東京六芒星決戦~儀式の先にあるものは?

作者:沙羅衝

「みんな、クロム・レック・ファクトリアでの戦い、ほんまに良うやったで」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、ケルベロス達に向かって先日の戦いの労をねぎらった。しかし、直ぐにその表情は少し硬いものになる。
「……でや、また別の事件が起こったみたいや。アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)ちゃんの調査で分かった事やねんけど、どうやら東京で死神の大規模儀式が行われるみたいやねん」
 ダモクレスの次は死神か……。と、一人のケルベロスは頭を抱えるそぶりをする。
「この儀式はな、最近死神による事件が色々とあったんやけど、それの集約された大儀式になるみたいや。都内の六ケ所『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』で、同時に儀式が行われる。その名も『ヘキサグラムの儀式』。
 それぞれを結ぶとや、ちょうど晴海ふ頭を中心とした六芒星になる。な? 怪し過ぎるやろ?
 んで、これを行ってるんは戦闘力強化型の下級死神とか、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、なんかよう分からんけど、第四王女レリの直属の軍団もおるみたいや。
 そんでもうひとつ、これもなんかよう分からん続きやねんけど、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も、おるみたいやな。
 今んとこ、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦ちゃうか、ってのは、みんなも予測はできるやろ」
 絹の情報からは、ただならぬ雰囲気を感じる事が出来る。そして絹はその反応を見ながら説明を続けた。
「兎に角、まずはこの儀式を止めるで。
 みんなには、この儀式の一つに攻め込んで欲しい。でも、この儀式はその六つの儀式場全部を阻止せなあかん。当然他のチームも動いてるけども、それぞれに十分な戦力を配置するって事も必要になるやろな。
 で、その儀式場やねんけど、まず外縁部に数百体の戦闘力強化型の下級死神、『ブルチャーレ・パラミータ』と『メラン・テュンノス』が回遊しとる。目的は当然、儀式場への侵入者の阻止。
 一つだけ例外があるのがレインボーブリッジやねんな。ここには、さっきもちょっと触れたけど、第四王女レリ配下の白百合騎士団の一般兵がおるみたいや。
 次にその儀式場の中心部には『ネレイデス幹部』がおる。こいつらが儀式をやってるわけやな。
 その幹部やねんけど、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配置されてる事が分かってる。
 こいつらは儀式をする為に集中せなあかんみたいやから、ちょっとでもダメージを与えれたら、儀式は維持できへん。目的はこの儀式の中断やから、それぞれの現場で、この幹部にダメージを与えたら成功ということやな」
 成る程、と頷くケルベロス達。そこに絹は追加の情報を話す。
「この儀式を中断させれたら、幹部は撤退を開始するで。儀式中断の7分後には撤退してしまうから、もし撃破を目指すんやったら、この7分間で倒さなあかん。
 この幹部たちは強敵やけど、更にこの儀式の場所は戦闘力が強化されてるらしい。そんで時間制限のおまけつきや。他のチームと協力せなあかんやろな。
 ほんで勿論、周りに護衛の戦力がおった場合とか、外の死神とかが増援してきたら、かなり厳しくなるやろ。
 そんな訳で、目的を果たしたら、状況次第では撤退も視野に入れる事も必要になるかもしれん。
 でもや、この幹部が多数生き残ってしもたら、またこんな儀式をするかもしれん。せやから、可能やったら倒して欲しい」
 状況次第では、幹部を倒すという事も出来るかもしれないし、逆にそれどころでは無くなることもある。それには何が必要なのか……。ケルベロス達はそれぞれに戦場を想像し始めた。
「ま、考える事に無駄はないで。その為にも分かっている敵の情報の説明するで。
 まず外の死神やねんけど、さっきも言ったけど数百体っちゅう大戦力や。でも、コイツラの目的は『侵入者の阻止』や。全部が全部相手にする必要は無いわけやな。大体突破するには数体から十体程度と考えられてる。
 レインボーブリッジ白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊を組んでるで。突破には一組から二組の撃破が必要や。
 勿論外を守ってるわけやけど、うちらが中心部から撤退してきた場合に遭遇しても、攻撃はされへんらしい。
 でも、気をつけて欲しいんは、全チームが中心部に入って言った場合、残りの戦力が雪崩れ込んでくる可能性もあるみたいや。その辺も考えて作戦立てた方がええかもしれんな」
 中心部を攻める為に、外部の敵をどうするのかも、考える必要がありそうだった。
「んで、中心部には、それぞれ幹部を守る護衛がおるで。
 築地市場は『炎舞の死神』アガウエーと、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』
 豊洲市場は『暗礁の死神』ケートーと数十体の屍隷兵『ウツシ』
 国際展示場は『無垢の死神』イアイラと数十体の屍隷兵『寂しいティニー』
 お台場は、星屑集めのティフォナと死神流星雨を引き起こしてたパイシーズ・コープス十数体。
 レインボーブリッジは第四王女レリ、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスと、十体程度の白百合騎士団の一般兵。
 東京タワーは『黒雨の死神』ドーリスとアメフラシと呼ばれる下級死神が数十体」
 異色なのはレインボーブリッジだろう。死神の作戦の中にエインヘリアルの第四王女レリがいるのだ。
「ま、聞いただけでもかなりの戦力やろなって予想はつくな。儀式を阻止するだけやったら、護衛全部相手にはせんでええ。でももし撃破を目指すんやったら、それなりの作戦がいるやろ。そのへんも踏まえて、皆で考えてな」
 死神の今回の作戦は、絹の説明を聞いただけでも大規模なものであるとわかる。
「まあ、どうやるかはみんなに任せるで。でも、大事な依頼ってことも分かってもらえたかなて思う。この前ドラゴン勢力が熊本城でやった魔竜王の復活に勝るとも劣らんやろな。せやから、みんな気合入れて、頼むで!」


