「クロム・レック決戦、お疲れ様でした。皆さんの尽力の結果、ディザスター・キングとの熾烈な戦いに勝利し、クロム・レック・ファクトリアの破壊に成功しました。素晴らしい戦果と言って過言ではありません」
率直に称賛する都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。だが、すぐに表情を引き締める。
「ダモクレスに続き……死神が大きな動きを見せています」
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)と阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の警戒の甲斐あって、死神による大規模儀式が判明したという。
「これは、最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内6箇所で同時に執り行われます。『ヘキサグラムの儀式』と呼ばれるようです」
都内に調えられた儀式場は、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の6箇所――丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点に相当する。
「今回の儀式に於いて、戦闘力強化型の下級死神を始め、死神流星雨事件にて竜牙兵に準えられた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった戦力に加え、エインヘリアルの第4王女レリ直属の軍団も加わっているようです」
更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦と推測されている。
「皆さんは、判明している儀式場から1つを選び、攻め入って下さい」
『ヘキサグラムの儀式』を止めるには、6箇所全ての儀式を阻止しなければならない為、それぞれ十分な戦力を配置しなければならないだろう。
「儀式場の外縁部は、数百体に及ぶ戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入を阻止しようとしています」
例外はレインボーブリッジの儀式場で、外縁部の防衛戦力は、第4王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
「儀式を取り仕切るのは、『ネレイデス』と呼ばれる死神の組織です。儀式を執り行う幹部の名も判明しています」
築地市場には『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、そして、東京タワーには『宵星の死神』マイラが配されている。
「ネレイデス幹部は儀式の進行に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持出来ないようです」
つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功となるのだ。
「以上が、儀式阻止の最低限の条件となります」
儀式の中断を余儀なくされたネレイデス幹部は作戦の失敗を悟ると、撤退を開始する。
「儀式中断から7分後に、生き残っていた死神の戦力は全て撤退してしまいます」
幹部の撃破を目指すならば、この7分の間に撃破しなければならない。
「とは言え、幹部自体が強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化されます。単独チームの戦力では撃破は難しいでしょう」
又、周囲に護衛の戦力が残っていたり、外縁部の戦力が増援として殺到していては、幹部の撃破は到底望めまい。
「状況によっては、儀式を中断させた後、戦わず撤退を優先せざるを得ないかもしれません……ただ、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性があります。可能な限り、討ち取って下さい」
タブレット画面をスクロールさせ、ヘリオライダーは粛々と敵戦力の情報を提示していく。
「まず、外縁部の防衛戦力ですが……数百という大戦力ではありますが、『侵入者の阻止』を警戒している為、戦力自体は儀式場周囲の全方向、広範囲に渡って展開されています。突破の際に戦うのは数体から10体程度となるでしょう」
レインボーブリッジを防衛する白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊で警戒しており、突破の際に戦うのは3体或いは6体程度だ。
「又、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようです」
但し、全チームが儀式場に突入して増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込む場合がある。その点は注意が必要だろう。
「儀式中の幹部は無防備です。ですから、儀式場内に幹部を守る護衛役が配されています」
築地市場には、『炎舞の死神』アガウエーと、数十体もの屍隷兵『縛炎隷兵』が。
豊洲市場には、『暗礁の死神』ケートーが、やはり数十体の屍隷兵『ウツシ』を従えている。
国際展示場には、『無垢の死神』イアイラが、数十体に上る屍隷兵『寂しいティニー』を集結させている。
お台場の護衛役は、星屑集めのティフォナ。死神流星雨を引き起こしてきたパイシーズ・コープス十数体と警戒に当たる。
そして、レインボーブリッジには第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスに加え、十体程の白百合騎士団一般兵が護衛に就く。
「最後、東京タワーには『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体、護衛として引き連れています」
