東京六芒星決戦~死を司る神々の宴

作者:雷紋寺音弥

●史上最大の儀式
「クロム・レック・ファクトリアの攻略、お疲れ様だったな。ディザスター・キングも撃破したのは、流石と言いたいところだが……」
 残念ながら、勝利の余韻に浸っている時間はない。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達を労いつつも、新たなる大規模作戦についての説明を始めた。
「アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)や阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)を始めとしたケルベロス達の警戒活動によって、死神の大規模作戦が行われることが判明したぜ。最近、多発していた死神による事件が集約された大儀式で、都内の6ヶ所で同時に儀式が行われる」
 その名も、ヘキサグラムの儀式。行われるのは築地市場、豊洲市場、国際展示場、お台場、レインボーブリッジ、そして東京タワー』の6ヶ所であり、晴海埠頭を中心とした六芒星の頂点となる場所だ。
「今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだな。おまけに、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動まで確認されている。デウスエクス全体を巻き込んだ、大きな作戦であることは間違いない」
 この儀式を阻止するためには、6ヶ所の儀式場で行われている全ての儀式を阻止しなければならない。どの儀式場も敵の激しい抵抗が予想されるので、それぞれの場所に十分な戦力を送り込む必要がある。
「お前たちには、6ヶ所の儀式場から選んで、その中の1つに攻め入ってもらいたい。だが、今回は敵の数が数だ。無策のまま正面から突撃して殲滅できるほど、連中も甘くはないと思った方がいいぞ」
 儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入を阻む。レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだが、突入の際の障害になることに変わりはない。
 儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラといった面々が配置されている。幹部だけあって高い戦闘力を誇るが、しかし彼らにも弱点は存在する。
「儀式を行う事に集中しているネレイデス幹部だが、少しでもダメージを被ったが最後、儀式を維持する事はできないようだな。つまり……外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達した上でネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、その時点で作戦は成功だ」
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始する。その後、更に7分の時間が経過したところで、生き残っていた死神戦力も含めた全ての敵が、一斉に撤退してしまう。
 また、儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断させ、撤退させるような決断をする可能性もあるので気を付けたい。
「ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7分の間が勝負だ。だが、ネレイデス幹部は強敵な上に、儀式場内部では更に戦闘力が強化されるからな。単独チームの戦力では、撃破は難しいと思った方がいい」
 加えて、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では、やはり幹部の撃破が難しくなる。状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに、撤退を優先するのも一つの手だ。
 もっとも、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので、可能な限り討ち取っておきたいところではあるのだが。
「外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、そのすべてと戦う必要はないぜ。『侵入者の阻止』を目的としている為に、儀式場周囲の全周を警戒しているからな。突破する際に戦うのは、せいぜい数体から10体程度だろう」
 白百合騎士団の一般兵は3名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度。また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。できるだけ相手にしないに越したことはないが、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点だけは注意が必要かもしれない。
「次に、儀式場内部だな。ここには、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されているぞ」
 築地市場にいるのは『炎舞の死神』アガウエー。数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
 豊洲市場で待つのは『暗礁の死神』ケートー。こちらは数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場には、『無垢の死神』イアイラがいる。数十体の屍隷兵『寂しいティニー』が護衛の戦力だ。
 星屑集めのティフォナがいるのはお台場。死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス、十数体が護衛となる。
 レインボーブリッジには、第四王女レリがいる。絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛に加え、十体程度の白百合騎士団一般兵に護られている。
 そして、最後に東京タワー。こちらは『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体、護衛として引き連れているという。
「儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要は無い。だが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか、或いはネレイデス幹部から引き離す必要があるだろうな。幹部の撃破を目指すかどうかは、お前たちに任せる。儀式場に向かう戦力と、戦場の状況。その二つから判断して、慎重に決定してくれ」
 今回の大規模儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に勝るとも劣らない。死神が引き起こしていた数多の事件が、この大儀式に集約されているのだから、当然だ。
 どちらにせよ、ここで死神の好き勝手にさせ、東京を死者の街にされては堪らない。彼らの儀式を阻止するためにも、今一度、力を貸して欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
マサヨシ・ストフム(未だ燻る蒼き灰・e08872)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)