参加者
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
ジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)

■リプレイ

●白百合騎士団と親衛隊
 レインボーブリッジ、芝浦側から突入したケルベロス達は、外縁部の敵を一つの班に任せてひた走った。
 目指すは中枢で儀式を行う『約定の死神』アマテイア。
 ケルベロス達は事前に調整を行っていた。中枢で儀式の中断を目指す本体である二班を送り届ける為に、残り三班が護衛を行う作戦だ。

「あれは……」
 ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が、目の前に居る巨大な戦闘用の斧を担いだ、エインヘリアルに気がついた。『沸血のギアツィンス』と言うエインヘリアル。そして、4人の白百合騎士団員がケルベロス達を待ち変えているようだ。
 すると、一つの班が動いた。
「先触れは引き受ける。R/D-1、重力装甲展開」
 マーク・ナインが突撃し、ライドキャリバーに乗ったテレサ・コールが続く。
 激しい衝撃派が生まれ、戦闘は激しさを増していくようだった。
 事前に調整済みであり、その班にギアツィンスを任せて、ケルベロス達は前に進む。
 すると次にまた、エインヘリアルの小隊が待ち構えていた。
 ざわりとした緊張感が走る。それと同時に、ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)が真っ先に動いた。
『私は愚かなお姫様。王子は居らず獣の叫びに耳を貸す。悲鳴を聞かせて下さない?』
 彼女の内なる『復讐』という名の憎悪が炎となり、鉄塊剣『Love me do』に纏わり付く。
『嘆き悲しむ貴方の声で私の世界は輝くの。心にて射抜く…!』
 剣を大きく振り下ろすと、一人の白百合騎士団員が打ち抜かれた。そして、即座に黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)が右腕から生み出した鎖を、違う一人の白百合騎士団員の左腕に巻きつけた。
「油断して。隙があれば、進むから」
 そう、その小隊こそ、ケルベロス達が受け持つとしていた、『絶影のラリグラス』の一隊だった。こちらも白百合騎士団員を4人引き連れている。
 彼女達は、ケルベロス達を見下ろして、構えを取った。ラリグラスは少し小ぶりの湾曲した剣を両手に抜き放ち、獲物を狙う眼となった。
 対峙するケルベロスとラリグラス率いる白百合騎士団。その二つの距離はじりじりと縮まっていく。
 その時、ふと他の班が少し此方の様子を気にするそぶりをする。
「神崎、ガロンド。そっち、任せたわ」
 すると、舞彩が二人の蒼と金のドラゴニアンに呼びかける。
「儀式阻止は任せて貰おう」
「こっちは任せてねぇ」
 そして、いつもの雰囲気で言葉が返ってくる。
「先に行って、そっちは任せるから」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)もそちらに向かって頷き、地を蹴る。そして白百合騎士団員に蹴りを放ったあと、すぐに距離を取る。
「どいてもらうよ、僕達はこの先に用があるんだ」
 すると、ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が、斬霊刀『ブレードライズ』を天に向かって真直ぐに振り上げる。
「先に行け、すぐに追いつくッ!」
 と叫ぶと同時に、無数の刀を空から召喚し、解き放った。
「任せて! 此処での儀式は止めるしなんなら死神を叩き潰しもする! 私達の全ての力をもってして!」
 佐竹・勇華がそう言って走る。
 その言葉を聞きながら、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)が、電光石火の蹴りを打ち込んだ。
「あら? こんなものかしら? 大したこと無いわねぇ」
 自らが吹き飛ばした一人に向かって、スノーは敢えて大げさに振舞う。当然ハッタリなのだが、目的はこの1小隊をここで食い止めることである。
「おう、頼んだのだぜ!」
「任せて下さい。死神の儀式、必ず阻止してきます!」
 タクティ・ハーロットとフローネ・グラネットがそう応えを返してくれた。そして彼等は中枢に向かい、走る。
「すぐに合流する。聞きたいことも、あるからな」
 笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)が、走って先に向かう彼等に言うと、オウガ粒子を拡散する。
(「私は、私の仕事を全うする。信頼してるわよ、みんな」)
 舞彩は、良く知る者達の背中を見て、視線を己の敵へと集中を開始したのだった。
「さぁ、宴の始まりだ。オレ達を存分に楽しませてくれよ」
 グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)が、大きく飛びあがり、ラリグラスに向かって、虹を尾を引く蹴りを上空から叩く。
 だが、ラリグラスはその蹴りを難なく避けきった。
(「どうやら、ここにはおらぬようだな……」)
 彼女達の様子を見つつジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)は、一つだけそう思った後、左掌に右の拳を当てて礼をする。
「ドーモ、ラリグラス=サン。ジゴク・ムラマサです。何の儀式かは知らぬが、お主らは我らの敵だ。故に滅ぼす!」
 こうして、戦いの幕が開いたのだった。

