●死神の策動
集まった番犬達を前にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が口を開いた。
「クロム・レック・ファクトリア、そしてディザスター・キングの撃破、お疲れ様なのです! 皆さんすごい活躍なのですよ!」
手を合わせて番犬達を褒めるクーリャは、居住まいを正すと話を続ける。
「しかし勝利ばかりを喜んでられないのです。
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)が警戒していたのですが、死神による大規模儀式が行われる事が判明したのです」
クーリャは、説明を続ける。
「最近多発していた死神による事件が集約された大儀式で、都内の六カ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』なのです。
儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所となっているのです」
この六ケ所は、丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所となる。
今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているという話だ。
更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。
クーリャは真剣な表情で、作戦について説明を開始した。
「皆さんには、判明した儀式場の一つに攻め入って欲しいのです。
六つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければならないので、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるのです」
儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
「儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されているのです。
ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようなのです」
つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功となる。
クーリャは更に説明を続ける。
「儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始するのです。
そして儀式中断の七ターン後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうのです。
ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この七ターンの間に撃破しなければならないのです。
――ただ、ネレイデス幹部は強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しいと思われるのです」
また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では、幹部の撃破までは難しいかもしれない。
状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきかもしれない、とクーリャは言う。
「ただ、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるのです。ですから、可能な限り討ち取って欲しいのですよ!」
そしてクーリャは敵の詳細な情報を伝えてくる。
「外縁部には数百体という大戦力が展開しているのですが、『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から十体程度となるのです。
白百合騎士団一般兵は、三名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは三体或いは六体程度となるのです」
また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。
ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要だろう。
「儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されているのです」
築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を集めている。
お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
「儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要は無いのですが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか或いは、ネレイデス幹部から引き離す必要があるのです。
幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してほしいのです」
説明を終えたクーリャが番犬達に向き直る。