■リプレイ

●渦巻く悪意
 築地市場。かつては日本有数の魚市場として知られた場所も、今となっては過去のもの。
 だが、そんな市場のあった場所は、今や宙を舞う鮪と鰹が渦を巻きながら空中を遊泳する、異様な儀式の場と化していた。
「毎度毎度、大掛かりだな。随分醜悪な魚市場だ。網で一網打尽に出来れば世話はないだろうが……」
 空を見上げる篁・悠(暁光の騎士・e00141)。敵はまだ、こちらには気付いていないのだろうか。
「六芒星。魔術師的には大変興味深い陣術ですし、解析もしてみたいもんですが……。それに、ここまで大掛かりだと、一体全体ナニを呼び出すつもりやら」
 どちらにせよ、碌なものではないだろうと、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)が肩を竦めた。
 ふと、横を見れば、他にも築地へ集まった仲間達の姿があった。総勢、6班から成る大部隊。ドラゴンの一匹でも狩れそうな勢いだが、しかしそんな彼らの力を以てしても、あの魚達を全て倒すのは難しい。
「まるで冥府のよウだな……尤も、地獄の番犬にハ関係のなイことだが。立ち入らせてもらウ」
 そう呟いたのは、誰だったか。それを確かめる間もなく、まずは二匹の魚が瞳を光らせて降下してきた。
「来たわね……。上等だわ! 三枚に降ろすまでもなく、魚の丸焼きにしてあげるんだから!」
 先の二匹に続いて降下してきた死神の群れ。その光景になんら怯むことなく、キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)は自らの掌に黒炎を呼び出し。
「幾度も護ってきた東京の大地で、碌でもない儀式など許しはしない!」
「築地には、今までここで過ごしてきた人達の想いがあるからね!」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)と影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)の二人が、降下してきた鰹や鮪を迎え撃つべく駆けだして行く。
「さぁ総力戦だ! 全員気合い入れていこうぜ!」
 拳を打ち鳴らす音に合わせて蒼炎が爆ぜ、マサヨシ・ストフム(未だ燻る蒼き灰・e08872)の拳が死神達を真の地獄へと沈めて行く。だが、それでも目の前に群がる魚の数は一向に減る様子を見せず、早くも気持ちが折られそうになる。
「話には聞いておったが……な、何という数じゃ。だが、有象無象をいくら集めようと、正義の炎はその勢いを弱めることなぞない!」
 炎を纏った大鎌で、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は迫り来る怪魚型の死神を、一刀の元に斬り伏せた。
 ここで弱気になってはいけない。戦いは、まだ始まったばかり。死神達による忌まわしき儀式を止めるためにも、こんなところでは終われない。
「私がいる場所は悉く、私の領域。ならば、私は私がいる場所を、すべて警備するのです」
 ただ、この惑星を守る、それだけのために。ナイフを片手に駆けだしつつ、七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)は改めて宣誓する。
「ここに自宅警備を開始しましょう」
 それは地球という名の、とても大きな皆の自宅。警備員として、そして何よりも地獄の番犬として、必ず守りきってみせると。

