東京六芒星決戦~臨海の陣

作者:麻人

「この度はクロム・レック・ファクトリア及びディザスター・キングの撃破おめでとうございます。暴走者の二名も無事に救出され、作戦は無事成功となりました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は作戦に参加したケルエロスたちを労い、続けて新たな決戦の開幕を告げる。
「アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)や阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)がもたらした情報によれば、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所で死神による大規模な儀式が行われることが判明しました。これは最近多発していた死神による事件の集約となる大儀式であり、これら六ケ所の中心となる晴海ふ頭に膨大な魔力を集めるためのもののようです」
 しかも、この儀式に関わっているのは死神のみならず、第四王女レリの直属部隊や竜十字島のドラゴン勢力など他のデウスエクス全体までも巻き込んだ大きな作戦であると想定される――と、セリカは真剣な面持ちで言った。

「儀式は同時に行われますので、皆さんには6か所のうち1つに向かって頂くことになります。いずれの儀式場も、その外縁部を守る数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスを倒して中心部に到達し、儀式を行っているネレイデス幹部に攻撃を仕掛けて作業を中断させる必要があります」
 その場合、ネレイデス幹部は儀式が中断されてから7ターン後に生き残っていた死神勢力とともに撤退してしまうようだ。時間制限があり、また儀式場内部ではネレイデス幹部の戦闘力が高まることもあって、もし撃退ではなく撃破を目指すのであれば、相手が強敵ということを鑑みて単独チームではなく複数チームの連携が求められる。
「外縁部を守る戦力の他、ネレイデス幹部はそれぞれ有力敵となる護衛を連れてきているようです。こちらの戦力が足りない場合など、状況によっては儀式を中断させた後は撤退を優先すべきかもしれませんね。ただ、逃がした場合は再びこのような儀式を目論む可能性もあります。できれば、可能な限りの幹部をここで討ち取ってください。各儀式場の敵配置はこのようになっています」

 築地市場――ネレイデス幹部『巨狼の死神』プサマテー。護衛役は『炎舞の死神』アガウェーと数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』。
 豊洲市場――ネレイデス幹部『月光の死神』カリアナッサ。護衛役は『暗礁の死神』ケートーと数十体の屍隷兵『ウツシ』。
 国際展示場――ネレイデス幹部『名誉の死神』クレイオー。護衛役は『無垢の死神』イアイラと数十体の屍隷兵『寂しいティニー』。
 お台場の戦場――ネレイデス幹部『宝冠の死神』ハリメーデー。護衛役は星屑集めのティフォナと死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体。
 レインボーブリッジ――ネレイデス幹部『約定の死神』アマテイア。護衛役は第四王女レリと彼女の護衛を行う絶影のラリグラス及び沸血のギアツィンス。そして十体程度の白百合騎士団一般兵。
 東京タワー――ネレイデス幹部『宵星の死神』マイラ。護衛役には『黒雨の死神』ドーリスと下級死神『アメフラシ』数十体。
 外縁部を守る勢力については数百人の白百合騎士団一般兵が守るレインボーブリッジを除き、同じく数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊している。
「突破するだけなら全てを倒す必要はなく、数体から10体程度を蹴散らせば事足りるはずです。白百合騎士団一般兵については3名程度の小隊での警戒を行っているので、2隊ほどが該当します。ただ、こちらの外縁部戦力については新たな侵入者が現れないと判断した場合に中心部への援軍に向かう可能性があります。逆に、儀式場から外に脱出する者を追跡するような動きはしないようですね」
 いずれの戦場に向かうにしても、ただ儀式を中止させるだけならそれほど難しくはない。問題はネレイデス幹部を倒す場合だ。彼らを護衛する有力敵は侮れず、出来得る限りの妨害をしてくるはずだった。

「遂にこの時がやってきましたね。長い間暗躍していた死神勢力を削ぐこの機会、できるだけ多くのネレイデス幹部を討ち取れるよう、ご武運をお祈りします」
 セリカは説明を終えると、慎んだ仕草で集まったケルベロス達に向かって深い一礼を行った。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
月原・煌介(白砂月閃・e09504)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)

