ダモクレスの大型基地『クロム・レック・ファクトリア』を攻略し、ディザスター・キングを撃破したことは、大きな成果だった。
セリカ・リュミエールは、ケルベロスらの活躍を心から讃え、また労った。
一つの戦いが終わるたび、もっと大きな戦いが始まる。
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)ら、警戒に当たっていたケルベロスにより、死神の大規模儀式が行われる事が判明した、とセリカは告げた。
最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内の六ケ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』となる。
儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所となっている。
この六ケ所は、丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所だ。
今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。
●
「皆さんには、判明した儀式場の一つに攻め入って欲しいのです。
6つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければなりませんから、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるでしょう」
儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようだ。
「つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功となります。
儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始します。
儀式中断の7ターン後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうでしょう。
ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破しなければなりません。
ですが、ネレイデス幹部は強敵。しかも、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しいでしょう。
また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態であった場合、やはり幹部の撃破を難しくします。
状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきかもしれません。
……ですが、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もありますから、可能な限りは討ち取って頂きたいのです。
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外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から10体程度となる。
白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度となる。
また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。
ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要だろう。
また、儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されているようだ。
儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要は無いが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか或いは、ネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
「幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してください。
儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断させて撤退させるような決断をする可能性もあります。
一つの戦場に戦力を集めすぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択、ネレイデス幹部を討ち取る機会が得られないという事もあるかもしれません。くれぐれもご注意を」
――そして、ご武運を。
セリカはそのように話を締めくくると、いつものように、深く一礼したのだった。
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706) |
巫・縁(魂の亡失者・e01047) |
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329) |
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392) |
サリファ・ビークロンド(裂き首・e56588) |
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351) |
●
死の儀式を行う『宝冠の死神』ハリメーデーを撃破するために、6チームのケルベロスたちが、六芒星を描く点の一つであり儀式場となったお台場へと乗り込んだ。
下級死神、ブルチャーレ・パラミータと、メラン・テュンノスらが防衛する外縁部を、先行した2チームがまずは突破した。
