「皆の活躍でディザスター・キングの撃破、クロム・レック・ファクトリアの攻略は成った。ありがとう」
これはダモクレスの勢力に対し、強烈な一撃となったはずだとリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はねぎらい、そして集まったケルベロスたちに新たなる戦いを告げる。
「間髪いれずだが……死神と協力するデウスエクス達による大規模作戦『ヘキサグラムの儀式』が判明した。こちらもあまり時間はない、今一度皆の力を貸してくれ」
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)たちが予知したそれは、死神による事件が集約された首都湾岸一帯をで行われる大儀式だという。
確認された場所は『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ヶ所、これらを線で結べば六芒星、すなわちヘキサグラムとなり、その中心にあるのは……晴海ふ頭。
「儀式場には戦闘力強化型の下級死神や死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵が確認されている。更にエインヘリアルの第四王女レリの直属の軍団、竜十字島のドラゴン勢力……デウスエクス全体を巻き込んだ一大決戦となるのは間違いない」
それはすなわち、それだけの見返りがデウスエクス達にあるということ。絶対にこの儀式を成功させるわけにはいかない。
「皆には判明している儀式場六ヶ所のうち、一つに攻め入ってほしい」
地図に六ヶ所の印を打ち、リリエは阻止作戦について説明する。
「ヘキサグラムの阻止には六ヶ所全ての儀式を止める必要がある……恐らく、我々だけでは難しいだろう。他のチームと連携し、それぞれに十分な戦力で当たらなければいけないだろう」
レインボーブリッジを除く儀式場の外縁部には、戦闘力強化型の下級死神『ブルチャーレ・パラミータ』と『メラン・テュンノステュンノス』が数百体。
レインボーブリッジには第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が侵入者を阻止せんと待ち構えている。
これら外縁部の敵を突破した先には死神『ネレイデス』幹部が儀式を行っており、彼彼女らを攻撃することで儀式は阻止できるはずだという。
築地市場に『巨狼の死神』プサマテー。
豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ。
国際展示場に『名誉の死神』クレイオー。
お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー。
レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア。
東京タワーに『宵星の死神』。
いずれも強力かつ儀式場内部では戦闘力が強化されているが、幹部は儀式に集中しており、少しでもダメージを被れば儀式を邪魔することができる。
儀式が中断された場合、作戦失敗を悟ったネレイデス幹部は七分ほどで撤退するため、妨害自体は何とかなるだろう。
更に撃破を考えるなら複数のチームで連携し、周囲の護衛や外縁部の戦力の引き付け、対ネレイデス幹部の共同戦線を敷く必要がある。
「ネレイデスの幹部が多数生き残れば、再度このような儀式を引き起こす危険もある……できれば倒しきっておきたいが、難しいと判断した場合は儀式の中断と撤退を優先してくれ」
命あっての物種はお互い様だとリリエ。
何しろ数に関してはデウスエクスの側が圧倒的だ。儀式を中断できれば、作戦は十分成功とみなしていいだろう。
儀式の阻止のみを目的とするなら、敵の大多数を相手にする必要はない。
レインボーブリッジ以外の儀式場外縁を回遊する下級死神なら数体から十体程度、レインボーブリッジの白百合騎士団一般兵なら一個か二個小隊、三~六名程度を倒せば突破はできるだろう。
また外縁の守りは外に脱出しようとする敵は気にしていないらしい。
「ただ外縁の守りも増援が来ないと判断した場合は儀式場内に増援としてなだれ込んでくる可能性がある。いずれかのチームが圧力をかけ続けるか、迅速な行動をしないと危険ではあるので注意してほしい」
儀式場に突入後に問題となるのはネレイデス幹部を守る護衛役だ。