●刃
 白百合騎士団員の攻勢は、どうやら守りを固めた者が多いようだった。そしてその後ろに、ラリグラスが控えている。
 真っ先に動いたのはハルと陽葉だった。目の前の敵から削ること。まずはその事に集中する。
「邪魔だ女。君やその主がどれほど高潔であろうと、死を弄ぶ死神の儀式に加担した以上斬るのに躊躇いはない」
 ハルが雷の力を宿した突きを打ち抜くと、陽葉が『阿具仁弓』の弦のみを弾く。
『響け、風の音色』
 すると、二人の息のあった連続攻撃で、一人の白百合騎士団員が倒れた。だが、それでも残り3人の白百合騎士団員に、臆する様子は無かった。

「その首、掻っ切ってあげるよ」
 グレイが惨殺ナイフで切りつけ、舞彩がまた別の白百合騎士団員の腕に鎖を巻きつけていく。ケルベロス達は己の役割に徹して、一人、また一人と切り伏せていった。
 特に、ジークリンデの表情は鬼気迫るものがあった。デウスエクスというモノに対して、その憎悪という感情を真正面からぶつけるのだ。
 勿論、此方も無傷という訳には行かなかったが、鐐とボクスドラゴン『明燦』が動き回り、サポートに徹する。
 そして、最後の白百合騎士団員に対して、スノーが纏わせたオウガ粒子を輝かせ、紅のオーラと共にムラマサが両掌を突き出す。
『ハァァァッ!イィィヤァァァァッ!!』
 そのムラマサの掌から放たれたビームは、ケルベロス達の怒涛の攻撃の最後を締めくくった。
「さあ、残るはお主だけ……。退くか、それとも……」
 ムラマサはそのビームを放った掌を握り締め、またゆっくりと構える。
 ジークリンデもまた、憎悪をむけながら、鉄塊剣を腰の位置に平行に構える。
「そういえば、君達の勢力が男に虐げられていた女の人をエインヘリアルにしていたんだよね」
 構えを解かずに、陽葉が尋ねる。
「その人達は今どうしてるの?」
 と。
 するとラリグラスが向けるのは、嘲笑、もしくは哀れみの表情に見えた。
 そして、両手の曲刀を胸の前で交差させる。
「どうあれ、この儀式は潰させてもらうよ。どうせ碌なことじゃないんだから」
 陽葉がそう言うが、完全に空気が変わった事を悟る。
 ごくりと誰かの喉が鳴った時、目の前のエインヘリアルは、消える。そして、閃光のような動きが視界の端に動いたと思った時、スノーを庇ったグレイシアのわき腹が切り裂かれていた。そして、もう一度……。
「グレイ!」
 グレイシアはそのスピードについていく事が出来ず、狙われたスノーの前に体を投げ出すことがやっとだった。
 ぼたりぼたりと、滴り落ちる鮮血。
「ぐ……!」
 それでも何とか足を踏ん張り、倒れる事だけはしないようにと必死で堪える。
「うおおおおおおああああああ!!!」
 膝から崩れ落ちそうな衝撃を堪え、グレイシアは咆哮を上げ、踏みとどまる。己が張り巡らせた鎖が無ければ、もう立っては居なかったはずだ。
 それは、目の前の敵との力の差をまざまざと見せつけられた瞬間だった。

