東京六芒星決戦~湾岸サディスティック

作者:Oh-No

「ディザスター・キングの撃破、そしてクロム・レック・ファクトリアの破壊。そのいずれにも成功できたのは、何よりも皆の活躍に依るものだ。皆の勇気に感謝を」
 ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)は、そう言って頭を下げた。
「けれど、状況は予断を許さない。アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)君や、阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)君の推測に基づいて警戒に当たっていたケルベロスが、死神が大規模儀式を実施することを掴んだんだ」
 それは、都内6箇所にて同時に行われる儀式が1つの大儀式を構成する、『ヘキサグラムの儀式』。この大儀式こそ、ここしばらく多発していた死神による事件の集大成となるものに違いない。
 都内6箇所は、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』となる。これら6箇所の地点は晴海ふ頭を中心に存在し、六芒星の頂点の位置にある。
 これら儀式を守るために、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
 さらに、竜十字島のドラゴン勢力が何やら動いている様子もあり、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。

「皆への頼みは他でもない。これら儀式が行われる地点の1つに攻め入って、阻止してほしいんだ。ただ、6箇所の儀式すべてを阻止しなければならないから、いずれの場所にも十分な戦力が必要だ。うまく手分けをしてほしい」
 それぞれの儀式場の外縁部には数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
 レインボーブリッジの儀式場だけが例外で、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
 儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されている。
 ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようだ。
 つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功となる。
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始するだろう。
 儀式中断の7ターン後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうと想定されている。
 ネレイデス幹部の撃破を目指す場合の猶予はこの7ターンしかなく、この間に撃破しなければならないだろう。
 しかし、ネレイデス幹部はただでさえ強敵であるのみならず、儀式場内部では更に戦闘力が強化されるため、単独チームの戦力で撃破するのは難しいと思われる。
 また、周囲に護衛戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では、幹部の撃破までは難しいかもしれない。
 それ故に、状況によっては儀式中断に満足して撤退を優先するべき局面もあるだろう。
「とはいっても、ネレイデス幹部が多く生存すれば、再度の大儀式が企まれる恐れは多分にある。無茶を言っているのは重々承知だけれど……、幹部は可能な限り撃破してほしい」
 外縁部に存在する敵勢力は数百体という規模だ。とはいえ目的があくまで『侵入者の阻止』であるため、儀式場周囲の全周を警戒しており、1点突破をするのであれば数体から10体程度を相手取れば済むだろう。
 白百合騎士団一般兵の場合は、3名程度の小隊で警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3~6体程度となると思われる。
 また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込む場合があるので、その点は注意が必要だろう。

 儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されている。
 築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
 豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を集めている。
 お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
 レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
 東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
 儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要はないが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合、護衛を撃破するか、ネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
 幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してほしい。
「……実際、大変な作戦になることは間違いないよ。儀式の護衛役を務めているデウスエクスが、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部をあえて傷つけることで儀式を強制的に中断、撤退する決断をする――なんてこともあるかもしれないしね。けれど、皆ならば死神たちの思惑を、根本から崩せると信じている。じゃあ、頼んだよ」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
椚・暁人(吃驚仰天・e41542)
ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)

■リプレイ


 天井の高い建物内を大型魚類が悠々と飛び交っている光景は、深夜ならば海の底に沈んだ都市のように見えるのかもしれない。
 けれど陽光の下では、ただ違和感が喚起されるのみだった。
「こうも大量に魚型死神が揃うと、きっもちわるいな!」
 椚・暁人(吃驚仰天・e41542)がこぼした感想は、実に妥当なところだ。
 仲間たちも魚型死神の群れに思うところはあるようで。
「魚と戯れるのは釣りぐらいにしてェんだが……。しかし、ある意味これも『釣り』かァ? 竿もへったくれもねーけど」
「釣りなら、刺身醤油でも持ってくりゃ良かったか。ま、何を喰らうも選り取り見取り、余さず残さず喰らい尽くしてやるさ」
 呆れたように言う霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)に、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が応じながら、その物騒な眼光を髑髏の仮面で隠した。
 暁人には、そんな二人の不敵さが頼もしく見えて、緊張した心が少し解けた気がした。
(「でも、油断してるとやられる。しっかりしよう」)
 自分の役割はメディックだ。あくまで冷静に、最後まで皆を支えようと心に誓う。