築地市場の戦場には『炎舞の死神』アガウエーと、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』。
豊洲市場の戦場には『暗礁の死神』ケートーと、数十体の屍隷兵『ウツシ』。
国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラ、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』。
お台場の戦場には、『星屑集めのティフォナ』と、死神流星雨を引き起こしていた『パイシーズ・コープス』が十数体。
東京タワーには『黒雨の死神』ドーリスと、アメフラシと呼ばれる下級死神が数十体。
そしてレインボーブリッジには第四王女レリと彼女の騎士団……十体程度の白百合騎士団一般兵、更に『絶影のラリグラス』、『沸血のギアツィンス』の護衛。
「儀式を阻止するだけならば護衛をすべて相手取る必要はない。だがネレイデス幹部の撃破を目指す場合は護衛をネレイデス幹部から引き離す作戦か、護衛ごと撃破する戦力が必要になる」
儀式場に向かう戦力と、戦場の状況をみて幹部の撃破を目指すかどうか判断してほしいと、リリエは話を締めた。
「今回の大規模儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に匹敵するものだと推測されている」
ここまで死神が引き起こしていた数多の事件の集大成といっても過言ではない、とリリエ。
阻止に失敗すれば人類は未曽有の危機に陥ることすらありえるのだ。
「私から言えることはこれしかない……信じている。頼むぞ、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629) |
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436) |
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990) |
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002) |
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
●レインボーブリッジ突入
台場にかかる全長八百メートルの虹の橋は正式名称を東京港連絡橋という。
かつて映画の華々しい舞台となったかの地に降り立ちながらマティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)はある種の息苦しさを感じた。
「横の五十メートルは案外と狭いものですね」
「そして縦は遠い」
感想を補足してくれる【レプリフォース】の一人、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)にマティアスは頷きで肯定する。
集結したケルベロスたちは両岸合計7チーム、人数にして56名。レインボーブリッジ中心に位置する儀式場にはエインヘリアルの第四王女レリと配下たる数十名の白百合騎士団、そして精兵。
レインボーブリッジは全儀式場でも最も密度の濃い戦場となるだろう。
「俺たちの動きは作戦通り、外縁部を突破し、騎士団を抑える。危険な任務だ……どうか皆、無茶はしないでくれ……特に、紫織」
凛々しく向き合いながらもレプリフォース第二代団長の顔には、少年のような初々しさが漏れる。いとおしくも頼もしく、槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)はそれを微笑みで返した。
「あなたが護ってくれるって信じてますから、大丈夫ですよぉ」
「あら、お熱いこと。そう見せつけられては、わたくしも燃え上がらざるを得ませんわね……!」
引き締めるのは二人を見守るレーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)の展開する兵装。各班も配置につき、いざ決戦の時。
「決戦、ですね」
「参りましょう……必ず止めてみせます」
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)に、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)が頷く。
