったが、美緒は見失わなかった。
「どこへも行かせないよ!」
黒いドレスを翻す背へ向けてピックを投擲する。突き立った肌を中心に、びきんと音を立てて凍りつきはじめた。ふらつく脚にオウギが斬りつけ血の花を咲かせるのを、合わせた両手で気功を高めながら沙門は見ていた。
「八方天拳、一の奥義! 帝釈天!」
脚の止まった死神めがけ地を蹴る。放たれる迎撃の炎が幾つか肌をかすめたが、沙門の集中は切れることなく。渾身の力で両の掌を打ち下ろせば、アガウエーには躱す力は残っていなかった。
「くあ!」
頭に叩きこまれ膝をつく死神へ、玲子は炎光を鈍く撥ねるマテバ・オートリボルバーの銃口を向けた。空間を軋ませながら全魔術が凝縮され、ちぎれた魔導書の頁が舞う。
「全術式解放、圧縮開始、銃弾形成。神から奪いし叡智、混沌と化して、神を撃て!」
弾丸が放たれた。重い銃声は後から続き、アガウエーの胸に穴が穿たれる。美しい顔に驚愕の表情を浮かべてよろめく死神の懐へ一瞬で飛び込むと、シルは渾身の蹴撃を鳩尾めがけて叩きこんだ。
「炎よ、集え。風よ、集え。土よ、集え。沈黙させよ、殺戮せよ、討伐せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ」
ソーニャの定めた一点に増幅と膨張を繰り返す力が集中する。それは滾り圧縮され、大爆発を起こした。グラビティが変じた溶岩がアガウエーを襲い、覆い尽くさんとうねる。
「あああっ!」
遂に炎舞の死神が苦痛の叫びをあげた。己のものではない炎に焼かれ、氷に蝕まれる彼女の前に、ゆらりと鬼人が立ち――姿が霞んだ。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」
左の切り上げ、右の薙ぎ、袈裟の三撃が刹那で叩きこまれた次の瞬間、重なる刃筋の中心へ越後守国儔が疾る。刃は重い手応えと共に、驚愕に目を瞠る死神の豊かな胸のど真ん中を貫いた。
血に噎せて、アガウエーが呟く。
「……こんなこと……この私が……?」
応えず、越後守国儔が無造作に引き抜かれる。
霜に覆われた指先から、黒いドレスの端から、灰と化すようにアガウエーの姿がほつれ始めた。その侵略は驚くべき速さで彼女を侵し尽くしてゆき、塵すら残さず、ふつりと消え去っていった。
玲子が率先して怪我人の手当てをし、焼けた建物や路地のヒールを済ませると、儀式の痕跡が気になるソーニャや美緒は儀式場へ向かうことにした。調査をすれば、今後の動向が予想できるかもしれない。
彼女たちに続きながら鬼人は恋人からの大切なロザリオに手をあて、無事に終わったことを祈って――独りごちた。
そういや、死神は死んだら、どこへ逝くんだろう?
『炎舞の死神』アガウエー撃破。
儀式阻止のみならず、築地においては各班が役割を果たし最適解の戦いを遂げたことで、為し得る最善の戦果をあげたのだった。
作者:六堂ぱるな |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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