儀式を阻止するだけならば、護衛全てを相手取る必要は無い。だが、ネレイデス幹部の撃破まで目指す場合、護衛を撃破するか、ネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
「尚、1箇所に戦力を集め過ぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択。幹部を討ち取るチャンスを逸するという事態になりかねません」
敵は死神。武力一辺倒ではない。儀式の護衛役が戦力的に儀式の失敗が不可避と判断した場合、幹部にダメージを与えて儀式を強制的に中断、撤退を促す可能性さえあるのだ。
「幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と戦場の状況から判断の上、行動して下さい」
夏の終わりより、死神が引き起こしてきた様々な事件の収束点『ヘキサグラムの儀式』――その規模は、ドラゴン勢力が熊本城で企てた魔竜王の復活に勝るとも劣らないと推測される。
「十二創神に数えられる魔竜王に匹敵する脅威……それが現実となってしまう前に、どうかケルベロスの皆さんの手で『星』を落として下さい。健闘を祈ります」
参加者 | |
---|---|
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366) |
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
●東京タワー突入
東京タワー――東京の有名な観光名所の1つ。そして、今は死神の儀式場の1つだ。
(「死神さん達の儀式……何としても阻止しなきゃです」)
決意の面持ちで、東京タワーを見るアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)。
「……」
無言のまま、東京タワーを睨む四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の瞳は、光の加減か緋色を帯びる。
東京タワーの周辺は戦闘特化型下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが群れ成し回遊している。
「数だけは多いけど、何とかなるよ、きっと」
楽天的なレオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)だが、その実『効率良く殺す』の計算が働いている。実に物騒なウィッチドクターだ。
「今年もクリスマスツリーにするんでしょ? 東京タワーにはいつだって平和でいてもらわないとね!」
小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)の明るい声音に、緊迫した空気が解れるよう。尤も、びったんびったんと左右に振られるヤマネコの尻尾は、ひさぎの闘争心を露にしているけれど。
「皆で力を合わせれば何でもできる、必ず成功させよう!」
臆病なシャーマンズゴーストのアロアロを宥めながら、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)も快活に頷く。
(「ワタシも頑張らないと……!」)
正直、他にも気になる死神はいたけれど、今はこのチームでベストを尽くそう。東京タワーに挑むのは6チーム。友人もいて、心強い。
「いっぱい守る、ぼくのしごと。がんばる」
鎧装騎兵の証、アームドフォートを抱える伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)がぽつぽつ呟けば、その肩を優しく叩く「どくたー」こと嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)。
「やれやれ、こんな所で何を呼び出そうってんだか」
ロクでもないものなのは確かだろう。
(「おいちゃんもたまには気張るとするかねえ」)
「簡単にヘバるんじゃないぞ?」
「そっちこそな」
別チームの飲み友達に冗談めいた檄を飛ばし合うのも、信頼あってこそだ。
一方、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)はいつもに増してぼうっとした様子。
(「すごく……嫌な予感がする。止めないと」)
険を含む橙の瞳が見上げる空は――少なくとも雨ではない。気温も例年並み。双眼鏡で2つある展望台を窺うが、ガラスの反射で判然としなかった。
「それじゃ行こうか。頼りにしてるよ?」
レオンの言葉に我に返る。眼を瞬かせ、小さく首肯した。
「正面、真っ向から切り開きます!」
戦闘の喧騒に割り込む少年特有の細い声。死神回遊魚の群れの向こうに、確かに建物と扉が見えた。
大量の戦闘特化型下級死神の群れを前に、ケルベロスも6チームもの数の利を活かして、力押しの突破を図る。
併行して守りの薄い箇所も捜したが、これだけの数だ。『穴』を見付けるのも易くはない。それでも、回遊の間隙を突いて東京タワーに早々に辿り着けたのは、その綻びを探さんとした目あっての事だろう。
●150m600段
「ここは私達に任せて先に行ってなの!」
東京タワーのお膝元、フットタウンに雪崩れ込むケルベロス達。2チームは入口で反転し、下級死神の群れに対すべく留まっている。
儀式場は、遥か頭上。4チームは先を急ぐ。
「アメフラシ!?」
ハッと息を呑む千里。突然の赤い体当たりに、思わずたたらを踏む。
儀式を執り行うネレイデスの幹部には、護衛が付く。ケルベロス達は4チームを半分に分け、それぞれに対応する心算だった。
だが、ドーリス率いる配下の死神『アメフラシ』について、明確な対策を講じていない。正確には――東京タワーという地の利に対する、戦い方を。
東京タワーの儀式場、展望台へ至るのに、ケルベロス達は外階段の踏破を選んだ。
外階段の入り口はフットタウンの屋上。まずは『屋内戦』の可能性だ。斥候を出して少しずつ進む、という算段は敵が待ち構える閉鎖空間では悠長に過ぎた。
――――!!