先行した者たちの姿は既に彼方だ。後に続けと、さらに3チームが死神の魚群へ斬り込んだ。
高らかな歌声が響く。死神の攻撃をその身で防ぎながらも足を止めることなく、ケルベロスたちは走る。
力強い斬撃が、降り注ぐ矢と轟く砲弾が、死神を蹴散らし、さらに2つのチームが突破を果たした。
ここで足を止める道理はない。
琉音によって高められた瑞樹の連撃が、死神を叩き落とした。ミチェーリが理力のオーラを浴びせ、群れが散ったその隙を逃さず、突破する。
巫・縁(魂の亡失者・e01047)ら1を残し、5チームのケルベロスたちはお台場内部への侵入へ成功した。
(「頼むぞ……!」)
内部へと遠ざかる仲間たちを見送り、縁はすぐさま身を翻した。
その場に戦う者がいないとなれば、死の魚群は、侵入者を追って内部へと移動を始める。
防衛戦力である下級死神の行く手に立ちはだかり、彼らの後を追わせない事が、残ったチームの役目なのだ。
「我々で最後と思ったら大間違いですよ。後からもっと大規模な増援が来るのです」
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)の言葉はもちろん、この場に足止めするための方便だ。
……とはいえ、言葉を話すでもなく、一見すればお台場の空を漂う魚の群れである相手に、どこまで通じているかは怪しい気もした。
杞憂かもしれない。
何故なら、臨海の空泳ぐ死の魚群は、一斉にケルベロスへと向きを変えたからだ。決して侵入者を逃さない、殺気に満ちていた。
●
誰もが見知った大型肉食魚に似た姿を持つ下級死神たちは、侵入者であるケルベロスらを見定めるようにその周囲の宙を回遊する。
先行チームが倒しているとは言え、数はまだ多い。一度に仕掛けてくるのは、その内の10体程と言うのは幸いだろう。
重武装で力強く見せかけても、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は内心、恐れを拭いきれずにいた。
メラン・テュンノスの群れがそんなレオナルドに襲い掛かる。縁のオルトロス『アマツ』は果敢に飛びだすも、魚群の勢いに弾き飛ばされて伸びてしまった。
「こ、怖いですけど頑張ります!」
レオナルドは自らの恐れを振り切るように鋭く刀を抜き放ち、獣王無刃の斬撃を浴びせる。斬られたと気づくのは、その身がパクリと割れて体液を噴き出した時だ。
「ったく、面倒くせぇ数だぜ……」
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)の達人の一撃が一匹を斬り飛ばす。
それでも死神は止まらない。切り身を剥き出しのまま瘴気を吐きだし、それは後衛を襲った。
「『Code A・I・D・S……start up』」
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)の詠唱で生み出した青いクリスタルが、シールドを展開し、瘴気を遮断した。
「私達を足止めするのならまだまだかしらね。止めないと行かせて貰ってもいいかしらね?」
相手にするには厳しい数だと本心では思うが、あえて冷静な態度で余裕を見せる。
「では撃ちますよ」
肺腑を瘴気の毒が焼かれ、血を吐きながら、レベッカは反撃のフォートレスキャノンを群れの真中へ撃ち込む。
散開する魚群の一匹を撃ち抜けば、痺れて地に落ちる。
「さてさて、暴れてみようか!」
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)九尾扇を広げた。扇の羽を伸ばし、魚群を打ち据える。
「ハーイ、今週のビックリドッキリなヤツはコレ!」
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は特大ロケットを作り出して発射する。2段加速で、一度は避けた敵を追い、爆発に巻き込んだ。
「『敵の足を止める』」
壮年男性のような艶のあるバリトン・ヴォイスはサリファ・ビークロンド(裂き首・e56588)の物だ。天空に向けて射出した矢はいくつにも分裂し、瘴気を吐きだす群れへ降り注いだ。
精神に混乱をきたした死神たちはぐるぐると出鱈目に宙を泳ぎ回り、正気に戻り体勢を整えるまでの束の間、散々に互いの身体をぶつけあった。
●
レオナルドはブルチャーレ・パラミータの群れでも特に傷付いていた1匹にガトリングの連射を浴びせて撃ち落とした。
「ふう、1匹!」
「危ないっ!」
レオナルドの一瞬の隙へ、別の鰹が突撃して来ていたのだ。縁の声で気づき、レオナルドは辛うじてその咢を避ける。
一方でメラン・テュンノスの魚群は宙を泳ぎ、無差別に瘴気を吐きだしていく。
「キャハハ! しつこいぞー!」
笑ってはいてもトリュームは楽しいわけではない。シールドで遮断されてもなお抜けて来る瘴気に辟易しているのだ。
「回復は任せてほしいわ」
マキナは癒しの雨を降らせて、瘴気を打ち消した。
ジョーイの鬼神の一太刀が唸り、縁の轟竜砲が直撃しすれば、ブルチャーレ・パラミータは四散する。
「クッソ面倒くせえ、後ドンだけいるんだよ」
口調はいかにもうんざりだが、存分に暴れられることは満足なジョーイである。
レベッカは『ニードルガトリングガン』を構え、爆炎を発射する。メラン・テュンノスが炎に包まれ、燃え上がった。
サリファが高速で撃ちだした矢が雨あられと振り注ぎ、地に縫い留められた死神たちが尾を打ち付けてもがいている。
そこへトリュームが冥府深層の冷気を帯びた手刀を放ち、凍結させていった。
「カツオのたたき! 冷凍マグロ!」
ハイテンションなトリューム。ここが築地でも豊洲でもないのが残念だ。
死神の群れを8人で足止めする。一度に戦うのは10体程度とは言え、それは厳しい事だ。
今のところは、それでもまだ戦えている。どこまで行けるか、根競べである。
●
死神たちの攻撃は止まない。
後列の方が実力的に与しやすいと見たのか、メラン・テュンノス群の攻撃は主にそちらへ集中していた。
嘲笑うように宙を舞うブルチャーレ・パラミータをレオナルドおの如意棒が追う。
愛用の剣『牙龍天誓』の衝撃波でサリファに群がる一匹を弾き飛ばして、縁は唇を噛んだ。
