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「皆さん、クロム・レック・ファクトリアの撃破、及びディザスター・キングの撃破、実にお見事でした!」
集まったケルベロス達を山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が拍手で出迎える。
だが、どうやら話題はそれだけではないようで……。
「このまま皆さんと祝勝会――といきたい所なのですが、大事な報告が。アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんら警戒に当たっていたケルベロスにより、死神が大規模儀式を目論んでいる事が判明したのです」
桔梗が、モニターに情報を表示する。
「死神の動きによって最近多発していた事件については、皆さんもよくご存じだと思います。今回の件は、その一連の動きの集大成と目される大儀式であり、都内の六ケ所で同時に儀式が行われる見込みです。死神はこの儀式を『ヘキサグラムの儀式』と呼んでいるようですね」
儀式が行われるのは、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六カ所と想定されている。この六カ所を線で結ぶと、丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点となる場所だ。
「今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神、神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵などが敵戦力として揃えられており、さらに死神の戦力に加え、第四王女レリ直属の軍団も参加しているようです。竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されていて、死神やエインヘリアル、ダモクレスといった勢力だけでなく、デウスエクス全体を巻き込んだ、大規模な作戦であるらしい……と」
あまり進んで想像したい事態ではない。桔梗は総身をブルリと震わせた。
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「皆さんにお願いしたい具体的な内容に話を移しますと、判明した儀式場の一つに攻め入って欲しいのです」
儀式阻止のためには、6つの儀式場の全てで儀式を阻止しなくてはならない。それぞれの儀式場に、十分な戦力の配置が必要だ。
「儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しています。もちろんこれは、皆さんの儀式場への侵入を阻止しようという敵側の思惑ですね。また、レインボーブリッジの儀式場外縁部のみは例外で、こちらは第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が防衛を担当しているようです。肝心の儀式を行っているネレイデス幹部については――」
築地市場に『巨狼の死神』プサマテー。
豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ。
国際展示場に『名誉の死神』クレイオー。
お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー。
レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア。
東京タワーに『宵星の死神』マイラが、それぞれ配されている。
「ネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しています。繊細な儀式であるようでして、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないと見られています」
要するに、外縁部の敵を突破後、儀式中心部に到達、ネレイデス幹部にダメージを与えて儀式を中断させる事が出来れば、作戦は成功となる。
「首尾良く儀式を中断する事ができれば、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始するでしょう。その場合、儀式中断の7ターン後に、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまいます。ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターン間での撃破が必要です。ただし、ネレイデス幹部は強敵です。儀式場内部では更に戦闘力が強化もされるため、単独チームでの撃破は極めて難しいと思われます」
加え、ネレイデス幹部だけでなく、周囲に護衛戦力が残っていたり、外縁部の戦力が増援として殺到する事態も考えられる。状況によっては、儀式中断を最優先とした後、戦闘を行わずに撤退するのも戦略の一つとなる。
「しかし、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式が再度引き起こされる可能性もあるので、できる限り討ち取れれば、それが一番望ましいのですが……」
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モニターが、更に詳細な敵戦力の表示に切り替わる。
「外縁部に展開されているのは、数百体という大戦力です。『侵入者の阻止』を目的とし、儀式場周囲の全周を警戒しています。とはいえ、広域を警戒しているため、突破する際にはその一部……数体から10体程度の交戦となるでしょう。レインボーブリッジの白百合騎士団一般兵については、3体程度の小隊での警戒を行っているとの報告があります。こちらを突破する際は、3体或いは6体程度との交戦が想定されています」
ちらみに、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようだ。
ただ、全てのチームが儀式場に突入し、ケルベロス側の増援がないと判断されると、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込む可能性がある。その点には注意が必要だ。
「儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されています」