 比良坂・陸也(化け狸・e28489)は、苛立った雰囲気を露わにしていた。この騒ぎが起きた時期が悪かったのだ。
(「手前らのせいで色々後回しになってんだ。帰ったら誕生日を祝ってもらうんだからよ、とっととぶっちめてやるから覚悟しろや」)
 そんな想いを込めて死神を睨みつける陸也に、背後から近づいた端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が、背中をぽんぽんと叩いて声を掛けた。
「今日は陸也が一緒じゃからの。頼りにしてるのじゃ!」
「おう括、無茶すんなよ。帰ったら、わかなと一緒にゆっくり祝ってくれんだろ?」
「もちろんじゃとも。陸也こそ無理はするな。主役が倒れていては締まらんからのぉ」
 そっけなく応えた陸也が肩越しに振り返ると、括がニンマリと笑っていた。

 ケルベロスたちが軽く会話を交わす間に、どうやら他班も準備が整ったようだ。
「さて、始めましょうかねぇ」
 『迦陵頻伽』を抜き放ちながら、椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)はふと首を傾げる。
「まずは私たちが血路を切り開く、って塩梅でしたね?」
「……、え?」
 自分が話しかけられているとは思わなかったのか、ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)の表情には、かすかな驚きが垣間見えた。
「ああ、ごめん。そうね、それで後は引きつけておけばいいのよね」
 ニャルラは煙管から口を離し、微妙に焦点の合っていない視線を向ける。吐き出した煙から、煙草ではない爽やかな香りが漂った。
「つまり、観客の視線をガッチリ捕まえればいいのデスね! そういうのは得意デス!」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、ギターを掻き鳴らした右手を突き上げて叫ぶ。
「これだけの観客の前なら、ソウルもますます燃え上がるってもんデスから! レッツ、ドラゴンライブ! ロックに決めるデスよ、イェーイ!!」
 そしてギターの残響が響く中、ケルベロスたちは儀式が行われているであろう、国際展示場のランドマークたる会議棟へと突貫を敢行した。


