東京六芒星決戦~時計の針を巻き戻さぬ為に

作者:baron

「クロム・レック・ファクトリアの撃破と、ディザスター・キングの撃破。おめでとおございます」
 ユエ・シャンティエが行われたばかりの作戦に付いて祝福を述べた。
「早速ですが、新たな問題が判明しました。アビス・ゼリュティオさんが警戒に当たっていた死神の大規模儀式が行われる事が判明したのですわ」
 なんでも最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内の六ケ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』となるのだとか。
「儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所らしいですわ。なんでかゆうと、この六ケ所は、丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所ですえ」
 今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神。
 さらには死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
 更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されているのだとか。
「そこでみなさんには、判明した儀式場の一つに攻め入って欲しいゆうわけですね。これを見てほしいのですが……」
 書かれた資料によると、六つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければならないので、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるだろう。
 儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
 レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
 儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されている。
「ここで重要なんですが、ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないよおですね」
 つまり外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達。
 ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功。

 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始する。
 そして儀式中断の7分後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまう。
 幹部の撃破を目指す場合は、当然、この7分の間に撃破しなければならない。
「ただ、ネレイデス幹部はいずれも強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しいと思われとります」
 周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では、幹部の撃破までは難しい。
 状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに、こちらも撤退を優先するべきかもしれない。
 ただ、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合……。
 再び今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので、できれば討ち取って欲しいとユエは告げた。
「外縁部には数百体という大戦力が展開しとりますが……。
 『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しとるゆうんがポイントなんですわ。突破する際に戦うのは数体から10体程度でしょおか」
 これが白百合騎士団一般兵の場合は、3名程度の小隊での警戒を行っている。
 突破する際に戦うのは3体或いは6体程度。
 また優先順位の為、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外らしい。
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合。
 外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要だろう。

「次に儀式場内部には、幹部を守る護衛役が配されとります。たとえば築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めとるわけですなあ」
 同じ様に豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』。
 お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体が護衛だ。
 やはりレインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
 最後に東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。

「儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要は無いのですが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合……。護衛を撃破するか、或いはネレイデス幹部から引き離す必要があると思われます」
 だからこそ幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してほしいとユエは付け加える。
「脅威度でゆうと今回の大規模儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に勝るとも劣らないと目され取ります。どおか、お気をつけください」
 ここ最近の死神が引き起こしていた数多の事件が、この大儀式に集約されているといっても良い。
 儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合。ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断させて撤退させるような決断をする可能性もある。
 だからこそ一つの戦場に戦力を集めすぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択。
 ネレイデス幹部を討ち取る機会が得られないという事もあるかもしれない。
 ユエはそう言い、あるいは資料を配布して神妙に頭を下げた。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
九鬼・一歌(戦人形鬼神楽・e07469)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
宮闇・狩奈(無能・e67722)

■リプレイ


 ヘリオンより四十八の士が空を舞う。
 ある者は直接降下し、ある者は翼を広げて滑空。
 豊洲市場を睨む位置で次々と着地した。
「はっ! 随分と素敵なお出迎えじゃねえか」
 グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)は掌に拳を打ちつけた。
 そこには無数の怪魚が天を泳ぎ、まるで濁流の様にビルまでの道を閉ざしている。
 その身にまとう怪しき輝きが、暗雲ではないと証明して居た。
「作戦は忘れて無いだろうな?」
「当ったり前だろ。俺だって向こうの連中と顔を合わせたしな」
 ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)が念の為に確認すると、グラハは牙を剥いて笑った。
「好き嫌いもねぇし、文字通りの雑魚も美味しくいただこうってことで」
 強い奴との戦いも好きだが、何より好きなのは勝利することだ。
 ソロを好むが連携もアリだ。元より手段も戦法も問う気などは無い。
「ならば良し。このまま魚どもを通さぬ事としようぞ」
「でもさ、ここのやつらみーんな倒しちゃったら私たちも中に向かっていいんだよね?」
 ワルゼロムが澄まし顔で頷くと、月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)はニッコリと笑って流体金属を集め始めた。
 その言葉に『教祖ふらぐふらぐー』と幻聴が聞こえたような気がしたが、仮面を深く被って無視しておく。
「あの数相手にその言葉、なかなかにロックです」
「強敵と殴り合えないのは少し残念だが、こっちはこっちで魚の踊り食いができるわけか、悪くないな」
 九鬼・一歌(戦人形鬼神楽・e07469)と富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は顔を見合わせると無表情に頷いた。
 二人の顔は無表情であったが、不敵に笑っている様に思える。猫耳だって動いてるしな。
(「まあ二班で当たりますし、採算が無い訳でもないですね」)
 宮闇・狩奈(無能・e67722)は黙ったまま、リスクを勘案。
 握ったり開いたりしていた手と手を合わせ、ゆっくりと息を吐いて行く。
 言葉には出さないが、どうやらネタとしては面白いなと思ったらしい。