――築地市場の戦場には『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』が。
――豊洲市場の戦場には『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』が。
――国際展示場の戦場には『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』が。
――お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
――レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が。
――東京タワーには『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
「儀式の阻止のみに狙いを絞るならば、護衛の全てを相手取る必要はありません。ですが、ネレイデス幹部の撃破を目指すならば、護衛の撃破、或いはネレイデス幹部から引き離す必要があります。幹部の撃破を目指すか否かについては、儀式場に向かう戦力、戦場の状況を見極めつつ、慎重に判断してください」
粗方の説明を終えた桔梗が、ケルベロス達に頭を下げる。
「今回の大規模儀式は、熊本城でのドラゴン勢力との戦闘、魔竜王の復活に勝るとも劣らない規模のものとなりそうです。また、護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が避けられないと判断した場合、仲間であるネレイデス幹部にダメージを与え、儀式を強制的に中断……その後撤退といった、戦略的な判断を下すこともありえます。戦力の配置、その後の行動など、悩ましい判断を迫られるかもしれませんが――どうか、お力をお貸し下さい!」
参加者 | |
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チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385) |
空波羅・満願(明星と月は墨空と共に・e01769) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
款冬・冰(冬の兵士・e42446) |
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) |
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765) |
統倉・豹迦(一匹じゃない・e66285) |
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「雑魚がよくもまぁ犇めきやがって」
国立展示場を正面に見据え、空波羅・満願(明星と月は墨空と共に・e01769)が、小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「屍隷兵もそうですけれど……あれもなかなか、死神らしくありませんね」
その横で、リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が、呆れたように肩を竦めていた。
……そんな2人の反応も、ある意味で仕方ないとも言える。何よりも死神への敵意を露わにする白と灰の2人に宛がわれた敵は、よりにもよって――。
「わっ、京都で一度戦った事はありますが、あの時のカツオとマグロ……まだこんなにいたのですね」
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)の言う通り、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノス……つまる所、カツオとマグロなのだから。
「ダモクレスに続いて死神も、大々的に動いてきましたねぇ……」
しかし、外縁部――広域を回遊する夥しい個体数は、それだけで脅威でもある。深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)が「ひぃ、ふぅ、みぃ……」と軽く数えてみて、すぐに諦める程に。
「繋がれば幸い、繋がらなければ…………やはり、不可」
強襲を間近に控え、款冬・冰(冬の兵士・e42446)達ともう一班、外縁部突入の先駆けと掃討を担う2班を先頭に、全6班48名と、9匹のサーヴァントが一団となっている。
冰はアイズフォンの使用ができない事を突入前の最終確認として、
「こおり、いっしょに、がんばろう」
「……ええ、一緒に」
親友である兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)……その強い決意が滲んだ声に、頷きを返した。
「気張れよ、お前ら!」
「いいかてめぇら、俺様達について来やがれ! 着いて来られないノロマは置いてくから覚悟しとけ!!」
次の瞬間――統倉・豹迦(一匹じゃない・e66285)とチーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)の大声が外縁部に木霊する。タイミングが被った事に、チーディと豹迦は横目で睨み合うが、動き出した一団はもう止まらず、辺りを警戒しているブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスの元へと続々と雪崩れ込んでいく。
「さて……ここからは狩りの時間だ」
穏やかな表情から一転、藍の瞳に好戦的な色を湛えたルティエが、待ち構える10体程度の敵群、その前衛に向け、挨拶代わりに魔を帯びた咆哮を放つ。
「まとめて、切り払う、よ」
バニガール風の霊装とウサミミを風に靡かせ、態勢を低くした十三が踏み込みと同時に、数多の怨念と殺意を伸せた神速の斬撃を解放する。
「皆さんのために、ここは私達が! 支えて見せるです! 死神の野望を阻止するため、頑張るです……!」
アメリーは、紅蓮による属性注入を受けながら、輝くオウガ粒子を放散した。
「喰い潰してやる」
アメリーの支援を受けた満願は、右腕に呼び寄せた黒炎を、大顎を持つ魔獣の頭に形成すると、魔獣の咆哮と共に振り抜き、ブルチャーレ・パラミータの肉を刮ぎ取ってやる。
無論、攻撃を加えているのは、自分達だけではない。隣を併走する班からは、黒き鎖の力を纏った美丈夫が、抜き身の太刀を一閃させている。死神の血飛沫が飛ぶ中、虚ろな瞳の女性が、死の気配を宿す黒鎖を自在に操って死神の抵抗を阻害した。
すべては、後続の活路を見出すために!