■リプレイ

●――開戦、そして
(「時計セット完了」)
 東京タワーに近づくにつれて、その圧倒的な敵の気配は橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)の感覚をどこまでも研ぎ澄ませていく。
「こんな大掛かりな儀式、しかも6か所とは……」
 特に圧を感じるのは、遥か高見に聳え立つ大展望台。スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)はごくりと喉を鳴らして、仲間を振り返る。
「失敗は出来ませんが、怯んでもいられません! いきましょう」
「……うん」
 言葉少なに頷き、月原・煌介(白砂月閃・e09504)はその手に優美な意匠の施されたライフルを構えた。
(「大規模な、邪法の儀式……絶対許す訳に、いかない」)
 凛と輝く双眸に外縁部を埋め尽くす深海魚型死神の群れが映り込む。数百に及ぶそれらは東京タワーの外周に陣を敷き、四方八方どこから攻め込まれても対応できるように待機していた。
「死神……安らかな眠りを穢す者。お前達にこそ死は相応しい」
 煌介の冷ややかな宣告とほぼ同時に、並んで先陣を切っていたもう一班から割り込みヴォイスで激が飛んだ。
「正面、真っ向から切り開きます!」
「任せろ!」
 パシャ・ドラゴネット(ドラゴニアンの心霊治療士・e66054)の号令に伏見・万(万獣の檻・e02075)が鋭く応じ、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)のばら撒いたエスケープマインが次々と誘爆してゆく中、体勢を崩していたブルチャーレ・パラミータの頭部を惨殺ナイフで斬り捨てた。
「うわ~、魚類が回遊してる。これが敵じゃなかったらな~」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)は水族館を楽しむような感想とともに、万の斬撃を受けてよろめいた個体に轟竜砲で止めを刺す。
「皆を守って!」
 ウイングキャット・蓬莱に指示を飛ばす円の背後に皓々と輝く月が降臨。加護を受けて攻撃力を増した前衛の一翼――天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)は余裕めいた笑みを浮かべ、足場にした電柱から飛び降りた。
「っし!」
 薙ぎ払った大鎌の一閃がメラン・テュンノスを屠ったのを確かめて快哉を上げる光太郎の眼前へと滑り込んだ蓬莱は、両翼を広げて敵の触手攻撃を跳ね返す。
「あなたたちの相手はわたし達ですわよ」
 内部突入班を庇うように双璧となったもう1班と声を掛け合い、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が妖精弓を引くごとにぶら下がったうさぎのマスコットが左右に揺れた。
「まったく、随分と派手にやってくれたわね」
 芍薬は交戦と同時にアルティメットモードへ移行。一際目立つその姿で踊るように戦い、回遊魚の群れをその身に引き付ける。
「――!」
 複数のブルチャーレ・パラミータが卵のようなものを一面に産み落とした。一斉に爆発するそれらのダメージを気力で振り払い、スカートの裾を爆風にはためかせながら立ちはだかる敵を見据える。
「何の儀式だか知らないけど、あんた達の企みは阻止させて貰うわよ」
 同じ防衛手として前線を維持する恭介のテレビウム・安田さんが同意するように跳ねた。
「気持ち的には全て倒す気ですよ? 気持ち的には」
 頭上から蹴撃を繰り出す恭介目がけ、触手を伸ばそうとしていたメラン・テュンノスを万と光太郎の魔力漲る拳が交錯するように殴り飛ばした。
「ったく、こうも多いと一々倒したかどうかも確認しきれねえ、ってうおっとっとぉ!? あっぶねえ……って、行かせないっての! 行けや大蛇ィ!」
 休む暇なく、光太郎は猛然と拳を前方めがけて振り下ろした。
 ――巨大な八首の大蛇。
 召喚された龍王の咆哮が天を揺るがして、数体目と思われるブルチャーレ・パラミーを丸呑んだ。同時に幾つもの攻撃が相次ぎ、正面玄関前の敵が一掃される。
「ここは私達に任せて先に行ってなの!」
 敵陣の乱れが一気に広がったのを見て、月輪を背負った円が後方に控える突入班を振り返る。
「アリガト。アタシたちも、頑張ってくるわね」
 エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)の澄んだ声色の答えにちさも頷き、これから強敵と戦う彼らを励ますように祝福を捧げた。
「痛いの痛いの飛んでいくのですわ~」
 願わくば、少しでも彼らを万全の状態で上へと送り出せるように――。
「させない……」
 突入班に追いすがるブルチャーレ・パラミーの動きが不自然に止まった。そこにはThe owl of Minerva Medica――稲光る雷杖を手にした煌介が仁王立つ。彼の放ったライトニングボルトが敵の追撃を阻んだのだ。
 一瞬の隙を逃さず、スズナの手が神速の抜刀を遂行する。
(「――刺身」)
 日本刀から放たれたプラズムキャノンがブルチャーレ・パラミーを見事な切れ味で下ろすのを見て、刀を鞘に納める瞬間、スズナの脳裏にそんな単語がよぎった。
「さて、儀式は突入する方々に任せて僕らはのんびり魚釣りです」
「一匹でも多く食ってやるとするか」
 緊張をほぐすような恭介の言葉に万が同意し、フットタウン前にて反転。
「残念ながらここから先へは通せないんですよねぇ」
 迫りくる敵群れへと殺到する幻の獣と黒き太陽の照射が、さらなる激戦の第二幕を切って落とす合図となった。