「今回の大規模儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に勝るとも劣らないものであると推測されるのです。
死神が引き起こしていた数多の事件が、この大儀式に集約されているといって良いはずなのです。
そして、儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断させて撤退させるような決断をする可能性もあるのです。
一つの戦場に戦力を集めすぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択、ネレイデス幹部を討ち取る機会が得られないという事もあるかもしれないのです。
大変な作戦となりますが、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
ぺこりと頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出すのだった。
参加者 | |
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露切・沙羅(赤錆の従者・e00921) |
アイシア・クロフォード(ドタバタ系忍者・e01053) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443) |
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638) |
明日葉・梨桜(戦う同人作家・e41812) |
●突入
東京有明。国際展示場。
死神によるヘキサグラムの儀式を阻止するため、この地を訪れた番犬達。
その数、実に四十八名、六班となる。
突入を前に、此度チームを組むことになった八名が、最後の準備、確認をとり立ち上がる。
「色んなイベントのあるビックサイトで儀式なんて、ふとどきせんばんー!」
頬を膨らませて、露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)が声を上げる。同意するように、明日葉・梨桜(戦う同人作家・e41812)が憤る。
「聖地たる国展で神降ろしの儀式だぁ?
ふざけんじゃねぇ、ここは俺っちら作り手にとっての聖地であり、戦場だ」
同人作家である彼女に取ってみれば聖地を踏み荒らされたようなものなのだ。
その場を踏みにじり、多くの命を刈り取る場所に選ぶなど、許せるわけはなかった。
「国際展示場……駅にケルベロスのポスターが張ってあるんだよね! 帰りに見れるかなー……」
「この時期はもう張ってないんじゃないかな?」
「えっ、もう貼ってないのかい?」
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)とアイシア・クロフォード(ドタバタ系忍者・e01053)のやりとりを聞きながら、パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)が口元に咥えたものを弄ぶ。
「澱んでいるわね。この作戦がうまくいくか……すこし心配だわ」
パトリシアの言葉に、ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)が小さく頷く。
「相談には持てるだけの全力を尽くした……が、私達が考えているような事は相手も恐らく考えついている筈」
ならば、最大限の警戒を持ち、出来うる限りの最善を尽くすのみか。
目的は違えない、ただ撃ち果すのみ、と武器を構えた。
「わははははっ! 心配無用。
わしらの力の前に、死神どもを平伏せさそうぞ!」
そんな仲間の心配を笑い飛ばすのは、服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)だ。からからと笑い仲間の緊張を解きほぐす。
「ほんに、よう笑う奴じゃ。
だが、その意気やよし。というところじゃの」
最後の一人、彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)がそう言って微笑む。心して掛かる必要がある、だが余分な緊張は邪魔となるだろう。
「時間だね。僕たちも行こう」
沙羅が合図をすれば、他の班も突入の準備を終えていた。
ここから先、通信手段は敵の妨害によって使用ができない。目に映る、声の通る限りで連携を行う必要があるだろう。
「気張れよ、お前ら!」
「いいかてめぇら、俺様達について来やがれ! 着いて来られないノロマは置いてくから覚悟しとけ!!」
突入を先行する班の番犬が声を上げた。この大声を合図に突入が開始される。
外縁部に多く存在し、番犬達を警戒するブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノス――空を泳ぐ魚の群れが、突入に反応し、雪崩のように押し寄せてくる。
先行する外縁部担当の二班が、内部突入班を守る槍盾となって、押し寄せる悪意を喰らい千切りながら、正面エントランスへと突入していった。
「外縁部担当(あっちの)班には結構負担を掛けるね――!」
「でも、そのおかげで僕らの消耗はすごく抑えられているよ」
グラビティを操りながら、突破してきた敵を薙ぎ払いつつ、アイシアとヴィルフレッドが言葉を交わす。
二人のいうように、外縁部担当が先行し敵を引きつけることで、かなりの負担軽減となっていた。
この先に待つ大物を相手にする為には必要なことであり、先行する二班もそれを理解しているからこその、大立ち回りなのだろう。