「あれは……」
共に並び立つハル・エーヴィヒカイトが目前のエインヘリアル騎士に目をやる。凛々しき巨体に構えられた大斧、忘れようもない白百合騎士団の精鋭だ。
フィルトリアにとって因縁の相手。その意志の固さをマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)とレプリフォースの仲間たちは受け取り、駆ける。
「先触れは引き受ける。R/D-1、重力装甲展開。強行突破だ……」
「あわせます。統制射撃、打ち方初め」
『SYSTEM COMBAT MODE OPEN』
レプリカントたちの声が唱和し、その戦闘システムが起動する。
「努力、友情、団結、勝利! レプリフォースの勝利の方程式ですわ!」
レーンとミオリの放つ無数のマルチプルミサイルの軌道がレインボーブリッジに絡みつき、その全貌を煙に包む。
「来たか、ケルベロス!」
「迎え撃て!」
炸裂する音と衝撃、外縁部を守護する白百合騎士団が動き出すと、芝浦方面口は一気に乱戦となっていく。共に戦うケルベロスたちと触れ合う距離で、紫織は銃身を収縮させた『ヴァリアブルバレルライフル』をほぼ零距離に構え、次々とフロストレーザーで騎士団員を撃ち抜いていく。
女騎士たちたちも身体能力を生かし、跳躍。主塔やケーブルを巧みに機動してくるが、その凛々しき姿はあえなく炎に包まれた。
「目標迎撃。戦闘フェーズ、突破移行。テレサ、ティーシャ、いけるか?」
「問題ない」
答えと共に火を噴く『アームドフォートMARK9』の連装フォートレスキャノン。白百合騎士団の防壁は真下からぶち抜かれた。
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)たちの位置は下層のレインボープロムナードにある。
テレサのライドキャリバー『テレーゼ』につかまり、いち早く突破した二人のスナイパーは、機動力の戒切りに電撃戦を展開した。
「EX-GUNNER SYSTEM SETUP」
ほつれた防衛線を食いちぎるのは上層から。マークの『XMAF-17A/9』アームドフォートより整然と展開されたドローン編隊によるロックオンレーザーが薙ぎ払い、開いた突破口をふさがせない。
あとは中枢まで一直線だ。
「このまま派手に参りましょう……!?」
その快進撃を受け止めたのは、外縁部を抜けた直後。
「フゥッ!」
「早々に水を差してくれますわね……テレサ様!」
上層へと飛び移ったテレサ達を待ち受けたのは怒涛の衝撃。礫とともに跳ね飛ばされる少女らに、ボクスドラゴン『ドラヒム』は属性を吹き付けインストールして、何とか受け止める。
「貴様ら……いや……また貴様らか、ケルベロス!」
桃色に近いはずの女巨人の髪と瞳は激情に赤く燃え上がって見えた。
「話には聞いていたが、向こうからお出迎えとはな」
「ギアツィンス……さん」
ティーシャの呟きにフィルトリアは向かい合う。因縁あるエインヘリアルの女騎士『沸血のギアツィンス』と。
●再戦、沸血のギアツィンス
体制を立て直すライドキャリバー『テレーゼ』が、降り注ぐ銃撃をホイールで弾く。
「先に行け、すぐに追いつくッ!」
「すぐに合流する。聞きたいことも、あるからな」
仲間たちに任せ先行したハル、そして笹ヶ根・鐐が第二王女に向かう仲間たちに呼びかける声がする。彼の班も並び立つエインヘリアルとラリグラス隊と戦闘に入っており、援護は期待できない。
ここからは互いに自分たちだけの戦場だ。
二度目の対峙となる沸血のギアツィンスは、あの時と同じ白百合騎士銃士隊四人を伴って大斧を構えた。
「なぜこんな事を……!」
「己が命、問われ素直に答えると思ってか!」
フィルトリアへの答えは拒絶。『プロミネンスオーラ』の熱量を切り裂き、大斧が大地を砕く。圧倒的質量の衝撃は掠めるだけですら彼女を打ちのめし、編み上げた髪が弾け飛ぶ。
「違います……っく……この、儀式が成功すればどの様な惨劇が引き起こされるか、貴女はっ」
命懸けで救ってくれたあの人のように、誰かを救う為にケルベロスになったはずというのに……断罪の拳が鈍るのは、かつて戦った奇縁のせいなのか? フィルトリアは首を振り、感情を『フォルティシモ』ハンマーへと込めるように振るう。
「レリ様の命、我が心が叫ぶのだ。使命を果たせ、屈辱を晴らせと!」