マキナはもう一度癒しの雨を降らせていく。決して強くはない敵だが、数が多すぎる。回復の手が足りないと、マキナは内心で焦りを感じていた。
ジョーイは月光斬で切り結ぶ。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て!」
愛用の剣『牙龍天誓』の衝撃波で瘴気を吐きだす一匹を弾き飛ばして、縁は唇を噛んだ。肺腑の焼ける感覚が消えない。
レベッカのフォートレスキャノンは過たず死神を穿ち、痺れさせている。
ロベリアは、ビハインドの『イリス』に、後衛を庇うように指示をだす。自身は、九尾扇を広げて薄く笑んだ。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる!」
ロベリアは両腕を構成する地獄の一部を無数の刃に変形させ、剣風と同時に叩きつける。花びらのような刃が無数に食い込み、死神を苛んだ。
死神たちは、サリファへ狙いを定めて突進する。
トリュームのボクスドラゴンとイリスがその前へ飛び出すが、数に圧倒されて、逆にその勢いに呑まれ倒されてしまった。
サーヴァントをすり抜けた死神達は死の咢を大きく開き、その矢が放たれるより先にサリファに食らいつく。
「『ぐぅ……っ』」
いくつもの歯牙に抉られ、サリファは苦悶の声を漏らし、膝を折った。
「……落ち着いて、敵はアレだよ」
サリファは薬剤の入った小瓶を取り出し、飲み干せば、傷を塞ぐと同時、黒い獣に似た影が立上がり、彼女を覆った。
「こ、こいつらっ!」
グレイブを振り回し、死神たちを薙ぎ払うトリュームだが、瘴気に冒されたダメージが抜けきれず、手元がおぼつかないでいた。
●
サーヴァントたちが戦闘不能に落ちったのを見た、ジョーイは舌打ちひとつして、もっと仲間を庇いやすい位置へと移動する。
(「これは世界一長い7分間かも知れんな……」)
難事は承知の上だったが、どこまで耐えられるのか。急ぎ縁も前に出る。
イリスが戦闘不能に陥った事で、ロベリアもまた自ら前に出ることを選択する。
しかし、その立ち位置を変えようと僅かな間攻撃の手を止めたこと、それは致命的な隙となった。
彼らを相手取っていた死神達が、目標を変えて後衛へと殺到したのだ。
「!!」
咄嗟にシールド領域を展開するマキナだが、一歩足りない。殺到する死神たちはマキナへ、レベッカへ、トリュームへ、サリファへと食らいつく。
トリュームはゲシュタルトグレイブで、サリファは影の爪で迎撃を試みる。
一匹、二匹、その技で押し返す。しかし、それ以上に押し寄せた死神の咢がついにサリファを捉えた。
「『……っ、あ……』」
骨を噛み砕く音が響いて、サリファは力なく地面に倒れ伏す。
(「反撃、しなくちゃ……」)
グレイブを握る手が震える。死神へと振ろうとして叶わず、トリュームはその柄にもたれかかると、そのまま、意識を失ったのだった。
●
2人倒れた事に、ケルベロスたちは愕然とする。
死神たちの数を減らし続けたここに来て、数の不利がいや増したのだ。
防御を優先させて出来る限り持たせる作戦だったはずだが、その防御自体が不十分だったのか。
しかし、まだ退くわけにはいかない。まだ、その時ではない。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
半ば祈るような叫びで、レオナルドは自らの畏れを力に変える。刃が見えないほどの高速の斬撃は、宙を泳ぐ死神にも避けることを許さず斬り刻んでいく。
レオナルドを治療しようとするマキナへ、ブルチャーレ・パラミータの歯が食い込んだ。
「うぁああっ!」
喰われ、生命力を啜られていく感覚に背筋が凍る。縁が超重の一撃を死神へ叩きつけ、死神を強引に引き剥がした。
レベッカは蒸気の盾を作り、マキナを癒す。
くそったれ! ジョーイは自らの怒りを、鬼気迫る斬撃と成して叩きつけた。
ロベリアの呼び起こす刃華の嵐が吹き荒れて、死神たちは空を泳ぐことができず、体勢を立て直せない。
その一方でロベリアも膝をついた。
「大丈夫!?」
「……だいじょうぶ」
支えたレベッカも応えるロベリアも、青ざめ、ふらついていた。
マキナの癒しが飛んでも足りない。もう1、2撃も喰らったら、きっと立っていられないだろう。
●
死神達の吐きだす瘴気が徐々に濃くなって行くようだ。
顎を開く攻撃からロベリアを守った縁は、シャウトして自らのダメージを癒す。
レオナルドは地獄の炎弾を撃ちだし、死神から生命力を奪い返した。
右に左へ切り結ぶジョーイを瘴気が包むたび、マキナはメディカルレインを降らせて打ち消した。
出来る限りの守りをと、レベッカは蒸気の盾でロベリアを覆う。
ありがとう、と微笑んでロベリアは気力を振り絞り立ち上がった。
心配げに見守るレベッカを他所に、ロベリアは九尾扇を構える。
襲い掛かる死神へ微笑み、最後の気力を込めて扇を振るえば、優雅にされど卓越した技量での一撃が、畏れに固まった死神を両断した。
だが、限界だった。
これ以上の犠牲を出す事は出来ないと、ケルベロスたちの意志は一致する。
「ここまでか。儀式はどうなっただろう……?」
レオナルドは儀式場の方を見るが、まだ変化は見られない。あちらでも戦いが続いているのだろう。
無念を抱いて、縁は、撤退を知らせる白の信号弾を打ち上げた。
「……体力にゃあ自信があんだ、2、3人ぐらいはどうってことねェ!」
自身もかなり傷付いているジョーイだが、ケルベロスの気合いで戦闘不能者を担ぎ合げる。幸いに致命的な怪我を負った者はいなさそうだ。
マキナがマルチプルミサイルを魚群へと撃ちこんだ。その弾幕をに紛れ、戦場を離れる。
自分たちがいなくなれば、死神達は儀式場へと追撃に向かうだろう。
ねがわくば、その前にハリメーデーを撃破し、儀式の妨害が成功しているようにと祈り、ケルベロスたちはお台場を後にしたのだった。
作者:黄秦 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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