●炎に縛られし者達
 鮪と鰹の追撃を振り切り、築地市場の奥へと足を踏み入れる。だが、それでも油断は許されない。倉庫の影やコンテナの裏、そして路地裏の向こう側から、奇怪な呻き声と共に、緑炎に包まれた屍隷兵達が姿を現す。
「……ッ!」
 記憶の奥底に刻まれた影と、目の前にいる敵の姿。それが重なったことで、一瞬だけマサヨシが動きを止めて拳を構えた。
 これは同じだ。あの日、悪夢の真っただ中に放り込まれた自分が見た、村の者達の成れの果てと。
 緑炎を狩る邪悪な竜は、死神を食らい、その力を我が物にしたという。真偽の程は定かではなく、その竜と眷属もまた全て死に絶えた今となっては、確かめようもないのだが。
「うぉぉぉぉっ!!」
 しかし、それでもマサヨシは、心の内から湧き上がる怒りのままに、その身に宿した力を解放した。
 死神の駆る技術が、あの竜の使う術の起源か否か。そんなことは、もはや今となっては些細なことだ。東京を、かつて焼かれた故郷と同じ姿にしないためにも、彼は止まることを好しとせず。
「ぎゃうー!」
「落ち着きなさい、フレア。見た目はアレですが、所詮は有象無象の集まりに過ぎませんよ」
 ボクスドラゴンのフレアを宥めつつ、碧人が鎖で瞬く間に数体の屍隷兵を絡め取ってみせた。続けてキーアが手にした槍を高々と投げ上げれば、それは空中で複数の刃へと分裂し、流星の如く敵の頭上から降り注ぎ。
「下品な色の炎ね。気に入らないわ」
 そう、彼女が言った瞬間、槍の雨が縛炎隷兵を次々と真上から貫いて行く。
「ウ……ウゥ……」
「アァ……オォォォ……」
 だが、それでも炎に縛られた屍隷兵達は、何ら怯むことなくケルベロス達へと向かってきた。
 生物学的に考えれば、あの肉体は既に死んでいる。それにも関わらず動き回るのは、まるで緑炎が意思を持って、死体を操っているかの如く。
「ぬぅ、日本の中心にてこのような邪悪な企みを堂々と行うとは、正義は死滅してしまったのか……」
 燃える死体が闊歩する変わり果てた築地の姿に、思わずアデレードが呟いた。が、直ぐに気を取り直し、改めて目の前の敵へと向かって行く。
「否、わらわ達がおる限り正義は死なぬ。邪悪な企みは必ずや潰え、正義は必ず勝つのじゃ」
 そのためにも、こんな場所で負けられない。こんなところで終われない。再び燃え盛る炎を纏った大鎌を握り締め、横薙ぎに払って敵の首を刎ね飛ばし。
「みんな、離れて! 纏めてに串刺しにするわ!」
 斬霊刀を掲げてリナが叫べば、数多の刃が驟雨の如く、敵の頭上から降り注いだ。
「いい感じですね。このまま一気に押し切りましょう」
 相棒のミミック、相箱のザラキに偽の財宝をばら撒かせて敵の気を引きつつ、イッパイアッテナもまた戦斧で敵の頭を正面からカチ割った。それでも敵は次々と奥から湧いて来るが、ケルベロスもまた怯むことなしに、果敢に攻撃を仕掛けて行く。
 正に、一進一退の攻防戦。早くも時間にして三分が経過しようとした時、ついに群がる敵の一角に空いた隙間目掛けて、二つの班が路地を抜けんと攻撃の手を強めた。
 狙いは巨狼の死神、プサマテー。そうはさせぬと縛炎隷兵が迫るが、そう簡単に行かせぬのは、ケルベロス達もまた同じ。
「雑魚共が! こんなもんで、オレの後ろに攻撃を通せると思うなよ!」
 後方から繰り出された数多の炎。その全てを自らの身体で受け止めて、マサヨシは眼光鋭く敵の群れを睨み付けた。
 身体が燃えて、広がる緑炎がじわじわと体力を奪って来る。一刻も早く消し止めねば、ものの数分で焼き尽くされてしまうであろう。
 だが、それでもマサヨシは自らの身体を癒すよりも、敵を屠ることを優先した。この程度の炎、邪炎竜のものに比べればそよ風だ。やつの眷属が繰り出す緑炎とは違い、こちらを束縛し、操るような術も持ってはいない。
「ウオァァァァッ!!」
 この命、燃え尽きるまで走り続け、自ら仲間の盾となる。そのためならば、この命さえ惜しくはない。そんなマサヨシに、なおも群がる縛炎隷兵。しかし、ここで彼を見殺しにするような者は、果たしてこの場には存在していなかった。
「無理は禁物ですよ。さあ、ここが踏ん張りどころです」
 敵の隙間を縫うようにして走り抜け、傷ついたマサヨシの身体を七海が光の盾で覆う。ここを通してなるものか。その決意は揺らがず、希望も死なせないために。
「総ては、牙なき人の未来の為に!」
 それだけ言って、悠も敵の頭を真横から蹴り飛ばす。圧倒的な数の差がありつつも、彼女達の瞳は決して光を失ってなどいなかった。