「わかりあう余地はなさそうだな」
燃えさかるオーラの弾丸を『Schwert』ブレードの刀身と、マルチプルミサイルで迎撃しつつ、マティアスは彼女をそう判断する。
ギアツィンスは過去の戦いで虐げられた女性たちの境遇に怒りを見せたというが、彼女らの忠誠は固く、失った盟友の生命がなお心を頑なに変えている。
目的も手段も漫然とした意志でぶつかり合えば、憎悪のオーラにこちらが飲まれるだけだ。
「仕切り直す必要がありますね……大丈夫、私がいる限り崩させはしません」
「ROGER、MODE COVERING FIRE」
傷ついたディフェンダーたちに『治癒の波動』を施す紫織に答え、マークの『XMAF-17A/9』アームドフォートが接続された『20mmガトリング砲』と共にバレットストームのオーケストラを奏でた。
「持久戦の構えか。破砕射撃、援護しろ!」
「そうはさせません。角度算出……電磁弾、投射」
呪いの聖弾で弾幕を張る銃士隊。援護を受け突っ込んでくるギアツィンスを迎え撃つのはゾディアックソード『シロガネ』を空に掲げたミオリの砲撃。
およそ垂直に近い迫撃砲の角度、アームドフォートより投射された『エレクトロマグネトボム』が狙うのは彼女ではなく援護する後衛。
「うあっ!?」
電磁パルスを伴う轟音と閃光の電磁弾が銃士小隊を散らし、その働きを麻痺させていく。
「く、貴様ッ!?」
「ギアツィンス様の篤い情は共感できますが、同時に弱点でもありますわ」
突進が鈍ったのは支援射撃の有無だけではないだろう。レーンはマティアスにカバーを頼みつつ、その大剣と斧が打ち合う橋上の演武台へと両手を大きく展開する。
「拡散荷電粒子砲、用意……」
「逃すか!」
零距離からスターゲイザーを放ち、反動で飛びのくマティアスは『Bewaffnet Kanon』アームドフォート主砲を連射してエインヘリアルたちを封鎖。
「ファイアスコール!」
マティアスが離脱する最中、レーンの荷電粒子フィールド『拡散荷電粒子砲』がレインボーブリッジを広域照射した。
●不倶戴天
「WARNING! TARGET SURVIVE!」
警告と共に信地旋回したマークの『HW-13S』防盾がレーンを庇う。瞬間、爆発。
「やってくれるな、ケルベロス……だが」
沸血のギアツィンスのまとう紅蓮のオーラが一際燃える。彼女の溜めた気は炎、解放された力が炎の雨雲を吹き飛ばす。
「そんな踏み込みで我が炎は飲み込めん!」
「敵残勢力82パーセント、悪い状況ではありません、が」
立ち上がる白百合騎士団銃士は三名、確認してミオリはスターサンクチュアリの結界を張りなおす。
ギアツィンスの言葉通り倒しきるには遠いが、こちらもまだ倒されたものはいない。死神に的を絞った今回の作戦を考えれば順調な成果といえるだろう。
だがまだ油断はけしてできない。
「再現プログラム構築……完了、出力する」
マティアスの打ち込んだ『Befehl "Black History"』がギアツィンスを翻弄し、彼女の恥ずべき禁忌の記憶に無茶苦茶に斧を振り回させる。
「貴様ぁ……この屈辱を上塗りし……どこまで辱めれば気が済むのだっ!」
「ギアツィンス様、いけません!」
心の奥に抱えるトラウマは受けたそのものにしか見えない。見えないはずだが、フィルトリアは彼女を襲う幻覚の正体を見てしまった気がした。
「……不甲斐ない私のために……イリス……」
「ギアツィンスさん……っ!」
彼女を襲っているのは過去の自分、自分たちなのだろう。
爆発する闘気を『罪を喰らう獣』で受け、フィルトリアは鍔迫り合う。敵の持つ怒りや憎しみ、負の感情を食らい、漆黒の炎へと変える彼女の技でも、果たしてその激情は受けきれるのか?
「援護いたします、お下がりください!」
「離れろ、このままでは共倒れるぞ!」
……幸か不幸か、決着は双方の支援に免れた。
銃士隊の呪いの聖弾が、『バスターライフルMark9』のゼログラビトン弾と衝突し、空に無数の火花を散らす。
それに紫織が治癒に回していたヒールドローンを盾に使い、なんとか五分。個々の正面火力ではケルベロスたちはいかんせん不利だ。
「打ち合いでの決着は難しそうですね……」
「では束ねてかかるとしましょう。テレーゼ、ティーシャさん」
だが膠着した戦場の打開策は、テレサと彼女のサーヴァントが、すなわちケルベロス側が持っている。
「望むところだ、『斬環の末妹』でいく!」
