東京六芒星決戦~死を描く魔法陣を打ち砕け!

作者:青葉桂都

●死神の儀式を阻止せよ
 集まった佳ケルベロスたちに石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は静かに挨拶をして、それから語り始めた。
「この中にも参加された方がいらっしゃるかもしれませんが、先日は皆さんの活躍によりクロム・レック・ファクトリアとディザスター・キングを撃破することができました。お疲れ様です」
 しかし、と芹架は言葉を続ける。
「死神の動きを予期していたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんや、レリ王女の動きを警戒していた阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)さんによって、今度は死神の大規模儀式が行われることが判明しました」
 立て続けの大きな作戦となるが、とうか協力してほしいと彼女は語る。
 予知されたのは、最近多発していた死神による儀式が集約されたものらしい。
「都内の六ヶ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』となっています」
 場所は晴海ふ頭を中心とした六芒星を描いている。『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ヶ所だ。
 作戦には戦闘力強化型死神や、竜牙兵に似た死神、死神が産み出した屍隷兵といった死神戦力に、エインヘリアルの第四王女レリ直属の軍団も加わっている。
「竜十字島のドラゴン勢力にも動きが見られており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦と考えられます」
 落ち着いた調子で芹架は告げた。
「皆さんには、判明した儀式場のいずれかを選んで攻撃を仕掛けていただきます」
 6ヵ所の儀式をすべて阻止しなければいけないので、どこに向かうかは皆で話し合って決めて欲しいと芹架は告げる。
「しかし、儀式場の外縁部には非常に多くの戦力が配置されています。侵入するだけでも容易ではありません」
 レインボーブリッジを除く5ヶ所については、戦闘力強化型死神のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが数百体規模で配置されている。
 また、レインボーブリッジには第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が3体一組で警戒に当たっているようだ。
 そのすべてと戦う必要はないが、突破するために交戦は避けられない。
「内部では今回の首謀者である『ネレイデス』の幹部が儀式を行っています。もちろん、内部にも有力な敵を中心とした護衛が配置されています」
 儀式には多大な集中力を要するようで、幹部たちは少しでもダメージを受ければ儀式を維持できなくなるようだ。
 外縁部の戦力を突破し、儀式の中心部までたどりつき、そして幹部に一撃を与える。
 最低でもこれだけはやらなければならない。
「攻撃を受ければ、儀式失敗と判断して幹部は撤退の手段を発動させます。残念ながら、妨害する手段はありません」
 しかし、撤退するためのその手段が効果を発揮するまで7分ほどかかる。
 余力があれば、その7分で撃破を試みることができるだろう。
「幹部は強力な上に、儀式場ではさらに戦力が強化されるようなので、1チームだけで撃破することは難しいかもしれませんが」
 護衛戦力が残っていたり、あるいは外縁部の戦力が増援に駆けつけているような状況なら、撃破できない可能性が高いので撤退を優先したほうがいいかもしれない。
 ただ、幹部が生き残ればまた、別の作戦をしかけてくると考えられるため、なるべくならば今回撃破することが望ましい。
 芹架は敵の戦力についてさらに語り始めた。
「外縁部の敵は『侵入者の阻止』を目的としているため、全周を覆う形で広く布陣しています」
 同時に戦う戦力は死神で数体から10体程度、白百合騎士団で3体ないし6体を撃破すれば突破できるだろう。
 また、儀式場から離れる敵は攻撃の対象外となるようだ。
「ただし、すべてのチームが内部に突入し、これ以上侵入者が来ないと判断した場合は、内部への増援として雪崩れ込む可能性がありますので注意してください」