アメフラシは、そこまで強くない。だが、多々ある死角からの奇襲に、ケルベロス達は思わぬ苦戦を強いられる。
「皆、頑張って!」
フルフル震えるアロアロの手を引きながら、癒しの風を喚ぶマヒナ。
「この程度、俺がぶっとばしてやるよ」
「どかーん」
達人も斯くやの一撃を繰り出す陽治と肩を並べ、勇名は淡々と武器を振るう。
そうして、フットタウン屋上に辿り着いたケルベロス達は、エレベーターの裏手の外階段の入口へ急ぐ。屋外に出れば、晴天にそぐわぬ『水たまり』が目についた。
「階段が2つ……?」
「上りと下り、それぞれ別だっけ」
小首を傾げるアリスの隣で、ひさぎはかつて『猫』の姿で訪れた記憶を辿る。
「そんなに広くなさそうだねぇ」
顔を顰めるレオン。2チーム減っても30を超える大所帯。隊列が長くなるのも危ういか。
「二手に分かれよう」
ウォーレンの言葉少なな決断にケルベロス達はすぐさま分かれ、2つの階段を上り始める。
メインデッキまで150m600段。ケルベロスの健脚なら10分と掛らぬだろう……何も無ければ。
「そうは問屋が卸さない、か!」
踊り場より勢いよく降下する小さな影――身構える陽治達を、3色のアメフラシの群れが襲う!
「赤から!」
叫ぶと同時、千里の妖刀が空を纏い奔る。フットタウンでの戦いで、赤いアメフラシは前衛、青が中衛、黄が後衛を担うのは見て取っていた。標的の基準はポジション。詳細は敵の出方を視なければ判らぬにしても、最初に倒すべきクラッシャーが赤と判るのは幸いだ。
「っ!」
黄色目掛けて放った轟竜砲を赤き盾に阻まれ、眉を顰めるウォーレン。アメフラシの触覚の間に浮かぶ光球は、今度は勇名が射線を阻んだ。
「消耗は、最小限に抑えないとね!」
ファミリアロッドを腰だめに構え、ひさぎは大量の「魔法の矢」を一斉発射する。
「あ、ごめん」
ひさぎとニアミスしながら、ジグザグラッシュを繰り出すレオンはやれやれとばかりに肩を竦める。
「やっぱり、走り回るには狭いね……おっと」
目まぐるしく動き回るケルベロス達の周りを、アメフラシは悠々と浮遊する。
「アロアロもお願い!」
青の回転突撃がレオンを捉えれば、すかさずマヒナは愛杖「Hoku loa」を掲げて大自然とリンクする。相棒のお願いに、アロアロもグッと踏ん張り癒しの祈りを捧げた。
「水たまりから新手が!」
少女が持つに相応しく可愛い宝鎚を携え、アリスは注意を叫ぶと同時に轟竜砲を撃つ。よくよく狙った砲弾で鈍った死神へ、勇名の降魔真拳が真っ向から唸る。
「どくたー……斥候、無理?」
「そうだな」
こてんと首を傾げる少女に、陽治は苦笑い。敵が待ち構えるのは外階段も変わりない。フットタウンより格段に見通し良く、敵地只中の斥候の難しさを実感する。
それでも、襲い来るアメフラシを薙ぎ倒し、斬り払い、魔法で穿ち、ケルベロス達は只管に上を目指した。
●メインデッキ
漸く地上150mに至るケルベロス達。隊列を整える仲間を待って、メインデッキに突入する。
――――!!