 作戦は体力を残した二班がその場に残り、追いすがる怪魚どもを残らず相手にすると言うもの。
 これ以上ないネタであると同時に、倒さねばならない相手に違いないのだ。心構えの差でしか無い。
「皆のためにもできるだけ粘ってやろう、食い尽くしたっていいんだろ?」
「儀式の阻止は他のチームに任せてしまう形ですが……皆、無茶はしても無理のないように、ね」
 白亜が改めて呟くと、浜本・英世(ドクター風・e34862)も仕方無いとばかりに肩をすくめる。
 作戦上、どのみちここで怪魚の群れは倒さねばならないのだ。
 ならば止めるよりは、注意を喚起すべきだろう。
「それじゃあ頑張ろうね! お魚さんは出荷だー!」
「最高のロックというものを見せてあげましょう。ロックンロール!」
 京華が出番を告げると、一歌は鼻歌を唄いながら続いて行く。
 運命が決まって居たとしても、転がしてやるのがケルベロスである。


 作戦通りその場に留まり、圧倒的大多数の敵と相対して居た。
 一グループは多くて雑魚が十体ほどだが、中には依頼で見掛けるような強い奴も居る。
 そして何より序盤に関して言えば、数波に渡って次々とやって来るのが問題だった。
「絶対に死神の『東京六芒星』を達成させはしません!」
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)は翼を広げて仲間達の姿を覆った。
 こうして治療するのも、もう何度目になるか判らない。
 時には前衛どころか中衛を抜けられて、自分達、治療役すら狙われることもあった。
「どうです?」
「なんとかなります」
 リュセフィーが状況を確認すると、狩奈は最低限の言葉だけを返した。
 そして仲間達の配置を利用し、それらを繋ぐ形でグラビティを流す。
 簡易的な方陣に力が宿り、戦っていた仲間達に冷静さが取り戻されて行く。
「あーっ! どうせなら噛み付けば良かった!」
 白亜は小ぶりな怪魚を掴むと、ナイフを突き立てて血潮を浴びながらグラビティを回収していた。
 冷静になって見れば、ここぞとばかりに踊り食いで良かったのに。
「今からでも試したらどうだ? そら、手に握っておろう」
 そんな彼女へ飛び込む魚を弾き飛ばしながら、ワルゼロムは自らの額に指先を伸ばした。
「教祖式光線療法!」
 ワルゼロムの額が輝いた……だと誤解を受けるので、額にある赤菱が輝いた後、梵字が浮かび上がるとしておこう。
 その正体は視認できる法力であり、邪悪を滅ぼす灼熱の光線が如き出力で放たれる!
「お題は後で請求する」
「もう忘れた!」
 その力は白亜を蝕む毒素を容赦なく分解!
 なんだか怪我しそうな程だが、本来は攻撃用だからね♪
「いやはやこんな場所で儀式とはまた迷惑極まりない」
「儀式、な。どうせ碌なこったねぇんだろうが、まぁ悪かねぇ。その分気兼ねなくぶっ潰せるってもんだ」
 英世が構築した雷電の結界が、怪魚どもを押し返す。
 それでもまだ足りねえかと、グラハはアームドフォートの出力に任せて振り回して行った。まさに千切っては投げ、千切っては投げ……。

 雑魚の中には木っ端微塵になる個体も居るが、依頼で見るような奴はそうもいかない。
 やはり危険なのは混ざって居る時であり、初見で確認し難い時や、連続で戦闘に成った時だろう。
「お代わりが来たよ! ご飯ならいいのにね! まだ、まだ耐えてみせるっ」
「なかなか大した数だがやれるじゃないか。この下っ端どもの群れは、我らで引き受けるとしようか」
 京華の尻尾がやって来る連中をまとめて薙ぎ払う。
 その姿を見て、英世は冷静に判断を下した。
 厄介だが対処できない相手では無い。二班の内、どちらか一方が崩れたりしなければ無理と言うほどではない。
「勝ち目の無い戦いは嫌いじゃないです。でも、ソレをひっくり返せるならば、なお良いですね」
「わたしたちはケルベロスですものね」
 一歌は大型の怪魚に斧を喰いこませ、ルーンに宿した光で弾き飛ばす。
 その身に雑魚が喰らい付いて行くのを、リュセフィーは素早く治療に向かった。
 豊洲市場を巡る戦いはまだ始まったばかり。ここでへこたれる訳にもいくまい。