 それから彼女は内部の戦力について説明を始めた。
「まず、3ヵ所は数十体の屍隷兵と、それを産み出した有力な死神が護衛についています」
 築地市場で儀式を行う幹部『巨狼の死神』プサマテーを守るのは、『炎舞の死神』アガウエーと屍隷兵『縛炎隷兵』だ。
 次に豊洲市場の幹部は『月光の死神』カリアナッサで、護衛は『暗礁の死神』ケートーと屍隷兵『ウツシ』。
 国際展示場の幹部『名誉の死神』クレイオーの護衛は『無垢の死神』イアイラと屍隷兵『寂しいティニー』だ。
「残る3ヵ所は屍隷兵以外の戦力が護衛となっています」
 お台場の幹部『宝冠の死神』ハリメーデーの護衛には星屑集めのティフォナがいて、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープスが十数体配置されている。
 レインボーブリッジの『約定の死神』アマテイアを守っているのはエインヘリアル第四王女レリだ。絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスに加え、白百合騎士団の一般兵が十体ほどついている。
 東京タワーに配された幹部『宵星の死神』マイラで、『黒雨の死神』ドーリスがアメフラシと呼ばれる数十体の下級死神を従えて護衛している。
「儀式を阻止するだけなら、護衛をすべて相手取る必要はありません。ただ、幹部の撃破を目指すなら、護衛も撃破するか、あるいは幹部から引き離す手立てを考える必要があるでしょう」
 どのような作戦をとるかは、儀式場に向かう戦力や状況も考慮して考えて欲しいと芹架は言った。

「今回の儀式は、死神が先日から引き起こしていた事件の集大成とも呼べるものでしょう。だからこそ、必ず阻止しなければなりません」
 危険な戦いになるが、どうか力を尽くして欲しいと言って、芹架は頭を下げた。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)

■リプレイ

●レインボーブリッジを駆け抜けろ
 東京湾にかけられた長大な橋の一端には、多数の騎士たちが集まっている。白百合騎士団の名を持つエインヘリアルたち。
 芝浦ふ頭側から接近した8人は他のチームとともに橋へと向かう。
 可能な者は身を隠すためにグラビティの気流をまとい、他の者もできるだけ身を隠している。
「臭う。死神の臭い」
 いつものようになにを考えているのかわからない表情で、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)が呟いた。
「わかるのですか?」
 眠そうな瞳でアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が魔女を見た。寝ぐせのように跳ねた髪が揺れる。
「死臭が潮風に混ざっている。……犬じゃないからね。狼だもん」
 こだわりがあるようで、仲間たちにノーザンライトはそう付け加える。
「狼か……義兄もわかるのか?」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が義理の兄である青年を見上げて問いかけた。
「そんなことより行くぞ。儀式はもう始まっている。2時の方角にいる敵に注意しろ」
 だが、義理の妹の疑問に答えることなく、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は橋へと向かって駆けだした。
 白百合騎士団が迎撃に動く。
 そのうちの1体へ向けて、雷をまとった偃月刀をヴォルフが突き出す。
 朔耶が散布するオウガメタル粒子を浴びながら、オルトロスのリキが同じ敵に向かって突撃し、霊剣で切り裂く。
 大柄な女騎士たちは弱い敵ではないが、他のチームとも協力して一気に敵を突破しにかかる。
 螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)がそのうちの1体へ黒い翼を広げて跳躍した。そのまま飛び蹴りを仕掛けて牽制。
「ここは、押し通らせてもらうぞ!」
 空中で固めた拳で、着地と同時に降魔の一撃を叩き込む。
「名前は聞いたことあったけど、あんたもやるみてぇだな。俺らの拳で、こそこそ動くいけ好かねぇ死神共を叩き潰してやろうぜ」