先行する二班のグラビティが迸り、目の前にぽっかりと空間を作り出す。それが突入口となった。
「行って来いよヤロー共! 全部ブッ壊してこい!」
「そちらは頼みます。どうか無垢の死神に裁きを」
先行組は、ここから敵の掃討に移る。願いを受け取った八人は、内部突入を行う他班とともに、国際展示場――その七階国際会議場を目指して駆けだした。
戦いは、始まったばかりである。
●突破戦
国際展示場二階正面玄関を駆けていく番犬達。
八名は、四班の内二番目に付けて、七階会議場――儀式の場を目指していた。
地図を辿り、二階から六階までを繋ぐエスカレーターを駆け上っていく。
「敵はそう多くないわね」
「――とはいえ、まだ先はあります。待ち受けているのは明白でしょう」
パトリシアの言葉に、ダリルが応える。
敵に占拠された施設だ。それなりの防衛戦があることは戦闘経験を重ねた番犬でなくともわかることだ。
そしてその考えは六階踊り場へと辿り着いた時に、間違いでなかったことが証明される。
「わははははっ! これは大量であるな!」
「笑うてる場合ではなかろう。さて、これは骨が折れるぞ」
この場を預かる有力敵、『無垢の死神』イアイラ。その直属の配下たる『寂しいティニー』が夥しい数でもって番犬達の行く手を塞ぐ。
イアイラによって何もかもを奪われ屍隷兵とされた『寂しいティニー』。もはや人の心を持たないそれに語りかける言葉はないだろう。
「全員相手にする必要はねぇ。一気に突破するぜ」
梨桜が番犬鎖を握り、八人の前に立つ。
一番槍となる他班の突撃に追従し、八人も一斉に駆けだした。
「七階へは奥のエスカレーターで上がれるはずだよ!」
「なら、一気に昇ってしまいましょう」
ヴィルフレッドが上げた声に反応し、敵群を格闘によって吹き飛ばすパトリシアが、先行する他班に続きエスカレーターを駆け上る。
「続きましょう」
「道は空けてもらうぞ――!」
ヴィルフレッドとパトリシアに続き、ダリルと無明丸も、襲い来るティニーを撃破しながら七回へと上がっていく。
「ほれ、征くのじゃ、妾の忠実な下僕共!」
召喚した『下僕』に攻撃を担当させながら戀も続き、沙羅、アイシアも歩みを止めることなくエスカレーターを跳躍しながら駆け上っていく。
「ここの配下って全員、イアイラに殺された少年たちなのでしょうか……?」
他班のルーシィドが、言葉を零すのが聞こえた。
彼女の言うとおり、先日の事件で殺された被害者こそがこの寂しいティニーに他ならなかった。
胸を突く想いは、この場に誰もが同じだろう。
二度と同じような悲劇を起こさせないために、この先に待つクレイオーとイアイラを必ず撃破しなくては、と、八人は思いを新たにした。
八人の後ろに続く他班のメンバーにティニーの獣腕が振り下ろされる。その一撃を最後尾に位置していたチームが見事に弾く。
「この群れはここで抑える」
「どうか皆は先に」
寂しいティニーを抑える役を買って出た仲間達。
「悪ィな。結果は出してみせる。後は頼んだぜ」
梨桜は言葉を残し、七階へと駆け上る仲間達の後へと続いた。
防衛戦は突破した。
八人は他二班とともに、ロビーを駆け抜けて、そしてついに七階会議場――ヘキサグラムの儀式その一角をなす儀式の場へと辿り着いたのだった。
「そこまでだよっ! 死神!」
沙羅の声が会議場に響き渡る。
視線の先、頬杖を付き番犬達を見下すように座る死神と、それに付き従う人魚のような死神の姿があった。
「姦しい犬どもが顔をならべて良く来た者だ」
「あなた達の陰謀もこれまでよ!」
「ふん、ケルベロスごときがこの『名誉の死神』クレイオーさまに勝てるとでも?」
爆発的な殺気が放たれて、肌を痺れさせる。
クレイオーの周囲には護衛のティニー、そして付き従う人魚――イアイラの姿がある。
二十四人の番犬達は、顔を見合わせることなく――互いに状況を感じ取るように――一斉に武器を構えた。
八人は、仲間を信じている。
他班の一チームがクレイオーとイアイラを分断してくれるはずだ。であれば、その隙にクレイオーを撃破するのみ。
「さあかかってくるがいいケルベロス。叩きのめしてくれるわ」
総勢二十四名の番犬達が、一斉に動き出した。
●名誉の死神クレイオー
数体の護衛、寂しいティニーに守られながら、尊大な態度でグラビティを放つクレイオー。
光輝く光球が、次々と番犬達に叩きつけられ、一条の光が線をなして番犬達を薙ぎ払う。
挑発的な態度に裏打ちされた驚異的な攻撃の数々だ。
しかし、番犬達も十分に練った作戦を持ってこの戦いに望んでいる。外縁部での戦闘、そして国際展示場内部で無駄な消耗をせず突破できたおかげだろうか。身体は軽く、十全の力を持って戦いに望めている。
他班もイアイラを引きつけている。このまま上手く分断できれば、勝利を手にすることも可能に思われた。
「まずは護衛を倒すんだ!」
ヴィルフレッドの弱点共有によって、仲間達の集中力が研ぎ澄まされる。
「一気に殲滅するわよ」
「心得ています――!」
クラッシャーのパトリシアとダリルが、駆ける。
パトリシアの電光石火の蹴りがティニーを一撃で粉砕し、ダリルの気を咬む弾が次々にティニーへと叩きつけられる。
そうして出来た穴を付いて、無明丸が疾走する。
「やらせないよ――!」
無明丸を迎撃しようとクレイオーがグラビティを迸らせる。
その夥しい数の光球を得意の雷刃手裏剣で相殺し、道を作るアイシア。
「『ヘキサグラムの儀式』破れたり! 次を望むならば我らをのかしてみせよ!
さぁ! いざ尋常に……勝負ッ!!」
景気づけに放たれる無明伝説。他班の攻撃と共に放たれたその一撃がクレイオーを傷つける。