――しかし、一撃一撃は脅威ではないものの、数に利した敵群の反撃も苛烈。
「止まるんじゃねぇぞ!!」
「下級死神に、死神のなんたるか、教授してあげましょう」
チーディとリコリスが、飛び交うブルチャーレ・パラミータの産卵弾とメラン・テュンノスの突進を、後続の脅威となる前に壁となって抑え込もうとする。
が、その間も、後続からの支援と破壊の力が飛び交い、敵群を圧倒。
「一定量の負傷を検知。物資提供を開始」
冰は様子を見ながら、戦線維持を第一に聖なる光を仲間に浴びせる。
「おらァッ!!」
黒豹のそれに獣化した豹迦の脚部が、回遊するメラン・テュンノスを力なく地面に叩き落とした。
やがて、数体の死神を一気に撃破に至らしめると、眼前にポッカリと空間が開ける。
先駆けの役割を果たした2班がサッと散開すると、その間を割るように残りの4班が突破していく。
「行って来いよヤロー共! 全部ブッ壊してこい!」
「そちらは頼みます。どうか無垢の死神に裁きを」
その背に向け、豹迦の鼓舞とリコリスの願いは授けられた。
「それじゃあテメェら、後は任せたぜ! 世界最速の俺様が、あいつらに遅れを取る訳にはいかねぇからな!」
「ちょっとー、チーディさん!?」
「待って、待ってくださいです……!」
重要な一仕事を終えたかと思いきや、チーディが突破した班を追いかける素振りを見せつつ言い放った冗談に、ルティエが目を見開き、アメリーが彼の防護服の裾を握りしめる。
2人の反応に、「仕方ねぇな……!」満更でもない表情を浮かべて気を良くしていたチーディであったが。
「ん、任務遂行に支障無し」
「ルティエとアメリーに謝ってから、どこへなりと、とっとと行きやがれェ!」
冰と豹迦に冷めた表情で告げられ、ワナワナと震え出す。
「まぁまぁ、チーディの兄ちゃん。怒りをぶつけるなら、あっちにちょうどいい糞雑魚どもがまだまだいるぜ?」
――と、満願がクイッと背後を見やる。そこには、数体のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスの残党が。
「あとは時間いっぱいまで暴れ放題だなァ。しばらく付き合ってもらうぜ」
「……そうだ、ね。じゅーぞー達と、あなた達で、絶対、死守する、よ」
月喰みを油断なく構える十三が、自分達と並び立つ外縁部担当班――雨と氷を自在に操る白髪レプリカントの男性の、勇猛な言葉に応じる。
そのやり取りと、「状況再開」冷静さを宿した冰の掛け声を合図に、2班連携による激しい対死神闘争の火蓋が再び幕を開ける。
十三が流水の如き体裁きで、強襲によって前衛が瓦解寸前の敵群に襲い掛かった。
「ここで阻止させてもらう」
続けて、ルティエの激しい焔を纏った苛烈な蹴りが、Sn目掛けて放たれる。
ルティエがその場を飛び退くと、リコリスのガトリングガンから、嵐のような弾丸が射出され、後衛の敵群を穴だらけに。
「処女宮の能天使よ、彼の者を守る力にて癒すです……la Vierge」
「ヒョウカ、今の内に防備を」
「おう!」
アメリーが、前衛に巨大な女神の幻影を付与し、防御を固める。
そんなアメリーの動きに応対し、より隙をなくすため、冰が豹迦を具現化させた光の盾で守護を。
豹迦は艶やかな黒髪を掻き上げると、その中性的な美貌と呪いでもって、死神の動きを阻害した。
「ぐっ!?」
しかし、いかに2班による総攻撃とはいえ、即座の撃破とはいかない。度重なる突進と薙ぎ払われる触手……死神達の反撃に際し、満願は透き通った氷に似た形状の盾を構えた。他のDf陣も身を張って、被害を抑えようと奮闘している。だが、敵の攻撃対象も分散しており、問題なく対処は可能だ。
隙を見て、チーディが電光石火の蹴りを放った。
「さぁ、仕上げです。かつて、あなた達の力を再現させるための存在であった者として、お見せします。刮目しなさい」