突入口の狭さに手間取った隙を突かれ、浴びせられたのはアメフラシの奇襲。赤い突進、青の回転攻撃が次々と。黄のアメフラシがクルリと宙返りすれば、あちこちで水たまりが爆ぜる。
「待ち伏せか」
咄嗟に体当たりを籠手で弾き、陽治は庇ったウォーレンに気力を注ぐ。
(「……あれ? 何で今僕、笑ってるんだろー?」)
自分が自分でないような、違和感――こみ上げる愉悦に戸惑いながらも、ウォーレンは反撃する。
先手こそ取られたが、忽ちアメフラシを一掃したケルベロス達は、メインデッキの2階へ――階段を駆け上った彼らが見たものは。
一心不乱に集中して微動だにしない白い影と、3色のアメフラシを引き連れ白の傍に佇む黒い影。『宵星の死神』マイラであり、『黒雨の死神』ドーリス。
「そんな!」
1階の奇襲を許した時点で、察した者もいるかもしれない。護衛は既に幹部と合流している。他と違って閉鎖空間での儀式だ。戦場の狭さも相まって、護衛の引き離しは余程の策でなければ、不可能であったのだろう。
だが、策の不首尾は、千里にはもう取るに足らぬ。
(「遂に見付けた……あいつの、あの緋華の死神の姉妹……ネレイデス……!」)
顔色を変えた少女が如意棒「霊棍”早太郎”」を構えるのに間を空けず、ケルベロスの一斉砲火が白い影を強襲する。こうなれば、まず儀式中断が最優先だ。
「なるほど、届くね」
先陣を切った煌めく軌跡描く飛び蹴りに続き、一気に肉薄して降魔真拳を振るうウォーレン。少なくともマイラは後衛でない。アメフラシ6体とドーリス、そしてマイラ。敵の配置を読まんと目を眇めて観察する。
「舞え、”鉄引”」
帯状の御業を操り、ひさぎは敵の機動力を奪わんと。
(「……最初からポジションが判ってたら、もっと火力積めたのに」)
熊本の魔竜も獄混死龍も、時間制限のある敵は撃破出来た試しのないひさぎ。今度こそ、きっちり仕留めたい!
そして、大きく振りかぶり、陽治は殺神ウイルスを投擲する。千里は伸ばした霊棍で、マイラを真っ直ぐに貫かんと。
「貴女が『宵星の死神』マイラさん……儀式は行わせません!」
「うごくなー、ずどーん」
アリスの宝虹花フノシルより、轟音立てて竜砲弾が発射する。勇名がマイラの足元すれすれに小型ミサイルを爆発させれば、カラフルな火花が飛び散った。
――――!!
誰の攻撃が命中したか、集中砲火の爆風の中、判然としない。幾許かはドーリスとアメフラシが射線を遮ったようだ――ドーリスと赤・青のアメフラシ4体は、ディフェンダーだろう。
そして、濛々とした粉塵より、徐に現れる白い影。金髪を揺らしながら憂い顔で溜息を吐く。乾坤一擲、ケルベロスの一斉攻撃は見事東京タワーの儀式を中断させる。
「7分勝負。前だけ向いてパァーっといこうか!」
タイマーのカウントをスタートさせ、レオンは己が影より黒縄を射出する。やはり腕時計のアラームを7分後にセットし、マヒナは神聖なるコアウッドの弓弦を引く。妖精の加護宿す矢の軌道を、アロアロの原始の炎が辿った。
●宵星の死神
優しい子守唄が、響き渡った――4チーム合同故に、ケルベロスは前衛と後衛が列減衰を被る。列強化も厳しく、漸く得たエンチャントをマイラの歌声が事も無げに砕こうとは。
マイラとドーリス、二手に分かれて同時の撃破を目指すケルベロス達。だが、ドーリスは黒鎌振るってアメフラシ達とマイラを庇い、後方では黄のアメフラシがヒールに専念。そして、マイラは――列減衰して尚、ケルベロスの戦意を削いでいく。恐らくは、ジャマー。
「マイラさん……キティ、お願い……!」
マイラの慈愛に満ちた空気に呑まれそうになり、アリスは自らを奮い立たせる。必死にファミリアシュートを放った。
「あいつは……お前達は、私の事なんて覚えてもいないだろう……」
血が沸騰するような憤怒が千里を震わせる。
「私は忘れない! お前達が奪ったものも! 何もかも!」
禍々しき愛刀に凍気を乗せ、千里は前衛をすり抜けマイラに迫る。
「緋華の死神、お前の姉妹は! 何処だ! あいつの狙いは、何!?」
「……まあ」
激情を前に、マイラは宵星の如き眼を見開く。すぐ優しく細められた。
「仇敵の同胞の言葉を、あなたは素直に信じるのね?」
「っ!?」
「その天真、その純粋、だから、私は、子供が好きよ」
美しい微笑みだった。宵星の煌めきが、千里の戦意を揺さぶる。
「これは宣戦布告だ! 『宵星の死神』マイラ! まずはお前の首からだ!」
血を吐くような叫び。袈裟懸けの斬に霜が張る。だが、明らかに浅い。悔しげに唇を噛み、千里は飛び退る。
「祝福のレイ、アナタにあげる」
すかさず、マヒナの花輪が千里のダメージと厄を掃ったけれど。
「4分!」
時間経過を叫ぶレオンの表情は硬い。敵はケルベロスを倒す必要はない。ドーリスを始めとする盾5枚を展開し、マイラが中衛からケルベロスの火力を削ぎ、回復役も2体置く。残り3分凌ぎ切れば、即撤退するだろう。
二手に分かれてマイラとドーリスを同時攻略を狙ってきたが、このままでは虻蜂取らず。決断は、今だ!