「間が空く様に成って来た? 楽でいいけど」
「おかげで、少しずつ休めてます」
 白亜が僅かに物足りなさそうに呟くと、狩奈は頷いた。
 額に流れる汗……ではなく血を拭って、自分では無く白亜の方を治療する。
 傷は空いた時間でとっくに治療しており、乾き始めた血が不快だから拭っただけだ。
「これで大丈夫な筈です。私の分まで頑張ってください」
 狩奈のかざした炎が傷付いた体を炙り、温めて治療して行く様はとても地獄の炎とは思えない。
 それは彼女自身の体力を吸わせることで、転換しているかもしれない。
「ん。気持ち悪いあの卵の影響消えてるな。サンキュ。……そら、猫たちのお通りだ」
 白亜はその空間に満ちる暖かさを受け取り、色と形状を変え蜂蜜色の炎で照らし出した。
 それは炎で出来た、小さな猫の群れ。
 猫たちは残った敵にまとわりつきながら、餌だ餌だと噛みつきひっかき。やがて喰らい尽くして行く。
「どうする? 次まで少し時間があると言うか、踏み留まるのは難しくないが……」
「このままか、それとも移動して潰しに行くかな? だけれど……また大集団か大型混じりが来れば、倒せてもその次は無くなる可能性が出て来る」
 ワルゼロムが後回しにしておいたタルタロン帝を治療する為、光を放つ。
 その言葉に頷きつつも、英世は手術を他の仲間に行いつつ傷を確認して行った。
 傷を治しても治癒し切れない傷が増えて来ており、どこかで分水嶺を越えるのは間違いない。

 悩み始める前に、その時間も惜しいと誰かが動き始めた。
「一度に全員は要らなさそうだけど、どうする?」
「そうですね……」
 グラハは別班の織櫻と肩を並べて立つ。その表情には笑いがあった。
 対して織櫻は一瞥し、両班の状況を見て静かに答えたる。
「……ならば、私たちは少し休ませていただきましょう。先行をお願いできますか?」
「あいよ」
 織櫻はこの余裕は、現在の様に休むべきだ……。
 そうグラハに提案する。他に行っている余裕があるとも思えない。だからこそ彼も素直に納得した。
 確実に抑えきれば悪影響を与えないが、欲をかいてこの場が崩壊すればあの数が援軍に行ってしまう。
「結論を持ち帰って来たようですね。直ぐに行動しましょう」
「向こうも同じ感じだったぜ。交代しながら休もうってよ」
 一歌とグラハは出発前に相談に行っており、その縁で、意見の調整に向かっていたのだ。
 結局、一同と似た様な結論であり、傷や疲労の度合いから交代で休もうと言うことになったらしい。
「んー。交代は倒した時? まあヤバくなったら黄信号でも良いのかもだけど」
「それで異存はありません」
 何が判り易いんだろと京華が首を傾げるが、リュセフィーは短く頷いた。
 どの道、少し離れただけで即座に突入できる位置に居るのだ。
 見て判らないと言う程でもあるまい。
「なるようになります」
 狩奈は何度目かになる返事を返し、次の敵が現れるのを待った。
 彼方の空が再び怪魚で曇り始める……それは遠い事ではないだろう。


 援軍を送れば良かったか? それともこれで良かったのか。
 強い敵が混じり、あるいは数が連続で押し寄せる度に判断に困る。
 あえて言うならば現時点でのベターなのは間違いが無い。これを上回るベストは作戦開始まで遡る必要があるだろう。
 ならば後はそれぞれの精一杯をぶつけるのみだ!
「これが……私の存在証明」
 一歌は怪魚どもを噛みつかせたまま舞い踊る。
 光の軌跡が戦場を乱舞し、刃が敵を切り刻むソードダンス。
 その光は魔力の光か、それとも死神たちの放つ光か。新たに一匹の死神が悲願を渡る。
「ごめんなさい。後回しにするわ」
「……大丈夫です。そろそろ……のはず。ここに居ない、誰かの為……なら」
 リュセフィーが攻撃役の手術に回ると、一歌は血を吐くように呟いた。
 効率からすれば自分はまだ保つし、治癒不能な傷を受け過ぎている。