 一丸となって突入するケルベロスたちの先頭に立って、暁人たちは通路を駆け抜ける。このチームの役割は、侵入を阻むために展開する下級死神たちへと楔を打ち込み、その場へと固定すること。同じ役割を請け負うもう1班と共に、まずは侵入路をこじ開けに掛かる。
 死神と交錯する寸前、暁人の周囲で複雑な幾何図形を描く黒き鎖が発した柔らかな光が前衛の仲間たちを包み、守護の力を与えた。
「俺が絶対に支えきるから、心置きなく戦ってきてよ」
「任された。ならば端から魅せるとしよう」
 笙月は抜き身の妖刀をゆらりと傾け、浮かぶ怪魚の側面へと滑るように踏み込む。すれ違いざま振るう刃には呪詛が載り、孤月を描く斬撃が肉を裂く。
 仲間の血飛沫を浴びながら、魚のかたちをした死神たちが、儀式を侵そうとする愚か者たちを跳ね飛ばさんと宙を走るが……、
「私を無視しちゃ嫌だよ。……ほら、捕まえた」
 ニャルラから伸びた、死の気配を振りまく黒鎖に囚われて速度が落ちた。それを好機と、陸也が飛ばした煌めく戦輪がなぎ払ったところへ、さらに括の足刀が突き刺さる。
「ったく、わらわら湧き出やがって。嫌なの思い出すな、おい」
「ほらほら、道を開けるのじゃ!」
 ニャルラや陸也が魚の群れを押し留める鎖なら、突き刺さった槍の穂先が笙月や括だ。
 そうして生じた敵陣営の亀裂に先行する2班が分け入って横へと押し広げ、道へと変えていく!
「待たせたデス! 国際展示場、いけるデスかーっ!?」
 大群を前にシィカが煽りながら、一層激しくギターを掻き鳴らした。激しいリフに乗せて声高らかに歌えば、追憶の幻影が生み出され、その圧が死神たちを後退りさせる。
 その僅かな隙間にトウマが詰めて、巨大な杭打機の先端を怪魚に押し当てた。
「危ないですから、もう一歩後ろにお下がりくださいってな、――吹き飛べ!」
 凍てつく切っ先が赤身を瞬間冷凍するのを横目に、杭打機を振り抜いて無理やり隙間を作り出す。
 まだ残る邪魔な数体は、飛び上がった竜人が大きなテイクバックから勢いよく振り下ろした太い竜尾で、地面に叩きつけるように薙ぎ払った。同様に逆側でも、外縁部を担当するもう1班が魚群を押しのけていて、エントランスの奥へと進む道が確固として開く。
 すかさず、残る4班が道を駆け抜けていく。その気配を背中に感じながら、
「殺したい奴、きっちりぶっ殺してきな。文字通りの雑魚どもに邪魔はさせねえからよ」
 床で跳ねる怪魚たちから視線は離さず、竜人は通り過ぎる仲間たちを送り出す。
 ――そして2班16名が残った。
「あとは時間いっぱいまで暴れ放題だなァ。しばらく付き合ってもらうぜ」
「……そうだ、ね。じゅーぞー達と、あなた達で、絶対、死守する、よ」
 トウマはひしめく怪魚たちを鋭利な眼光で睨めつけて、この場に残った全ての仲間たちに吠えた言葉に応じる、途切れ途切れのか細い声。
 ここから、いつ終わるともしれない彼らの第2幕が始まった。


 外縁部を守る魚型死神たちは、未だに増援を警戒しているのだろう。各方面に繋がる通路全てを封鎖し続けており、全戦力を以て2Fに留まるケルベロスたちを押しつぶしてくるようなことはない。
 とはいえ、空いた穴を塞ぐための戦力が続々投入されてくるために、どれほど打ち倒そうと戦闘に際限がないのもまた確かだった。
「みんな、大変だけど頑張ろう!」
 暁人は仲間を鼓舞しながら、怪魚から垂れ流される、穢を孕んだ卵らしき物体からダメージを受けたメンバーに、癒やしの力を振りまく。
「わんこそばじゃねえんだからよ、少しは遠慮しろよ」
 ぼやく陸也が錫杖の石突で床を叩くと、錫の輪が立てるシャンとした音と共に先端が焔に包まれる。火の粉を舞わせながら錫杖を振り回し、怪魚の群れに踊りこむ。紅蓮の炎が魚を焼くたびに、たんぱく質が焦げる匂いが漂った。
 突進してきた怪魚の側頭を龍気を迸らせる鉄扇で打ち付け、笙月は大きくため息をつく。「次から次へと、キリがなさんすなぁ。……まったく、つまらない企みで面倒を起こすんじゃねぃざんしよ。後始末は誰がやるんと思いなんしか?!」
 ぼやきつつ、後方から新たに宙を駆けてこちらへと向かってきた敵を睨みつけるも、怪魚たちは意志の感じ取れない眼で見返すのみで、どこか虚しい。
 向かってきた怪魚は3体だ。そのまま並び揃って加速した怪魚たちが、勢いに乗った巨体で迫り来る。
「はたろう、頼むよ!」
「そんなに慌てなくても、たっぷり歌を聞かせてやるデスよ!」
 暁人のミミック、そしてシィカが怪魚たちの前面に回り込み、仲間たちを守ろうとする。それぞれ1体ずつを受け止めたが、1体が2人のブロックをすり抜け、ニャルラを弾き飛ばした。
 怪魚はニャルラへさらに追撃をかけようとするが、不意にその周囲で連鎖した爆発に足を取られた。
「爆発物の衝撃で釣るのはダメだったか? ま、てめぇらには関係ないよな」
 拳に握り込んだスイッチを押したトウマがそう嘯く。
 モウモウと上がった煙に紛れて、竜人が手にした槍を投げ込んだ。
「……てめえらには昏い海の底が似合いだ。ふらふらと飛んでるんじゃねえよ」
 放物線を描いて飛ぶ槍はその軌道の頂点で幾重にも分裂し、煙に燻される怪魚たちへと雨のように降り注ぐ。
 その間に、ニャルラは態勢を立て直した。
「……やってくれたなあ。お返しをしないとね」
 口の端から垂れる血を拭いもせず、愛用の煙管をひと吹かし。流れる風に、爽やかな香りを乗せる。
 ――もちろん、ただの香ではない。風の中に薄まって消えることなく怪魚の元に届いた香が、巨体へと浸透する。
「君はもう、動けない」
 興味を失ったかのようにニャルラが視線を切る頃には、怪魚の動きが鈍くなっていた。直後、同時に放たれた2発の弾丸が怪魚の頭部、さらには直下の床を撃ち抜く。その2点を結ぶように淡い光の線が奔り……、怪魚は何を見たのか、大きく口を開いたまま倒れ込む。
「ひふみよいむな。葡萄、筍、山の桃。黄泉路の馳走じゃ、存分に喰らうてゆかれよ」
 硝煙立ち上る2丁拳銃をホルスターに収め、括はニヤリと唇を釣り上げた。