「システムオールグリーン。斬環の末妹モード、起動。いつでもどうぞ」
テレサの声に不可視のガイドレーザーが伸び、ティーシャの『アームドフォートMARK9』が変形を開始する。フォートレスキャノンが横にスライドしてレールが展開。テレサの両肩が円形マスドライバー『ジャイロフラフープ・オルトロス』アームドフォートをパージ、複雑に変形したテレーゼに接続。
「アイハブ」
「させるか!」
もちろんそれを唯で見送る白百合騎士団ではない。だがレインボーブリッジが共鳴するほどに叩きつけられた斧からの衝撃は彼女に届きはしなかった。
「忘れられては困るな、ここは通さん」
「たとえどの様な理由にせよ……沢山の人を傷つけるやり方を許す事はできません……!」
マティアスの放つ無数のミサイルが炸裂し、衝撃波の勢いをそぐ。なおも止まらぬエインヘリアルの騎士に、フィルトリアは正面から体を張り、その一打を受け止める。
「彼女は任せろ、いけ!」
「お願いします……少しでも多くの命を救う為に……!」
少女の体が宙を舞う最中、テレサたちの合体ワイルドグラビティは完成した。
●因縁は傷跡深く
「ジャイロフラフープ、一斉掃射」
「なっ、うあっ!?」
託したジャイロフラフープにかわり、脚部『高出力型エアシューズ「アンバードシューズ」』で機動するテレサの指令に、テレーゼのガトリング砲が、炎を帯びたグラインドファイアの回転が銃士たちを容赦なく掃討していく。
銃士隊の一人を跳ね飛ばし仕留め、回転が最高潮に達したアームドフォートをティーシャは切り離した。
「終わりだ……切り裂け! デウスエクリプス!」
橋の舗装をも切り裂き、巨大な運動エネルギーの戦輪がギアツィンスと白百合騎士団めがけて疾走する。
「ギアツィンス様!」
「っ、下がれ!」
背後には今も激戦続く儀式場。白百合騎士団銃士の悲鳴にギアツィンスが走る。クレーターを空けるほどの踏み込みから打ち込むように斧で受け、戦輪と化したアームドフォートに刃を砕かれながらも衝撃波を放ち食い下がる。
「王女殿下、御加護をぉぉぉー!」
「これほどとは……ですが、今しばらくは!」
決して余裕はない。だが今にも打ち返してきそうな粘りと裂ぱくの気合に、レーンは反射的にマルチプルミサイルを叩き込む。
「いかん、援護しろ……!」
「COUNTER FIRE!」
負けじと立ち上がる銃士たちに、ケルベロス側もマークの『XMAF-17A/9』アームドフォートからフォートレスキャノンが応戦。更に爆発。
「橋が……!」
飛び散る炎にメディカルレインを浴びせる紫織の聴覚センサーは橋のうねりを聞いた。
人知を超えた炎と硝煙に包まれ、東京湾岸の虹は今にも落ちんばかりに悲鳴をあげていた。
流れが変化したのは、その激しい応酬のまさに最中。
「妾の野望が……」
浮かぶ陽炎の城が消え去るなか、『約定の死神』アマテイアの怨嗟の断末魔をケルベロスたちは聞いた。
「なんという醜態だ……!」
爆煙を蹴破りギアツィンスが飛び退いていく。彼女の悔恨は死神の撃破に対してではない。
「第四王女の命は場の確保でしょう。私たちは目的を果たしましたが、あなたも使命を全うした。違いますか」
頭を振り斧をたたきつけるギアツィンスを、ミオリは宥めるように言う。
決して方便ではない。作戦通りではあるが、ケルベロスの側も打ち取れたのは死神のみ。王女の撃破は勿論、橋の奪還も達成はできていない。互いに切り札を切りつつ、精彩を欠く戦いでもあった。
「また、こうも仲間を失い、無様な戦いを!」
ゆえにギアツィンスの怒りの矛先は彼女自身。
今回もまた二人の白百合騎士団員を失った、その痛みはどれほどのものか?
怒りのまま、傷ついた大斧を振り上げるギアツィンスだが、その視界を爆発が遮った。
「これ以上は危険だ、退くぞ!」
「っ、待て!」
目的達成以上の余力がない現状、この場にとどまり続けるのは危険が過ぎる。素早く決断し、マティアスはありったけのミサイルで弾幕を張る。
無言の連携、仲間たちが海へと飛び込むなか、フィルトリアは一度だけ振り向いた。
「二度目、だったな」
「……フィルトリア・フィルトレーゼと申します」
ただ一言。怒れる瞳に返し、彼女は海へと飛び込んだ。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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