 不敵な笑みを見せながら、神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)も蒼炎をまとった拳を振るい、魂ごと敵の生命力を奪い取る。
「ああ。必ず死神を仕留めてやろう」
 言葉を交わしながら、2人はさらにエインヘリアルへと攻撃を加えた。
「螺堂さんも頼りになりますし、他の人たちはみんなこれまで一緒に戦ったことがある人ばかりで心強いですね」
 白百合騎士団の攻撃で傷ついた仲間を狼のスピリットで癒やしながら、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が言った。
 傍らではボクスドラゴンのリュガも属性をインストールして仲間を癒やしている。
「うん。頼りにしててよ、鈴ちゃん」
 佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)が頼りがいのある笑顔を見せ、手刀で敵を切り裂いた。
「死神って冒涜的だから大嫌い。死を知らないデウスエクスには、分からないか」
 続くノーザンライトが生み出したオーロラの剣が、敵のうち1体をまず切り倒す。
「お魚さんの餌……丁度良いサイズ」
 エインヘリアルの死体を魔女が海へと蹴り飛ばした。
 まだ残っている敵にアトの召喚した氷河期の精霊が襲いかかり、凍りつかせた。
 ケルベロスたちはさらに前進しながら白百合騎士団と光線を続けた。
「おそらく、今回の肝は死神の撃破にかかってる。なんとかわたし達で遂行して見せようその為ならわたしは……」
 勇者のオーラを身にまとい、勇華は橋に向かってアスファルトを蹴って突き進む。
 外縁部で敵を引きつける役目の1班を残してケルベロスたちがレインボーブリッジに突入するまで、それほど時間はかからなかった。
 閉鎖された展望台を目指して、ケルベロスたちは橋の上を走りだす。

●儀式を止めろ
 展望台の死神を目指すケルベロスたちの前に、次いで立ちふさがった敵は、配下を従えた絶影のラリグラスと沸血のギアツィンスだった。
「強大な相手を前に敵同士が手を取りあう……デウスエクスにやられると、モヤっとする。わたし達が悪役か」
 ノーザンライトが不満げに呟く。
 対峙し、牽制しあっていた時間は、長いようで短かっただろう。
「先触れは引き受ける。R/D-1、重力装甲展開」
 重厚な体を持つマーク・ナインがギアツィンスへと突撃していく。
 余裕があれば友人である彼に支援の曲を送りたいとアトは思ったが、今は儀式の場を目指さねばならない。
「先に行け、すぐに追いつくッ!」
 斬霊刀を掲げたハル・エーヴィヒカイトが叫ぶ。
 召喚された無数の刀がラリグラスへと降り注いでいた。
 配下を連れた強敵を、それぞれ1チームが引き付けてくれた。その仲間たちの横を8人と2体は駆け抜けた。
「任せて! 此処での儀式は止めるしなんなら死神を叩き潰しもする! 私達の全ての力をもってして!」
 拳を突き上げて、勇華が気合を入れ直していた。
 その先にいた第四王女レリを、別の1チームが挑発する。
「ほら、あのミュゲットとかいう奴のことでござる。ぎゃあぎゃあ泣き喚いて、実に情けない死に様でござった。あいつだけじゃなくて、ここに来るまでに拙者らが倒したザコども無様でご……」
「使命に散った者たちを嗤うなぁぁぁーっ!」
 黒ヒゲの軍人、エドワード・リュデルの言葉を遮り、レリが咆哮を上げた。
 その戦場をも迂回して、別の1チームと共にケルベロスたちは展望台を目指す。
 儀式が行われているレインボーブリッジの展望台に入り、急ぎ散開する。
『約定の死神』アマテイアは儀式に集中しており、侵入者たちを一瞥もしない。
 コウモリに似た黒い翼を持つ死神へとケルベロスたちは即座に攻撃をしかけた。
「Weigern……」
『敵の破壊』の誓約によりヴォルフが召喚した精霊に続いて、朔耶の杖が変じたコキンメフクロウの使い魔が飛ぶ。
「当たって……!」
 鈴の御業が業炎を放ったのに合わせて、煉の手にした狼頭のハンマーが砲撃形態へと変わって弾丸を飛ばした。
 勇者のオーラを手に集めて勇華も気弾を放つ。
 セイヤが二振りの妖刀を抜き放ち、斬撃を飛ばした。
 ノーザンライトの手からはケルベロスチェインが伸びて敵を捕らえようとする。
 氷河期の精霊がアトのもとに出現し、アマテイアへと襲いかかる。