 だが空を覆う黒雲のような死神達の姿が減っている。
 人々の脅威が目に見えて去ったと『喜びの感情』を持つなら、こんな時なのだろうか?
 苦戦と反比例する様に死神達を駆逐し、もはや殲滅と呼んで良いペースかもしれない。
(「せめてサーヴァント達が残って居てくれたら……。でも、あの子たちのお陰で此処まで無事なんだし……」)
 狩奈は無言で一歌に炎を介して体力を分け与えて行く。
 既にミミック達は退散し、もう一人の壁役であるワルゼーも多少マシでしかない。
 表面上は傷を塞げても、体力や血の補充が間に合わないのだ。
「交代してもらわないと駄目だね。あっちは休んでる分だけ、違う筈! はやく戻ってきてー」
「その間くらいは何とかなるだろう。どけっ!」
 京華は戦闘途中ながら黄信号が登って居るこ事と、白亜が再び戦列に復帰するのを確認した。
 今頃、少し離れた場所で休んで居る別班も突入を始めた頃だろう。
 白亜の放った咆哮が景気良く雑魚どもをふっ飛ばし、そのまま消えてくれるのを京華は小さく祈る。
 さっきと主張が違うって? でも急場になったらみんなこんなもんさ。
「ごめん……やっぱり、無理、みたい」
「そんな事はあるまい。九鬼殿は良くやったとも」
 一歌は卵爆弾から仲間を守ったことで限界を越え、ワルゼロムの治療を断った。
 がっくりと膝をつく彼女は重傷と言うほどではない。
 ワルゼロムはその事だけを把握すると、重力を木の葉状に歪めて、後衛への視線を遮る。
「これだけの猛攻は打ち止めの筈。活路を拓け……切り裂け、ギア・スラッシャー!」
 英世は無い筈と信じたいではなく、無いと確信している。
 指を鳴らして三枚の歯車を動かし刃に変えると、視線ポインタの誘導で敵の一体を取り囲んだ。
 そいつは久しぶりに見た大型で、相手戦力の限界を示しているかのようだった。
「お互いに戦力を分散したからね。まあ、こんなものかな」
「あー。もしかして……いや、いいや今更は止めだ。このまま食い散らかして精々派手に暴れてやりますかァ」
 英世は眼鏡を元の位置に押し上げながら、肩に止めたカラスをワンドに戻す。
 その分析を聞いてグラハは何事かを思い付き、それを中断して腕を悪霊化させた。
 好きなのは勝つことだ。効率良くなんてその後でいい。
「ドーシャ・アグニ・ヴァーユ。病素より、火大と風大をここに崩さん。――もう十分に生きたか? んじゃ、死ね」
 そしてグラハは舌舐めずりすると、黒い靄と化した我身を引きずって死神に踊りかかる。
 怪魚を右手で掴み取り、グシャリとやればご機嫌だ。
「後で起こすからそのまま眠っててね。その間に、死神たちの企みを止めてみせるから」
 京華は一歌を担ぐとハンマー片手に振りかざし、訪れた援軍と入れ替わる様に脱出を果たした。

 そして一同の戦いは、良く悪くも予想通りに進んで行った。
 何戦目かの小規模な戦いでまた一人。だが、その犠牲は決して無駄では無いのだ。
「まだだ、まだ終わらんよ。まだ代金の精算が……」
「ワルゼーさんがっ」
 残る壁役が、ワルゼロム一人になったことで彼女の体力も尽きた。
 しかし、その頃には見える範囲の死神は残りわずか、そして……。
「あれ……ちょっとみんな、見てください」
 狩奈は治癒対象を切り替えながら、まだ大丈夫かなと考えていたのだが。
 ビルの方が怪しく輝くのを見て、仲間達に状況の変化を伝えた。
「もしかして、魔空回廊じゃない?」
「ということは儀式の『邪魔』に成功したのか」
 京華が声をあげると、英世が最後まで冷静に状況を確認する。
 完全討伐は無理だったものの、儀式の邪魔そのものには成功したのだ。
「怪魚たちも逃げ出し始めましたね……追い掛けましょうか」
「このまま攻撃した方が早ええだろ。当たる所にぶっぱなそうぜ」
 リュセフィーはグラハがナパーム弾を放ち始めたことで、自身もライフル構えて凍結光線を放った。
「戻ってこーい、魚ども~!」
 白亜は指先を回転させると、真空の光輪を無数に作りあげて解き放つ。
 もう一班も含めてケルベロス達の砲撃が次々に怪魚たちを叩き落とし、流石に全てでは無いだろうが、見付けた範囲の掃討に成功したのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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