 仮に外縁部を担当するのが1班であれば、途切れぬ敵戦力を前に絶望的な消耗戦を強いられたかもしれない。2班体制であったからこそ、敵を引きつける役割をもう1班に任せ、こうして十全に立て直す時間が取れている。
 無勢の戦いで傷ついた仲間たちを、花びらのオーラで順次癒やしながら、暁人は小さくつぶやいた。
(「死神達の大規模儀式……絶対に阻止しないとね。そのためには、俺達が失敗するわけにはいかない」)
 万が一、この周囲に山といる戦闘力強化型の下級死神たちが儀式場への増援と化すことがあれば、作戦の根底が崩壊してしまう。けれどこの形が維持できる限り、最悪の事態は起こらない。敵将の首を狙うような華々しい役割ではなくとも、極めて重要な要石の位置にある。
「もう少しがんばろうな、はたろう」
 仲間を庇うために奮闘してきたミミックを撫でて、暁人はふんわりと微笑みかけた。

「ちょっと髪が乱れるかもしれないが、今更だろ? 大人しくしてろよ」
 トウマの嵐の魔術による荒っぽいヒールが、仲間たちを揉みくちゃに撫でていく。これで、準備は完了。再び怪魚どもに仕掛ける容易は万全だ。
「イアイラの顔は拝めずとも、目論見は必ず砕く。そのためには、本気でホントの、全力じゃ! 皆、まだまだいけるじゃろ!」
 胸を張って皆を見渡しながら、括が激を飛ばす。
「ああ、敵が寄ってくるよりスピードより、ぶちのめすスピードが早けりゃ問題ねえしな」
 攻撃に身を晒し続けている陸也だが、その痛みは微塵も見せず、強く振る舞っている。
「迦陵頻伽もまだ足りぬと欲深に謳っておるざんしよ……」
 笙月は鯉口を切り、そっと右手を柄に当てた。
「次の部の開始デス! 日はまだ高いデスから、あと何部でも行けるデスよ」
 ギターのチューニングを気にしているシィカの反応は抑え気味。
「……みんな気合十分だね。じゃあ、次はあの辺りから仕掛けてみようか」
 ニャルラは皆がボルテージを上げる中でも、いつもの調子を崩さずに、敵の様子から目を離さない。
「いいぜ。最後はどうせ全部ぶっ飛ばすがよ!」
 竜人の乱暴な言葉に背中を押されるように、ケルベロスたちは再度戦闘の真っ只中に身を投じていく――。