リコリスの召喚したおぞましき悪霊の群れが、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスを貪っていく。
――そして、2班総勢16名のケルベロス達によって、一先ず眼前の魚型死神を全滅に追い込むのであった。
●
一時撤退したケルベロス達は、もう一班が戦闘を継続している戦場に常に気を払いながらも、傷ついた身体を癒やしていた。
「ん、冰は問題無い。チーディ、マンガン、リコリス、ルティエ、ジューゾー……前衛陣の負傷回復が急務」
それぞれが自己回復を図りながらも、中心となっているのは冰と紅蓮だ。
「ジューゾー、大丈夫?」
「……大丈夫、だ、よ」
冰は鳶色の瞳を心配そうに細め、十三を気に掛けている。十三も件の――カムイカル法師に纏わる事件が脳裏を過ぎったのか、冰を安心させるように頰を緩めた。
「ふぅー、一か所崩れたらどうなるか、全体に迷惑を掛けてしまうのでは……と、思っていたので、連携が機能して一安心なのです」
紅蓮を抱きしめさせてもらいながら、アメリーが大きく息を吐く。
それは、実際に外縁部での戦闘を経験した今だからこそ、より深く実感できる事。もし自分達だけであれば、こうして言葉を交わす暇さえ惜しく、連戦に次ぐ連戦で疲弊の極みに達していた事だろう。
そして、数分の貴重な時間を休息に当てたケルベロス達。
やがて満願は、空に昇る発煙筒の煙を目にすると、
「どうやら、俺達の出番みてぇだな」
「ええ、私達ケルベロスの役目を果たすために」
獰猛な笑みを浮かべ、リコリス達仲間と共に、急いで戦場へと舞い戻るのであった。
リコリスが射出した大量のミサイルを浴びたメラン・テュンノスが動きを止める。
「ヒャッハー!! 手薄なとこをイジメる襲撃は楽しいなぁおい!!」
チーディがゲラゲラと下品な笑いを零しながら、釘を生やしたエクスカリバールで動かなくなった個体の頭部をタコ殴りにすると、メラン・テュンノスは文字通りの死んだ魚の目を浮かべ、永久に沈黙した。
「これで火力を担うCrとSnは全滅です……! ですが――」
「まァ、言う程、手薄って訳でもねェなァ。あと、テメェうるせェから黙ってやれ、クソザコチーター!」
「誰がクソザコチーターだコラアァン!!!?」
戦況を伺っていたアメリーと豹迦は、ガンをつけるチーディーを無視して、顔を見合わせる。
回遊するブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスは、全ての箇所に戦力を平均的に配置しているようで、手薄な箇所を狙っても6~7体前後……それなりの数は相手取らなければならない。それでも最初に矛を交えた10体と比べれば相当楽な部類だが、時間が経つにつれて消耗が蓄積するのは当然と言えた。
産卵攻撃によって毒が蓄積した満願が、咆哮を上げる。
「紅蓮、あなたも満願さんを!」
ルティエの指示に従って、紅蓮もその補佐に入った。
「テメェはもう袋のドブネズミなンだよ」
豹迦の尻尾に装着されたガジェットが、捕縛に特化した形状に変形すると、攻撃の対象をJmに切り替え、縛り付ける。
「またあンときみたいにバッタバタ斬ってくれよ! 十三!」
「うん、がんばる、よ? その首、もらう、ね」
かつて、共にドラグナーを葬った時のように。十三の【月喰み】が呪詛を帯び、捕縛された死神に振るわれる。
が、その斬撃は、庇いに入った死神によって阻まれてしまう。
「これで残るは2体!」
それでも、十三の一撃により死神の瀕死を察知したルティエが、黒鉄の刃に地獄の炎を纏わせ、Jmよりも先んじて息の根を止める。こびり付いた死神の体液を払うように刀を振ると、紅い装飾が揺れた。
「ここにはあなたたちを受け入れる海はありません。わたしたちに倒されて、出て行くです……!」