●信頼
「……さっきまでの威勢はどうしたの?」
 ラリグラスはそう言って、ムラマサの蹴りを容易く避ける。そしてジークリンデのブラックスライムは空しくぶちまけられただけだった。
 ケルベロス達は、決して油断をしていた訳ではない。しかし、彼女のスピードにまるで追いつくことが出来ないでいた。
(「だいぶ、キツイ……な」)
 ハルはそう思い、冷静に状況を判断する。ちらりと中枢のほうを見ると、先程の一班が戦闘を繰り広げている所が遠くに見えた。大柄な女性のエインヘリアルの姿だ。恐らく王女レリだろう。そして、やはりそちらも状況は良くは無いようだった。
(「俺は、俺たちはどうすべきか……」)
 目の前の敵を殺す事が、一番の戦果である事は間違いない。だが第一優先は。ここの敵を足止めし、最大のミッションである死神の企てを阻止することだ。
(「ならば……」)
 ハルはゆっくりと刀を構え、神速の突きを放った。
(「少しでも良い、足を止めること……」)
 その突きも、曲刀で弾かれる。
「死ね、このゴミが……!」
 すると、グレイを傷つけられた事により激昂したスノーが飛び込む。
 ガツッ!!
 その蹴りは、ラリグラスの腹部にめり込む。だが、少しの表情も変えずに体幹だけで、スノーを弾き飛ばし、宙に浮いた彼女目掛けて刀を一閃する。彼女の足から血が舞う。
「スノー! 冷静に行きましょう……。気持ちは、分かる」
 舞彩はそんな中周りを見渡し、友人に最大限の言葉を投げかけた。そして、スノーの傷を鐐が明燦に命じて癒しの力を施させる。
(「まだまだ、全然足りないようだな……」)
 鐐はそう考え、一番にこの状況を打開する仲間、即ち中衛に位置するスノーにオウガ粒子を纏わせた。
「スノー嬢、頑張ってもらうよ。状況を忘れるな。それに、頼りにしている」
「……」
 すると、スノーの怒りの表情が少し緩む。そして、グレイシアが頷き、まだ耐えてみせると前衛にもう一度鎖の盾を張り巡らせた。
「そうだよ。僕達の目的は、相手の作戦を阻止すること。それにはスノーの力が必要なんだ。ね、まいあ」
 陽葉もそう言って頷く。
「そうね。でも、一つだけ聞きたい事がある……私はそれを、はっきりさせたい」
 そう言って舞彩はラリグラスと対峙する。
「一つだけ聞かせて。あなた達は地球人の女性をエインヘリアルにした。少なくとも私は有難うと言いたい。あなた達が彼女を殺さなければ、彼女は救えていなかったから。例え、インヘリアルになったとしても……。ねえ、彼女の事を知ってる?」
 舞彩はそう尋ねた。すると、ラリグラスは無表情でこう言うのだった。
「さあ、知らないわね……」
 と。その時、周囲から爆音と剣戟が響き渡った。その爆風が彼等を通り過ぎる。
「……そう。分かったわ」
 舞彩はそれだけ言い、右腕に鎖を呼び出し、ラリグラスの左腕と結びつけた。
「敵なら殺す。遠慮容赦なく」
 左手に『竜殺しの大剣』を出現させ、右手の鎖に力を込める。
「これで、殺せる」