「マイラに集中攻撃!」
恐らく、ケルベロス全員が感じていた危惧。だからこそ、その声が引鉄となる。
ケルベロスの刃がマイラに向いた。庇われ癒されようと、構わず畳掛け圧し潰さんと。
「5分!」
「残り2分! 急ぎましょう!」
マヒナに続き切迫のカウントが響き渡る。マイラは、まだ倒れない。
「とっておきをくれてやる。――その魂を、穿つ!」
その名も天神螺穿槍。陽治の気から生み出された風槍は、肉体と魂の「繋がり」を切り刻む。
「今日も銀河に雨が降るから、一緒に泣いて――踊ろうよ?」
好戦的な笑みさえ浮かべ、ウォーレンは『涙をもたらす雨』の中、幻惑の動きで翻弄する。
「――空色の焔……不思議に煌めき羽ばたいて……」
アリスの髪に空色のアリステアが咲く。燃え立つ空色の翼は、『事象』を灼きつくさんと。
「もう少し、だよ!」
マヒナの気咬弾が爆ぜる中、エアシューズが唸りを上げる。降魔の蹴打を力一杯振り抜く勇名。続くひさぎのヤマネコの拳は、彼女が用意した最大火力だ。
「思ったより『効く』だろ? 皆初めは大した事ないって見逃すんだよね」
今や、影という影から延びる悪性因子・無間黒縄は、マイラを束縛する嫌がらせの術式。レオンは冷笑を浮かべる。
「僕らの勝ちだ……あばよ死神、地獄で会おう」
「まあ……何て……」
ふらりとよろめくも、堪えたマイラは青息吐息の呈。終焉を目前に、ケルベロス達の視線は1人の少女に集まる。
「千里さん、最後の止めを……!」
「あたしは、千里が望むように動けば良いと思うよ」
アリスとひさぎの言葉に背中を押され、千里は「妖刀”千鬼”」を構え直す。
「死出に咲くるは死人花……その身体に刻んであげる――」
千里が床を蹴る寸前、マイラの足許から盾が抱擁の如く展開する――ドーリスを庇うように。
「千鬼流……奥義、死葬絶華」
刃の唸りは1度――否、瞬時に42度の斬撃が死神に刻まれる。高度な重力操作による刀身の加速が成し得た瞬撃。
「冥府で姉に会ったら伝えておけ! 私は決して許さない! どんな障害で阻もうとも! どんな所へ逃げようとも! 必ず追い詰めてお前を殺すとな!」
双眸より溢れる涙にも気付かず、少女は激しく言い放つ。最期に唇を緩め、マイラは血花を咲かせて崩れ落ちた。
――残る1分をドーリス撃破に費やしたケルベロス達だったが、マイラの置き土産に守られた彼女は倒すに至らず、黒雨の死神はアメフラシ共々撤退。
完全勝利とはいかなかったが、儀式を中断させ、幹部を撃破した戦果は大きいだろう。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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