 もう一方のチームも、同様にアマテイアへと一斉に攻撃をかけていた。
 16人と、そしてサーヴァントたちの放つ攻撃のうちいくらかがアマテイアを捉える。
 集中を邪魔された死神がケルベロスたちを振り向いた。
「儀式もここまでですか……第四王女も役に立ちませんね。此度は出直すことにしましょう……」
 息と共に言葉を吐き出したアマテイアが手を肩ほどの高さまで持ち上げると、そこにモザイクに隠されたなにか――城らしきものが出現する。
 死神はすぐに撤退の術を発動させたようだった。
 タイムリミットは7分。
 限られた時間の中、戦いが始まる。

●『約定の死神』アマテイア
 攻撃を当てた時点で作戦目的は達したが、ケルベロスたちに退く気はない。
 死神の幹部を討ち果たす機会を逃すわけにはいかないのだ。
 もちろん、もう1チームも考えは同じ。
 炎とモザイクの中に浮かぶ城が攻撃を放ってくるが、ひるむ者はいない。
 一気に敵へと接近して得物を振り上げるヴォルフにリキが追随する。
 鈴は羽扇を手に仲間たちの動きを見極めた。
「……見えました」
 白い扇をアマテイアへと向け、彼女は口を開いた。
「命名・夢幻崩牙陣。我らケルベロス、その牙をもって敵の幻術『夢幻楼』を喰い尽くせ!」
 見出した陣形が仲間たちに力を与える。
「助かるよ、鈴ちゃん!」
 礼を言いながら勇華が如意棒を一気に伸ばして敵を突き、セイヤがその上を飛び越えて飛び蹴りで狙った。
 咲耶が散布したオウガメタル粒子が彼らの感覚を引き出している。
 ノーザンライトは後方からしっかりと狙いをつけた。
 儀式によって強化されているというアマテイアの動きは素早い。
 まず動きを止めねばならない。
 ただ、死神をエインヘリアルから引き離す必要がなさそうなのは助かった。
 アマテイアも第四王女へ不満を述べていたが、思ったよりエインヘリアルと死神の共闘は薄いのだろうか。
「……どうでもいい。今は足を潰すぞな」
 展望台の中でノーザンライトは高々と跳躍した。
 後衛から狙い済ました一撃は、敵の体を確実に捉え、そして重力が敵の動きを鈍らせる。
 2つのチームはそれぞれにアマテイアへの攻撃を繰り返す。
 アマテイアもただやられているわけではない。陽炎の城から出現した兵士たちが槍を繰り出してくる。
 リキがヴォルフをかばって槍に貫かれた。
「いいぞ、リキ。そのまま義兄やみんなを守ってやってくれよ」
 朔耶はオルトロスに声をかけながらも、戦場全体を広く見渡す。
 後衛の彼女は視野を広く取りやすい。護衛が増援にこないか気を配っていたが、今のところその様子はない。
 そのまま朔耶はファミリアロッドを使い魔へと戻した。
 死角に回り込んだヴォルフが、大型のシースナイフで敵を切り裂こうとしている。
「解放……ポテさん、お願いします」
 コキンメフクロウのポルテに魔力を込めると、義兄の攻撃とタイミングを合わせて、魔法弾がアマテイアを襲い、神経回路を麻痺させた。
 仲間をかばっているのはリキだけではなかった。煉も勇華をかばって槍を浴びている。
「俺の蒼炎が燃え続ける限り仲間はやらせねぇ」
「助かるよ、煉くん!」
 勇華は少年の背後から飛びだして、アマテイアの至近距離まで接近する。
「キミたちにも戦わなきゃいけない理由があるのはわかってるつもりだよ。でも、侵略してくるのを許すわけにはいかない!」
 利き手が手刀を形作ると勇者のまとうオーラが包み込む。
「闘気を刃に変えて……全てを斬り裂く桜花の奥義、とくと見なさい!」
 名刀・八文字長義に名を借りた気の刀が、アマテイアの体を切り裂いた。
 範囲攻撃ばかりだが、儀式の場で強化された敵の攻撃は強力だ。
 鈴がしっかりと回復していたが、それでも仲間をかばっていたリキが数分後に倒される。
 とはいえ被害がそれだけですんでいるとも言える。もう一方のチームがフォローを重視して戦っているおかげもあるのだろう。
 2チームがかりでの攻撃を受けてもアマテイアはなかなか倒れない。
 だが、デウスエクスは死ぬ寸前まで活動可能なだけだ。モザイクの城が生気を奪い取って癒していたものの、それ以上に傷ついているのは間違いない。
 ヴォルフや勇華は逃げ出ことを防ぐべく、至近距離で戦い続けている。
「あまり無理はするなよ、勇華!」
 セイヤは声をかけながら、自分もアマテイアとの距離を詰めた。
「わかってる。でも、煉くんもかばってくれるし、大丈夫!」