●外縁部戦線
 儀式を阻止するための突入班が内部に向かった後も、外縁部を守る深海魚型死神たちは新たな侵入者に備えた陣形を維持していた。
 一度に全匹を相手取らずに済むのは幸いだ、と恭介は髪に咲く花を美しく開かせる。弾丸のように飛来した蜜を受けた安田さんが、ブルチャーレ・パラミーの突撃をぎりぎりのところで耐えきった。
「上も始まったようね」
 外階段では、アメフラシと突入班との激しい攻防が行われている。
 芍薬は靴音を響かせ、癒しの花陣を瞬く間に操りながら己の拳同士を打ちつける。
「それじゃ、こっちもいっちょ派手に行くわよ!」
「わかりましたわ。エクレア、休んでいる暇はありませんわよ」
 ちさの頭上で、ウイングキャットのエクレアの巻き起こす風が煌介の髪を涼やかに弄っていく。その眼前に複雑な魔法陣が展開。凍てつく息吹を操る精霊たちが極寒の空間へと敵を引きずり込み、氷の接吻を与える。
 大量の敵を相手に孤立することのないよう、彼らは班ごとに纏まって戦陣を組んでいた。
「内部へは絶対に行かせるかよ」
 アメフラシを蹴散らして次第に上層へと移っていく他班の戦いを背に、光太郎は大蛇を振るい続ける。
「おっと」
 背後をとられかけ、芍薬のテレビウム・九十九に助けられると汗をぬぐって呟いた。
「やれやれ、きりがねぇな」
「フン、食い放題じゃねェか」
 長く戦っているうちに蓄積したダメージを万は裂帛の気合とともに振り払う。その周囲に満ちる甘やかな霧は円の展開するサキュバスミストによるものだ。
「いったん体勢を立て直した方がよさそうなの」
 円の言う通り、特に前衛の消耗が激しい。
「ええ、あちらの班が食い止めてくれている間に回復しましょう」
 外縁部の敵はどこか1班だけでも戦っている限り、持ち場を放棄して内部へ向かうことはないはずだ。円とさちは互いに頷き合い、手分けして味方の援護に注力する。
「もしもし? 早く応援にきてほしいですの」
 ちさはわざと通信機に向けて、仲間たちがこの場に向かっていると思わせるような仕草をとった。知能の低い深海型死神がどこまでこちらの意図を読み取ってくれるかは分からないが、他に増援があると思わせることができれば重畳だ。
 円に合わせて、スズナも敵の注意を惹き付けるように一歩を踏み出した。意図を察した円がこくりと頷き、後ろに下がる。
「行っちゃうんです? ケルベロスはまだまだ此処に来ますよっ!」
 それは、数に勝る敵への堂々たる挑発を込めた神速の抜刀術。
「戦いは数だけでは決まりませんっ!」
 まるで意志を持ったかのような無数の刃が飛来して、敵の進軍を阻む。更にスズナのミミック・サイが金貨をばら撒き、突進してきたメラン・テュンノスを惑わした。
「死神さんが必死こいて集めた膨大な魔力を掠め取りたい……そんなお年頃」
 疲れては来ても、のんびり気ままな態度は崩さずに恭介もまた髪の花を咲かして仲間を援護する。安田さんの画面も応援動画に切り替わり、特に傷の深い光太郎と万を優先的に回復。
「そらよ」
 万と芍薬の足元から広がる花園――芳しい匂いが戦場を満たし、その天上からは銀糸にも似た儚く嫋やかな雨が降り注ぐ。
「癒せ、慈雨……」
 煌介の身から、行動を阻害していた足止めと麻痺が瞬く間に抜けていった。
「もうひと踏ん張りですわ。頑張ってくださいっ」
 ずっと士気を高揚させるために叫んでいたちさの声はほとんど枯れかけている。それでも、最後まで諦めずに癒しの矢を放ち続ける。
 上階から派手な音と共に突入班が飛び降りて来たのは、攻撃を引き受け続けた芍薬が回復不能ダメージの蓄積によってもう少しで膝をつかざるを得ない、まさにその時だった。

●決着
「あれは……」
 状況把握に努めていた煌介は、大展望台の窓を破ってそのままエアライドで飛び降りてくる突入班の面々にいち早く気が付いた。
「蓬莱、あと少しだけ堪えて!」
 降下してくるのは全員ではない。他の班員が階段を降りて来るまでの時間を稼ぐ必要がある、と円は最後の力を振り絞って月輪を――破滅の極光を降り注ぐ。
「ここまでやっといて途中で倒れられるかよ……!」
 月光を浴びて輝く光太郎の拳が突っ込んできたブルチャーレ・パラミーの頭部を打ち砕き、破壊する。
「急ぎやがれ!」
 万はシャウトで重くのしかかる痺れを振り払い、叫んだ。
「安田さん、みんなを守ってね」
 任せておけとばかりに飛び出した恭介のテレビウム・安田さんが、フットタウンから撤退してきた仲間に群がるメラン・テュンノスの触手から彼らを守る。
「私たちも退くわよ」
 最後まで防衛手として敵の攻撃を請け負う芍薬にスズナが頷き、道を切り開くように眼前の敵を斬り伏せた。
「わかりました。霧城さんっ!」
「はいですわっ」
 前情報通り、退き始めたこちらの後を深海魚型死神の群れが追ってくるようなことはなかった。
 ――作戦成功。
 どこか力を失ったように沈黙して聳え立つ東京タワーを振り仰ぎ、全員の無事と儀式の阻止が成功したのを誰からともなく知ったちさの唇から安堵のため息がこぼれ落ちた。

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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