●覚悟
 ケルベロス達は、自分達の目的が敵の足止めであること。そして、その為にはこの敵を殺すこと。それに賭けた。冷静さを失わず、相手を傷つける。
 特にスノーのオウガ粒子が全体に行き渡った時、此方の攻勢は強まり始めていた。
 相手の動きが早ければ、それだけ数を揃えれば良い。相手に対して攻撃の手を緩めない事が、功を奏したのだ。
「ぐっ……!」
 だがそれは、自らと相手を鎖で結んだ舞彩は、かなりのダメージを受けることでもあった。鐐が施す月の力と、グレイシアの鎖の盾の力をもってしても、じわじわと彼女の体力は削られていく。
 しかし、ケルベロス達はその勢いを緩めない。
 ムラマサがラリグラスの顎付近に、電光石火の蹴りを見舞うと、ジークリンデが憎悪の眼差しのままブラックスライムで肩を貫き、そこから毒を流し込む。
「……!?」
 明らかなるダメージだ。ラリグラスはその攻撃に顔をしかめる。
「戦うのであれば余所見をするな。死ぬぞ」
 そしてハルが自らの領域を作り出す奥義を展開する。
『境界収束――限定解放。光を重ねて影を穿つ。咲け、緋天絶華』
 ハルの領域が相手を飲み込むと、無数の刃がラリグラスの体を内から貫いた。
『大気に満ちる空気よ、凍れ、氷の刃となりて、切り刻め…』
 そこへグレイシアの氷の針が降り注いだ。
 そして、陽葉が一気に突っ込み、オウガメタル『雪と星の導き』を右の拳に集め、ラリグラスの腹を打つ。
「まいあ! 今だ!!」
 陽葉がそう舞彩に声をかける。
 しかし次の瞬間、ラリグラスがまた消える。
「あ……!」
 どさりと、舞彩の膝が落ちる。その肩から背中にかけて、彼女の血に染められた刃が貫いていたのだ。
「まだ、動けるのか……」
 鐐は敵のタフさに思わず舌を巻く。そして舞彩に駆け寄ると、眉間にしわを寄せた。
 舞彩は、一人攻撃を受けすぎたのだ。彼女は意識が無いようだったが、まだかろうじて息をしていた。
「はあっ……。はあっ……」
 ラリグラスは荒い息をしながら、ケルベロス達と距離を取る。そしてまた、曲刀を構えた。
「まずい……な」
 ハルがそう言った時、中枢が動いた。
 一人、また一人とレインボーブリッジから、飛び込んでいくケルベロスの姿だった。
「撤退……だな」
 ムラマサがその様子をみて呟くと、スノーとグレイシアが舞彩を抱えて真っ先に飛び込んだ。そして、陽葉が続く。
「成功、したようだな」
 ケルベロス達の様子から、どうやら死神の企ては阻止できたようだった。ハルはムラマサの言葉に頷き、ジークリンデと共に殿に付いた。
「今回のみども達は、ここまでなのね……」
 ジークリンデは少し残念そうに言って、橋から飛び降りた。
「……追ってこないのか?」
 すると、ラリグラスの様子を見た鐐が、そう尋ねた。
 しかし、彼女は曲刀を懐にしまうと、無言で王女レリのほうへと引き上げていく。
 彼女達の目的は分からなかった。だが、今はそれを気にしている余裕は無いだろう。
 此方の目的は果たすことが出来たのだから。
 ケルベロス達は、そう思ってレインボーブリッジから脱出したのだった。

 次々に水面に飛びこむケルベロス達。その水しぶきが、全て終わった時、戦いも終わった。
 周囲から、ぽつりぽつりと戦果が聞こえてきた。死神は倒せたようだったが、エインヘリアル達は健在だという事だった。
 その聞こえてくる戦果と、戦慄を覚えた相手の力に対して、自らを覆う水温は異様なほど冷たく、心の芯まで凍らせるように感じたのだった。

作者:沙羅衝 重傷:黒住・舞彩(鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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