 答えを聞きながら龍の力を最大限に具現化、漆黒のオーラをまとう。
 もう時間は半分を過ぎているはずだ。足止めより威力を重視して攻撃を繰り出す。
「打ち貫け!! 魔龍の双牙ッッ!!」
 叩きつけた拳から出現したオーラの黒龍がアマテイアを食らった。
 アマテイアの褐色の肌には、凍りついた個所がいくつもでき、死神の体力を削る速度を増していた。
 アトは中距離からバスターライフルを敵へと向ける。
 氷結の光線が敵を貫いて、また凍りついた場所を増やす。
「敵のことはよく知りませんが、この場にいる皆さんのことならわかります。きっと倒しきれるはずです」
 同行しているメンバーは見知った顔が多い。
 どこか余裕のある動きで、アトはリズミカルに敵を凍りつかせる攻撃を繰り返す。
 短い時間の間に、生気を奪う攻撃か、影の騎士団が、炎の城壁が幾度もケルベロスたちへと迫ってきた。
 再び襲ってきた攻撃から、今度は煉がヴォルフをかばう。
「ソナテウん時も耐え切ったんだ。そう簡単に落ちてたまるかよ……」
 ヴォルフは必死に足を踏ん張っている少年に一瞬だけ目を向けた。
 だが回復は彼の役目ではない。目を向けた瞬間にもヴォルフは頭の中でアマテイアとの距離を確実に計算していた。
 竜の紋様が刻まれた偃月刀に雷が宿る。
 展望台の床を蹴って、雷速でヴォルフはアマテイアに接近する。
 冥府の名を語る者の愛用品だった刃が深々と突き刺さった。
 会心の命中に、アマテイアが呻き声をあげた。
「あとどれだけでお前は死ぬ?」
 問いかけへの答えはもちろんなかったし、期待もしていない。ただ死神を殺すべく、ヴォルフは敵との間合いを計り続ける。
「レンちゃん、がんばって!」
 鈴の帯びた狼状の闘気が煉を癒やしている。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 アトのハーモニカも倒れそうな煉と、そして他の皆を支えていた。
 別の曲……らしきものがそのハーモニカを上書きする。
 それが大魔女音頭というノーザンライトの曲だと幾人かは知っていた。
「あと1分。時間がないぞな」
 アマテイアを切り裂いたオーロラの剣を振り切った姿勢のまま、魔女が告げる。
 ヴォルフのシースナイフが、朔耶のコキンメフクロウが、相次いでアマテイアへと飛んだ。
 勇華の手刀も深々と敵を切り裂く。
 ノーザンライトのスマホが耳障りな音を響かせる中、ケルベロスたちは全力で攻撃を続ける。
 鈴の放つ弾丸がアマテイアの半身を凍らせる。
 凍った側に回り込みながら、セイヤが漆黒のオーラを全身にまとった。
「行くぞ……!! これが、俺達の拳だ……ッ!!」
 振り上げた拳を包むオーラが、龍を形作った。
 突撃する勢いのままに拳を突き出すと、黒き龍がアマテイアへと食らいつく。
 間髪いれずに煉が鈴と共にセイヤの左右から追撃した。
 煉の拳を包む蒼炎と、鈴の拳を包む白光が、狼の顎となって龍と共にアマテイアを襲う。
「名付けて魔龍双狼牙ってな。てめぇの魂、冥府の海になんざ還さねぇ。この星の重力に囚われ、死に続けろ死神!」
 あたかも三つ首の獣のごとく連続攻撃がアマテイアを焼く。
「死者の泉を掌握し、シャイターンを統べる……」
 アマテイアの向こうでも、3人の攻撃とほぼ同じタイミングで、全身を地獄に変えた上野・零の激しい熱を放つ拳を命中させていたのが見える。
「妾の野望が……」
 浮かぶ陽炎の城が消え去り、死神の体が灰と化していく。
 そして、『約定の死神』アマテイアは滅びた。
「シャイターン……どういう意味でしょう?」
「なんだろうね。今となっては確かめようもないけど」
 アトの疑問に勇華が応じた。
「おい、まずいぜ! エインヘリアルが撤退してない!」
 朔耶の呼びかけに皆が振り向く。
 死神の撤退手段は発動している時間だが、白百合騎士団はまだ残っているのだ。
 理由は不明だが、この場に残っているわけにはいかない。
 ケルベロスたちは展望台から一気に橋の下へと飛び込んだ。
 レインボーブリッジを占拠したままの敵から急ぎ距離を取る。
 死神は倒せたが、事件はまだ終わっていないようだった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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