「おのれ……!」
「タイマースタートじゃ」
「了解――!」
歯噛みするクレイオー。戀と梨桜が同時にタイムキープを開始する。ここから七分が勝負となる。
「儀式は止まったようだね――それなら!」
沙羅がティニー目がけて疾駆し、捻る身体から放つは流星纏いし蹴撃。勢いままに二撃三撃と重力の楔を叩き込んでいく。
八人の攻撃は、もう八人の攻撃と共にティニー、そしてクレイオーに叩きつけられる。
二班による攻撃は、クレイオーを守る護衛をものの数とはせず、二分が過ぎる頃には、その全てを全滅させるに至る。
「て、ティニーを倒したくらいでいい気になるなよ! わ、私は強いんだからなっ!!」
思いもがけない番犬達の力を目の当たりにし、尊大な態度をとっていたクレイオーが涙目になりながら、反撃のグラビティを迸らせた。
『名誉の死神』クレイオーに対し、番犬達は押している――手応えを感じていた。このまま行けば撃破することも見えてくる。
「クレイオー様、短気はお鎮めくださいませ。まだイアイラめがおります!」
そう思った矢先、クレイオーの劣勢をみてイアイラが、引きつけていた番犬達を振り切って、数体のティニーと共にクレイオーの側へと駆け寄った。
分断する作戦は、しかし一チームの力だけでは十全と言えず――咄嗟にそれを補うアイデアも浮かばなかったことで――番犬達の奮戦を死神イアイラが上回った形だ。
「おぉ、イアイラ。良く駆けつけてくれた。其方がいれば百人力だ……!」
九死に一生を得たとばかりに、クレイオーが感激の言葉を零す。その素直な賛辞はクレイオーが心根から漏らした安堵に見て取れた。
イアイラという心強い仲間を側に置いたことでクレイオーは今一段と尊大な態度を取り戻す。
「ケルベロスどもよ! 其方達の非礼、存分に返してくれるぞ!」
その言葉に、しかし番犬達も諦めてはいない。
クレイオー撃破に向けて、今一度噛み付かんと牙を向けた。
●いまだ陰謀は終わらず
「どこまで行っても逃がさないんだよ」
イアイラを担当していた番犬達が、イアイラを追って合流する。
二十四名の番犬達が、クレイオーとイアイラのコンビに立ち向かう。
会議場に迸るグラビティの奔流が、互いにぶつかり合い衝撃を生み出していく。
イアイラを担当していた八人の番犬は、続けて攻撃をイアイラに集中させる。一方のイアイラは番犬達を区別するようなことはせず、狙いを付けて攻撃してくる。
合流直後の尾びれと使ったビンタがパトリシアに振るわれて、それを庇ったヴィルフレッドが吹き飛ばされる。
「イアイラは他の者に任せてクレイオーを狙うのじゃ!」
クレイオーを憎む気持ちはない。だが死神として生まれたのが運の尽きだと、戀がグラビティを操り、仲間達を癒やしていく。
「皆と力を合わせれば――!」
自分のチームだけではない、他班のメンバーとも感情を結ぶ沙羅が、祥空、クレア、リィンと連携して動く。生み出された赤錆に蝕まれた赫刃が次々とクレイオーの頭上から降り注ぎ、鈍く切り刻む。
「いつまで偉そうに座っているのよ――っ!」
アイシアの放つ螺旋の氷波がクレイオーの座る玉座を凍らせる。これには溜まらずクレイオーが飛び退いた。
「ここぞの大一番、鎧であれ盾であれ壁であれ、その一撃に破れ伏す。
それが俺っちの筋書きだ。さぁ、胸張っていきな!」
戦場を舞台と見做し脚本を書き上げた梨桜。そのグラビティがクラッシャーの二人を強化していく。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
肉薄する無明丸の拳がクレイオーに突き刺さり殴り飛ばす。クレイオーのピンチとみたイアイラが再度尾びれを振るう。
「何度だって、やらせないよ!」
だが、これもヴィルフレッドが防ぎ切る。倒れるヴィルフレッドを後ろに、パトリシアとダリルがクレイオーへとグラビティを走らせる。
ダリルの放つガトリング掃射がクレイオーを打ち付け、体勢の崩れたところへパトリシアの旋刃たる蹴りからの魂喰らう格闘が突き刺さった。
「クレイオー様! この――ッ!」
番犬達の攻撃によって追い詰められたイアイラが圧殺せしめる水球を飛ばす。だが、これにも番犬達は堪えきる。
クレイオーへと援護を向けたイアイラへ、仲間達の攻撃が突き刺さる。それは致命の一撃となってイアイラの魂に重力の鎖を叩き込んだ。
倒れ伏すイアイラへとクレイオーが駆け寄る。
「クレイオー様……良かった……あなたさえご無事なら、悔いは――」
血泡を吐きながらイアイラが最期の力を振り絞るも、言葉は途切れた。
「うぅ……イアイラァ……逝くんじゃない……逝ってはだめだぁ」
人魚の亡骸を揺り起こし、クレイオーが慈悲を垂れるも、もはや彼女の耳には届かない。
その時、静かにアラームが終わりの時を告げた。
「――覚えていろ。ケルベロス。
我が身を護る為に散っていった者達の為にも、堕神計画は必ずなしとげて見せる。
その時まで、精々あがき生き続けるがいい……――」
そう言葉を残して、クレイオーの姿が喪失する。
「間に合わなかったか……」
誰かの言葉が力なく漏れた。
儀式を止めることは叶ったがネレイデス幹部であるクレイオーを仕留めることは叶わなかった。手応えはあった。だが、それを上回る敵側の協力を見せつけられた格好だ。
最後にクレイオーが残した堕神計画とは――。
続く陰謀の気配を感じながら、番犬達は次なる死神との決戦を予感するのだった。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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