一通りの支援を終え、アメリーが攻めの手に出る。死神に「罪」を贖わせようと、翼から聖なる光を放ったのだ。それにより、死神に纏わり付いていた炎が、さらに勢いを増す。
「来ます!」
だが、滅しきれず、リコリスが警告を。
「――ッッ!!?」
そのまま前に出たリコリスが、威力が格段に上乗せされた突進の直撃を喰らう。耐性の薄い箇所を狙われ、リコリスは膝をついた。
「С Рождеством Христовым……遠慮無く受領することを推奨」
すぐさま、冰は雪娘・スネグーラチカに扮し、薬液が封入された回復スプレーを。添えられている粗品は、本日、いい夫婦の日に準えた花束だ。
「……あ、ありがとうございます、冰さん」
「当然の事をしたまで」
最も、独り身のリコリスは苦笑しているが。いつまでも苦悶の表情を浮かべているよりは、余程いい。
「喰い潰してやる。腐った臓物ぶち撒けろや糞雑魚どもが!」
満願の右腕に呼び寄せられた魔獣が咆哮を、唸りを上げる。咢獄は死神に襲い掛かると、肉の一片すら残さずにこの世から消滅させた。
ケルベロス達は残った最後の死神を苦もなく撃破すると、次の戦場へと向かうのであった。
●
「予定通りククル達へ合図を」
冰が腕時計を見つめていた顔を上げ、チーディに視線を向ける。
「おっしゃ、任せとけ!」
チーディはニヤリと頰を吊り上げると、発煙筒を着火し、放り投げた。
相当数のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスを撃破し、個体数の減少をケルベロス達は肌で感じている。しかし未だ、かなりの死神が残存しているのが現状だ。
それでも、最も消耗の激しいリコリス含め、ポジションチェンジもなくここまで来られている。
「こうしてまだ立っていられるだけで上等じゃねぇか!」
満願の肉体は過不足なく動き、度重なる産卵攻撃によって狙われた後衛の豹迦に氷の盾の加護を与え、力になる事ができている。
次々と死神が突進してくる中、紅蓮が果敢に盾となり、姿を消した。
「リコリス! まだ体ァ動くだろお前!」
「素直ではないですね、豹迦さんは」
「な゛っ!?」
それは、動力炉を十全に稼働させ、この場で滅した下級死神を残霊として再生させているリコリスにしても同様に。
「一先ず、もちろんだ、そう答えておきましょうか――あなたいつ迄も、いつ迄と喚き響けや鳥の聲。夜見路を照らせや幻燈籠。此れより開くは一夜一睡幽かな逢瀬。御足は其方の瘡蓋一枚。いざ来たれ―」
1人では、過酷な戦場を駆け抜ける事は決して叶わない。応援したい仲間、口には出さずとも、心配してくれている事を表現してくれる仲間がいるからこそ……。
残霊遊郭の幻影が広がると、リコリスの表情は若干ながら和らいだ。それでも、もう幾許も持たないだろう。
リコリスは限界を超えて立っており、豹迦も次の瞬間には倒れていても不思議ない。
「じゅーぞーも、がんばる、よ」
ウサミミを揺らし、十三が【月喰み:繊月】御霊狩りを大きく振りかぶり、薙いだ。「虚」の力を纏った鎌は、また一体の死神を両断し、消滅させる。
「次から次へと……って、あら?」
そしてそれは、ルティエが暴風の如き回し蹴りで数体のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスを纏めて吹き飛ばし、「一時撤退を具申」冰の進言通り、ケルベロス達が撤退の準備を進めている際に起こった。
「見て下さい……! カツオとマグロが撤退して行くですっ!」
それは、儀式の阻止に成功した証であり、アメリーが金の瞳に喜びを滲ませる。
ケルベロス達は状況の確認を済ませると、やり遂げた達成感で胸を一杯にするのであった。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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