●邪炎、堕つ
 戦場を照らす緑の炎。邪悪なる束縛の焔に魅入られて、本能のままに暴れ回る哀れな犠牲者。
 もっとも、人の身へ戻れなくなってしまった彼らにとって、救いとは即ち死と同義。倒しても、倒しても現れる敵の群れに、さしものケルベロス達にも疲労の色が見え始めた。
「しっかし、きり無いな……ここまで集められるとは」
「ええ、まったくです。お互い、相棒も限界のようですし……」
 額の汗を拭きながら戦線を維持する碧人に、イッパイアッテナが答えた。
 彼らの相棒たちは、度重なる敵の攻撃を受け止め続け、既に存在を消している。主である自分達が無事ならば、直ぐに力を取り戻すだろうが……少なくとも、これ以上はこの戦いで、彼らに負担は強いれない。
「このままでは、いずれこちらも全滅……。だが、まだじゃ! まだ、こんなところで終わるわけには行かぬのじゃ!」
 大鎌の柄を杖のようにして立ち上がり、アデレードは自らの魂を鼓舞するように、地獄の炎を燃え上がらせる。その輝きに釣られて数体の敵が襲い掛かって来たが、そこはマサヨシがさせなかった。
「……通させねぇって……言ったろうが……」
 緑炎をかき消す程の勢いで蒼き炎を燃え上がらせ、マサヨシは敵を睨みつける。
 こんな技術、あってはならない。こんな存在、いてはならない。死者への冒涜という言葉だけでは物足りない怒りが、彼の身体を満たして行く。
「どうやら、出し惜しみは禁物のようですね。ならば……結びましょう。括りましょう。人を、神を、縁を、時を――産霊ましょう」
 グラビティ・チェインより紡ぎし無数の糸。それによって織られた紐で、七海がマサヨシの身体を自らと結びつける。
 縁は切れず、魂は死なない。否、こんな場所で死なせないために。そして彼女の言う通り、相手が屍隷兵であっても、出し惜しみをしている場合でもない。
「大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 戦斧を大地に突き立ててイッパイアッテナが叫べば、それに呼応するようにして、龍脈に眠りし清浄なる力が溢れ出す。その輝きが、気の奔流が、仲間達の身体を覆う忌まわしき炎を消し飛ばし。
「忍び寄る呪い、静かに、彼の命を深淵の竜の元へ誘わん」
 碧人の紡ぐ竜の外法が、緑炎に駆られた哀れな屍を、あるべき場所へと還して行く。
「大変だけれど……まずはできる事からだね」
 斬霊刀を握り締め、リナもまた最後の力を振り絞った。
 魔力と幻術。その双方を混ぜ合わせ、無数の風刃で武器を包む。たとえ、切っ先が触れずとも、舞い踊る風の刃を次なる一手の布石とすべく。
「風舞う刃があなたを切り裂く」
 火を風で煽れば、もっと燃えるのだ。それを解っているのだろう。続く4人のケルベロス達は、その全てが自らの駆る力を極限までに放出し。
「我が深淵なる瞳を見よ。其即ち其方の罪を映し出す冥府の鏡なり」
「神をも滅ぼす尽きる事のない黒炎……。魂の一片すら残さず燃え尽きろっ……!!!」
 アデレードとキーアの二人が、それぞれに正面の敵目掛けて武器を突き立て、それを媒介にして体内に炎を注ぎ込んだ。
「ア……ア”ァ”ァ”ァ”ァ”……ッ!!」
 業炎が爆ぜ、黒炎が踊り、緑の炎を飲み込んで行く。全てを中から焼き尽くす一撃。だが、それだけでは終わらない。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――」
「輝きは交わり、煌めきは混ざり合い、七色に光る虹を織り成す。夢眩の光よ、今ここに来たれ!」
 先の二人が中から焦がす炎ならば、続くマサヨシの炎は外から全てを焼き尽くす炎。そして、高々と飛翔した悠の眼下には、7枚のバラの紋様が浮かんでおり。
「我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り!」
「Infinity Fall!! ……成敗っ!!」
 下から突き上げるようにして繰り出された蒼炎の拳と、紋様を突き抜けて勢いを増した鋭い蹴りが、上下から挟み込むような形で、縛炎隷兵を押し潰した。

●断たれた儀式
 上空を回遊する魚の群れが、散り散りになって彼方へと消える。縛炎隷兵達の生き残りもまた、同じく路地裏や建物の奥へ、何かに惹かれるようにして逃げ出して行く。
「どうやら、上手くやってくれたようだな……」
「ええ、そうですね……」
 互いの背中を合わせたまま、マサヨシとイッパイアッテナは、腰を下ろして空を仰いだ。
 もう、これ以上は一歩も動けない。しかし、敵はこちらを追撃するどころか、蜘蛛の子を散らしたかのようにして逃げて行く。
「とんだマイムマイムだったな。……これで終われば世話がないのだろうが」
「そういうわけにも、行かないでしょうね」
 悠の言葉に、碧人が続けた。二人の言う通り、実際にこれだけの大規模な儀式だ。この程度の失敗で死神が諦めるとも思えず、また他のデウスエクス達の動きも活発化している以上、どのような横槍が入るかも分からない。
「さあ、行きましょうか。目的を達した以上、長居をしても意味はありません」
 七海に促され、他の者達も立ち上がる。アガウェーは倒され、プサマテーも散った。しかし、それではこの胸に閊えるような、妙な不安はなんだろうか。
「正直、これで終わると思えないのよね。引き際がやけに見事過ぎるのも、なんか気に入らないし……」
「そうだね……。でも、今はとりあえず、築地を守れたことを喜ぼうよ」
 未だ警戒の色を解かないキーアへ諭すように告げるリナだったが、彼女もまた一抹の不安は抱いていたのだろうか。
「なぁに、その時は、またわらわ達でやつらの邪悪な企みを打ち砕けばよいのじゃ」
 二人の気持ちを察してか、アデレードが軽く笑いながら言った。
 儀式を阻止し、敵の幹部までも撃破して守り抜いた場所。そうそう、好きにはさせないという、決意の意味も込めながら。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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