 ……一体どれほどの死神を倒したのか。すでに数えるのも面倒だ。
 どんどん重くなっていく身体を引きずりながら、ケルベロスたちは渾身のグラビティで以て、尽きぬ死神たちに対峙していた。
 ――いっぱいに引き絞られた光輝爆ぜる弓から、漆黒の矢が放たれる。
「汚えモノ、バラまいてるんじゃねえよ。……殺す!」
 竜人が放った一撃は、乱雑に卵を散らしていた怪魚の横っ面を真っ直ぐに射抜いた。
「妖刀『滅』よ、全てを滅する汝が破壊の波動よ、……解き放て!」
 うねる触手を伸ばしてくる怪魚の前には笙月が立ち、目には捉えられぬ衝撃波で切り払う。
「アー、……ケホッ、ゴホッ」
 シィカは歌おうとして咳き込んだ。
(「ちょっと喉が枯れてきましたデス……。でも、まだなのデス!」)
 消耗は激しいが、内に秘めた熱は燃え上がらんばかりに高まっている。その熱さを劫炎の息に変えて、怪魚たちに吹きかけた!
「どうデス! ボクの熱いロックが伝わりましたか!?」
 しかし想いが伝わりすぎたのか、業火から飛び出してきた怪魚の突進が、トウマの胸に突き刺さった。
「……どうってことねえなッ」
 食らいついてくる相手を殴りつけ、横に払ってトウマが距離を取ったところに、陸也が割入って、錫杖を真っ直ぐに口内へと突き入れる。
「おとなしく倒れとけよ」
 苦悶に身を捩る怪魚は、血飛沫を撒き散らして塵に帰る。朱に染まった陸也の姿を見て、笑みを深めた括が軽口を叩いた。
「ずいぶんと男ぶりが上がったのう、陸也よ」
「てめーも言えた格好かよ」
 二人の応酬に苦笑する暁人だったが、不意に表情が変わる。
「……なんだか、急に敵からのプレッシャーが薄れたような?」
「……死神たちが撤退していくね。終わった、のかな?」
 訝しげな暁人に、周囲を見回してニャルラが応じた。

「さて、どうなりましたか」
 笙月はしばらくは抜き身の刀を手にしていたが、襲ってくる気配が微塵もないために血を払って納刀した。それでもなお、警戒は緩めていない。
「近いようで遠いからのう。うまく敵将を仕留められたことを祈るばかりじゃが」
 長大なエスカレータの先を見つめて、括が呟く。胸に去来するのは、ミツルのこと。懐にしまった本の背をなぞり、思いを馳せる。
「少なくとも、儀式を止めたことだけは間違いなさそうだけど……」
 煙管を頬に当て、ニャルラは考える。
「誰が残ってようと、またロクでもないことを企むなら、何度でもぶっ潰す。それだけだろ」
 仮面を外した竜人は、眉間にシワを寄せた物騒な表情で吐き捨てた。胸に巣食う闘争心は、いまなお熱を失っていないのだ。
「アンコール、デスね!」
「それは違うと思うけど……。ただ、そうだね、今は勝利を喜ぼう」
「もう魚で遊ぶのも飽きたぜ。しばらく、静かにしていてほしいもんだ」
 シィカ、暁人、トウマたちもまた、武器を収めてほっと一息をつく。

「おう、括。帰るぞ」
 難しい顔をした括に陸也ができたのは結局、そんなぶっきらぼうな言葉を掛けることだけだった。
「なんじゃ、早く祝ってほしいのか?」
 けれど、いつもの表情に戻った括を見て、ほっとする。そして陸也は括に背中を向け、無言で歩き出したのだった。

作者:Oh-No 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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